映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

アニメ ゲド戦記

2017年04月30日 | 映画(か行)
これは「ゲド戦記」ではない



* * * * * * * * * *

本作は、平成18年の公開時に見たのですが、
その頃はまだブログをはじめていませんでした。
このところ原作の「ゲド戦記」を読んでいて、
けれどもアニメの方は全く記憶から抜け落ちていたので、この度再視聴しました。
以前に見たときの記録は残っていましたので、
ここにコピペしてみますね。


前評判があまりよくない。
それで、まあ、あまり期待しないで見たわけですが、
うむ、それで正解かな?と。
誰しも、父宮崎駿氏と引き比べてしまうのでしょう。
気の毒だけれど・・・。
そもそも、このゲド戦記は、もっと膨大な物語なのだろう。
むりして2時間にしました、というのがみえみえ。
まず、なんでアレンが父親を刺し殺すことになってしまったのか、よくわからないし。
クモの姿がどんどん不気味に変わっていくのも、単にこけおどし、という感じ。
一番感じたのは、心の光と闇、命の大切さ、
そのような観念がそのまま言葉で語られていること。
ここは色々なエピソードがあり、アレンが自分でつかみとらなければならないところだ。
それをテルーに言われたからといって、ああそうなのかと納得できるものかね。
・・・若いな。うむ。
たとえば、となりのトトロに、「自然が大切」なんて言葉はどこにも出てこない。
でもそれは画面のそこここからにじみ出ている。
大人も子供も十分に楽しめる。
でもこれは・・・。
隣に座っていた小学生はすっかり退屈していたぞ。
唯一良かったのは挿入歌のテルーの唄。
この間、テレビに出ていたテシマ葵さんの唄は涙が出ちゃった。
うう・・・。
いい曲、そしていい歌声です。



・・・と、かなりの辛口なのですが、
原作を読んだあとだと、更に不満が溢れ出てきます。
長いストーリーのエッセンスだけをつまみ食いした感じの本作は、もはや原作とは別物。
これを「ゲド戦記」だなんて言ってほしくない。



一番まずいのは、ここにも書いてある通り、
最も訴えたいテーマをそのまま「セリフ」として登場人物に語らせてしまっているところ。
原作の第一巻で自分の影と戦うのはゲド自身ですが、
それを克服するにはに長く過酷で孤独な旅が必要でした。
けれど、本作上のアレンは何ほどのことをしたでしょう? 
テルーの歌を聞いて心が洗われて、それでおしまい?
そもそもアレンが父親を殺すなんて、原作にはまったくないんですよ。
アレンが影をまとうために、無理やり作ったエピソード。
全然納得できません。


公開時にアニメを見て一つだけ腑に落ちなくて覚えていたシーンがあります。
それはテルーが高所の階段の手すりから隣の建物へ飛び移ろうとするシーン。
怖いので「できない」とテルーは口に出します。
そしてアレンが手を差し伸べる。
バカみたい、と前回も思ったし、今回も思いました。
それ以前までにテルーは散々危険なところを伝ってきたんですよ、一人で。
そもそも、ジブリ作品に登場する女の子なら、
こんなところで「できない」なんて言わない。
少し怯んだ顔をしたとしても、思いっきりよく自分で飛んだはずです。
何こんなところでアレンの気遣いをアピールしているのか・・・


あ、でもひとつ良かったのは、テナーの家で、
ゲドが自分の食器を自分で洗っていたところ。
よくぞそのシーンを取り入れてくれました!!
そこは大事です。

総じて、原作を読んだ人なら、絶対不満足感を抱くことは確実。
原作を読んでいない人なら・・・
でもまあ、あえて見る必要もないか・・・。
う~ん、我ながらあまりの辛口になってしまっているようです。
ご容赦を。

ゲド戦記 [DVD]
ブエナ ビスタ ホーム エンターテイメント
ブエナ ビスタ ホーム エンターテイメント


「ゲド戦記」
2006年/ 日本/115分
監督:宮崎吾朗
出演(声):岡田准一、手嶌葵、菅原文太、田中裕子、香川照之、風吹ジュン

満足度★★☆☆☆

「ゲド戦記 Ⅴ アースシーの風」 ル=グウィン

2017年04月29日 | 本(SF・ファンタジー)
“死”について

ゲド戦記 5 アースシーの風
清水 真砂子
岩波書店


* * * * * * * * * *

故郷のゴント島で妻テナー、養女テハヌーと共に静かに余生を送るゲド。
竜が暴れだし、ふたたび緊張が高まるアースシー世界。
テハヌーは王宮に呼び出され、レバンネン王から重要な使命を与えられる。

* * * * * * * * * *

ゲド戦記最終巻。 
これまでの集大成とでもいいましょうか、
アースシー世界の重鎮たちが集まるオールキャストになるのですが、
そこにゲドはいません。
魔法の力を失った自分は、すでにもう口を出すことはないとばかり、
レバンネン(アランの本当の名前)王の要請に答え、
妻テナーと養女テハヌーを送り出し、一人で留守番をしています。
ゴント島でキャベツに水なんかやっているゲドというのも、
なんだか鄙びていていいのだわあ・・・。


