映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

マーリー/世界一おバカな犬が教えてくれたこと 

2009年03月31日 | 映画(ま行)
日々の生活の中にこそ、生きていく意味がある

* * * * * * * *

ジョンとジェニー夫妻は、子育ての予行練習として、犬を飼うことにしました。

離乳を済ませてやってきた子犬はマーリー。
・・・しかし、この犬のやんちゃなことといったら!
マーリーはラブラドール・レトリバー。
盲導犬を見るといかにもおとなしく従順で賢いのですが、とんでもない! 
きちんとしつけをしないとこうなっちゃう、という見本のような犬です。
でもまあ、普通の家で飼うのなら、そこまで厳密なしつけは要りませんよね。
ただ、同じく犬を飼う身としては、
いくらなんでも、家具やそこら辺のものを齧るくせくらいは
きちんとしつければ直るのに・・・と思わないでもないですが。


しかし、このストーリーはその犬の成長物語というわけではないのです。
そこにはこのグローガン夫妻の、日々の生活がある。
ジョンは、新聞のコラムニストなのですが、
本当はもっと最前線の記者になりたかった。
対極として、友人の記者がいます。
彼は独身で忙しく世界中を飛び回っている。
そんな彼をいつもうらやましく思うジョン。
ジョンにも、そのチャンスはあったのですが、
ちょうどその頃妻が妊娠し、
家を空けることが多くなるその仕事は断ることになる。
またジェニーの方も、優秀な記者だったのですが、
子育てに専念するため仕事を辞めるのです。
お互い、時には疲れてイライラし、後悔もするのですが、
しかし、日々子どもたちやマーリーに愛を注ぎ、注がれ
・・・そういうことに充足も覚えていく。

つい「レボリューショナリー・ロード」の夫婦を思い出してしまいます。
日々の生活に埋没することに恐怖すら覚え、
耐えられなくなってしまうのが彼ら。
しかし、こちらはそんな生活の中でも、
精一杯の自己実現を果たし、家族で支えあっていこうとする。
これはすごいことなのではなくて、
実はほとんどの人々が意識しないでやっていることなのかも・・・。
だからこの映画には誰もが共感できるのではないかと思います。
夫婦が親としての初心者から、少しずつ成長していく。
多くの人がいろいろな障害を乗り越えながら、体験していくことでもあります。

ジョンがいつも妻や子どもたち、そしてマーリーをも優しく見守る感じ、
いいなあ、と思います。
人によっては、このように家族優先の男なんてだらしない
・・・というかもしれません。
けれど、犬も子どもも守れない男なんて・・・、
いなくてもいいって思えてしまいます。

犬の一生は短いですね。
子どもたちはまだまだ幼いのに、
犬だけが先にどんどん老いて衰えていってしまう。
けれど、最期まで見届けるのも、飼い主としての責任です。
とにかくひたすらに無条件に、家族を愛してくれたマーリー。
泣かされます・・・。

さて、マイアミ育ちの子どもたちとマーリーが、
フィラデルフィアに引っ越したある日、
皆で窓の外を眺めて、歓声を上げる。
外にあったものは・・・?

ぜひ映画で確かめてくださいね。確かに、子どもと犬が大好きなものです。

しかしそれにしても、犬好きにはたまらない、いい映画です。
犬好きでない方も、きっと気に入るでしょう。
どこの家にもいそうな、しつけが完璧でないちょっぴりおばかな犬。
これがとてもリアルでたまらなく愛らしい。

原題 Marley & Me
このままのほうが簡潔明瞭でいいのに、と思います。
邦題は、ちょっといじりすぎ。

2008年/アメリカ/116分
監督:デヴィッド・フランケル
出演:オーエン・ウィルソン、ジェニファー・アニストン、エリック・デイン、アラン・アーキン

マーリー世界一おバカな犬が教えてくれたこと MARLEY and ME Trailer Japanese



釧路のクーちゃん

2009年03月30日 | インターバル
釧路に行ってきました。


ちょっぴり、春休み気分に浸りたくて、わずか一泊の旅。
3月末とはいえ釧路はさすがまだ寒い~!!
札幌からは特急列車で4時間です。

駅についてから、さっそく行ってみたのは、和商市場。
ここでは、「勝手丼」というのが食べられるんですよ。
まず、好みの大きさのカップにご飯を盛ってもらって・・・
それから、お魚を売っている店で、ネタをのせてもらう。
どれでもよりどりみどり。
新鮮な魚介類をたっぷりのせて、わしわしと食べる!
う~ん、おいしい。


さて、おなかも落ち着いたところで、
いよいよ目的の釧路川に行きます。
釧路川の幣舞橋。

その下の岸壁に、なにやらちょっぴり人だかり。
人だかりといっても、こじんまりとしているでしょう。
そこが、この北の果ての地ならでは・・・。
(よく見ると、ここにも写っているんですよ・・・。)

いや~、いるではありませんか。
本当に、ラッコのクーちゃんが。
水面に浮かんでは貝を食べ、
しばらくもぐって、貝をさがしてまた浮かんでくる。
そんな繰り返しでした。

しかし、じっとしていてはくれないので、
写真はなかなかうまく撮れない。
変な写真でごめんなさい・・・

岸壁のすぐ下にいるので、
あまり覗き込むと落っこちそうで怖い。
こんなところで落ちてニュースになっても恥ずかしい・・・
というか、こんな冷たい水に落ちたら
命にかかわりますよ~

うう・・・寒いのは覚悟できたつもりですが、やはり寒い~~~。
カメラを持つ手が、すぐにかじかんでくる。
早々に引き上げて、
居酒屋さんへGO!
釧路はお魚がおいしいですよ~!

