映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ポスター犬18

2013年05月31日 | 工房『たんぽぽ』
イノセント・ガーデン



カラフルなのが当たり前の映画チラシの中で、
珍しくモノクロのこれは、目を引きました。






韓国、パク・チャヌク監督のハリウッドデビュー作です。
主演ミア・ワシコウスカで、その母親役にニコール・キッドマン。
ミステリということで・・・これは是非みたいですね。


乞うご期待!!

メゾン・ド・ヒミコ

2013年05月29日 | 西島秀俊
自分らしさを貫く覚悟



            * * * * * * * * *


「ジョゼと虎と魚たち」の犬童一心監督、
そして脚本が渡辺あや。
というところで本作は、西島秀俊カテゴリからはちょっと外れたところにあるようだけど・・・。
そうなのです。西島さんは主役ではないし・・・。
でもこういう成り行きであっても、見てよかったなあ、と思える作品だったね。


メゾン・ド・ヒミコというのはズバリ、
ゲイの老人たちの住むホームなんだね。
沙織(柴咲コウ)の父親がそのホームを経営しているんだけど、癌で死期が迫っている。
沙織は母を捨てて出て行ったその父を憎んでいるし、
ゲイであることを軽蔑している。
父娘は全く音信不通になっていたのだけれど、
父の恋人である青年(オダギリジョー)がおせっかいを焼いて、
沙織にホームで働くようにと訪ねてくるんだ。


「オカマなんて気持ち悪くて、手も触りたくない」と公言していた沙織だけれど・・・
次第に、彼ら(彼女ら?)がこれまで周囲の無理解でどれだけ傷つけられてきたのか、
また、今でさえもホームの近隣から嫌がらせを受けているという現実がわかってくる。
そして、個性的なホームの人々、それぞれに、何かしらの魅力があるということも・・・。
ただ表面的にゲイを毛嫌いしていたけれど、
彼ら(彼女ら)をきちんと人間として見ることができるようになっていくんだね。
オダギリジョーがかっこよかったな~!
西島秀俊さん目当てでみたわけだけどさ、つい目移りしちゃったね・・・。
沙織と彼の気持ちが接近していくわけだけど・・・
その壁は乗り越えられるのかっ!?



「女に生まれ変わって、ステキなドレスを思い切り着たい」
というゲイの老人に、沙織はいいます。
「女だからってなんでも着られるわけじゃないよ・・・」
彼女はバニーガールには不適当と言われて傷ついたことがあるんだよね。
そうだねえ・・・性の違いだけでなくて、容姿的に似合うとか似合わないとか。
年齢とか。職業とか。
世間一般の規範みたいのはあるよね。
そんなの関係無いじゃん。自分が着たいものを着ようよ!
ということで、二人でコスプレごっこになったりして。
人がどう思おうと構わない。
自分は自分らしく。
そういう生き方がかっこよく思えるなあ。
そうだねえ・・・私ももう一度ウエディングドレス着てみたいとか・・・。
メイドスタイルしてみたいとか・・・。
はは・・・。まあ、誰も見ていない所でどうぞ・・・。
しかし、メイドスタイルはホンモノの家政婦にしかか見えないと思うけど・・・。


おほん。それで、西島秀俊さんの役回りは?
沙織の勤める塗装店の専務。
こいつが、誰彼構わず女に手をつけるという適当な奴。
けど、かっこよくはあるので、沙織もほんの少し気にしているフシもある。
でも、そういう奴だとはちゃんとわかっている。と。
が、このストーリーでこの人物がどういう役回りを果たすのか、
というのが謎で、後まで引っ張るのだな、これが。
で、最後のほうであ~、なるほどと思いました!!
だからまあ、美味しい役ではありますね。
オダギリジョーとのツーショットが微妙に緊張をはらんでいて、これがまたいいのだわねえ。
そうでした!!
それから柴咲コウは、不機嫌顔が似合うなあ~、と改めて思いました。
そうだね。彼女の不機嫌顔は、なぜかこちらの気分を落ち込ませないような気がする・・・。
乱暴な口の聞き方しても、さほど嫌な感じがしない、というのがいいんだよねえ。
こういうのを天性っていうのかもしれない。
もって生まれたもので、真似できないもの。

出演者の魅力も相まって、いい作品でした~。

メゾン・ド・ヒミコ 通常版 [DVD]
オダギリジョー,柴咲コウ,田中泯,西島秀俊
角川書店


「メゾン・ド・ヒミコ」
2005年/日本/131分
監督:犬童一心
脚本:渡辺あや
出演:オダギリジョー、柴咲コウ、西島秀俊、田中泯

自分らしさ度★★★★★
西島秀俊の魅力度★★★☆☆
満足度★★★★☆

モネ・ゲーム

2013年05月28日 | 映画(ま行)
俳優たちの化学反応



            * * * * * * * * *

軽いコメディタッチのコン・ゲーム。
しかしこれが、コーエン兄弟脚本というので、期待させられます。


美術鑑定士のハリー(コリン・ファース)は、
大富豪の彼の雇い主・シャバンダー(アラン・リックマン)から、
正当に評価されていないことに不満を持っています。
そこで、印象派モネの名画「積みわら」の贋作を用意し、
シャバンダーに詐欺を持ちかけようと計画を立てます。
しかし、計画は完璧のはずなのですが、
どこか抜けているハリーのドジ連発。
計画はほとんど予定ハズレで・・・。



