映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

0.5ミリ

2016年02月28日 | 映画(ら行)
さすらいの介護人



* * * * * * * * * *

本作全編で196分ということで、録画してあったものなのですが、
ついそのうち・・・と思いながら億劫で見ないでいたものです。
重い腰を上げてこのたびようやく視聴。
ところが、なーんだ!でした。
全然飽きず、そして退屈もせず、楽しんだ196分でした。



正規の仕事を失い、住むところもお金もなくしてしまった、
介護士のサワ(安藤サクラ)。
そこでやむなく、問題を抱えた老人を脅迫し、強引にその家に住み込んでしまいます。
ところがその実、サワはピカ一の介護人でした。
老人の生活の世話はもちろん、
食事をつくったり、老人を散歩に連れ出したり。
何よりも彼女は無意識でお年寄りの心に寄り添うのです。
少々ボケたお年寄りの繰り言にも真剣に耳を傾ける。
始めは迷惑この上なく思っていた老人も、
やがて彼女のおかげで安らぎを覚えるようになってくる。
たとえ0.5ミリでも、人の心に寄り添えればいい、
彼女はそんなふうに思っているようです。



なんだか彼女が介護士版「ブラック・ジャック」みたいに思えてきました。
それぞれの人のエピソードが幾つか移り変わっていくので、飽きないのです。
そして、ラストで驚いたことに振り出しに戻る!!
いえ、過去に戻るのではありません。
一番初めのエピソードの人物と偶然再会し、
その時に残っていた謎が解き明かされるのです。
しかも相当の驚きを伴って!!
ただ、地味な作品・・・などと思っていると足元を救われます。



老人問題とか介護の問題とか、
そういう大上段に構えた説教臭さは全くありません。
年代物だけどきっちり整備された車に乗って、ひたすら漂うサワと、
心をほんのちょっぴり接近させるお年寄りたちとの物語。
が、登場するのはお年寄りばかりではなく、ついには一人の青少年を救う事にもなる。



う~ん、いい作品でした!!



0.5ミリ [DVD]
安藤サクラ
TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)


「0.5ミリ」
2013年/日本/196分
監督・脚本:安藤桃子
エグゼクティブ・プロデューサー:奥田瑛二
出演:安藤サクラ、津川雅彦、柄本明、坂田利夫、草笛光子、土屋希望

満足度★★★★★

「雨を見たか 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理

2016年02月27日 | 本(その他)
龍之進の成長はちょっぴりさみしい

雨を見たか―髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)
宇江佐 真理
文藝春秋


* * * * * * * * *

北町奉行所町方同心見習い組には六人の若者がいる。
伊三次の仕える不破友之進の嫡男、龍之進を始め、
緑川鉈五郎、春日多聞、西尾左内、古川喜六、橋口譲之進という面々。
俗事に追われ戸惑いながらも、江戸を騒がす「本所無頼派」の探索に余念がない。
一方、伊三次とお文の関心事は、少々気弱なひとり息子の成長だが。


* * * * * * * * *

シリーズ7巻目。
前巻に引き続き、不破龍之進たち同心見習い組と、
江戸を騒がす「本所無頼派」のことが縦軸となってストーリーは進みます。
この辺り、伊三次はすっかり脇役的存在になっているのですが・・・。
いや、私自身龍之進くんの大ファンになってしまっているので、別に構いません。
若いっていいなあ・・・と、
つい、いかにもオバサン的感慨にふけってしまいます。


また、龍之進の幼い妹・茜と伊三次の息子・伊与太の様子もとっても微笑ましい。
冒頭で茜は人買いにさらわれかけるのですが、なんとか無事でした。
ハラハラしますね・・・。
でもその影には、借金のため身売りさせられようとしている娘の悲しい運命が・・・。


茜はものすごく活発で言葉も早い。
ちょっぴり積もった雪の上で転げまわるので、
体中どろどろになって、大人たちをうんざりさせたりします。
(北海道のさらさら雪で遊ばせてあげたい!!) 
一方伊与太はおとなしく言葉も遅い。
実際茜のほうが少し歳上なので仕方ないところはあるのですが。
でもちょっぴり気持ちがくさくさしているいなみさん(茜の母)が
茜を連れてお文さんのところに立ち寄り、
女同士のおしゃべりでストレス解消、などというシーンも、いいですねえ。
母二人のおしゃべりの間、子供たち二人は仲良く家の前で砂のお山作り。
肉食女子と草食男子か。
さて、この先どうなりますか。


表題の「雨を見たか」は、龍之進が心のなかの暗く寂しい気持ちを
「雨」と言い表しているのです。
空は晴れても心のなかは土砂降りということもあるよね・・・と。
着々と大人への階段を登っている龍之進。
こんなシーンもあります。
伊三次が珍しくドジを踏んでガセネタを掴んできた。
そのことを龍之進が軽蔑したように見るのです。
幼いころから知っている龍之進。
そして、身分が下である伊三次に対してもどこか頼りにしている感のあった龍之進が、
この時初めて上から目線。
伊三次はそのことにショックを受けてしまうのです。
でも、どうにもならない当時の身分制度と言うもの。
落ち込む伊三次をお文さんがそっと慰めます。
「わたしも雨を見ましたよ。」
龍之進にそのように言う伊三次は、ちょっぴり割りきりましたね。