早くも、釧路のお店ではクーちゃんグッズも売り出していて・・・。
お土産はこれです。





「龍の黙示録/永遠なる神の都 上・下」 篠田真由美

2009年03月29日 | 本(SF・ファンタジー)
永遠なる神の都 上―神聖都市ローマ 龍の黙示録 (8) (ノン・ノベル) (ノン・ノベル 862)
篠田 真由美
祥伝社

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1999年から書きつがれてきた、龍の黙示録シリーズの完結編です。
キリスト教、ヴァンパイア、邪悪な魔物たち、ESP…、
かなり題材は特殊なので、好みはあるでしょう。
そして、このストーリーは、初めから読まないと多分意味不明と思います。

私も、このテーマが特に好きというわけではないのですが、
登場人物たちの魅力にひかれ、
ついズルズルと(?)、ここまで読みついで来ました。
この感じは、桜井京介の建築探偵シリーズと、一緒ですね。


この最終話はヴァチカンが舞台。
何しろ主人公、龍は、
ヴァチカンから存在を許されないヴァンパイアという身の上であり、
最終決戦として、舞台がそこになるのは必然であります。
しかし、単に舞台がそこであるというだけでなく、
聖職者の人並み以上の俗悪な名誉欲・色欲などが描かれているので、
そんなことまで書いて、大丈夫なの・・・?
と心配になってしまうくらいです。

ここでの龍はいつにもまして、ぶっきらぼうで取り付く島がなく、あえて露悪的。
あまりにも生身の人間っぽくない(確かに、人間ではないのですが)ので、
ついに作者は透子とのラブシーンを描けなかったように思えます。

最終決戦場面はさすがに迫力でしたね。
オールキャストで盛り上げがうまいっ!!
私のお気に入りは修道士セバスティアーノですが、
ここでは修道士から魔道師(?!)にバージョンアップ。
さえない小男という設定ではありますが、
彼のとぼけた感じと真摯な感じ、好きだなあ・・・。
そして、マサカ!という意外なラストの展開に、
またまた驚かされ、にんまりとさせられるのでした。


もし万が一事がうまくいって、生きていることができたら・・・
もう一度鎌倉の家に戻って、
明るいサンルームでみんなでお茶を飲みたい・・・


そのように、はかない約束をする彼らでしたが・・・
その夢はかなうのか。
読んで確かめてください。

これは初めから一気読みした方が、面白いかもしれません。
正直10年前だけでなく、この前作のストーリーですら記憶がおぼろげでした・・・。
トホホ。

満足度★★★★☆


麗しのサブリナ

2009年03月28日 | オードリー・ヘップバーン
勤勉実直な長男か、遊び人の次男か

           * * * * * * * *

これは「ローマの休日」のすぐ後のオードリー・ヘップバーン作品です。
だからなんとなくその「ローマの休日」路線の
彼女の魅力を引き出すように作られていると思います。
コメディタッチのラブストーリーです。

大富豪ララビー家。
そこのお抱え運転手の娘サブリナが、オードリー・ヘップバーン。

ララビー家長男ライナスは、仕事一筋。
いまだ独身。
次男デイヴィッドは、遊び人の放蕩息子。
離婚暦3回。
サブリナは、この遊び人の次男の方に恋焦がれているのですが、
彼は、使用人の娘、しかも小さなときから見ているサブリナのことなど
これっぽっちも気にかけていない。
傷心のサブリナは、パリへ料理の修業に行き、
2年後、パリの洗練された雰囲気を身に付けて帰ってくる。
そうすると、プレイボーイのデイヴィットが早速目をつける。
エリザベスという婚約者もそっちのけ。
ところがそのエリザベスはララビー家としては政略結婚で、
婚約解消は大変まずい。
そこで長男ライナスが、何とかこの恋路を邪魔しようと乗り出すのです。


そもそも、この遊び人に恋焦がれるというのは、
恋に恋していると同じ。
このセンはないでしょう、と初めから思いますね。
・・・とすればライナスの方か・・・。
う~ん、でも、今の感覚からすると、
サブリナの相手としてはかなりのオジサマですよね。
だがしかし、なんとこの方は、
ハンフリー・ボガードですよ。
あの、ジュリーが
「ボーギー、ボーギー、あんたの時代は良かった・・・」と歌った、
カサブランカダンディ。
ちなみに、その「カサブランカ」は今作をさかのぼること10年ほど前の作品。
となればボギーも10歳若いというわけで・・・
その頃の彼なら、と納得はいきます。

まあ、それにしても当時としては超ビッグな共演なんですね。
大富豪のオジサマと、若き美女・・・。
今でもありがちではありますが、私はあまり好きではないなあ・・・。
サブリナさん、せっかくお料理の修業をしてきたんだから、
愛だ恋だという前にまず自立しなさい・・・。
な~んて、こんな映画でそんなことを言うのは、全くヤボというものですが。

