映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

泣く子はいねぇが

2021年06月30日 | 映画(な行)

どうしようもない大失態の後に

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秋田、男鹿で暮らすたすく(中野太賀)。
彼は、娘が誕生し舞い上がっていますが、妻・ことね(吉岡里帆)は、
子供じみていて父親になる覚悟が定まらない夫に苛立っていました。

 

大晦日の夜、たすくは地域の伝統行事「なまはげ」に参加します。
妻からはお酒を飲まないようにと言われていたのに、
あちこちで振る舞われるものだから断り切れずに飲んでしまい、泥酔。
そのあげくたすくは、面を付けたまま全裸で街へ繰り出します。
そしてその姿がテレビで全国に放送されてしまうのです。

妻から愛想を尽かされ、地元にもいられなくなったたすくは、逃げるように東京へ。
しかし、たすくは東京でも居場所を見つけられません。

2年後、ことねと娘に会いたい思いが募り、故郷へ帰りますが・・・。

たすくは、実家では兄が家のことなどを取り仕切り、家族から全く当てにされていません。
子供ができたためやむなく結婚に至ったものの、妻からも全く当てにされていません。
おそらく以前からたすくの酒癖が悪くて、ことねは悩まされていたものと思われます。
それがとうとう全国レベルの大失態。
「なまはげ」の行事自体の存続も危ぶまれたということなので、仕方ありませんね・・・。

東京でのバイト先でもどうにもなじめないたすく。
しかしこんな彼にも、気遣ってくれる友人・涼介(寛一郎)がいた!! 
どうなのよというくらいの、素行の悪い奴ではありますが、
たすくを心配していることは確か。

そして、おずおずと実家に戻ったたすくを、
母(余貴美子)は何事もなかったかのように受け入れるのです。
兄は冷たい視線を投げつけますが・・・。
(父は先に亡くなっている)。

母はたすくを叱るでもなく、慰めるでもなく、実に淡々としています。
今時の都会の教育ママならこうはいかないでしょう。
さりげなくお小遣い(少額)まで渡してくれる。
実は心配していたけれど、愛情を大げさには表わさない、
そういう感じ、いいなあと思います。

友人や母親、少なくともたすくを受け入れてくれる人がいる、
というのはせめてもの救いです。
しかしそれでも、ようやく再会できたことねには拒否されてしまう。

娘が保育園の学芸会で浦島太郎をやるというので、
たすくはこっそり見に行くのですが、
なんと彼には、どれが娘なのかわからない。
・・・あまりにも切ないですね。

でも彼は娘のためにできるただ一つのことをしようと決意して・・・!

最近中野太賀さんにはまっています。
以前「太賀」名義だった頃よりも「中野太賀」となってからの方が
特に目に付く感じがします。
吉岡里帆さんは、私、どうもテレビドラマに出てくる彼女の「演じる女」が
好きではないと感じることが多いのですが、本作はよかった。
たすくを見る彼女の目はいつも少し冷たいのですが、
再婚を決めた相手といる時の彼女の表情が、文句なく幸せそうに微笑んでいます。
それを見たたすくは、もう自分が入り込むすきなどないと、
一瞬で気づいてしまうくらいです。
役がまともなら、演技もしようがあるというものですね。

<Amazonプライムビデオにて>

「泣く子はいねぇが」

2020年/日本/108分

監督・脚本:佐藤快磨

出演:中野太賀、吉岡里帆、寛一郎、山中嵩、余貴美子、柳葉敏郎

 

ダメ男度★★★★☆

満足度★★★★★

 


夏への扉 キミのいる未来へ

2021年06月29日 | 映画(な行)

タイムワープの不思議な魅力

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ロバート・A・ハインラインによる名作SF「夏への扉」を、
舞台を日本に移して再構築した作品です。
私にとって、タイムトラベルの夢のような不思議さに魅了された
始めの物語のうちの一つでもあり、期待しておりました。

1995年、東京。
高倉宗一郎(山崎賢人)は、ロボット開発に従事する天才科学者。
亡き父の親友・松下の意志を継ぐプラズマ蓄電池の完成を目前にしています。
そんな中でも、宗一郎は愛猫ピートと松下の娘・璃子(清原果耶)との穏やかな日常の中にいました。

しかし、信頼していた共同経営者と恋人に裏切られ、
会社も開発中のロボットも、蓄電池も、すべて奪われ、
さらにはコールドスリープに入れられてしまいます。

そして30年を経て2025年、宗一郎は目覚める・・・。

コールドスリープというのも、ある種のタイムマシンなんですね。
ただし、過去へは行けない。
宗一郎が30年後に目覚めたとき、本来なら、無一文のまま親しい人もなく、
最悪の未来となるはずのものでした。
ところが、そうではなかったのです!!

一体誰がどうやって自分の身の上を守ってくれたのか、
これはそういう謎を解きほぐしてゆく物語です。
時を遡り、いろいろな人とつながってゆくのも楽しい。
30年前にまいたタネがどう成長してゆくのか。
結果をご覧あれ! 
というわけで、原作のドキドキ感やミラクル感が損なわれず、
たっぷり楽しめるできだと思います。

2025年の東京は、現実よりも進化しているようです。
藤木直人さんが演じたアンドロイドのようなものが、本当に開発されるといいのですけれど。

緊急事態宣言が解除され、私、ほとんど2か月ぶりに映画館へ足を運びました。
やっぱり映画館の大画面はいいですね!!


