映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「最低で最高の本屋」 松浦弥太郎

2009年11月30日 | 本(エッセイ)
最低で最高の本屋 (集英社文庫)
松浦 弥太郎
集英社

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敬愛する松浦弥太郎さんの自伝的エッセイ。
氏は18歳で渡米。
アメリカの書店文化に関心を持ち、
グラフィック誌を日本に紹介して売るというようなことを出発点として、
幅広く編集や執筆活動に当たっています。
トラックによる移動販売書店で話題を集め、
現在は中目黒に古書店「カウブックス」を開業。
「暮らしの手帖」編集長でもあります。

この方の、誰とも違う経歴、発想、生き様に惹かれます。
氏が大切にしている本で「就職しないで生きるには」という本があるそうなのです。
著者レイモンド・マンゴーがシアトルで一軒の小さな本屋をはじめる物語。
就職しないで・・・というのは仕事をしないで、ということではありません。
会社などの組織に属さないで、自分の才覚でやりたい仕事をする、
ということなんですね。
松浦氏はまさにそういう生き方をしてこられたわけです。
いい学校を出ていい会社に勤めて・・・、そういうことばかりが生き方ではない。

"歩む道はたくさんあって、
その道それぞれによさがあって、
それは選ぶことができて、
選ぶものがなければ、新しくつくればよくて、
何回やり直しても自由に、
止まったり引き返したってよいのです。"

いい言葉ですねえ・・・。
この本には彼の出発点となる仕事のことなどを始め、
歩んできたこれまでのことが書かれていまして大変興味深い。
まさに組織に寄らず、自分のやりたいことをしていらっしゃる。
一度きりの人生なら、
好きな仕事をして好きなように生きてみたいものだなあ・・・、
と、私が思うには遅すぎか・・・。
いやいや、今からでも。
う~ん、でも、私って何がしたいのだっけ???
ダメだこりゃ。
そしてまた、したいことはあっても、お金になりそうにありません・・・。

まあそれはともかく、
若い方は、多少の無鉄砲を覚悟で
自ら飛んでみるのもいいのではないでしょうか・・・?

そういえば、最近「暮らしの手帖」は見ていません。
松浦氏が編集長になって、どう変っているのか、
今度覗いてみることにしましょう。

満足度★★★★☆


ザ・ロック

2009年11月29日 | 映画(さ行)
ザ・ロック 特別版 [DVD]

ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント

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アルカトラズへ逆侵入・・・不可能への挑戦

         * * * * * * * *

先日見た「アルカトラズからの脱出」からの連想で見ました。
ザ・ロックとは、このアルカトラズ刑務所のある島をいいます。
舞台は現在。
だからもう刑務所は閉鎖されていて、観光名所となっています。

さて、そこへある日突然、テロリストが乗り込んできて、
観光客を人質とし、政府に一億ドルを要求する。
従わなければ、人質の命がないばかりでなく、
なんと、神経性毒ガスを積んだロケットをサンフランシスコに向け発射するという・・・。

このテロリスト集団のリーダーは、
ベトナム戦争などで数々の武勲を立てたハメル准将(エド・ハリス)。
彼は、戦争で犠牲になった兵士たちへの
政府のあまりにも非情な扱いに義憤を感じ、
このような暴挙に出たのです。
この動機は理解できなくはないのですが、
政府は一億ドルを払う意思などかけらもないし、
かといってサンフランシスコ市民を犠牲にもできない。
何とか、人質を救い出し、毒ガスロケットの発射を阻止したい。
そこで白羽の矢が当たったのが元英国特殊部隊員のパトリック(ショーン・コネリー)。
彼は33年前、アルカトラズから脱出に成功した唯一の人物。
しかし、米政府の陰謀によりその後30年幽閉されていた
・・・というすさまじい経歴の人物であります。

髪もひげも伸び放題の彼が、身なりを整えてみれば、
老いたとはいえ、なんとこのかっこよさ。
幽閉中もけっしてあきらめず、しぶとく身体トレーニングを続けていたのでしょうねえ・・・。
「アルカトラズからの脱出」では、通気口を伝い屋上から脱出しますが、
ここでは、地下通路を利用します。
地下には縦横無尽、迷路のように通路が張り巡らされているというのですが、
本当でしょうか?
ここのところは良くわかりません。

さて、潜入のための手はずはつきましたが、毒ガスの方は?
こちらはFBIの化学兵器のスペシャリスト、
スタンリー(ニコラス・ケイジ)が担当します。
しかしこちらは科学者で、実戦経験なし。
結局この二人が手を組んで、14人のテロリストと対峙するという超アクション大作!

サンフランシスコのカーチェイスも、すごかったですね。
最近こういうシーンは多いので、見慣れている気になっていましたが、
なかなかどうして、10年以上前のこのシーンも素晴らしくスリルがありました。
さすが、マイケル・ベイ監督!