とはいえ、サブリナの衣装がまた素敵です。
パーティー用のドレスもいいけど、
黒の上下、ボーイッシュな7分丈のパンツスタイルもいいですね。
・・・「サブリナパンツ」の名称は、
やはりこの映画から来ているんですよね・・・? 
このスタイルは、彼女のようにスリムな体型だからいいので、
グラマー女優ではダメですね。

モノクロの、クラシックなロマンチックコメディをどうぞ。

1954年/アメリカ/113分
監督:ビリー・ワイルダー
出演:オードリー・ヘップバーン、ハンフリー・ボガード、ウィリアム・ホールデン、ウォルター・ハムデン


Sabrina trailer



ダウト/あるカトリック学校で

2009年03月27日 | 映画(た行)
過ぎた疑惑は、毒のように自分をも蝕む

            * * * * * * *

1964年、ニューヨーク。
カトリック学校セント・ニコラス・スクール。

ここの校長がシスター・アロイシス(メリル・ストリープ)。
非情に厳格な指導をする人で、多分、子どもたちは影でオニババとか呼んでいそう。
一方登場するのは、ストイックな因習を廃し、
進歩的で開かれた教会をめざす、フリン神父(フィリップ・シーモア・ホフマン)。
子どもたちや町の人々にも人気があるようです。
そして、もう1人は
新米のシスターで教師でもあるジェイムズ(エイミー・アダムス)。
この作品はほとんどがこの3人の会話からなっています。
もともとは舞台作品なんですね。
そして、出来事はといえば、
ある日クラスの黒人男子が神父に呼び出され、
戻ってきたときは、落ち込んでお酒の匂いがしていた。
そのことのみ。
このことにまずジェイムズが気づき、
かすかな疑惑を持ってアロイシス校長に告げるのです。

ところがその校長の中で疑惑はどんどん膨れ上がり、
その子と神父の“不適切な関係”を事実と思い込んでしまう。
結局真相はどこにあるのか、それは最後まで明かされません。
この疑惑を事実と思い込み神父をせめる校長と、
抗弁する神父の応酬が緊迫感にあふれています。
校長は多分に感情的で、
疑惑を突き詰めるためには
シスターでありながら嘘までついてしまう。
その姿はもう、高潔というよりは醜悪に近くなっているのですが・・・。


この作品のある解説には
「大量破壊兵器所持の疑惑をふりかざし、
暴挙に出て、泥沼にはまった
アメリカの過ちを彷彿とさせる・・・」
とありました。
なるほど・・・、
今、この作品の映画化の意味はそこにあるんですね。

これは疑惑に凝り固まりすぎると、やがてその疑惑は自分をも破壊していく
…という一つの寓話なのです。
真実がどうであれ、大事なのはその後の対処の仕方である、
とも言えるのではないでしょうか。
・・・いろいろ、考えることの多い作品です。

ワンシーンだけの登場でしたが、
黒人少年の母親役、ヴィオラ・デイヴィスも光っていました。
結局前者3人は観念が先走っているのです。
しかしこの母親は、息子を守るというまっすぐな意思だけがあり、
しっかり、地に足をつけた感じがする。
このエピソードがなければ
この作品はもっとつまらないものになっていたでしょう。

そして一つ気になったのが、ここに登場するもう1人の少年。
どうも何度か、
彼が物いいたげな視線を投げかけていたような気がするのですが・・・。
彼が真相のヒントを持っているような気がしてならない・・・。
そこが、この映画の秘密・・・?

2008年/アメリカ/105分
監督:ジョン・パトリック・シャンリイ
出演:メリル・ストリープ、フィリップ・シーモア・ホフマン、エイミー・アダムス、ヴィオラ・デイヴィス



『ダウト-あるカトリック学校で-』日本版予告編 DOUBT JTrailer



「町長選挙」 奥田英朗

2009年03月26日 | 本(その他)
町長選挙 (文春文庫)
奥田 英朗
文藝春秋

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伊良部医師のシリーズ第3弾です。
この本には4つの短篇が収められています。

◆日本一の発行部数を誇る「大日本新聞」の代表取締役会長であり、
また、プロ野球・中央リーグの人気球団「東京グレート・パワーズ」のオーナー、
田辺満雄。

◆インターネットによるホームページ作成サービスの会社から、
どんどんと急成長し、
IT業界のみならず経済界全体からも注目を浴びるライブファストの若き社長、
アンポンマンこと安保貴明。

◆東京歌劇団出身、すでにベテランながら、
若々しい美貌とスタイルを保ち続け、
人気を集めているカリスマ女優、白木カオル。

どれも、実在の誰かを彷彿とさせますが、
それぞれが、過度なストレスを抱え込んで、
次第に異常な行動を示し始めるのです。
それが、どう間違ったか、伊良部のところへ来てしまう。
例によって、強引にブドウ糖の注射をするだけなのですが・・・。
こんな生意気でバカみたいな医者に二度とかかるもんかと思いながら、
なぜかフラフラとまた来てしまう。

思うに、あまりにも傍若無人な伊良部の言動が、
逆に彼らの緊張感をなくし、
本音を引き出すことに成功しているのかもしれません。
ともあれ、それぞれの業界の重鎮でありカリスマである彼らが、
伊良部に振り回されつつも自己を回復していく、
非常に楽しめる作品群となっています。


