映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

影踏み

2019年11月30日 | 映画(か行)

自分の分身との相克

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住人が寝静まった住宅に侵入し、盗みを働く、通称「ノビ師」と呼ばれる泥棒の真壁(山崎まさよし)。
ある夜、県議会議員の自宅に忍び込みますが、
ちょうどそのとき、その妻が家に火をつけようとしているのを目撃します。

そんなどさくさで真壁は捕まり刑務所へ・・・。
そして彼が出所するところから物語は始まります。
真壁はあの夜の女のことがなぜか気になってならない。
と言うのも、真壁には20年前に起こったある火事の記憶がよみがえっていたので・・・。

 

真壁は実はかつて成績優秀、大学の法学部で学んでいたことがわかってきます。
それなのになぜ今こんな泥棒稼業などをして刑務所にまで入る暮らしをしているのか。
それは、かつて彼にはうり二つの双子の兄弟がいて、しかしその弟は全く学業に向かず、
世をすねてチンピラのようになっていた・・・。
そんなことからある事件が起こってしまったのです。

 

自分とうり二つの存在、しかし中身は正反対。
片や品行方正で人望があり、
もう片方はできが悪く反社会的な方へ落ち込んでいく。
本来等しく親しいはずの二人が、互いに相手を疎ましく思い憎むようになっていく・・・。
本作は「双子」の話となっているのですが
これは実は一人の人間の持つ「両面」のことなのかもしれないと思いました。
だれの心にも裏と表があって、実は簡単に裏返ったりもするのではないか・・・。
そんな風に思ったのでした。

真壁だけでなく、もう一組の双子の兄弟を登場させることで、
よりそんな想像が強まります。

 

そして、どこからともなくふらりと現れ、真壁に話しかける
チンピラ風の青年(北村匠海)の存在を不思議だ・・・と思いながら見ていたのですが、
その正体にこそ、本作の一番の面白みが隠されていました!!

なかなか企みに満ちた作品です。

 

しかし私が一番腑に落ちないのは、
つまり真壁の双子の兄弟が「あの人」と言うことで・・・
やや無理があるのでは・・・???(^_^;)

 

「影踏み」

2019/日本/112

監督:篠原哲雄

原作:横山秀夫

出演:山崎まさよし、北村匠海、尾野真千子、中村ゆり、竹原ピストル、藤野良子、滝藤賢一

双子の相克度★★★★☆

満足度★★★★☆


ベン・イズ・バック

2019年11月29日 | 映画(は行)

薬物依存によるもう一つの危険性

 

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クリスマスイブの朝、薬物依存症の治療施設で暮らす19歳ベン(ルーカス・ヘッジズ)が
突然家に帰ってきます。


母ホリー(ジュリア・ロバーツ)は久々の再会に喜びますが、
妹アイビーと継父ニールはベンが何か問題を起こすのでは、と不安を抱きます。
しかしとりあえず、ベンが一日だけ家で過ごすことを納得した一家。
ところがその夜、一家が教会から帰宅すると、家の中が荒らされ、愛犬がいなくなっています。
昔の仲間の仕業と察したベンは家を飛び出していきますが・・・。

 

いったん薬物を使用し始めると、それを断つことがいかに難しいか、
と言う主題の話はこれまでにも多くあったと思います。
本作ではその上、薬物使用中の人間関係のもつれもまた
後々までついて回るということを表しています。

 

未成年のベンが薬物を入手するためのお金をどうするのか。
もちろん親からのお小遣いなどで足りるわけがありません。
自然同類の仲間もできるでしょうし、盗みを働いたり、
薬物の売買の末端を担ったりするようにまでなっていきます。
借金もできます。
地元を離れ、治療施設に入ることで薬物とともにそんな仲間からも遠ざかっていられるのですが、
一度地元へ帰れば、否応なく元の生活がそのままの形で待ち構えている・・・。

 

そこには仲間同士、一人だけ元に戻ることを許さないという意識もありそうです。
一度はまり込んだら蟻地獄のように、もう這い上がることはできないのか・・・。

 

ここでは、母ホリーのほとんど盲目的ともいえる息子への思いが胸を打ちます。
そもそもベンが薬物依存になったのは、ベンの興味本位とか家庭不和のためとかではなく、
医師の「依存性はない」という判断でベンの治療として薬物が用いられたことがきっかけなのでした。
なんとも理不尽です。
母親としては悔やむにも悔やめない。
見守るしかないという切なさが伝わるのです。
(ホリーはこの医師を未だに殺してやりたいくらい憎んでいるのですが。)
ベンが治療施設に入っていたというのも、今回が初めてではなかったようです。
幾度も入ったり、同じことを繰り返していたのですね。
ホリーにとって心配なのは今、ベンが薬物をやめられないことよりも、
過剰摂取による死なのです。

 

薬物依存の真実。
生命を脅かすものではありますが、
日本においては、社会的生命をも脅かします。
わかってはいるはずなのですが、どうして手を出してしまうのでしょう・・・。
いいことなんか一つもありません。

