映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

君が君で君だ

2020年04月30日 | 映画(か行)

変態も突き詰めれば・・・

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なんとも、変態的ストーリーながら、いつしか引き込まれてしまうという不思議な力のある作品。

自らを「尾崎豊」(池松壮亮)、
「ブラピ(ブラッド・ピット)」(満島真之介)、
「坂本龍馬」(大倉孝二)と名乗る3人の男が
とある一室で共同生活をしています。
彼らは向かいのアパートに住む女性・ソン(キム・コッピ)を密かに「姫」と呼び、
後をつけ回し、盗聴器で様子をうかがい、のぞき見ることを生きる糧としている。
言ってみればストーカーもどきの変態集団。
彼らは彼女を知り尽くし、見守ることこそが自分たちの使命で、
自分たちは「兵士」だと思っているのです。
彼らが自分の名前を捨て、別の名前を名乗っているのも、
彼女が以前「好き」と言っていた人物になりきるため。
しかし決して彼女に自分たちの存在は知られないようにすること、
そしてまた彼女には実際には干渉しないことを信条としているのです。
それを彼らは10年も続けてきたのでした。
しかしその間、彼女は人生の坂を転げ落ちていく・・・。

今はろくでもないヒモ男(高杉真宙)のために、
ピンクサロン勤めで、借金を背負ってもいるのです。
そんなある日、とうとう彼女の部屋に借金取りが乗り込んできますが・・・。

この変態3人組の行為がホントにキモい・・・。
けれどここまで突き詰めると、逆に凄いという気になってきます。
彼らは見返りを全く求めていない訳ですしね・・・。
それは元々は愛だったはずなのですが、
しかし今は一体何なのか、すでにわからなくなっている。
ただの執着というべきなのかもしれません。
もしかすると彼らは自分の人生を考えることを放棄するために、
あえてこの行為にのめり込んでいるのでは・・・?とも思えるのです。



ガラの悪い借金取りの二人組(向井理・YOU)は、この3人の存在に気づき、
驚きあきれ、変態扱いするのですが、
次第に、彼らのある意味「純粋」さに打たれて行くのです。
恋なのか、愛なのか、執着か、単なる変態か・・・。
笑ってしまいながらも、何やら心底をぎゅっと掴まれる感じがしました。

池松壮亮さんの変態ぶりがもう、極まっています。
これは凄い!!
いかにもワルそうなチンピラの向井理さんも決まってる!!

表題は、尾崎豊さんの「僕が僕であるために」から来ているのですね。
変態行為かもしれないけれど、密かに自分を見守り応援する人々がいた・・・
そういう思いは、そのうち彼女にも受け入れられるかもしれません。
だといいね!

<Amazonプライムビデオにて>
「君が君で君だ」
2018年/日本/104分
監督・原作・脚本:松居大悟
出演:池松壮亮、キム・コッピ、満島真之介、大倉孝二、高杉真宙、向井理、YOU

変態度★★★★★
満足度★★★★☆

 


「活版印刷三日月堂 2 海からの手紙」ほしおさなえ

2020年04月29日 | 本(その他)

ハンカチ又はティッシュのご用意を

 

 

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小さな活版印刷所「三日月堂」には、今日も悩みを抱えたお客がやってくる。
店主の弓子が活字を拾い、丁寧に刷り上げるのは、
誰かの忘れていた記憶や、言えなかった想い…。
活字と言葉の温かみに、優しい涙が流れる、大好評シリーズ第二弾! 

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シリーズ2巻目。
弓子さんが始めた活版印刷のお店は、口コミが広まってささやかながらも順調に動いているようです。

本巻中で私、「あわゆきのあと」にはもう、むちゃくちゃ泣かされてしまいました。
小学5年の男の子が父から
「実は君には姉がいたのだけれど、生まれて3日で亡くなってしまった」
と聞きます。
その子は「あわゆき」と名付けられて、お骨もある。
今まで何も知らずにいて普通に幸せに暮らしてきた自分。
けれどその一つの「死」をどのように受け入れれば良いのか、
少年は戸惑ってしまうのです。
感受性豊かな子なんですね。
そんな彼が自分の気持ちに整理をつけるために思いついたのが
生まれて、命名したときに作るという「ファースト名刺」。
少年は弓子さんと相談しながら「あわゆき」という名前だけの入った名刺を作ろうと思います。

読んでいても文字がすぐに滲んできてしまいます・・・
(老眼だからじゃありませんよ!・・・それもあるけど)
これまで遠くにあった「死」。
でも思いがけずすぐ近くにあった「死」のことを一生懸命考えようとする少年の純粋さ。
そしてたった3日この世にいて旅立ってしまったという赤ちゃんのはかなさ、切なさ・・・。
やられました・・・。

 

本巻の三日月堂のお仕事は、
・朗読会のプログラム
・亡くなった赤ちゃんのファースト名刺
・銅版画とコラボした豆本
・映画雑誌に掲載されたコラムをまとめた本

どれも味があって興味深い。
特に豆本は実際に見たいですね!!

