映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

見えない目撃者

2020年05月30日 | 映画(ま行)

殺人鬼と対峙する盲目の女性

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韓国映画「ブラインド」のリメイク。

警察学校の卒業式を終えたなつめ(吉岡里帆)。
ところがその夜、過失による交通事故で、弟を亡くし、自身も失明してしまいます。
警察官への道をあきらめた3年後。
未だになつめは弟の死を乗り超えられずにいます。
そんなある夜、なつめは車とスケボーに乗った人物の接触事故に遭遇します。
車に近寄ってみると、車中から助けを求める少女の声が。
なつめは誘拐事件の可能性を思い、警察に話をしますが、
盲目で声を聞いただけというなつめの話を、まともに取り合ってもらえません。
なつめは事故現場で車に接触したスケボー少年の元を訪ね、少女の行方を捜す協力を求めます。
やがてこの少女誘拐は、少女残虐殺人事件の一角であることがわかってきます・・・。

さすが韓国作品が元ということで、かなりの残虐、血みどろ・・・。
私、目をそらすようなシーンはホントに目をそらしていますから・・・。
それでも、盲目の主人公が持ち前の推理力・盲目故の敏感な五感を働かせ
事件に立ち向かっていこうとするさまはとても魅力的です。
初めは事なかれのスケボーくん・春馬(高杉真宙)も、次第に彼女に引き込まれて行きますね。



盲導犬のパルがまたいい!! 
盲導犬は決して人に吠えかかったり噛んだりしないように訓練されています。
けれど終盤、なつめが犯人に襲いかかられる寸前、パルは猛然と犯人に襲いかかるのです。
実際にそんなことがあるかどうかはわかりませんが、いいシーンではありました。
そのため、パルは犯人に刺されてしまうのですが、なんとか命は無事だったようです。
ほ~っ。
盲導犬一頭一人前に訓練するには凄い労力とお金がかかりますからねえ・・・、
って、そういう問題じゃないですけど。



さて、盲目の女性が室内で殺人鬼と対峙。
このときの定番はなんといっても明かりを消してしまうことですよね。
きっとそうなる・・・!と思っていたらやはり、でした。
なつめは電気をショートさせて明かりを消してしまいます。
ところが、犯人はすぐに懐中電灯を取り出した!! 
それはない。
意味ないじゃん。
つまり定石を外した作りになってました・・・。
なるほど。
ともあれ、スリルたっぷり。
意外な犯人像、楽しめます。

<WOWOW視聴にて>
「見えない目撃者」
2019年/日本/128分
監督:森淳一
出演:吉岡里帆、高杉真宙、大倉孝二、浅香航大、酒向芳、田口トモロヲ

サスペンス度★★★★☆
猟奇殺人度★★★★★
満足度★★★.5


夜空はいつでも最高密度の青色だ

2020年05月29日 | 映画(や行)

孤独な魂がふれあうとき

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最果タヒさんの同名詩集をイメージして、石井裕也監督が映画化したものです。
なるほど、作中詩的なセリフが多く、この題名もそんな中の一つです。

都会の片隅。
看護師の美香(石橋静河)は、夜はガールズバーでバイトをしています。
何か満たされず、言葉にできない不安や孤独を感じているように見える。
そんな彼女が、慎二(池松壮亮)と出会います。
慎二は、工事現場で日雇いの仕事をしています。
居心地の悪い思いを抱えていた二人が出会い、心を通わせていく・・・。



二人は「死」の近くにいます。
美香は看護師なので、病院で亡くなる人を多く見ているし、子どもの頃に母を亡くしている。
慎二は、職場の同僚智之(松田龍平)が不意に亡くなってしまったのを見ています。
特別親しかったわけではないけれど、何かむなしい。
自分自身の存在すらも不意に消えてしまうのかもしれない・・・
そうした心許なさ、不安・・・。

都会の喧噪や、夜のネオンサイン、月の光・・・。
時にはアニメーションも交えて、大都会が詩的なイメージで映し出されていく。

意外なことにこの二人の、濃密なラブシーンがないのです。
でも印象的だったのは、美香が慎二の背負うリュックに手を触れるシーン。
そして、慎二が美香の頭に手を置くシーン。
おずおずと・・・。
それだから、なぜか青くみずみずしい気配すらあるという、
不思議な感覚のある作品です。
好きです。