豪華キャストに、スリルたっぷりの展開、
そして、ショーン・コネリーやニコラス・ケイジが時折見せる
茶目っ気、ユーモア。
たっぷり楽しんでしまいました。
何でこれ、見ていなかったのだろう、と思ってしまいましたね。
今のように、映画をどんどん見るようになる以前の作品なので、仕方ありません。
まだ見たことがない方は、ぜひどうぞ。
面白いですよ~。

1996年/アメリカ/135分
監督:マイケル・ベイ
出演:ニコラス・ケイジ、ショーン・コネリー、エド・ハリス、マイケル・ビーン、ウィリアム・フォーサイス

クレイマー・クレイマー

2009年11月28日 | 映画(か行)
クレイマー、クレイマー [DVD]

ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

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「自分を取り戻す」妻と「息子との絆を取り戻す」夫

           * * * * * * * *

結婚八年目のテッド(ダスティン・ホフマン)とジョアンナ(メリル・ストリープ)。
ある日突然、『自分を取りもどすため』ジョアンナが家出してしまいます。
夫テッドは、取り残された7歳の息子の面倒を見なければならなくなり、
ハードな仕事と育児に悪戦苦闘。
30年前の公開時、男の子育て奮闘記として話題になった一作ですね。

ジョアンナはいいます。
「私はいつも誰かの娘であり、妻であり、母だった。
誰のものでもない、自分を見つけたかった。」
毎日仕事に明け暮れている男性なら、
「何を言ってるんだ」といいたくなるかもしれません。
「働かないで家にいられるんなら十分しあわせじゃないか」、と。
今、女性がこのように、自己実現を図ろうとするのは、さほど珍しいことではありません。
でも、30年前の当時、こんな理由で家出をする女性・・・というのは、
ショッキングだったかもしれません。
当時のウーマンリブですね。
でも、テッドは始めカッカと来ていましたが、
次第に、こんなジョアンナの気持ちを理解していくんですね。
そういうところは、なかなかいい。

しかし、話はもっと大変な局面に突入していきます。
離婚したこの二人の息子ビリーの親権をどうするか。
互いに譲らぬ二人はとうとう法廷の場で争うことになります。
いつの時代でも、こんな時一番の被害者は子供です。
ビリーは「僕が悪い子だからママは出て行ったの?」とテッドに聞きます。
ほろりとさせられます。
こんな時、テッドはごまかしたりせずに、
「それはパパがママを幸せにできなかったから、パパのせいなんだよ・・・」。
子供にもわかるように、ごまかさずにきちんと話をすること。
これは大切ですね。
こういうことによって、始め全くギクシャクしていたこの父子が、
しっかりと絆を深めてゆくのです。

ジョアンナが出て行った初めての朝。
テッドがフレンチトーストを作ろうとするシーンがあります。
マグカップにタマゴを割って、パンを浸そうにも入らない。
ミルクは? 
フライパンに入れれば焦げるし、しまいにひっくり返して散々。
・・・これが、ラスト近くにまた朝のシーンがあるのです。
正しいフレンチトーストが、息子との共同作業であっという間に出来上がり。
これぞ進歩というものです。
私たちは、テッドの成長に感嘆するのです。

しかし考えてみれば、父子家庭よりは、やはり母子家庭が圧倒的に多くて、
こんなことは当たり前に行われているんですけどね。
男性がそれをやると「すごい」と思うようでは、まだまだですね。

・・・などといっている私は、それでもやっぱり考えが古い。
昨今の若い男性は、割と家事も育児も共同でやっているみたいですね。
少なくとも共働きなら、それが当然ですね。
今ならジョアンナも、家出までしなくてもよかったんだろうなあ・・・。

1979年/アメリカ/95分
監督・脚本:ロバート・ベントン
出演:ダスティン・ホフマン、メリル・ストリープ、ジャスティン・ヘンリー、ジョージ・コー

ダーティファイター/燃えよ鉄拳

2009年11月26日 | クリント・イーストウッド
ダーティファイター 燃えよ鉄拳 [DVD]

ワーナー・ホーム・ビデオ

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なぜ、わざわざ続編が・・・?

           * * * * * * * *

原題ANY WHICH WAY YOU CAN
前作 EVERY WHICH WAY BUT LOOSEとは対になって
しゃれた題名なのですが、
邦題はダーティファイター、そしてダーティファイター/燃えよ鉄拳って、
こりゃー、イケませんよね。
うん、全然イケてない。
ダーティハリーだけでなく、燃えよドラゴンの威力まで借りようとするあたりが、ますますよくない・・・。
でも、人気あったんでしょうかね。わざわざ続編ができるなんて。
単に、クリント・イーストウッド出演なら
何でもよかったという感じですけど。
これね、また少し別の話かと思ったら、
完全に前作そのまま続きなんですね。
そう、以前にソンドラ・ロックと別れて、また再会して愛が燃えあがる話・・・。
やっぱり、この作品はすっ飛ばしてもよかったような・・・。
確かに。・・・返す言葉もありません。

この作品でいきなりファイロはストリートファイト引退を決意するのですよ。
しかし、賭けで儲けたい一派が、有名チャンピオンとの試合を仕掛けてくる。
それをファイロが断ったものだから、逆上した一味はリンを誘拐して脅迫。
でも、この試合相手ウィルソンはまともないい奴で、
ファイロと友情が芽生え、協力して、リンをとり戻すことになる・・・。
だからこの二人の対決は見られないのかと思ったら・・・
結局あるんですね?
まあね。