<図書館蔵書にて>
「活版印刷三日月堂 2 海からの手紙」ほしおさなえ ポプラ文庫
満足度★★★★☆

ところが、この本を読み終えた直後、
コロナ対策で再び図書館が閉鎖になってしまいました。
なんで、予約貸し出しまでストップしてしまうのか!!
納得できないこと甚だしいのですが、
仕方ありません・・・💦

この本の続きはいつになったら読めることやら・・・

 


復活の日

2020年04月28日 | 映画(は行)

新種のウイルスで・・・

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新種のウイルスにより人類滅亡した後の話・・・。
今時見るべきなのか見ない方がいいのか・・・、複雑ではありますが、
若き日の草刈正雄さんを楽しむ、ということで(^_^;)
1980年作品で、私、ラストシーンだけ覚えていました・・・。


198X年、東ドイツ陸軍最近研究所から新種のウイルスM-88が盗み出されます。
ところがそれが事故により飛散してしまうのです。
世界中に広まったウイルスにより人々は死滅。
あっけなく人類は滅亡してしまいました。
ところが、この細菌は氷点下10度以下ではほとんど繁殖できない。
ということで、南極の各国基地にいる人々800人余りが生き残っていたのです。
だがしかし、彼らにさらなる危機が・・・!


うーむ、本当に南極以外誰一人生き残っていない。
致死率100パーセントですな。
しかもこれは空気感染っぽい。
そして、人々が死に絶えてもなおまだ、空気中で生き残っている・・・。
都市のロックダウンなどという発想もなかったみたいです。
と、今、新型コロナのことにバカに詳しくなってしまっているので、
本作のウイルスの生態及び対策については疑問な点も若干目にはつくのですが、
まあ、そういう問題ではないですね。


兵器としてのウイルス開発とか、なおかつ核を用いようとするヒトの愚かしさを言っています。
ところが私、どうしても納得できないというか反感を覚えてしまう部分がありました。
800人余り生き残った南極にいたのは、数人の女性と圧倒的多数の男性たち。
彼らは話し合いの末ではありますが、女性を共有し、子どもを作り増やす方針を打ち立てます。
ゲゲゲ・・・。
これって、現実的というべきですか?
女は従軍慰安婦でもないし、子どもを産む機械でもないですよ。
と、思うのはエゴなのだろうか・・・。
少なくともこの話を私は生理的に受け入れられない。
倫理的にというのではなく、あまりにも女が「道具」として扱われているので。
でも考えてみれば結局このルールに基づくコロニーも消滅するわけなんです。
なるほど、原作者小松左京氏にとっても、これが正しいとは思っていなかったということなのかも。
ということなら、納得。

 

それはともかく草刈正雄さんは若くカッコイイ!! 
南極の昭和基地で地震学者として研究をしていたという役柄です。
彼は、最後の生き残りをかけた任務を負うことになる・・・。
日本映画ではありますが、ほとんど外人キャスト、セリフもほとんど英語、という中で、
外人と並んでも遜色ない草刈正雄さんの起用は、成功だったと思います。


<Amazonプライムビデオにて>
「復活の日」
1980年/日本/156分
監督:深作欣二
原作:小松左京
出演:草刈正雄、多岐川裕美、千葉真一、オリビア・ハッセー、
   ジョージ・ケネディ、チャック・コナーズ、ロバート・ボーン

人類の破滅度★★★★★
満足度★★★☆☆


半世界

2020年04月27日 | 映画(は行)

もう半分の世界とは、混乱か、希望か

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山中の炭焼き小屋で備長炭を焼き、生計を立てている紘(稲垣吾郎)。
ある日、幼なじみで親友の瑛介(長谷川博己)が、突然自衛官を辞めて帰ってきます。
地元で中古車販売店を営む同じく幼なじみで親友の光彦(渋川清彦)も含め、
3人で旧交を温めますが、瑛介は戻ってきた事情を話そうとしません。