「雨を見たか 髪結い伊三次捕物余話」宇江佐真理 文春文庫
満足度★★★★☆

パプーシャの黒い瞳

2016年02月26日 | 映画(は行)
ジプシー詩人の孤独



* * * * * * * * * *

実在のポーランドのジプシー詩人、
ブロニスワヴァ・バイス(愛称パプーシャ)のストーリーです。



ジプシーというのは文字を持ちません。
けれど、パプーシャは子供の頃から言葉や文字に興味を持ち、
独学で文字を覚えました。
父親ほどに年の離れた男との結婚や、
ナチスの迫害(ユダヤ人だけじゃなかったんですね!)などを経て時が進む・・・。
彼女は生活のことや自分の思いを言葉にして紡ぎます。
ある日、秘密警察から身を隠すため、
イェジ・フィツォフスキという青年が彼らとともに暮らすことになります。
そこで彼は、パプーシャに詩人としての才能を見出すのです。
フィツォフスキは、2年間のジプシー生活の後、
ジプシーの生活をまとめた本にパプーシャの詩を加えて出版しました。
それが思わぬ評判になったのです。
ところが、このことはジプシー社会では受け入れられなかった。
「古くから伝わるジプシーの秘密を外部に晒した」として、
パプーシャとその夫を村八分のようにしてしまったのです。



冒頭の方で、パプーシャが生まれた時のシーンがあります。
母親が町のショーウィンドウに飾ってあるお人形に憧れて
パプーシャ(=人形)という名前をつけたのですが、
周りからその名前は不吉だと言われてしまうのです。
聡明で、文字を読みこなすようになったパプーシャに
不吉なことなど何もない、と思えたのですが、
その文字を読むことが逆に不幸を招くことになってしまったという悲しい運命。
一般社会で彼女の詩がどんなに賞賛されても、
彼女は自分の愚かさを呪うだけ。



定住せずに旅から旅への生活。
人々は彼らを差別し、時には危害を加えたりもする。
それも大変なのですが、でも、彼らにはまだ自由があった。
けれど二次大戦後、一般社会が落ち着きを見せた頃から、
またジプシーたちの受難が始まります。
ポーランドのジプシーに対する強制的な定住政策。
無理やり押し付けられた家で、一気に彼らが精彩を欠いていくように思えました。
そんな時と同じくして、更にパプーシャは、
周りから爪弾きにされ、孤立を深めていくのです。
幼い時に旅をした野や森や水辺がどんなに懐かしかったでしょう・・・。


全編モノクロの本作はこんな切ない物語にふさわしい。
特に、旅をする馬車やジプシーたちの群れがくっきりと水面に写っているシーンが
ため息が出るくらいに美しかった。
水鳥が飛びたつシーンも、ジプシーの生活を暗示しているようでステキでした。



「ジプシーが文字も歴史も持たないのは、それをするのがつらすぎるから・・・」

パプーシャの言葉が重く残ります。

パプーシャの黒い瞳 [DVD]
ヨビタ・ブドニク,ズビグニェフ・バレリシ,アントニ・パブリツキ
紀伊國屋書店


「パプーシャの黒い瞳」
2013年/ポーランド/131分
監督・脚本:ヨアンア・コス=クラウゼ、クシシュトフ・クラウゼ
出演:ヨビタ・ブドニク、スビグニェフ・バレリシ、アントニ・パブリツキ

歴史発掘度★★★★☆
画面の美しさ★★★★★
満足度★★★★☆

ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります

2016年02月24日 | 映画(な行)
思い出が詰まった部屋



* * * * * * * * * *

ブルックリンのアパートメント最上階(5階)に、
新婚以来40年暮らしている画家アレックス(モーガン・フリーマン)と
妻ルース(ダイアン・キートン)。
この部屋は、眺めもよく日当たりもいいので気に入っているのですが、
エレベーターがないのが最大の難点。
特にアレックスは年齢的にも5階までの階段がきつくなっています。
それを気遣って、ルースはこの部屋を売ることを提案。
アレックスはあまり気が乗らないのですが、妻の熱意に負けて承諾。
物語はこの部屋の内覧会に多くの人がやってくるところから始まります。



この週末、彼らの愛犬ドロシーがヘルニアの手術をうけることになったり、
近所でテロ事件が発生し、犯人が捕まらず逃走中だったり、
周りの状況も落ち着かないのですが、
二人は内覧会だけでなく、新居探しまで始めたりして、なんともめまぐるしい。
普段は子どももなく穏やかな日常をゆったりと過ごしていたと伺える二人なのですが、
実際てんやわんやですね。
アレックスが新聞の物件広告を見て、
「これがいい。ここが条件がぴったりだ!」
と指差したその広告が、彼らの今住んでいる家だったりする。
まあ、この辺で答えは出ているようなものですが・・・。



合間にアレックスが若いころの自分たちのことを思い出します。
初めて出会った日。
この部屋に二人で越してきた日。
二人の間に子どもは望めないとわかった日。
愛犬ドロシーが来た日。



思い出がたくさん詰まったこの部屋。
やはり、去りがたいですよね。
実際、こじんまりしていて住み心地が良さそうな家なのです。
いいなあ・・・と思う。
ブルックリンというのも、なんだか住みやすそうな街ですよね。





ところで、あまりにも馴染んでいたので、さほど意識しませんでしたが、
黒人と白人の夫婦です。
今ならさほどでもないけれど、
40年前ならかなり奇異な目で見られたでしょうね。
ルースは家族に結婚を祝福されなかった、というようなシーンも有りました。
そんな二人だからこそ、通常以上に、この部屋で絆を深め合ってきたのでしょう。



じんわりと温かい気持ちになる良作。
最後に少女が招かれてお茶を飲む1シーンが、是非欲しかったなあ・・・。
妙にこの子が気に入ってしまった、私。



「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」
2014年/アメリカ/92分
監督:リチャード・ロンクレイン
出演:モーガン・フリーマン、ダイアン・キートン、シンシア・ニクソン、クレア・バン・ダー・ブーム、コーリー・ジャクソン
いい夫婦度★★★★☆
満足度★★★★☆