 

ベン・イズ・バック [DVD]
ジュリア・ロバーツ,ルーカス・ヘッジズ,キャスリン・ニュートン,コートニー・B・ヴァンス
Happinet

J:COMオンデマンドにて>

「ベン・イズ・バック」

2018年アメリカ/103

監督・脚本:ピーター・ヘッジズ

出演:ジュリア・ロバーツ、ルーカス・ヘッジズ、キャスリン・ニュートン、コートニー・B・バンス

 

薬物の危険性★★★★★

満足度★★★★☆


「蝶のゆくへ」葉室麟

2019年11月28日 | 本(その他)

自立を願う、明治の女性たち

蝶のゆくへ
葉室 麟
集英社
 
 
 

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「蝶として飛び立つあなた方を見守るのがわたしの役目」と語る校長巌本善治のもと、
北村透谷や島崎藤村、勝海舟の義理の娘クララ・ホイットニーらが教師を務め、
女子教育の向上を掲げた明治女学校。
念願叶って学び舎の一員となった星りょう(後の相馬黒光)は、
校長の妻で翻訳家・作家として活躍する若松賎子、従妹の佐々城信子、
作家の樋口一葉、翻訳家の瀬沼夏葉をはじめ、自
分らしく生きたいと願い、葛藤する新時代の女性たちと心を通わせていく―。

* * * * * * * * * * * *

実在の人物、相馬黒光の半生を描く物語ですが、
彼女が関わった多くの女性たちの人生をも描き出します。

といっても実のところ私は相馬黒光のことは全然知りませんでした。

簡単には・・・

相馬 黒光(そうま こっこう、1876年9月12日 - 1955年3月2日)は、
夫の相馬愛蔵とともに新宿中村屋を起こした実業家、社会事業家である。
旧姓は星、本名は良(りょう)。

 

1876年と言えば、明治9年。
こんな時代に考えられないくらいに、りょうは先進的な女子教育を受け、
今も名の残る作家たちと出会います。
その多くは恋愛がらみ。
男も女も、報われぬ恋に身を焦がし、はかなく自死したり心中したり・・・
確かにそんな作家は多いかも。
そして特に女性は、婚約を破棄したり、結婚して浮気をしたりが発覚すれば、世間は大騒ぎ。
身持ちの悪い女とか毒婦とか言われてしまいます・・・。
そんな中でも、自分の意思を通した女性たちの群像が描かれます。

そして、りょうはこれらの女性たちを見ながら、
こんな愚かな恋はすまいと思い、人に薦められるままに実業家と結婚するわけですが、
決して完璧な結婚ではない・・・。

それでも、彼女は自分の考えをしっかり持ち、
中村屋で文化サロンのようなものを開いたりします。
明治期で活躍した女性の一人。
作りようでは、朝ドラにできるかも・・・。

 

さて、本作は葉室麟氏には珍しく女性を主人公とした、しかも明治期の物語。
でも、たぎる女性の心理を描くには少し上品過ぎるような気もしました。
武士の品格ではない物語は、やや勝手が違ったかな?

図書館蔵書にて

「蝶のゆくへ」葉室麟 集英社

満足度★★★☆☆

 


決算!忠臣蔵

2019年11月26日 | 映画(か行)

予算から見る忠臣蔵

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だれもが知る赤穂浪士の物語を「お金の面」から見てみようというユニークな作品です。

 

赤穂藩藩主浅野内匠頭(阿部サダヲ)が江戸城内で刃傷沙汰を起こしたということで、
即、浅野は切腹、藩は取りつぶし。
しかし、喧嘩両成敗のはずなのに相手方の吉良上野介はおとがめなし。

筆頭家老の大石内蔵助(堤真一)、さあどうする!!ということですね。

 

しかし、すぐに仇討ちをするということになったわけではないのです。
城はおとなしく明け渡し、その後なんとかお家復興の道を探ろうと大石は思っていたのです。
ところがその道は絶たれ、
おまけに世間はたきつけるように赤穂藩士たちの吉良への仇討ちを熱望している・・・。
そして、はやる藩士たちをもう止めようもなく
・・・という感じで討ち入りへ突き進んでいくわけですが。
さて、これまでの忠臣蔵ならそのまま話が続きます。

しかし本作に登場するのは、勘定方・矢頭(岡村隆史)。
彼は番方(実戦担当)はお金の使い方を知らない、と言います。
いや、使い方を知らないというよりも、「予算」についての認識がないというべきか。
どんな計画も予算の裏付けがなければ絵に描いた餅ということを知らない。
この気持ち、元経理担当の私としてはすごーくよくわかります。

 

お取り潰しとなった藩の藩士たちはその後どうなってしまうのか、ということについても、
勘定方がこれまで「何かの時のため」に、コツコツと余剰金を貯めておいたので、
藩士に退職金を出すことができた、などという話は
これまで聞いたこともなかったので感心しました。

 

