映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「夜中にジャムを煮る」 平松洋子 

2012年02月29日 | 本(エッセイ)
密やかな女の幸せ・・・

                * * * * * * * * * *

夜中にジャムを煮る (新潮文庫)
平松 洋子
新潮社


               * * * * * * * * * *

食に関わるエッセイ集ですが、この本、グルメ本とは違います。
著者の食に関しての飽くことなき探究心に、頭の下がる思いがしました。


例えば、ご飯。
電気炊飯器では物足りなくなった著者は、いろいろなもので試します。
昔ながらのアルミの文化鍋。
韓国の石鍋。
「釜炊き三昧」という製品。
土鍋。
「飯炊き道」にはまった著者は、10年をかけその道に邁進。
結果がこの言葉にたどり着く。
「ご飯は基本的には愛情。
おいしいご飯を食べさせてあげたい、その気持ちさえあれば、美味しく炊けるもの・・・」

鍋に振り回されるのでなく、あくまでも自分の炊き方で・・・か。
私は、電気釜で満足してます! 
ちょっとまねはできません。
でも、ご飯にここまでこだわるというのは日本人ならではですねえ。



表題の「夜中にジャムを煮る」というのは、
果物の食べ時を見極めるのがどれだけ難しいか、という話から始まります。
果物が固くなく、熟れすぎず、その最も食べごろの時は一瞬で、
うっかりすると見過ごしてしまう。
だからたくさんの果物が手元にあるときなど、一度には食べきれず困ってしまうというのです。
そこでひらめいたのが、その最も良い時にジャムにしてしまうこと。
そして、夜更けの静かさの中でジャムを煮ることが、著者の密かな楽しみとなる。

「世界がすっかり闇に包まれて、しんと音を失った夜。
さっと洗ってへたをとったいちごをまるごと小鍋に入れ、砂糖といっしょに火にかける。
ただそれだけ。
すると、夜のしじまの中に甘美な香が混じりはじめる。
暗闇と静寂のなかでゆっくりとろけてゆく果実をひとり占めにして、胸いっぱい幸福感が満ちる。」


何やら芳醇で官能的な感じさえする、夜中のジャム作りなのでした。

だしの話、カレーの話、韓国料理の話・・・、
決して高価なグルメの話ではないけれど、
どれも食への愛情・探究心に満ちており、なんだか幸せな気持ちになります。
そして一人でごはんを食べることに、
変に意識をする必要はないという部分にも納得。
一人暮らしならあたりまえのことだし、わびしいとか何とか、考える必要はないのではないかと。
人間、一人で生まれて一人で死んでいくので、
いつ何時でも一人で生きていける準備をしておいたほうがいい。
一人ピクニックが好きだという著者は、そういうのです。
私も映画を見に行く休日は、一人でお店に入ってランチをするのですが、
まあちょっと一人では入りにくいお店もありますね。
けど、自分さえ気にしなければ、どうということないのかもしれない。


さて、そしてまた、この本の解説が、我が敬愛する梨木香歩さんです。
氏は、先に上げた「ジャム」の部分で、
「すべての雑音が消える真夜中にジャムを煮る音とにおいに五感が集中する、
そのきりきりとした心地よさ、夜中の不思議な時間の流れ方の描写に共感する」

と記しています。
なんだか無性にいちごジャムが作りたくなってしまいますねえ・・・。

「夜中にジャムを煮る」平松洋子 新潮文庫
満足度★★★★☆

ポスター犬1

2012年02月28日 | 工房『たんぽぽ』
木洩れ日の家で



「木漏れ日の家で」は、一人の老女の生活を綴った大変に印象深い作品でした。
その中に登場したのが、ボーダーコリーのフィラ。
素晴らしい演技力に舌を巻きました。
その、フィラを思いつつ仕上げてみました。
それで思いついたのが、この映画チラシとのコラボ。
この手は使えそうだ・・・などと思いつつ・・・。





→「木洩れ日の家で」

ハングオーバー!!史上最大の二日酔い 国境を越える

2012年02月27日 | 映画(は行)
♪ちょいと一杯のつもりで飲んで



                 * * * * * * * * * *

「ハングオーバー!消えた花ムコと史上最大の二日酔い」続編です。
前作で、結婚式前夜のバチュラーパーティーにはすっかり懲りた歯科医のストゥ。
今度のタイで行う自分の結婚式では、
絶対にバチュラーパーティーなんかしない、と心に誓います。

しかし、災いの元アランも式に出席することになり・・・。
浜辺の焚き火の前でビールをほんの一杯・・・のつもりだったのですが、
なんと気がつけば見知らぬ部屋。
部屋にはなぜか猿が一匹。
アランは丸刈り。
ストゥの顔には派手なタトゥ。
そして花嫁の弟が行方不明!!
夕方の式までにこの事態を何とかしなくては・・・! 
どうしても思い出せない昨夜の行動を少しずつ紐といていくと・・・。



前作ですっかり驚かされたので、今回はそこまでの驚きはないものの、たっぷり楽しめました。
タイのバンコクの夜。
なかなか怪しさもたっぷりでしたね。
弟君を捜し求めて結局元の木阿弥。
万事休すというところでひらめく真相も見事。
彼らの破れかぶれの友情もよし。
顔にタトゥのパンクな歯医者さんも、もしかしたらウケるかも・・・。



→ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最大の二日酔い

「ハングオーバー!!史上最大の二日酔い 国境を越える」
2011年/アメリカ/112分
監督:トッド・フィリップス
出演:ブラッドリー・クーパー、エド・ヘルムズ、ザック・カリフィアナキス、ケン・チョン