本作は、実力派俳優の“らしくない”役柄が化学反応を引き起こし、
とてもおかしな魅力を発揮しています。
コリン・ファースはほとんど3枚目。
『ズボンなしのスーツ姿で、ツボを抱え、一流ホテルの窓の外に立っている』図。
一体どうすればこんな状況に陥るのか。
・・・まあ、是非ご覧になって確かめてください。
これをローワン・アトキンソンがやってもまあ、普通なんですが、
コリン・ファースがやるというところが、
なんともおかしく、そして贅沢ですよねえ!!



それから、アラン・リックマン演じるシャバンダー。
ハリーは彼をかなり過小評価して見ているのですが、
実のところ、ただでここまでのし上がってきたわけではないという鋭さをのぞかせます。
なので、ハリーが思ったほど事は簡単には進まないというわけ。
けれどまあ、やっぱり軽いのです。
女好きで俗っぽい。
なんとなんと、アラン・リックマンのオールヌードが見られます。
いや、別にみなくてもいいんですけどね。


イギリスの普段は渋いおじさま方の奮闘にくわえて、
パッキパキのテキサスガールを演じるキャメロン・ディアス。
この取り合わせがなんとも心憎いじゃありませんか。
陽気で怖いもの知らず。でも仁義はわきまえてますよ。


そして、日本の商社マンが登場するのですが、
とっても“ヘン”です。
う~ん、英米から見た日本人はやはりこんな風?
・・・でも、まあいいか。
面白いから。
彼らが身内で話すナマの日本語(作中では英語の字幕が出る)が、おかしい。



さてしかし、ドジ連続のハリーだからといって油断してはいけません。
この詐欺計画には裏がある。
ナイスな結末を楽しみましょう。

「モネ・ゲーム」
2012年/アメリカ/90分
監督:マイケル・ホフマン
脚本:ジョエル&イーサン・コーエン
出演:コリン・ファース、キャメロン・ディアス・アラン・リックマン、トム・コートネイ、スタンリー・トゥッチ

ユーモア度★★★★☆
俳優達のおとぼけ度★★★★★
満足度★★★★☆


「バイバイ、ブラックバード」 伊坂幸太郎

2013年05月27日 | 本(その他)
計算なし。戦略なし。

バイバイ、ブラックバード (双葉文庫)
伊坂 幸太郎
双葉社


            * * * * * * * * *

星野一彦の最後の願いは何者かに"あのバス"で連れていかれる前に、
五人の恋人たちに別れを告げること。
そんな彼の見張り役は「常識」「愛想」「悩み」「色気」「上品」
―これらの単語を黒く塗り潰したマイ辞書を持つ粗暴な大女、繭美。
なんとも不思議な数週間を描く、おかしみに彩られた「グッド・バイ」ストーリー。
特別収録:伊坂幸太郎ロングインタビュー。


            * * * * * * * * *

主人公星野は、特に取り柄もない男ですが、
なぜか恋人5人を掛け持ちしていたのです。
しかし、何らかのトラブルが有り、
"あのバス"に乗せられて、何処かへ連れ去られようとしていた。
そのため、5人の恋人一人ひとりに別れを告げることにしたのです。


物語はその一人ひとりと会う場面ごとに章立てしてあります。
それぞれの出会いや相手の状況など、とてもユニーク。
どの冒頭も、「あれも嘘だったのね」と、
それぞれの女性が、星野との出会いのシーンを疑うところからはじまるのが、またいい。
これは5又どころじゃなくて、もっとたくさんいたら、
もっと楽しめるのに、などと不謹慎なことを考えたりもします。
そしてさらにこの物語を更に面白くしているのが、
星野の見張り役、粗暴な大女、繭美。
読み始めて、うわー、ニガテ、と思ったのですよね。
やたら粗暴で・・・。
でも読み進んでいくうちになんだか印象が変わって行きました。
それは著者の設定の変化などではなくて、
彼女がそんな風に変わっていったのは、まさに星野の影響だと思われるのです。
自分を飾らず人懐っこく、
自分が損だとわかっていてもつい「正しい」ことをしてしまう。
そんなタイプ。
繭美は彼を馬鹿なやつ・・・と思いながらも、
心動かされていく・・・。

そもそも、繭美はただの粗暴な女怪人かと思いきや、
そうではないのですよね。
終盤星野のことを
「おまえは計算ができない。戦略がない。」
と、分析します。
サッカーをする子供が、何も考えずにただボールをわ~っと追いかけるみたいに
目の前に現れた女性と後先考えずに付き合ってしまうのだ、・・・と。
実はなかなかするどい繭美さん。
実は本作の主人公は彼女の方なのかもしれませんね。