そして結局、討ち入りに関わる経費は、亡き浅野内匠頭の奥方のお金を使った訳なのですね。
討ち入りの打ち合わせのための江戸への旅費、
藩士たちの江戸での住まいの家賃、
討ち入りの装備や武器・・・
何もかも先立つものがないとどうにもなりません。
どう考えても大赤字のところ、当初予定された討ち入り314日(浅野の命日)を
1214日に前倒しすることで家賃等の経費が浮いたなどという話がまた、
すごくリアルに迫ってきます。

 

見せ所、いよいよ討ち入りの修羅場のシーンはありません。
しかしこの物語に、そこは必要ありませんね。
コミカルに描かれたこの物語、最後の悲惨な場面はみたくありませんもの。

 

岡村隆史さんの勘定方というのがユニークでステキな配役でした。

「蜜蜂と遠雷」で軽やかにピアノを弾いていたあの人(鈴鹿央士)が、
ここでは討ち入りをするなんてね・・・!

 

<シネマフロンティアにて>
「決算!忠臣蔵」

2019/日本/125

監督・脚本:中村義洋

原作:山本博文

出演:堤真一、岡村隆史、濱田岳、横山裕、荒川良々、妻夫木聡、鈴木福、石原さとみ、鈴鹿央士

歴史発掘度★★★★★

満足度★★★★☆


ヘレディタリー 継承

2019年11月25日 | 映画(は行)

この家が継承したもの

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非常に不気味で、ショッキングなホラー作品。

 

祖母エレンが亡くなったグラハム家。
エレンの娘アニー(トニ・コレット)とその夫(ガブリエル・バーン)、
夫婦の息子ピーター(アレックス・ウルフ)、娘チャーリー(ミリー・シャピロ)が暮らしています。
アニーはこれまでどうしても母を好きになることができず、
母が亡くなってもそれほど悲しみを感じられないのです。
と言うのも、母は精神を病んでいる上に最後には認知症気味でもあり、
親しみを感じる存在では無かった。
そしてまた、アニーの父親と兄も精神を病んだ末に、先に亡くなっているのです。
アニーはこの血筋を恐怖し憎んでいました。
そして、ピーターが妹を伴ってパーティーに出かけた夜、
とんでもない事故が起こり・・・。
次第にきしみ、ひび割れていく家族・・・。

 

ヘレディタリー(hereditary)というのは遺伝性のとか先祖代々の、と言う意味なんですね。
したがって表面的にはこの、グラハム家の狂った血統を指す訳なのですが、
実はそれよりももっと強大で恐ろしいものをも継承していると言うことになります。

母がまだ正気のあるうちに書き残したと思われるメモには
「すべて言わなかったことを許して。私を憎まないで」とあります。
アニーが知らず継承してしまったものとは・・・!

 

何らかの因果関係を説明できるものって、そう怖くはないのです。
例えば誰かの恨みのためにこんなことが起こった、とか。
まあ現実的かどうかは別としますが。
けれども、何でこんなことが起こるのか、
どうにも理屈が立てられない、ストーリーでつなぐことができない、
そういう理解不能のことこそが怖い。
ざわざわとした恐怖が立ちこめるばかりです・・・。
実際かなりショッキングで目を背けたくなるシーンも・・・。

  

冒頭のシーンにも驚かされます。
アニーはドールハウスというかミニチュアのハウスを作ることを仕事としています。
そのミニチュアハウスの一室にぐーっとカメラが寄っていって、
そこでは誰かがベッドに横たわっていて、
部屋のドアが開いて、男が入ってくる。
ミニチュアの部屋のはずだったものが、いきなり現実と地続きになるということに驚かされます。
つまりそんな風に、何者かがこの家の出来事をじーっと俯瞰している
ということかもしれません。

 

ヘレディタリー 継承 [DVD]
トニ・コレット,ガブリエル・バーン,アレックス・ウォルフ,ミリー・シャピロ
TCエンタテインメント

WOWOW視聴にて>

「ヘレディタリー 継承」

2018/アメリカ/127

監督:アリ・アスター

出演:トニ・コレット、アレックス・ウルフ、ミリー・シャピロ、ガブリエル・バーン

 

ホラー度★★★★★

満足度★★★★☆


「最悪の将軍」朝井まかて

2019年11月24日 | 本(その他)

本当にダメな殿様?