さて、アースシーの世界では、やって来るはずのない竜たちが飛来してきて、
森や畑を焼いたりしているのです。
そこで "竜の娘"テハヌーの存在が光る。


今回のテーマは「死」でしょうか。
アースシーでは人は死んだ後に別の世界に行って、
そこで永遠の生を受けて幸福に暮らすと信じられていたのでした。
けれどあの「最果ての島」へ行ったゲドとアランは見てしまったのです。
亡くなった人は何もない乾ききった灰色の世界で、
ただ虚ろに歩きまわっているだけ。
言葉をかわし合うこともない。
それが永遠に続くとすればそれはほとんど拷問にも等しい。
どうしてそんなことになってしまったのか・・・。


さて、そこでまた興味深いのは、アースシーではそのように信じられていたわけですが、
別のカルガド地方では、人は死んでも別のものに姿を変えて
また蘇ると信じられているのです。
輪廻、東洋に住む私たちには、こちらのほうが馴染みがありますね。
それで、カルガド出身のテナーは考えてしまうのです。
自分は死んだら一体どちらに行くのだろうか、と。
宗教をからめて、死後のことを考えます。
結局は、魔法の力が本来あるべき死の有りようを歪めていた・・・
人と竜が袂を分かった理由というのにも考えさせられます。
人が選び取ったものの結果として「物質」至上、欲にまみれた今の世がある・・・と。


また本巻では、レバンネン王の結婚話が持ち上がります。
それはカルガドの地の王女で、
いきなり差し出された彼女とは、はじめてあったばかりか言葉も通じない。
ゲドとテナーの劇的なボーイ・ミーツ・ガールに比べると、
ずいぶんミもフタもなくて、仕方なく決められた結婚のようにも見えます。
はじめのうちは、ほとんど彼女を無視、いえ、むしろ敵視していたレバンネンが
どのように彼女に心を寄せていくようになるか、というところも面白いところです。


私が笑ってしまうのは、もうすっかり立派な大人の王であるレバンネンが、
テナーや王女たちのいる部屋へ入るときに感じる「気後れ」のようなもの。
女たちの様子が気になって見に来たレバンネンですが、
女たちに一斉に見つめられて、ドギマギしてしまうのです。
そして何か間の抜けたことを言って、すぐ出てきてしまうのですが、
「去っていく王の耳に、女たちのにぎやかな笑い声が聞こえて来た。」
とあります。
わかりますよねー、そういう状況。
ここの描写が、妙に気に入ってしまいました。

ともあれ「ゲド戦記」、私の思っていた方向とはぜんぜん違う
実に人生への示唆に富んだ物語でした。
数あるファンタジーの中では一番好きかもしれません。


「ゲド戦記 Ⅴ アースシーの風」 ル=グウィン 岩波書店
満足度★★★★★

ターシャ・テューダー 静かな水の物語

2017年04月28日 | 映画(た行)
静かな水のように穏やかでありたい



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自然なに囲まれた場所でスローライフな生活スタイルを貫き、
2008年に92歳で他界したターシャ・テューダーのドキュメンタリー。
過去10年に渡り撮影されたライブラリー映像に
未公開の秘蔵映像や最新のテューダー家の様子も加えてまとめられています。



米バーモント州の田舎で、息子が建てたコテージにひとり暮らし。
絵本を書き、花を育て、コーギー犬と散歩。
私は以前から彼女のライフスタイルを敬愛し、写真集も何冊か持っています。
彼女の美しい庭に憧れる人も多くて、この日のミニシアター上映室はほぼ満員。
やはり、愛されていますねえ・・・。
四季の移り変わりとともに姿を変える庭の様子を堪能しました。
そして、彼女を孫息子とそのお嫁さんが手伝っているのにはホッとします。
さすがに90歳を超えると庭仕事も大変そうですし。
ところどころウサギや愛犬メギーのアニメーションが入っているのも可愛らしい!!


ターシャはメギーを「太り過ぎじゃないわよね・・・」というのですが、
いや、やっぱりちょっと太りすぎだと思う。
でも、だからこそこれがまた、かわいいんですよね~。
いつもターシャの行くところに必ずいる。
以前は同時に10匹くらいコーギーがいたことがあるということなのですが、
本作中では一匹だけでした。
我が家にも以前コーギーがいたので、あの仕草や表情が愛しくて仕方ありません。



静かな水のように穏やかであること。
周りに流されず、自分の速さで進むこと・・・



長く自分の生き方を貫いたターシャの言葉であるからこそ重みがあります。
私この日、2館回った映画館双方で、
ワガママで強引なおばちゃん二人組に遭遇してしまったのです。
それで少なからずムカついた気分になってしまったのですが、
ターシャの言葉で自省しました。
些細な事で心をかき乱すのはやめよう。
静かな水に浮かぶ睡蓮のように穏やかでいよう・・・と思った次第。
私も「だからおばちゃんはイヤだ」などと思われないように、気をつけなければ・・・。



「ターシャ・テューダー 静かな水の物語」
2017年/日本/105分
監督:松谷光絵
出演:ターシャ・テューダー、セス・テューダー、ウィンズロー・テューダー、エイミー・テューダー
スローライフ度★★★★★
満足度★★★★☆

