映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

愛について、ある土曜日の面会室

2014年02月27日 | 映画(あ行)
人の心の強さ、弱さ、うつろい・・・



* * * * * * * * * *

フランス、マルセイユの刑務所。
ある土曜日、それぞれの事情を抱えて受刑者に面会にやってきた3人の男女。
彼、彼女たちのそれまでの出来事を描いた作品です。




初恋の男性が警察に暴行した罪で逮捕されてしまった、少女ロール。

多額の報酬と引き換えに自分とそっくりな受刑者と入れ替わるという依頼を受けたステファン。

息子が殺された真相を知るため、アルジェリアからやってきた母親ゾラ。


彼らは互いになんのつながりもありませんが、
それぞれの切羽詰まった状況が交互に描写されていき、
この土曜日に集結します。







冒頭に、刑務所の前で
「夫が勝手に移送されてしまい、今何処にいるのかも分からない。
助けてほしい」
と泣き叫ぶ女性がいて、
けれど面会者たちは彼女に声をかけることもせず、
冷たく面会室に入っていってしまいます。
そして終盤、また同じシーンとなるわけですが、
この面会者たちの中に上記3人が居て、
なるほど、それぞれに自分が抱えた問題で手一杯。
人のことになどかまっていられない切羽詰まった状況が、
ここではしっかり汲み取れるわけなのですね。
思わず納得の演出。


が、それ以上に、
人の心の強さや弱さ、うつろい、
様々な面をどれも素晴らしい説得力で私達に突きつける手腕に圧倒されます。
いい作品でした!

愛について、ある土曜日の面会室 [DVD]
ファリダ・ラウアッジ
角川書店


「愛について、ある土曜日の面会室」
監督・脚本:レア・フェネール
出演:ファリダ・ラウアジ、デルフィーヌ・シュイヨー、レダ・カティブ、ポーリン・エチエンヌ、マルク・バルベ
心理描写度★★★★★
満足度★★★★☆

「ケルベロスの肖像」 海堂尊

2014年02月26日 | 本(ミステリ)
最終話にふさわしく、圧巻

【映画化原作】ケルベロスの肖像 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
海堂 尊
宝島社



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東城大学病院を破壊する―病院に届いた一通の脅迫状。
高階病院長は、"愚痴外来"の田口医師に犯人を突き止めるよう依頼する。
厚生労働省のロジカル・モンスター白鳥の部下、姫宮からアドバイスを得て、
調査を始めた田口。
警察、法医学会など様々な組織の思惑が交錯するなか、
エーアイセンター設立の日、何かが起きる!?
文庫オリジナル特典として単行本未収録の掌編を特別収録!


* * * * * * * * * *


「チーム・バチスタ」シリーズの完結編という今作。
ちょうど今TVで本作に直接繋がる「チーム・バチスタ4」をやっていて、
そして続きの本作は映画化されて3月29日公開。
なるほど、映画化されるというのもうなずける。
本作はなかなかのスペクタクルですよ!


東城大学医学部附属病院。
グチ外来が本来の持ち場の田口医師は、
高階病院長の陰謀(?)で、
近く完成予定のAiセンターのセンター長を拝命しているのでした。
Aiセンターとは。
これまでのバチスタシリーズを読んでいただいた方には今更説明するまでもありませんが、
MRIで死亡診断をするための大掛かりな施設。
本編を貫く大きなテーマでしたが、
ついにここまで漕ぎ着けたか、という感慨があります。
そのきらびやかなセンターの建物は、
あの、碧翠院の跡地に建てられているのです。
様々な利害が渦巻く中で、それでも無事に巨大かつ高性能のマシン、"リヴァイアサン"も設置され、
開院を記念するシンポジウムが開催されるのですが・・・。


いかに物語とはいえ、せっかく豪華にも美しく完成したそのセンターの末路が・・・。
唖然とさせられ、そして登場人物たち以上に意気消沈となってしまいます。
しかし意外と、田口医師を始めとして皆さんは打たれ強い!
つまりは、著者にしてもこのようなセンターが理想だけれど
今の段階ではとても無理。夢の様な話・・・。
ということで、こういう展開にせざるを得なかったのでしょうね・・・。


登場人物たちのそれぞれの思惑、個性、言動。
いつものことではありながら、愉快痛快。
昼行灯と呼ばれる田口医師の「グチ外来」医師としての手腕も
ちょっぴり紹介されているところが、お楽しみです。
また、今回白鳥にもう一人部下がつくのですが、
これがどこの部署でも使い物にならない、通称アリジゴクこと砂井戸。
この人物の役どころがどうにも掴めなくて、謎???の気持ちのまま読み進むのですが、
最後の最後にやっと「なるほど!」と思いました。
「アリジゴク」の意味も、おかしいですよ。


バチスタ最終話にふさわしい、圧巻の物語でした。
本巻にはおまけで単行本未収録の「それから・・・」という掌編がついています。
これは私の大好きな「あの方」が
極北市から一時桜宮へ帰省した時の一コマ。
ちょっと得した気分です。


「ケルベロスの肖像」 海堂尊 宝島社文庫
満足度★★★★★

少女は自転車にのって

2014年02月25日 | 映画(さ行)
踏まれてもまた立ち上がる、若い芽のように



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サウジアラビアでは映画館の設置が法律で禁じられているそうなのですが・・・
その国でこのように女性監督が出たということがまず驚き。



10歳の少女ワジダは、おてんばでチョッピリ周囲から浮いています。
みなは決められた黒い靴を履いているのに、彼女はスニーカー。
家では“悪魔の曲”といわれるロックを聞いています。
今一番したいのは、幼なじみの男の子アブドゥラと自転車で競走すること。
でも自転車は高いし、そもそも女性が自転車に乗るなどとんでもない、
という周囲の認識。
それでも彼女は諦めず、ミサンガを作って売ってみたりするのですが、
とても目標には達しません。
そんな時、学校でコーランの暗唱コンテストが開かれることになります。
その賞金が貰えれば自転車が買える! 
一生懸命に暗唱の練習に励むワジダですが・・・。