さて、そこへ来て、趣が異なるのが、
表題でもある「町長選挙」。
この舞台は東京都下でありながらも、離島の千寿島。
そこではおりしも、町長選挙の真っ最中。
そこへ伊良部が派遣医師として、看護師マユミと共に赴任してくるのです。
2ヶ月限定ではありますが。
この島は古くから派閥が真っ二つに分かれていて、
選挙のたびに島を二分する大騒ぎ。
贈収賄なんか当たり前・・・。
伊良部を味方に引き入れて、
特別養護老人ホーム建設の政策を打ちたてようと、
両陣営から矢の催促。
ほとんどお祭り騒ぎのような選挙戦に、
初めのうちは面白がっていた伊良部。
しかし、両陣営、
実のところ、この見放されたような島をなんとかしようと、止むに止まれず
・・・という真剣さが見えてきたところで、急に、怖気づき
「だって、重いんだもん。人の運命なんて左右したくないよォ」
と引きこもってしまう。

つまり、この方は、本当に子どもなんですね。
気持ちが子どものまま中年オヤジになってしまった。
実は、バカのようで、バカのフリしてるだけなのかも
・・・と思わせるところもあるのですが、
決してそうではないようです。
その無心さが、たまたまラッキーを呼ぶのでしょう。多分。

この話を読むと、周りの皆さんが実に大人に思えます。
分別をわきまえた、良い大人にならなくては・・・と、ひそかに思ってしまいました!

満足度★★★★☆


「彼らの犯罪」 樹村みのり

2009年03月24日 | コミックス
彼らの犯罪
樹村 みのり
朝日新聞出版

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ずっと以前から敬愛する樹村みのりさんの本を久しぶりに見かけたので、
読んでみました。
この本はずばり、犯罪をテーマとした短編集。
人はどういう状況でどんな心境で罪を犯すのか。
そして、それを裁かれる時の気持ちというのは・・・。
実際にあった事件から取材しているため、ずっしりと重い内容となっています。

冒頭が表題作の「彼らの犯罪」
4人の少年が、1人の少女を誘拐監禁。
40日の強姦・暴力・性的陵辱の果てに、
死亡した彼女の死体をドラム缶にコンクリート詰めにしたという壮絶な事件。
その監禁場所はその1人の少年の自宅なのですが、
両親も同居していたのです。
いかに共働きとはいえ、そのような気配を感じていなかったのか・・・。
少女はなぜ逃げ出すことができなかったのか。
4人の少年は、全員がそのように粗暴・残虐な性格とも思えないのに、
どうしてそれを止めることができなかったのか。
結局この本を読み終わってさえも釈然としない部分は残る。

人間は時にどこまでも残酷になることができる。
私たちは、普段そこに目をつぶっているだけなのかも知れません。
その人間の本性を見極めることは勇気がいります。

今後の裁判員制度のことなどを考えると、やはりちょっとひるみますね。
こんな事件に出会ってしまったら・・・、
もう、人間を信じることができなくなってしまいそうです。
真実を見極められるのか、ということ以前に、
人間の本性を目の当たりに見てしまうことの怖さ・・・
そういうこともあるんですね。
万が一裁判員を務めることがあるとしたら、生半可な気持ちでなく、取り組まなくてはなりません。
・・・というか、できればやりたくない、というのが正直なところでしょうか。

満足度★★★☆☆

 


ゴールデンボーイ

2009年03月23日 | 映画(か行)
心の奥底に潜む邪悪な欲望

            * * * * * * * *

スティーヴン・キング原作です。
でもこれはホラーというより、心理サスペンス。
トッドはスポーツ万能・成績優秀。
彼はある日バスの中で、ナチの戦犯と思われる人物を目撃します。
彼は、名をデンカーと偽り、ドイツからアメリカへ渡り潜伏していた。
実は、かつてアウシュビッツの強制収容所で副所長をしていたドゥサンダー。
トッドは彼に接近し、ユダヤ人の苦しみもがき死んでゆく生々しい話をせがむ。
そうしなければ、世間に正体をばらすと脅して。

このときはまだ主導権をトッドが握っていました。
しかし次第に彼は、白昼にもホロコーストの悪夢にうなされるようになってくる。
そしてまた、昔日の悲惨な状況を語るデンカーも、
少しずつ昔の狂気がよみがえってくる。
じわじわと、己の内部に巣くう邪悪さに目覚めていく二人。
そしてまた、次第に主導権はデンカーのほうへと移ってくるのですが・・・。


ナチスの殺戮などには縁のなさそうなきれいな顔立ち、優等生のトッド。
しかし、心の奥底に、人の苦難を見たいという残酷な欲望があるわけです。
デンカーのほうも、今はもう過去を捨て去り何気なく生活していたところを、
トッドによってまた、かつての心の底の興奮を掘り起こされてゆく。
もしかすると誰の心の奥底にも、このような欲望はあるのかも知れず、
そうした怖さをえぐりだしています。
いつしか二人は一蓮托生となって、闇の世界に漂い始める・・・。

カメラはあえて二人のどちらにも感情移入せず、
ひたすら淡々と事象を捉えているようでした。
老人と少年の奇妙なコントラスト。
その接点がホロコーストという、異色作。

