映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「沈むフランシス」松家仁之

2017年12月03日 | 本(恋愛)
冷たく透明な空気感の中で


沈むフランシス
松家 仁之
新潮社


* * * * * * * * * *

北海道の小さな村を郵便配達車でめぐる女。
川のほとりの木造家屋に「フランシス」とともに暮らす男。
五官のすべてがひらかれる深く鮮やかな恋愛小説。
北海道の山村で出会った男女の恋愛の深まりを描きだす待望の第二作!

* * * * * * * * * *

「火山のふもとで」が大好きだった私ですが、
松家仁之さんのその後の作品をまだ読んでいませんでした。
そこで、この「沈むフランシス」。
まずはこの、表紙の犬の写真。
犬好きはそこでまず心惹かれてしまうのですが、本作に犬は登場しません。
ではなぜ犬なのか。
・・・それがですね、大きな声では言えませんが、
男女が固く抱き合う時に女性が下腹部に当たる何かの感じが、
まるで犬の鼻が押し付けられているようだと・・・、
まあ、そういうことです(^_^;)


東京の生活を捨て、北海道の小さな村に越してきて、
郵便配達の仕事を得た桂子。
中学校のとき父の仕事の都合でこの近くの町で暮らしたことがあり、
なんとなく土地勘もあるこのあたりに住みたいと思ってやってきたのです。
そんな桂子の配達区域に、男の一人暮らしの家があり、
ある時桂子は彼・和彦に招かれてその家に上がります。
和彦の友人夫婦も共に過ごし、和彦の「音」のコレクションを聞いたりして、
その時はそのまま帰るのですが、その翌週。
桂子が和彦の家を訪れると、いきなり寝室にいざなわれます。
愛の言葉も何もなしにいきなり始まる秘め事。
「その覚悟で来たんだよね。」
「そうかも。」
などという会話すらなしです。
けれど余計な言葉は要らないというか、
まるで孤独な魂と魂が求め合うように重なり合う2人。
2人のこの関係はその後つづくことになりますが、小さな村のこと。
車で行き来するので桂子が和彦の家に通っていることは一目瞭然。
すぐに2人のことが噂になってしまうのですが、
そうすると、桂子に余計なことを耳打ちする人もいるのです。
和彦には妻がいるとか、他にも通っている女がいる、とか。
それでも痴話喧嘩の修羅場になったりはせず、
淡々と感情の爆発を抑えながら寄り添い、むさぼり合う2人。
北海道の冷たい空気感とあいまって、独特の世界観があります。


ところで、和彦はここにある水力発電の機械「フランシス」の管理をして生活しているのです。
題名の「フランシス」だけでは到底意味がわかりませんが、
何やらロマンチックな響きがあって、
その秘密が水力発電の「フランシス・タービン」だった、というのもなんだか洒落ています。


では「沈む」とは?
終盤にある事件があって、おそらく2人のこの関係に変化が訪れると思われるのですが、
作中はそこまで語り切ることはなく、読者の空想に任せます。
冷たく透明な空気感の中で、かわされる愛の営みが鮮烈。


図書館蔵書にて
「沈むフランシス」松家仁之 新潮社
満足度★★★★☆
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「君の膵臓をたべたい。」住野よる

2017年06月10日 | 本(恋愛)
病気の女の子のハナシ

君の膵臓をたべたい (双葉文庫)
住野 よる
双葉社


* * * * * * * * * *

ある日、高校生の僕は病院で一冊の文庫本を拾う。
タイトルは「共病文庫」。
それはクラスメイトである山内桜良が綴った、秘密の日記帳だった。
そこには、彼女の余命が膵臓の病気により、もういくばくもないと書かれていて―。
読後、きっとこのタイトルに涙する。
「名前のない僕」と「日常のない彼女」が織りなす、大ベストセラー青春小説!

* * * * * * * * * *

大ベストセラーということで、何やら気になる題名だなあ・・・
とは思っていましたが、
文庫が出ていたので、つい出来心で買ってしまいました。
そもそも私、病気の女の子の話には近寄らないようにしているのに。


膵臓の病で、余命宣告を受けた山内桜良。
彼女はそのことを親友にさえも打ち明けていなかったのですが、
偶然に同級生の<僕>が彼女の日記をみて、その秘密を知ってしまいます。
ヒョウヒョウと自分の運命を受け入れ、
せめて最後にはやりたいことをしようと思う外交的な桜良。
一方、これまでほとんど人と関わることを避けていて、友人の一人もいない<僕>。
桜良のわがままに振り回されるうちに、人との交流の異議を見出していく<僕>なのですが、
やがて、およそ予定した桜良の最後の日よりも前に・・・。


はい、確かに泣けてしまう部分はありました。
でもやっぱりこれは、私が避けたいと思う「病気の女の子の話」、そのものでした。
若い人向け青春小説。
生活感なし。
って、高校生に生活感を求めるほうがムチャか。
つまり・・・
私は近寄らないほうが良かった・・・。


「君の膵臓をたべたい。」住野よる 双葉文庫
満足度★★☆☆☆
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「木暮荘物語」三浦しをん

2014年11月13日 | 本(恋愛)
登場人物誰もが愛すべき存在に思えてくる

木暮荘物語 (祥伝社文庫)
三浦 しをん
祥伝社


* * * * * * * * * *

小田急線の急行通過駅・世田谷代田から徒歩五分、
築ウン十年、全六室のぼろアパート木暮荘。
そこでは老大家木暮と女子大生の光子、
サラリーマンの神崎に花屋の店員繭の四人が、平穏な日々を送っていた。
だが、一旦愛を求めた時、
それぞれが抱える懊悩が痛烈な悲しみとなって滲み出す。
それを和らげ癒すのは、安普請ゆえに繋がりはじめる隣人たちのぬくもりだった…。