「野球の国のアリス」 北村薫

2016年02月23日 | 本(その他)
左右反転、鏡の国の冒険

野球の国のアリス (講談社文庫)
北村 薫
講談社


* * * * * * * * * *

春風に誘われたような気まぐれから、
アリスは新聞記者の宇佐木さんのあとを追い、時計屋の鏡の中に入ってしまった。
その日は夏休みの「全国中学野球大会最終戦」の前日。
少年野球のエースだった彼女は、
負け進んだチーム同士が戦う奇妙な大会で急遽投げることになる。
美しい季節に刻まれた大切な記憶の物語。


* * * * * * * * * *

本作は、講談社「ミステリーランド」という
ジュニア向けミステリの描きおろしシリーズとして描かれたもの。
したがって、ジュニア向けではありますが、
常の北村薫氏とは少し雰囲気も異なり、やや遊び心も感じられる楽しい一作です。
題名からも分かる通り、「ふしぎな国のアリス」を下敷きにしています。


春休み、中学校への入学を待つアリスは、少年野球のエースでした。
でも中学ではもう体型も違う男子ばかりの野球部には入れないだろうと思っています。
そんな彼女の目の前を新聞記者の宇佐木さんが
「大変だ、大変だ」とつぶやきながら、時計屋の鏡の中に入っていってしまった! 
その後をついて、アリスも鏡の向こう側へ入り込んでしまうのです。
そこは元いた世界とそっくり同じ。
ただし、鏡の中なので左右が逆転しています。
そこにはちゃんとアリスの家もあってお母さんもお父さんもいつもと同じ。
けれど、文字が左右反転していて、読みにくいったらありゃしない。
そしてその世界にはなんと、「中学野球大会最終戦」などというものがある。
普通スポーツはトーナメントでどんどん勝ち進み、頂点に立つチームが決まるわけですが、
この大会は、負けたチームがどんどん負け進んで(?)、
最低最悪のチームを決めるというもの・・・。
もちろん、名誉なワケはありません。
とんだ恥さらし。
けれどそれを面白がる風潮がある、というわけなのですねえ・・・。
人は時として残酷なものです・・・。
アリスはそんな地元の最終戦候補に近いチームの助っ人をすることになりますが・・・。


何しろ始めが最悪。
一番バッターとして出場した彼女は、見事にヒットを飛ばしたのはいいのですが、
走りだしたのは、元いた世界の一塁方向。
実はこの世界は左右逆転しているので、3塁方向に走らなければいけなかったのです。
大失敗!!


元気なアリスの様子も楽しいのですが、同じ年の男子たち、
文化系で聡明そうな安西くん、
スポーツの天才でちょっとチャラい五堂くん、
寡黙だけど頼りになる兵藤くん、
それぞれに魅力があって、悩んじゃいますね・・・(何を?)
私もちょっと息抜き感覚に楽しませてもらいました。


「野球の国のアリス」北村薫 講談社文庫
満足度★★★☆☆

ゴスフォード・パーク

2016年02月22日 | 映画(か行)
普段は意識されないけど、ちゃんと「いる」人々



* * * * * * * * * *

本作、実は公開時に見たのですが、大半を寝て過ごしてしまい、
それなのにラストだけしっかり見て、犯人だけわかってしまったという
最悪の体験をした苦い思い出があります。
それがもう15年も前だというのにも我ながら驚いてしまうのですが、
遅まきながらこのたびリベンジ。
(が、それにしても何故かやっぱり犯人だけ覚えているのだなあ・・・残念)


その15年前、よほど体調が悪かったのだろうと私は思っていたのです。
決して作品のせいではないのだろうと・・・。
しかしこのたび見てもやっぱり少し眠気が・・・。
が、まあ一応内容は把握しました。
全体の色調が暗いし、登場人物があまりにも多いので、
誰が誰やらわかりにくい(特に私は見分けが苦手!)、
こんなところが眠さを誘う要因のようです。



が、それにしても興味深いところはたしかにあります。
1932年英国。
郊外の貴族のカントリーハウスである、ゴスフォード・パークに、
何組かのお客が狩りのために集まりました。
貴族たちとその召使いたち、
そしてハリウッドから来た映画プロデューサーたち。
ところがまもなくこの館の主が変死。
果たして犯人は誰?というミステリ。
舞台はあのアガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」に近いのですが、
本作はそういうミステリにつきもののおどろおどろしさがありません。
名探偵も出てきません。
この館に集う様々な人達の言動を見聞きする、伯爵夫人の付き人であるメアリーが、
密かに真相を突き止める、そういう物語です。


特筆すべきなのは、通常このようなストーリーに召使はほとんど登場しませんが、
本作は彼・彼女らがむしろ主役なのです。
実際には貴族の優雅な生活を支える下層の人々がたくさん働いています。
召使、キッチンのまかない、それぞれのお客の付き人・・・。
地下であったり、屋根裏であったりしますが、
彼らの生活スペースははっきりと貴族たちとは隔てられているのです。
そしてこの事件の真相も、そういう貴族と下層の人々の関係性が深く絡んでいるという、
考えさせられてしまうストーリー。


ハリウッドから来た客の一人がピアノの弾き語りをはじめます。
貴族たちはトランプをしながら、半ばうるさそうにしているのですが、
ドアの影や階段の下で、召使いたちがうっとりと聞き惚れています。
普段の生活の中で、ゆっくりと生の音楽を聞くなどということがほとんどないのでしょう。
興味深いシーンでした。