スリング・ブレイド

2017年04月27日 | 映画(さ行)
罪とは・・、正義とは・・・



* * * * * * * * * *

この間から、アカデミー賞受賞関連作で未視聴のものを見始めたのです。
本作は1997年アカデミー脚色賞受賞作品。
さすがにこういうのは面白い。
脚本賞、脚色賞狙いで見ればいいのだと思って調べてみたら、
すでに見たものがほとんどでしたが・・・。


過去に殺人を犯したけれど、『責任能力がない』ということで罪にはならず、
二十数年を精神病院で過ごしたカールが、
収容期間が過ぎたということで、
有無を言わさず退院させられるところから、本作は始まります。


彼は過去に母親とその遊び相手の少年を殺してしまったのですが、
その時まだわずか12歳。
知的障害があり、ほとんど育児放棄されていた彼が行ったことは、
確かに心情的には納得できてしまう動機の行為だったのです。


行き場もない彼をいきなり放り出すのもどうかとは思ったのですが、
幸い、気にかけて世話をしてくれる人がいました。
そして、カールは少年・フランクと知り合い、
その母親の了解を得て、フランクの家のガレージに寝泊まりすることになります。
また草刈り機などのエンジン修理の仕事につくこともできました。
彼の過去を知る人も知らない人も、
物静かで、慎ましく、真面目な彼に信頼を寄せていきます。
成り行きにどうも嫌な予感を感じていた私も、ひととき安堵。
意外なほどに、いい感じに物事が進み始めるのですが、問題が一つ。
フランクと母の家に、我が物顔で出入りする男がいるのです。
(フランクの父は亡くなっています。)
この男は、些細な事で切れやすく、すぐに乱暴を働きます。
そして、フランクには非常に威圧的。
カールがこの家にいることも実は気に入らず、常にカールを見下しているのです。
全く嫌な奴!!
となると、少しづつ展開が読めてきますが・・・。


罪とは、正義とは・・・。
考えてしまいますねえ・・・。
カールは子どものように純真なので、
間違ったことは、あくまでも間違っていて、法律がどうとかは考えない。
実際、ストーリーを見ながらつい
「あんなヤツ、死んじゃえばいいのに」
と、私も思っていましたから・・・。
実は彼の知的障害というのは見せかけだけなのでは(?)
などと勘ぐってしまいたくなるくらいに、彼は普通より頭が良いようにも思えます。
だって、彼の最後の行動前にしたことがあまりにも立派なので・・・。


すごく引きこまれてしまう作品なのでした。
本作はビリー・ボブ・ソーントンが監督・脚本・主演を務めていて、
アカデミー主演男優賞のノミネートも受けているのです。
す、すごい・・・。
スリング・ブレイドというのはつまり、草刈り鎌のこと。
以前カールが使用した凶器です・・・。

スリング・ブレイド [DVD]
ビリー・ボブ・ソーントン,ルーカス・ブラック,ドワイト・ヨーカム
角川エンタテインメント


「スリング・ブレイド」
1996年/アメリカ/134分
監督:ビリー・ボブ・ソーントン
脚本:ビリー・ボブ・ソーントン
出演:ビリー・ボブ・ソーントン、ドワイト・ヨーカム、J.T.ウォルシュ、ジョン・リッター、ルーカス・ブラック
スリリング度★★★★☆
満足度★★★★☆

ゲド戦記 Ⅳ 帰還

2017年04月26日 | 本(SF・ファンタジー)
男と女の性と生

ゲド戦記 4 帰還 (ソフトカバー版)
清水 真砂子
岩波書店


* * * * * * * * * *

魔法の力を使い果たしたゲドは故郷ゴント島に戻り、テナーと再会する。
大火傷を負った少女も加えての共同生活が軌道にのりだした頃、
三人は領主の館をめぐる陰謀に巻き込まれてゆく。
太古の魔法を受け継ぐのは誰か。


* * * * * * * * * *

ゲド戦記の4巻目です。
前作で、魔法の力を使い果たしたゲドは、故郷ゴント島に帰ってきます。
そこでテナーと再会。
テナーはなんと、島の男と結婚し二人の子どもを作っていました。
今はすでに夫は亡くなり、二人の子どもも家を出て、ひとり暮らし。
というかすっかり貫禄も出た「おかみさん」になっています。
あのテナーがごく普通の男と結婚してごく普通の生活をしている
というのがまずは意外。
しかしテナーは、ごく普通の女の生を生きてみたかったと言っています。
確かに、それもわかる気がします。
そしてストーリーはその後からはじまるのです。
妻であり母であるという役割を終えて、
一人の「女」となったテナーが次にどう生きようとするのか。
そこにゲドが深く関わってくるわけですね。
本巻は、こんなふうな「男と女の性と生」ズバリ、これがテーマです。
ファンタジーといえば魔法で悪を倒す、
そんなストーリーを期待している方には実に肩透かしなストーリーかもしれません。
しかし私にはこれがものすごく面白かった!!