キツツキと雨

2012年02月26日 | 映画(か行)
語らない“間”の面白さ



                 * * * * * * * * * *

のどかな山村にゾンビ映画の撮影隊がやって来ました。
ひょんなことからこの映画撮影を手伝うことになった60歳、木こりの克彦(役所広司)と、
気が弱くてスタッフをまとめられない25歳、新人監督幸一(小栗旬)の交流を描きます。
「南極料理人」の沖田修一監督。
ごく普通の人達のユーモラスな行動をじっくりとらえ、
また、お互いに影響を及ぼし成長していく過程がとてもいいですね。


気が小さくてダメ出しをできない監督・・・。
そんなことは考えたこともなかったですが、
確かに年季の入った超ベテランのカメラマンやら助監督やら俳優やらに囲まれれば、
若き新監督はなかなか思ったことを言えないなんてことはありそうです。



克彦ははじめ幸一を監督とは知らず、
「若いのに何ぼーっとしてるんだ、行って手伝ってこい」なんて言ってしまうのですが、
それすらも否定できない幸一。
実は、克彦には幸一と同じ年くらいの息子がいて、
仕事をやめてゴロゴロしていたのです。
何をやってるんだか・・・と、歯痒く見ていたわけですが、
職場の中で苦労しながらも頑張っている幸一を見るうちに、
若者は若者なりの苦労があるとわかっていくのですね。
二人の、
海苔を食べながら将棋を指すシーン、
温泉のシーン、
あんみつのシーン、
どれもじんわりとした可笑しみがあり、心に残っています。

さて、この二人のみならず、撮影スタッフと村人たちもまた、良い協力関係を結んでいきます。
次第に村を上げての撮影協力となっていく。
しょうもないゾンビ映画なんですけどね。
でもやっぱり身近な所で撮影をやっていたら、つい身近に感じてしまいますよね。
たとえゾンビ姿でも出演できるとなれば、そりゃ~、も~!




ところでこの映画自体の撮影現場は、かなり複雑だったのではないでしょうか。
撮影現場の中に撮影現場がある。
カメラを撮っている光景をまた撮っているカメラがある。
劇中劇というよりもっと複雑な感じです。
あの、体育館内で槍の練習をするシーン。
レールの上をカメラで移動して撮影するシーンがありました。
それを向かい側から見ているので、
つまりはこちら側にも同じレールがあって、同じ形で撮影をしているわけですね。
そのような映画の裏事情を思わせるシーンがとても興味深かったのです。
屋外の撮影は天候に左右されることが多くて大変、ということもよくわかりました!!




余談ですが、私、この日は「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」と、この作品を2本見たのです。
「ものすごく・・・」は確かに素晴らしかった。
でも、こちらを見たらやっぱりこちらのほうが好きだなあ・・・と、しみじみ思ってしまったのでした。
テーマも内容も全く違うので比較すべきものでもないのですが、
多分、日本人ならたいていの方はそう感じるのでは・・・? 
「ものすごく・・・」は、実に“うるさい”のです。
音やセリフが、というのではなくて(いや、若干それもあるかな)、
全体に饒舌・・・。
邦画は、セリフの間合いやお互いの呼吸が静かなんですよね・・・。
なんだか、まったりと落ち着く。
やっぱり自己主張しない民族なのかな。
ハリウッド映画好きの私ですが、基本はやっぱり日本人、
と今更感じた次第。

2011年/日本/129分
監督:沖田修一
出演:役所広司、小栗旬、高良健吾、臼田あさ美、古舘寛治



「折れた竜骨」米澤穂信

2012年02月25日 | 本(ミステリ)
ミステリと冒険ファンタジーの融合

折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)
米澤 穂信
東京創元社


                * * * * * * * * * *

第64回日本推理作家協会賞その他、数々の賞を欲しいままにした作品です。
「魔術と剣と謎解きの巨編」とあるように、中世イギリスが舞台。
思い切りファンタジー要素たっぷりで、
これまでの「ミステリ」とは全然イメージが異なります。
そもそもミステリは現実的ロジックで謎を解き明かしていくもの。
そこに魔法が出てきてしまっては、"ズル"じゃん、とそう思えるわけなのですが・・・。
いえ、ご心配なく。
実際ファンタジー要素たっぷりの冒険ものですが、
やっぱりきちんとした"推理"の力で謎は解かれます。


ロンドンから東へ海を進んだソロン諸島。
その地を治めるのはローレント・エイルウィン。
しかし、彼は暗殺騎士によって殺されてしまいます。
彼の娘アミーナが、暗殺騎士を追って放浪の旅をする騎士ファルク・フィッツジョンと共に、
この殺人者を突き止めていくというストーリー。
殺人の実行者は、暗殺騎士の魔術により、
自分でもそうと知らないうちに操られて殺人を犯しているのです。

また、それと時を同じく、
この地の因縁の敵"呪われたデーン人"が襲撃を仕掛けてくる。
アミーナの兄アダムが領主の跡継ぎなのですが、とんでもない役立たず。
聡明で勇気あるアミーナが、父暗殺の謎とデーン人との戦いに臨みます。