時代は二次大戦前夜。
イギリスの貴族と言っても、もうほとんどが没落しかけています。
こんなに大勢の人を雇わねばならないので、確かにやりくりは大変そう。
でも体面は取り繕わなければならないし、
なのに気持ちだけは尊大で傲慢。
こうした貴族の生活を皮肉に描いてもいるわけです。
この階級の有り様を、アメリカ人たちが珍しそうに見ているというのもまた面白いですね。
このように実際、良い作品ではあるのですが・・・
あまりにも刺激が少ない。
ちょっと残念。

「ゴスフォード・パーク」
2001年/アメリカ/137分
監督:ロバート・アルトマン
出演:ケリー・マグドナルド、マイケル・ガンボン、クライブ・オーウェン、マギー・スミス、ヘレン・ミレン、クリスティン・スコット・トーマス
「ゴスフォード・パーク」
身分制度の問題度★★★★☆
ミステリ度★★★★☆
満足度★★★.5

スティーブ・ジョブズ

2016年02月20日 | 映画(さ行)
3シーンで、人生を浮かび上がらせる



* * * * * * * * * *

2011年に56歳で亡くなったスティーブ・ジョブズ。
もう5年も前になりますか・・・。
もはや伝説の人物ですねえ・・・。

本作は氏の半生を描くのではなく、
彼の節目となる3つの大きな新作発表会寸前の状況を描いています。



1984年 Macintosh発表会。
1988年 NeXT Cube 発表会。
1998年 iMac 発表会。

どれも直前40分の舞台裏を描いているのですが、
準備に追われ緊迫した雰囲気の中、
同じ人達がその都度スティーブのもとを訪ねてくるのです。
時代が進み、人物関係が微妙に変化していくさまを見るのはなかなか興味があります。
特に、1988年は、スティーブ・ジョブズがアップル社から放逐されていた時。
彼の信念は分かる。
けれども、あまりにも自分のやり方にこだわるあまり
多くの人と軋轢を生じていくのも彼ならでは・・・といいますか、
でも普通に「いい人」なら絶対に「伝説の人」には、なり得なかったでしょうね。
このように、たったの3つのシーンを切り取るだけで
その人の「人生」をくっきり浮かび上がらせる。
ナイスな構成なのでした。


ある人はいいます。
「君はプログラムも組めないし、自分でデザインするわけでもないのに・・・。」
なのになんでそんなに威張っているんだ・・・という訳ですね。
けれどスティーブは言う。
「俺は指揮者なんだ。」
自分で楽器を演奏しないけれども、
全体を見通し、組み立てて、自分の音楽を作る。
まさにそういう役割を務めている。



では、彼は何を目指していたのか。
それは一番初めの時に、娘・リサが実際に示していました。
これまでコンピュータなど触ったこともない子どもが、
誰にも教わらずに、Macintoshで「お絵かき」ができてしまったのです。

コンピュータ言語なんかわからなくてもいい。
誰もが簡単に気軽に向き合って、そして楽しめるもの。
オフィスだけではなく、個人の情報を自在にやり取りする、
人々の生活を根底から変えるようなマシン・・・。
いま、まさにそのような世界になっているわけですね。
30年足らずで。



常に緊迫した雰囲気の中で、怒涛のようなセリフの応酬。
とにかく圧倒され、そしてたかが30年前からの出来事ではありますが、
ノスタルジーをも感じる。
何しろ私自身、初めて買ったパソコンはiMacなのです。
懐かし~!! 
いや、多分物置の奥の方にまだあるはずなのですが・・・。
なんにしても抜群に映画力のある作品であります。



本作はまた、その時代にあわせて1984年のシーンが16ミリフィルム、
1988年が35ミリフィルム、
1998年がデジタルカメラで撮られているそうです。
う~ん、そんなこととはちっとも気付かなかった・・・。
これから見る方は、ぜひ注意してみてくださいね。


ラスト、黒いタートルネックにジーンズのジョブズ氏がやはり馴染み深いです。
マイケル・ファスベンダーははじめの方、特に似ているとは思わなかったのですが、
このスタイル、特にメガネのせいかもしれませんが、よく似ています。
今後アップルの新作発表のプレゼンは、彼に頼んではどうでしょう・・・?


「スティーブ・ジョブズ」
2015年/アメリカ/122分
監督:ダニー・ボイル
出演:マイケル・ファスベンダー、ケイト・ウィンスレット、セス・ローゲン、ジェフ・ダニエルズ、マイケル・スタールバーグ

緊迫感★★★★☆
満足度★★★★★

「君を乗せる舟 髪結い伊三次捕物余話」宇江佐真理

2016年02月19日 | 本(その他)
八丁堀純情派

君を乗せる舟―髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)
宇江佐 真理
文藝春秋


* * * * * * * * * *

伊三次の上司である定廻り同心の不破友之進の嫡男、龍之介もついに元服の年となった。
同心見習い・不破龍之進として出仕し、
朋輩たちと「八丁堀純情派」を結成、
世を騒がせる「本所無頼派」の一掃に乗り出した。
その最中に訪れた龍之進の淡い初恋の顛末を描いた表題作他全六篇を収録したシリーズ第六弾。


* * * * * * * * * *


本巻の副題をつけるとすれば、ズバリ、「八丁堀純情派」。
これでキマリです。
同心・不破友之進の息子、龍之介が元服し、
龍之進と名を改めます。
とは言え、まだまだ少年というべき年齢。
前髪を落として、髷を結う。
彼は、初めて見るその顔が、なんだか間が抜けたように見えて、
ガックリ来たりしています。
そんな彼の初々しい心情がなんとも微笑ましい。