ここでもお猿のクライドが活躍します。
モーテルの隣り合った3つの部屋でファイロとリン、猿のカップル、旅行中の老夫婦、
3組が同時に繰り広げるラブシーンはなかなか笑えたけど・・・。
ほとんど義務感で見てしまった。
たまにはコメディもいいとは思うけれど、これはわざわざ見なくてよさそうです・・・。


1980/アメリカ/116分
監督:バディ・バン・ホーン
出演:クリント・イーストウッド、ジェフリー・ルイス、ルース・ゴードン、ソンドラ・ロック

「借金取りの王子/君たちに明日はない2」 垣根涼介

2009年11月25日 | 本(その他)
借金取りの王子―君たちに明日はない〈2〉 (新潮文庫)
垣根 涼介
新潮社

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さて、「君たちに明日はない」の続編です。
2巻通して、ハイスピードで読んでしまいました。
あまりにも面白いので。
こちらも前巻のそのまま続きで、
リストラ請負人真介と、その8つ年上の陽子を中心に、
様々な人たちと仕事のかかわりを描いています。


「女難の相」では女性恐怖症の男性登場です。
保険会社に務めている松本。
彼は若い頃のトラウマがもとで女性が苦手。
あるところまでは順調に成績を上げて勤めてきたのに、
海千山千の保険のおばちゃんのたむろする職場に配置されてからは、アウト。
職場に出るのも苦痛。
周りからも信頼できる上司とは受け取ってもらえない。
ほとんどノイローゼで限界を感じ、
今後も出世は望めない部署に自ら希望し異動していた・・・という、
聞けば涙、語るも涙の話。
これはつらい・・・。

真介はふと、思います。
「女を嫌いなんて、俺にはとうてい信じられない。」
はい、そうでしょうとも!

この方は、そんなこともあって、真介のとの面接の時にきっぱり言ったのです。
「だから、辞めることにしました。もう決めましたから。」
う~ん、カッコイイですね。
潔い。
「会社をやめたって別に死ぬわけじゃない。」
そういったある人の言葉が後押しになりました。
まあ、今時次の仕事が簡単に見つかるわけでもないのでしょうけれど、
こういう思い切りも、人生には必要なときがあるのかも知れません。


この本の題名になっている「借金取りの王子」もいいんですよ。
今度は消費者金融の会社です。
ターゲットは三浦。
ちょっとないくらいの美男子!
しかし、実情を聞けば聞くほど涙ぐましいというか、
激烈なノルマに追われ、ストレスたまりまくりの仕事のようです。
この人がそれでも耐えて頑張っていたのは、実はある女性のため。
泣かせますねえ。
純愛です。
自分の気持ちを貫き通す人ってカッコイイ。
それもナイトの精神を持って。
これぞ王子様。
ここでは、さしものお似合いカップル、真介と陽子もかすみます。


それから、なんと最後の「人にやさしく」では、
真介が違う部署の担当になります。
今度は人材派遣。
これですよ、これ。
どんどんリストラしたら人が余るわけですよね。
首をきるだけじゃなくて、新たな職の斡旋もすればいいのに・・・と、
ひそかに思っていました。
なにも、無能だから首になったわけではない。
会社の都合でやむなく退職に追い込まれた人がほとんど。
そこには様々なキャリアを持った人がどっさりいるわけです。
これを生かさない手はない!
マジで、いいですね、この会社。

この章では、ちょっぴり陽子さんの気持ちが揺れます。
真介はやっぱり若すぎるのではないか・・・。
もっと、大人の余裕がある人もいいなあ・・・。
振られるのか、真介?
でもこの、仕事好きで熱心で、軽薄なようだけど実はすごく気遣いができる、
こんなヤツ、捨てたら一生の不覚ですよ~。

満足度★★★★★

「君たちに明日はない」 垣根涼介

2009年11月24日 | 本(その他)
君たちに明日はない (新潮文庫)
垣根 涼介
新潮社

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この物語、実に特異なのはこの主人公、村上真介の仕事。
リストラ請負会社に勤めています。
近頃大企業でもコスト削減のため、人減らしに躍起。
しかし、なかなか自分の会社の人員整理は人情的にもやりにくいということでしょうか。
首切りのための仕事を外注してしまおうという。
すごいですねー。
こんな仕事、あったんですね~。
知らなかった・・・。
って、あれ?これは架空の商売なんですか?
私は本気にしてしまいましたが、
こんな仕事、あってもよさそうな気がしてきます・・・。

さて、その村上真介。
いろいろな会社に出かけて、退職を勧める面接の仕事をするのです。
恨まれ、なじられ、泣かれ・・・、
全くしんどい仕事ながらも、彼はやりがいを感じている。


ある日、建材メーカーの面接に行って出会った課長代理、
非常に気の強い女性、芹沢陽子。
真介よりは8歳年上。
しかし、彼は彼女に好意を覚えて・・・。


さて、この真介さん、仕事もユニークなのですが、
この人自身もすごくユニークなんですよ。
こんな描写があります。


“三つボタンのブラックスーツをかっちりと着こなした、若い男。
・・・、短髪が今風に根元から立ち上げられ、しかもごく軽く、脱色してあるようだ。
・・・顔つきは---そう、なんといえばいいのか
とうの立ってきたジャニーズ系のアイドルを、一晩糠漬けにしたような顔。
美男子といえば言えないこともないが、
ぱっと見た全体の雰囲気が、とにかく軽薄この上ない。”


