映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

金の国 水の国

2024年02月28日 | 映画(か行)

互いの国の命運を背負う、嫁と婿

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2017年「この漫画がスゴイ!」第一位となった同名コミックのアニメ映画化。

 

商業国家で、水以外は何でも手に入る金の国。
豊かな水と緑に恵まれているが、貧しい水の国。
隣国同士ですが、長年いがみ合い戦争を繰り返しています。
そのためある時、互いに嫁と婿を贈り合うという友好策が取り決められ、
続けられていましたが・・・。

さてそんな中、金の国のおっとり王女サーラと、水の国のお調子もの建築士ナランバヤルが
不思議な縁で出会い、偽りの夫婦を演じなければならなくなります。 
けれど二人は気づかぬうちに互いに惹かれ合う・・・。

この度サーラの元に贈られた婿は犬で、
ナランバヤルの元に贈られた嫁が猫だったのです!
双方の王はよほど相手国が好きではないらしい・・・。

サーラもナランバヤルも聡明なので、このことで騒ぎ立てればきっと戦争になってしまうと思い、
秘密にするのです。
でも周囲の人々に知られてしまうのも危険。
国境付近で出会った二人は、互いに贈られてきた嫁と婿のふりをすることにしたわけですね。

始めからこの二人が政略結婚させられるという設定でないところが、
なんともナイスなのです。
犬と猫が贈られてきたというところも、意表を突いていてつい笑ってしまいました。
つまりはやはり、原作がいいのです。
「この漫画がスゴイ!」1位も納得です。

そして物語は、この二人のラブストーリーだけではなく、
金の国の王家内のいざこざや、
両国の和解への道を図ろうとするストーリーもしっかり描かれていて
実に見応えのあるものになっているのです。

サーラの姉・レオポルディーネはただ意地悪な長女かと思えば、
しっかりと国の将来を憂う聡明な女性だし、
その愛人もイケメンだけが取り柄の役者かと思えば、
これもまた知的なレオポルディーネの援助者。
その元で働く工作員らしき人々もまた魅力たっぷり。

なんとも見所満載、楽しめる作品でした。
オススメです。

<Amazon prime videoにて>

「金の国 水の国」

2023年/日本/117分

監督:渡邉こと乃

原作:岩本ナオ

脚本:坪田文

出演(声):賀来賢人、浜辺美波、神谷浩史、沢城みゆき、戸田恵子

 

戦争を考える度★★★★☆

ロマンス度★★★★☆

満足度★★★★★


コンパートメント No.6

2024年02月27日 | 映画(か行)

同じ客室に乗り合わせた2人

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1990年代モスクワ。

フィンランドからの留学生ラウラは、恋人と一緒に
最北端駅ムルマンスクのペトログリフ(古代の岩面彫刻)を見に行く予定でした。
しかし恋人は仕事のためにドタキャン。
やむなく一人で出発します。

寝台列車の6号客室に乗り合わせたのは、ロシア人炭鉱労働者のリョーハ。
ラウラは彼の粗野な言動や失礼な態度にウンザリ・・・。
しかし長い旅の中で、2人は互いの不器用なやさしさや魅力に気づいていきます。

言語や習慣、文化が全く違う二人。
始めのうち反発するのは仕方のないことかも知れません。
とくにラウラはせっかくの恋人(実は女性)との旅がダメになり、
淋しくて落ち込んでいるところに
この、ロマンのかけらもなさそうな粗野な男と同室となり怒りさえ覚えます。

それでも、いやでも顔をつきあわせていなくてはならないこの環境。
次第にその人のことが見えてきますね。

結局は人と人。
わかり合い共感し会うことは、そう難しくはない。
車掌の女性も、始めはつっけんどんで冷淡なように見えたのですが、
終盤ではそっとラウラを気遣う様子も見せて良い感じになっています。

同じ列車に乗り合わせる、いわば運命共同体。
そんな中で育っていく連帯感のようなものもあるのでしょう。

ステキなロードムービーでした。

<Amazon prime videoにて>

「コンパートメント No.6」

2021年/フィンランド・ロシア・エストニア・ドイツ/107分

監督:ユホ・クオスマネン

原作;ロサ・リクソム

出演:セイディ・ハーラ、ユーリー・ボリソフ、ディナーラ・ドルカーロワ、ユリア・アウグ

 