彼は同じ年頃の子供たちとともに見習い同心として出仕をはじめます。
折しも、江戸の町を「本所無頼派」というやんちゃな青年たちが騒がせている。
彼らは今のところ何か悪さをするわけではないのですが、
まあ、暴走族みたいなものでしょうかね。
徒党を組んで騒ぎ回り、
のどかに暮らしている人々の眉を少しばかりひそめさせるような存在。
今になにか仕出かすのではないかと、注意を払われているのです。
見習い少年たちの監督役の監物は、それになぞらえて、
冗談半分に龍之進たちを「八丁堀純情派」と呼ぶ。
純情派の彼らは、そんなわけもあって、
無頼派の動向が非常に気になります。
監物に苦言を呈されながらも、独自に無頼派のことを調べ始める。
そんな時、龍之進の淡い初恋の人「あぐり」との再会があるのですが、
何故か彼女は無頼派の一人と頻繁に会っている様子・・・。


龍之進の彼の人へのあこがれはまた、かなわぬままに終わりをつげ・・・
「君を乗せる舟」のところでは、思わずもらい泣き・・・。
お文さんはいいます。
龍之進はあと10年、20年先には女性たちがみな振り返るようないい男になる!!と。
うひゃ~、楽しみです。


本巻はまた、この捕物余話の中でも新機軸、「怪異」に踏み込んだ内容にもなっています。
巻頭の「妖刀」では、そのものずばり、
まるで人の生き血を浴びたがっているような、いわくつきの「妖刀」が登場し、
思わぬ事件が巻き起こる。


「おんころころ」では、赤子の伊代太が疱瘡にかかり、命の危機に。
伊三次の不思議な体験と祈りの効が奏したのや否や、
一命をとりとめますが・・・。
こんなときはお文さんのほうがどっしりと肝が座っています。
伊三次はオロオロとするばかり。


全く、6巻目にしてますます面白い、当シリーズなのでした。


「君を乗せる舟 髪結い伊三次捕物余話」宇江佐真理 文春文庫
満足度★★★★★


キンキーブーツ

2016年02月18日 | 映画(か行)
最高の自分らしさで



* * * * * * * * * *

代々続いた田舎の靴工場を継いだチャーリー。
しかし、今や一生ものの高級靴よりも量産ものの安い靴が売れる時代。
実はすでに倒産寸前なのでした。
そんな彼が、ロンドンでドラッグクイーンのローラと知り合って、
あることを思いつきます。
ドラッグクイーンというのはあまり馴染みのない言葉なのですが、
つまり、男性が女装をして歌や踊りのショーをする。
その花型スターということなんですね。
このローラは黒人でしかも筋肉もモリモリ。
この映画の冒頭が、子供の頃の彼女が赤いハイヒールを履いて
ダンスのステップを踏むというシーンなのです。
同じ場所が後にもまた出てくる、印象的なシーン。
彼女の彼女らしさの始まりなんですね。


さて、チャーリーは性倒錯には特別興味はないけれども、
彼女たちが女性用のブーツが足に合わなくて苦労していることを知ります。
始めから男性用のセクシーなブーツを作ってはどうだろうか。
需要はかなりありそうだ。
偉大な父親への負い目から常に自信なさ気なチャーリーなのですが、
この時ばかりは思い切ってこれまでの紳士靴の製造をきっぱりとやめて、
セクシーブーツ(=キンキーブーツ)を専門に作ることを決心したのです。
しかし従業員たちは戸惑いを隠せません。
ハナから偏見を持って嫌悪感を露わにするものも・・・。
でも家を抵当に入れてまでも、
この新事業に取り組もうとするチャーリーの気持ちが次第に伝わって・・・。


一方ローラも、自信満々でドラッグクイーンをしているわけではありません。
彼の嗜好のせいで父親から勘当されたという負い目。
そしてまた世間の偏見にも晒されます。
女装を解いて男の姿に戻ると途端に意気地がなくなってしまう。
あ、このローラ役は「それでも夜は明ける」のキウェテル・イジョフォーだったんですね。
女装のメイクは不気味ではなくて、結構ステキです。
セクシーで魅力的。


自分が自分らしくあろうとする時、それは自分だけが頑張ろうとしてもダメで、
一人でもいい、それを理解して寄り添ってくれる人が必要なのでしょうね。
そうすれば、最高の自分らしさでいられる。
実話を元にした作品ということで、実際商機はどこにあるかわからない。
アイデアと度胸ですね!

キンキー・ブーツ [DVD]
ジョエル・エドガートン,キウェテル・イジョフォー,ジェミマ・ルーパー
ワーナー・ホーム・ビデオ


「キンキーブーツ」
2005年/アメリカ・イギリス/107分
監督:ジュリアン・ジャロルド
出演:ジョエル・エドガートン、キウェテル・イジョフォー、サラ=ジェーン・ポッツ、リンダ・バセット
生き方度★★★★★
セクシー度★★★★☆
満足度★★★★★


キャロル

2016年02月16日 | 映画(か行)
惹かれ合う理由



* * * * * * * * * *

本作は1952年に、パトリシア・ハイスミスによって発表された小説。
けれど、当時は同性愛は法に触れることもあり、
別名で出版されたといいます。
今や同性婚も認められつつある時代。
だからわりと何気なく見てしまうのですが、
本当はもっと危機感のある作品なのでしょうね・・・。
ただ本作は時代性も考慮して、
ことさらに差別や罪悪感をオーバーに描くことは避けています。