(なぜか、「ガラスの仮面」を読んでいたピート)

 

<シネマフロンティアにて>

監督:三木孝浩

原作:ロバート・A・ハインライン

脚本:菅野友恵

出演:山崎賢人、清原果耶、藤木直人、夏菜、浜野謙太、眞嶋秀和、田口トモロヲ、原田泰造

 

タイムトラベルの不思議度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


「雲上雲下」朝井まかて

2021年06月27日 | 本(その他)

雲上と雲下をつなぐもの

 

 

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昔、むかしのそのまた昔。深山の草原に、一本の名もなき草がいた。
彼のもとに小生意気な子狐が現れ、「草どん」と呼んでお話をせがむ。
山姥に、団子ころころ、お経を読む猫、そして龍の子・小太郎。
草どんが語る物語はやがて交錯し、雲上と雲下の世界がひずみ始める。

――民話の主人公たちが笑い、苦悩し、闘う。
不思議で懐かしいニッポンのファンタジー。

〈第十三回中央公論文芸賞受賞〉

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ある深い山奥に、何故かぽっかり開けた場所があって、
そこにいる「草どん」に、子狐がお話をせがみます。
ぽつりぽつりと、草どんが物語を語り始めて・・・。

こんなふうに、のどかに始まるこのストーリー。
草どんの語る物語は始めはごく短く、ほのぼのとした昔話。
けれど、その話は次第に長くなり、現実の苦悩がない交ぜになり、
物語とこの世の境界が危うくなってくる。

油断のならない物語ですね。
そもそも、この「草どん」とは何者なのか。
なぜこんなに物語を知っているのか。
そしてなぜこんなところにいるのか。

ストーリーは次第にそうしたいきさつに近づいていきます。

 

「物語こそが雲上と雲下をつなぐ」という言葉、とても深いです。
雲下というのはまさしく私たちの生きるこの世。
雲上というのは神々の世界。
または、人々の望む輝かしい至高の世界。
そしてまたもしくは、人々が自分でも意識できない深層の世界であるのかもしれない。
物語はそうしたものと、私たちをつなぐ。

ここで言う物語とは何も「昔ばなし」には限らず、
あらゆる「小説」のことでもあるのでしょう。
著者が、自分のかく物語もそういうものでありたい、と願っているのかもしれません。

 

作中に登場する「物語」は、それぞれ私たちのよく知っている昔話に似ているのですが、
どこか少し違う。
そういうところを楽しみながら読むのもまたいいですね。

 

「雲上雲下」朝井まかて 徳間文庫

満足度★★★.5

 

 


仮面病棟

2021年06月26日 | 映画(か行)

病院の裏で行われていること

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私、本作は見たことがあると思い込んでいたようなのですが、
私が見たのは「閉鎖病棟」でした!!
こちらは、知念実希人さん原作のミステリ。

先輩から頼まれて、とある病院で一夜限りの当直をする速水(坂口健太郎)。
その夜、ピエロの仮面を付けた凶悪犯が病院に立てこもり、
速水らは病院に閉じ込められてしまいます。
犯人に銃で撃たれて傷を負った女子大生・瞳(永野芽郁)の治療をした速水は
彼女と共に脱出を試みます。

しかし、病院内の院長や看護師の様子がどこかおかしい・・・。
この病院は、今は認知症でほとんど寝たきりの患者を扱っており、
手術室は使われていないと言ったはずなのに、
最新鋭の機器がすぐに使えるように整えられていたり、
身元不明の患者がいたり。
謎めいた病院の様子。
犯人の狙いは一体何なのか・・・?

私、院長として高嶋政伸さんが登場するとすぐに、この人は怪しいと思ってしまいました。
そりゃ、まともな医師としての役であるはずがありません!!
この病院は裏で非常にアブナイことを行っているのでした・・・。
金もうけのために・・・。

そのことを暴いていくことと、瞳という女性の謎がまた興味深いのです。
この病院は、行き倒れになって身元がわからない、本人の意識もない、と、
そんな患者を入院させている、というところがすべてへの鍵となっています。

実際にありそうで、恐いわあ・・・。

坂口健太郎さん、やっぱり白衣が似合います!!

<WOWOW視聴にて>

「仮面病棟」

2020年/日本/114分

監督:木村ひさし

原作:知念実希人

出演:坂口健太郎、永野芽郁、内田理央、江口のりこ、大谷亮平、高嶋政伸

 

医療ミステリ度★★★★☆

満足度★★★.5

 

 


秘密への招待状

2021年06月25日 | 映画(は行)

仕事か、家族か

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2006年デンマーク作品「アフター・ウェディング」のリメイク。

インドで熱意を持って子どもたちの救護活動に当たっているイザベル(ミシェル・ウィリアムズ)。
イザベルはニューヨークの資産家に孤児院を支援してもらうため、ニューヨークを訪れます。
そこで会ったのは、メディア会社を経営するテレサ(ジュリアン・ムーア)。
多忙な彼女は、「娘の結婚式ならゆっくり話ができる」と、娘の結婚式にイザベルを招待します。

そして当日、式場でイザベルが出会ったテレサの夫は、
イザベルが過去に別れた恋人オスカー(ビリー・クラダップ)で、
新婦グレイスは、オスカーとイザベルの間にできた娘だった!!