本作を見るうちに、次第にこの国の
イスラム教の戒律の厳しさが浮かび上がってきます。
特に本作では女性について。

親兄弟や夫以外の男性がいる場所では、肌や髪を露わにしてはいけない。
一人で外を歩いてはならない。
車の運転はできない。
一夫多妻制で、男性は一度に4人までと結婚できる・・・。

私達には信じがたいようなことですが、今現在の話です。
・・・なるほど、こんな状況では映画館でハリウッド映画なんか上映できるわけがありませんよね・・・。
あまりのギャップに、女性たちの暴動が起きるかも・・・。
でも本作、ワジダがこういう制度に怒りをぶつけるという作品ではありません。
彼女の母をはじめ周りの女性たちが
「おんな」であるがゆえに、苦しんでいる姿を見知っています。
それはもう、長い歴史の中でずうっとそうだったので、
戦うというよりも、諦め、受け入れるしかすべがないことであるのでしょう。

けれどもそんな中でも、
ワジダが精一杯自分らしく生きようとする姿が
しなやかで美しく、胸を打ちます。
そして、この国の未来をも感じさせる。
彼女はおそらくハイファ・アル・マンスール監督自身でもあるのだろうな。
なんだか私達にも勇気を与えてくれるようです。



それから、ワジダのコーラン暗唱の声が、素晴らしかった・・・! 
暗唱というか、メロディが付いているのです。
日本で言うならお経のようなものですね。
でもお経よりももっとメロディに起伏があって、美しい! 
意味はわからずとも、聞き惚れてしまいそうです。


「少女は自転車にのって」
2012年/サウジアラビア・ドイツ/97分
監督:ハイファ・アル=マンスール
出演:ワアド・ムハマンド、リーム・アブドゥラ
世界を知る度★★★★★
満足度★★★★☆

ブルーノのしあわせガイド

2014年02月23日 | 映画(は行)
この父にしてこの息子あり



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著名人のゴーストライターや家庭教師をしながら、
気ままな生活を送るブルーノ。
ある日、教え子ルカ(15歳)の母親から
自分が留守にする半年間、ルカを預かってほしいと頼まれます。
唐突な申し入れに戸惑いを隠せないブルーノでしたが、
なんと、ルカはこの母とブルーノの間にできた子供だった!!というのです。
母はブルーノには知らせず、
1人で息子を産み育てていたのです。
ブルーノはしぶしぶながら、自分が父親であることを隠して、
ルカと共同生活を送ることにします。



さて、ルカは、全く勉強にやる気がなく、学校もサボリ気味。
もともと気ままな生活をしていたブルーノなので、さほど気にしてもいなかったのですが、
学校に呼び出されてルカが落第寸前と聞くに及び、
やにわに「父親」としての責任に目覚めるのです。
突然、早起きをしてしっかり朝食をとって、
遅刻せず学校へ行き、帰ってからも学習を何時間・・・と、
ルカをがんじがらめにしてしまいます。
これでは当然軋轢が起きますね。
ブルーノは頭の悪い子ではありません。
ただきっと、何のために勉強するのか、自分が何をやりたいのか、
そういうことがわかっていなかっただけなのでしょう。



ある日突然15才の少年の父親になってしまったブルーノの戸惑い。
気楽な同居人のはずの「おじさん」が
突然教育熱心になってしまったというルカの戸惑い。
ちょっぴり可笑しみをにじませながら描かれる
ハートウォーミングストーリーです。



ただの同居人であった時のほうが
ふたりとも気があっていて、なんだか楽しそうでした。
けれど、ブルーノが「父」としての自覚を持つと、
気持ちが行き違い、
更にはルカが真実を知れば余計に
二人の仲がこじれてしまいます。
一体何処でこの関係が修復されていくのか。
そこが見どころです。
思うに、“親”というのは、ただ血のつながりのある子どもがいるから“親”なのではない。
子供を守らねばならないという自覚に目覚めた時に
初めて“親”となるのだなあ・・・
と、思った次第。
そして、そのことはとても重いのですが、
守る存在があるということは幸せなことでもあるわけです。



ブルーノのしあわせガイド [DVD]
ファブリッツィオ・ベンティヴォリオ,バルボラ・ボブローヴァ,フィリッポ・シッキターノ
オデッサ・エンタテインメント


「ブルーノのしあわせガイド」
2011年/イタリア/95分
監督・脚本:フランチェスコ・ブルーニ
出演:ファブリッツィオ・ベンティボリオ、バルボラ・ホブローバ、ビニーチョ・マルキオーニ、フィリッポ・シッキターノ

父と息子のジェネレーションギャップ度★★★★☆
満足度★★★★☆

「昭和の犬」 姫野カオルコ

2014年02月22日 | 本(その他)
犬とともにあった女の半生

昭和の犬
姫野カオルコ
幻冬舎

 
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昭和33年、滋賀県のある町で生まれた柏木イク。
嬰児のころより、いろいろな人に預けられていたイクが、
両親とはじめて同居をするようになったのは、
風呂も便所も蛇口もない家だった――。
理不尽なことで割れたように怒鳴り散らす父親、
娘が犬に激しく咬まれたことを見て奇妙に笑う母親。
それでもイクは、淡々と、生きてゆく。
やがて大学に進学するため上京し、よその家の貸間に住むようになったイクは、
たくさんの家族の事情を、目の当たりにしていく。
そして平成19年。
49歳、親の介護に東京と滋賀を行ったり来たりするなかで、
イクが、しみじみと感じたことは。