* * * * * * * * * *

築ウン十年のボロアパートの住人と
ご近所のちょっとした縁のある人々のストーリー。
それぞれが短編となっていますが、
人々も少しずつつながりがあって、全体で群像劇のようになっています。
それにしても登場人物一人ひとり、只者ではない。
カテゴリーにちょっと迷いましたが、
やっぱりこれは恋愛ものの一種なのだろうな。


冒頭「シンプリーヘブン」。
小暮荘2階の住人繭が彼・伊藤と部屋にいると、
突然に繭の元カレ・並木が上がり込んでくる。
並木には放浪癖があり、もう3年もナシのつぶてだった・・・。
普通はここで修羅場となるはずなのですが、
表面上、なんとものんきな展開になります。
並木が食材を買い込んできて、3人での食事・・・。
なんとも微妙なんだけど、チョッピリとぼけたこの雰囲気、
好きだなあ・・・。
繭が並木を待っていなかったといえば嘘になる。
しかし並木に対する伊藤の態度もなかなか大人なのであります。
この人も捨てがたい。
繭の気持ちの本当のところはどうなのか・・・。
まあ、そこが眼目です。
本巻ラスト「嘘の味」に、また並木が登場。
今度は並木からの視点のストーリーとなるのが洒落ています。


小暮荘周辺の人々もユニークですが、
やはりここに住んでいるひとたちが格別。
しかし、会社員神崎は
なんと2階から階下の女子大生を覗き見るのが趣味のヘンタイだし、
その女子大生は3人の男を代わる代わる自室に連れ込むだらしない娘・・・。
普通こういう人物をあまり好きにはならない。
けれども、そこが三浦しをんマジック。
読んでいくうちに、この人たちのことがどんどん好きになってしまいます。
特に、女子大生光子の事情には泣かされて・・・。
何にしてもだらしないコ、という印象が
鮮やかに一転していきますね。


何処にでもいそうだけれど、でも他のだれでもない、
一人ひとりの個性が光る、
是非オススメしたい一冊です。

「木暮荘物語」三浦しをん 祥伝社文庫
満足度★★★★★
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「白蓮れんれん」林真理子

2014年08月26日 | 本(恋愛)
朝ドラでは描けない白蓮の真実

白蓮れんれん (集英社文庫)
林 真理子
集英社


* * * * * * * * * *

あまりに名高い「白蓮事件」―、
姦通罪のあった大正十年の人妻の恋の逃避行は命がけであった。
天皇の従兄妹で華族で炭鉱王の妻、
相手は若い熱血の社会実義の闘士。
撃的な大ニュースだった。


* * * * * * * * * *

NHK連続テレビ小説「花子とアン」で、
今また一躍注目を浴びている白蓮さん。
ドラマ中の「蓮子」さんのモデルとなった方ですね。
ついミーハー的興味で読んでしまいました。
本作は1994年に出版されたものですが、
今また売れているでしょうねえ・・・。


本作は著者林真理子氏が、
宮崎龍之介・柳原白蓮の書巻700通(!!)あまりを
宮崎家からお借りするなどした綿密な取材によるもので、
かなり白蓮さんの実像に迫っていると思われます。
私などはつい仲間由紀恵さんのお顔をイメージしながら読み進んでしまいましたが、
まあ、それは自由ですよね。
TVドラマ以上に女のずるさやたくましさが綿密に描かれています。
しかし、華族、しかも天皇の従兄弟という立場が、
単なる「女性」を超えた不思議なオーラを放っている。
誰もが平等というのが当たり前の今でさえも、
このことを否定できません。


いわばお姫様が、無学の大富豪に嫁ぎ、
とうとう相手と相容れることができない・・・
というのは当然ですよね。
そんな無理矢理の結婚がまかり通っていた当時の女性のことを思うと
胸が塞がります。
しかし、彼女の恋の逃避行は、
超弩級のゴシップとなり世間で取り沙汰された。
そんなところは今と変わりませんね。
いえ、今でこそ不倫はどこにでもある話、珍しくもありませんから、
ニュースにはなるけれど、まもなく忘れられてしまうでしょう。
しかしこの時代は「姦通罪」などというものがあった・・・。
世間からのバッシングも相当なものだったようです。
本巻で唯一「村岡花子」の名前が出てくるところがありまして、それが

雑誌や新聞で平塚らいてう、村岡花子など好意的な意見もあったが、
たいていの女性文化人もあき子に厳しい。
未だに多くの特集が組まれ、あき子を弾劾しようとするのだ
。」
<あきの字がどうしても出せない!!・・・火へんに華です>


自分の心のままに自分らしく生きようとした・・・
今でも十分に驚嘆に値する女性だと思います。
彼女にこそ、この歌を捧げよう。
"Let It Go!"