ゴールデンボーイ [DVD]
ブラッド・レンフロ,イアン・マッケラン
パイオニアLDC


「ゴールデンボーイ」
1998年/アメリカ/112分
監督:ブライアン・シンガー
出演:ブラッド・レンフロ、イアン・マッケラン、ブルース・デイヴィソン、アン・ダウト




ワルキューレ

2009年03月22日 | 映画(わ行)
なぜ計画は失敗したのか・・・

           * * * * * * *

1944年。第二次世界大戦下ドイツ。
ヒトラーのあまりにも過激な思想・政策に危惧を感じ、
祖国の平和のため、ヒトラー暗殺を企てるシュタウフェンベルク大佐。
これはその実話を基にした映画です。

とはいえ、ヒトラー暗殺はなかった、というのは史実が示していますので、
このストーリーは、
なぜそれが失敗に終わったのかを描く作品であるわけです。

この “ワルキューレ作戦”は、
もともとは、反乱軍鎮圧用に作られた既存のオペレーションを逆利用したもの。
そして、誰を仲間に引き入れてその組織をどう作っていくのか、
そういうことが非常に重要。
少しでも秘密が漏れれば命はありません。

ヒトラーから直接書類にサインをもらうシーン、
爆弾を仕掛け、その爆発を待つシーンなど、
結構スリルに飛んでいまして、ドキドキしました。


結局作戦失敗の原因は、不可抗力の「変更点」にあるのかもしれませんが、
それでも、いろいろと見えてくるものはありましたね。
幹部の優柔不断。
事実確認の甘さ。
リーダーシップにイマイチ足りない何か…。
しかしそれは、表立って動けないその状況を考えると、
仕方のないことかもしれません。

実際には、ヒトラー暗殺計画は他にも多々あったそうなのですが、
ヒトラーというのは、なんて悪運が強いのでしょう。
神が味方したなどとは全く思いたくありませんが…。
当時の通信手段が描かれているのは興味深い。
タイプライターで打った文字が電信で伝わってきます。
二つの相反する指令を受け、戸惑い、混乱する現場。
通信・放送、やはり最大重要なのは情報を制することなんですね。
ヒトラーの死は嘘っぱちでも、
その情報をキープできればこのクーデターは成功したかもしれません。
・・・逆に考えると、マスコミって、本当に怖いです。

さて、ナチスの軍服に身を包み、アイパッチまでしたトム・クルーズ。
これが実にカッコイイ。
はまり役ですね。

それから、大佐の幼い娘が大きすぎる制帽をかぶり、微笑んで敬礼する映像が、
ため息が出るくらいかわいらしくて、目に焼きついています。

・・・このように見所はありつつも、
なぜかしら満腹の満足感には欠ける…そんな印象でした。

2008年/アメリカ・ドイツ/120分
監督:ブライアン・シンガー
出演:トム・クルーズ、ケネス・ブラナー、ビル・ナイ、トム・ウィルキンソン

【公式】トム・クルーズ主演 『ワルキューレ』 予告編



尼僧物語

2009年03月21日 | オードリー・ヘップバーン
尼僧物語 [DVD]

ワーナー・ホーム・ビデオ

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神と自分はごまかせない・・・だからこその決断

                  * * * * * * *

さて、この作品のオードリーは、他の作品と少し趣が異なります。
くるくると動く大きな瞳の、元気で愛くるしい彼女は、
尼僧の制服に身を包み、ひたすら自分を押し殺そうとします。
彼女は恋人も家族も捨て、修道院に入りました。
なんとなく修道院というのは、
愛する人を失って、生きる意味を見失って入る、
そんなイメージがあったのですが・・・。
これは大変に失礼な話でした。
そこにいれば安泰の裕福で温かい家族や
将来自分で築くかもしれない結婚生活をも捨て去り、
神に一生を捧げようという、
これは大変に崇高な行為なんですね。

ガブリエルはそのような理想に燃えて、修道院に入り、
シスター・ルークとなります。
おしゃれなファッションに身を包むオードリーも素敵ですが、
尼僧服の彼女は、いっそうその清楚さがきわだちますね。
でも、あまりにも華やかな顔立ちに、かえって痛々しい感じもします。

修道院の世界は、沈黙・謙譲・没我を基調とする厳格な世界。
シスター・ルークは、
ともすると服従の教えに反してしまう自分自身をいつも反省しています。
彼女の父は医師で彼女も看護師を勤めていたため、
実は、コンゴの医療施設で看護僧として勤めることを望んでいたのです。
紆余曲折がありながら、ようやく望みの地コンゴへ派遣されました。
やっと自分の居場所を見つけたかのように、彼女は献身的に働きます。
しかし、やはり尼僧であることには変わりなく、
患者に対している途中でも鐘の合図で祈りの場に行かなければならない。
次第に尼僧でいることに疑問が生じてくるのです。