* * * * * * * * * *

まるで犬の写真集?と見紛うようなこの表紙は、
ちょっとやり過ぎと思わなくもないのですが、
しかし、騙されて読んでみれば、
騙される価値のある、ステキなストーリーです。
第150回直木賞受賞作。
「恋歌」とともに、ついKindle版をポチッとワンクリック購入してしまいました。
しかしそうするとこのステキな表紙は見られないのであって
(私のKindleはモノクロ)ちょっと悔しい・・・。


さて本作、昭和33年生まれの柏木イク、
5歳~49歳までの半生を綴っています。
その視点を著者は冒頭から述べています。
「パースペクティヴ」に、と。
つまり、遠近法的に、遠景的に・・・。
なるべく本人の心情に密着せず、淡々と遠くから眺めているように・・・。
しかし、実はクローズアップになる部分があるのですね。
それが彼女が好きな犬や時には猫と接する部分。


全く予測のつかないところで突然キレて怒鳴り出す父。
笑うような場面でないのに奇妙に笑う、理解し難い母。
双方共に居て気の休まる相手ではないけれど、
そもそも双方仕事に出ており、1人でいることの多いイク。
そんな彼女が、物言わぬ犬たちに対峙することで
ほんのチョッピリ自分の本音を覗かせるようです。
物語の語り口調はあくまでも淡々としており、
少しはあったらしい恋愛のことは見事にすっとばすし、
父や母の死のこともあっさりしています。


終盤、子供の頃飼っていた"ペー"にそっくりな犬を撫でていると
何やらワクワクした大仰な気分になり
「今日まで、私の人生は恵まれていました」と大きな声で言う。
ここまで読んだ時点で、さほど幸福な人生とも思えぬイクが、
このように語ることを意外に思うのですが、
でも確かに、彼女がそうだと思うならそうなのでしょう。
いや、そうにちがいない。
結局は、私達と変わらない、ごく平凡な女の物語。
でもこうして今、沢山の人に守られながら生きていること自体が、
とても幸せなことに違いないのです。


ドラマチックなことは何もありませんが、とても心に響く作品。
イヌ好きの方なら特に。
そして、私はイクと非常に近い生まれなもので、
各章ごとに書かれてある、当時はやったTV番組や世相など、
非常に懐かしく思いました。

突き放すような語り口、もう少し他の作品も読んでみたくなりました。

「昭和の犬」 姫野カオルコ 幻冬舎
(Kindleにて)
満足度★★★★☆


みんなのいえ

2014年02月21日 | 映画(ま行)
こだわりの人々の間で・・・



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三谷幸喜監督作品。
未見だったので見てみました。


30代半ばの飯島夫婦(田中直樹・八木亜希子)は念願のマイホームを建てることになり、
設計はデザイナーの柳沢(唐沢寿明)に、
施工は妻の父、大工の長一郎(田中邦衛)に頼むことになりました。
しかし、柳沢はアメリカの建築様式にこだわるアーティスト、
長一郎は頑固な職人肌で古来の和風にこだわります。
玄関のドアを内開きにするか外開きにするか、
大黒柱は必要か、壁の色は?など、
互いに譲らずトラブル続きでてんやわんや。
さてどうなることやら・・・。



つまりは世代のギャップなのですが、
それにしても家を建てるのは大変ですね・・・。
どちらの立場も尊重したくて気を使い右往左往してしまう、
ちょっとおひとよしで気弱な感じの夫に、田中直樹さんが非常にマッチしています。
最近は色々なドラマでも見かけますが、
俳優としての映画出演は今作が初めてだと思います。
しかし、次第に柳沢と長一郎がどちらもこだわりの人物で、
そういうところで通じ合うところを見せ始めると、
自分が仲間はずれにされたようで落ち込んでいく・・・
なんてフクザツな心境をのぞかせるところがまた、面白い。
ものづくりに頑固なこだわりを見せる長一郎、
これはもう配役を見るだけでもわかる田中邦衛さんの座りの良さ。
屋根裏に墨壺を置くというエピソードが光ります。


それにしても、20畳の和室なんて、どうするのでしょう?
と言うか、そもそもそれだけの広い家を建てられるというところで
感心してしまいますが・・・。
フローリングの20畳ならともかく、畳の20畳・・・。
せいぜい子供をたくさん産んで、思い切り走り回らせるとか。
高校の部活の合宿に貸すとか。
どーでもいいこと考えてしまった・・・。

みんなのいえ スタンダード・エディション [DVD]
三谷幸喜
東宝


「みんなのいえ」
2001年/日本/115分
監督・脚本:三谷幸喜
出演:唐沢寿明、田中邦衛、田中直樹、八木亜希子、伊藤剛志

ユーモア度★★★★☆
満足度★★★☆☆

大統領の執事の涙

2014年02月19日 | 映画(た行)
黒人からみたアメリカの歴史



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7人の米国大統領に仕えた黒人執事の実話を元にしています。



子供の頃ほとんど奴隷と変わらない状況で
南部の綿花畑で働いていたセシル・ゲインズは
ワシントンへ出てホテルのボーイとなり、
やがてホワイトハウスの執事の職を得ます。
アメリカのキューバ危機やケネディ暗殺、
ベトナム戦争等大きな歴史のうねりの中心地に勤務しながらも、
彼自身は何も語らず、30年間ひたすら職務に忠実に生きてきた。
それだけならば、単にアメリカ史のおさらいですが、
本作のテーマはアメリカにおける人種差別のこと。
そして父と息子の相克。



ホワイトハウスの執事といえば、つまりは白人に仕えること。
彼はこの仕事に誇りを感じていますが、彼の長男ルイスはそのことに反発し、
キング牧師を師と仰ぐ公民権運動に身を投じていきます。
父と息子は互いのことを恥じ、憎み、絶縁状態になっていくのですが・・・。