<Amazonプライムビデオにて>
「夜空はいつでも最高密度の青色だ」
2017年/日本/108分
監督・脚本:石井裕也
出演:石橋静河、池松壮亮、松田龍平、田中哲司、三浦貴大

都会の片隅度★★★★★
満足度★★★★☆

 


「昨日がなければ明日もない」宮部みゆき

2020年05月28日 | 本(ミステリ)

困った女たちがいっぱい・・・

 

 

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杉村三郎vs.“ちょっと困った”女たち。
自殺未遂をし消息を絶った主婦、訳ありの家庭の訳ありの新婦、自己中なシングルマザー。
『希望荘』以来2年ぶりの杉村シリーズ第5弾!

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宮部みゆきさんの杉村三郎シリーズ。
図書館予約ではいつになったら読めるかわからない、と思っていましたが、友人が貸してくれました
図書館が休業中・・・と愚痴っていたら、友人たちから本が集まりまして、感謝・感謝です!!

 

さて本巻は、3篇の短編が収められていまして、
どれも杉村三郎vs“ちょっと困った女たち”という構図。

自殺未遂をした後、消息を絶ってしまった主婦。

ホテルの同フロアで2組の結婚式がドタキャン騒ぎ!!

そして表題作「昨日がなければ明日もない」には、
一般常識など全く通用しないモンスター、自己中シングルマザーが登場します。
このシリーズには時々こうした人物が登場します。
けれど、穏やかな杉村氏は極力「良識」を持って対処しようとしますね。
冷静で、控えめ。
好きだけどなあ・・・。
前巻の時にも書いたかもしれませんが、
このシリーズ、彼が離婚してバツイチになってからの方が面白い・・・。


それでこのストーリー。
このモンスターシングルマザー“美姫”の、自分が生んだのち手放した息子が交通事故に遭うのです。
それはどこからどう見ても運転していた老女の運転ミスによるものなのですが、
彼女は「殺人だ!」と騒ぎ立てる。
この陰謀を暴いてほしいというのが杉村への依頼でした。
どう見ても、彼女の単なる思い込み。
杉村は整然と事故を調査して、なんの疑いもない単なる事故と証明するために
依頼を引き受けるのですね。
そうして浮かび上がるのは美姫の異常性ばかりで、周囲の人々は極めて良識的で、調査にも協力的。
美姫の息子のことを心配する温かい人たちばかり。
・・・それで私は思うのです。
このストーリーは一体どこへ向かおうとしているのだろうか・・・?
ところが、驚きの展開!! 
なんとも皮肉な結果に驚かされます。
やっぱり、さすがの宮部みゆきさんでした!!

「昨日がなければ明日もない」宮部みゆき 文藝春秋
満足度★★★★☆


風とライオン

2020年05月27日 | 映画(か行)

指導者としての勇気と孤独を描くが・・・

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これはもう、古典と言うべき作品ではありますが、見たことがなかったなあ・・・と思いまして。


1904年、仏領モロッコのタンジール。
アメリカ人女性イーデン(キャンディス・バーゲン)とその2人の子どもたちが、
リフ族の首長ライズリー(ショーン・コネリー)によって誘拐されます。
時の米大統領ルーズベルトは政治的思惑で
母子救済のため大西洋艦隊をモロッコに派遣します。
そんな中、ライズリーとイーデンは立場を超え、次第に心を通わせていきますが・・・。

 

本作はライズリーとルーズベルト双方を交互に映し出していきます。
ライズリーがライオン、ルーズベルトを風にたとえ、
互いに指導者としての勇気と孤独を持つ希有の存在である、と、
そうしたことがテーマになっています。
・・・が、今にしてみると少なくともアメリカ側の部分はできすぎな気がしますね。
欧州の植民地政策華やかな時代。
アメリカにしても後れを取ってはならじと思っている。
きれい事で納めようとしすぎです。
アラブをまだ「異国ロマン」と思っていられる時代でもある訳ですね。
今ならこういう描き方はしないだろうなあ・・・。