「白蓮れんれん」林真理子 集英社文庫
満足度★★★☆☆
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「女がそれを食べるとき」 楊逸選 日本ペンクラブ編

2014年05月21日 | 本(恋愛)
「食べ物」よりも、小説の時代的変遷を感じる

女がそれを食べるとき (幻冬舎文庫)
楊 逸,日本ペンクラブ
幻冬舎


* * * * * * * * * *

あの人を思うと食べることを忘れる。
彼が欲しい気持ちと同じくらい、食欲が止まらない。
好きな人と共にする食事は、身体を重ねることに似ている
―恋愛と食べることの間には、様々な関係がある。
女性作家の描いた"食と恋"を巡る傑作小説を、芥川賞作家・楊逸が選出。
甘美なため息がこぼれるほど美味なる9篇を味わえる、贅沢なアンソロジー。


* * * * * * * * * *

女性作家"食と恋"の小説集、ということで、
この柔らかな水彩のイラスト表紙に心惹かれ、つい手にとってしまったこの本。
うーん、しかしちょっと期待した内容よりもビターです。
もう少しオリーブオイルやハーブ、あるいはスイーツ的なものを期待していましたが・・・。


そもそも著者陣をご覧あれ。
井上荒野、江國香織、よしもとばなな
・・・あたりはおなじみですが、
岡本かの子、幸田文、河野多恵子、田辺聖子と来るとかなりの風格が感じられます。
私はこの本、「食べ物」のことよりも小説の時代的変遷の方を強く感じてしまいました。


例えば幸田文「台所のおと」は、なんともきめ細やかな描写にため息が出るくらいですが、
その女性心理は時代がかっていてどうもしっくりこない。
私くらいの年でそう感じてしまうくらいなので、
若い人にはどうなのか。
いえ、かえって新鮮に思うかもしれませんけれど。
河野多恵子「骨の肉」についてはなおさらで、
いや、正直これはちょっと受け入れがたい。


本巻で一番しっくり来たのは、最終話よしもとばなな「幽霊の家」。
決してホラーではないのですが、
男女の心の機微というかそういうものの切り取り方が
やっぱり"今"なのだなあ。
今まで当たり前のように受け止めていましたが、
時代によって男女の関係性とか心の機微の捉え方が
ずいぶん変わってきているものなのでした。
どこがどう違うのか? 
もはや「国文」を学んで40年弱を経た私には説明のしようがありません。
それをまとめることができれば一冊の本ができましょう・・・。

「女がそれを食べるとき」 井上荒野他 楊逸選 日本ペンクラブ編 幻冬舎文庫
満足度★★☆☆☆
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「ニシノユキヒコの恋と冒険」 川上弘美

2014年03月22日 | 本(恋愛)
今様の光源氏
 
ニシノユキヒコの恋と冒険(新潮文庫)
川上 弘美
新潮社


* * * * * * * * * *

ニシノ君とのキスは、さみしかった。
今まで知ったどんなさみしい瞬間よりも。
女には一も二もなく優しい。
姿よしセックスよし。女に関して懲りることを知らない。
だけど最後には必ず去られてしまう…
とめどないこの世に、真実の愛を探してさまよった、
男一匹ニシノユキヒコの恋とかなしみの道行きを、交情あった十人の女が思い語る。
はてしなくしょうもないニシノの生きようが、切なく胸にせまる、
著者初の連作集。


* * * * * * * * * *

つい先ごろ竹野内豊さん主演で映画化作品公開。
竹野内豊さんは大好きなのですが、本作はなんだか内容がチャラそうな気がして
映画の方は全く見る気はなかったのですが、
なんと原作は川上弘美さんではありませんか!!
それで急に興味が出て、原作の方を読んでみることにしました。


ニシノさん、西野君、ユキヒコ、幸彦・・・
"ニシノユキヒコ"をいろいろな呼び方をする10人の女性が彼との交情を語ります。
なかなかの男前、
清潔、優しく礼儀正しい、
堅実な会社に勤めている。
女自身も知らない女の望みを、いつの間にか女の奥からすくい上げ、かなえてやる。
・・・とにかく理想に思えるこの男、
だから常につきあっている女は複数で、それぞれに気遣いを忘れないのだけれど・・・。
最後の最後にいつも女の方から逃げられてしまう。
それは彼が浮気だから? 
いえ、答えは割とはじめの方に提示されています。


それは若くして亡くなった彼の美しい姉の存在。
つまりはシスターコンプレックスというやつで、
彼の胸の奥底には常に"姉"がいる。
その"姉"を求めても得られない空虚を埋めるために
彼は多くの女性と付き合い愛を得ようとするのですが、
それは所詮彼が真に求めているものとは別のもの。
女性の方はそういう事情を知らずとも、
彼がまっすぐに自分を見ていないことに気づいてしまうのです。


この構図は、光源氏になぞらえられるかもしれません。
こちらの場合はマザーコンプレックスですが、
今は亡き母への愛を男女の愛にすり替え、
多くの女性を口説き、また、もてはやされもするのだけれど、
決して本当に欲しいものは得られない。
ニシノユキヒコ=今様の光源氏というわけです。


「なんだかチャラそう」という当初の印象とは全く違う、
切ない物語なのでした。
しかし、彼と関わった女性たちは、一時でも彼のような男性に愛されたことで、
女としての自信を持ち、成長していくように思うのです。
女は強い。
辛い恋の思い出も自らの糧としていくわけですが、
男の孤独は何によっても埋まらない。
そういう物語でした。


ニシノユキヒコについては、初めから竹野内豊さんのイメージで読めたのが幸いでした。
ちょっと他の人物は思い浮かびません。


「ニシノユキヒコの恋と冒険」川上弘美 新潮文庫
満足度★★★★☆
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「パスタマシーンの幽霊」 川上弘美

2013年07月29日 | 本(恋愛)
女達の不可思議な恋の物語

パスタマシーンの幽霊 (新潮文庫)
川上 弘美
新潮社

 
* * * * * * * * *

恋をしたとき、女の準備は千差万別。
海の穴に住む女は、男をすりつぶす丈夫な奥歯を磨き、
OLの誠子さんは、コロボックルの山口さんを隠すせんべいの空き箱を用意する。
おかまの修三ちゃんに叱られ通しのだめなアン子は、
不実な男の誘いの電話にうっかり喜ばない強い心を忘れぬように。
掌小説集『ざらざら』からさらに。
女たちが足をとられた恋の深みの居心地を描く22の情景。