キング牧師は父を恥じているルイスにこんなふうに言っていましたね。

「そういう仕事をすることで、
白人が黒人に向けるイメージが変わっていくのだ。
お父さんもまた戦士なのだよ」と。

セシルもまた、公民権運動をどうでもいいと思っているわけではないのです。
何よりも彼の父親の死を目撃しているわけですから・・・。
白人と同じ仕事をしても黒人の給料が低いこと、
そして昇進もしないことを上司に抗議もします。
実際の社会の中で誠心誠意自らの役割を果たしていく事こそが
実は真の武器で、セシルもまたりっぱな戦士。
大統領の執事でなくても、多くの黒人たちが
こんな風に人種差別と闘いぬいてきたのではないかと思います。



それにしても、公民権運動に対抗する白人たちのなんとも浅ましく醜いこと・・・。
黒人がデモをして、さんざん白人に痛めつけられて、
挙句に警察に捕まるなどという理不尽が
当たり前にまかり通っていたわけですねえ・・・。
こんな体験をしてきた人々にとって、
オバマ大統領の就任は、やはり夢のように晴れがましい出来事だったことでしょう。


アメリカの近代史と黒人の歴史。
そしてこのうねりと共にある家族の歴史。
これらが一体となって、しっかりした見応えと感動を生み出しています。



歴代の大統領を誰が演じているのか、
それがまたお楽しみでもあります。
アイゼンハワー大統領にロビン・ウィリアムズ、
ケネディ大統領にはジェームズ・マースデン、

ジョンソン大統領にリーブ・シュレイバー
ニクソン大統領にジョン・キューザック、
レーガン大統領にアラン・リックマン、
・・・と、豪華な布陣。
それからはじめの方しか出てきませんが、
あのいかれた綿花の農場主がなんとアレックス・ペティファーなんですよね! 
なんて贅沢な配役。


それから原題は“The Butler”で、単に「執事」ですが、
邦題は「大統領の執事」のところまでで良かったのではないかと思います。
涙・・・までは余計でした。

2013年/アメリカ/132分
監督:リー・ダニエルズ
出演:フォレスト・ウィテカー、オプラ・ウィンフリー、デビッド・オイロウォ、マライア・キャリー

アメリカの歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★★★

「箱庭図書館」乙一

2014年02月18日 | 本(その他)
リメイクの完成版はやっぱり乙一

箱庭図書館 (集英社文庫)
乙一
集英社


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少年が小説家になった理由とは? 
コンビニ強盗との奇妙な共同作業、その結果は?
お正月に雪がもたらした不思議な出会いとは? 
人気作家・乙一がひとつの町を舞台に描く、
驚きと切なさに満ちた6つの物語。
ちなみにそれぞれの原案は、集英社WEB文芸「RENZABURO」の企画
「オツイチ再生工場」で読者から募集した「ボツ原稿」。
WEB上で公開されている投稿作を読めば、
作家による華麗で大胆なリメイクの技が一目瞭然。
乙一ワールドの秘密がここに!


* * * * * * * * * *

私、乙一さんは、とても久しぶり。
本作は短篇集で、「箱庭図書館」。
短編の題名は「コンビニ日和!」、「ワンダーランド」、「王国の旗」など・・・。
あれ?
しばらく見ないうちに、この方、作風が変わったのかしらん?
と一瞬思ってしまいました。
なんとなくメルヘンチックのような???
でも、読んでみたらやっぱり乙一さんですね。
どことなく雰囲気が違ったように思えたのは気のせいばかりではなくて、
これらの物語、実は原作はそれぞれ別の方なのです。
<集英社WEB文芸「RENZABURO」の企画
「オツイチ再生工場」で読者から募集した「ボツ原稿」。>
これを乙一氏がリメイクしたものだったのです。
だから、ふだん乙一さんが取り上げないようなものがあったりするのが
また面白いわけです。


青春絶縁体
文芸部の部室でいつも激しく毒づきあう"僕"と"先輩"。
僕は実はクラスの皆と打ち解けることができず、誰とも話すことがない。
でもこの先輩とだけは、なぜか不思議に気楽に話すことができる。
人が聞いたら顔をしかめそうな罵詈雑言の応酬なのだけれど・・・。
人と対峙することが苦手な僕が先輩の本当の姿を知る時・・・。
苦い青春の思いがこみ上げます。


ワンダーランド
ある日、帰り道で鍵を拾った小学生の僕。
この鍵はどこの鍵なのだろう。
僕は、この鍵の合うドアを探し歩くことが日課になる。
そんな時、雑木林のそばの荒れ果てた家で・・・。
本作、不思議とどこで終わっても不思議でないような気がするのですが、
ページを捲ってみると何故か終わっていなくて、続きがあるのでした。
事件で少年は成長する。
けれど、実はまだ怖い秘密は解決されていないようで・・・。
ワンダーランドという題名にふさわしい、
なんだか不思議な感じのする作品。


ホワイトステップ
ある雪の日、目の前に足あとだけが出現。
そこには明らかに人がいるようなのだけれど、体に触れることはできない。
雪面に字を書いて意思の疎通はできる。
二人はとても良く似た別の「平行世界」に住んでいるらしい。
これはまるでカジシンの作品のような・・・
不思議で切ないストーリーですが、おもしろい!!


全部で6篇の短編が収められていますが、
これが全くバラバラなのではなくて、舞台は同じ文善寺町。
そしてどこかに必ず、本が大好きで図書館の司書になってしまう潮音さんが登場します。
なかなか心憎い演出。
そしてどの作品も魅力的で、ステキな本でした!!