最悪の将軍 (集英社文庫)
朝井 まかて
集英社

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生類憐みの令によって「犬公方」の悪名が今に語り継がれる五代将軍・徳川綱吉。
その真の人間像、将軍夫妻の覚悟と煩悶に迫る。
民を「政の本」とし、泰平の世を実現せんと改革を断行。
抵抗勢力を一掃、生きとし生けるものの命を尊重せよと天下に号令するも、
諸藩の紛争に赤穂浪士の討ち入り、大地震と困難が押し寄せ、
そして富士山が噴火―。
歴史上の人物を鮮烈に描いた、瞠目の歴史長編小説。

* * * * * * * * * * * * 

五代将軍・徳川綱吉。
まず思い浮かべるのは「生類憐れみの令」で、人よりも犬を大事にする悪法を作ったダメな殿様・・・
と言うのが多くの人の印象だと思います。
しかし、最近綱吉は再評価されているといいます。
本作もその流れに沿った作品で、主に綱吉の正妻・信子の視点から描かれています。


綱吉が推し進めた文治政治は、戦国の殺伐とした気風を排除して徳を重んずると言うもの。
戦国の世は遠くなり平和な世となったのに、
いつまでも戦闘能力を磨いていてもしょうがないではないか・・・と言うわけですね。
生類憐れみの令というのも、単純に人の命と同じく他の生き物の命も大事にするように・・・
という話であるわけなのですが、
下っ端役人の無理解か忖度か、はたまた上へのおべっかか、
少しでも犬を粗末に扱えば罰するというような過剰反応をしたために、
庶民には迷惑な法になってしまった・・・。


それでも、大老・堀田正俊がいた頃はすべてうまく取り仕切っていたようなのですが、
彼の死で、綱吉は有能な参謀を失ったのかもしれません。

綱吉が将軍職にあったのは1680年~1709年。
この間、大地震や大火、飢饉、富士山の噴火!
そして、赤穂浪士の討ち入り事件もあったりして、実に大変な期間だったのです。
また、綱吉の実子が病で亡くなったりしています。
なんとも人の命のはかないこと。
こうした中で生き抜くということの貴重さも垣間見えます。

綱吉の今際の言葉を「我に邪(よこしま)無し」として、
最悪の将軍などささやかれながらも自分の理想を信じ続けた生涯を
見事に浮かび上がらせました。

ただ、物語としてはせっかく妻・信子の視点で語られながら、
いかにもつつましく夫を支えるよき妻、と言うのがちょっと物足りなかった・・・

 

「最悪の将軍」朝井まかて 集英社文庫

満足度★★★.5

 

 

 


グレタ GRETA

2019年11月23日 | 映画(か行)

グレートマザー

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ニューヨーク、高級レストランでウェイトレスとして働くフランシス(クロエ・グレース・モレッツ)。
帰宅途中、地下鉄で置き忘れのバッグを見つけます。
地下鉄の事務所はもう閉まっていたので、
バッグ内のIDカードを頼りに直接バッグを届けに行きます。

バッグの持ち主は都会の片隅でひっそりと暮らす未亡人・グレタ(イザベル・ユペール)。
フランシスはグレタに今は亡き母への愛情を重ね合わせ、
次第に親密な付き合いを始めるようになります。
ところが、グレタのフランシスへの行動は次第にエスカレートして行き、
ストーカーじみてくるのです。

 

クロエ・グレース・モレッツとイザベル・ユペール。
米仏の有力女優の起用でどんなドラマが始まるのかと思えば、
なんともぞっとさせられるホラー作品でした。

 

若い女性につきまとうのが男性なら、まあありがちなストーリー。
でもここでは中年女性が若い女性につきまとうのです。
男女間の執着ではなくて、もっと根源的な何かがそこにはあり、
私にはとても興味深く感じられました。

 

グレタにはかつて娘がいたのですが、先に亡くなっています。
しかし、その娘に対する愛情が常軌を逸したものであったことがわかってきます。
愛情と言うよりも支配なんですね。
つまりグレタは“グレートマザー”なのです。
母性は人をやさしく包み込みますが、それが過ぎればがんじがらめにして支配する。
絡め取られてしまうフランシスが哀れです。

 

しかしまた、彼女を救う人物と手段は観客からは隠されており、
最後に真相が現れるところがまたステキ!

 

イザベル・ユペール、実に存在感のある方ですね。
さすがです。

 

<シアターキノにて>

「グレタ GRETA」

2018/アメリカ/98

監督:ニール・ジョーダン

出演:イザベル・ユペール、クロエ・グレース・モレッツ、マイカ・モンロー、コリレム・フィオール

 

恐怖度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


ハード・コア

2019年11月22日 | 映画(は行)

予測不能、男たちの絆のメルヘン

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純粋で不器用、世間になじめない右近(山田孝之)は、
群馬の山奥で怪しい活動家の埋蔵金堀を手伝って日銭を稼いで暮らしています。
同僚の牛山(荒川良々)だけが心を許せる相手。

一方、右近の弟・左近(佐藤健)は、エリート商社マン。
生きにくい世をうまく立ち回って生きています。

さて、牛山が自身の暮らす廃工場でポンコツのロボットを見つけました。
外見はいかにもチープですが、左近の調べによると現代科学すら凌駕する高性能ロボットであるといいます。

コスプレのふりをしてロボットをも埋蔵金掘りの仲間に加え、
右近と牛山、ロボットは不思議な友情でつながっていきますが・・・。

 

何の予備知識も持たずに本作を見始めた私、単にさえない男たちの物語・・・?
と思ってみていたら、いきなりロボットが登場したので驚きました。
SFと言うよりもメルヘンですね。

 

いかにも浮世離れした右近と牛山に引き換え、超現実的な左近は、
このロボットならきちんとしたオーダーをすれば実行するとにらみ、
「金」を見せてこれを探すようにと言うのです。

この洞窟に埋蔵金があるというのは嘘ではなかった。
なんと、ロボットは見つけてしまうのですよ、徳川の埋蔵金を・・・。
では欲に目がくらんだ彼らが仲間割れするのかと思えばまた、これがそうではない。

うーん、実に予想を裏切ってくれる。
面白い。
男たちの絆を描くメルヘン・・・?