ひたすら炭焼きに励んでも、さして儲けは無く、取引先も先細りの紘。
息子は中学生ですが学校でいじめに遭っているようです。
しかし、自分の仕事に精一杯で、さして息子に関心も持てない紘。
そんな紘の炭焼きを瑛介が手伝うようになります。
互いに語り合えない胸の内ですが、次第に打ち解けていき・・・。



瑛介は、自衛官として海外の紛争地域に派遣され、
そこで悲惨な光景を見てしまうのです。
平和な日本では考えられないようなこと・・・。
そして彼の部下の身にも何かしらのことが起こったようでもある。
それで彼自身もPTSDに見舞われているのです。

彼は紘に言う。「おまえは、世界を知らない」と。
平和な日本のこの片田舎、炭を焼くだけの生活は「半世界」だと言うのでしょう。
だけれども紘は、ただ好きで炭を焼いているのではない。
亡き父の後を継いで・・・といえば簡単だけれども、
実は父との確執の末にこの仕事をしている。
なかなか一言では言いがたい複雑な心中なのです。
そして又、そんなことのせいか、息子との関係をうまく作れないようでもある。
だから紘は瑛介に言う。
「こっちだって、大変なんだ」。
あちら側の世界だけが大変なのではない。
一件平和なこちらの世界でもみな「闘って」いるのです。

 

さてそれとは別に、彼ら3人が並んで海を見るシーンがありますね。
それは少年時代の思い出でもあり、今また再会した彼らの姿でもある。
海の向こうに彼らは何を見たのか。
かすかな希望、未知の未来・・・、
それもまた、この世界とは別の「半世界」なのかもしれません。



冒頭のシーンでは、瑛介と光彦の二人が神社の裏で何かを掘り出そうとしています。
なぜか、紘がいない。
そのことでずっと何か引っかかりを感じていたのですが・・・。
的中してほしくない伏線でした。

 

稲垣吾郎さんはいい役者ですよねえ。
本作は今までのイメージからはちょっとちがう気がするのですが、
今後の可能性も感じられ、良かったと思います。

<WOWOW視聴にて>
「半世界」
2019年/日本/120分
監督・脚本:阪本順治
出演:稲垣吾郎、長谷川博己、渋川清彦、池脇千鶴、石橋蓮司
人生を考える度★★★★☆
満足度★★★★.5

 

 


家族のレシピ

2020年04月26日 | 映画(か行)

日本とシンガポール外交樹立50周年記念

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2016年、シンガポールと日本の外交関係樹立50周年記念として作られた作品。
日本とシンガポール、それぞれのソウルフードである
ラーメンと肉骨茶(バクテー)がつなぐ国境を越えた家族愛を描きます。

高崎市でラーメン店を営む真人(斎藤工)。
父の死後、遺品の中から一冊の古いノートを見つけます。
それは真人が10歳の時に亡くなったシンガポール人の母が書いた日記。
料理のレシピや写真なども挟み込んであります。
忘れかけた記憶を埋めるため、真人はシンガポールへ旅発ちます。
そしてそこで真人は、シンガポール在住のフードブロガー美樹(松田聖子)のサポートで、
バクテーの店を営む叔父(母の弟)と再開。
これまで知らなかった家族の歴史と向き合うことになります。

まだ若くして亡くなった真人の母は、日本人との結婚を母親に大反対され、
そのまま縁を切ったようになっていたことが悲しく、心残りだったのです。
ではなぜ祖母はそんなにも娘の結婚に反対したのか。
それこそは、日本とシンガポールの悲しい歴史が原因。
なるほど、「外交関係樹立」の背景に、
到底外交関係など結びがたいというシンガポール側の心情があった訳ですね。
そこで、両国を結ぶ存在として真人がいるわけです。



シンガポールの料理の味は、真人にとって母の料理の味。
最後に、祖母が作った料理を真人が食べるシーン。
それこそが、祖母から母に伝えられ、真人が馴染んでいたあの母の味。
ただ無言で知らず涙を流しつつひたすら料理を頬張る斎藤工さんの演技、泣かされました。
素晴らしい!! 
さすがです。

それにしてもシンガポールの料理、おいしそうでした~。
バクテー、食べてみたいです!!

斎藤工さんが出ていることを知りつつ、公開時に見ていなかったのは、
実は松田聖子さんが出ているせい。
私はこの方が苦手なのです。
・・・が、まあ、それほど悪くはなかった。
でもラストシーンが気になるのですが、日本にやってきた美樹と真人はLOVE♡なのですか? 
いや、まさか・・・。
そうだとしたら、絶対イヤ!!