* * * * * * * * *

この本には22篇のショートストーリーが収められていますが、
どれもほんのり余韻に満ちた作品です。



表題の「パスタマシーンの幽霊」
風変わりの題名に興味を惹かれますね。
「あたし」はあるとき、恋人隆司の部屋にパスタマシーンを見つけます。
「あたし」は料理がニガテでそんなものは使うはずもなく、
そして独身男子の隆司が使うとも思えない。
そこで「あたし」は、他の女の存在を感じてしまうわけです。
料理が得意でスペイン料理かなんかをぱぱっと作ってしまう「パエリア女」。
しかし、隆司は、これは亡くなった「ばあちゃん」のもので、
その亡くなったばあちゃんが時々現れてパスタを打っていたなどという・・・。
その後、隆司とは会わなくなった「あたし」だが・・・。
不思議なオチのあるストーリーなのですが、
きっぱりとした起承転結にならないのが、ここのストーリーたちのいいところ。
本作、題名は「ケチャップごはん」でもいいような気がしますが、
やっぱり「パスタマシーン」のほうが、ひと目を引きましょうか。
私的にはケチャップご飯はパス。
そもそもケチャップはあまり好きではない・・・。
バターを使うなら、絶対お醤油ですよ!
(どうでもいい話でした・・・)


「お別れだね、しっぽ」
「あたし」にはしっぽがある・・・。
それは犬のようなあのしっぽではなくて、影とか分身のようなもの。
時折人生の分岐点になりそうなところへ現れて、
「あたし」の進むべき方向を示唆してくれる。SFかオカルトっぽい設定ですが、
そんなことはなくて、「あたし」はごく普通の人生を歩んでいきます。
でもふと思う。
「あたし」はしっぽに導かれてここまで生きてきたけれど、
これでいいのだろうか。
しっぽに従わなかった人生もアリなのでは・・・? 
もしかすると「しっぽ」というのは、社会的規範とか、一般的に正しいあり方のことなのか・・・と思ったりもしますが、
まあ、そこまではあえて考えないほうがいいのかも。
まあ、時にはしっぽに居てほしい気がすることがあります。

「パスタマシーンの幽霊」川上弘美 新潮文庫
満足度★★★★☆
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「月の恋人」道尾秀介

2013年04月15日 | 本(恋愛)
TVドラマとは別物として楽しんでみては・・・?

            * * * * * * * * *

不甲斐ない彼氏と理不尽な職場を捨て、
ひとり旅に出た弥生は、滞在先の上海で葉月蓮介と出会う。
蓮介は、高級家具を扱うレゴリスの若き経営者として注目される存在だった。
一方、この街に住むシュウメイは、美貌を買われ、
レゴリスのCMモデルに選ばれるも、それをきっぱりと断っていた―。
恋は前触れもなく、始まった。
道尾秀介があなたに贈る、絆と再生のラブ・ストーリー。


            * * * * * * * * *

道尾秀介さんの文庫本新刊!ということで、購入してから気付きました。
そういえばこれ、TVドラマ化されていたものですね。
私、普段あまりTVドラマは見ないので忘れていました。
本作は、小説家が書きおろしでストーリーを作り、
それをもとに連ドラを制作、
そのドラマの放映とほぼ同時に原作本を刊行する
・・・というコラボ企画で書かれたもの。
しかもラブ・ストーリーということで、
道尾秀介作品としてはかなり異色です。
でも、これが面白かったのだな・・・。


年度末の忙しい時期で、
少しでも睡眠時間を確保したいと思っていたのに、
読み出すとなかなか止められず、眠くもならず、
結構なペースで読んでしまいました。
しかし、本巻のあとがきで著者が述べていますが、
この本とドラマはかなり内容が違い、
特にヒロインの人物像が大きく異なっているとのこと。
であれば、先にドラマを見たという方も、
ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
私は、この本の結局何がそんなに面白かったのだろうかと振り返れば、
このヒロインの飾らない人柄(一応見栄っ張りでもありますが)が親しみやすく、
つい感情移入して、先が気になってしまったのだなあ・・・と思ったのです。
会社経営のため"情"を捨て去ってしまったかのような蓮介が、
また人間味を取り戻していく、そのきっかけとなる彼女。
TVドラマでは、線香花火のコマーシャル映像などもあったのでしょうか。
それは見てみたかったと思います・・・。

「月の恋人」道尾秀介 新潮文庫
満足度★★★★☆
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「ほかならぬ人へ」 白石一文

2013年02月22日 | 本(恋愛)
ベストの相手である証し

ほかならぬ人へ (祥伝社文庫)
白石 一文
祥伝社


            * * * * * * * * *

「ベストの相手が見つかったときは、この人に間違いないっていう明らかな証拠があるんだ」
…妻のなずなに裏切られ、失意のうちにいた明生。
半ば自暴自棄の彼はふと、ある女性が発していた不思議な"徴(しるし)"に気づき、徐々に惹かれて行く…。
様々な愛のかたちとその本質を描いて第142回直木賞を受賞した、もっとも純粋な恋愛小説。


            * * * * * * * * *

私には初めての作家ですが、直木賞受賞作ということで興味を持って読んでみました。
別に権威に弱いわけではありませんが、
新たな作家を知る機会ではあると思うのですよね。


本作、主人公明生は資産家の御曹司ながら、
なぜか家族の中で自分だけ出来が悪く違和感が大きいため、早くに家を出ているのです。
誰もが「御曹司」のレッテルで自分を見て、嘲笑っているように思えるのだけれど、
キャバクラで出会ったなずなだけが、
素直にありのままの自分を気に入ってくれた(と思った)から結婚。
しかし実はなずなには以前から忘れられない人がいた・・・。
彼は次第に
「ベストの相手を見つけけた時には、何かこの人に違いないという証拠がある」
と思うようになります。
そういう意味で、なずなはベストの相手ではなかった。
彼が見つけた本当の相手とその証拠とは・・・?