市が立ち、にぎわう港町をアミーナが行くシーンから始まる冒頭、
すっとこの世界に引きこまれてしまいました。
そして、このストーリーでの名探偵役は騎士ファルク。
少年ニコラを助手としています。
美少女と騎士と少年、お膳立てはバッチリ。
あとは皆一癖も二癖もありそうな傭兵たち。
そして薄気味の悪い不死の"呪われたデーン人"。
サーガを語る吟遊詩人。
けれど無駄な布陣はありません。
それぞれがそれぞれの意味を持って存在しています。
中でもデーン人との戦闘シーンは凄まじく迫力に満ちていて、
まさに手に汗を握ります。
いくら待っても来ないアダムとその兵の一団。
傭兵たちに任せて自分だけ逃げ出すわけに行かないと、
恐怖にたちむかい、戦闘の場に留まるアミーナの姿は、凛々しくかっこいい。
まさに現代性のある女性像。


ラストでは、ファルクが関係者一同を呼び集め、
真相を一つずつ解き明かしていきます。
彼はこれを「儀式」と呼ぶ。
そうです、ミステリでは欠かせない大切な「儀式」ですよね。
ところがここでも、並ではない驚愕の真相が・・・・!!
ある意味これは反則技かもしれませんが・・・。


何れにしてもドキドキする冒険ファンタジーとミステリの素晴らしい融合の形を見ることができたと思います。
こういうストーリーを読むのは、ある意味至福の時。

「折れた竜骨」米澤穂信 東京創元社 ミステリ・フロンティア
満足度★★★★★


ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

2012年02月23日 | 映画(ま行)
ものすごく過酷な経験をして、ありえないほど少年は成長する



                          * * * * * * * * * *

なかなかユニークな題名のこの作品。
原題は“Extremely Loud and Incredibly Close”ということで、
ジョナサン・サフラン・フォアの原作そのまま直訳。
忘れられない衝撃的な貿易センタービル崩壊の映像は、
いつかきっと映画のストーリーの中に登場すると思っていましたが、
やはり来ました。


9.11テロで最愛の父をなくした少年オスカー。
彼は父のクロゼットの中で、一つの鍵を見つけます。
父親が残したメッセージを探るために、
オスカーはその鍵と関係があると思われる
“ブラック”と言う名前の人を訪ね歩く冒険を始めるのですが・・・。

あの9月11日から、オスカーの世界は激変してしまいました。
大好きな父親は亡く、母親とふたりきりの生活。
事件のあと父の遺骸は見つからず、葬儀の時にも棺の中はカラだったのです。
そのためか、オスカーは父の死を受け入れられない。



先日見た「永遠の僕達」でも、少年イーノックは事故で両親を亡くすのですが、
彼自身もその事故で昏睡状態となり、両親の葬儀を体験していない。
それなので、彼は両親の死を受け入れられないでいたのでした。
そうそう、「柳沢教授」のコミックの中でも、
少年時代の柳沢教授が、お母さんが亡くなったときに
お父さんに「お母さんと話をするように」と言われるのでした。
柳沢少年はあまりにも気丈で大人びて、葬儀の手伝いをしようなどとするので、
「死」をきちんと正面から受け入れていないと、お父さんは思ったのでしょうね。

こうしてみると、お葬式というのは単に宗教上の習慣なのではなくて、
「死」というものに向き合い、納得するためにあるのだとわかってきますね。
それは死者のためにあるのではなくて、生きている者たちのためにある。
亡骸にきちんと向き合って納得し、
そのことを受け入れていくことが、私達には必要なのでしょう。



さて、オスカー少年は、その「死」を受け入れる大切なプロセスが得られなかったために、
大変な遠回りをしなければなりません。
しかし、それはより大きな再生のために必要なことでした。
実は、少年のもつ苦悩はもっと大きなものだったことが最後にわかるのですが。
子供が主人公の作品は、普通は明るく無邪気、元気、夢があって、無欲で汚れがない
・・・そういう方向性を想像してしまうのですが、
オスカーはもっと複雑です。
父親の期待に添える部分、添えない部分があって、
大好きではあるけれど、頑として立ちはだかっている壁でもあった。
父と息子の相克と絆。
まさにハリウッド的テーマです。

オスカーは9.11後、事故を思い出させるようなものが怖くなってしまっています。
高層ビル群、地下鉄、街の騒音、鉄骨の橋・・・。
また、見知らぬ人と話をするのも苦手。
その彼が、すべての苦手と相反する冒険に出ようとする所がすごいですよね。
それはやはり少年の持つ自らの成長力なのかもしれません。
どんなに怖くても、本当に自分がすべきことを知っている。
そして、最後に私たちの心を感動に震わすのは、
密かにオスカーを見守るたくさんの人々の愛なのです。
自分の力で立とうとすることは必要。
けれど実は多くの人に支えられてそれができるのだと気づくことももっと大切。
そういうことなのだと思います。



オスカー少年の例えようもなく苦しく混乱した胸のうちに、
ようやく平安と希望が蘇りました。
つまりは、9.11テロで亡くなった方々の遺族だけでなく、
アメリカの人々皆が心に負った傷が、
ようやく癒えてきたのでしょうね。
私たち日本人もまた、昨年の3.11で大きく心は混乱し痛んだわけですが、
でも、その傷が癒えるまでにはまだしばらくかかりそうです。


言葉を失った老人とオスカーのコンビがなかなか良かったですね。
暗くなりがちなこの作品の中で、
なんだかぽっと温かなものが流れるこの二人のシーンでした。


「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」
監督:スティーブン・ダルドリー
原作:ジョナサン・サフラン・フォア
出演:トム・ハンクス、サンドラ・ブロック、トー、マス・ホーン、マックス・フォン・シドー、ビオラ・デイビス