なんとも驚きに満ちて不穏な人物関係に、どうなることかと胸騒ぎでいっぱい。
この興味のひき方は、なかなかのものです。
支援の内容を詰めるとか、娘と親子として対面するとか、
本当は早く帰るべきなのに、イザベルはずるずるとニューヨーク滞在を余儀なくされていきます。
いえ、グレイスが実子と知れてからは、自分から望んでとどまっているようではありますが。

実のところ私はちょっとイライラしてしまいました。
インドでの活動は、自身が生涯を捧げようと覚悟していたもののはず。
そこでは家族のように自分を待っている子もいます。
テレサの事情などもあって、結局イザベルはニューヨークに残る決断をするのです。
インドの施設へは莫大な支援を取り付け、
その事務的な仕事をニューヨークで行うということではあるのですが。
私には、イザベルの覚悟が結局「家族」に負けてしまった様に思えて、
なんだか釈然としないのでした。

実はテレサは病に冒されており、残された家族をイザベルに任せたいと思い、
始めから夫とイザベルのことを知った上で招き寄せたようなのです。

けれど、娘はもう結婚したのだし、その弟は10歳くらいの双子。
赤子ならともかく10歳で、しかも父親はいるのですよ。
なんだかなあ・・・。
彼女が亡くなった後少しの間ならわかるけれど、ずっとというのはどうなのか。

少なくとも私には納得できません。
テレサのインドでの活動というのは、そんなすぐにやめることができるようなものだったのか・・・。
そこのところがいかにも残念です。
まるで、イザベルがニューヨークにいなかったことの単なるお膳立てのようにも感じられます。
女性にとっての仕事は家族よりも二の次・・・みたいな思想が見え隠れしてしまうというか。
ここのところはその人によって、受け取り方が異なるところなのでしょういけれど。
私としては残念・・・。

<シネマ映画.comにて>

「秘密への招待状」

2019年/アメリカ/112分

監督:バート・フレインドリッチ

出演:ジュリアン・ムーア、ミシェル・ウィリアムズ、ビリー・クラダップ、アビー・クイン

 

意外性★★★★☆

満足度★★.5

 


SUNNY 強い気持ち・強い愛

2021年06月24日 | 映画(さ行)

そんな時もありましたっけ

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韓国映画「サニー 永遠の仲間たち」のリメイクです。

90年代、女子高生の仲良しグループだった「サニー」。
ちょうど、安室奈美恵を憧れの頂点に抱き、ルーズソックスや、ミニスカ、茶髪が
女子高生のステータスとされていた頃。
それから20年を経て、メンバー6人はそれぞれの事情で問題を抱えていました。

専業主婦、奈美(篠原涼子)は、メンバーのうち最も頼りになる芹香(板谷由夏)と再会しますが、
芹香は癌に冒され、余命あとわずか。
死ぬ前にもう一度みんなと会いたいという彼女の願いを叶えようと、
奈美は動き始めます。

高校生時代、田舎からの転校生で全く垢抜けなかった奈美(広瀬すず)を、
グループのみんなは受け入れ、楽しい日々を過ごしました。
プリクラを撮ったりカラオケに行ったり。
毎日が楽しくて笑いに満ちていた。
20年後の今から考えるとなんて輝いていたこと・・・。

多分、そういう世代の女性たちが本作を見ると、限りなく懐かしく思うことでしょう・・・。
私は、それよりもずいぶん上の世代なので、
高校時代の雰囲気はまるで違うものではありましたが。
それにしても、箸が転がっても笑う、というような、
夢見がちで無邪気な年代では確かにありましたよね。

作中、女子は高校時代の友人とはそれっきりで長く続かない、などという言葉も出てきましたが、
イヤ、そうとは限らないでしょ、と私は思いました。
結構その頃の友人とは今も会いますし・・・。
でも結婚などで、それまでの友人たちと疎遠になってしまうことは、確かにあるのかもしれません。

このサニーの6人は、まだ高校時代のうちに、ある出来事を契機として
集まることがなくなってしまっていたのでした。
芹香は皆に会いたいというよりも、その時のわだかまりを解いておきたいと思ったのでしょうね。

芹香は事業家として成功していて、かなりの資産家となっているのでした。
そして独身、身寄りなし。
ということで、実のところお金に困っている友人には
かなりの援助を遺言として残してこの世を去りました。
・・・その下りが、実のところ私にはちょっと違和感。
なんだか、施しを受けるみたいで、私はイヤですけどね。
行き場のないお金ならいいのか・・・。

奈美の初恋の相手、藤井は、三浦春馬さんが演じています。
そりゃ惚れるよね。
でも、結局憧れるだけで終わるのですが。
なんだか余計切なさが増す気がします。
女子高生、淡い初恋のお年頃でもあります。
その描写は結構よかった!

 

 

<Amazonプライムビデオにて>

「SUNNY 強い気持ち・強い愛」

2018年/日本/119分

監督・脚本:大根仁

出演:篠原涼子、小池栄子、ともさかりえ、渡辺直美、板谷由夏、
   広瀬すず、富田望生、リリー・フランキー、三浦春馬

 

懐かしさ★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


「鏡の背面」篠田節子

2021年06月23日 | 本(その他)

毒婦と聖女は鏡のあちら側とこちら側?