本作、コミックが原作なんですね。
なるほど。
ユニークで、楽しめました。

 

ハード・コア [DVD]
山田孝之,佐藤 健,荒川良々,石橋けい,首くくり栲象
Happinet

WOWOW視聴にて>

「ハード・コア」

2018/日本/124

監督:山下敦弘

原作:狩撫麻礼・いましろたかし

プロデュース:山田孝之

出演:山田孝之、佐藤健、荒川良々、石橋けい

メルヘン度★★★★☆

予測不能度★★★★★

満足度★★★★☆

 


「なんでわざわざ中年体育」角田光代

2019年11月20日 | 本(エッセイ)

アクティブな作家!

なんでわざわざ中年体育 (文春文庫)
角田 光代
文藝春秋

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走ることも、汗をかくことも嫌い。
嫌いだと自覚しているからこそ続けられることもある。
インドア作家が43歳でフルマラソンに出場。
ボルダリングから登山、ワイン飲みマラソンまで闇雲に挑戦した結果はいかに?
志の低いユルい楽しみ方は中年の特権ではなかろうか。
笑い転げながら読んでいると不意に感動が襲う爽快エッセイ。

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角田光代さんは、自身もボクシングに通い、
ついにボクシングがテーマの作品をも書き上げたことは知っていましたが、
本作を読んでさらに驚かされました。


定期的に走ることは習慣にしているようなのですが、
フルマラソン、そして山を駆け回るトレイルランまで、
ご本人は決して好きではないなどとおっしゃっていますが、
いやいや、やっぱり結局好きなのでしょう。
そうでなければこのように何度も行ったりはできません。

 

島をあげての応援態勢のように見受けられる「那覇マラソン」は楽しそうですね。
これには毎年参加されているようです。
見物だけでも一度行ってみたいなあ・・・。

 

でも、ひどくつらくて、もう嫌だと思いつつ、
ゴールしたあとの爽快感や達成感、それがいいんだよなあ・・・というのはちょっとわかります。
私自身はそこまで厳しい運動はあまり体験がありませんが。

著作の仕事は家にこもって座りっぱなしということでありましょうから、
こうして時にはアウトドアで思い切り体を酷使する
という真逆のことがいいのかもしれませんね。

「中年体育」と言ってはいますが、こういうことに年齢はあまり関係なさそうです。
あと20年したらきっと「老年体育」の本を書くのではないかな? 
楽しみにしています!

 

「なんでわざわざ中年体育」角田光代 文春文庫

満足度★★★★☆


永遠の門  ゴッホの見た未来

2019年11月19日 | 映画(あ行)

孤独の縁で絵に没頭したゴッホ

 

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画家としてパリで全く評価されないゴッホ(ウィレム・デフォー)。
出会ったばかりの画家・ゴーギャン(オスカー・アイザック)の「南へ行け」という助言に従い
南仏のアルルへ行きます。
やがて、ゴーギャンもアルルを訪れ、共同生活をしながら創作活動にのめり込みます。
しかしそんな日々も永くは続かず・・・。

 

不遇の画家ゴッホについてはこれまでも映画やドキュメンタリーになっていますが、
本作、最もゴッホの画家としての本質に迫るものなのではないかと思います。

 

まずは一人でアルルを訪れたゴッホ。
しかし季節は冬。
南仏とはいいながら風が吹きすさび安宿の窓をきしませます。
寒さに凍えながら脱いだブーツを床に置いて、早速キャンバスに描き始めるゴッホ。
しかしその絵が素晴らしくできあがっていく様を私たちは見ることになります。
下絵もなし。
いかにも無造作のようでありながら、確実に。

 

さてしかし、やがて春が来ます。
ゴッホは大地に仰向けに寝転がり、その大自然の息吹を体中に感じます。
こうして彼の絵が、実に彼の心に感じたままを映し出しているのだと言うことが
私たちには実感されていくのです。
決して写実的ではない、けれども実物よりも存在感を増した姿が、そこにある。

 

こうしてキャンバスに向かうゴッホはなんとも魅力的なのですが、
しかし人々の社会ではとてつもなく不器用。
彼の絵は全く世間では受け入れられず、彼の生活はすべて弟のテオ(ルパート・フレンド)が支えているのです。
何の仕事をするでもなく、ただひたすら絵を描くだけの兄を。
仕事を探せとは決して言わないこの弟がすごいですね。
でもつまり、テオは兄のことをよくわかってもいたのでしょう。
いささか心に問題を持つ兄のことを。
愛想が悪く自分から村人と友好な関係を持とうともしない。
ゴッホのエネルギーはそんな方向には働かないのです。
絵を描いているときだけが兄の平穏なときだと言うことを
テオは十分にわかっていた。