ネバーセイ・ネバーアゲイン

2012年02月22日 | 007
ショーン・コネリー返り咲き

                       * * * * * * * * * *

えーと、この作品の頃、ジェームズ・ボンドはすっかりロジャー・ムーアのものになっていたのですが、
なんと12年ぶりにショーン・コネリーが返り咲きました!!
先日見たロジャー・ムーア版「ユア・アイズ・オンリー」は、実際、どうにもならない作品だったので・・・。
実のところ、私がよほど疲れていて集中できなかっただけなのか、
または、もういつもと同じパターンでは面白みも感じられなくなっちゃったのかと思ったりもしていたんだけど。
今作をみて、そうではないと確信したワケね。
そうなんですよー。
やっぱり007はショーン・コネリーじゃなくちゃ、という思いは根強いんだな。



ストーリーは、これまたおなじみ宿敵スペクターが相手で、
彼らが核ミサイルを横取りし、その身代金を要求するというもの。
お定まり美女とのロマンスを交えつつ、スリルたっぷりの敵とのやりとりが繰り広げられます。
だから特別目新しいというわけではないのだけれど・・・
定石を踏みつつも、これだけ面白く作ることができるという証明のような作品になってるよね。
やはりショーン・コネリーの存在は大きいよ。
この作品、以前までの007を踏まえていることが重要なのです。
007は優秀ではあるけれど、彼が手がけた仕事では常に乱闘やら銃撃戦やらカーチェイスやらが繰り広げられるので、
その後始末が大変なのでしょう。
これは確かに事務方ならもういい加減にして欲しいと思うでしょうね・・・。
今作の設定では、最近007は、前線を離れて、主に後輩の講師を務めているとあります。
その彼が行くのは、長期滞在の人間ドックみたいな療養所。
ボンドはクラシックカーに乗って現れますが、
「古いものはいいですな。まだまだ役に立ちます」なんて会話が挟まれていまして、
ジェームズ・ボンドもいい年になりました・・・っていうことを
いろいろなところでアピールしているわけです。
けれど、やっぱり重要なところでは彼に頼るしかない!
核ミサイルを取り戻す。
これが今回のミッションであります。



今作は実は「サンダーボール作戦」のリメイクということなんだけど・・・。
ええ、そうだったの? 
そういえば水中シーンの多かったところとか、サメに追われるシーンとか・・・あったなあ。
でも、ほとんど別物と行ってもいいと思うよ。
科学技術的にもこの時代なりの最先端を行っていると思う。
ミサイル発射に米大統領の目の照合が必要だったり、
今でもさほど古びて見えないコンピューターゲームのシーンがあったりして。
それから、これもお定まりの007の新兵器。
武器を仕込んだ万年筆とか腕時計。
ジャンプするバイク。
これらを駆使する007。
これですよね、これ!!
こういうシーンがあってこそ007だ。
スペクターのNO.1ラルゴとかちょっとアブノーマルな感じの女殺人鬼ファティマ、
そして敵から寝返るボンドガール、ドミノ。
人物配置もばっちり決まってる。
まさに安心して見られる定番007、007集大成みたいな作品でした。
ショーン・コネリーはこのとき53歳くらいかな?
そうだよね。それにしてはまだまだ若い、十分かっこよかったよね。
うん。この人は年齢が行くほど渋みをましてステキになる・・・。
・・・というわけで、この007シリーズ、もうやめてしまおうかとも思ったのですが、
気を取り直して続けることにします。

ネバーセイ・ネバーアゲイン [DVD]
ショーン・コネリー,クラウス・マリア・ブランダウアー,キム・ベイシンガー,マックス・フォン・シドー
20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパン



「ネバーセイ・ネバーアゲイン」
1983年/アメリカ/134分
監督:アービン・カーシュナー
出演:ショーン・コネリー、クラウス・マリア・ブランダウアー、バーバラ・カレラ、キム・ベイシンガー、マックス・フォン・シドー

「奇面館の殺人」 綾辻行人 

2012年02月21日 | 本(ミステリ)
吹雪で孤立した館で、やはり事件は起こる

奇面館の殺人 (講談社ノベルス)
綾辻 行人
講談社


                 * * * * * * * * * *

綾辻行人氏「館」シリーズ最新刊。
シリーズ9作目は、まさにミステリのためのミステリといったお膳立てで、
本格ミステリファンを楽しませてくれます。


名探偵、鹿谷門実(ししやかどみ)は、「奇面館」と呼ばれる館を訪れます。
そこの主人は6人の男を館に招いたのですが、
館に伝わる奇妙な仮面をつけるように要求します。
頭全体を覆い隠す仮面。
さてその夜。
季節外れの吹雪で館は孤立。
もうおきまりのお膳立てですが、これで事件が起こらないわけがありません。
翌朝、発見される主人(と思われる)の首なし死体。
そして6人の客にはそれぞれ仮面がかぶせられ、
鍵をかけられてしまっていて、外すことができない!!
この中の誰かが犯人。
けれど、死んだのは本当に主人なのか。
かぶせられた仮面の意味は・・・?