 

 

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聖母が死んだ。

薬物や性暴力によって心的外傷を負った女性たちのシェルター「新アグネス寮」で発生した火災。
「先生」こと小野尚子は取り残された薬物中毒の女性と赤ん坊を助けるために死亡。
スタッフがあまりにふさわしい最期を悼むなか、警察から衝撃の事実が告げられる。

「小野尚子」として死んだ遺体は、まったくの別人だった。

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いつもながら、ゾクゾクさせられる篠田節子さんの作品です。

薬物や性暴力で心的外傷を負った女性たちのシェルター「新アグネス寮」。
そこを運営する小野尚子は、「聖母」とも言われるほどに、
慈愛に満ちた微笑みで女性たちを見守り、慕われていました。
社会的にも一目おかれるような存在だったのです。
ところがある日施設で火災が起き、
小野尚子は薬物中毒の女性と赤ん坊を助けるために死亡。

ところが、スタッフは警察から「小野尚子」として死亡した女性は
全くの別人だったと告げられます。
呆然とするスタッフたち。
では亡くなった女性は誰なのか? 
いつから小野尚子は、「小野尚子」でなくなっていたのか・・・? 
そしてそれはなぜ・・・?

少し前に小野尚子を取材し、痛く感銘を受けていたライター・山崎知佳と
スタッフの中富優紀がその真相を探ります。

 

それは20年ほども前、どうやら本物の小野尚子は死亡し、
半田明美という女性が「小野尚子」に成り代わっていたらしいということがわかります。
しかも、半田明美というのはいわゆる「毒婦」とも言うべき女。
男を食い物にしては殺して、次の男に乗り換える・・・。
そのことは発覚せず、うまく世間を欺き通していた・・・。

しかし、昨今の「小野尚子」を知る人は、そんなことは信じることができない。
そんな人物がなぜ20年もの間「聖女」を演じ続けていたのか?

鏡に映った像は、その背面とは別物。
人の心の不可解さをえぐり出す物語でした。

 

本物の小野尚子と半田明美の写真を見て、誰もが同一人物と見なしていた、という描写があります。
人はその目鼻立ちよりも表情で、人物の印象を心に刻むものであるらしい・・・。
人を判別するのが苦手な私なら、ますますそういうこともあるかも、と思ってしまった。

また、本筋とは少し外れるのですが、霊的な体験らしきものが、
人の気持ちを大きく左右するというエピソードにも納得させられます。
降霊術めいたことで、すっかりその気にさせられて、
何でもないことが怪しい出来事に思えてしまう・・・。
簡単に詐欺に引っかかりそうです。

 

20年前の記録媒体FD(フロッピーディスク)の扱いにしても、
今それを開くのは簡単ではないというのにも納得。
ホントですよねえ・・・。
あっという間に時代は移り変わっているのでした。

 

「鏡の背面」篠田節子 集英社文庫

満足度★★★★☆

 

 


事故物件 恐い間取り

2021年06月21日 | 映画(さ行)

物好きにもほどがある

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「事故物件住みます芸人」として実際に9軒の事故物件に住んだ芸人、
松原タニシの実体験を記したノンフィクションを映画化したものです。

売れない芸人、山野ヤマメ(亀梨和也)は、
「テレビに出してやるから事故物件に住んでみろ」と先輩から無茶ぶりされ、
家賃の安さにも惹かれて、殺人事件のあった物件に引っ越します。

それは一見普通の家ですが、部屋を撮影した映像には謎の白い光が映り込み、音声が乱れます。

ヤマメの出演した番組は盛り上がり、
ヤマメは新たなネタを求めて事故物件を転々とするように・・・。

恐いくせにこんな作品は見るべきではない、と思いつつ、恐い物見たさ・・。
というか、なんで好き好んでこんなところに住もうと思うのか・・・と、
そんな思いでいっぱいです。

始めは面白がってけしかけていた相方・中井(瀬戸康史)は
次々と家族に異変が現れ、さすがにこれはもうやめた方がいい、と思います。
ヤマメの彼女・梓(奈緒)は、元々そういうものが「見える」方で、
ハナからヤマメの部屋で嫌なものを見てしまいます。
それならもう二度と近づきたくないと思うはずなのですが、
ヤマメのことが心配なあまり、つい様子を見に行って、
またひどい目に遭ったりする。
えらいっ!
この勇気はスバラシイ。

ヤマメは、各部屋の悪い気をも引き連れたまま、引っ越しを重ねてしまったようで、
次第にやつれ、何もないのに失神してしまったりする始末。

いやあ、やはり興味半分、面白半分、でこういうことに関わるべきではない、
と今さらながら思ってしまった次第。

こういうとき「信じない力」があればいいと思うのですが、
そういうことに鈍感な方の私ですが、すでに半信半疑というところでもうアウトですね。

お笑いコンビ10年やっても芽が出ず、解散した・・・という、
昨今どっかで目にしたシチュエーション。
ま、いいか。

 

<WOWOW視聴にて>

「事故物件 恐い間取り」

2020年/日本/111分

原作:松原タニシ

出演:亀梨和也、瀬戸康史、奈緒、江口のり子、MEGUMI、木下ほうか

恐怖度★★★★☆

物好き度★★★★★

満足度★★.5

 


さよなら、僕のマンハッタン

2021年06月20日 | 映画(さ行)