最後まで"あのバス"というのは一体何なのか、
星野がどうしてそんなハメに陥ってしまったのかの説明はありません。
でもそれでよかったのだと思います。

星野は、何らかの多額の借金を作ってしまったのであろうことは想像がつくのですが、
たぶんそれは自分自身のためではないはずです。
この5人のうちの誰か、
もしくは又だれか別の人物のために
負ってしまった借金のような気がします。
それこそ、計算も、戦略もなかった・・・。
だけれど、全くそのことについて後悔する風でもない。
実は繭美以上に人間離れしている星野・・・。


“あのバス”については、巻末のインタビューでは
"死のメタファー"であるというふうにあります。
例えば、癌で余命わずか、という設定でも全然構わないんですね。
殺人を犯して、自首するところでもいいし・・・。
とにかく自分の未来がない、
つまり親しい人と共にいるという未来もない。
そんな状況で、自分は何ができるのか。
というストーリーであるのかも知れません。
面白くて、悲しくて、怖い。
伊坂幸太郎らしさあふれる一冊。

「バイバイ、ブラックバード」伊坂幸太郎
満足度★★★★★

シェイム

2013年05月25日 | 映画(さ行)
孤独の裏返し



            * * * * * * * * *

セックス依存症の男性の話・・・ということで、
若干怖気づきまして、見ていなかった作品です。
ニューヨークのエリートサラリーマン、ブランドン(マイケル・ファスベンダー)は
過剰にセックスに溺れています。

人前では、普通を装っているのですが、
家に帰るやいなやインターネットで怪しいサイトをあさり、
コールガールを呼び込む。
しかし彼はそれを楽しんでいるようには見えません。
そんな自分を恥じ、呪っているのです。
ある日そんな彼の元へ、妹シシー(キャリー・マリガン)が転がり込んできます。
彼女は彼女で恋愛依存症とでも言うのでしょうか、
誰彼かまわず関係を持っては失恋し、
リストカット癖があるのです。
互いにどうにも抑えられない自分。
それがお互いに見えてしまっているために更に傷付け合ってしまう・・・。



ブランドンの相手との関係は、常に行きずりです。
相手を知ろうともせず、感情的なつながりを持とうともしない。
感情なつながりをもとうとすれば、皮肉な結果に・・・。
相手との実際的距離がこれ以上ない程に密でありながら、
浮かび上がってくる深い孤独。
彼にとってはセックスは快楽ではなく、
どこかで人とつながっていたいという孤独の裏返しとも思えるのですが、
彼の方法では決して満足は得られないのですね。
救われない思いに私達の心も沈んでいきます。



この兄妹、もしかするとその生い立ちの中で、
何かのトラウマを抱えているのかも・・・という気がします。
こんな人達をも優しく包み込む、愛情に満ちた人との出会いがあればいいのに・・・と、
つい願ってしまった私でした。



テーマの過激さほどにはおかしな淫乱さはなく、
むしろ人の心の痛みをじっくり見据える良作でした。
それにしても、地下鉄の中で、視線だけで相手を上気させてしまう
セクシーなマイケル・ファスベンダー。
恐るべし・・・。

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マイケル・ファスベンダー,キャリー・マリガン,ジェームズ・バッジ・デール,ルーシー・ウォルターズ,ニコール・ビヘイリー
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「シェイム」
2011年/イギリス/101分
監督:スティーブ・マックイーン
脚本:スティーブ・マックイーン、アビ・モーガン
出演:マイケル・ファスベンダー、キャリー・マリガン、ジェームズ・バッジ・デール、ニコール・べハーリー

孤独描写度★★★★★
セクシー度★★★★☆
満足感★★★★☆

蛇の人

2013年05月24日 | 西島秀俊
人の心の奥底に潜む“蛇”



            * * * * * * * * *

これは、第2回WOWOWシナリオ大賞の脚本によるもの、ということですね。
なるほど、なかなか奥深い作品になっていると思いました。


部長の自殺と同時に失踪した、課長・今西(西島秀俊)。
彼は、有能で、人当たりがよくて、誰からも信頼されていた・・・
いつも今西について仕事をしていたOLの陽子(永作博美)が、
彼の行方を探すように重役から命じられます。
僅かな手がかりから、彼の友人をたぐっていくと・・・
よく知っていたはずの今西の別の顔が見えてくるんだね・・・。


ちょっと行き詰まったり、人生の岐路に立っている人に向かって、
今西は弁舌爽やかに、ある方向への後押しをする。
それがその時はとても説得力があるんだね。
だけど、その言葉に従った人たちは、みななんだか不幸になっているように思えちゃう。
そして更に調べていくと、思いがけない今西の過去にたどり着くんだ。