ミステリファンならすぐに気がつきますが、
普通首なし死体は、死んだ人の身元をわからなくするためにそのように仕立てるのですね。
しかも今作中では指まで切断されています。
だから、もしかするとここの主人自身が犯人で、
自分が死んだふりをして仮面をかぶり、客の誰かになりすましているのでは?
・・・という想像は割と簡単にできてしまいます。
しかし、これは綾辻作品ですからね! 
そんな一筋縄のトリックのはずがない!
案の定、まもなくあっさりと首は見つかり、
死者の正体は確定してしまいます。
ではいったい誰が犯人なのか・・・。
ただでさえ登場人物の名前を覚えるのが苦手な私は、ちょっと苦戦しました。
それぞれが「嘆きの仮面」とか「驚きの仮面」、「歓びの仮面」など、別々の表情の仮面をかぶっているのですが、
誰がどの仮面だったのやら、すぐ訳がわからなくなる・・・。
栞に図説をつけて欲しかった・・・。
でも、結局誰がどの仮面でもさして意味はなくて、
それを覚えていなくてもさほど支障はなかったようです。
なぜ、わざわざ仮面をつけたのか。
問題はそこなので。


近頃幻想ホラー風作風となっている綾辻氏ですが、
今作も終盤でそういった雰囲気が醸し出されています。
それは、この館に伝わる最も重要な「未来の仮面」。
その本当の意味。
私は今作の「仮面」では「鉄仮面」を思い出してしまいましたが、
そのようにヨーロッパ中世から伝わる陰湿な伝承のようなものが、
全体の不気味なムードをもりあげています。


今作で登場する紅一点、新月瞳子は、
館のピンチヒッターのメイドですが、パキパキしていて元気。
なんだかほっとさせられる存在です。
彼女が問題の夜、眠れずにサロンで見ていたのが「世にも怪奇な物語」のビデオ。
なんだか私もとても見たくなってしまいましたので、近いうちに拝見することにしましょう!!

「奇面館の殺人」 綾辻行人 講談社ノベルス

満足度★★★★☆

スモーク

2012年02月19日 | 映画(さ行)
煙の向こうに人生が見える・・・

                        * * * * * * * * * *

ニューヨーク、ブルックリンのタバコ屋を中心とした人々の群像劇です。
店長オーギーは14年間、毎朝同じ時刻に店の前で写真を撮り続けています。
店のなじみ客、作家のポールはその写真を見て、
どれも同じだろうというのですが、
オーギーは一つ一つじっくり見るようにといいます。
季節や天気、出勤する人々の様子・・・、どれ一つ同じものはない、と。
そんな中で、ポールは数年前亡くなった妻の顔を見つけるのです。
出勤時、活力に満ちた妻の表情。
涙がこみ上げてきてしまうポール。


また、このポールが危うく交通事故に遭うところを黒人青年に助けられ、
この青年との交流が始まります。


そしてまた、オーギーの所に18年前別れたルビーが突然あることを相談に訪れ・・・。


一つ一つのエピソードがどれも美しくウィットに富んでおり、
非常に味わいの深い作品となっています。



題名の「スモーク」はむろんタバコの煙。
今時ですが、タバコ屋が中心となるので仕方ありません。
冒頭ポールが語る一つのエピソードがステキなんですよ。
タバコの煙の重さを量る方法。
言われてみればなるほど、納得なのですが、
こんな風に取るに足らないものでも、実はきちんと重さを計ることができる。
取るに足らない、いわばその他大勢の日常の中にもちゃんと意味がある。
そんなことを言いたかったのかもしれません。
なんだかじんわりと心が温かくなる作品です。
全員スパスパタバコを吸いまくりなのにはちょっと閉口しますが。
映画だから実害はありません!

SMOKE [DVD]
ポール・オースター
ポニーキャニオン


1995年/日本・アメリカ/113分
監督:ウェイン・ワン
原作・脚本:ポール・オースター
出演:ハーベイ・カイテル、ウィリアム・ハート、ストッカード・チャニング、フォレスト・ウィテカー、アシュレイ・ジャッド

シャイニング

2012年02月18日 | 映画(さ行)
雪山山荘のホラーで寒さ倍増

シャイニング 特別版 コンチネンタル・バージョン [DVD]
ジャック・ニコルソン,シェリー・デュバル,ダニー・ロイド
ワーナー・ホーム・ビデオ


                  * * * * * * * * * *

ホラー作品の古典ともいえる名作です。
コロラド州山中のホテル。
冬期間は雪と寒さがひどいため、管理人のみを置いて閉鎖されるのです。
管理人としてやってきたのは作家志望のジャック、妻ウェンディ、その息子ダニー。
ところがそのホテルでは、以前、
同じく冬期の管理人が狂気に陥り、
妻と二人の娘を惨殺したあげく猟銃で自殺という悲惨な事件があったのです。
冬を迎える前の美しい山荘に、早くも不吉な予感が・・・。


ジャックは始め普通に優しい夫であり父です。
ところがホテルが雪に埋もれ始めた頃から、次第に精神に変調を来してきます。
それは山中に閉じ込められた孤独というよりも、
やはりこのホテルに潜んでいる邪悪な何モノかの意思が、ジャックにとりついているのです。
それというのも、元々ジャックには精神的に弱い部分があるということなのでしょう。
以前アルコール中毒だったことをにおわせていますし、
息子を虐待したこともあるよう。
そして、“仕事をやり通す責任”についても何度も言及していて、
彼の中では妻子を養うことが負担でもあったと思われるのです。
邪悪な何かは、そういう人の心の弱さにつけ込んでいくのかもしれません。


この広いホテルに家族3人きりというのは、さすがに気味が悪いですね。
特に夜は・・・。
私ならこんな仕事は絶対引き受けませんけれど・・・。
ダニー少年には、霊的なものに観応する不思議な力がありまして、
この能力を作中で“シャイニング”と呼んでいます。
そのため、ダニーはホテルに来る前から廊下に溢れる血の洪水や双子の女の子の映像を見てしまう。
これらの映像のフラッシュバックがまた緊張感を否応なく高めていくわけです。
そして、なんといっても圧巻なのは、
ジャックが斧でドアを打ち壊し、妻と息子に襲いかかろうとするシーン。
ジャック・ニコルソンの鬼気迫る表情、演技で有名ですが、
何度見ても背筋がぞっとしますね。
ダニーのSOSを感じ取り、単身山中に乗り込んでくるホテルの料理人ハロラン。
私はこの人が救いの手になってくれるものとばかり思ったのですが・・・。
思わぬ展開にまたぞっとさせられたり・・・。
こういう作品は古びないですね。