でも人質となったイーデンがライズリーに次第に心を寄せていくあたりは、
今で言うストックホルム症候群というヤツで、
さほど不自然ではなく、納得できてしまう。
ライズリーは良き指導者かもしれないけれど、その振る舞いはやはり残虐なところもあります。
そんな男を、憧れ、ヒーローとみるようになっていくイーデンの息子。
いかにも少年らしい思いで、わかりますが、
この少年の将来はどんなだろうかと、私はいささか心配になってしまうのでした・・・。
ちょうど彼が長じたときに第一次世界大戦になりますよね・・・。
きっと早まって戦争に行きそう・・・。

<Amazonプライムビデオにて>
「風とライオン」
1975年/アメリカ/119分
監督:ジョン・シリアス
出演:ショーン・コネリー、キャンディス・バーゲン、
   ジョン・ヒューストン、ジェフリー・ルイス、ブライアン・キース

歴史発掘度★★★★☆
満足度★★.5

 


俺たちは天使じゃない

2020年05月26日 | 映画(あ行)

脱獄囚が、神父に!?

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ロバート・デニーロとショーン・ペンの共演ということで興味をひかれました。

1935年、死刑囚ボビーの脱獄に巻き込まれ、
意図せず脱獄することになってしまったネッド(ロバート・デニーロ)とジム(ショーン・ペン)。
ボビーとはすぐに離ればなれになり、二人はカナダとの国境沿いにある小さな町に逃げ込みます。
国境には大きな河が流れており、ここにかかっている橋を渡ればカナダ。
アメリカの警察はそこまでは追ってこないでしょう。
二人は、この町を訪れることになっていた神父と間違えられたのをいいことに、
神父になりすまし、国境を越えるチャンスをうかがいます。
しかしいよいよ、脱獄犯を捜しに刑務所長らの一団が町に乗り込んできます。
二人は町の祭りに乗じて橋を渡ろうとしますが・・・。

ネッドはとにかく逃げ切りたいのですが、
この町のシングルマザー、モリー(デミ・ムーア)のことが気にかかります。
ジムは元々信仰心など持ち合わせていないのですが、
周囲から求められて神父としての話をしなければならなかったりするうちに、
意外にここの暮らしは自分に合っていると思うようになるのです。


二人の考えがそれぞれというのがいいですね。
この町には修道院があって、涙を流すというマリア像があるのです。
そんな町らしく、ある「奇跡」が起こるというのもしゃれています。
二人がどんな罪を犯して刑務所暮らしだったのかは語られていませんでしたが、
まあ、凶悪犯ではなさそう。
ちょうどこの頃初めて「電気椅子」が死刑に用いられるようなったようなのです。
ボビーは初めてその電気椅子による死刑になるところだったのです。
そういう時代背景と、いかにものどかな町の様子が興味深い。
で、結局来るはずだった本物の2人の神父はどうなったのかも、描かれていなかったなあ・・・。
どうしたのでしょう???

<Amazonプライムビデオにて>
「俺たちは天使じゃない」
1989年/アメリカ/101分
監督:ニール・ジョーダン
エグゼクティブ・プロデューサー:ロバート・デニーロ
出演:ロバート・デニーロ、ショーン・ペン、デミ・ムーア、ホイト・アクストン、ブルーノ・カービイ

神の奇跡度★★★★★
満足度★★★★☆

 


インスタントファミリー 本当の家族を見つけました

2020年05月24日 | 映画(あ行)

家族になろうよ

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子育て未経験で里子を迎えることを決めた、ワーグナー夫妻。
一人だけ引き取るつもりで、候補の子どもたちと面会するのですが、
なりゆきで3兄弟の親になることになってしまいます。
長女リジーは反抗期。
いつもおどおどしている長男フアン。
わがままな末娘リタ。
うるさいし、散らかすし、言うことは聞かない、しつこい・・・。
悪戦苦闘し、自信も喪失していく夫妻。
そんな時、服役中の3人の実母が出所することになり・・・。