陽子は思ってしまうんだよね。
今西は頭の良い人だ・・・。
わざと人の心を操るようにして、誤った道に人を導いているのではないかと・・・。
ここでの西島氏はなんと関西弁。
う~ん、これはさすがに違和感あったんだけど・・・。
でもさ、あえて柔らかい人物味を出そうということで・・・
シナリオ上の計算なのか、今西の計算なのかどっちだろ?
う~ん、どっちなんだろう・・・。
でも、いわれてみれば、今西は面白そうな話をしている時も、
ちっとも笑ってなかったよね。
信頼出来る有能な人・・・と思っていたのが、
次第次第に印象を変え、底知れない不気味さを感じさせ始めるというのが、すごい!
それで、いつも彼の身近にいた人がターゲットになっていると陽子は気づくんだね。
いちばん最近、彼の身近にいるのは、自分自身だ。
一体彼のどこに私への罠があったのか?
愕然とする陽子。
しかし、それが今西の居所のヒントになるわけだよね。
いや、さすがシナリオ大賞。
こういうところの運びがすごくいいと思うな。
人の心の奥底には蛇が潜んでいる・・・。
でもそれは今西に限ったことではない。
どんな人であっても・・・、ということなんだな。
本当に今西には悪気があったのか。
その時は本当に相手のことを思っていたのではないか。
結局答えは出ていないんだよね。
そんなところも、余韻を残してよかったと思う。


・・・けど、満足度はが高くないのはなぜ?
う~ん、そこがよくわかんないんだけどね・・・。
パンチ不足・・・?
いや十分ショッキングな場面はあったと思うんだけど。
今西の過去というのが、あまりにも私たちの身近なところから離れている、
っていうあたりじゃないかなあ・・・。
いくらなんでも唐突過ぎる感じ・・・。
そこは師弟関係があればいいわけだから・・・、
何かもっと身近でわかりやすい設定があったかもしれないね。
う~ん、ちょっと残念。

蛇のひと [DVD]
永作博美,西島秀俊,板尾創路,劇団ひとり
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント


2010年/日本
監督:森淳一
脚本:三好晶子
出演:永作博美、西島秀俊、板尾創路、劇団ひとり、田中圭

シナリオ★★★★☆
西島秀俊の魅力度★★★☆☆
満足度★★★☆☆

チキンとプラム あるバイオリン弾き 最後の夢

2013年05月23日 | 映画(た行)
悲しい恋の終わりは音楽の終わり。そしてまた・・・



            * * * * * * * * *

マルジャン・サトラピによるコミックを
ご本人が監督し映画化したもの。
・・・といっても、私にも馴染みはないのですが、
寓話風にストーリーが進み、
軽いタッチではありますが、実は大変深い内容を持っています。
テヘランが舞台ですが、フランス作品。
ああ、そういえば「アメリ」の映像の雰囲気に似ているかもしれません。
でも主役は、キュートな女の子ではなくて、オジサン。
ナセル・アリ(マチュー・アマルリック)は、プロのバイオリン奏者です。
ところが、とても大事にしていたバイオリンを壊されてしまい、
代わりのものでは全然満足出来ません。
もうこれまでのように演奏はできない。
絶望した彼は死を決意し、ベッドに横たわったまま食事を取らず、8日間を過ごします。
彼はその有り余る時間で、
これまでの人生、かなわなかった愛を振り返るのです。



彼は若かりし頃、音楽の師匠に
「おまえは技術は完璧だが、おまえの音はクソだ」と言われます。
それから彼は恋をし、その恋が破れたとき、
それと引き換えのように世にも美しい音を得るのです。



彼の音楽は、悲しい恋、別れた恋人の面影を追うことで成り立っていたわけです。
それで、この作品をよくよく振り返ってみれば、
彼がバイオリンを弾けなくなったのは、
バイオリンが壊れたからではないのだということがわかりますね。
実に悲しい人生ではありませんか。
その人への思いが深いばかりに、
妻を愛せず、妻の本当の気持ちにも気づかず・・・。
子どもたちへの愛すらもおざなりだ。
彼の奏でる音は、そういうものを犠牲にして成り立っていて、
彼はただその音のために生きいたというわけです。



ナセル・アリが、どのように自殺すべきか想像するシーンがあって、
痛そうなのは嫌だし・・・などと、結構ユーモラスなシーン。
だから自殺というのも、ジョーダンなのでしょう、
とその時は思ってしまいました。
けれど、音を失くした彼はもう生きている意味がないのです。
当然の帰結でした。
結局、このとぼけたオジサンは、非常に純粋なのでした・・・。
凡人は、愛だの恋だのよりも、日々の生活が先で、
無粋にも生き続けてしまいますものねえ・・・。
芸術家というのはそうしたものなのかもしれません。

チキンとプラム~あるバイオリン弾き、最後の夢~ [DVD]
マチュー・アマルリック,マリア・デ・メディロス,イザベラ・ロッセリーニ,キアラ・マストロヤンニ,ゴルシフテ・ファラハニ
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「チキンとプラム あるバイオリン弾き 最後の夢」
2011年/フランス・ドイツ・ベルギー/92分
監督:マルジャン・サトラピ、バンサン・パロノー
原作:マルジャン・サトラピ
出演:マチュー・アマルリック、マリア・デ・メディロス、イザベラ・ロッセリーニ、ゴルシフテ・ファラハニ