 

アルルの村人たちは、ゴッホを変な絵を描く頭のおかしい男としか見ていません。
そんな中でゴーギャンが去ってしまえば、ゴッホはますます孤立し、孤独の縁に立たされてしまう。
そうしてまた、ゴッホはますます自分の絵の中に没頭していくわけです。

 

最後まで自分らしく生きた孤高の画家を、斬新に描き出した作品。

 

<シネマフロンティアにて>

「永遠の門 ゴッホの見た未来」

2018/イギリス・フランス・アメリカ/111

監督:ジュリアン・シュナーベル

出演:ウィレム・デフォー、ルパート・フレンド、オスカー・アイザック、マッツ・ミケルセン、マチュー・アマルリック

 

生きにくさ★★★★★

満足度★★★★☆


名探偵ピカチュウ

2019年11月18日 | 映画(ま行)

ピカチュウの魅力と威力

 

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日本発「ポケットモンスター」をハリウッドで実写映画化したもの。
何よりもキュートなピカチュウやその他様々なモンスターたちが3Dで登場するのが見物です。


なーんて言うものの、実は私はポケモンのゲームをしたこともなく、
ピカチュウはかわいいとは思うけれどもさほどの興味はありません。

しかし! 
本作、日本語吹き替え版のピカチュウの声が西島秀俊さんなんですよ。
それで本作の公開時に見たいのはやまやまだったのですが、
どうにも、オバサン一人でこの映画を見るというのはあまりにも敷居が高く断念。
でも結局のところ、今回これを見て、
やはりわざわざ劇場で見なくて正解であった、と思う次第。

・・・前置きが長くなってしまいました。

 

子供の頃ポケモンが大好きだった青年ティム(ジャスティス・スミス)。
しかし、父ハリーがポケモンがらみの探偵の仕事で家を離れてしまったため、
ポケモンを遠ざけ、父とも疎遠になってしまっていました。

そんなあるとき、父が事故で亡くなったとの知らせが入ります。
ティムは父の暮らしていたライムシティへ向かいます。
そこは、人間とポケモンが共存する画期的な街。
そしてティムは自分にしか聞くことのできない人間の言葉を話す「名探偵ピカチュウ」と出会います。
かつてハリーのパートナーだったというピカチュウは、
ハリーはまだ生きていると確信しており、ティムとともにその行方を探すことに・・・。

 

と言うことで、確かに面白くなくはない。
でも、ポケモン自体にはじめからさほどの思い入れのないものとしては、
まあ、こんなものかな、と言う程度のものでした。

本作の英語バージョンでは、ピカチュウの声はライアン・レイノルズ。
いずれにしてもピカチュウの声がなぜあえて男性の大人の声なのか、
と言うことには、しっかりとした理由があった訳なのです。
なるほど~。

 

ティムの声は竹内涼真さんで、また竹内涼真さんはポケモントレーナー役でちょい出演。
そして渡辺謙さんがヨシダ警部補役で登場。

さすが発祥地日本をリスペクトしていただいてますね。

 

眉間にしわを寄せて悩むピカチュウ。これはかわいかった・・・。

 

名探偵ピカチュウ 通常版 Blu-ray&DVDセット
ライアン・レイノルズ,ジャスティス・スミス,キャスリン・ニュートン,渡辺謙,ビル・ナイ
東宝

J:COMオンデマンドにて>

「名探偵ピカチュウ」

2019/アメリカ/97

出演:ジャスティス・スミス、キャスリン・ニュートン、ビル・ナイ、渡辺謙

 

ポケモン祭り度★★★★☆

満足度★★★☆☆


「あなたの本当の人生は」大島真寿美

2019年11月17日 | 本(その他)

書くことに囚われた女たち

あなたの本当の人生は (文春文庫)
大島 真寿美
文藝春秋

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「書くこと」に囚われた三人の女性たちの〈本当の運命〉は――

新人作家の國崎真実は、担当編集者・鏡味のすすめで、
敬愛するファンタジー作家・森和木ホリーに弟子入り――という名の住み込みお手伝いとなる。
先生の風変わりな屋敷では、秘書の宇城圭子が日常を取り仕切りっていた。

書けなくなった老作家、その代わりに書く秘書、ギャンブル狂の編集者、老作家の別れた夫……
真実の登場で、それぞれの時間が進み始め、女三人の生活は思わぬ方向へ。

その先に〈本当の運命〉は待ち受けるのか?