「箱庭図書館」乙一 集英社文庫
満足度★★★★★

ル・アーヴルの靴みがき

2014年02月17日 | 映画(あ行)
法律のことなんてよくわからないけれど、人としてすべきことがある。



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フランス北部の港町、ル・アーヴル。
アフリカからの不法移民が乗ったコンテナが漂着し
1人の少年が逃げ出しました。
その少年を救ったのが、靴みがきを仕事としているマルセルです。
彼の妻は病で入院中。
その間、警察に追われる少年・イングリッサを家に匿い、
彼の母がいるというロンドンへ送り出そうとします。



アキ・カウリスマキ監督によるこの作品、
登場人物たちは非常に言葉少なで独特の間があります。
どうしたのかな?
何を考えてどうしようとしているのかな?
そんな風に考えながら見るので、
饒舌な作品よりも、つい画面に集中してしまいます。
そしてまた底辺に流れるちょっぴりのユーモアがいい。



マルセルはごく善良な市民で、
大変な思いをしてここまでやってきて、さらに行き場のない少年を
是非助けなければ!!という義憤にかられています。
そしてその思いは彼の馴染みのパン屋やカフェの人々にも伝わります。
法律のことなんかよくわからないけれど、
人としてすべきことはある・・・と。
でも作品中にはそんなもっともらしいセリフなど一言も出てきません。
でも、それこそセリフなんか無くても
万国どこでも通用する思いなのだと思います。



一方、マルセルの妻アルレッティは医師から余命宣告を受けているのですが、
「夫は大きな子供みたいな人」だから、
そのことはいわないでおいてと医師に懇願します。
一度だけイングリッサがマルセルの代わりに
アルレッティをお見舞いに来るのですが、
その時に交わした握手が、本ストーリーの“奇跡”を呼んだものと思えます。



そう、社会問題を扱ったように見えるこの作品は、
実は人と人との温かい絆が生み出す奇跡の物語であったのです。
でもそれが実にさりげないというか過大な演出も仰々しさもなし。
とにかく淡々としているのですが、好きですねえ。こういうの。
この監督の作品をもっと見たくなりました。
(というか、今まで見ていないのがハズカシイ・・・)
今作に出てくるワンちゃんのライカは監督の愛犬で、
他の作品にも出てくるそうです。
それもまた見たい!!



ル・アーヴルの靴みがき 【DVD】
アンドレ・ウィルム(声:大塚芳忠),カティ・オウティネン(声:田中敦子),ジャン=ピエール・ダルッサン,ジャン=ピエール・レオー,ブロンダン・ミゲル(声:朴 叙ミ美)
キングレコード


「ル・アーヴルの靴みがき」
2011年/フィンランド・フランス・ドイツ/93分
監督:アキ・カウリスマキ
出演:アンドレ・ウィルム、カティ・オウティネン、ジャン=ピエール・ダルッサン、ブロンダン・ミゲル、ジャン=ピエール・レオ
言葉少な度★★★★☆
ハートウォーミング度★★★★☆
満足度★★★★★

スノーピアサー

2014年02月15日 | 映画(さ行)
何やらキョーレツだけど、嫌いじゃない



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あれ、西島秀俊ではないのに、私達でいいの?
いや、なんともエグいこの作品、ちょっといじってみたくなりました。
韓国、ポン・ジュノ監督による初の外国語作品だそうで・・・。
とにかくこのストーリーの設定がふるっているんだな。
 地球温暖化防止のためにCW-7という薬剤が使われることになったんだけれど、それが失敗。
 地球は氷河期に突入してしまい、生物は絶滅してしまった。
 ただ、この「スノーピアサー」という列車に乗り込んだ人々以外は。
近未来SFということなんだけど、この列車自体がスゴイんだよ。
 ちょうど1年で一周するコースをひたすら走っている。
 これはウィルフォード産業が開発した「永久エンジン」によるものなんだ。
 この列車がまるでノアの方舟のように、
 一定の人々や生物を滅亡から守ったということなんだな。
この中に温室とか魚の水槽とかがあって、
 ひとつの生態系、循環系が成り立っているんだよね。

そう、この列車はひたすら走り続けて止まることがないから
 外から何かを補給する事はできない。
 すべて自給自足なわけだよね。
 その状態で、この列車はもう17年も走り続けている。
こういう設定だけでも実に面白いのだけれど、
 それは単に舞台仕立てであって、
 いよいよ面白いのがその中の「社会」だ。
列車の前方を一握りの上流階級が支配していて、
 最後尾には貧しい人々がひしめくという完全な階層社会。
その中のカーティス(クリス・エバンス)という男が、
 反乱を起こし、前方車両を目指す!
革命だねえ・・・。



考えてみたら、船もそうだけど列車も、
 もともと「格差」があって始まったんだよね。
 船は依然として確固とした階層別だし、列車も「グリーン車」がまだある。
 だから、こういう構造も特別おかしいってわけでもないんだな。
うーん、だけどさ、結局最後尾の人たちって前の車両には行ったこともないんだよ。
 上層階級の下働きとか肉体労働とか、そういう役にも立っていなさそうなんだけど、
 一体なんのためにいるんだろう・・・?
なんのため、と言うか、もともと金持ちのためだけの列車だったのに
 無理やり乗り込んじゃった、ということのようだねえ・・・。
 だから当初悲惨な目に合わされたようなのだけれど・・・。
それが次第に恐ろしい役割を負わされるようになってくる・・・と。
結局この列車は何の事はない、現代の地球の社会構造の縮図ってことなんだ~。



やっぱり韓国の監督作品なので、いろいろな人種が乗り合わせたこの列車でも
 ソン・ガンホとコン・アソンの演じる父娘が、ちょっととぼけた味を出しながら、光っていました。
ちゃんと日本人も乗っていて、日本語も聞こえてきました!
スシ・バーの車両もあったりしたね。
それから、ティルダ・スウィントンの怪演!!
 これも見どころ。女を捨てた、ね。
ところで、カーティス役のクリス・エバンスってさ、
 これがまた「アベンジャーズ」でも出てた「キャプテン・アメリカ」だよ。
うひゃひゃ。あの超ダサい・・・。
だからさ、こんなスゴイ作品に出るくらいなんだから、
 そんな役をすることないんだってば、もう・・・。
スゴイと言うか、始めにもいったようにエグいって感じかな。
 B級めいていて、キョーレツに印象を残す。