「こんな奴に、首を切られるのか・・・」と、思わずカッとなる陽子。
ところが、この真介の女性の好みと来たら、
気がきつそうな、きりっとした顔つきの女。
モノ言いもずけずけしていて、その辛辣さがかえって笑いを誘うタイプなら、
なおいい。
・・・ということで、陽子はど真ん中のストライク。
もともと、年上好みなんですねえ・・・。
そんなわけで、いろいろあった末にこの二人は付き合いを始めるのですが、
そのやり取りがなかなかたのしいのです。
思わず笑ってしまいます。


まあ、真介はこの様に見かけは軽薄なんですが、
仕事は熱心でかっちりしていまして、
この陽子のほかにも、様々な出会いを繰り返してゆく。
いろいろな人の生き様の断片を見つめながら、
ストーリーは軽快に進んでゆきます。

すごく、読ませるんです。
仕事と私生活、このバランスのとり方が絶妙だと思います。
登場人物も個性的で魅力たっぷり。
また、素晴らしい本に出会ってしまったなあ・・・!
続編も出ているので、すぐそちらにも行きます!

満足度★★★★★

ファーゴ

2009年11月23日 | 映画(は行)
ファーゴ [DVD]

20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

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ほんの出来心が・・・

* * * * * * * *

コーエン兄弟作品なので、犯罪がらみ、
ブラックユーモアたっぷりのクライムサスペンスです。
題名のファーゴは、地名ですね。
ミネソタ州、ファーゴ。
雪に包まれた冬のこの町が,この物語の舞台です。

多額の借金を抱えた自動車ディーラーのジェリーは、
妻ジーンを偽装誘拐し、裕福な妻の父から身代金を騙し取ろうと計画します。
ところが、誘拐を請け負った二人の男が、
警官と二人の目撃者を撃ち殺してしまう。
この犯人のうちの1人が、スティーブ・ブシェミ。
非常にユニークな俳優ですよね。
作品中、彼を目撃した人が、みな彼をこんな風に言う。
「変な顔の人」、
「どこがって、とにかく全体的に変な顔」
なんだか、コーエン兄弟作品にはぴったりのはまり役です。

さて、これはまだ序の口で、
このほんの出来心から始まったことが、
雪だるま式にどんどん悪い方へ膨らんでいって、抜き差しならなくなってしまう。
そういえば、以前に見た「その土曜日、7時58分」という映画も、
そんな話でした。
でも、決定的に違うのは、
そちらはあくまでも重く暗くリアルに落ち込んでいくのですが、
この作品、コーエン兄弟ですから・・・。
オーバーアクションとか、ギャクタッチではないのですが、
なにやら、底の方にユーモアが漂っています。

そもそも、このジェリーは気が小さくて、とても悪人のタイプではありません。
しかし、つまらない見栄があって、
あくまでも表向きは困っていないフリを続ける。
こんなところが笑えるけれど、笑えない。

この捜査に当たる、女性警官がいい味なんですよ。
なんと妊娠中で大きなお腹。
これがおっとりしているようで、なかなか鋭い。
犯人たちが破れかぶれのように邪魔者を殺してしまうので、死者多数。

映画の冒頭に、「この作品は実話をモトに作られた」・・・と、
わざわざ但し書きがつくのですが、
これはいんちきで、やはりフィクションなのだそうです。
実際、何人もの男からお金をむしりとった挙句殺害してしまう・・・などという
小説のような事件が起きたりしますから。
実話をモトにしました、といわれても信じてしまいそうですが。

楽しめる一作です。

1996年/アメリカ/98分
監督:ジョエル・コーエン
制作:イーサン・コーエン
出演:ハーブ・プレスネル、ウィリアム・H・メイシー、スティーブ・ブシェミ、
ピーター・ストーメア、フランシス・マクドーマンド



Fargo ファーゴ



「舞姫/テレプシコーラ 第2部 3」山岸凉子

2009年11月21日 | コミックス
テレプシコーラ/舞姫 第2部3 (MFコミックス ダ・ヴィンチシリーズ)
山岸 凉子
メディアファクトリー

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プロバレリーナの登竜門、ローザンヌ・コンクールの続きです。
我らが六花(ゆき)ちゃんは、
風邪にかかりかけで体調が悪いながらも、着々と自分のバレエを繰り広げている。
あの心許なげな六花ちゃんも、たくましく成長したものです。
・・・オバサンは、こんなところでもジーンと来てしまう・・・。


さて、以前より気になる存在、ローラ・チャン。
中国人かと思いきや、中国語が話せないようだ。
きっと中国系のアメリカ人なのね・・・。
六花はそう理解するのですが・・・。
お互いまともに会話も交わさないのに、不思議に協力関係を結んでいる。
すらっと背が高く美人。
ただ立っているだけでも目立ってしまうし、
踊ればなおのこと、オーラが立ち上る。
しかし、その姿を見て、六花は、昔一緒にバレエをしていた
空美(くみ)を思い出してしまった・・・!
そんなバカな。
あんな、似ても似つかない、ブス(!)だった空美ちゃんを連想するなんて・・・。
六花ちゃんは、正直だなあ。
人のことブスだなんて、そんなこと思っちゃいけない・・・と、
反省するあたりがかわいくて好きです。
さてしかし、どうもこのローラ・チャン、日本語を解するらしい。
はたして、彼女の正体は?!