最悪の出会い度★★★★☆

友愛度★★★☆☆

満足度★★★★☆

 


マッチング

2024年02月26日 | 映画(ま行)

二転三転する人物像

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本作、Snow Manのさっくんが狂気のストーカー役という
情報が出てから、公開の日までがすごーく長くて、
まさしく待ちわびていました。

 

ウェディングプランナーの輪子(土屋太鳳)は、恋愛に奥手で、
友人に勧められてマッチングアプリに登録します。
そしてマッチングした相手・叶夢(佐久間大介)と実際に会ってみると、
意外に暗くてちょっと不気味ですらあります。
それで、この人とはムリと思うのですが、
しかしその後叶夢はストーカーと化してまとわりつき始めます。
恐怖を感じた輪子は、取引先のマッチングアプリ運営会社のプログラマー、
影山(金子ノブアキ)に助けを求めます。

またその頃、世間ではアプリ婚した夫婦が惨殺されるという連続事件が起こっていて・・・。

さてさて叶夢は、初デートの水族館に、黒いコートになぜかゴム長靴、
そして死んだ魚のような目をして現れます。
実は彼の職業が、特種清掃・・・ということで、
つまり孤独死などで汚れた部屋の清掃をする仕事・・・で、
ゴム長は彼の仕事着であり普段着でもあるという・・・。

まあいきなり初デートでそんな仕事のことは言わないでしょうけれど、
この暗さはさすがに輪子でなくても引きますわねえ・・・。

 

しかし、この絶対に怪しい叶夢の印象が、
ストーリーの進行と共に少しずつ変わっていくのです。

まさに、本作の面白さはそこにあって、
人物像が二転三転、え?なに??なに???と思っているうちに
結末にたどり着くという、ナイスな物語なのでした。

実は輪子の父親(杉本哲太)が抱えている秘密というのが
大きな根っこになっているのです。

人の心の残酷さに震えます・・・。

 

結局、さっくんはこんな役でありつつ、そして死んだ目をしていつつも、
やっぱりカッコ良かったのです。
ラスト、お見逃しなく。

でも本作は別にSnow Manや佐久間くんのファンでなくても
十分楽しめると思いますので、オススメです。
残虐シーンも思ったほどどぎつくはないので・・・。

 

 

<シネマフロンティアにて>

「マッチング」

2024年/日本/110分

監督:内田英治

原作:内田英治

脚本:内田英治、宍戸英紀

出演:土屋太鳳、佐久間大介、金子ノブアキ、杉本哲太、片岡礼子、斉藤由貴

 

不気味度★★★★☆

人物関係入れ替わり度★★★★★

満足度★★★★☆


「可燃物」米澤穂信

2024年02月24日 | 本(ミステリ)

警部補の名捜査

 

 

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2023年ミステリーランキング3冠達成!
(「このミステリーがすごい!」第1位、「ミステリが読みたい!」第1位、
「週刊文春ミステリーベスト10」第1位)

余計なことは喋らない。
上司から疎まれる。
部下にもよい上司とは思われていない。
しかし、捜査能力は卓越している。
葛警部だけに見えている世界がある。

群馬県警を舞台にした新たなミステリーシリーズ始動。

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毎年のミステリーランキング常勝の米澤穂信さん。
私も年初に氏の受賞本を読むのが恒例になっているような気がします。

本巻「可燃物」は、ミステリ短編集。
群馬県警捜査第一課、葛警部補が推理を巡らす物語です。

 

冒頭「崖の下」は、スキー場で起きた殺人事件。
問題は凶器が見つからないこと。
状況から見て、凶器を処分することは不可能。
一体、どうやって・・・?

これが、その答えには唖然とさせられます。
そんなことがあっていいのか・・・?
でもいかにも米澤穂信さんだなあ・・・と感じるところでもあります。

 

表題作「可燃物」は、連続放火事件とおぼしき犯人の動機が問題。
これもまた、そんなことがあっていいのか・・・?
と思う解答。
いやはや、人の心は予測不能ですね・・・。

 

葛警部補は、ごく綿密な捜査を展開します。
彼は警部補なので部下をフルに活用。
時には、こんな捜査に意味があるのかと部下は思わないこともないのですが・・・。
けれど仕事熱心な彼らはきっちりと捜査し、綿密に報告を上げます。