ファンタジックさ★★★★☆
人生の悲哀★★★★★
満足度★★★★☆

「ツリーハウス」 角田光代

2013年05月21日 | 本(その他)
平凡のようで、決して平凡ではない、家族の系譜

ツリーハウス (文春文庫)
角田 光代
文藝春秋


            * * * * * * * * *

謎多き祖父の戸籍──祖母の予期せぬ"帰郷"から隠された過去への旅が始まった。
満州、そして新宿。
熱く胸に迫る翡翠飯店三代記。
第22回伊藤整文学賞。


            * * * * * * * * *

ある中華料理店の家族の歴史が描かれています。
おじいさんが亡くなったある夏の日。
孫の良嗣は、自分の家族のことを考えてしまったのです。
出入り自由の寄り合い所帯。
まるで簡易宿泊所か、子供の頃庭の木の上に作った"家"、ツリーハウスみたいに、
頼りなく危なっかしい。
親戚もいないし、お墓もない。
なんだかうちは変だ・・・。


良嗣は祖母が「帰りたい・・・」とつぶやくのを耳にし、
祖母の行きたいところに行ってみようと誘います。
それは昔、祖母と祖父が出会った満州でした。
ストーリーは戦前へとタイムワープし、
祖父母が満州へ旅立つところへさかのぼります。
日本が戦争に負けて、満州から引き上げてくる経緯、
そして息子や娘たちのこと、孫達のこと・・・、
家族の系譜が現在と交互に語られていくのですが、
良嗣が疑問に思った家のルーツが解き明かされていきます。
合間に、その時代のトピック的な出来事が挿入されているのも、
時代とともに移り変わっていく家族の様子が、
より具体的にイメージされていいですね。


中華料理店は翡翠飯店と名前ばかりかっこいいけれど、
決してそう繁盛しているとはいえないし、
父親はサボってばかり、
叔父はひきこもり。
ぱっとしない家族。
けれど、では、ぱっとした家族って何かというと、よくわからない。
祖父母は何もかもから「逃げて」きて、
ものすごい負い目を持っているがゆえに、
ひたすら一生懸命働いて生きてきたわけです。
意外と掘り出し物のお嫁さんがきたし、
孫の良嗣も気持ちが優しい。
ひきこもりの叔父は、かつて危ない宗教にハマったけれど、
あわやというところで犯罪者にならずに済んだ。
亡くなった家族もいることながら、
結構うまく行ったほうなのではないか・・・?
と、逆に思えたりもするのです。


どこの家族も実はこんなふうな歴史を持っているのではないかなあ。
例えば、私はよく、
うちのご先祖は良くも物好きにこんな寒い北海道まで移り住んできたものだ
・・・と思うことがあるのです。
ご先祖といってもたかが私の祖父母の代。
そういう経緯をきちんと調べてみれば小説の一つや2つ・・・。
ね、きっとどこの家でもそうなのですよ。
ファミリー・ツリーという映画がありましたが、
それは「家系図」の意味。
だから、この題名のツリーもそれに掛けてあるのかも、と思いました。
満州からの引揚げの物語・・・といえばものすごく重くなりがちなのですが、
良嗣の視点が若々しく、時にユーモラスでもあり、
じっくりと楽しめる一冊でした。
どの年代の方が読んでも共感を持てるのではないかと思います。

「ツリーハウス」角田光代 文春文庫
満足度★★★★★

南東角部屋二階の女

2013年05月20日 | 西島秀俊
ひとの“思い”の奥深さ



            * * * * * * * * *


非常に静かな作品なのですが、なかなかよかったですね、これ。
地味~な作品が、地味~に上映されて、静かに埋もれていったっていう感じ。
西島作品つながりだとしても、見てよかったなあ、と思います。
ホント。


野上(西島秀俊)は、平凡なサラリーマンですが、
父親が莫大な借金を残してなくなってしまい、返済に困っていた。
そこで、祖父の古アパートの建っている土地を売却して借金返済にあてようと考えた。
まあ、普通なんですけどね・・・。
でも野上はそこで仕事をやめちゃったんだよね。
借金のために働くのが嫌になっちゃったし、
父の借金で苦労するのもバカバカしくなって・・・やぶれかぶれというところかな。
ところが彼の会社の後輩である三崎(加瀬亮)も、仕事が嫌であっさり会社をやめてしまった。
そして、このボロアパートに転がり込んでくる。
また、不安定な生活を結婚で解消しようとした涼子も、家賃の安さに惹かれてここにやってきます。
人生に行き詰まってしまったこの3人の住むアパート。
ところがこのアパートの2階の角部屋、鍵も見つからず、ずっと開かずの間。
ふーむ、そう言うとなんだかホラーめいた話になるのか?と思っちゃうけど。
いやいや、そうではないんだな。
このアパートの隣に野上のおじいさんが住んでいるわけだけど、
ぼけているのか、単に偏屈なのか、なにを言っても無言だよね。
まあ、無言ということで土地売却を拒否してるわけだ。
そこまでこの土地にこだわるのはなぜなのか。
その空き室に何があるのか。
そこが問題なのです。



単に金銭の問題じゃなくて・・・、
人の色々な“思い”というのが大切なんだなあ・・・と。
そうだよね。
いつもむっつり、なに考えてるかわからない。
そういう人が、でも実はとても深いものを心に秘めていた・・・
というところに、心動かされるんだなあ・・・。
それから野上も三崎も、非常に言葉が少ない! 
ふたりとも真面目なあまり一人で悩みを抱え込んでしまっている。
家族じゃなくても、恋人でなくても、
ちょっと愚痴るくらいしてくれてもいいのにさ・・・。
って、涼子はきっと思ったんだよね。
そもそも、加瀬亮さんと西島秀俊さんって、そういう感じ、似てるよね。
確かに。でもここの加瀬亮さんはちょっぴりチャラ男っぽい。
というのが、また面白かったりする。
まだまだ発掘しがいのある西島さん出演作品です!