1950年代のニューヨーク。
カメラマンの夢を持つテレーズ(ルーニー・マーラ)は、
デパートのおもちゃ売り場でバイトをしています。
そこに訪れたのは、娘のクリスマスプレゼントを選ぼうとしているキャロル(ケイト・ブランシェット)。
ゴージャスな毛皮のコートをまとうエレガントなその夫人に、
テレーズは心を奪われてしまうのです。
そしてまた、キャロルもその時、清楚なテレーズの佇まいに魅せられてしまう。
彼女は後に「天使が舞い降りたようだった」と語ります。
心と心が惹かれ合うことには、性別など関係ない。
至高の愛を語るにふさわしい幕開けです。
テレーズが売り場に置き忘れた手袋をキャロルが送り届けることから、
交流が始まります。



キャロルは、離婚訴訟中で、
娘の親権が得られないかもしれないことに悩んでいます。
生活は裕福ですが、夫にとってはただの「お飾り」の妻で、
自分らしさを押し殺して生きていくことに耐えられなくなっているのです。



テレーズには恋人がいて、求婚もされているのですが、
何故かそんな気になりません。
それよりも本当にやりたいこと、カメラマンへの道を歩みたい。



いずれにしても、当時の社会の常識、
「女は結婚して家庭に入り、夫のために家庭を守る」という生き方に、
生きがいを見いだせないし、それを生きがいにしたいとも思わない。
この二人にはそういう共通項があるわけですね。
だから、たまたま出会って一目惚れ・・・ではありますが、
惹かれ合うことにはそれなりの理由というものがある、ということです。
そして互いに女性であるからこそ、
そうした「常識」の枠を軽く飛び越えることができるのかも。


例えば本作、男女の愛と置き換えればまあ、よくあるストーリー。
だけれど、本作の二人が同性でないとしたら、惹かれ合う理由が見つかりません。
女性が互いに自分らしさのまま生きていこうとするからこそ、
美しく力強い物語になる。
私としては当初の予想以上に感動してしまったのですが、
その秘密は多分こんなところにあるのだろうと思います。


一つ私が気になるのは、
キャロルは始め娘が欲しがっている「お人形」を買うつもりだったのですよね。
でもお目当ての物は売り切れてしまっていて、キャロルはテレーズに問う。
「あなたは4歳の頃に何が欲しかった?」
テレーズの答えはなんと「汽車とレールのセット」。
テレーズはやはり、普通の女性とはちょっぴり変わっているということを示すエピソードではありますが、
これ、本当にキャロルの娘は気に入ったのでしょうか?
作品中はその答えは示されませんでしたが・・・。
多分あのダンナは呆れて、ばかにしたでしょうね・・・。



旅に出た二人がホテルで、
そのほうが安上がりだからとシングルを二つではなく、ツインの部屋を取りますね。
テレーズはその夜ちょっぴり期待している。
けれどそこはキャロルが見事に焦らします。
こういうテクニックがなんとも言えず心憎い。
ちょっぴり意地悪な大人。
ゴージャスな毛皮のコートを、袖を通さず肩に羽織る。
そんな立ち姿が、どうしようもなくサマになる
ケイト・ブランシェットなのでありました・・・。


「キャロル」
2015年/アメリカ/118分
監督:トッド・ヘインズ
原作:パトリシア・ハイスミス
出演:ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ、サラ・ポールソン、ジェイク・レーシー

惹かれ合う理由★★★★★
満足度★★★★★

「さよならの手口」 若竹七海

2016年02月15日 | 本(ミステリ)
和製ウォーショースキー

さよならの手口 (文春文庫)
若竹七海
文藝春秋


* * * * * * * * * *

探偵を休業し、ミステリ専門店でバイト中の葉村晶は、
古本引取りの際に白骨死体を発見して負傷。
入院した病院で同室の元女優の芦原吹雪から、
二十年前に家出した娘の安否についての調査を依頼される。
かつて娘の行方を捜した探偵は失踪していた―。
有能だが不運な女探偵・葉村晶が文庫書下ろしで帰ってきた!


* * * * * * * * * *

若竹七海さんの女探偵・葉村晶シリーズ。
若竹七海さんは好きな作家なのですが、近年ご無沙汰していたようです。
この葉村晶は、13年ぶりの登場だそうで・・・。
でも大丈夫。
本作が初めてでも全く問題ありません。
前作を読んでいない私が言うのだから、間違いありません!
つまり、本作、この度の「このミス」で
ベスト10入りをしていたので、興味を持ちました。


つかみが、素晴らしくしゃれています。
ミステリ専門店でバイトをしている葉村晶が、古本の引き取りで
ある古い家を尋ねるのですが、倒壊寸前のボロ屋。
押し入れの底が抜けて転落したところに、なんと白骨死体が!! 
でもこんなエピソードはほんのオープニングの一コマでしかありません。
しかし、彼女がその後に受ける数々の苦難の発端ではありました・・・。


そこでたっぷりとカビを吸い込んで激しいアレルギー反応を引き起こした彼女が入院したその病院で、
同室の往年の女優・芦原吹雪から、
20年前に失踪した娘の行方を探してほしいと、依頼を受けるのです。
その20年前にも、探偵による捜査が行われたのですが、
葉村が調べていくうちに、その探偵もまた捜査中に行方不明になっていることがわかります。
深まる謎・・・。


この捜査を中心に、何やら怪しげな女性・倉嶋舞美との経緯もまた気にかかる。
全く、一冊で何度もオイシイ、中身の濃い上質のミステリ。
威勢のいい葉村晶さんも、大好きになりました。
これはやはり、シリーズの最初から読まなければ・・・。
それにしても彼女は本作で、最初に紹介した災難だけでなく、
その後も2度も入院が必要なひどい目に逢います。
しかし、めげない。
タフです。
和製ウォーショースキー。
せっかくだから、今後もまたシリーズ、続いて欲しいです!!