魔法をなくした魔法使い・・・。
作中でまじない師のコケばばは言います。

『男は硬い殻をかぶったクルミみたいな皮をかぶっている。
その中身は「男」。
そしてそれが魔法使いなら、その中身は「力」。
もし、その力が失われたのなら、「男」もなくて中身はからっぽ。』

つまり、魔法使いというのは、
通常「男の本能」を押し殺し、包み隠しているもののようです。
ないものとして、無視している。
ところがゲドはこの度魔法の力をすっかりなくして、
もはや魔法使いではありません。
だから本当に空っぽになってしまった。
男ですらなくなってしまった・・・。
だから本作に出てくるゲドはしばらくのあいだ腑抜けのようにぼーっとしているだけなんです。
また、コケばばは言う

「老いていても15の少年のようだ・・・」


一方テナーは、はぐれものの暴力を受けて焼き殺されかけた少女テルーを救い、養女にします。
この子を守り育てくことがまた新たなテナーの生きがいになっていくのですね。
そしてテルーは、ただの子どもではなかった・・・。


さて、腑抜けていたゲドは、ある時テナーとテルーに降りかかった危機を救います。
魔法をなくし、体も衰えてきていたゲドにはなかなか大変なことではありましたが・・・。
が、それをやり遂げたゲドが、「男」になるのです。
・・・その夜のこと。

「二人はその晩、暖炉の炉石の上で寝、
そこでテナーは最も知恵ある男でさえゲドに教えられなかった神秘をゲドに教えた。」


ヒュ~、ヒュ~!!
まさかこんなシーンにお目にかかろうとは・・・!


また、二人は男と女のことについて語り合ったりもします。

「女の力ってなんだろう? 
女はどんなときに女であるがゆえの力というのを持つんだろう?―――」
「真の力、真の自由と呼べるものは、物理的な力なんかじゃなくて、
信頼の中にこそ見出されるものかもしれない。」


このように考えるテナーこそが、
テルーとゲドとの第二の人生を「女の力」を持って歩き始めたように思えるのです。
まことに味わい深い一冊でした!

「ゲド戦記 Ⅳ 帰還」ル=グウィン 岩波書店
満足度★★★★★


バーニング・オーシャン

2017年04月25日 | 映画(は行)
利益優先、安全性を後回しにした結果



* * * * * * * * * *

2010年メキシコ湾沖で発生した実際の事故を描いています。



海上に浮かぶ石油掘削施設「ディープウォーター・ホライゾン」。
海底から逆流した天然ガスへの引火で大爆発が起こります。
電気技師マイク(マーク・ウォールバーグ)やその他の作業員たちが、
被害の拡大を食い止めるべく奔走、
しかし為すすべなく、決死の脱出を試みます。


とにかく緊張感が半端なく続きます。
そして爆発のシーンは爆風で人も吹き飛ぶ凄まじさ。
結局は11人が亡くなったというのも無理のないことかと思いました。



さて、このような火災と爆発のシーンもすごいのですが、
この事故の原因のところがまた、いや~な感じですごいのです。
この施設の計器類は、その時、明らかに異常を示していました。
でもこの施設の親会社職員は、工期の遅れを気にするばかりで、
まともに取り合おうとしません。
「真実を知るのが怖いから、確かめようとしないのだろう」
マイクはそんな風に言いますね。
確かに、そういう心理はあるなあ・・・。
体重計に乗るのがイヤだとか・・・。
でもこれは体重計の話ではありません。
120人もの作業員の命がかかっている安全性の問題だ。
それなのに、機械の異常だとか、わけの分からない理論を持ち出して
強引に「大丈夫」だということにしてしまう。
下請けの職員たちは強く出ることができません。
安全よりも利益を優先することの恐ろしさ・・・。
私には海上で燃え上がるディープウォーターが、
人の欲望の結果であるとしか思えませんでした。



そしてまた、このこととつい引き比べて考えてしまいますね、私たち日本人は。
地震大国の日本なら、もっと最悪の事態を想定しておくべきだった、原発の事故。
利益優先で、安全対策を後回しにした結果でした・・・。



事実を元にしたからこそ、ここには特別なドラマ性はありません。
でもこれで十分と私は思います。



エンドロールにはこの事故で亡くなった11人全員の名前と写真が映し出されました。
無名の誰かではなく、一人ひとり生きて家族のあった11人。
そのことをきちんと言っているのがとてもいい。



「バーニング・オーシャン」
2016年/アメリカ/107分
監督:ピーター・バーグ
出演:マーク・ウォールバーグ、カート・ラッセル、ジョン・マルコビッチ、ジーナ・ロドリゲス、ディラン・オブライエン、ケイト・ハドソン
爆発度★★★★★
満足度★★★★☆

ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期

2017年04月24日 | 映画(は行)
何を今更・・・と思いつつ、見ると面白い



* * * * * * * * * *

ブリジット・ジョーンズの日記、前作からは11年ぶりの第3弾です。
ブリジットは43歳。
なんで今さら・・・と思わなくはないのですが、
でも昨今、仕事に生きて結婚しない女性も増えているということを踏まえてみれば、
あれだけ「等身大」として女性に親しまれたブリジットのその後が、気になるのも当然か。



結局その後も独身のままのブリジット(レニー・ゼルウィガー)。
今はテレビの敏腕プロデューサーとして活躍しています。
元カレのマーク(コリン・ファース)は他の女性と結婚。
そしてもうひとりの元カレ・ダニエル(ヒュー・グラント)は飛行機事故で死去(?)
仕事は順調だけれどやはり寂しさを感じているブリジット。