何もこんな列車じゃなくても、ドームとかでもいいんじゃない?
 と思ったりするんだけど。
氷河期が急速に来たのでそんな準備をする暇がなかったのだろうね。
 この列車はたまたまウォルフォードの趣味が高じて開発されていたものだったらしい。
 思うに、このエンジンは走り続けることによってまた新たなエネルギーを生み出すんだよ、多分。
 だから止まったらおしまいなんだ。
でもねー、一年に一度しか通らない線路だったらさ、
 一年後には絶対雪に埋まっちゃう思う。
 補修する人も居ないのに・・・。
はは・・・考えればおかしなところはいくらでも出てくるよね。
 だけど、というかだからか、いろいろな想像が掻き立てられて、私は好きだなあ・・・。
同感・・・!



「スノーピアサー」
2013年/韓国・アメリカ・フランス/125分
監督:ポン・ジュノ
原作:ジャン・マルク・ロシェット、ベンヤミン・ルグラン
出演:クリス・エバンス、ソン・ガンホ、コ・アソン、ティルダ・スウィントン、ジェイミー・ベル、オクタビア・スペンサー、エド・ハリス

エグさ★★★★★
奇想度★★★★☆
満足度★★★★☆

「恋歌」 朝井まかて

2014年02月14日 | 本(その他)
水戸の怒涛の歴史の中で

恋歌
朝井 まかて
講談社


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幕末の江戸で熱烈な恋を成就させ、
天狗党の一士に嫁いで水戸へ下った中島歌子。
だが、尊王攘夷の急先鋒である天狗党は暴走する。
内乱の激化にともない、歌子は夫から引き離され、囚われの身となった。
樋口一葉の歌の師匠として知られ、
明治の世に歌塾「萩の舎」を主宰し一世を風靡した歌子は、
何を想い、胸に秘めていたのか。
落涙の結末!


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第150回 直木賞受賞作品・・・ということで、
既にKindleでも出ていたので思わずワンクリックして購入してしまいました。
電子書籍、恐るべし。
受賞の発表があった日に、自宅にてすぐに読み始めることができるのです。
しかもチョッピリお安い。


さて、そんなわけで、私には初めての朝井まかてさん。
それにしても本作には驚かされました。
「恋歌」というからには、もう少し優雅な作品かと思っていたのです。
しか~し!! 
時代の奔流に巻き込まれ、劇的な体験をする女性の物語です。


幕末。
登世(とせ・・・のちの中島歌子)は、
江戸の水戸藩御用達の宿屋・池田屋の娘でした。
ある時宿を訪れた水戸藩士・林忠左衛門以徳(もちのり)に一目惚れし、
恋い焦がれた末思いが実って、嫁入りが決まります。
水戸の林家へ嫁いだ登世。
商家から武家へということで勝手も違うし、
以徳は留守がちで、
妹のてつは決して打ち解けようとせずつっけんどん。
思い描いた生活とはちょっと違う。


さて、当時の水戸藩。
ちょうど桜田門外の変が起きた直後くらいです。
なので水戸藩は「尊皇攘夷」思想で固まっているかと思いきや、
そうではなく、あくまでも古来の幕藩体制を守ろうとする保守派「諸生党」と、
「尊皇攘夷」を唱える革新派「天狗党」が真っ二つ。
登世の夫・以徳は天狗党ではありますが、
藩がこのように真二つになっていがみ合っているのは良くないと考える良識の持ち主です。
ところが以徳とも親しい若輩の藤田小四郎が筑波山で挙兵。
諸生党ばかりか幕府までを敵に回すことになってしまった。
やがて諸生党は、筑波山を攻めあぐんで、きたない手に出たのです。
天狗党藩士の家族(女・子どもたち)を捕らえ、
劣悪な条件で監禁した挙句に処刑。
登世と義妹のてつもまた・・・。


うーん、水戸藩にこんなに壮絶な歴史があるとは知りませんでした。
本作中の藤田小四郎は実在の人物で、
これらの事件もまた史実です。
幸せ胸いっぱいで嫁いだ登世に
このような過酷な運命が待っていようとは・・・。
そしてまた、この血を血で洗うような悲壮な歴史。
諸生党と天狗党の立場は後にまた180°入れ替わることになるのですが・・・。
全く知識もなく、私にとっては予想だにつかないストーリーの展開に、
ただただ圧倒されっぱなしでした。
本作は、この史実をなぞるのみではなく、
歌子に決して心を開かないままずっと彼女に寄り添っていた澄という女性の謎も絡め、
非常に読み応えのある作品となっています。
感無量。
さすがの直木賞受賞作でした。


水戸藩は「尊皇攘夷」思想のお膝元とも言えるほどであったのに、
内部抗争で多くの人材を失い、
明治新政府で重要な地位を占めることがなかった・・・
というのが、今更ながらに納得出来ました。
幕末・・・本当に激動の時代だったのですねえ。
うまく風を読んだものが生き残ったということなのでしょう・・・。


「恋歌」朝井まかて 講談社
Kindleにて
満足度★★★★☆
満足度と言うよりは感慨度で・・・★★★★★

カナリア

2014年02月13日 | 西島秀俊
自分の力で羽ばたいて行け



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これはオウム真理教の事件をモチーフとした作品なんだね。
はい。カルト教団“ニルヴァーナ”に入信した母に連れられ、
 妹とともに教団の施設で育った12才の少年光一(石田法嗣)。
 しかし、教団がテロ事件を起こし解散。
 母は行方不明で指名手配となってしまいます。
 児童相談所へ預けられた光一ですが、祖父がきて妹だけを引き取っていった。
 祖父は、教団の信仰が抜けず反抗心を露わに暴力をふるう光一を見捨てたのです。
 光一は祖父から妹を取り返そうと、施設を脱走し、
 東京へ向かおうとしますが、
 途中で援助交際をする少女由希(谷村美月)と知り合い、
 共に旅をすることに・・・。