東南角部屋二階の女 (プレミアム・エディション) [DVD]
西島秀俊,加瀬亮,竹花梓,香川京子,高橋昌也
トランスフォーマー


「南東角部屋二階の女」
2008年/日本/104分
監督:池田千尋
脚本:大谷三知子
出演:西島秀俊、加瀬亮、竹花梓、塩見三省、香川京子

ひなびた感:★★★★★
西島秀俊の魅力度★★★★☆
満足度★★★★☆

マイ・レフトフット

2013年05月17日 | 映画(ま行)
母の愛と、生きる力

            * * * * * * * * *


アイルランドの画家であり小説家でもある
クリスティ・ブラウンの半生を描いた作品です。
彼は、ブラウン家の10番目の子どもとして誕生しましたが、
重度の脳性麻痺という障害がありました。
自分で動かせるのは左足のみ。
歩くこともできず、言葉もうまく発することができないということで、
家族たちからも、この子は知能が劣ると思われていたのです。
でも彼は並以上の知能と情熱を秘めていました。
あるとき、左足の指にチョークをはさみ、
床に“MOTHER”と書いて家族を驚かせる。
大好きなお母さんに、なんとしても彼の気持ちを伝えたかったのでしょう。
思わず涙してしまうシーンでした。
それから彼は左足で文字ばかりか絵を描くようになり、
周囲にも認められるようになっていきます。
まさに心の叫びを描くような、力強いタッチの魅力的な作品の数々。
彼は幾度か女性に恋をして、失恋するのですが、
そういった情熱が彼の絵に注ぎ込まれるからこその、
存在感のある作品と見受けられます。
愛を求めることが並以上であれば、その喪失感も並以上。
他者と相容れない自分を意識してしまい、
孤独を抱え込むことにもなります。
けれど、今作はちょっとハッピーな仕掛けがあって、
決して重苦しい作品ではないので、安心して御覧ください。


このブラウン家は貧乏人の子沢山の見本のように、
子供が大勢いるのです。
そんな中でも、お母さんは常に彼に気を配り愛情を注ぎ込みます。
また彼は兄弟や近所の子達とも一緒に遊びます。
決して家に引きこもって大事にされ続けていたわけでもない。
母親にとっては“ちょっと”手のかかる大勢の子どもたちのうちの一人。
そういうスタンスは大事なのではないかと思いました。
しかし実はその“ちょっと”が大きいのですけれど。
まさに、このお母さんあってこそのクリスティ・ブラウンなのです。


今作は、このたび見た「リンカーン」の
ダニエル・デイ=ルイスつながりで見たわけですが、
非常に見応えがありました。
作中のクリスティ・ブラウンは、
車椅子に乗り、軟派が趣味で、
アルコールのビンを携帯しストローですするというちょっぴりユーモラスなヒゲ男。
(リンカーンにも似ています!)
ステキです。
そして、ダニエル・デイ=ルイスの障害の演技は驚嘆に値します。
一度目のアカデミー主演男優賞作品というのも納得出来ます。
「ゼア・ウィル・ビ・ブラッド」も、もう一度見たくなてしまいました。

マイ・レフトフット [DVD]
ダニエル・デイ・ルイス,ブレンダ・フリッカー
20世紀 フォックス ホーム エンターテイメント


「マイ・レフトフット」
1989/イギリス
監督:ジム・シェリダン
原作:クリスティ・ブラウン
出演:ダニエル・デイ=ルイス、レイ・マカナリー、ブレンダ・フリッカー、ルース・マッケイブ、フィオナ・ショウ

母親の愛情度★★★★★
リアルな演技度★★★★★
満足度★★★★☆

探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点

2013年05月16日 | 映画(た行)
地元びいき

 

            * * * * * * * * *


「探偵はBARにいる」第2作。
相変わらずススキノのバーを事務所代わりにしている“探偵”(大泉洋)。
今回はオカマのマサコちゃん(ゴリ)が殺害されるという事件を追います。
マサコちゃんは奇術で有名になりつつあるところだったのですが、
その矢先に何者かに殺されてしまう。
彼女(?)のファンという美人バイオリニスト弓子の依頼で、
探偵と高田(松田龍平)のコンビが捜査を始めます。
しかし、この事件の背後には、カリスマ政治家の影・・・。
ほとんど四面楚歌というくらいの妨害を受けることに・・・。



ストーリーはさほど複雑ではありません。
ひたすら探偵と高田のとぼけた味満載の会話と、アクション、
そして札幌の街並を楽しむ、
そういう作品なのであります。

 

市電での乱闘、
ジャンプ台での珍騒動、
“開拓おかき”に“あげいも”。
札幌市長と原作者・東直己さんまで出演してましたね。
要するにベタなご当地映画なのですが・・・。
札幌に住んでいる私はもちろん楽しめましたが、
道外の皆様はいかがなのでしょうか?
どうにも地元びいきで、
私だけが面白いと思っているだけなのかも知れません。
皆様にも楽しんでいただけるといいのですが・・・。
と、まるで自分で作ったような気になってしまう、
こういうところがやはり“ご当地映画”なんですね。
そのうちどこかに、記念館でも建つのではあるまいか・・・。
高田のポンコツ車は是非展示してほしい!!