まあ、ロマンチックなストーリーではありました。
でも、なんて言うか、どうも妻なずなのことがよくわかりません。
著者にすれば、
「女なんてどうせ男にはわからない」
という思いがあるのかも知れませんが、
女から見てもこんなにわけの分からない女ってそうはいないのでは? 
と言うか、魅力なさすぎ。
なんでこんな女と結婚したのか、それがそもそもいい加減です。
東海さんとの経緯は、結構いい感じで書かれていたと思います。
それだけに、なずなとのことは、単に物語上の障害を作るためだけのものに感じられてしまいます。
イマイチ、のめり込めなく思いました。


同時収録の「かけがえのない人へ」では、
さらにわけの分からない女性みはるが登場します。
彼女には結婚が決まっている男性がいるのですが、
同時に以前愛人関係にあったかつての上司とよりを戻し、
同じ日に掛け持ちで二人と逢ったりしているのです。
この二人はなんとSMプレイもどきを繰り広げます…。
(ちょっと焦りました)
いや、確かに私は古い女なのかもしれません。
単に結婚は「キャリア」と同じで、
どんな相手とでもいいからとにかく一度はしておくべき、
というみはるには好感も持てないし、納得もできません。
いえ、これが全くのフリーで、とにかく結婚してみようかと焦っているというのならまだしも、
彼女はどう見ても愛人の方を愛してますよねえ・・・。
だからラストは納得できるのですが・・・。
結局男のヒロイズムを満足させるだけのような気がしてしまいます。
女性と男性とで評価がわかれるのではないかと思いました。


「ほかならぬ人へ」白石一文 祥伝社文庫
満足度★★☆☆☆

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「右岸 上・下」 辻仁成

2012年10月04日 | 本(恋愛)
九の数奇な生涯

右岸 上 (集英社文庫)
辻 仁成
集英社


右岸 下 (集英社文庫)
辻 仁成
集英社


                 * * * * * * * * * 

さて、「左岸」を読み終えてから、「右岸」に入りました。
ところが、こちら祖父江九の人生は茉莉以上に劇的です。
「左岸」の方は茉莉の「女の一代記」と表現しました。
こちら右岸は、やはり男の一代記ではありますが、
むしろ「数奇な一生」と呼ぶほうがふさわしい。
というのも、この九は超能力者なのです。
子供の頃にはスプーンを曲げ、長じてもっと驚くべき能力を見せます。
もとより彼は、ヤクザの父とその愛人との間に生まれた子。
それゆえ、任侠話?と思うような場面があったりもして、
以前の「冷静と情熱のあいだ」の雰囲気を期待する方には、
ちょっと意外過ぎる展開に戸惑うかも知れません。
この数奇な生涯をたどる彼が、幼馴染茉莉との心のつながりを持ち続け、
合間合間に、彼女の人生との接点を持つ。
ああ、このときの彼女はこんなふう・・・とわかるところが、両方読んだ醍醐味です。


たった一度、若き九と茉莉がホテルに泊まったその時の真相は・・・。
うそ、そんなこととは思ってもいませんでした・・・。
けれど二人には肉体関係がない、
そこが本作の一番大事なところなので、
理由はともかく、そうして置きたかったのでしょうね。
他ではさんざん性愛を描きながらも、
主人公の二人には、純粋な魂だけのつながりを・・・というところで、
その大切さがいっそう深まります。
そういえば終盤、それぞれに結婚してもいい人が現れるのですが、双方そこでは踏み切れない。
それは多分、心の奥底にもっと大切にしたい人がいるから・・・。
二人の子供たちのこと、
惣一郎の死の意味、
左岸と右岸の両方を読んでようやくその全貌が解けるので、
やはり両方読むべきです。


左岸と右岸について九はこんなふうに言っています。

「はじまりは同じ場所だったというのに、
川は時とともに下流に向かうにつれてものすごく大きくなって、
僕達を遠ざけてしまう。僕は右岸で生きている。
あなたは左岸で生きている。
・・・人間の数だけ岸辺があるんだと思う。
だからぼくはいつも岸辺に立って、
あなたや、会えない家族、友人らのことを思うのです。」



ところで、茉莉も九も、それぞれ何度も大きな心の痛手を受けるのですが、
茉莉は、やがて立ち上がって一人で生きていきます。
でも九のほうは、落ち込んだら次に立ち上がるまでが一苦労。
それには常に誰かの大きな手助けが必要となります。
無論大きな事故で体を壊したこともあるのですが、
やはり、男と女では、男のほうがかなりハートはナイーブ。
そして女はたくましい。
これはもう、真理ですね。


「右岸」はスピリチュアルな側面がかなり強いので、
好みがあるかも知れません。
私は嫌いではありませんが、それにしても
九がこうでなければならない理由があまり良くわからないような・・・


「右岸」辻仁成 集英社文庫
満足度★★★☆☆
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「左岸 上・下」 江國香織