<WOWOW視聴にて>
「家族のレシピ」
2017年/シンガポール・日本・フランス/89分
監督:エリック・クー
出演:斎藤工、マーク・リー、ジネット・アウ、伊原剛志、松田聖子

外交樹立50周年記念度★★★★★
シンガポール料理照会度★★★★☆
満足度★★★★☆


「活版印刷三日月堂 1 星たちの栞」ほしおさなえ

2020年04月24日 | 本(その他)

心が解きほぐされていく・・・

 

 

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古びた印刷所「三日月堂」が営むのは、昔ながらの活版印刷。
活字を拾い、依頼に応じて一枚一枚手作業で言葉を印刷する。
そんな三日月堂には色んな悩みを抱えたお客が訪れ、
活字と言葉の温かみによって心を解きほぐされていくが、
店主の弓子も何かを抱えているようで―。

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ほしおさなえさんのこのシリーズ、長く楽しめそうなので読み始めました。
「三日月堂」は、昔ながらの活版印刷の店です。
活字を一つ一つ拾い組んで印刷するという、
今では珍しい印刷の文字の手触りが懐かしくもあり、また新鮮でもある。
亡き祖父からこの店を受け継いだ弓子が、店を訪れる様々な人と関わり合いながら、
それぞれの悩みを和らげて行きますが、
それと同時に弓子自身も癒やされ、生きがいを見つけていきます。
優しく温かみのあるストーリー。
読んでいくこちらの心も癒やされていくようです。

 

祖父が亡くなってから、しばらく放置されていたこの店に、
弓子は始めただ住むだけのつもりだったのです。
ところがある人の依頼で名入りのレターセットを試しに印刷してみたことから始まって、
少しずつ人の輪が広がっていき、活版印刷業が成り立つようになっていく。
いいですよねえ。

本巻の三日月堂のお仕事
・レターセット
・珈琲店のショップカードとコースター
・ワークショップにて栞作成
・結婚式の案内状

三日月堂があるのは川越市。
大きすぎず、歴史あるこの町の片隅にひっそりとあるというのがまた、雰囲気があります。
作中に出てくる珈琲店「桐一葉」もステキです。
行ってみたい!!
なんだか、あっという間に読んでしまいました。
即、次巻に行きましょう!!

図書館蔵書にて
「活版印刷三日月堂 1」ほしおさなえ ポプラ文庫
満足度★★★★☆


デイアンドナイト

2020年04月23日 | 映画(た行)

正義とその影

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山田孝之さんプロデュース、阿部進之介さん企画・原案・主演という異色作。

父の死の知らせを受け、実家へ戻ってきた明石(阿部進之介)。
父は、大手企業の不正を告発したために、逆に周囲から追い詰められて自殺してしまったのです。
困惑する明石に手を差し伸べたのは、父に世話になったという北村(安藤政信)。
北村は児童養護施設のオーナーであり、しかし、夜には全く別の顔を持っているのです。
子どもたちを生かすためには犯罪も厭わないという北村の考えに、
明石も惹かれるものがあり、彼の仕事を手伝うようになります。
しかし、次第に明石の中の善悪の境界線が崩壊していき・・・。

「善と悪」はどこで区別されるのか? 
境界があるとするならそれはどこに?
こうしたことがテーマとなりますが、作り手のこのテーマのこだわりには非常に力がこもっています。
ひしひしとそれを感じ取れるので、思わず見るのにも力が入ります。

そもそもは父が「正義」を行ったはずなのに、逆に周囲から責められ悪者扱いされてしまう。
北村は児童養護施設で多くの子どもたちの幸せのために尽くすことを自身の喜びとしている。
しかし、その資金のために、夜は闇の世界に身を投じている。
明石は、父の復讐も含め、やはり大手企業のリコール隠しを明るみに出そうとしますが
それでも周囲の反発は大きい。
その大手企業で成り立っている町なので、彼らにとっては
明石の動きを封じることこそが正義というわけです。
それぞれの正義を貫くために暴力が必要になり、最後にはそれが殺人へとつながってしまう。
それでもやはりそれは「正義」なのだろうか・・・。
明石は、最後の一線を踏みとどまることができるのか・・・?

 

デイアンドナイト。
昼と夜。
正義と、その影。
ずっしりとテーマが迫る作品でした。



清原果耶さんは、施設に預けられている少女。
高校を出た後は東京に出て父親を探したいと思っているのですが、
実はこの父親と北村には重大な関わりがあって・・・、というあたりも見所です。
彼女の透明な少女性がやはりいいなあ・・・。

<WOWOW視聴にて>
「デイアンドナイト」
2019年/日本/134分
監督:藤井道人
プロデュース:山田孝之
企画・原案:阿部進之介
出演:阿部進之介、安藤政信、清原果耶、小西真奈美、田中哲司

テーマ性★★★★★
満足度★★★★.5

 


家族のはなし

2020年04月22日 | 映画(か行)

長編に仕立てた意味はあるか?