 * * * * * * * * * * * *

 

「渦 妹背山婦女庭訓 玉結び愛」で第161回直木賞を受賞した大島真寿美さんの作品。
私には初めての作家さんです。

本作は少し不思議な味わいのある物語。
新人作家とは言いながらさっぱり芽が出ない國崎真実が
担当編集者のすすめで敬愛するファンタジー作家・森和木ホリーに弟子入りします。
ところが弟子と言いながら住み込みのお手伝いのような感じ。
そしてそこではホリー先生の秘書・
宇城圭子がすべてを取り仕切っています。
結局真実はあまりすることがなく、のらりくらりと猫のような生活を始めるのですが、
いつしか、肉屋のバイトで鍛えたコロッケ作りが仕事のようになっていく・・・。

 

宇城は以前ホリーに「あなたの本当の人生はここにはない」と言われ、
市民会館の事務員をやめてホリーの元へ来たのでした。
それ以降彼女は「本当の人生」という言葉に縛られている。

本当の人生って何? 
ホリーに仕えることが自分の本当の人生なのか?
それとも何か他に・・・?

それだから彼女は、他の人にもつい聞いてしまうのです。
「あなたの本当の人生は・・・」

 

そんな時を過ごしながら、この3人はそれぞれ、何かを書き始めます。
三者三様の理由で何かが湧き出てくるように・・・。
彼女らの本当の人生は「書く」ことにつながっていたようです。
けれどもそれはすぐに作家の成功へとつながっているわけではない。
でもいつか誰かにそれは認められる日が来るだろうと思えるのです。
「書く」と言うことの著者の思いがにじみ出る作品だと思いました。
と言うことで本作は、2014年直木賞候補作でもあります。

「渦」は未読ですが、本作もステキな作品です。

 

図書館蔵書にて(単行本)

「あなたの本当の人生は」大島真寿美 文藝春秋

満足度★★★★.5


レディ・マエストロ

2019年11月16日 | 映画(ら行)

女性らしさでなく自分らしさ

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女性指揮者のパイオニア、アントニア・ブリコの半生を描きます。

1926年、ニューヨーク。

オランダからの移民、ウィリー(クリスタン・デ・ブラーン)は、
女性は指揮者になれないと言われながらも、指揮者になる夢を捨てていません。
ナイトクラブでピアノを弾いて稼いだお金を学資として、音楽学校へ通い始めます。
ところが、ある事件により退学を余儀なくされてしまいます。
それでも夢を諦められない彼女は、引き留める恋人をおいて、ベルリンへ。
そこでようやく女性であるウィリーの情熱を汲み、指揮を教えてくれる師と出会います。

 

本作、女性が未知の分野に進出していく苦労を描いているのはもちろんですが、
他にも様々な切り口が顔をのぞかせています。
まずは、彼女はオランダ移民の夫婦の一人娘としてそれまで暮らして来たのですが、
実はこの親は実の親ではなかった。
彼女が私生児だった赤子の時に、実の母親から買われたと言うことがわかります。

だれからも指揮者になんかなれないと言われ、
これまで名乗っていたウィリーという名も本当の名前ではなかった。
・・・と言うことで、ここで相当のアイデンティティの崩壊があるわけです。
けれど、自分の道を着実に歩み始め、本当の名前、アントニア・ブリコを名乗りはじめることで、
彼女は自分らしさを取り戻していくのです。
女性として・・・と言うよりも人間としての再生の物語といえるでしょう。

 

そしてまた、もう一つ。
影ながらアントニアを支える人物のLGBTの問題。
一体性差とは何なんだろう。そして男女差別とは。
根本的なそんな問題も底辺にあることを匂わせます。

 

さて、指揮者のみにかかわらず、男性だけが占めてきた様々な分野へ女性が入っていくときの軋轢、
それはこれまでも他の多くの作品でも見てきました。

男性だけの優越感。
女性蔑視。差別。やっかみ。嫌がらせ。
正面からの女性のシャットアウト。
ありとあらゆる手段で、男たちは女を排除しようとします。
けれどそれは男だけでなく女性の中にもある感情だからやっかいですね。
男社会が「正しい」としか思えなくなっている心の堅さ・・・。
せめて今はそれはないと思いたいですが、どうでしょう・・・?

 

アントニアと恋仲になるのは、歴然と身分差のある富豪の御曹司・フランク(ベンジャミン・ウェインライト)。
はじめは互いにすごく嫌なヤツ。
けれども、次第に心が接近していって・・・。
しかしフランクのプロポーズは「結婚して、子供がほしい。」
全く、アントニアをわかっていません。
結婚よりも自分の夢を貫くアントニアの選択は必然であります。

アントニアの強い自己が輝く作品。

 

<シアターキノにて>

「レディ・マエストロ」

2018/オランダ/139

監督:マリア・ペーテルス

出演:クリスタン・デ・ブラーン、ベンジャミン・ウェインライト、スコット・ターナー・スコフィールド、アネット・マレアブ、レイモンド・ティリ

 

女性進出の困難度★★★★★

満足度★★★★☆


アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング

2019年11月14日 | 映画(あ行)