2012年09月30日 | 本(恋愛)
福岡、東京、パリを結ぶ女の一代記

左岸 上 (集英社文庫)
江國 香織
集英社


左岸 下 (集英社文庫)
江國 香織
集英社

                      
                    * * * * * * * * * 

かつての「冷静と情熱のあいだ」の著者二人が、
再び、一つのストーリーを女性側と男性側から綴ったストーリーです。
ボリュームたっぷり、上下二巻×2。
江國香織さんが女性側から書いたものがこの「左岸」。
辻仁成さんが男性側から書いたものが「右岸」。
福岡、東京、パリ。
舞台を移しながら語られる、男と女の一代記となっています。
どちらから読むか迷いますが、
ここはやはり女性の立場で江國香織さんから行く事にしましょう。


さて、「左岸」です。
福岡市。
主人公茉莉は2つ上の兄惣一郎と、
隣家に住む幼馴染の九の3人でいつも遊んでいました。
聡明な惣一郎を茉莉も九も大好きで、
三人でいればいつも幸せで何も怖いものがなかった。
ところが、惣一郎は人並み外れて早熟で、ある日突然自殺してしまいます。
茉莉と九、二人の幸せな子供時代はそこで幕を閉じ、
劇的な人生の波に二人は飲み込まれていく・・・。


この二人は、惣一郎を軸に心の奥底でつながっているのですが、
実際にはほとんど接点がなく時間が流れていきます。
なんと冒頭は、17歳の茉莉が男と駆け落ちをして東京に出てくるというところから。
もちろん、九ではありませんよ。
でもその男とはまもなく別れ、別な男と福岡に舞い戻ってきます。
まあ、奔放と言えば奔放。
どんな時も彼女は本気ですが、
実はいつも心の底に九を置いている、そんな気がします。
しかし九の方も、ある日自分の思いを茉莉に告げたきり、
放浪の旅に出てしまうのです。
なかなか、この二人一緒のシーンが出てこないので、やきもきさせられますが、
けれども茉莉は着実に自分の人生を歩んでいきます。


でも、なぜか彼女とつきあう男性はぐうたらになって身を持ち崩すか、死んでしまうかどちらか・・・
という両極端で、結局長続きはしないのです。
そんな中で生まれた一人娘さきの成長を見つめながら、
年齢を重ねていく・・・。
茉莉自身の母親と茉莉との相克。
そして茉莉と娘さきとの相克。
母と娘の二重写しが物語に厚みを加えます。


それから今作を強くイメージ付けているのが博多弁。
茉莉は絵のモデルとして時にはパリに渡ったりもするのですが、
この博多弁こそが、彼女をファンタジックな存在とせず、
きっちりしたたかに生きる生身の女とすることに貢献しています。
約半世紀に渡る物語となりますが、
あの、一人で「うったうったうー」と唱えながらダンスを踊るエキセントリックな少女が、
こういうふうに年を取る・・・ということが、
ものすごく説得力がある気がします。
確かに、こういうふう以外にはならないですよね。
取ってつけたようなハッピーエンドにはならないのですが、
でも何やら素晴らしい充足感が残ります。
朝の連続テレビドラマにもなりそうな、女の一代記。
読みごたえたっぷりでした。


さてところで、実は九には不思議な力があります。
今作ではあまりそのことには触れられていないのですが、
私たちは「右岸」ではまた全く別の景色を見ることになります。
今現在、まだその半ばほどまで読んだところですが、
果たしてそのラストは・・・??
つい期待してしまいます。

「左岸 上・下」江國香織 集英社文庫
満足度★★★★☆

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「切羽へ」井上荒野 

2012年05月16日 | 本(恋愛)
あと、もうほんの一歩なのに

切羽へ (新潮文庫)
井上 荒野
新潮社


                   * * * * * * * * * 

切羽(きりは)とは耳慣れない言葉ですが、
トンネル工事、または石炭などを採掘する構内作業の現場の、一番先端のこと。
恋愛小説には相容れない言葉のようでいて、
今作では非常に切ない状況を表した言葉となっています。


かつて炭鉱で栄えた離島。
セイはそこの小学校で養護教諭をしています。
画家の夫と二人暮らし。
二人はもともとこの島の出身ですが、
学生時代からしばらく島を離れていて、近年戻ってきて暮らし始めたのです。
冒頭、眠ったままのセイを抱き寄せる夫に、
自分が卵の黄身になったように感じるというセイに、満ち足りた生活を感じさせられます。
何不足なく充足された生活。

そんな所へ、新任教師として赴任してきた石和。
どうしてか彼のことが気になり、惹かれていくセイ。
二人が実際に会話したり、ともに過ごしたりする機会はとても少ないのです。
愛の言葉など論外。
けれども、例えば同じ場に多くの人がいていても、
全身でその人の気配だけを意識したりするような・・・そんな密やかな思い。
なぜか相手にとっての自分も同様の存在であることが確信できてしまう。


うわあ・・・、遠い昔の片思いを思い出してしまう。
(もっともその場合の相手の思いは、多分こちらには向いていなかった・・・!)
でも、そんな事ってやっぱりあると思うんですよね・・・。
自分の失われた半身を求めるかのように、相手に惹かれてしまうというようなことが。


ラストの最大の山場で、例えてみれば、二人は互いのトンネルの切羽にいるのです。
あともう少し、ほんの少し掘ればお互いのトンネルが繋がるのに、
二人はあえてそれをしない。


石和は指を二本、自分の唇にあてた。
それからその指を私のほうへ近づけた。
素早い、乱暴とさえいえる動きだったのに、指は私の唇の前でふっと止まった。
「さようなら」
その言葉を、石和は、はじめて使ってみる言葉のように、ゆっくりと発音した。