そのような膨大なデータの中から、警部が「真実」を拾い上げる。
・・・と、おおよそそのような組み立てになっています。

名探偵のやり方とはちょっと違うけれど、これもなかなか良い感じです。
もっと続いていきそうですね。
楽しみです。

 

「可燃物」米澤穂信 文藝春秋

満足度★★★★☆


「とりどりみどり」 西條奈加

2024年02月23日 | 本(その他)

11歳少年と家族の話

 

 

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万両店の廻船問屋『飛鷹屋』の末弟・鷺之介は、齢十一にして悩みが尽きない。
かしましい三人の姉――お瀬己・お日和・お喜路の
お喋りや買い物、芝居、物見遊山に常日頃付き合わされるからだ。
遠慮なし、気遣いなし、毒舌大いにあり。
三拍子そろった三姉妹の傍にいるだけで、
身がふたまわりはすり減った心地がするうえに、
姉たちに付き合うと、なぜかいつもその先々で事件が発生し……。
そんな三人の姉に、鷺之介は振り回されてばかりいた。

ある日、母親の月命日に墓参りに出かけた鷺之介は、
墓に置き忘れられていた櫛を発見する。
その櫛は亡き母が三姉妹のためにそれぞれ一つずつ誂えたものと瓜二つだった――。

* * * * * * * * * * * *

西條奈加さんの時代小説。

江戸のかなり大手の廻船問屋の末息子、鷺之介11歳が主人公。
かしましい3人の姉が、うるさいし自分に過干渉でもあるので、
早くお嫁に出てくれまいかといつも願っています。
実は長姉は嫁に出ていたのですが、出戻ってきてしまった
というのが冒頭の話。
前途多難ですね。

ともあれ、相当裕福な家なのですが、鷺之介は貧しい暮らしのこともよくわかっていて、
自分だけがこんな良い暮らしをしていることを後ろめたく思ったりもする聡明な子です。

3人の姉もそれぞれ個性があって、この家の身の回りの様々な出来事が語られて行きますが、
次第に、この鷺之介の身の上についての話が中心になっていくあたりが、
物語として優れていますね。

彼らのお母さんはすでに亡くなっていますが、実はそのお母さんの実子は長兄のみ。
3人の娘たちはつまりこのお店の主人がよそで作った子供たち・・・。
生後この家のおかみさんが引き取って育てたので、
皆、このすでに亡きお母さんを心から慕っていたのでした。

でも、そういえば、では鷺之介の母親は・・・?
というところが語られていないのです。
つまり、そのことこそが本作のキモなのでした。

 

いい物語です。
好きです。

 

図書館蔵書にて

「とりどりみどり」 西條奈加 祥伝社

満足度★★★★☆

 


658㎞、陽子の旅

2024年02月21日 | 映画(ら行)

夢を失った陽子のロードムービー

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42歳独身の陽子(菊地凛子)。
人生をあきらめほとんど引きこもり状態で日々を過ごしています。

そんな時に、かつて夢への挑戦を反対されて20年以上疎遠になっていた父の訃報を受けます。
いとこの茂(竹原ピストル)とその家族とともに、車で東京から故郷青森まで出発します。
しかし途中、サービスエリアで行き違いがあり、陽子は置き去りにされてしまいます。

スマホは故障中。
所持金は2000円程度。
人と話すのもやっとな陽子ですが、やむなくヒッチハイクで青森を目指すことに。
道中、様々な人と出会い、様々な出来事があって、陽子は変わっていきます。

東京から青森までの距離が658㎞ということですね。
いとこの車に乗っていれば何の苦労もいらなかったのですが、
はぐれてしまって連絡の取りようがない。
疎遠だとはいえ父親の葬儀に行かないわけにもいかない。

陽子は勇気を振り絞って、サービスエリアにいる人々に
途中まででもいいので、乗せてくれるように頼みます。
始めのうちは声を出すのもやっと。
トイレで、ことばの練習をするくらいです。

何人にもことわられながらやっと乗せてくれたのは一人の女性。
彼女はなぜこんなところでヒッチハイクをしているのか、問いたい様子でしたが、
なにしろ陽子はほとんどだんまりで、会話になりません。
結局、青森にはまだほど遠い場所で、車を降りることに。