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鉄拳さん原作のパラパラ漫画の映画化です。
テーマは、鉄拳さんらしく、家族の物語。

あるリンゴ農家。
父(時任三郎)は、リンゴ作り一筋。
母(財前直見)は明るく夫を支えます。
一人息子拓也(岡田将生)は、陸上競技に意欲を燃やしていましたが、
膝を痛めてその道を閉ざされてしまいます。
リンゴ農家を継ぐ気持ちは全くなく、大学進学のため親元を離れて、東京へ。
そして、バンド活動に熱が入り、プロを目指して大学もやめてしまいます。
けれど、そのことを親にいうことができず、
毎月の親からの仕送りを後ろめたく受け取っていたのですが・・・。

親は子どもの将来を信じてひたすら見守るしかない・・・。
うーん、実際親でもある自分のことを考えると、
ここのご両親は立派すぎるかなあ・・・。
でも、日本の「親」のベタな理想像ではあるのだな。
何の贅沢もせず、ひたすらリンゴ作りに励み、
苦しいやりくりの中、息子に仕送りを続け・・・、
お母さんは、「もういい加減にしなさい!!」と怒ったりもしない。
あ、無理無理、やっぱり私には無理。


この息子があまりにもダメなんだな。
自分の好きなコトするのなら少なくとも仕送りは断ろうよ。
と、シビアに思ってしまう。
鉄拳さんのパラパラ漫画で数分の物語を見るだけなら涙の感動作だと思うのですが、
このように長編になってしまうと、
いろいろと考えてしまう部分が多くてダメかもしれません。
好きな俳優さんばかりだったのですが・・・。
企画倒れ。



<WOWOW視聴にて>
「家族のはなし」
監督:山本剛義
原作:鉄拳
出演:岡田将生、成海璃子、金子大地、佐藤寛太、時任三郎、財前直見

日本的家族愛度★★★★☆
満足度★★★☆☆

 


「濱地健三郎の霊なる事件簿」有栖川有栖

2020年04月21日 | 本(ミステリ)

不思議な力で謎を解く

 

 

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探偵・濱地健三郎には鋭い推理力だけでなく、幽霊を視る能力がある。
彼の事務所には、奇妙な現象に悩む依頼人のみならず、
警視庁捜査一課の刑事も秘かに足を運ぶほどだ。
ホラー作家のもとを夜ごと訪れる幽霊の目的とは?
殺人事件の被疑者が同時刻に複数の場所にいたのは、トリックか生霊か?
生者の嘘を見破り、死者の声なき声に耳を傾ける心霊探偵が、驚くべき謎を解き明かす。
ミステリと怪異の融合が絶妙な、新シリーズ!

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有栖川有栖さんの新シリーズ。
異色の探偵はなんと心霊探偵。
つまり幽霊を見ることができるのです。
年齢不詳の渋―いおじさま、濱地健三郎であります。


読む前に思ったのは、霊能者が探偵というのはちょっとズルくはないか、ということです。
もし殺人事件があったとして、その死者の幽霊に聞けば、
犯人はすぐにわかってしまいますものねえ・・・。
これではミステリにもならない。
しかしご安心を。
もちろん著者はそんな単純な話を用意したりはしません。
例えば冒頭「見知らぬ女」では、ある女性が訪ねてきて、
夫に何かがとりついているようで、ひどくやつれている、
調べてはもらえないか、という依頼でした。
夫がうなされていたある夜、その枕元に「女」が立っていた、というのです。
後に夫に問いただしても、そんな女は知らないという。
そこで濱地がその夫の身辺を調べ始めると・・・、
というところで、およその顛末は想像がついてしまうのですが、
どのようにそれを暴くか、というところがミソ。


濱地は警察に協力もしているのですが、例えば幽霊が犯人を指し示しているとしても、
実際のところそれは犯人を指摘する証拠にはなりませんよね。
結局、誰もが納得する具体的な証拠をつかまなければならないのです。
それこそが、この探偵小説の面白み。


主人公の渋いおじさまだけでは地味すぎるので、
その若き助手ユリエも登場するのでご安心を。
新シリーズとして今後も楽しみではありますが、
でもやはり私は、火村英生シリーズの方が好きです♡