・・・ということで、やっとあの、
一部の始めの方で途切れていた空美ちゃんの話になるんですねえ。
ものすごーい、長い道のりでした。


さてさて、ついに発熱し、倒れてしまった六花なのですが、
そこでローラ・チャンとの意外な協力関係がここにも登場。
風邪はそういうための伏線でしたか・・・。
こりゃ、新型インフルエンザっぽいですねえ。(???)

六花は、豊かな感情を踊りで表現するのが得意なんですね。
だんだん先が見えてきた感じではありませんか。
またまた続きが楽しみになってきました。

満足度★★★★☆

「ストーリー・セラー」 新潮社ストーリー・セラー編集部

2009年11月20日 | 本(その他)
Story Seller (新潮文庫)

新潮社

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伊坂幸太郎
近藤史恵
有川浩
佐藤友哉
本多孝好
道尾秀介
米澤穂信

この豪華7人のアンソロジーです。
“短篇並みの長さで読み応えは長編並み、永久保存版アンソロジー”というウリ。
確かに、これはなかなか読み応えがありました。


まず、冒頭、伊坂幸太郎「首折り男の周辺」。
これぞ伊坂スタイル。
いろいろな登場人物が交互に描写されつつ、ストーリーは進んでいきます。
町では未解決のある類似した殺人事件が話題になっている。
アパートの隣の男が犯人ではないかと疑う夫婦。
犯人と非常に良く似ているのだけれど、実は気の優しい男。
いじめられている少年。
彼らがつながってゆきます。
そして最後にはぴたりと収束。
これが心地よいのですよね~。


次の近藤史恵「プロトンの中の孤独」。
自転車ロードレースに挑む男のストーリー。
それは第一線の花形の話ではないのです。
いいところまでは行くけれども、うだつの上がらない、
そろそろあきらめるべきなのか・・・というような。
チーム内の確執もなかなかシビア。
けれど、なんだか男くさい心の交流があったりする。
いい味の物語です。
「茄子 アンダルシアの夏」や「茄子 スーツケースの渡り鳥」を思い出しますね。


米澤穂信「玉野五十鈴の誉れ」
う~む。
この時代色たっぷりの独特の雰囲気。
やられました。
地方の旧家が舞台です。
家はそこのお祖母様に完全に支配されている。
聡明で品のよい孫娘、純香は、玉野というお付の娘を与えられるが・・・。
これは全然展開が読めず、なんだかドキドキさせられる物語でした。
作者の強烈な才能と個性が感じられる一篇です。


お気に入りはこんなところでしょうか。
でも、残念なことに、
この本の表題と同じ有川浩の「ストーリー・セラー」、
これは好きにはなれなかった。
妙な青臭さと、とってつけたようなエピソード、
彼女の奇病という大もとの設定も納得できないし・・・。
せっかく「3匹のおっさん」で、彼女を見直したところだったのですが、
この作品については私の苦手な部分ばかりが目に付く残念な結果となりました。

ともあれ、力作揃いですので、
きっとどなたにもお気に入りの作品が見つかると思います。

満足度★★★★☆

パッセンジャーズ

2009年11月19日 | 映画(は行)
狂気か陰謀か・・・・

           * * * * * * * *

何の予備知識もなしに見たので、どういう作品なのか・・・?
なかなか謎めいていまして、それを考えながら見るのもまた、
ミステリアスでよかったりします。


飛行機事故で生き残った5人の乗客のカウンセリングを担当することになった、
セラピストのクレア(アン・ハサウェイ)。
ところがその生存者が1人また1人と姿を消してゆく。
付きまとう影。
事故の真相は、パイロットの人為的ミスとされているのですが、
実は飛行機の欠陥なのではないだろうか。
航空会社が、それをひた隠しに隠そうとして、
真相に気づいた生存者を襲っているのでは・・・。

さて、これはこういう社会派のドラマなのでしょうか?
それにしては、常につきまとう一種の薄気味悪さ。
妙になれなれしい乗客の男。
クレアの同じアパートの住人らしい夫人は、
いかにも人が良く世話やき風にもかかわらず、何か怪しい雰囲気。

これは生と死のはざ間を体験した人たちの狂気なのか。
それとも、やはり航空会社の陰謀なのか。
意外な真相が隠されていますよ。


元気な女の子を演じることの多いアン・ハサウェイですが、
この様にミステリアスな雰囲気も悪くないです。
このような事故で、何の覚悟もなく突然に命を失ってしまうというのは、
切ないですね。
その死の直前までの人々の思いは、どこへ行ってしまうのでしょう。
一瞬の後は「無」だとは、やはり思いたくない気がします。