さて、陽子は亡き父の幻影とともに旅をします。
それも20年以上前の若き日の父(オダギリジョー)。
物言わぬその父は、勝手に夢を見て飛び出していった陽子を
責めているようでもあり、慰めているようでもある。
その父への反発で、故郷に帰ることもなかった陽子。
その頃の父、つまり自分が今見ている幻影の父は、
ちょうど今の自分と同じくらいの年齢だったはず・・・。
父の思いを今さらながらに感じてしまいます。
せめて、火葬されてしまう前に逢いたい・・・と、彼女は思うようになるのです。

いろいろな人に助けられ乗り継ぎ・・・、
なかには酷い人もいて、ボロボロになりながらも、
陽子は進んでいきます。

結局、彼女を前へ進めたのは、良くも悪くも人々との出会い。
一人ではできないことも、人の助けを借りればなんとかなる。
そして助けを受け入れることが、自分を強くする・・・。

終盤、陽子は問われもしないのに自分の事情を運転者に打ち明けるようになっています。
感動します。

亡きお父さんがこんな陽子のことを見守ってくれたのかも知れませんね。

 

「658㎞、陽子の旅」

2022年/日本/113分

監督:熊切和嘉

原案:室井孝介

出演:菊地凛子、竹原ピストル、黒沢あすか、浜野謙太、仁村紗和、オダギリジョー

 

コミュ障度★★★★☆

成長度★★★★☆

満足度★★★.5


孤児院

2024年02月20日 | 映画(か行)

孤児は金儲けの道具・・・?

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1900年初頭。
孤児院で1人の少年・ガストンが死亡します。
院長への反抗のため倉庫に1人隔離された上、肺炎をこじらせ、
なんの治療もされず、放置されたまま亡くなったのです。

ガストンはシングルマザーの母親が住む家を探すまでほんの数週間だけ、
ということでここに預けられていたのです。

そして孤児院の院長は、国から孤児を受け入れ、補助金を着服していたのでした。
しかし孤児には教育も受けさせず、近所の農園で働かせ、
粗末な衣服を着せ、ろくな食べ物を与えない・・・。
反抗すれば酷い体罰。

全く言語道断な場所。
少年たちは、他に行く当てもなく、反抗すれば体罰を受けることになるので
ただ耐えていたのですが、ガストンは視察に来た役人に思い切って真実を告げようとします。
でも結局そのことが彼の命取りとなってしまったのでした・・・。

院長らは、ガストンを保健室に入れたけれど、
手の施しようがなく亡くなったと事実を隠蔽します。
それが嘘だと知ったガストンの母親は若手検事ガイドンの力を得て、
裁判へ持ち込もうとしますが・・・。

 

 

私、見終わってからこれが実話に基づいていると知って驚いてしまいました。
いいえ、でもいかにもありそうな話ではあります。

とにかく権力者、金持ちの言動を人々はまず信じて、
他の取るに足らない人々のことばは、信じようとしない。
もし、うすうす感じたとしても、たいしたことはないと目をつぶってしまう。

現在わたし達の身の回りで起きている多くのことも、これに近いかも知れません。
性加害のこと。
政治家の裏金のこと。
児童虐待のこと・・・。

この真実を表に引き出すための労力がまた、ハンパなものではないのです。
権力者はあらゆる手を使って、告発者を潰そうとします。
脅したり、他から圧力をかけたり、妨害行為をしたり・・・。
自らは金に任せて有能な弁護士を雇ったりもする・・・。

正しく物事を見極める眼と耳と心がほしいですね。

 

<Amazonプライムビデオにて>

「孤児院」
2018年/フランス/96分

監督:フィリップ・ニアン

出演:ジュリー・フェリエ、ブルーノ・デブラッド、テオ・フリル、エミリー・ドゥ・プレザック

 

児童虐待度★★★★★

悪辣度★★★★☆

満足度★★★.5

 


白鍵と黒鍵の間に

2024年02月19日 | 映画(は行)

過去、現在、そして未来は?