その彼女が、新たにIT企業社長でイケメンのジャック(パトリック・デンプシー)と出会い、
ほんの出来心で関係を結んでしまいます。
そしてまたその数日後、マークと再会。
妻との離婚協議中だというマークともまた一夜を共に過ごしてしまい・・・。
そして、彼女は妊娠に気づくのです。
しかも、どちらが父親なのか分からない!!
真実を告げられた二人の男とブリジットは、
まずは無事な出産のために、奇妙な連携関係を結ぶのですが・・・。



ブリジットもマークも、重ねた年齢は隠しようもありませんが、
それでも見始めるとちょっとしたキュンキュン感が蘇ります。
人の心は10年の隙間なんかあっという間に飛び越えてしまうものなんですねえ。
それにしても今更、モテ期と言ったって、
都合よくモテすぎでしょうと思わなくもありませんが。
でも彼女の飾らないキュートな感じ、やっぱりいいなって思う。
40を超えてもやっぱりブリジットはブリジット。
ドジなところも変わらないけれど・・・。



今更・・・と思いつつ、面白く見てしまいました。

→ブリジット・ジョーンズの日記
→ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月


ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期 ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]
レニー・ゼルウィガー,コリン・ファース,パトリック・デンプシー,ジム・ブロードベント,ジェマ・ジョーンズ
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン


「ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期」
2016年/イギリス/123分
監督:シャロン・マグワイア
出演:レニー・ゼルウィガー、コリン・ファース、パトリック・デンプシー、エマ・トンプソン

胸キュン度★★★★☆
満足度★★★★☆

「暗い越流」若竹七海

2017年04月23日 | 本(ミステリ)
葉村晶も登場

暗い越流 (光文社文庫)
若竹 七海
光文社


* * * * * * * * * *

凶悪な死刑囚に届いたファンレター。
差出人は何者かを調べ始めた「私」だが、その女性は五年前に失踪していた!(表題作)
女探偵の葉村晶は、母親の遺骨を運んでほしいという奇妙な依頼を受ける。
悪い予感は当たり…。(「蝿男」)
先の読めない展開と思いがけない結末
―短編ミステリの精華を味わえる全五編を収録。
表題作で第66回日本推理作家協会賞短編部門受賞。

* * * * * * * * * *

若竹七海さんの短編集です。
あの、女探偵葉村晶登場の作品も入っているので、即購入。
でも、これはちょっとつまみ食い感覚。
後にシリーズ短編集が出るときには、ちょっと損した気分になってしまうかも・・・。


さて、表題作「暗い越流」
凶悪な死刑囚に届いたファンレター。
一体誰が何のために?ということで、
齋藤弁護士に依頼された「私」は、差出人のことを調べ始めるのですが・・・。
その女性は5年前に失踪していたのです・・・。
関わる人々のそれぞれの心の闇が浮かび上がる、
ちょっと怖い話。
この作品にはちょっとした仕掛けがありまして、
「齋藤弁護士」と「私」についてなんですが・・・。
最後に明かされるそれは、はじめから気づかない人なら気づかないかもしれない謎解き。
面白いです。
しかし、「私」自身もまた抱えている心の闇に、暗澹とするラストなのでした。


「蠅男」と「道楽者の金庫」が、葉村晶シリーズです。
とにかくいつも酷い目に遭うというお約束の葉村晶。
双方とも、冒頭にまずその受難シーンがあって、
その後に事の起こりから順番に語られるという構成。
なるほど、葉村晶シリーズはこういうスタイルに定着させるのかもしれません。
運が悪い・・・いえ、これだけの体験をしながら、
気絶やら入院やらだけで済んでいて、ちゃんと生きているというのは、
むしろ運がいいのではないかという気がしてきました。


「暗い越流」若竹七海 光文社文庫
満足度★★★★☆


雨の日は会えない、晴れた日は君を想う

2017年04月22日 | 映画(あ行)
破壊行動の裏にあるもの



* * * * * * * * * *

デイヴィス(ジェイク・ギレンホール)はウォール街のエリート銀行員。
富も地位も手にしています。
しかし高層タワーの上層部でただ数字と向き合うこの仕事には
何やら空虚を感じているのです。
そんなある日、交通事故で妻を亡くします。
ところがデイヴィスは少しも悲しくなく涙も出てきません。
そんな自分が不可解で、また、何やらわからない感情に駆られるように、
彼は身の回りのものを破壊し始めるのです。
冷蔵庫、パソコン、マイホーム・・・。



妻の突然の死を少しも悲しめない、というのは
少し前に見た「永い言い訳」と同じですね。
そちらは、悲しめない自分の気持ちを埋めるように、
主人公が他の家族の面倒を見始めるのでした。



でもこちらは、なんと意外にも破壊行動。
それは妻の父が
「心の修理も車の修理も同じ。
まず隅々まで点検して組み立て直す。」
といったのがきっかけではありました。
彼には悲しみよりもまず混乱があったのかもしれません。
始めは冷蔵庫を修理しようとして、バラバラにしてしまう。
それが次第にエスカレートしていくのです。
彼がどうしてこんな行動に出るのか、理屈では説明がつきません。
けれども、彼の内面の葛藤という意味では、
わからない上でも、何か共感を覚えてしまうのです。
ちょっぴり村上春樹的かなあ・・・と思ったりもする。