秘密が明かされたとき、すべてがクリアに見えてくる

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ニューヨーク。
大学を卒業し、親元を離れて暮らし始めたトーマス(カラム・ターナー)。
アパートの隣室に越してきたW・F・ジェラルド(ジェフ・ブリッジス)と名乗る
風変わりな中年男性と親しくなります。
そんなある日トーマスは、
父のイーサン(ピアース・ブロスナン)が愛人と密会しているところを目撃。
母(シンシア・ニクソン)の心中を思うと許せない気がしてしまいます。
そして、W・Fの言葉に後押しされ、
父の愛人・ジョハンナ(ケイト・バッキンセール)に接近します。
そして、トーマスはジョハンナと関係を持ってしまう・・・。

トーマスはこの先特にやりたいこともなく、
平凡で退屈な人生に、ほとんど諦めを抱いていました。
本当は作家になることが夢だったのですが、
初めて描いたものを、編集者である父親に「凡庸」だと言われ、
夢が打ち砕かれた気がしていたのです。
そもそも、こんなことは一例で、
どうも父は自分のことを好きではないのではないかと感じている・・・。
そしてまた、母は幾分精神を病んでいます。
大好きな母なのだけれど、ときおり様子を見るよりほかない・・・。

トーマスがジョハンナに接近したのは、父親への当てつけのつもりではあったのですが、
いつしか本気になっている・・・。
またその時トーマスには付き合っている彼女がいたのです・・・。

しかし、秘密はいつまでも保ってはいられない。

トーマスは自分とジョハンナのことを、
彼女にも、母にも、父にも明かしてしまうのですが・・・
実はトーマスの家族にはそれ以上の秘密が・・・。

サイモン&ガーファンクルの名曲タイトル「The Only Living Boy in New York」が原題で、
作中にサイモン&ガーファンクルの曲も使われています。

一見青春の迷い道をさまよう青年の物語ではあるのですが、
最後にある秘密が明かされたときには、
すべての出来事がクリアに見えてくるという驚きを覚えることになるでしょう。

母が心を病みがちな理由。
父が浮気をする理由。
そして、父が息子に対してよそよそしくなってしまう理由・・・。

面白かった。

 

<WOWOW視聴にて>

「さよなら、僕のマンハッタン」

2017年/アメリカ/88分

監督:マーク・ウェブ

出演:カラム・ターナー、ジェフ・ブリッジス、ケイト・ベッキンセール、
   ピアース・ブロスナン、シンシア・ニクソン

 

驚きの秘密度★★★★★

青春度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


マーウェン

2021年06月19日 | 映画(ま行)

フィギュアの世界で

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実話に基づく物語。

5人の男から暴行を受け、瀕死の重傷を負ったマーク(スティーブ・カレル)。
昏睡状態から目覚めると自分の名も覚えておらず、歩くこともままならない。
そして体の状態が落ち着いてからも、暴力的なことを目にすると
パニック状態になるというPTSDに苦しみます。
そんな彼が、リハビリのためにフィギュアの撮影に取り組むようになります。

それは、第二次世界大戦下のベルギー、架空の町「マーウェン」。
そこではGIジョーのホーギー大佐と5人のバービー人形が、
ナチス親衛隊と日々戦いを繰り広げているという設定で、
マークの中でストーリーが進みます。
そんなシーンを人形で描き出して写真を撮るのです。
そしてそんな風変わりな写真が評判となり、評価されて、
やがて個展を開くまでに。

マークには、女性用の靴に非常に愛着があって、
ハイヒール等の何百足ものコレクションがあります。
時にはそれを履くことに喜びを感じることも。
ある日酒場で自分のそんなことを口にして、
LGBTに嫌悪を抱く連中から暴行を受けてしまった、ということのようです。

マークの住む町の人々はそんな事情を良くわかっていて、
何かと彼のことを気にかけ、助力しようとします。
特に、様々な女性たちが。

だから、「マーウェン」の世界のホーギー大佐は、マークの分身でもあって、
ヒーローではああるけれど、いつも女性たちに囲まれ、守られてもいるのです。
しかし、この世界を本当に牛耳っているのは一人の「魔女」。
どうやら、マークの恐怖の根源はここにありそうで・・・。

フィギュアの世界で物語を作る、というのは一種の「箱庭療法」なのかもしれません。
自分でもよくわからない心の奥底の不安を、「物語」を作ることで浮かび上がらせて行く。

なかなか興味深い話なのでした。

本作はそのフィギュアの物語世界を、映像として表わしているのです。
モーションキャプチャーで、人の動きを人形が動いている様な、不思議な感じに表現しています。
そこはロバート・ゼメキス監督ですからね。

でも始めはちょっと面白いと思ったそのようなシーンも次第に飽きてきて、
全体的にはなんだかとりとめなくピンと来ない感じになってしまったような・・・。

 

<WOWOW視聴にて>

「マーウェン」

2018年/アメリカ/116分

監督:ロバート・ゼメキス

出演:スティーブ・カレル、レスリー・マン、ダイアン・クルーガー、メリット・ウェバー

 

CG活用度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


「進撃の巨人 1~34」諫山創 

2021年06月18日 | コミックス

驚きに満ちた物語

 

 

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この度、ついに「進撃の巨人」が最終回を迎え、話題になったところです。