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富永昌敬監督がミュージシャン南博の回想録
「白鍵と国権の間に ジャズピアニスト・エレジー銀座編」を
大胆にアレンジし映画化した作品。

昭和末期。

銀座のキャバレーでピアノを弾くジャズピアニスト志望の博(池松壮亮)。
謎の男(森田剛)からのリクエストで“あの曲”「ゴッド・ファーザー愛のテーマ」を演奏しましたが、
しかし“あの曲”をリクエストできるのは、銀座を牛耳るヤクザの親分・熊野会長だけで、
演奏を許されているのも、会長のお気に入りピアニスト南(池松壮亮)だけなのです。

・・・ということで、池松壮亮の一人二役?と思われるのですが、
いやいや、見ていくと本作にはちょっとねじれた仕掛けがある。

そもそもこのピアノ弾きは南博という名前で、元々ひとりの男。
彼は、敬愛する師・宅見(佐野史郎)が、ジャズピアノをやりたければキャバレーへ行け、
というのを真に受けて、キャバレーのピアノ弾きになったのです。

そんな彼は、キャバレーの次にはクラブでピアノを弾くようになる。

これはネタばらしなのだろうかと悩む所ではありますが、
つまり同時間軸上に3年の時間のずれがある同一人物を並べて描写している・・・と。

自分にとって大いにプラスになるはずの、クラブでの演奏。
しかし実態は誰もピアノなど聞いておらず、ジャズがわかるでもない。
単なるバックグラウンドミュージックになっていることにむなしさを覚え、
しかしそれすらももう感じられなくなってしまっている・・・。

つまりは、未来を夢見る博と、夢を見失った南。
南博の過去と現在を表わしているわけです。

では、この男の未来は・・・?

というところが、気になる作品ではありますね。

<WOWOW視聴にて>

「白鍵と黒鍵の間に」

2023年/日本/94分

監督:富永昌敬

原作:南博

出演:池松壮亮、仲里依紗、森田剛、クリスタル・ケイ、佐野史郎、高橋和也

 

ユニーク度★★★★☆

ジャズ愛度★★★★☆

満足度★★★.5


シルバー 夢の扉

2024年02月17日 | 映画(さ行)

夢の世界へ入り込む

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ロンドンへ引っ越してきたばかりの女子高校生・リヴ。
夢の中で、ミステリアスな雰囲気を持つ4人の男子と出会います。
そして、転校先の学校で実在の彼らと遭遇。
彼らは皆、夢の世界に入り込むことができるドリーマーで、
リヴもまたその力があると言います。
そして、ハロウィンを目前に控えたとある夜、
どんな夢も現実となるという儀式を5人は行います。

しかし、実はこのことには落とし穴がある。
夢は叶うけれど、しかし・・・!!

 

夢と現実の世界を行き来する、不思議な雰囲気を漂わせる本作。
魅力的です。

誰か、自分以外の人の持ち物を身につけて眠ると、
その人の夢の中に入り込むことができるという設定も面白いですね。

 

ミステリアスな雰囲気が楽しめる作品。

 

<Amazon prime videoにて>

(Amazon オリジナル)

「シルバー 夢の扉」

2023年/ドイツ/92分

監督:ヘレナ・ハフナゲル

出演:ジャナ・マッキノン、リス・マニオン、シャニール・クラー

 

ミステリアス度★★★★☆

満足度★★★☆☆


「あわのまにまに」吉川トリコ

2024年02月16日 | 本(その他)

時を遡り、ルーツへ迫る

 

 

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どれだけの秘密が、この家族には眠っているんだろう――
「好きな人とずっといっしょにいるために」、あのとき、あの人は何をした?
2029年から1979年まで10年刻みでさかのぼりながら明かされる、
ある家族たちをとりまく真実。
生き方、愛、家族をめぐる、「ふつう」が揺らぐ逆クロニクル・サスペンス。

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とある家族の歴史が刻まれる本作。
2029年から1979年まで十年刻みで時を遡りつつ描く、
6つの短編からなっています。


冒頭2029年(!)では、おばあちゃんの死に対面した孫たちの視点から語られています。
祖母・紺の家は孫たちにはあまりなじみがなかったけれど、
天に向かって螺旋を描くようにねじくれたピンクの変な家!! 
祖母の死後、娘二人とその夫、孫たちが集まって片付けを始めます。

10年刻みで時を遡りつつ、娘たち、その夫の物語が語られ、
そして祖母・紺の話へと繋がっていく。

ところが、そんな何気なさの根底に、
大きな秘密が隠されていたことに驚かされることになります。
家族としてはゆがんでいる。
けれども、日々の生活は続いていき、家族は平和に維持されていきます。
それは欺瞞ではなくて、そんなあり方もアリなのかなという風に思えてきます。