亡くなった妻の父親は、彼の職場のボスなのです。
つまりはコネ入社。
デイヴィスは自ら望み夢を持ってこの仕事についたわけではない。
そのため仕事については無味乾燥と思えていたし、
それとほぼ同列につながっている妻との結婚生活についても、
普段から虚しく思っていたように伺われます。
そして彼は、最後に妻の秘密を知ります。
彼女が書いた細やかな感情を表すメモ・・・言葉の断片を目にする。
そこではじめて彼は、妻も悩み傷つきながら「生きていた」ことに気づくのではないでしょうか。
そういう、たったひとつの「生」の喪失を改めて思う時・・・
はじめて悲しみが生まれてくる。



人の心の表層と奥底を描く秀逸な作品だと思います。



「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」
2015年/アメリカ/101分
監督:ジャン=マルク・バレ
出演:ジェイク・ギレンホール、ナオミ・ワッツ、クリス・クーパー、ジュダ・ルイス

破壊度★★★★★
満足度★★★★.5

世界一キライなあなたに

2017年04月21日 | 映画(さ行)
変えられない決意



* * * * * * * * * *

イギリスの田舎町。
ルーは、務めていたカフェ店が廃業したため、失業してしまいました。
そして半年限定という介護の仕事につくことにします。
その介護の相手は、バイクの事故で半身不随となり車椅子生活を送るウィル。
元は快活でスポーツ好きの青年実業家。
しかし今は、手も思うようには動かせないため、
実家で暗い顔をして引きこもったようにして暮らしているのです。
(ただし、実家はかなり裕福)
始めは、ルーを見下したようにして辛くあたるウィルでしたが、
ルーの飾らない人柄と明るさに触れるうちに、
次第に頑なな心を溶かしていきます。
しかし、この仕事が6ヶ月限定というのにはある理由がありました。
ウィルはある決意を胸に秘めていたのです・・・。



あんなにもさっそうとしてハンサムで、生きる喜びに満ちていた人が、
人の手を借りなければ何もできない状況に陥ってしまって思うこと・・・、
それにには十分納得できるような気がします。
以前見た作品で「安楽死」が合法とされていて向かった国は確か、ベルギーでしたが、
ここではスイスでしたね。
けっこうあるのか・・・。



なんとかウィルに生きる希望を見出してほしいと、
ルーはウィルをコンサートや南の島の旅に連れ出します。
けれども実は新たな体験で自分自身の可能性を見つけているのはルーの方。
ウィルはこれまでにあらゆるところに行って、あらゆることをしているはずですよね。
それでもウィルがルーの誘いに乗ったのは、ルーに広い世界を見せたかったから。
こんな田舎町を飛び出して、自分のやりたいことをするようにと、
そういう気持ちがあったからなのです。
そして彼女が喜ぶ顔を見るのか、今のウィルには一番の悦びだったから。



切ないです。
なんて良い奴なんでしょ、ウィル・・・。
そうした「良い奴」でいられるうちに人生の幕を引いてしまいたかった、
という気持ちにも説得力があります。
ラブストーリーではありますが、決してノーテンキではない。
私は好きです。



世界一キライなあなたに ブルーレイ&DVDセット(2枚組) [Blu-ray]
エミリア・クラーク,サム・クラフリン,ジャネット・マクティア,チャールズ・ダンス,スティーヴン・ピーコック
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント


「世界一キライなあなたに」
2016年/アメリカ/110分
監督:テア・シェアイック
出演:エミリア・クラーク、サム・フランクリン、ジャネット・マクティア、チャールズ・ダンス

切なさ★★★★☆
満足度★★★★☆

「ダンジョン飯4」九井諒子

2017年04月20日 | コミックス
ついに炎竜と対決

ダンジョン飯 4巻 (ビームコミックス)
九井 諒子
KADOKAWA


* * * * * * * * * *

ついに炎竜(レッドドラゴン)のいる地下5階に
たどり着いたライオス一向。
鉄をも弾く真っ赤な鱗と、骨まで灰にする炎を吐く強敵を相手に
ライオスは、命をかけた作戦を決行する……!
妹・ファリンは救えるのか? 
そして、竜の肉を喰うことはできるのか!?
腹ペコダンジョンファンタジー、激闘の第4巻!

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本巻、ライオスたちがたどり着いたのは、
この旅の目的である炎竜のいる地下5階。
炎竜に呑まれてしまったファリンを、なんとかまだ形のあるうちに取り出して、
再生の魔法をかけなければなりません。
ということで、この巻は今までよりかなりシリアスで、あまり遊びがないのがちょっと残念。
でもセンシは料理だけでなくメンタルでも、とても頼りになります。
最後の最後、ここ一番というときに、

「ライオス、もうわかっているだろう?
ここでは食うか食われるか。
必死にならなければ食われるのはこちらだ。
腹をくくれ!」


檄を飛ばすセンシの言葉に、皆の気持ちが引き締まりひとつになる。
そして、ライオスの最後の作戦とは・・・!!
う~む。
身を切らせて骨を断つ・・・。
怖わ・・・!!
そしてまた、禁断の黒魔術も登場して・・・
旅の目的は達せられるのでした・・・。
とすれば、この話はこれで最終回?
と思ったのですが、まだ続くみたいです。
乞うご期待。