「濱地健三郎の霊なる事件簿」有栖川有栖 角川文庫
満足度★★★.5


クーデター

2020年04月20日 | 映画(か行)

異国で四面楚歌

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東南アジアの某国へ、支援事業のため妻と2人の娘を連れ
アメリカからやってきたジャック(オーウェン・ウィルソン)。
到着した翌朝に、国を転覆するクーデターが起こります。
政府の要人は殺害され、政府と外国人をターゲットとした容赦ない殺戮が始まります。

言葉も通じず、土地勘もないところで、ジャックは家族を守りつつ逃走を開始します。
その途中、前日に飛行機内で知り合った謎の旅行者ハモンド(ピアース・ブロスナン)に助けられますが・・・。



なんとも恐ろしいストーリー。
家族連れのわくわく感で彩られるはずの一日が、
あっという間に悪夢のような一日に変貌します。
突如牙をむき始める住民たち。
外国人と見れば即射殺、しかも集団で・・・という状況は
妻と幼い娘を抱える身にとってはいかにも厳しい・・・。
ただの会社員であるジャックですが、身を守るためについに殺人をも犯さざるを得ない。



そんな中、ハモンドはいかにも歴戦の人物という感じ。
顔つきは穏やかなれど、ただ者ではない。
そりゃ007ですもんねえ・・・。
まあそれを意識したかどうかはわかりませんが、
本作での彼は、欧米の利益のためにこの国で諜報活動をしていた・・・という役柄なのであります。
しかしつまり、その欧米資本家の欲得が、
この国のクーデターを呼び起こしたのだと、彼は冷静に分析している。
そこがなければ、ただのパニックストーリーだったと思いますが、
これで若干話が締まりました。

ジャックの妻も、ただ逃げ惑い泣き叫ぶのではなく、
夫と子どもたちのためならただならぬ勇気と力を発揮する、現代の女。
かっこよかったです。

<WOWOW視聴にて>
「クーデター」
2015年/アメリカ/101分
監督:ジョン・エリック・ドゥードル
出演:オーエン・ウィルソン、レイク・ベル、ピアース・ブロスナン、スターリング・ジュリンズ、クレア・ギア

恐怖度★★★★☆
家族愛度★★★★☆
満足度★★★☆☆

 


男と女、モントーク岬で

2020年04月18日 | 映画(あ行)

ダメ男への評価

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ドイツ・フランス・アイルランド制作作品でありながら、ニューヨークが舞台という異色作品。



ベルリンを拠点として仕事をしている作家マックス(ステラン・スカルスガルド)は、
新作のプロモーションのため、ニューヨークを訪れます。
妻クララ(スザンネ・ウォルフ)は彼の作品を売り込むため、
ニューヨークの出版社に務めているので、普段は別居。
この度久しぶりに会ったのです。

そんな中、マックスはかつての恋人・レベッカ(ニーナ・ホス)と再会。
実は今回のマックスの新作は、彼女との実らなかった恋の思い出をモデルに描かれていたのです。
レベッカは現在弁護士として成功しており、
しきりに彼女との思い出に浸るマックスを尻目に、親しみを見せようとしません。
しかし、マックスが間もなくニューヨークを去るというある日、
レベッカからかつての二人の思い出の地、モントーク岬への旅に誘われます。

本作、男女によって、いえ、昨今は男女の差なんてさして普遍的なモノではないので、
「人によって」というべきかもしれませんが、評価が分かれるのではないかと思いました。



妻とかつての恋人との間で揺れて苦悩し、その狭間の悲哀に浸る中年男・・・
というのに切なさとロマンを感じる人は確かにいるのかもしれません。
けれど私はダメでした。
このダメ男には何らの同情すらわきません。
私が連想してしまったのは、あの、
不倫がばれて世間から大バッシングを食らった若手男性俳優。
言い訳しようもなくひたすら小さくなっているだけの彼の姿には悲哀を感じます。
(しかしまあ、当事者間の問題なのだから、
ここまで芸能界から抹殺してしまうほどのことではないと、私は思います)。
まあ、若さゆえとも言えます。
しかるにこのマックスは、こんなにいい年をしても、
まるで子どもみたいに、ただ目についた女を追い求めるだけ。
そうしたことの相手への責任感が欠如している。
女性にだってその人なりの思いがあり、人生があり、自由がある。
女なら誰もが自分のためいると思っているマックスには、身勝手な自分が見えていない。