2008年/アメリカ/93分
監督:ロドリゴ・ガルシア
出演:アン・ハサウェイ、パトリック・ウィルソン、デビッド・モーズ、アンドレ・ブラウアー



映画『パッセンジャーズ』予告編



風が強く吹いている

2009年11月18日 | 映画(か行)
走るのは1人だけれど、1人じゃない

            * * * * * * * *

箱根駅伝に挑む、大学生たちの青春。
原作は三浦しをん。
私はこの本があまりにも面白くて、大好きで、
だからつい映画まで見てしまいました。
ストーリーはかなり原作に忠実なので、こちらをご覧くださいね・・・
                   →三浦しをん「風が強く吹いている」
この原作のイメージを損なわず、よいできの作品だと思います。
う~む、それで、いいたいことは全てそちらで言ってしまったような気もするし
どうしましょう、というところなのですが・・・。


ここの竹青荘のメンバーがいいですね。
特に、ハイジさんは、
みんなの面倒見が良く、管理人、兼監督、兼コーチ、兼選手
・・・確かに、これでは倒れるのも当たり前。
だから、皆はつい、ハイジさんが望むならかなえてあげよう・・・と、
走る決意をするのですから。

このよほどボロな学生寮は、
映画の中では、完璧にイメージを具現しているので、そこは儲けものです。
なるほど・・・この古くてぼろなイメージ。
でも、みんなでワイワイ、たのしそうだなー、と。
しかし、王子の部屋の下には絶対行きたくないです・・・!
あまりにも危険です。
あれだけ人手があるなら、
部屋の上下を入れ替えるべきではないでしょうか・・・?


そして言うまでもなく、カケルの林遣都は、はまり役。
もともと、あまり人とつるんだりしない一匹狼的性格。
「バッテリー」の「巧」の時のイメージに近いですね。
でもここでは、竹青荘にいるうちに、どんどん皆に馴染んでいく。
こういう変化も見逃せません。
留学生のムサも、つい言葉が丁寧になってしまうダンテ・カーヴァー。
笑ってしまうほどはまり役。


でも、総じて考えると、やはり私は映画よりは本のほうをオススメしたい。
映像を目の前で見るよりも、本のほうがなぜか印象がより鮮やかなんです。
例えば、葉菜子さんが、
「走る姿がこんなに美しいとは思わなかった・・・」
とつぶやくシーン。
ここでは思わずつられて感動のあまり涙がでました・・・。
また、走り出す前の極度の緊張感とか・・・、
びんびんに伝わるのは、本の方。
やっぱり、著者の筆力なんでしょうねえ。
本の読後は、この私でさえ風を感じて走ってみたくなりましたから・・・。
映画を見ても、そこまでは思わないです。

こんなこと言ったら、映画好きは何のため?と思えてしまいますが・・・。
本よりは映画の方がお手軽なのは確かですし、
こんなステキなストーリーをより多くの人に知ってもらうためなら、
映画も良しとしなければね・・・。

2009年/日本/133分
監督・脚本:大森寿美男
出演:小出恵介、林遣都、川村陽介、中村優一、津川雅彦



2009年10月31日全国ロードショー『風が強く吹いている』公式サイト



「グレート・ギャツビー」スコット・フィッツジェラルド 村上春樹訳

2009年11月16日 | 本(その他)
グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)
スコット フィッツジェラルド,村上春樹
中央公論新社

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この本は、村上春樹が最も大切にしている小説で、
何度も何度も読んでいるので、暗記しているくらい・・・といいます。
翻訳のいきさつは、この本のあとがきに相当量を費やし書かれていますが、
つまり、これまでの訳で出ている本は、
どうも村上氏が感じているギャツビーとは印象が違う。
その思いがずっとあって、結局自身で訳することになったもののようです。

私自身、以前訳文があまりにもひどくて、
読むのを断念した本があったりするので、
翻訳は非常に重要だと思っています。

ところで私は、このストーリーは、
ロバート・レッドフォード主演の「華麗なるギャツビー」で知っていまして。
ストーリーは、こちら「華麗なるギャツビー」を参照してください。
全くそのままです。


この映画の感想を今改めてみても、
私自身さして感動したようには思えないのですが・・・。
でも、この本のほうは、ずっと胸に迫るものがありました。
特に、このギャツビーのデイジーへの一途な愛。
彼の人生は、デイジーに再会し、デイジーを取り戻すためにあった。
でもその情熱は、燃え上がるようなものではなくて、
なにやら物悲しさに裏打ちされている。
滅びの美。
全体にはそんな印象でしょうか。
これはやはり、村上春樹の筆力に負うところが大きいのではないかと思います。
あくどいことにも手を染めて、必死の思いで財を築き上げた。
その彼が、湾を隔てた昔の恋人の家をただ見つめるだけで、
ひたすら偶然の出会いを待ちわびるほか何もできない。
再会のときの彼の様子は、まるで少年のようです。
こういう一つ一つの描写に、村上氏の「愛」が感じられます。

私の好きだった、
ギャツビーが自分の無数のシャツを引っ張り出して、
部屋を埋めるシーンもありました!