「ダンジョン飯4」九井諒子 ビームコミックス
満足度★★★★☆


グレートウォール

2017年04月19日 | 映画(か行)
城壁の向こうから攻めてくる敵とは



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金と名誉のため、当時まだヨーロッパにはなかった火薬を求めて
世界を旅している傭兵ウィリアム(マット・デイモン)。
始めはチームで大勢の仲間がいたのですが、途中馬賊などに襲われ、
今では友のトバール(ペドロ・パスカル)と二人だけになってしまっています。
そして彼らがたどり着いたのは万里の長城。
巨大かつ長大な城壁では、今にも何ものかが攻めてくるような厳戒態勢を敷いています。
なんと60年に一度、饕餮(とうてつ)という怪物が群れをなして攻めてくるという・・・。
つまりこの長城はこの敵を防ぐためのものであったということで、
なかなか興味深く拝見しました。



この爬虫類めいた怪物は、鋭い牙で人間など簡単に食い殺してしまいます。
しかもあの無数の群れにはゾッとさせられます。
巨大な壁で敵を防ぐといえば、「進撃の巨人」にも似ています。
そして運命的に押し寄せてくる敵と戦うための軍が配備されているところも。
ウィリアムはそんな禁軍のなかの美しい女司令官リン・メイ(ジン・ティエン)に心惹かれ、
軍のために力を貸すことになるのです。



私は今回3Dでこれを見ましたが、
壮大な城壁や、禁軍の編成、飛び交う火の玉・・・
本来殺伐とするシーンですが、とても美しく、見入ってしまいました。
バンジージャンプのように、女戦士が城壁の上から下の怪物めがけて落下しつつ攻撃するというシーンは、
恐ろしい以外の何ものでもありません。
あんな立っているだけでも恐ろしい場所・・・、
3Dで見るには刺激が強すぎです・・・!



全体にはシンプルに敵と戦う物語です。
そこにドラマ性があるかと言われれば、さほど大きなうねりはない。
ちょっとしたウィリアムの恋心、トバールとの友情の軋轢、
若い兵士の勇気ある行動があるくらい。
けれど、そこはその程度でよかったと思います。
どうせそのへんは付け足しなのがお約束。
あっさりしているほうが、むしろ胃にもたれなくて良いのです。
そしてストレートにスペクタクルな対決シーンに力を注ぐ。
どんな凄まじい戦闘シーンも、たいくつに感じてしまうことの多い私が、
その辺を飽きずに見ていたというのが、
まあ、うまくできていた証とも言えるかもしれません。



饕餮というのは・・・
中国神話の怪物。
体は牛か羊で、曲がった角、虎の牙、人の爪、人の顔などを持つ。
饕餮の「饕」は財産を貪る、「餮」は食物を貪るの意である。
何でも食べる猛獣、というイメージから転じて、魔を喰らう、という考えが生まれ、
後代には魔除けの意味を持つようになった。

(Wikipediaより)

というのは私、知らなかったのですが、
「トウテツ」でちゃんと漢字変換できてしまうのがすごい・・・
などと感心したりして・・・。

「グレートウォール」
2017年/中国・アメリカ/103分
監督:チャン・イーモウ
出演:マット・デイモン、ジン・ティエン、ペドロ・パスカル、ウィレム・デフォー、アンディ・ラウ

ビジュアルの美しさ★★★★★
満足度★★★★☆

堕天使のパスポート

2017年04月18日 | 映画(た行)
不法移民医師のサスペンス



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15年ほども前の作品ですが、
さて、どうしてこれを見ようと思ったのだったっけ?
としばし考えていたのですが、
つまり、アカデミー賞つながりで興味を持ったのでした。
2004年のアカデミー賞脚本賞にノミネートされた作品。
なるほど~、見て納得しました。
面白かったのです、さすがに。


トルコからロンドンに来た移民シェナイ(オドレイ・トトゥ)は、
いとこの居るニューヨークへ渡ることを夢見ながら、
ホテルのメイドとして働いています。
彼女の部屋はオクウェという男性と時差でルームシェアしています。
そのオクウェ(キウェテル・イジョフォー)は、ナイジェリアからの不法移民で
昼はタクシーの運転手、夜はホテルのフロントとして、
寝る間もなく忙しく働いています。
しかし実は彼は優秀な医師なのです。
そのような彼がなぜ不法移民となり、身を隠すようにしているのか、
そこが一つの謎。
オクウェの存在を嗅ぎつけた移民局職員が、
彼を捉えようと躍起になって彼を探し回ります。


そんな中で、オクウェの勤めるホテルで、
臓器売買のための手術が行われていることがわかります。
臓器の売り手は主に不法移民の人々。
腎臓などを売って、幾ばくかのお金と偽造したパスポートを手に入れることができるのです。
このことに加担しているホテルの支配人は、
オクウェが腕のいい医師であることを知り、彼に臓器摘出の手術をするようにと強要するのです。
そうすれば自身だけでなくシェナイの新しいパスポートが手に入る。
しかし従わなければ、困ったことになると脅して・・・。


この題材もいいですし、
ロンドンが舞台でありながら登場するのは実に雑多な国の人々というのも興味深い。
トルコ、ナイジェリアの他に中国人やラテン系・・・
そして、最後にやむなくオクウェが支配人に屈するのかと思ったら、
思わぬどんでん返し!!