私は、以前単行本を読んで、そのあまりのおぞましさと、人物の判別の難しさ(?)で、
途中で挫折して、そのままになっていました。

けれど先頃、いよいよ最終話が近いと話題になり始めた頃から、
アニメの方を始めから見直してみました。
Amazonプライムビデオにて、シーズン1~4まで会員無料で見ることができます。
アニメの方はまだ完結までに至っていないのですが、
その後、もう一度本を第1巻から読み直し、読んでいなかった部分を買い足して、
そして先日発売された最終巻も読み、
今、呆然としつつその世界観に浸っているところです。

これだけ人気があるのも納得の、スバラシイ物語でした。
読めば読むだけ奥深く、緻密に組み立てられたストーリーには驚嘆させられます。

本作は、ざっと読み飛ばすという読み方は不向きで、
たかが漫画だなどと侮らず、じっくりと読み込むことが必要のようです。
アニメを見て、その後コミックでおさらい、というのがベストではないかと私は思う。

 

本作中で、思わず口に出して「えっ?!」と言ってしまうような、
衝撃的シーンがいくつもあるのですが、
それを紹介することにしましょう。

<かなりのネタバレ注意>です。

 

食われた!

主人公の少年エレンが、まだ物語がはじまってまもなくのところで、
あっさり巨人に食べられてしまいます。
うそ~、そんなあ・・・、と思いますよね。
ところが、なんと彼は「巨人」になって蘇る。

ただ巨人と闘うという話ではなく、
多くの謎を秘めた不思議な物語であることに気づくところです。

 

裏切り者

研究のために捕らえていた巨人が何者かに殺されてしまう。
どう考えても内部の者の仕業。
なんとそれは、エレンと訓練兵団で同期の信頼していた仲間だった。
それも3人!

なんて、シビアな物語なんだ! 
しかしそれにしても、彼らは壁の外から来たらしい。
一体壁の外とはどういう世界???

 

壁の中身は

壁のほころびからのぞいていたのはなんと、超巨大な巨人の顔!! 
恐い~!! 
どうやらこの壁はこの巨人が立ち並んでできているらしい。
だとしたら、これを作ったのは敵? 味方?

 

兄弟?

調査兵団を苦しめる、巨大な猿のような「獣の巨人」。
その正体はジーク。

ジークは実は、エレンの父が壁の外にいたときに結婚していた相手との息子。
壁内で再婚した相手との子供がエレン。
つまり、ジークとエレンは異母兄弟。
ええ~っ!!
ドラマチック!!

 

悲劇の女たち

物語が始まってすぐに、エレンの母は巨人に食べられてしまいます。
それを目の前で見た少年エレンが、
「巨人を駆逐してやる!」と胸に誓う、大事なシーン。
しかし後にわかるのですが、エレンの母を食ったのは、ジークの母、
つまりエレンの父の前妻だった・・・。
ひい~っ!

 

「進撃の巨人」

ずっとこの題名の意味がどうもピンとこない、と思っていたわけです。
それが、なんと22巻目にいたって、この題名の意味がわかる。
そりゃ、この題名しかないよね、と誰もが納得するわけですが。
それにしても、ここまで引っ張るなんて。

 

究極の選択

重要人物2人が瀕死状態にあるとき、命をつなぐ手段があります。
しかしそれを使えるのは1人に対してのみ。
果たしてどちらを生かすべきなのか?!

究極の選択を迫られる調査兵団。
うわー、これはキビシイ。
こんな決断を迫られるとは・・・。

漫画だからと侮るなかれ。
本当に1人は亡くなってしまいます・・・。

 

別の話?

ストーリーに一区切りが付いたというあたりで、
物語は別の話?と思ってしまうほどの転換を見せます。
それまでは、エレンたちの住む壁の中が舞台だったのが、
いきなり、マーレの国の話が始まります。
エレンはどうなった?という疑問を置き去りに、
マーレに住むエルディア人の少年ファルコと少女ガビの話が始まる。

エルディア人は「悪魔の民」とされ、差別されて
ユダヤ人のゲットーのように塀で囲まれた町に押し込められて生活しています。
ここで育った子どもたちは、パラディ島に住む「悪魔の民」を殲滅する戦いに加わり、
手柄を立てて「名誉マーレ人」の地位を得ることを夢としているのです。
どちらも同じ民族であるのに・・・。

戦争とは、憎しみの連鎖とは・・・、深く考えさせられる展開。
これまでとは逆方向からの視点で見ることによって、
たとえば、ライナーの苦悩などがより強く思い起こされるわけです。

と、ほとんどエレンのことも忘れかけた頃に、いきなり登場した! 
しかも巨人になった!!
どひゃ~!!!

 

オニャンコポン?

本作の中で唯一アフリカ系と思われる人物。
彼はポジティブで誠実で、皆の信頼を集めるのですが、
ハンジが彼をこう呼んだ。
「オニャンコポン」。
何かの冗談かと思いました。
しかし、本当にこれが彼の名前。
それはないでしょ、諫山センセー。
しかし、今となっては他のどんな名前も思いつかない。
忘れられないこの名前・・・。

 

ミカサのその後

最終話。
絵でしか描かれておらず、それもごく小さいカットなのですが、
ミカサに寄り添っているのはなんと、あの・・・。
ですよね?