シスター・ルークは、尼僧でいるためには、
生きる力がありすぎたのではないでしょうか。
尼僧服に身を包んでも、なおあふれ出る、
人のために尽くし、前進したいという意欲。
宗教者は人に尽くすよりも、
自分を律し神に仕えることがまず第一義なんですね。
シスター・ルークの希望は、
時として分を超えたわがままや自尊心の発露として、退けられたりもする。
見ようによってはこの教会や修道院のシステムは、理不尽でもあるのですが、
第一目的が「神」にあるとすれば、
理不尽なのは当たり前でもあります。
多分、こういうことは向き不向きがあって、
このような戒律の中で生きることにこそ歓びを感じる人は確かにいるのでしょうし、
このシスター・ルークは、そうではなかった。
修道院はよそ者を侵入させない安全な砦であると当時に、
逃げ出すことができない監獄でもあるわけです。
どちらに感じるか・・・それはその人次第ということですね。

さて、ベルギーにドイツ軍が侵攻してきた時に、彼女は一つの決断をします。
人をごまかすことはできても、自分と神はごまかすことができない。
真摯な彼女の思いが伝わるラストシーンでした。

1959年/アメリカ/152分
監督:フレッド・ジンネマン
出演:オードリー・ヘップバーン、ピーター・フィンチ、エディス・エヴァンス、ティム・ペギー・アシュクロフト


「凸凹デイズ」 山本幸久 

2009年03月20日 | 本(その他)
凸凹デイズ (文春文庫 や 42-1)
山本 幸久
文藝春秋

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「笑う招き猫」で、ユーモアたっぷりに、
お笑いの世界で働く元気な女性の姿を描いてくれた山本幸久。

今度の舞台はデザイン事務所。
その名も「凹(ぼこ)組」
とはいえ、図体が大きな30半ばの二人、大滝・黒川と、
主人公凪海(なみ)、たった三人の弱小事務所。
それも1DKのアパート。
仕事はハードで給料は安い。
それでも、凪海はやりがいを持って仕事に励んでいたわけですが。
しょぼい仕事ばかりのこの事務所に
あるとき、老舗遊園地のリニューアルデザインコンペという大きなチャンスがやってくる。

登場人物の個性がそれぞれに豊かで楽しい。
舞台は、時折10年前、この「凹組」結成当時の話に戻ります。
「ゴッサム・シティ」という名の事務所にいた大滝と黒川。
そして醐宮(ごみや)という女性。
若い彼らがゴッサム・シティを去り、凹組立ち上げるいきさつ。
これもまたなかなかの青春物語。
なぜ「凹組」なのか。
それは大柄な大滝と黒川、その間に醐宮が立つと
見事に凹の字型になるからなのでした。
しかし、この3人組はわずか10ヶ月しか持たず、醐宮が去ってしまっている。
そこには複雑な事情がありそうなのですが・・・。

凪海も小柄のほうなので、今も名実共に凹組。
そこへ、今は大手のデザイン事務所を立ち上げている醐宮が絡んでくる。
錯綜する二つの青春。
醐宮さんはなかなか強烈なキャラクターです。
常に自分を奮い立たせ、前進しようとする。
仕事のためには、自分の女としての魅力も武器にするし、
人の手柄を横取りするようなずるさをも見せる。
彼女には大滝と黒川がもどかしくてならない。
いい腕を持っていながら、どうしてこんなしょぼい仕事で満足していられるのか・・・。
今時の女性ですよね。
仕事に打ち込む活き活きとした女性像と
ギラギラとした意欲ばかりが目に付くいやな女と、
そのぎりぎりの線のように思います。
しかし、決して人に寄りかからない。
こういうところは魅力です。

この作品は、このように大人の男女が毎日共に仕事をしつつも、
恋愛沙汰に発展しない。
(ほのかな思いをにおわせる部分はありますが) 
そんなところがとても潔くて好感触。

巻末の解説で三浦しをん氏がいっています。
働くことを通して得られる本当の楽しさは
「だれかとつながる」ことなのだろうと。
その通りですね。
働くこととは誰かとつながること。
自分ひとりではなくて、いろいろな人とつながることが、
生きているということなのでしょう。
あ~、今日は仕事サボって、どこかへ行っちゃいたい
・・・なんて時々思いますが、
仕事にはお金を得ることだけでなく、また別の大切な意味があるわけですね。
時々はそれを思い出すことにしましょう・・・。

満足度★★★★☆


「天才柳沢教授の生活 27」 山下和美

2009年03月19日 | コミックス
天才柳沢教授の生活 27 (27) (モーニングKC)
山下 和美
講談社

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このシリーズはずっと読んでいるのですが、
記事にするのは初めてかもしれません。
TVドラマでやっていたこともあるので、ご存知の方は多いでしょう。

Y大経済学部教授、柳沢良則。
往路は右端を歩き、横断歩道以外で道を渡らない。
安くてうまい"さんま"のためなら、足を棒にしても歩きつづける。
本書は、道路交通法を遵守し、
自由経済の法則に忠実な学者の、
克明で愉快な記録である。

・・・ということで、この糸のような目の老教授、
一見気難しく怖そうなのですが、好奇心旺盛で人間が大好き。
どんな人にも偏見なく、
パンクのオニーサンでもホームレスでも、
興味がわけばどんどん親しくなって、自分の知識の枠を広げてゆく。
しかも理屈の通らないことは大嫌いですから、
とことん、自分が納得するまで突き進む。
しかし、幼児や女たちの、時に理屈の通らない言動も、
それはそれとして受け入れる技量も身に付けている。
実際にこんな人がいたら、何でも見透かされそうで怖い気もしますが、
でも、楽しそうです。