でも、あの映画は、この本を読んだ時に、
当時の屋敷や車や服装をイメージするのに、非常に有益でした。
思うに、ロバート・レッドフォードはギャツビーを演じるには輝かしすぎ。
彼ではまったくそのまま、大富豪の坊ちゃんに見えてしまう。
ギャツビーには、もう少しほの暗くて、成り上がり者っぽいところがほしい。

野心がありつつ、ピュアで少年のよう。
とてつもなく、明るく賑やかに日々繰り広げられるパーティー。
その中の絶望的孤独。
ここに語り手のニックがいてよかった・・・と思います。
ニックだけがこの滅びの美を見て取り、
ギャツビーを"グレート"と認めたのですものね。
村上春樹氏が伝えたかった物語のイメージを、
私は確かに受け取ったと思います。


後書きにも少し触れられているフィッツジェラルドの紹介も、
興味深く読みました。
時代の先端を行く人気作家。
若者に人気のある手軽に読める短篇を多々出して、一躍有名に。
でも、この「グレート・ギャツビー」は、
彼の渾身の長編にもかかわらず、さっぱり人気が出なかった。
その後も振るわず、失意と困窮のうちに亡くなったという。
結局正しく評価されたのは、彼の死後だそうで・・・。
彼の一時の華やかな生活は、まさにこのギャツビーを思わせます。

何にしても、奥深い本であります。

満足度★★★★★

ホルテンさんのはじめての冒険

2009年11月15日 | 映画(は行)
ホルテンさんのはじめての冒険 [DVD]

東宝

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もうレールの上を行かなくてもいい

              * * * * * * * *

ノルウェー作品。
監督のベント・ハーメルはキッチンストーリーの監督さんでしたか。
どうりで、ごく普通の人のごく普通の日常をじーっと見据えるなかで、
なんともいえないおかしみがにじみ出てくる。
これも、そんな作品です。

ホルテンさんは鉄道の運転士。
とにかくまじめに何十年を勤務して、いよいよ定年退職日前夜。
予期せぬ出来事があって、最後の乗務に乗り遅れてしまいました。
これまで一度も足を踏み外したことなどないのに・・・。
しかしこれを期に、ホルテンさんは、
今まで体験したことのないことに足を踏み出します。
空港内をうろうろさまよったり、無人のプールで泳いだり。
そしてある風変わりな老人と出会うのです。
道端で酔って寝転がっていたこの老人。
彼は言います。

「人生、思い切ったことはなかなかできないもんだ。
でも、だからこれからがチャンスなんだ。」

ホルテンさんのお母さんは、施設に入っています。
今はもう、話しかけても何もわからない風だけれども、
実は若い頃はスキージャンプをしていました。
でも、当時は女性なので、競技には出られなかった。
それで彼女は息子にもジャンプをさせたかったのですが、
ホルテンさんは怖くてできなかった・・・。
そんなことが、彼の胸の奥の痛みとなっていまだに残っていたんですね。

とにかくセリフの少ない映画で、ホルテンさんもほとんど無表情だから、
その老人にホルテンさんがポツリポツリと語り始めて、
私たちもはじめてそんな事情を知る、という仕掛けです。


これまで彼が走らせていた列車のように、
ずっと決まったレールの上を歩んできたホルテンさん。
でも、もうレールの上をいく必要はないのだと気づいたのです。
ラストに思わず“うそ~!”とつぶやいてしまうシーンが待っていますよ。

特別おかしなことを話しているわけでもないのに、
どうしてこう、おかしみが滲み出てくるのでしょうね。
客観的に見れば、私たちの生活や人生、
実はこっけいなものなのかもしれません。
だから、まあ、そう肩肘はらずに、好きなことをしましょうよ
・・・そんなメッセージが聞こえたような気がします。


季節は冬。
雪に覆われた街。
真っ白な雪景色の中を走る列車。
つるつるの路面。
北海道人としてはとても親近感を感じてしまいました。
スキーのジャンプ台もね。
ノルウェーならではでしたね。

ふう、もうじきまたそんな冬が来ます・・・。

2007年/ノルウェー/90分
監督:ベント・ハーメル
出演:ボード・オーベ、ギタ・ナービュ、ビョルン・フローバルグ

「新参者」 東野圭吾

2009年11月14日 | 本(ミステリ)
新参者
東野 圭吾
講談社

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お待ちかね、東野圭吾。
この方の作品には、ほとんど間違いがなくて、安心感がありますねえ・・・。

この本がまた、素晴らしい出来です。
主人公は刑事、加賀恭一郎。
日本橋署に着任したばかりの新参者。
Tシャツの上に半そでのシャツを羽織ったラフなスタイル。
浅黒くホリが深くて、髪はやや長め。
刑事のイメージからかなり外れております。
そしてカッコイイ(^^♪


ストーリーは、彼が担当した一つの事件を追います。
1人暮らしの40代女性が絞殺されたという事件。
でもこれは9章からなる短篇の連作集という形をとっています。
加賀は毎日毎日、この日本橋界隈の店を訪ね歩くのです。
そんな中で聞き及んだ些細な謎を解き明かしていく。
しかし、それは全く無駄な捜査なのではなくて、
もともとの大きな事件の解決の糸口となっていきます。