1980年/アメリカ/143分
監督:スタンリー・キューブリック
原作:スティーブン・キング
出演:ジャック・ニコルソン、シェリー・デュバル、ダニー・ロイド

「サカタ食堂 おまかせ定食 坂田靖子よりぬき作品集 」坂田靖子

2012年02月17日 | コミックス
永遠の謎、プディング

サカタ食堂 おまかせ定食坂田靖子よりぬき作品集 (ピュアフル コミックス)
坂田靖子
ジャイブ


                    * * * * * * * * * *

先に見ました「サカタ食堂」の第2弾です。
坂田靖子さんの食べ物にちなむ作品を集めたもの。
そこで、出てきました!! 
なんと言ってもサカタ作品で一番印象に残っている"プディング"。


タルカム夫妻のシリーズより。
プディングはイギリスの伝統料理。
ついカスタードプリンを思い浮かべますが、それとは別物です。
しかし
「小麦粉でつくったタルトパイみたいな地に
シチューや煮込みを入れたり、フルーツやジャムを混ぜたりして
煮たり蒸したりしてあるヤツ」

と解説があるだけなので、
想像がつくようなつかないような、微妙なところがまた、好奇心をかき立てるのですが、
私にとっては何十年を経ても未だに謎です。
中でもクリスマスプディングと呼ばれるものは
「ドライフルーツと洋酒と香料がふんだんに使ってある、
とても密度の濃いナッツのパウンドケーキみたいなもの」

とのこと。
シュトーレンみたいな感じでしょうか。
相当甘く濃厚そうですが、ちょっぴりでいいので食べてみたいですね。


「ヨーグルト」では月のきれいな夜に、おけにいっぱいの新鮮なミルクを用意して、
それを月の光の当たるところにおいておくと、
絹のように冷たくて美しいヨーグルトができる、とあります。
絹のように冷たくて美しい!! 
「おいしい」でなくて「美しい」というところが普通じゃない。
それはもう言うまでもなくおいしいにきまってる、ということですね。


「さくらもち」は全4ページの超短編です。
全ページに桜の花びらが舞い、ほんわかしたムードに包まれています。
江戸時代。
お殿様のお小姓の鶴丸が桜の木の上で天邪鬼(あまのじゃく)に出会いますが、
天邪鬼は鶴丸がよほど気に入ってしつこくくっついてくる。
あまりに無礼なので鶴丸がなぐると、
桜餅をどっさり置いて逃げていきましたとさ。
それだけのお話なのですが、なんだかのどかでいかにも楽しい。


「バラエティギフト」は、さみしく一人のクリスマスを迎えた青年のところに、
「クリスマスの楽しいお茶詰め合わせ13ピースセット」が届きます。
どこから来たのかは謎。
しかし肝心のお茶の相手がいない。
そこでなんと、彼の片思いの女性とその彼氏を招くことに。
そうこうするうちになぜか、
青年は姫を守るナイトに、彼女はお姫様になっている。
さあ。彼はお姫様を無事にお城まで送り届けることができるかな?
ドタバタファンタジーをお楽しみください。


「サカタ食堂 おまかせ定食 坂田靖子よりぬき作品集 」坂田靖子 ジャイブピュアフルコミックス
満足度★★★★☆

ドラゴン・タトゥーの女

2012年02月15日 | 映画(た行)
ダークでスタイリッシュ。これで決まり。



                 * * * * * * * * * *

スティーグ・ラーソンによる世界的ベストセラーの本作は
先にスウェーデンで「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」として公開されました。
今作はそのハリウッド版リメイク。
しかし、リメイクだからといって決して二番煎じではありません。
何しろあのデビッド・フィンチャー監督によるもの。
ということで、スウェーデン版も堪能した私ですが、こちらも楽しみにしていました。


まずはタイトル・シークエンスで度肝を抜かれます。
ダークでスタイリッシュ。
まさにリスベットの雰囲気にぴったりで、
まず私たちをそのミステリアスな世界に引き込みます。
もともとデビッド・フィンチャー監督はミュージック・ビデオの監督だったそうで、
だからこそ、こういうのはお手の物、ということなんですね。




経済誌「ミレニアム」のジャーナリストであるミカエルは、
資産家ヘンリック・バンゲルから、
40年前の少女ハリエット失踪事件の真相追究を依頼されます。
彼は謎の女リスベットを助手として、その事件の捜査を始めます。
しかし、浮かび上がってくるのはハリエットの失踪ばかりではなく、
古くからの多くの女性の猟奇殺人事件。
その事の真相は――。


この作品、猟奇殺人事件だけがネタなら、
まあ、よくあるミステリ。
そこに精彩を加えているのが他ならぬ、このリスベットの存在です。
少年のようにスリムな体に黒の革ジャン。
背中にドラゴンのタトゥー。
鼻ピアス。
しかし、精神異常者として後見人が付いているという彼女。