子供は親を選べない。
 否応なくこの教団に入信しなければならなかった子どもたちだけれど、
 ある日突然今までのことは間違いだったと言われる・・・
そんな理不尽な状況の中で、その何処に向けていいかわからない怒りを祖父に向けて、
 ドライバーの先を研いでいる少年の姿に、鬼気迫るものがありました。
この感じ、「誰も知らない」の柳楽優弥くんにも似ているよね。
そうだねえ。自分はまだ子供でどうにもならない。
 その怒りを内包した静けさ。 
 少年の頑なな心。
ううう・・こういう少年像が実は好きなんだよなあ・・・



10年前の作品だから、谷村美月さんも、美少女!!
 子供から大人へ向かうほんのひと時のピュアな心・表情。
 そこをとらえた非常に貴重な作品だと思います。
それで、西島秀俊さんは・・・?
教団で子どもたちの教育を担当していた青年信者、伊沢だね。
 彼はテロ事件後信仰を捨てて、元信者たちと共同生活をしていたのだけれど、
 行き倒れ寸前の光一と由希を暖かく迎えてくれる。
彼自身も、一瞬の価値観の転換に戸惑い、悩んできたから、
 光一のことも気にかかるんだね。
彼は言うんだね。
 「おまえはもう神の子でもニルヴァーナの子でもなんでもない。
 自分は自分でしかないんだ。
 だから自分で頑張っていけ」って。
つまりは、信者たちは神や教祖の庇護を受けたいと思っていたのだろう。
 でも実はそんなものは幻想で、
 やっぱり自分のことは自分で決めて自分で生きていかなくてはならない、
 というのが、大人である彼自信が感じ、決意したことでもあったんだろうね。


それで、「カナリア」という題名なんだけど・・・。
作中には「カナリア」という言葉は出てこなかったよね。
これはアレだよ。
 警察がオウム真理教の施設に強制捜査に入るときに、
 カナリアを携えて入ったというんだな。
カナリアが毒に強く反応するから、ということか。
 子供もまた、大人たちの毒の思想にすぐに反応して感化されてしまう
 というたとえなのかもしれない。
それからまた、作中で盲目のお祖母さんが
 由希に羽ばたく鳥の折り紙を折ってくれるよね。
折り紙のカナリアがぎこちなく羽ばたくように、
 少年たちも、自分の方法で羽ばたいて行けっていう願いが込められているようだ。
うん、少し希望の見えるこっちの解釈のほうがやっぱり、いい。

カナリア [DVD]
塩田明彦
バンダイビジュアル


「カナリア」
2004年/日本/132分
監督:塩田明彦
出演:石田法嗣、谷村美月、西島秀俊、甲田益也子、水橋研二

社会問題発掘度★★★★☆
西島秀俊の魅力度★★★★☆
満足度★★★★☆

ラッシュ/プライドと友情

2014年02月11日 | 映画(ら行)
スピード感と丁寧な人物描写



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F1グランプリ・・・と言うと私には全く守備範囲外なのですが、
実話に基づいた感動作というこの作品、
興味を持って見てみました。



1976年のF1グランプリ。
自由奔放なジェームズ・ハント(クリス・ヘムズワース)と、
完璧主義のニキ・ラウダ(ダニエル・ブリュール)は、
本人同士はもちろん周囲の誰もが認めるライバル。
互いに意識し、せめぎ合いながら首位を争っていたのでした。
ハントを押さえ、優勢に立っていたラウダでしたが、
ドイツのレースで壮絶なクラッシュを起こし、
生死に関わる重症を負ってしまいます。
その隙に、ハントがグイグイ差を詰めていくのですが、
その様子をTVで見ていたラウダは、
悶絶するほどの苦しい治療に耐え、奇跡的な復帰を果たすのです。
復帰したその時には、まだ顔に生々しいやけどの跡が・・・。
さて、この年の最終戦は、日本の富士スピードウェイ。
この結果如何で、首位は入れ替わるわけですが・・・。
折しもドイツの事故時のように、激しく雨が降りしきる・・・。


この2人の事は、知る人ぞ知る話なのでしょうが、
私はその時代を過ごしていながらも、全然知らなくて、お恥ずかしいです。
でもまあ、そのおかげでこのたび本作をしっかり楽しむことができたわけですが。
やはり殿方は車が好きなのでしょうねえ。
私はさすがにそこまでのめり込めないのですが、
迫力満点のレースシーンを堪能しました。
レースのスピード感と、丁寧な人物描写。
このバランスがいい。

  

でも何よりも本作で良いのは、やはりハントとラウダの生き方。
天才肌というのでしょうか、陽気でプレイボーイ、
難なくレースをこなしてしまいそうに見えながら、
実は緊張のあまり決まってスタート前に胃の中の物を吐いてしまうハント。
一方ラウダは堅実で、交友関係も広くはないし、
20%以上のリスクは負いたくないと思う。


このように二人の性格は全く別で、
決して共に飲み明かしたり人生を語り合うことなどもない。
どちらかといえば憎みあっているようにも思えたのですが・・・。
レースに関しての危険・恐怖、勝利の喜び、チャレンジする勇気。
そういうものを常に共有するが故に、通じ合うものがあるのでしょう。
互いの存在が互いを支え高め合っていく。
次第にそういう関係になっていくわけです。
男の世界だなあ・・・。
まさに、感動作でした。