え~っ!!!
(ここの部分は、連載の最終回にはなくて、単行本に加筆されたものだそうです)

 

話は尽きない・・・。
最後の最後まで意外性に満ちていて、全く飽きない。
すべてのストーリーとエピソードが始めから計算されていたことがわかります。
最後まで読み終えて第一話に戻ると、驚きます。

長く楽しませていただいた諫山先生と、編集の方に感謝!!

 

「進撃の巨人 1~34」諫山創 講談社週刊少年マガジンコミックス

満足度★★★★★★(←?)

 


Away

2021年06月17日 | 映画(あ行)

RPG的美しき冒険世界

* * * * * * * * * * * *

ラトビアの新進クリエーター(当時25歳)ギンツ・ジルバロディスが、
たった一人で3年半をかけて完成したというアニメです。

飛行機事故でとある島に不時着した少年が、小鳥と共に町を目指してオートバイを駆るロードムービー。
セリフなし、当然字幕もナシ。
けれど主人公の絶望や不安、孤独、そして希望がストレートに私たちの胸に飛び込んできます。

パラシュートで降り立ち、気を失った主人公が始めに見るのが正体不明の黒い巨大な影。
おおーっと。進撃の巨人か?
と一瞬思うのですが、それとは少し違う。
が、見るからに何かまがまがしい、恐怖の根源のようなもの。
その正体は最後まで明かされないのですが。
主人公は絶えずその巨大な影に追われることになります。

そんな彼が、かわいらしい黄色い小鳥と道連れになったり、
バイクやその他の道具を手に入れたり、
そう、RPGのゲームをしている感覚に近いのです。
だから、なんだかワクワク、ドキドキ感もタップリ。

輪郭線のない絵も個性的でステキです。
この手法は「ロング・ウェイ・ノース」などにもあって、最近時々見かけますね。
そして何よりその映像が美しい!!

中でも「鏡の湖」の映像がもう、うっとりしてしまいます。
不思議さと広大さ・・・。
これは劇場の大画面で見たかった・・・。

それと、深い谷にかかる橋のシーン。
3Dアニメじゃないのに、その高度感がハンパなくて、
高所恐怖症気味の私はすくみ上がりそうでした。

小鳥さんも、無表情だしセリフもないのに、なんてかわいらしいこと!

でも、小鳥は主人公に付いてきたのに、途中で白い鳥と友だちになって行ってしまう。
そして本当に一人になってしまった主人公の落胆とかさみしさ・・・。
セリフもないのにそういう感情がぐいぐい伝わりますね。
人の感情というのは本当に、それぞれの国や民族性、文化にかかわらず
根源的には同一のものだということがよくわかります。

魅了されました!

 

シネマ映画.comにて

「Away」

2019年/ラトビア/81分

監督・制作・編集・音楽:ギンツ・ジルバロディス

 

冒険度★★★★☆

満足度★★★★★

 


おらおらでひとりいぐも

2021年06月15日 | 映画(あ行)

ひとりで行くこと

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原作本、読みたかったのですが読み損ねていまして、先に映画視聴となりました。

 

75歳桃子(田中裕子)(昭和の桃子=蒼井優)は、
夫に先立たれ、ひとり孤独な生活を送っています。
毎日単調な日々ながら、図書館に通い地球の歴史に関する本を読みあさり、
46億年の歴史に関するノートを作っています。

そんな彼女の身の回りに、彼女の「心の声」たちが集まり始め、
何やら賑やかな毎日となっていきます。

桃子はよくわからない人との結婚がイヤで、故郷岩手を飛び出して東京へ。
そして、恋愛結婚をして2人の子供に恵まれました。
まずまず、幸せな生活を送っていたわけです。
しかし夫に先立たれ、子どもたちとも疎遠。
突然訪れた孤独に戸惑っているように見受けられます。

そんなところへ現れた、変な男たち。
濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎が演じます。
彼らは言う「おらだば、おめだ」。
桃子がとうに捨て去った故郷の訛り丸出し。
これは妄想か、それともボケのはじまりか・・・? 

 

桃子は自分でもよくわからないけれども、実害はないようなので、
彼らと付き合うことにする。
桃子は自分自身の記憶を確かめるように、
彼らに自分の若い頃の夫・周造(東出昌大)との出会いや生活のことを思い出し、語っていきます。

夫は別に浮気もせず、尊大な亭主関白でもなく、本当に好きで結婚した大切な人だったと思う。
けれど、彼女は実は思っているのです。
夫の死で、自分はほんの少しホッとした気もしている、と。
本当は自分は自由になりたかったのだ、と。

東京に出てきた当時、食堂の店員として少し働いていたくらいで、
結婚してからはずっと専業主婦。
常に妻とか母という立場にあったわけで・・・。

今彼女は「自分自身」であることを取り戻しているのです。
それは孤独ではあるけれど、大切なもの。
こうして自分の分身たちと会話しながら、
残りわずかな人生を生きるのもいいんじゃないかな・・・と思えるまでのストーリー。

冒頭、なんとも壮大な46億年の地球の歴史がアニメで表わされています。
それは桃子の趣味ということであったのですが、
なぜ地球の歴史なのか。

それは46億年という気の遠くなる長い時をかけて、
命が誕生し受け継がれて、今生きているものたち、そして自分がいるから。
だから一つ一つの命はとても大事なのだということ。