まあ、そうした本当のことが何も見えていない哀れな男の物語、ということであります。
そのことを描き出したと見ればなかなかの作品。

<WOWOW視聴にて>
「男と女、モントーク岬で」
2017年/ドイツ・フランス・アイルランド/106分
監督:フォルカー・シュレンドルフ
出演:ステラン・スカルスガルド、ニーナ・ホス、スザンネ・ウォルフ、ブロナー・ギャラガー

ダメ男度★★★★★
満足度★★★☆☆

 


今はじっと我慢のとき

2020年04月18日 | インターバル

映画館に行きたいけど・・・


私はこれまでほぼ週に2本ずつ劇場に出かけて映画を楽しんでいたのですが、
北海道でのコロナ感染拡大に伴う緊急事態宣言が出て、自粛態勢に入りました。
その後北海道では事態もやや落ち着いた状態になり、
そろそろ劇場に行ってみようかと思い始めた矢先、
又じわじわと感染者数が増え始め、ついには再びの緊急事態宣言。
まだまだ劇場には行けそうにありません。

というかそもそも、主立った作品は公開延期となってしまい、
いざとなると特に見たい作品がなくなっていた、というのも本当のところです。
実態は行っていないのでよくわかりませんが、
映画館はかなり空いているのでは?と推測します。
特に朝の時間帯ならば・・・。
でも映画館に行くためにはバスや地下鉄に乗ることになりますし、やはりここは自粛、自粛・・・。
と思ったら、全国的な緊急事態宣言も出て、ついにほとんどの映画館が休業に入りました。
まだ当分はWOWOW視聴、J:COMオンデマンド、Amazonプライムビデオ等々にお世話になります・・・。

でもこんなご時世で気になるのは、私がいつも行っているミニシアター、
札幌では「シアターキノ」さん。
訪れる人が減って大変なのでは・・・と案じてはおりました。
そんな時、クラウドファンディングで「ミニシアター・エイド基金」というのがあるのを知りました。
全国のミニシアターを応援するという企画。
実際映画館に行っていないので、私の出費は抑えられているわけで、
その分応援に回してもいいのかなと思い、クラウドファンディング初体験。
ささやかではありますが、お役に立てば何よりです。

 

ついでに道外の皆様に一言。
北海道では緊急事態宣言を2回体験することになってしまいました。
感染者が多少減ってきたからといって、油断は禁物です。
少しの気の緩んだ行動が、これまでの努力を結局また元の木阿弥にしてしまいます。
中途半端なやり方では結局だらだらと長引くだけ。
一人一人が、がっちりしっかり3密を避け、ソーシャルディスタンシングを守って、
極力短期間で事態が終息するよう努めましょう。
とにかく今は、じっと我慢のときです。

写真は、やっと咲いた北海道のフクジュソウです。
お天気が良く暖かかった昨日は、お散歩の人も多かった・・・💦


ガルヴェストン

2020年04月17日 | 映画(か行)

ハードボイルド&ロマン

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裏社会で生きてきたロイ(ベン・フォスター)が病院で末期がんと診断されます。
そしてその夜、ボスに命じられた仕事先で、
何者かの襲撃をうけ、自分が組織から切り捨てられたことを悟ります。
彼は相手を撃ち殺し、その場に捕らえられていた少女ロッキー(エル・ファニング)を連れて逃亡。
ロッキーは行く当てもなく身体を売って生活していました。
ロイとロッキーは成り行きで逃避行を始め、ガルヴェストンという海辺の町にたどり着きます。

ロッキーは途中で実家に立ち寄り、幼い妹を連れ出します。
そのときに聞こえた一発の銃声。
義父を脅かしただけ、とロッキーは言うのですが、ロイは現場を見ていません。
つまりそこにいたのは、彼女らの母親のオトコだったのでしょう。
その男に乱暴されるのが嫌で、彼女は家を出たらしい。
そして妹を残してきたことが心残りだったのでこの度連れ出しに来た、と。
ですから実際は3人の逃避行。
叔父と姪の姉妹ということにして、とあるモーテルに落ち着くのです。



今まで裏の仕事を請け負い前科もあるロイ。
そしてもう余命幾ばくもない自分。
無性にこの哀れな姉妹のために何かしてやりたくなるのです。


ガルヴェストンはちょっとしたリゾート地でもあるのでしょう。
ロイが行き先をこの地に決めたのにも実は訳があったのですが・・・。
美しい海岸で無邪気に遊ぶ二人を見つめるロイは、ある覚悟を決めるのですが・・・。
いよっ!! 
男だねえ・・・!!