夫婦のあり方、同性愛、友情、行き場のない恋心・・・

あらゆる側面を持ち合わせつつ、ここまでたどり着いた家族の歴史。
でも最終局面の2029年は、
ちょっとは昔よりも住みやすい時代なのかもしれませんね。

本作、順当に1979年から描けば凡庸な作品になってしまうところを、
逆にしたところが全くもってナイス!!です。

まるで最後に答え合わせをしているような感じでもあります。

 

<図書館蔵書にて>

「あわのまにまに」吉川トリコ 角川書店

満足度★★★★★

 


CLOSE クロース

2024年02月14日 | 映画(か行)

心とは裏腹な態度で

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BLもの・・・?と思ってみていくと、
思いのほか切なく悲しい、涙・涙の物語・・・。

13歳のレオとレミは幼馴染みで、学校でも放課後も一緒に時間を過ごす大親友。
ある時、2人の親密すぎる間柄をクラスメイトにからかわれてしまいます。
そのことが非常に気になってしまい、
レオはレミに素っ気ない態度を取るようになります。
そして急にアイスホッケーのチームに入ったり、
別の友人たちと過ごすことも増えてきます。
急におきざりにされたような気になってしまうレミ。

気まずい雰囲気の中、2人は些細なことで大げんかとなってしまい・・・。

幼い頃から昼も夜も共に過ごす、レオとレミはほとんど一心同体なんですね。
ところがクラスメイトに2人は付き合っているの?と聞かれたことで、
レオは激しく動揺してしまうのです。
その場では強く否定。
でも実は自分の本当の気持ちを言い当てられたような気がしたのかも知れません。
けれどもそんな気持ちを、周囲の人々はもちろんですが、レミにも知られたくはない。
だからとにかくレミから遠ざかって、
そんな気持ちをなかったことにしてしまいたかったのでしょう。

でも、彼の過ちは肝心のレミの気持ちを考えていなかったこと。
レミは音楽を愛する繊細な子で、
レオといつも共にいたいという気持ちを別に悪いことだとも思っていなかった。

それだから、急に何も言わずに自分から遠ざかっていくレオのことがわからない。
ただ嫌われた、放り出された、と感じてしまっているのです。

だから、悲劇は起きます。

なんて悲しい気持ちの行き違い。
自分のねじれた態度が原因で起こった悲劇のことを、
レオは誰にも打ち明けられずにいて、
1人心の底で思い悩み続けるのです・・・。

レオの家は、花き農家で、広く美しい花畑の中を駆け回る2人や、
農作業を手伝うレオの姿も映し出されます。

その美しさと対比するように、暗く沈んでいくレオの心・・・。

 

美しく悲しい物語でした。

 

<Amazon prime videoにて>

「CLOSE/クロース」

2022年/ベルギー・フランス・オランダ/104分

監督:ルーカス・ドン

出演:エデン・ダンブリン、グスタフ・ドゥ・ワエル、エミリー・ドゥケンヌ、レア・ドリュッケール

 

少年の孤独度★★★★★

美景度★★★★☆

満足度★★★★☆


夜明けのすべて

2024年02月13日 | 映画(や行)

生きにくい事情のある2人

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PMS(月経前症候群)のため、月に一度イライラが抑えられなくなり、
人に攻撃的になってしまう藤沢(上白石萌音)。
ある時、会社の同僚、山添(松村北斗)に対して、
怒りを爆発させてしまいます。
山添は転職してきたばかりなのに、
炭酸水を飲んでばかりでいかにもやる気がなさそうなのです。

実は、そんな山添はパニック障害を抱えていて、
そのため転職せざるを得なくなってここに来て、
生きがいも気力も失ってしまっているのでした。

2人は互いにそのことを打ち明けあい、
しだいに自分の症状は改善できなくても、相手を助けることはできるのではないか
と考えるようになります。

恋人でも友達でもない、いわば同士の2人。
生きにくさを抱える人々がほんの少し寄り添って支え合う。
そういうドラマです。

私も実はPMSのことはよくわかっていませんでした。
症状や程度はもちろん人それぞれなのでしょうが、
この藤沢さんのようなケースもあるということですね。
確かに、普段控えめで大人しい人がある時突然切れて怒鳴り始めたら
大抵は引いてしまって、変な人というレッテルを貼られてしまう。
藤沢さんもそのためこれまでずいぶん職を変えているのです。