「さよならの手口」若竹七海 文春文庫
満足度★★★★☆

女神は二度微笑む

2016年02月14日 | 映画(ま行)
夫を探す妊婦・・・インド流サスペンス



* * * * * * * * * *

歌も踊りも排除した、インド製サスペンス。
本当にインド映画はどんどん洗練されてきていますが、
奥底にやっぱりちょっぴりユーモアが漂うのがまたいいですね。



本作はまず、インド・コルタカの地下鉄で毒ガスによる無差別テロ事件が起こります。
どうも日本のサリン事件を彷彿としてしまうのが、ちょっぴり苦い。
その2年後。
ロンドンから一人の美しい妊婦、ヴィディヤ(ビディヤ・バラン)がコルタカにやってきます。
彼女は一ヶ月前コルタカに来てから行方不明になってしまった夫を探しに来たのです。
地元警察の協力を得て夫の捜索を開始しますが、
宿泊先や勤務先にも彼がいた形跡がありません。
しかし、夫と瓜二つのミラン・ダムジンという危険人物が浮かび上がってきます。
また、手がかりを知りそうな人物が次々に殺されてしまいます。
国家情報局のエージェントや殺し屋も現れて、緊迫は深まりますが・・・。


おーっと、最後に思いもよらないどんでん返し。
これはやられました!



あくまでも意思を貫こうとするヴィディヤが凛々しく美しい。
そして、そんな彼女が子どもに向ける笑顔がまた、なんともステキ。
それから、この妊婦に恋心を抱く新米警官のラナもいいですよね。
そして、民族色豊かなお祭り「ドゥルガー・プージャ」が背景なのが
やっぱりインドを感じさせてナイス。
これは「007スペクター」のオープニングにも似ている。
でもそのお祭りの主役、戦いの女神とヴィディヤを重ねあわせているところが、
007よりもより深いです。
また、多くのインド映画が長過ぎるのですが、
本作は普通の長さで、コンパクトなのもいい。
かなり楽しめました。



ところで「コルタカ」ってどこ?と思った私は、
相当世情に疎いというべきなのでしょう。
元のカルカッタのことなんですね。
それから、ちょっと笑ってしまったのが、
ヴィディヤがインドに来て自分の名前を説明するシーン。
「ビデヤじゃなくてヴィディヤです。」と彼女は言うのですが、
「ここじゃ 『ビ』も『ヴィ』も同じだ。」と言われてしまいます。
それは日本でも同じだ!!
・・・なんだかインドに親しみを感じてしまいます。


女神は二度微笑む [DVD]
スジョイ・ゴーシュ
ブロードウェイ


「女神は二度微笑む」
2012年/インド/123分
監督:スジョイ・ゴーシュ
出演:ビディヤ・バラン、パラムブラト・チャテルジー、ナワーズッディーン・シッディーキー
お国柄度★★★★★
どんでん返し度★★★★☆
満足度★★★★☆

オデッセイ

2016年02月12日 | 映画(あ行)
一人ぼっちだけれど一人ではない



* * * * * * * * * *

火星にたった一人取り残された男・・・、
以前から楽しみにしていた作品です。



火星の有人探査にあたっていたメンバーに
強烈な嵐が襲いかかります。
メンバーの一人、マーク・ワトニー(マット・デイモン)は
嵐に煽られ、吹き飛ばされてしまう。
残りのメンバーは彼を探そうとしたのですが、自分たちの身さえも危ない。
やむなく、ワトニーは死亡したと判断し、
捜査船を発信させ火星を去ってしまう。



さて、ところがワトニーは奇跡的に死を逃れ、意識を取り戻すのですが、
仲間たちはすでに飛び立った後。
酸素も水も少なく通信手段もなく、食料はわずか31日分。
しかし、ワトニーは4年後の次の探査船が来るまで生き延びようと決意! 
彼は極限状態の中でも、希望を持ち続け、
知識と工夫を総動員して生き延びます。



本来植物学者である彼は、わずかの食用のじゃがいもを増やそうと考えます。
室内に土を運び入れ、自分たちの排泄物を肥料とし、水を創りだして・・・。
事態はとてつもなく深刻。
でも、冷静に様々な知識を総動員。
やるときめたら、とことんやりぬく。
きっとこれでうまくいく! 
こういうポジティブさこそが、
実は宇宙飛行士で最も必要な特性なのかもしれないなあ・・・などと思いました。
いえ、もちろんそれ以前に、基本的な科学的知識と体力も必要ですが・・・。
同じ材料が目の前に転がっていたとしても、
一般の人にはどうすることもできなさそう・・・。



うんと旧式の静止画像しか送ることのできない火星着陸船を彼は利用するのです。
そこからは最新のコンピュータの力も借りながら、
ついには普通に文章で意思の疎通を図ることができるまでになっていく。
人の発想と科学の力。
そして火星と地球、双方のチームワーク。
なんとも心憎いエピソードです。
もし彼が、ここのところで躓いて、地球との交信が全く出来なかったとしたら、
このまま4年を耐えられたかどうか・・・。
(げんに途中で大きな事故に合ってしまいますしね)。
自分の存在を知っている人達がいる。
そして自分が生きるために力を尽くしてくれている。
そう思うからこそ、希望を持ち続けることができるわけです。
そう、戦っているのは、彼だけではない。
地球のNASAの職員ばかりでなく、報道でそのことを知ったすべての人々、
そして、帰途にある宇宙船のクルーたち。
それぞれが自分たちのできるすべてをやりつくそうと必死。
これでは孤独だと悩んでいるヒマもありません。
ハラハラドキドキはもちろんのこと、
人々が力を結集しあう様子が何と言っても爽快です。



火星にひとりぼっち。
でも、さほど深刻にならないところが本作の良さのように思います。
ポジティブ、バンザイ!!