この彼女の凄惨な過去の詳細については、次作を待たなければなりませんが、
過激ではありますが彼女の強く一直線な意志に、胸のすく思いがするのです。
弱い女性が男への反逆の狼煙を上げる。
それはまた抑圧された私たちの開放でもあるように思えるのですね。
汚れ役をも厭わないあの強さ、奔放さに憧れてしまいます。
ミカエル役がダニエル・クレイグというのもよかったですね~。
さすがハリウッド作品。
カッコいいです・・・。



ただ、スウェーデン版では確か、事件捜査中のミカエルに、
勝手にハッキングをして彼の捜査状況を知ったリスベットが、
突然メールで彼にヒントを送るというシーンがあって、
私はそこがとても気に入ったのでしたが、
今作ではそういうシーンはありませんでした。
残念・・・。
とはいえ、スウェーデン版を見ながらも、適度に筋を忘れていた(!)せいもあり、
全く遜色なく、と言うか、それ以上に楽しめたのでした。



とりあえず、今作はスウェーデン版と同じく3部作となると思われますので、
この先もまた、楽しみです。

→ミレニアム/ドラゴン・タトゥーの女

→ミレニアム2/火と戯れる女

→ミレニアム3/眠れる女と狂卓の騎士

「ドラゴン・タトゥーの女」
2011年/アメリカ/158分
監督:デビッド・フィンチャー
原作:スティーグ・ラーソン
出演:ダニエル・クレイグ、ルーニー・マーラ、クリストファー・プラマー、ステラン・スカルスガルド

バレンタインデー

2012年02月14日 | 映画(は行)
バレンタインデーには花を



                       * * * * * * * * * *

「ニューイヤーズ・イヴ」に続きまして、ズバリその日に当てました。
まあ、たまにはこういうのもいいでしょう。

この作品は、ロサンゼルスのバレンタインデー。
様々な男女の恋愛群像劇です。
先に私は、「ニューイヤーズ・イブ」をいたく気に入り、
それより先に公開された同監督のこちらを遅ればせながら見たわけです。
結論から言うと、「ニューイヤーズ~」の方が好きでした。
なぜかといえば・・・、まあ、やはり単に好みかもしれません。
2本続けてみるとさすがに飽きるのかもしれないし・・・。
バレンタインデーというのが、個人的にはそう思い入れのある日ではないし、
大晦日ならそれなりに“特別の日感”があるのかもしれない。
まあ、他愛のない恋愛劇でちょっぴりロマンに浸りたい方なら、どちらでも。


さて、作品の中身の話です。
日本のバレンタインデーとはちょっと違いますね。
「女性がチョコをプレゼントして男性に恋を告げる」日というわけではない。
男女どちらからでも愛を告げる特別の日。
特に男性から女性に花をプレゼントというのが多いようです。
その大忙しの花屋のオーナー(アシュトン・カッチャー)が主人公の一人というのもしゃれています。



仲むつまじい老夫婦。
けれど過去の過ちを思わず夫に告げてしまった老婦人(シャーリー・マクレーン)。
彼女の若かりし頃の映画の上映シーンとダブらせたラブシーンもステキ。


ロスに向かう飛行機で隣り合わせた男女。
(ブラッドリー・クーパー&ジュリア・ロバーツ)。
二人は次第に親しくなっていきます。
私たちはここでロマンスが生まれる・・・と期待するのですが、
二人は空港であっさり別れてしまいます。
二人はそれぞれの“恋人”の元へ・・・。
それぞれの“恋人”というのは、作品中に登場した内の誰かなのです。
誰だかわかるかな?
ジュリア・ロバーツの“相手”は私には察しがついてしまいましたが。



「バレンタインなんか大嫌いパーティ」というのもありましたよ。
うん、その気持ちはよくわかる。
ここで大いに盛り上がるのもよし!!



それからつまらぬ話ですが、2月14日といえば、北海道は厳寒期。
雪と氷に閉ざされています。
ロスでは半袖でもいいのか・・・と、
妙にうらやましく思ってしまったのでした。
それならお祭り気分もアリでしょうかね・・・。
北海道で温かいのは恋人たちだけ。

バレンタインデー [DVD]
アシュトン・カッチャー,ジェニファー・ガーナー,ジェシカ・アルバ,ジェシカ・ビール,アン・ハサウェイ
ワーナー・ホーム・ビデオ


2010年/アメリカ/117分
監督:ゲイリー・マーシャル
出演:ジェシカ・アルバ、キャシー・ベイツ、ジェシカ・ビール、ブラッドリー・クーパー、ジェイミー・フォックス、アン・ハサウェイ、アシュトン・カッチャー、シャーリー・マクレーン、ジュリア・ロバーツ

「萩を揺らす雨」 吉永南央

2012年02月13日 | 本(ミステリ)
余計な口出しはしまいと思いつつ・・・

萩を揺らす雨―紅雲町珈琲屋こよみ (文春文庫)
吉永 南央
文藝春秋


                 * * * * * * * * * *

この本の冒頭は、主人公のおばあさんの早朝散歩シーンです。

「あさってには春が来る」
丘陵の上から大きな観音像が見下ろす街の、
ゴルフ場や自動車教習所を抱える広い河原に立って、
杉浦草(そう)はそうつぶやいて自分を励ました。
白い息が鼻先に立ち上がる。
春といっても暦の上で立春を迎えるだけの話だ。
さっき手を合わせた小さな祠にも霜が降り、
土を草履で踏みしめれば霜柱がざくざくと鳴る。・・・



引用が長くなりましたが、
なんだかすっかりこの数行でこの物語世界に引き込まれてしまいました。
日本情緒たっぷりで、けれども現代の雑然とした小さな街。
立春が近いとはいえ、まだまだ寒い季節。
そしてこの草さんのお人柄・・・。
これだけのことが読み取れてしまうすばらしいオープニングです。