桃子と同じく老境にある私には、とても心にしみるストーリーでありました。
でも、同じように早く「自由」になりたい、なんて思っちゃヤバいですね・・・

 

<Amazonプライムビデオにて>

「おらおらでひとりいぐも」

2020年/日本/137分

監督・脚本:沖田修一

原作:若竹千佐子

出演:田中裕子、蒼井優、東出昌大、濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎

 

老境度★★★★★

満足度★★★★.5


マイ・プレシャス・リスト

2021年06月14日 | 映画(ま行)

知能指数ばかりが重要じゃない

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ニューヨークに住むIQ185のキャリー・ピルビーは、ハーバード大学を飛び級で卒業しました。
しかし、人とのコミュニケーションが苦手で、仕事もなく友人もなし。
セラピスト、ペトロフの元に通っています。

ペトロフはキャリーのために幸せになる6つのリストを提案。
キャリーは別に自分は不幸ではないと思いながらも、
とりあえずリストを実行してみることに・・・。

死ぬ前のいくつかの「やりたいことリスト」などは良くドラマ化されていて、
本作中も誰かがそのことを挙げて揶揄していたのが面白かった。

キャリーが人との交流が苦手になってしまったというのは、
14歳で大学に入学してしまったということに原因があります。
確かに知能は並みの大人以上、でも精神年齢は14歳だし、
大学にいきなり入学してきた14歳の少女と周囲は、
そう簡単に打ち解けられるとも思えない。
どうしてもギクシャクしてしまうので、彼女は引きこもりがちになってしまうのですね。
そして大学を卒業してもまだ18歳。
そして彼女のために父親がみつけたバイトは、人と関わらなくてもいい夜の仕事。
これではますます孤独が募る・・・。

そこで医師は彼女にリストを提案するわけです。

・ペットを飼う
・友だちを作る
・子どもの頃好きだったことをする・・・など。

悪戦苦闘するキャリー。
金魚は死なせてしまうし、
新聞の交際希望欄の男性と会ってみたり・・・

まあ、お定まりの成長譚ではあります。
IQと精神年齢とは別物。
いかに多くの知識があっても、
人とのふれあいの中で得る体験こそが重要ということですね。

<Amazonプライムビデオにて>

「マイ・プレシャス・リスト」

2016年/アメリカ/98分

監督:スーザン・ジョンソン

原作:カレン・リスナー

出演:ベル・パウリー、ガブリエル・バーン、ネイサン・レイン、ウィリアム・モーズリー、ジェイソン・リッター

 

少女の成長度★★★☆☆

満足度★★★☆☆

 


「みかんとひよどり」近藤史恵

2021年06月13日 | 本(ミステリ)

ジビエ料理はいかが?

 

 

* * * * * * * * * * * *

シェフの亮は鬱屈としていた。
創作ジビエ料理を考案するも、店に客が来ないのだ。
そんなある日、山で遭難しかけたところを、無愛想な猟師・大高に救われる。
彼の腕を見込んだ亮は、あることを思いつく……。

* * * * * * * * * * * *

近藤史恵さんのシェフが登場するストーリーと言えば、
三舟シェフの「ビストロ・パ・マル」のシリーズ。
この度、嬉しくも西島秀俊さんが三舟シェフ役で、
TVドラマ「シェフは名探偵」がスタートしました。
やった~!

 

で、こちらはそれとは関係ないのですが、やはりシェフが登場する物語。

 

そもそもこの題名「みかんとひよどり」というと、
何か牧歌的なほのぼのしたものを想像していたのですが、
そうではありませんでした。

亮はフレンチのシェフですが、特に、ジビエ料理に力を入れたいと思っているのです。
ジビエ、つまり野性の動物の料理ですね。
イノシシや鹿、野鳥類・・・。
そう、この題名は食材としてのヒヨドリのことでした!

 

野生動物を食するためには、罠や銃が必要で、当然解体もしなければなりません。
そんなことから、ちょっと残酷で野蛮、という印象があるのも否めません。
けれどふだん、いいだけ牛や豚、鶏などを食べていて、
今さら残酷って、それはないですよね。

味を極めようとすれば、人の手で飼育された動物よりも、
より風味がくっきりとしそうなジビエに目が向くのは当然なのかもしれません。

亮はそのため自ら猟にも行くのですが、まだまだ腕は良くなく、
あるとき山で方向を見失い遭難しかけたところを、
大高という腕はいいが無愛想な猟師に救われます。
そしてその後、彼から食材の肉を手に入れるようになります。
ところがその大高の身辺に、火事など不可解な事件が起こり始めて・・・。
その謎を解くミステリとなっています。

やはり、ジビエに関しての反感を持つ一部の人々がいる・・・、
そういうことなのでしょう。

けれど今、増えすぎたイノシシや鹿による食害が問題になっていることもあり、
駆除した野生動物をただ廃棄するよりも、
食べるという活用の仕方は有用であるはずなのですね。

猟や罠のこと、解体のこと・・・
今まで知らなかったジビエにまつわることを多く学ばせても頂きました。

 

そこでまた、題名に戻りますが、ヒヨドリがミカンをお腹いっぱいに食べ丸々と太る。
そのヒヨドリの肉は、ミカンの香りがするそうです。
・・・食べてみたくなりますよね!

 

「みかんとひよどり」近藤史恵 角川文庫

満足度★★★★☆