自信と笑顔が大事

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ぽっちゃりの容姿にコンプレックスがあり、何事にも積極的になれないレネー(エイミー・シューマー)。
自分を変えようと思い通い始めたジムでハプニングがあり、頭を打って気を失ってしまいます。
そして、目覚めると自分が絶世の美女になっていることに気がつくのです。
・・・いえ、実際は何も変わっていないのに、そのようにレネーは思い込んでしまった。

急に自信を取り戻したレネーの態度に周りの人たちは戸惑うのですが、
持ち前の明るさや賢さと、自信によるポジティブ思考のおかげで
仕事も恋も絶好調となりますが・・・。

 

私、本作は単なる勘違い女のドタバタコメディかと思っていたのですが、
それだけではありませんでした。
見た目は何一つ変わっていないというのに、レネーが自分自身に「自信」を持つ。
そのことだけで、すべてが変わっていくのです。
確かに、どんな人でもイキイキと笑顔でいれば魅力的ですよね。
そうした心のありようの不思議を、ステキなストーリーにして見せてくれました。

そして美人だからすべてOKというわけでもないのです。
本作中にも自尊心の低いモデル女性や、
地位も名誉もありながらバカっぽい声に悩んでいる美女が登場します。
美し過ぎるが故の不幸もあるわけなんだなあ・・・
そこのところは私もピンと来ませんけど・・・(^_^;)
自分らしさのままで輝くのが一番ですね!

そして、レネーが庶民だからこそ提案できた化粧品のアピール方法というのが、
サイドストーリーとしてもステキでした。

 

アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング [DVD]
エイミー・シューマー,ミシェル・ウィリアムズ,ロリー・スコヴェル,エミリー・ラタコウスキー,エイディ・ブライアント
バップ

WOWOW視聴にて>

「アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング」

2018年/アメリカ/110

監督:アビー・コーン、マーク・シルバースタイン

出演:エイミー・シューマー、ミシェル・ウィリアムズ、ロリー・スコベル、エミリー・タラコウスキー

 

思い込み度★★★★★

満足度★★★★☆

 


「青空に飛ぶ」 鴻上尚史

2019年11月13日 | 本(その他)

自己の尊厳を守ること

青空に飛ぶ (講談社文庫)
鴻上 尚史
講談社

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青空の下、中学二年の萩原友人は、屋上から飛ぶことを考えていた。
死んでしまえば、いじめは終わる―。
そんな時出会ったのは、九回出撃し生きて帰ってきた元特攻隊員の佐々木友次。
彼はなぜ生き抜くことができたのか。
友人は一冊の本を手に取る。
時代を超えて「生きる」とは何かを問う、心揺さぶる感動の一作。

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中学2年の友人が級友からの陰湿ないじめにあい、死をすらも考えながら、
戦時中の特攻隊の話を読み、「生きる」気持ちをよみがえらせていく物語です。 

特攻隊員の話は多く本や映画・ドラマなどで取り上げられていますが、
本作に登場するのは、陸軍航空隊、万朶(ばんだ)隊に所属し、
9回もの出撃命令を受けながらも生還したという実在の人物、佐々木友次。

私は、旧日本軍の飛行部隊は海軍所属だと思っていたのですが、陸軍にもあったのですね。
よくドラマなどに登場するのはほとんどが海軍の神風特攻隊のほう。
陸海軍相互には微妙な反目があって、そのため「特攻」にもライバル意識的なものがあったのでは、
と想像に難くありません。
それにしても飛行機に爆弾を搭載しながらも、投下できないようにして、
体当たりでしか爆発しない仕組みになっていたというのには、驚きました。

 

そんな中で、「必ず死ぬように」という圧力にもめげず、
その都度生還してきた佐々木氏のメンタルの強さは、
確かに友人でなくてもその秘密を知りたくなります。

それについては、著者が老齢のご本人に直接インタビューしたといいます。
今でこそ自分自身の意見や考えは大事だと言いますが、
その実はちっとも変わらない日本の社会。
そんな中だからこそ、友人がいじめをうけているのです。
けれども、すべてが「同じ」であることを要求された戦時中に、
こんなにも自己の考えを貫き通した人物がいた、というのは驚嘆に値します。
・・・すさまじい話でした。

 

本作はいじめを受けている友人と、特攻隊員佐々木の話が交互に語られています。
それがどちらもあまりにも理不尽で過酷。
それですっかり私の神経は高ぶってしまい、寝付けない夜が何日か続いてしまいました。

 

それにしても一つ言いたいのは、
いじめとは戦おうとしないで、さっさと逃げ出すべきだと、常々私は思っています・・・。

それこそ戦時中の特攻隊じゃないのだから、
外に広い世界がどーんと広がっているはずです。

 

図書館蔵書にて

「青空に飛ぶ」 鴻上尚史 講談社(単行本)

満足度★★★☆☆

感慨においては★★★★★ですが、ここまでいやな意味で心を揺さぶられるのは
実はあまり好きではありません・・・。