ときに、このストーリーは時をさかのぼり、
若き日の教授が登場します。
こちらは、まだ目が開いておりますが、三白眼で、これまたコワイ!
いかにも切れ者のハンサムです。
すっかりコロコロと肉付きも良くなり、
普通のオバサンっぽくなってしまっている教授の奥様も、
若い頃はかわいらしい美人。
このひと時代前のストーリーもなかなか楽しめます。


さて、この27巻から一つをご紹介しましょう。
珍しく教授がタクシーに乗ります。
その運転手はかなりのご高齢に見えますが、なぜか機嫌が悪い。
実はその前に乗せたお客にいやなことを言われてしまったのです。
愛想よく、自分のこれまでの人生などを語っていたのですが、
その客は「つまんない人生だね」とひとこと。
それで落ち込んでしまっていたのです。
もう、お客と話すのなんかやめよう。老運転手はそう思います。
しかし、柳沢教授は、カーナビのこと、タクシー料金のこと、
根掘り葉掘り聞いてくる。
教授は
「タクシーは、乗車している間は乗客と運転手という一期一会の関係が成立している」
といいます。
住所を告げただけで、
スムーズに進むこのタクシーに乗ることができてラッキーだったと。
はっとした老運転手は、そこでやっとまた自分の人生を語り始めました。
最後のシーンでは、その老運転手が自宅に帰りつきます。
奥さんが花束を持って出迎える。
その日は彼の34年間勤務して引退の日だったのです。
最後にいいお客に出会えてよかった・・・。
しみじみきますねえ・・・。

満足度★★★★☆


つみきのいえ

2009年03月17日 | 映画(た行)
つみきのいえ (pieces of love Vol.1) [DVD]

東宝

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思い出の階層
                   * * * * * * *

アカデミー賞受賞決定の日に、購入申し込みをしたのですが、やっと届きました。

1人のおじいさんが、海の上の家にたった一人で住んでいます。
ある朝起きてみると、部屋中水浸し。
海水の水位が上ってきたのです。
おじいさんはレンガで、屋上に新しい家を造ります。
こうして、これまで何度も、上へ上へと家を継ぎ足してきたことがわかってきます。
あるときおじいさんは、これまで住んでいた水没した部屋へ行ってみるのですが・・・。

家を一つ一つ降りていくうちにその頃の思い出が浮かんでくる。
ここに住んでいた頃にはこんなことがあって・・・
その下の時にはあんなことが・・・
こうしてみるとこの家は、おじいさんの人生そのもの。
いわば思い出の階層。
階を下るごとに、若い時代に還っていくのです。
ほとんどの人生を共にした今は亡きおばあさん。
今はもう消え去ったその頃の幸せ。
たった一人の切なさと、今はもうないものへ向けた郷愁が漂います。


わずか12分という作品ですが、なんと多くのことを語っていることか。
結局私たちは、おじいさんの一生を見ることになるのですから。

そもそも、何でこんなふうに町が水没してしまったのか、
そういうことには一切触れていません。
おそらく、地球温暖化・・・そのようなことが頭をかすめるのですが、
だからといって、この作品がエコロジーを主題としているわけでもありません。

でも、この世界観は、実にいろいろなことを私たちに想像させてくれます。
おじいさん以外の人たちは、
かなり頑張って同じように家を継ぎ足して暮らしていたようですが、
耐え切れず、よその地面のある土地へ行ってしまったようです。
夜、明かりのある家が近くにはないんです。
でも、だから無人島に住んでいるようなものかといえば、そうでもない。
行商の船がよく立ち寄るんですね。
レンガも買わなければならないし、食料品、日用品、
必要なものはいくらでもある。
このような行商船があるということは、
多分他にも同様の暮らしをしている人はまだ残っていて、
ところによっては、
一家で楽しく賑やかに魚を採りながら暮らしている家もあるのかもしれない。

いつも波音が聞こえて、自分の家で釣りができる。
毎夕、ワインを一杯。
こんな暮らしも、悪くはないかもしれません。
たぶん、娘さん一家は遠くの土地で元気なんでしょうね。
年に何度か訪ねてきては
「お父さん、もういい加減こんな不便なところは引き上げて一緒に暮らしましょう」
といつも言っている。
でも、頑固なおじいさんは、
おばあさんの思い出いっぱいのこの家を出ようとしないんです。
…そんなドラマまで思い浮かべてしまいました。

DVDには、ナレーションのないものと、
ナレーション入りのもの、二つのバージョンが納められています。
ナレーションがないもので十分ですね。
こちらの方が万国共通、イマジネーションが広がります。
でも、立て続けに見ても、やはり泣けてしまいました。
私のお気に入りDVDの一つとなりそうです。

2008年/日本/12分
監督:加藤久仁生


8 Mile

2009年03月16日 | 映画(あ行)
夢をあきらめるのはいつ・・・?