2人のいるこの職場は子供向けの光学機器を組み立てるような
小さな会社なのですがアットホーム。
皆は2人のこの症状のことを聞いてはいないのですが、
2人の症状が出たときにも実にさりげなく対処して、
その後もわだかまりがありません。

実はこっそり聞かされていた・・・?と思うほどなのですが、
こんな風に、いろいろな人がいていろいろなことがあるよねえ・・・と、
さらりと受け止められたらいいですね・・・。
それであれば逆にカミングアウトももっと気安くできるのかも知れません。

そしてまた、2人が仕事でプラネタリウムの解説文を考えていくという
サイドストーリーがいいのです。
果てしない宇宙のことと、このちっぽけな地球上の人々の暮らしのこと。
そんな中でささやかに生きていることの意味を思ってしまいます。

ここで2人には特に恋愛感情は芽生えません。
朝ドラ「カムカムエブリバディ」では夫婦を演じていたお二人。
でも本作は、男女に関わりなく、人と人としてわかり合い支え合うことを
あくまでも伝えたかったのでしょう。

良き物語でした。

松村北斗さんは、先の「キリエのうた」もそうでしたが、
良い役に就きますよねえ。

実は私は、目黒蓮さんにもこういう役をしてほしいのです。
彼の力量を十分に発揮できる作品に・・・。

 

<シネマフロンティアにて>

「夜明けのすべて」

2024年/日本/119分

監督:三宅唱

原作:瀬尾まいこ

出演:松村北斗、上白石萌音、渋川清彦、芋生悠、りょう、光石研

 

生きにくさ★★★★☆

満足度★★★★★


逃げきれた夢

2024年02月12日 | 映画(な行)

人と正面から向き合うこと

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定時制高校教頭を務める末永(光石研)。

元教え子・平賀南が働く定食屋を訪れ、記憶が薄れていく症状が出て、
支払いをせずに立ち去ってしまいます。

妻との仲は冷え切り、娘は始終スマホにを見ていて会話にはなりません。
旧友石田とも疎遠になってしまっています。
末永は、この病を機に、これまで適当にしていた人間関係を見つめ直そうとします。

末永はごく普通に真面目に仕事を続けてきたつもり。
高校の生徒たちともうまく向き合ってきたと思っています。
けれど、生徒に、いつでも何でも相談するようにと言ってみるものの、
生徒たちはそんなことばは単なるうわべだけのモノとわきまえているようです。
そしてまたそのことを生徒から言われて、確かにその通りだと思い当たってしまう末永。

記憶が薄れていくという症状が現れ、末永は退職を決意します。
それは、症状が酷くなる前に好きなこと、
これまでできなかったことをしようというような思いからではありません。
まあ、普通に、仕事で大きなミスをして迷惑をかけないように、とのことなのでしょう。
(実際の心境は語られないのですが)。
つまり、特別にやりたいことなど何もないのです。
けれどこのときになって、自分はこれまで
誰とも正面から向き合ってこなかったことに気づくのです。

さてさて、これはこの物語の末永の話。
けれど、多くの人がこんな風なのではないかなあ・・・と思えるのです。
少なくとも私はそうかも知れない。
たとえ病がきっかけではあっても、そうしたことに気づいて、
新たな一歩を踏み出せたのなら、それでオーライなのかも。

実に淡々と進む物語ですが、大切なことをいっていますね。

<Amazon prime videoにて>

「逃げきれた夢」

2023年/日本/96分

監督・脚本:二ノ宮隆太郎

出演:光石研、吉本実憂、工藤進、坂井真紀、松重豊

 

男の生き方度★★★★☆

満足度★★★.5

 


ラスト・クリーク

2024年02月10日 | 映画(ら行)

生き延びろ

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大学4年のソーヤは、就職の面接に向かう途中、
渋滞を避けようとして脇道に入り、迷って人里離れた山奥に入り込んでしまいます。
そして、不審な男2人に襲われ、怪我を負いながら寒中の山道をさまようことに。
ついに疲れ果てて倒れたところを、ローウェルという男に助けられます。

彼は先のならず者2人組のいとこで、この山奥で違法薬物の製造をしているのでした。
そのため始めソーヤを拘束していましたが、
怪我をして人里まで逃げることもできないとみて、解放します。
ソーヤはローウェルを信頼できるかどうかわからないものの、
無法者の一味から生きて逃げるために、彼に命運を預けることにします・・・。