どうですか、これ。
指で唇に触れることすらも、思いとどまるというこの、狂おしいほどの切ない思い。
これは逆に官能的ですらありますね。


このストーリーには、逆にどんどんトンネルを掘りまくる(?!)人物が配されています。
セイと同僚の教師、月江。
彼女の愛人は本土の人ですが、妻子がある。
月江はいわば肉食系、セイとは対局にあるんですね。
このように己の欲望に忠実なのは羨ましくもあるけれど・・・、
その行き着く先は地獄であることを、セイも石和も知ってしまうのです。
だからこそなんでしょうね。
あえて二人は切羽の刹那で留まる。


甘く切ない物語です。
忘れかけた乙女心が、揺り起こされます・・・。
やっぱり女性好みの作品でしょうね。
でも、直木賞受賞作です。
男性の感想を聞いてみたいところです。


「切羽へ」井上荒野 新潮文庫
満足度★★★★★
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「最後の恋 つまり自分史上最高の恋 プレミアム」 阿川佐和子ほか 

2012年01月25日 | 本(恋愛)
人への思いを際立たせるのは・・・

最後の恋 プレミアム―つまり、自分史上最高の恋。 (新潮文庫)
阿川 佐和子,大島 真寿美,島本 理生,森 絵都,乃南 アサ,井上 荒野,村山 由佳
新潮社


               * * * * * * * *

先に読んだ第一弾アンソロジー「最後の恋 つまり自分史上最高の恋」でなかなか楽しめたため、
こちらも読んでみました。
究極の恋愛小説ではありますが、手放しなロマンに浸るというよりは、苦いものの方が多いのです。
人への思いを際立たせるのは、ハッピーな思いではなく、
届かない思いということかもしれません。


私の心に残ったのは・・・

「TUNAMI」村山由佳
大地震があり、交通機関がストップしてしまったため、4時間かけて帰宅したというOL。
そうです、これはあの大震災後に書かれたストーリー。
彼女はTVに映し出される大きな津波の有様に息をのみます。
しかし、彼女の目下の心配は、
長年一緒にいた飼い猫のタビスケの容態が悪く、ぐったりしていること。
そんなときに彼女の元を訪れたのは、
このタビスケを飼い始めたときに一緒にいたモトカレ。
彼と別れてから、
「だれかとの深い関係など、もう要らない。
いつでも自分の心に歯止めをかけられるくらいがちょうどいいのだ。」
そう思い定めてきた彼女でしたが・・・。
あの震災以来、結婚する人が増えたといいますが、
こんな時こそ人とのより強い絆を求めるものなのでしょう。
けれど彼女は、男への思いよりもタビスケへ向ける思いの方が、
純度の高い執着=恋と呼び得るのではないか、そんなことを思います。
このストーリーはあの頃の私たちの心の混乱をうまくすくい上げていると思いました。
被災地では多くの人の命が奪われていて、
私たちはなすすべもなく恐れおののき、呆然とするしかない。
けれどやはり目の前の猫の命もまた等しい重みを持っているのです。
引き比べるのは不遜なことと思いながら・・・。
あのすさまじい映像と日常生活の乖離に、私たちの意識は混乱していたなあ・・・と、
このストーリーを読んで、改めて感じた次第。



「それは秘密の」乃南アサ
政治に携わり一定の地位もある琢己は、
友人の葬儀の帰り道、一人で山道を運転していました。
たまたま台風が襲った夜のことです。
ちょうどトンネルの出口付近にさしかかったところで、
前方の道路が崩れ去っていることに気づきます。
やむなく後戻りしようとするとトンネルの後方もまた土砂崩れが起こり、そこに路線バスが埋もれている。
かろうじて中に生き残った女性を一人救出しますが、
身動きならないそのトンネルの中で、二人は一夜を明かします。
・・・とするとちょっと色っぽい展開を想像してしまいますが、そうはなりません。
お互い節度を持ったまま励まし合って、真っ暗な中で一夜を明かしますが、
そんな中で二人の心は次第に接近していくのです。
初老の"センセイ"と言われる人物とごく普通の主婦。
そんな二人は互いに名前も明かさないまま、
まるで中学生の初恋のようなピュアな気持ちでお互いに恋心を覚える。
ステキなストーリーでした。


そのほか収録されているのは
「甘い記憶」大島真寿実
「ブーツ」井上荒野
「ヨハネスブルグのマフィア」森絵都
「森で待つ」阿川佐和子
「ときめき」島本理生


「ヨハネスブルグのマフィア」で、ちょっと興味をひく部分がありました。
眠れないときの対処法。
まず一つ言葉を頭に思い浮かべる。
何でもいい。
たとえば花。
次にその花と全くつながりのない言葉を思い浮かべる。
たとえば屋根。
その次には屋根とつながりのない言葉。
ちりめんじゃことか。
これを延々と続けていく。
気をつけないと植物とか食べ物とか関連が出てきてしまうから、そうならないように。
夜。   海。   電信柱。  
砂。   封筒。  卵。   たらこ・・・じゃなくて、鏡。
というような具合。
うん、これなんだか使えそうな気がします。
今度眠れないとき試してみよう。

「最後の恋 つまり自分史上最高の恋 Premium」阿川佐和子ほか 新潮文庫
満足度★★★☆☆
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「東京公園」 小路幸也