このあたりのお店の風情がいいのですよ。
みな古くからの個人商店ですね。
お煎餅屋。料理屋。
瀬戸物屋。時計屋。
洋菓子屋。民芸品屋。
当然ながら、それぞれに働く人がいて、しっかり仕事をしている。
多くは家族で、そこが生活の場でもある。
こういう街っていいもんだなあ・・・。
近頃、大型スーパーにしか行ったことがない私は、懐かしくも思えました。
そこへまた、加賀刑事が足しげく通うんですよ。
そこで買った「お煎餅」やら
「パッションフルーツと杏仁豆腐のゼリー」やら
「人形焼」やらをお土産にして・・・。
こんなカッコイイ気さくな刑事が通ってきたら、
もうあることないこと(?)なんでもしゃべっちゃいますね・・・。


例えば始めの話は、お煎餅屋さんに来た保険屋の話し。
彼は、亡くなった女性の家を当日訪ねていたのです。
そして、その事件時のアリバイが不確か。
保険屋はその後、このお煎餅屋に来ているので、
その時刻を確認のために加賀刑事が来たわけですね。
しかし、全くのシロといえるだけの証拠にはならない。
けれど結局、加賀刑事の推理の冴えによって、
無事保険屋の無実が証明されます。
実は保険屋は、この煎餅屋の家族の大切な秘密を守るために、
警察にも事実を告げていなかったのです。
人の温かな気持ちが描かれているところが、なんとも心地よい。

こんな話が次々と連鎖していくんです。
わさび入りの人形焼の謎。
どうしようもなくいつも喧嘩ばかりの嫁・姑の不思議な仲・・・。
なくなった女性が期待していた赤ちゃんの謎・・・。
本筋以外でも、興味深い謎ばかりです。
密室殺人もなし。
不可解な現場でもなし。
ダイイングメッセージもなし。
大掛かりなどんでん返しもなし。
それでも、ミステリってこんなに面白く書けるんだ
・・・と感動してしまいます。
素晴らしい構成力に加えて、
生きて生活する人々がきちんと描かれているから・・・。

全く、見本にしたいくらいの高品質作品でした!

満足度★★★★★

サイドウェイズ

2009年11月13日 | 映画(さ行)
ワインと人生と寄り道と・・・

            * * * * * * * *

レックス・ピケット原作のこの作品。
2004年にアメリカで「サイドウェイ」として製作されました。
第74回アカデミー賞脚色賞を受賞しています。
それは私も見ているのですが、ブログをはじめる以前ですね・・・、残念。
男二人のロードムービーは良くありますが、
ワイナリーを巡る・・・と聞いてピンときました。
ハリウッドは他国の映画を臆面もなくリメイクしますが、
たまにはアメリカ作品を日本側からリメイクというのもいいでしょう。
しかも、日本語の日本俳優による日本映画を
全編カリフォルニア舞台に、ハリウッドのスタッフが撮影するという、
ユニークな試みになったのですね。
映画シーンもうんとグローバルになって、
ますます深みが出るならそれも歓迎です。


さて、ストーリーは、ほとんど変りませんね。
仕事も生活もさえない中年シナリオライター道雄(小日向文世)が、
親友大介(生瀬勝久)の結婚式に出席するため、
カリフォルニアへやってきました。
二人は若い頃、このカリフォルニアへ留学していたのです。
式の一週間前、二人は気ままな旅に出ます。
大介はラスベガスに行きたかったのですが、
道雄の希望でナパ・バレーのワイナリーめぐりとなる。
明るく美しいカリフォルニアのブドウ畑の中を、ワイナリー巡りの旅。
いいなあ・・・。
ちょっぴりあこがれてしまいますね。
私もせめてこの次は、カリフォルニアワインを選んで
買ってみることにしましょう・・・。

その旅の中で、道雄は昔留学中に知り合った麻有子(鈴木京香)と再会。
そして、大介は結婚前というのに彼女の友人ミナ(菊地凛子)にうつつを抜かす・・・。
さて、果たしてこの道中の行方は・・・?


アラフォー、「いい年をした大人」のほろ苦い青春ストーリーですね。
結局精神年齢は、ある年齢以上からは変らないのかもしれない。
自分もとっくに「いい年をした大人」を通り過ぎた年齢であるからこそ、
そういうことはリアルに実感できます。
未だに若い頃と同じく、道が定まらずにふらふらしている道雄が、
原点に戻って、自分の道を再確認する、
そういう物語だと思います。

いい学校を出て、いい会社に入って、出世街道まっしぐら、
それが「幸せの道」。
今世の中は、こんな考え方から、ようやく脱却してきていますね。
自分らしく生きればいい。
一番でなくてもいい。
そんな風に世の中全体が変ってきているからこその、
今、このストーリーなのだと思います。
寄り道、大いに結構。
まっすぐ早く行くだけでは、つまらない。
もっと、のんびりと周りを見ましょう!
そうすると、本来の自分の道が余計にきちんと見えてくる・・・。
そういう点では大介の浮気も結局「寄り道」の一種なんですね。
本当に自分の大切なものが後から見えてくる。

確かに、「サイドウェイ」よりも身近でリアルにこういうことが感じられる。
逆リメイクもまた「よし」ですな。

2009年/日本/123分
監督:チェリン・グラック
出演:小日向文世、生瀬勝久、菊地凛子、鈴木京香



サイドウェイズ 予告編