             * * * * * * *

ラッパー、エミネムの半自伝的青春ストーリーです。
舞台はデトロイト。
ジミーはプレス工場で働く青年。
ラッパーとしてのデビューを夢みていて、
いつもラップのリリック(歌詞)をメモに書き付けたりしている。
彼女の家を追い出されたというジミーは、
今は懐かしき黒いゴミ袋を肩に背負って歩く。
なんとこれは着替えが入っているバッグ替わりなんですね。
仕方なく実家に戻れば、そこはトレーラーハウスで、
母親が得体の知れない男(実はジミーと同じハイスクールの先輩)と住んでいるけれど、
家賃の滞納で退去命令が出ているという具合。

ラップはほとんど黒人のものとされています。
ジミーの実家のこのあたりも、
デトロイトでは8mileという通りのこちら側は
主に黒人の住むスラム街。
そこに住む白人のジミーにとっては、やはりラップは自分の生活の一部なのです。
しかし、黒人ばかりのラップ・バトルでは
周りのあからさまなヤジに臆してしまって、逃げ帰ってしまう。

彼は友人にふと漏らします。
「夢はいつあきらめればいいんだろう・・・。」
もういい加減ラップなんかやめて、
もっときちんとした仕事を探すべきなのか・・・そんな思いが胸をよぎるのです。


この物語は決してエミネムのサクセスストーリーで終わっていません。
ごく普遍的な青年の熱い思いや、
しかしなかなか思い通りに行かない周りの状況を語っている。
これは誰にでも当てはまる物語なんですね。
だから、私たちの胸を熱くする。
けれど、やはり、夢はあきらめた時が終りなのです。
エミネムがそう語っています。


私はこの作品を公開時に見ていまして、
すっかりエミネムのファンになってしまいました。
それで、以前からこのDVDは手元に置きたいと思っていて、
とうとう購入しちゃったんですよ!
この映画を見る以前には、ラップなんてほとんど聴いたことがなかったんです。
歌詞は字幕を通しているのがなんとも歯がゆいのですが、
意味は不明でも、このリリックは耳に心地よい。
(歌詞の意味は多分ひどいスラングなので、分からない方が幸いかも・・・)
リリックはきちんと韻を踏んでいるんですね。
だから、このラップ・バトルというのも、
ただ言いたいことを言って相手を負かしているのではなくて、
いかに機転を利かせて韻を踏んだ単語を捜しつつ
自分の思いを説得力のある言葉で紡ぐのか・・・、
しかも、リズムに乗ってと、
こういう非情にデリケートな作業のわけです。
誰にでもできることではありません。
・・・というわけで、オバサンには多分珍しいと思うのですが、
エミネムのCDは何枚か持っていて、時々聞いております。
娘たちには「そのお経みたいな曲、ヤダ」といわれましたが・・・。

2002年/アメリカ/110分
監督:カーティス・ハンソン
出演:エミネム、キム・ベイシンガー、ブリタニー・マーフィー、メキー・ファイファー


Eminem - Lose Yourself (8 Mile Soundtrack).avi



「そろそろくる」 中島たい子

2009年03月15日 | 本(その他)
そろそろくる (集英社文庫)
中島 たい子
集英社

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「そろそろくる」中島たい子 集英社文庫

先に、「漢方小説」を読み、ファンになりまして、このたびも迷わず買いました。

そろそろくる。・・・一体何が?ということなんですが。

この本は“PMS”がテーマ。
PMSってご存知ですか?

PMSとは・・・、私も知りませんでしたが、
“月経前症候群”のこと。
女性が生理前にイライラしたり、落ち込んだり、
精神的な変調を来すことを言います。
もちろん個人差がありまして、
誰にでも明らかに現れるというものでもありません。


そもそも、プロゲステロンとエストロゲンという
ホルモンの相対量の変化からくる、
という、きちんとした医学的根拠のあるものなのです。


先の「漢方小説」でもそうでしたが、著者はたくみに、
この精神と肉体の表裏一体の関係を小説の主人公像に反映させています。

気持ちの不安定さが体調の不調を呼ぶのか。
それとも、体調の変化が精神の不安定さを呼ぶのか。
これはタマゴとニワトリ、どちらが先?の論にも似て、
どちらがどうとも言えない。
まさに表裏一体であり一蓮托生でもある
…ということなのだろうと思います。

しかし、この
『気持ちや体調の上下の振幅の大きい私も、私自身であるには違いなく、
そんな自分をきちんと見つめて、大切にしたい。』
そんな思いが伝わってきます。
そしてまた、そんな自分と付き合っている相手にも、
それは理解して欲しいし、
丸ごとの自分を受け入れて欲しい。そのようにいっていると思います。


本の中にありましたが、
女性が閉経までに迎える生理は、平均500回だそうで・・・。
主人公たちも、気が遠くなりそう・・・とぼやいていましたが、
全く、月々来るこのうっとうしいお客さんは、できればなくて欲しい。

以前にも書いたかもしれないのですが、
私は、長い歴史の中で、
女性がほとんど社会の前面に出てこられなかったのは、
この生理のためだと思うのです。
それが今、生理用品の目覚しい進歩と普及により、
どんどん女性が社会の前面に出られるようになった。

素晴らしいことなんですが、
でもそれは処置の点で便利になっただけで、
生理前のこのPMSや生理中の腹痛やらなにやら・・・、
そういうものが変わったわけではないですね。

一万年後の未来なら、
女たちの生理はもっと楽に進化しているのでしょうか・・・?

この本は、男性が買うのにはちょっと勇気がいりそうですが、
実は男性にこそ読んでもらいたい気がします。
そうすれば女たちの多少のヒステリーにも目をつぶってもらえそう・・・。

満足度★★★★☆