「探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点」
監督:橋本一
出演:大泉洋、松田龍平、尾野真千子、渡辺篤郎、ゴリ


コンビの掛け合い★★★★☆
ご当地度★★★★★
満足度★★★★☆

いわさきちひろ展

2013年05月15日 | 美術展
子どもたちが見つめるものは・・・?



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いわさきちひろ(本名松本知弘(まつもと・ちひろ、旧姓岩崎)1918年12月15日 - 1974年8月8日、女性)は、
こどもの水彩画に代表される福井県武生市(現在の越前市)生まれの日本の画家・絵本作家である。
左利き。 つねに「子どもの幸せと平和」をテーマとした


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道立近代美術館で行われている「いわさきちひろ展」へ行きました。
いわさきちひろさんの絵は大好きで、画集も持っているのですが、
考えてみたらこの画集は、いわさきちひろさんの没後まもなく、記念出版されたものだったと思います。
・・・ということは40年近く前?!
最近開いたことがないので、どんなことになっているものやら、
にわかに不安になって来ました。



さてそんなわけで、この度拝見した作品も、
ほとんど見知っているものでしたが、やはりナマはいいですね。
子どもたちのぷっくりしたほっぺや指・・・。
なんだか、生き別れた自分の子供と対面したみたいな・・・、
懐かしさといとおしさがこみ上げてきて、
ちょっぴり泣けました。
こんなところで涙を拭う人も珍しいと思いますが・・・。


子供達のあの表情、特に眼がなんともいえません。
黒目がちの・・・というか
絵としては、単に四角い薄い黒色なのですが・・・。
どの絵も大げさにニッコリ笑っていたりはしません。
どちらかといえば無表情に近い。
でもその眼が、なにも考えていないようでいて、
深淵を見つめているようにも思える。
単純にデフォルメされていながら、
こんなにも本当の子供に近いというのが、やはりスゴイです。
そしてもちろん、
水彩のぼかし、にじみの美しさ。
私はうんと若いころ、こんなイラストの絵本作家になりたい
などと夢見たこともあるのですが。
しかしいわさきちひろさんは、
元々の確かなデッサン力があるからこその、この作品なわけで・・・。
そう簡単に真似できるものではありません。


ご主人は日本共産党衆議院議員を務められた松本善明氏。
氏が奥様のことを描いた著書も、遠い昔に読んだことがあったはず・・・。
いわさきちひろさんはこの優しい絵柄とは違って、
たぶんかなり意志の強い方と思われるのです。
若かりし頃の自画像のデッサンなどをみて、ますますそう感じました。


いつか、「ちひろ美術館・東京」と
長野にある「安曇野ちひろ美術館」へも行ってみたいものです。



美術館前庭風景

「山本覚馬 知られざる幕末維新の先覚者」 安藤優一郎

2013年05月13日 | 本(その他)
おのれの道に忠実に

山本覚馬(かくま) 知られざる幕末維新の先覚者 (PHP文庫)
安藤 優一郎
PHP研究所



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維新のリーダーというと西郷・高杉・龍馬など、勝者側ばかりが注目されてきた。
しかし、敗れた会津藩にも明治維新に大きく貢献した人物がいた、
山本覚馬である。
「日本の独立が危うい時に、国内で相争っている場合ではない」と、
薩長との融和の道を探り、維新後は京都の近代化と同志社大学の設立に奔走。
激動の時代を生き抜いた覚馬の生涯から、
もう一つの幕末維新史を描く。


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さて、秋月悌次郎に引き続き、
同じ会津藩士・山本覚馬の出番です。
NHK大河ドラマを見ている方には、今更の話ですが、
「八重の桜」主人公・八重のお兄さんですね。
私は、TVドラマだから、一藩士に過ぎない山本覚馬にも注目し、
西郷隆盛など、著名人と会って話をするシーンがあるのかな?と思っていたのです。
でも彼は江戸の昌平坂学問所で学んだ時に
諸藩の将来の中心人物たちと出会い、面識ができたりしていたのです。
だから実際に諸藩からも一目置かれる人物であったらしい。
つまりは八重の桜は、本当は山本覚馬の物語であると言ってもいい。