ところで、ハント役のクリス・ヘムズワースといえば、
先日さんざん私がくさした「アベンジャース」にも出ていた
“マイティー・ソー”だったのですね。
本作のようなまともな作品に出られるのだから、
やっぱりもうそっちの役はやらなくてもいいんじゃない?
などと余計なお世話で思ってしまいました。


「ラッシュ/プライドと友情」
2013年/アメリカ・ドイツ・イギリス/123分
監督:ロン・ハワード
脚本:ピーター・モーガン
出演:クリス・ヘムズワース、ダニエル・ブリュール、オリビア・ワイルド、アレクサンドラ・マリア・ララ

プライドと友情度★★★★☆
レースの緊張感★★★★☆
満足度★★★★☆

「家族ずっと」 森浩美

2014年02月10日 | 本(その他)
癒しに満ちたストーリー

家族ずっと (双葉文庫)
森 浩美
双葉社


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一番大事な存在だが、同時にやっかいなことも多い家族。
普段は大して感謝もされず、思いやりも感じられず、
そのくせこちらはけっこう気を遣う。
どのくらい分かってくれているんだろうか。
一体、自分にとって家族ってなんだろう。
そんな問いへの答えが、読むうちにパッと目の前に現れる、
大好評家族小説短編集。
ずっと家族―八つの物語に八つの希望が待っている。
家族シリーズ第5弾。


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著者・森浩美さんは、作詞家でもありSMAPの曲なども手がけていますね。
この「家族シリーズ」は第5弾ということなのですが、
失礼ながら、私は初めてでした。
「家族」にまつわる短編が収められています。
暖かく居心地がいいのも家族ですが、
何かと厄介であるのもまた、家族。


例えば本巻冒頭の「父ちゃんとホットドッグ」
父親が入院したと弟に言われ、故郷に帰ってきた圭。
父とは反りが悪く、しばらくまともに顔を合わせたこともない。
頑固一徹な父には子供の頃からかわいがられた記憶も、共にいて楽しかった記憶もない。
しかし病室を訪れた圭は、父のやつれ様に思わずハッとする。
その父が、「昔、ホットドッグを食べに行ったっけなあ・・・」
と思い出を口にすると、
圭にもその時の光景が思い出されてくる・・・。
似たもの同士で意地っ張りの二人。
結局それだけの事だったのではないか・・・。
これまでのわだかまりが溶けて行くのです。



こんな風に親と子、夫婦などのわだかまりや行き違いを描きながら、
最後には何処か必ず温かな"救いの光"や"希望の光"が残されます。
そもそもこのシリーズにおいては、それがこの著者のモットー。
時にはこのように、癒やしに満ちたストーリーも良いものです。


著者は後書きで述べていますが

「残念ながら僕の描く"小さな光"とは解決させる"光"ではないのです。
ならば一体何であるのか。
それは「一緒に考えてみましょう」ということなのです」

多くのシリーズ短編の中には、
きっと今自分が抱えている問題と同質のものがあるかもしれません。
そんな時、迷い込み落ち込んでいく心を
少しでも救い上げていくヒントがここにあるのかもしれません。


でもまあ、あまりにもいい話で終わってしまうので、
やや物足りなくも感じてしまう、天邪鬼な私なのでした。


「家族ずっと」森浩美 双葉文庫
満足度★★★☆☆

アメリカン・ハッスル

2014年02月09日 | 映画(あ行)
エゲツなさ満開



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今回のアカデミー賞10部門ノミネートということで、注目の作品。
1970年代アメリカで起こった収賄スキャンダル「アブスキャム事件」を元にしています。
詐欺師のローゼンフェルド(クリスチャン・ベール)を逮捕したFBI捜査官ディマーソ(ブラッドリー・クーパー)。
彼は司法取引でローゼンフェルドを捜査に協力させ、
ニセのアラブ大富豪を餌にしたおとり捜査によって
カジノの利権に絡んだ大物政治家たちを逮捕しようと目論みますが・・・。


というわけで、物欲と愛欲まみれの登場人物たちの騙し合い劇・・・。
私は正直、面白いとは思えなかった・・・。
みなさん、面白かったとおっしゃってますよね。
私はダメでした。



まず、せっかく豪華な俳優たちが、すべて私の苦手な方向にあえて装ってますねえ。

ハゲ隠しのズラもあからさまに、ぶよぶよお腹のクリスチャン・ベール。

わざわざ家でカーラーを巻いてまでのパンチパーマのブラッドリー・クーパー。

とにかくそのヘアスタイルがイヤ、ジェレミー・レナー。

なんでそこまで露出する、エイミー・アダムス。

こちらも露出過剰な上に、いかにも頭が悪そうなジェニファー・ローレンス。

とにかく皆エゲツない
私は、この変身ごっこは、ちっとも楽しめない。



そして、おとり捜査。
実際、この過剰なおとり捜査は問題になり、
まあ、だからこそこの映画に取り上げられたわけですが、
わざわざFBIが犯罪を誘発しているというのが理解に苦しむ。
人物ばかりでなく内容までもがエゲツない
そしてその挙句汚職政治家の摘発って、なんだかつまらない。
せめてマフィアを一掃するとかしてほしい。

“してやったり”、という詐欺を楽しむなら
代表作は「スティング」ですが、
本作はそういう爽快感も全然ありません。


世間一般の好みというのが、いまさらわからなくなってきた私であります・・・。
映画評ではなく、あくまでも一個人の感想ということでご容赦ください。



露出過剰ではありましたが、エイミー・アダムスは知的でもあり、
ちょっと良かったけどね。

「アメリカン・ハッスル」
2013年/アメリカ/138分
監督:デビッド・O・ラッセル
出演:クリスチャン・ベール、ブラッドリー・クーパー、ジェレミー・レナー、エイミー・アダムス、ジェニファー・ローレンス

満足度★★☆☆☆