2011年07月23日 | 本(恋愛)
ファインダーの向こうの母子

東京公園 (新潮文庫)
小路 幸也
新潮社


              * * * * * * * *

写真家を目指す大学生の圭司は、公園で出会った男性に奇妙な依頼を受けます。
「妻の百合香を尾行して、写真を撮って欲しい」と。


百合香は、天気がよければいつも幼い娘かりんを連れて「公園」へ行くのです。
無邪気なかりんと彼女をやさしく見守る母、百合香。
気づかれずに写真を撮っていたつもりが、
いつしか百合香がこちらを意識していることに気づく。
写真を撮る側、撮られる側、
決して言葉は交わさないのですが、不思議な一体感が生じ、
圭司自身もこの母子に対してある種の感情が芽生えていることを自覚していくのです。

この尾行にはどんな意味があるのか。
また、百合香が頻繁に公園へ散歩に行くことの意味は・・・。


圭司の友人(女性)富永や、血のつながらない姉との交流を交えながら、
人を好きになることの意味、
愛することの意味を問うていきます。


ファインダーの向こうの母子の姿がいいですね。
いかにも儚げで、ふんわりしていて、
そして守りたくなる。
あこがれずにいる方が難しいというものです。


登場する公園は水元公園、日比谷公園、砧公園、
洗足池公園、世田谷公園、和田堀公園、
行船公園、井の頭公園。
聞いたことだけはある名前もありますが、
私には全く土地勘がないのが残念。
どれもちょっと行って見たくなる、そんな描写があります。
著者と重ね合わせて、圭司は北海道旭川出身ということになっています。
なので、ちょっぴり北海道の故郷のことにもふれている部分があり、
そこはちょっとうれしい描写です。


この作品、映画化されていて、現在上映中。(一斉公開ではないようです)
確かに「絵になる」シーンが多くて、
映画化にはもってこいに思えます。
きっと、圭司の心と同様に、瑞々しい情感たっぷりの作品なんだろうな。
今すぐにではなくても、いずれ見てみたいと思います。

「東京公園」小路幸也 新潮文庫
満足度★★★☆☆
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「喋々喃々」 小川糸

2011年05月31日 | 本(恋愛)
東京下町の四季の彩りの下で

喋々喃々 (ポプラ文庫)
小川 糸
ポプラ社

            * * * * * * * *

喋々喃々(ちょうちょうなんなん)とは・・・
男女が楽しげに小声で語り合うさま、とあります。
このストーリーは恋愛物語ですが、
そういう題名よりは、もっとしっとりと大人のイメージがありまして・・・、
私は、はまりました!

主人公、栞(しおり)は、
東京の下町、谷中でアンティーク着物店を営んでいます。
ある日そこへ、父親に似た声をした男性客が訪れます。

・・・その時、ふわりと滑らかな風が舞い上がったような気がした。
・・・そばに近づくと、男性の首の辺りから果物のようなすがすがしい香りがした。


こんな描写を見るだけで、よくわかりますね。
そうです、フォーリン・ラブ!!
しかし、この男性春一郎さんの左手薬指には、指輪があるのです・・・。


初めての出会いの季節は新春。
二人の心はおずおずと接近していき、
そして季節は巡っていきます。
春、夏、秋、冬・・・そうして年末へと一巡り。
季節ごとの地域の行事、
服装や食べ物、
四季折々の描写がとても懐かしく美しい。

栞は商売柄、いつも和服姿です。
こんな人に優しくされたら、そりゃ男性はコロリでしょうよ・・・。
ちょっとズルイなんて思ったりして。
こう言うとすごく古風な物語に思えるかもしれませんが、
でもやはりこれはしっかり現代の物語。
彼女の両親は離婚していて、父は別の女性と再婚。
母は結婚中に別の男性とフリンし子供を身ごもった。
現在、母は、栞の実の妹、そして血のつながらない小さな妹と3人で暮らしている・・・、
などと複雑な事情があったりもします。
栞は、子供が苦手、などといいつつ
子供へ向ける栞の目、気持ち、
そんな中に、独身女性のまだ果たし得ていない
母性がほのみえる感じがして・・・。
そういう細やかな感情が、それとなく表されているところがいいですね。

栞自身の別れた恋人は、既に別の女性と結婚しているのですが、
その彼から年賀状と暑中見舞いの絵はがきが、毎年恒例として舞い込む。
彼のことは忘れられず、そのはがきを楽しみにしていた栞ですが。
このことが実は大きな伏線で、思いがけない展開を見せるのです・・・。

栞と春一郎さんは、ひたすらにお互いが大事な存在になっていくのですが、
そうなればなるほど、口には出さないけれども「不倫」という事実が重く、
罪悪感に駆られていきますね。
この切なさ・・・。
出会ってしまったものは、仕方ないじゃない。
本当にそう思えてしまいます。
一体どのような結末を迎えるのか、
後半はそれが気になって、
ますますやめられなくなってしまいます。


現代的センスで飾られた和風の小物店。
私はそういうお店が大好きなのですが、
たとえてみるならこの物語のイメージは、それに近いものがあるかも。
あまりにステキで生身の男性じゃないみたい、
そう思えてしまう春一郎さん。
何だか夢見る少女の頃のように、あこがれてしまいます。
いい年して、やっぱりこういうの、好きなんです・・・。
俳優にたとえるなら・・・誰でしょう? 
う~ん、どうも思いつかない。
むしろ、少女漫画の中にモデルはありそうです。

それから、やはり小川糸さんらしく、
食べ物の描写がすごくいいですね。
ギンギンのグルメではなく、
ごくごく日常のお総菜だったりお菓子だったりするのですが、
とてもおいしそう。
きちんとしたおいしいものを好きな人と一緒に食べる。
これぞ至福の時ですね。

「喋々喃々」小川糸 ポプラ文庫
満足度 ★★★★★
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