現時点でのTVドラマからすると、ややネタばらしになることをお許し下さい。
でも実在の人物なので、ちょっと調べればわかることですので・・・。


会津藩が京を後にして、会津のお城に立てこもる戊辰戦争の渦中にも、
覚馬は京にとどまります。
というのも、その頃はすでに失明してしまっていたので。
更には脊髄を痛めて足腰立たなくなっていたということです。
会津降伏後、1年以上長州藩に監禁されていたといいますが、
扱いはさほど過酷ではなかったようです。
その後覚馬は、八重たち家族を京へ呼び寄せ、京を生涯の住処とする。
つまり、ドラマにもあった、会津を去って京へ上るというシーン、
それが本当に彼にとっては、最後の故郷の見納めであったわけですね・・・。
盲目で、出歩くことも困難ながら、
京都の近代化や同志社大学の設立のために尽くしたという山本覚馬。
八重はひたすら兄を支えるために行動したのではないかと思われます。
西島秀俊さんが、この山本覚馬をどんなふうに演じていくのか、
今後も楽しみな所でもあります。


それにしても、これまでほとんど注目されなかった人物が
スポットを浴びるというのも悪くはありません。
これぞ歴史の醍醐味。
ご本人はきっとお墓の中で苦笑しているでしょうけれど。
山本覚馬の出発点は、やはり江戸で学問を積んだことだと思うのです。
そこで様々な知識を得、己だけでなく日本の進むべき道をもイメージしたでありましょう。
学ぶことは大切なんだなあ・・・。


「山本覚馬 知られざる幕末維新の先覚者」安藤優一郎 PHP研究所 Kindle版にて

満足度★★★☆☆

休暇

2013年05月12日 | 西島秀俊
ちっぽけで、無力な“生”だとしても・・・



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休暇・・・、つまりバカンスということで、のんびりした内容を想像していたけれど・・・
結構重い作品でしたね。


西島秀俊さんは、なんと死刑囚です!
はい、死刑囚を収容している拘置所が舞台でね、
そこに平井(小林薫)という刑務官がいる。
彼は美香(大塚寧々)というシングルマザーと結婚するところ。
ある日とうとう死刑囚金田(西島秀俊)の死刑執行命令が出て、
その「支え役」を勤めれば一週間の休暇がもらえるというので、
平井は、彼女のためにも休暇をもらって旅行に行こうと思って役を引き受けたんだね。
そこで金田の処刑前から処刑までのシーンと、
平井の旅行のシーンが交互に映し出されていきます。
一応新婚旅行というのに、どこか上の空で楽しめていない平井の、
その訳がだんだんわかってくるわけだ。
もちろんこの処刑は平井の責任でも何でもない。
元はといえば金田の罪のせいだし、
彼をさばいた裁判官の、そして執行命令を出した大臣の責任でもある。
それはわかっているけれども、
今生きている者の最後の生の証に直に触れてしまうというこの役割は、
さすがに平井にダメージを与えるわけだ。
自分が殺人に加担したような気になってしまうよね。
というか、確かにそこだけ切り取れば殺人そのままだし・・・。
そして、そんなことで、自らの幸せのために休暇をもらってしまったということに、
ひどく罪悪感を覚えるということなんだね。
特にどうというストーリーがあるわけではなく、
そして死刑制度について声高に反対を唱えているわけでもないけれど・・・、考えてしまいます。
結局は「目には目、歯には歯」の野蛮なやり方だ。
神ではない私達に、人の生死の決定権があっていいのかな・・・と。



西島秀俊さんの演技、凄くリアルでしたね。
うん、まあリアルと言っても、ホンモノの死刑囚を見たことなんかあるわけないけど、
本当にこんなふうかもしれない、って思う。
どんな罪を犯してこんなことになってしまったのかには、全く触れられていません。
難を言えば全然、凶悪犯っぽくはないところ・・・。
死刑というからには、たぶん殺人犯なんだろうなあ。
情状酌量の余地もなしってこと?
まあ、それはここでは問題にしないということだよ。
金田は、いつか来る死に対しては、もうすっかり諦観していて、
ひたすら静かに絵を書いている。
時には運動と称して金網で仕切られた狭い敷地に連れて行かれて、そこで縄跳びしたり。
そこだけ見ればユーモラスでさえあるけれど、
常に底の方に横たわっている「死」の気配から逃れられない。
後悔とあきらめと怯え・・・。
刑務官たちのやりきれないような倦怠感もわかります・・・。
「死」にあまりにも近いので、「老人」のようだ。
新入りの若者だけが、まだ何も知らずにちゃんと若い。


最後の方に、すでにもういない金田の独房が映し出されるでしょ。
あれも、どんな犯罪者であれ、どんなに静かにいつも同じような生活をしていたとしても、
その「生」は確かなものだったのに、失われてしまった、という無念さがにじみます。


独房に迷い込んで這っていたアリは、金田自身の象徴かな?
そうだね、ちっぽけで無力で、
ごく簡単に捻り潰されてしまう存在、を表しているのかもしれないね。
だから彼はそれをとらえて捻り潰したりはしなかった、ということかあ。

休暇 [DVD]
小林薫,西島秀俊,大塚寧々,大杉漣,柏原収史
ポニーキャニオン


「休暇」
2008年/日本/115分
監督:門井肇
原作:吉村昭
出演:小林薫、西島秀俊、大塚寧々、大杉漣、柏原収史

死刑制度学習度★★★★☆
西島秀俊の魅力度★★★★★
満足度★★★☆☆