 

山奥で道に迷ったところで出会う、不審な男2人。
うーむ、絶体絶命ですね。

ソーヤは車を捨てて逃げ出さざるを得ないのですが、
山の中、季節は遅い秋くらい・・・で、寒いのです。
見ているだけで凍えます。

そして出会ったローウェルは、粗暴なだけの従兄弟たちとは違い、
とりあえずソーヤを拾い上げて傷の手当てもしてくれた。
少しは人らしい心が残っています。
けれど結局そうしたやさしさが彼の命取りになってしまうわけで・・・。

 

心を強くたくましく持って、最後まであきらめない。
こういう女性が私は好きです。
ま、今時のドラマに登場する女性は皆こういう感じですけど。

 

そして本作のラスボスが以外な人物で、これもまたこわい。
普通に楽しめるサスペンス。

 

<Amazon prime videoにて>

「ラスト・クリーク」

2019年/アメリカ/108分

監督:ジェン・マクゴーワン

出演:ハーマイオニー・コーフィールド、ジェイ・ポールソン、
   ショーン・オブライアン、ジョン・マーシャル・ジョーンズ

サスペンス度★★★★☆

極悪度★★★★☆

満足度★★★☆☆


「ともぐい」河﨑秋子

2024年02月09日 | 本(その他)

祝!!直木賞受賞

 

 

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第170回直木賞受賞作! 
己は人間のなりをした何ものか
――人と獣の理屈なき命の応酬の果てには

明治後期の北海道の山で、猟師というより
獣そのものの嗅覚で獲物と対峙する男、熊爪。
図らずも我が領分を侵した穴持たずの熊、蠱惑的な盲目の少女、
ロシアとの戦争に向かってきな臭さを漂わせる時代の変化……
すべてが運命を狂わせてゆく。
人間、そして獣たちの業と悲哀が心を揺さぶる、
河﨑流動物文学の最高到達点!!

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我が敬愛する北海道の作家・河﨑秋子さん「ともぐい」が
第170回直木賞を受賞しました。
まさに自分のことみたいにウレシイ!!

 

明治後期、北海道の山中で鹿や熊の猟をして生業を立てている男、
熊爪が主人公です。
通常猟師といっても普段はそこそこの町中に住んでいて、
必要な時期にだけ山に籠もったりするものですが、
熊爪は年中山奥の小屋に犬と共に住んでいて、
獲物の肉や皮を売り、
銃弾など必要なものを購入するときにだけ町に降りていくのです。

鹿を撃ち解体する様子などが実に生々しく描かれていまして、
その体温や匂いがリアルに伝わるような気がします。

白糠の町でいつも獲物を買ってくれるのは、
町一番の金持ちの井之上良輔という男。
なんというか、彼は変わり者で、
ときおり獲物を売りに訪ねてくる熊爪を歓待して
食事を振る舞ったり泊めてくれたりします。
そして熊爪の話を面白がって聞きます。
熊爪自身はこんな話のどこが面白いのかもわからず、戸惑うばかりなのですが。

そしてある時、熊爪はこの屋敷で、1人の盲目の少女・陽子(はるこ)と出会います。

 

さてさて、こうして始まるストーリー、もちろん熊も登場。
その対峙のシーンも迫力があって恐い、恐い・・・。

しかし、改めて表題「ともぐい」を考えてみると、つまり、熊爪が雄の熊。
陽子が雌の熊なのです。
その行き着く果てがともぐい・・・。

盲目の少女といえば儚くてか弱くて、
自分だけでは生きて行けなさそうな雰囲気を想像してしまいますが、
いやいや、とんでもない。
間違いなく彼女は雌の熊。

北海道の大地で、獣とも人ともつかない男女が、その本能のままに生きていく。
そういう物語です。
ヤワな感傷などぶっ飛んでしまう。

常に北海道の人と動物との関係を描いていく著者の、
まさに真骨頂と言うべき作品です。

 

それにしてもあまりにも生々しく、恐ろしくもあるので、
河﨑秋子さん初心者の方には「颶風(ぐふう)の王」をオススメします。
とある小さな無人の島に置き去りにされ、
野生化して命をつないでいった馬の物語。

「颶風の王」


「ともぐい」河﨑秋子 新潮社

満足度★★★★★