ところがなんとも意外な結末を私たちは見ることになります。
思わず絶句。
けれど、どんな思いも時が癒やしてくれるものなのです。
しゃれたエンディング。
ハードボイルド&ロマン、意外といいですよ。

<WOWOW視聴にて>
「ガルヴェストン」
2018年/アメリカ/94分
監督:メラニー・ロラン
原作:ニック・ピゾラット「逃亡のガルヴェストン」
出演:エル・ファニング、ベン・フォスター、リリ・ラインハート、アデペロ・オデュイエ

男のロマン度★★★★★
意外性★★★★☆
満足度★★★★☆

 


「父が子に語る日本史」小島毅 

2020年04月16日 | 本(解説)

凝り固まった歴史観から脱しよう!

 

 

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自分の国の歴史を学ぶ―その「勉強」には、一体どんな意味があるのだろう。
「日本」と呼ばれるこの国は、一体どうやって生まれたのだろう?
たった一つの視点からでは、歴史を語ることはできない。
言語、宗教、文化、戦争…。
周辺国との複雑で密な交わりこそが、この国の過去を楽しむ鍵になる。
凝り固まった一国史観から解放される、ユーモア溢れる日本史ガイド!

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先に同著者の「父が子に語る近現代史」を読み、順不同となりましたが、
その前作である本巻を読むことに。


本巻では主に日本の始まりから江戸時代までについて述べられています。
一貫して著者が主張するのは、これまでの「日本史」は
常に中央からの視点で語られていた、と言うこと。
地方政権は軽視され、東北地方にいたってはいつも「討伐」の対象であった。
さらに江戸時代、頼山陽が「日本は本来天皇が治めるべきである」と説いたことから
尊皇攘夷運動が湧き上がり、
明治には「日本は未来永劫天皇が治める国家である」と憲法にも規定される。
戦後こうした見方は批判されてはいるものの、
こうした歴史観は変わっていない、と著者は嘆くのです。
日本は今と同じ形でずっと一つだけだったわけではなく、
その外との交流の中で育まれてきた。
このような考え方で語られる、著者の歴史の流れには、非常に興味が持てます。
せめて高校生時代くらいに、こんな風に語られる歴史の授業を受けることができれば良かったのに
・・・と、今さらながらに思います。


それにしても私、鎌倉・室町時代のことって実のところ未だによくわかっていないような気がする・・・。
大河ドラマにもあまり出てこないですもんね・・・。
もっと学ぶべきことはいくらでもある、ということを再認識しただけでも意義がある。

「父が子に語る日本史」小島毅 ちくま文庫
満足度★★★.5

 


バーバラと心の巨人

2020年04月15日 | 映画(は行)

バーバラが闘おうとしているものの正体

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ジョー・ケリーと日系イラストレーターであるケン・ニイムラによる
グラフィックノベル「I  KILL GIANTS」の実写映画化。

風変わりな少女バーバラ(マディソン・ウルフ)は、
やがて「巨人」が襲来するけれども、自分がそれを倒さねばならないという使命感を抱いています。
姉カレン(イモージェン・プーツ)やモール先生(ゾーイ・サルダナ)は
そんなバーバラには当惑するばかり。
そんな時、転校生のソフィア(シドニー・ウェイド)が
他の誰とも馴染もうとしないバーバラに近づいていきます。
そしていよいよ、バーバラの「そのとき」が近づいて来ますが、
バーバラが恐れつつも闘おうと決意しているそのものの正体とは・・・!!



ファンタジーのようでいて、実はおそらくバーバラの心の問題なのだろう
というように一応の見当はつきます。
バーバラの世話をしているのは姉カレンであり、カレン自身も何かいっぱいいっぱいの感じがする。
そして彼女らの親が登場しない。
こういうところに何かありそうかな?・・・と。

あまりにもつらくて直視できない現実。
その現実を、無意識のうちにさらに過酷な「巨人」とすり替えている
バーバラの矛盾に満ちた思い。
でもバーバラはひとりぼっちではなかった。
なんとか彼女に寄り添おうとするモール先生やソフィアが彼女に力を与えます。

現実においても、内面においても、一人きりで戦い続ける、彼女は勇敢な戦士です。
でもやはりほんの一人でもいい、暖かい手が必要なのだということなのでしょう。

ミステリアスでスリリング、不思議な味わいのある作品でした。


<WOWOW視聴にて>
「バーバラと心の巨人」
2017年/アメリカ/106分
監督:アナス・バルター
出演:マディソン・ウルフ、イモージェン・プーツ、
   シドニー・ウェイド、ロリー・ジャクソン、ゾーイ・サルダナ

ファンタジック度★★★★☆
ミステリアス度★★★★☆
満足度★★★.5