「オデッセイ」
2015年/アメリカ/142分
監督:リドリー・スコット
原作:アンディ・ウィアー
出演:マット・デイモン、ジェシカ・チャステイン、クリステン・ウィグ、ジェフ・ダニエルズ、マイケル・ペーニャ、ショーン・ビーン

ポジティブ度★★★★★
爽快度★★★★★
満足度★★★★★

「信長協奏曲13」 石井あゆみ 

2016年02月11日 | コミックス
どのような時の神の意図が・・・?

信長協奏曲 13 (ゲッサン少年サンデーコミックス)
石井 あゆみ
小学館


* * * * * * * * * *

映画版の「信長協奏曲」も公開中。
TVドラマも見ていましたが、面白くはあったものの原作とはほとんど別物。
ラストはとても気になりますが、
でも見るのはDVDでもいいかなあと・・・。


そこでやっぱり、原作ですよね!! 
コミック味を活かしつつ、笑えるシーンもあるけれど、
なかなか鋭いところを付く、読み応えたっぷりの本なのです。


本巻ではまず、松永久秀の最期が描かれます。
斎藤道三に松永久秀、サブローと同じく未来からやってきた彼らが、
ついに未来へ戻ることなく、この時代で命を落としてゆく。
さすがにノーテンキなサブローもちょっぴり思うところがあったりします。
どういう時の神の配剤でこんなことになってしまっているのでしょうね・・・。
一方もう一人の未来からの旅人、黒人の弥助は、
一人旅に出ることにし、信長の元を去ります。
実はこの人物の先行きこそがこのストーリーの意外な展開に繋がるのではないか・・・?
などと思うのですが。


さて、どうも明智光秀と信長の顔がそっくりのようだ・・・と、気づいている3人に、
二人は事情を明かしてしまいます。
蘭丸くんと、おゆきちゃん、そして竹中半兵衛。
でも、この明智光秀こそが正真正銘の信長であるということを知っているのは、
おゆきちゃんだけです。
ミッチーの方はやはり、信長に嫉妬して彼に離反しそうな気配は見えないのです。
どうしてここから本能寺の変に繋がるのか、未だに見えてきません。
簡単に手の内は見せない、著者の目論見が心憎いですね。
本巻のラスト、上杉謙信の死が天正6年。
本能寺の変は天正10年。
いよいよその時が近づいています。

「信長協奏曲13」 石井あゆみ ゲッサン少年サンデーコミックス
満足度★★★★☆

君が生きた証

2016年02月10日 | 映画(か行)
真実は切ないけれど



* * * * * * * * * *

アメリカで実際にあった、大学での銃乱射事件。
本作はそれを元にしたドキュメンタリーに近い作品なのかと思ってみていました。
ところが、そうではありませんでした!



広告会社に勤めるサムは、大学生の息子ジョシュを銃乱射事件で亡くしました。
その後、すっかり生きる意欲をなくした彼は会社をやめ、地元をはなれ、
アルコールにひたりボートに暮らして
塗装の仕事で日銭を稼ぐ毎日。
2年の後、離婚した妻が息子の形見を持ってきます。
その中に息子が残した歌の歌詞やデモテープがあったのです。
それを聞いたサムは、これまで息子のことを何もわかっていなかったことに気付きます。
そんなある日、サムは場末のライブバーで息子の作った曲を歌いました。
そこにいたクエンティンという青年が曲に感動し、
一緒にバンドを始めることになったのです。
しかしサムは、この曲が亡き息子が作ったものだと言うことができません。
思いの外バンドは人気が出て、大きなイベントに出演しようということになるのですが、
何故かあまり気の進まないサム・・・。
実はその曲には、おおっぴらにできない秘密があるのです・・・!



途中で「うそ!」と思ってしまいました。
いや、そのことは私も実は知りたくなかったな・・・などと。
なるほど、サムがここまで再起不能に陥ってしまった理由、
息子の遺品を一旦はゴミ箱に捨ててしまおうとした理由、
息子の曲だとは人には言えない理由が、
なるほど、よくわかります。
なんて切ない。
本作で流れる数々の楽曲がまた、どれもステキです。
閉塞感に囚われた若者の気持ちが仄見えるその曲は、
だからこそクエンティンを捕らえ、多くの若者に共感を呼んだのでしょうけれど・・・。



クエンティンの人柄がなんともいい感じです。
サムにはうるさいくらいに絶え間なく語りかけるのに、
実は極度の上がり症でステージの前にはトイレに閉じこもる。
女の子には声もかけられない。
いつも自信がなさ気で猫背
。そんなクエンティンをサムは自分の息子と重ねあわせていたようですね。
何かと気遣い、世話をする。
そして若者たちと共に行動することで
今まで「逃げ」てきた自分の人生と向き合うようになっていくわけです。



ちょっと衝撃的だけれども、また、美しく切ない物語でもありました。
名優、ウィリアム・H・メイシーの初監督作品。
ご本人もちょい出しています。

君が生きた証 [DVD]
ビリー・クラダップ,アントン・イェルチン,フェリシティ・ハフマン,セレーナ・ゴメス,ローレンス・フィッシュバーン
Happinet(SB)(D)


「君が生きた証」
2014年/アメリカ/105分
監督:ウィリアム・H・メイシー
出演:ビリー・クラダップ、アントン・イェルチン、フェリシティ・ハフマン、ジェイミー・チャン、ローレンス・フィッシュバーン

音楽性★★★★★
秘密の衝撃度★★★★☆
満足度★★★★☆