まだまだ未見の良作はあるのですね―。

堕天使のパスポート [DVD]
スティーヴン・ナイト
ショウゲート


「堕天使のパスポート」
2002年/イギリス/97分
監督:スティーブン・フリアーズ
出演:オドレイ・トトゥ、キウェテル・イジョフォー、セルジ・ロペス、ソフィー・オコネドー、ベネディクト・ウォン
社会問題度★★★★☆
どんでん返し度★★★★☆
満足度★★★★☆

ゲド戦記 Ⅲ さいはての島へ

2017年04月17日 | 本(SF・ファンタジー)
老と若。生と死。

さいはての島へ―ゲド戦記〈3〉 (岩波少年文庫)
ゲイル・ギャラティ,Ursula K. Le Guin,清水 真砂子
岩波書店


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ゲドのもとに、ある国の王子が知らせをもってきた。
魔法の力が衰え、人々は無気力になり、死の訪れを待っているようだという。
いったい何者のしわざか。
ゲドと王子は敵を求めて旅立つが、その正体はわからない。
ゲドは覚悟を決める。

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本作のテーマ、ズバリ「老―若」、そして「生―死」。


ゲドは魔法使いの中の頂点である大賢人となっています。
そこへ王子アレンが世界の変容を知らせにやって来る。
二人はその原因を探るため長い旅に出ます。


ゲドが「老」、アレンが「若」ということですね。
ゲドは言います。
これは私の旅ではない、あなたの旅だ。
ゲドは何か「する」ことをアレンに委ねているのです。
自分はそれに付き従い見守り、補助する立場だと。


作中では「ある」人生と、「する」人生ということに触れられています。
少し長くなりますが、引用。

「よくよく考えるんだぞ、アレン、大きな選択を迫られた時には。
まだ、若かった頃、わしは、ある人生とする人生のどちらかを選ばなくてはならなくなった。
わしはマスがハエに飛びつくように、ぱっと後者に飛びついた。
だが、わしらは何をしても、その行為のいずれからも自由にはなりえないし、
その行為の結果からも自由にはなりえないものだ。
一つの行為がつぎの行為を生み、それが、またつぎを生む。
そうなると、わしらは、ごくたまにしか今みたいな時間が持てなくなる。
一つの行動と次の行動の間のすきまのような、
することをやめて、ただ、あるという、それだけでいられる時間、
あるいは、自分とは結局のところ、何者なのだろうと考える時間をね。」



口数少ないゲドが、旅の合間にポツリと話す言葉には深みがありますねえ・・・。
「する」ことが若者、「ある」ことが老人。
だけれども、若くても時にはじっとして、自分の心と向き合うことも必要なのだ、と。


そして彼らはついにはこの世の果て、
「生と死」のはざまの地まで行くことになりますが・・・。
ここで、ゲドは魔法の力を使い果たしてしまうのです。


で、実は私はゲドのその後を描く、このあとの巻「帰還」のほうが面白く感じたのですが、
それはまた、続くということで・・・。


「ゲド戦記 Ⅲ さいはての島へ」 ル=グウィン 岩波書店
満足度★★★.5


夜は短し歩けよ乙女

2017年04月16日 | 映画(や行)
森見ワールドの体現



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私がはじめて森見登美彦さんを読んで、
すっかりファンになってしまった本作。
しかも星野源さんが“先輩” の声ということで、
やはりこれは見ない訳にはいかないでしょう・・・ということで。


同じクラブの後輩“黒髪の乙女”に恋心を抱く“先輩”は、
「なるべく彼女の目に留まる」
すなわち「ナカメ」作戦を展開します。
乙女の姿を追い求め、夜の京都を歩き回ります。
春の先斗町、夏の古本市、秋の学園祭・・・
そして謎の風邪が蔓延する冬。
外堀を埋めるばかりの“先輩”の恋の行方はいかに・・・?



ちょっと滑稽で幻想的、そして切なくもある森見ワールドは、アニメにピッタリ。
満を持して、という感じのアニメ化でした。


この“黒髪の乙女”が可愛らしいですよね。
ちょっと天然、かなりの酒豪、好奇心旺盛で行動力に富んでいる。
あのお酒の飲みっぷりのなんと頼もしいこと!!
“黒髪の乙女”という呼び名の印象からは遠いですが、
女性からみてもとても魅力的。
一方“先輩”は、かなり自己肯定感が低い。
ナカメ作戦は順調だけれど、そこから先に進めない、草食男子。
と、設定はどこにでもありそうなのですが、
彼らを取り巻く世界観が和風ファンタジック、
そしてユニークなキャラクターたち。
全く退屈しません。



ただし、このアニメよりもう少しほの暗さがでていればよかったかなあ・・・
という気もします。
むか~し、「うる星やつら」のTVアニメに時々あったのですよ。
幻想的で不思議でほの暗く、
いつしかはまり込んで抜け出せなくなりそうな異世界への割れ目が垣間見えるような
・・・そんな雰囲気が。
あの感じが出せたら良かった。



でもまあ、十分楽しめました。
森見ファンなら必見。
そして、この“先輩”に、星野源さんがまたピッタリ!! 
ラストの自分会議のところは圧巻でした。
ナイスキャスティング!

→原作「夜は短し歩けよ乙女」

「夜は短し歩けよ乙女」
2017年/日本/93分
監督:湯浅政明
出演(声):星野源、花澤香菜、神谷浩史、秋山竜次、中井和哉
原作再現度★★★★★
満足度★★★★☆