さて、この草おばあさん、数えで76歳。
なんと60を過ぎてからコーヒー豆と和食器の店を開いたのです。
この店ではコーヒーの試飲もできて、無料! 
彼女はお店の常連たちとの会話がきっかけで、
街で起きた小さな事件の存在に気づきます。
聞いた話だけで事件の解決をすれば、
これこそミス・マープルばりの安楽椅子探偵ということになりますが、
意外とこのおばあさんは行動的ですよ! 
虐待を受けていると思われる子供を助けようと、
様子をうかがいに行ったり、ついには侵入を試みようとしたりします。


彼女はいろいろな不穏なことに気づきはするのですが、
なるべく余計な口出しをしないようにと自重的でもあります。
他人に余計な詮索をされたくないという今時の風潮をよくわかってもいる。
それでもなおかつ、耐えきれずお節介を焼いてしまうのは、
お草さん自身のつい悔やんでしまう過去のため。
誰もが順風満帆に幸せな人生を歩むわけでではない。
艱難辛苦を乗り越えた、お草さんの心意気がここにあります。


けれど、この本は"老い"の描写もまたリアルです。
お草さんが散歩ついでに、気になる家の様子をうかがったりするうちに
惚け老人の徘徊と思われて、ひどく悔しい思いをする。
親友は半身不随で、遠くの家族のもとに引き取られて行ってしまう・・・。
まさに自立した「お一人様の老後」(商売の現役なので老後というのは正しくない?)
の見本のような生き方ではありますが、
"老い"というのはそれをさえも難しくさせていくものなんですね。
けれども彼女はこんな風に言います。

「弱いと認めちゃったほうが楽なの。
力を抜いて、少しは人に頼ったり、頼られたり。
そうしていると行き止まりじゃなくなる。
自然といろんな道がみえてくるものよ」


そうでした。
お互いに頼ったり、頼られたりできる、
そういう人付き合いが大切だなあ・・・とつくづく思います。

パソコンも習い覚えたお草さん。
「0と1のあいだ」の話が好きでした。

「萩を揺らす雨」吉永南央 文春文庫
満足度★★★★☆


麒麟の翼 劇場版・新参者

2012年02月11日 | 映画(か行)
家族を思う秘めた覚悟で・・・。まさに日本的父親像。



                      * * * * * * * * * *

東野圭吾の加賀恭一郎シリーズ。
日本橋の「翼のある麒麟」像にもたれかかるようにして、
一人の中年男性が亡くなっていた。
腹部をナイフで刺された彼は、
なぜか事件現場から数百メートルを自力でここまで歩いてきて息絶えたらしい。
その頃、その付近で若い不審な男が警察の職質を振り切り、
逃亡中に車にはねられ意識不明となる。
事件は十中八九、この八島が犯人だろうという予測のもと、物語は進んでいきます。
捜査にあたる加賀はしかし、この被害者青柳の行動に疑問を感じ、
彼の身辺を主に調べていくのです。
彼の生活には全く関わりのないこの日本橋という土地。
しかし、最近彼はよくこの近辺を歩き回っていたらしい。
一体何のために? 
また、彼の家族である妻、息子、娘たちも
父親のことを何も知らなかったと呆然とする。
一方、八島の恋人である香織もまた、
八島が殺人を犯すなど考えられないと反発。

彼が犯人でないなどということが有りうるのか? 
だとすれば真犯人は誰?




私は、とは言ってもやはり犯人は八島で、
そこには計り知れない動機があった、くらいの結末になるのかとのんきに思っていました。
ところが、真相は本当に最後の最後に現れます。
ちょっとびっくりさせられました。
つまりは、青柳家の家族の問題なんですが・・・。
父と息子。
その間には深くて暗い淵があるだけのように見えながら、
実は・・!ということなんですね。
やはり、なぜ青柳がここまでわざわざ歩いてきたのか。
その意味こそがテーマなのでした。
感動・・・!!
中井貴一は、良い父親役にはまってますね。
一見さえなくて、息子には理解されてないけど、
実は息子の見本となるべく頑張っていて、
密かにかっこいいという・・・。
(大河ドラマ「平清盛」を連想しております・・・)




さて、今度東京に行くことがあったら、
私も日本橋へ行って翼のある麒麟像をぜひ見たいと思ってしまいました。
新名所になるのでは? 


それからもう一つ。
エンドロールで出演者の名前が出ますが、
そこに「向井理」の文字が。
「え?」と思ったら、劇場の皆さんもなんとなくどよめいていました。
だって、いくら何でも彼が出ていれば気づくはず・・・。
でも、うそ~! 出ていないでしょ。
一体どこに出ていたの??? 
と、なんだかショックを受けてしまったわけです。
帰宅して早速ネットで調べたところ、な~んだ・・・という話なんです。
ま、ネタバラシはしないことにして、
どうしても知りたい方はご自分で調べましょう。
これから見るという方は、黒木メイサさんの出演シーンで、要注意ですよ。

麒麟の翼~劇場版・新参者~ 通常版 [DVD]
阿部寛,新垣結衣,溝端淳平,中井貴一
東宝

麒麟の翼~劇場版・新参者~ Blu-ray通常版
阿部寛,新垣結衣,溝端淳平,中井貴一
東宝


麒麟の翼 劇場版・新参者

監督:土井裕美
原作:東野圭吾
出演:阿部寛、新垣結衣、溝端淳平、松坂桃李、中井貴一、田中麗奈