小学生の二人はそれでも次第に二人に馴染んできます。
けれどやっかいなのは、反抗期のリジー。
それは、実の親だって何考えているのかわからなくて、投げ出したくなりますよね。
施設でも、反抗期の中高生たちは、なかなか里親の引き取り手がないのです。


はじめに養子を迎えようと二人が思ったのは、
いろいろな事情で親と暮らせない大勢の子どもたちを救いたい、という思いでした。
それは多少、偽善的な匂いもします。
でも、迷いながらも二人は決断した。
リジーは、そういう「偽善的」な部分も見えてしまうから、
表面上「いい子」でいることがあっても、本心から気を許すことがないのでしょう。
ではありながら・・・、何度もぶつかりあって互いに傷つき合ううちに、
距離が縮まっていって、そしてそれぞれに成長していくもののようです。


実話を元にしているそうで、まさに、そうだろうなあ・・・と納得いく作品でした。
私はここのおばあちゃん(夫の母親)が好きでした。
この夫婦は子育てをしたことがないのに比べて、さすが子育て経験者はちがう。
すぐに子どもたちと仲良しになってしまいます。
ラテン系だろうが、犯罪者の子どもだろうが、
血がつながっていなかろうが、理屈ではなく子どもが好きという感じ、いいですよね。

さて、こうした養子縁組を行う際に、
まず、子どもを受け入れるための親の講習会があるのです。
そして里親として子どもたちと暮らすようになっても「親の会」があって、
うまくいっていること、いないこと等の交流をします。
悩みを打ち明けながら解決法を探す。
そうしていよいよ里親と子どもたちの気持ちが一致すると、正式に養子縁組が行われるのです。
なかなかしっかりしたシステムなんですね。
日本ではどうなのでしょう?


心に響くステキな作品でしたが、日本では未公開だったようです。
もったいない!!

「インスタントファミリー 本当の家族を見つけました」
2018年/アメリカ/119分
監督:ショーン・アンドリュース
出演:マーク・ウォールバーグ、ローズ・バーン、イザベラ・モナー、
   マーゴ・マーティンデイル、オクタビア・スペンサー

家族の絆度★★★★★
親になるための奮闘度★★★★☆
満足度★★★★☆


「モリアーティ」アンソニー・ホロヴィッツ

2020年05月23日 | 本(ミステリ)

ホームズもモリアーティも登場しない・・・?

 

 

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シャーロック・ホームズは滝壷に消え、巨悪が動き出す。
モリアーティに接近する、アメリカ裏社会の支配者を追え。
驚愕のどんでん返しが読者を待ち受ける、スリル満載のミステリ大作!
ワトスンによる短編「三つのヴィクトリア女王像」収録!

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アンソニー・ホロヴィッツによる、シャーロック・ホームズ譚。


さてしかし、本作はシャーロック・ホームズとモリアーティが滝壺に消えたという、
その直後から始まっています。
それでそのことを確認に来た、スコットランド・ヤード警部アセルニー・ジョーンズと、
アメリカのピンカートン探偵社調査員フレデリック・チェイスが主人公。
英国の裏社会を牛耳っていたモリアーティ亡き後、
その後釜に座ろうとするアメリカ裏社会支配者の企みを暴こうと奮闘します。


あらら、肝心のホームズもモリアーティも話の中には出てくるけれど、本人は登場しない。
なんだか期待外れといいますか・・・、
面白くなくはないけれどなんだかなあ、と思いながら終盤まで読んでいたのですが・・・。
そこがやはりアンソニー・ホロヴィッツ、最後の最後に驚かされます。
驚きの真相!!!
ああ、だからやめられない。


作中、スコットランド・ヤードの皆さんが大勢登場します。
本家の「シャーロック・ホームズ」の物語の中では、間抜けな捜査と犯人逮捕をして、
無能ぶりをワトスン医師にさんざんコケにされた皆さん・・・。
ここに登場するアセルニー・ジョーンズ警部もそのうちの一人です。
しかし彼はそのことをバネとして、シャーロック・ホームズを心の師として仰ぐようになり、
シャーロック・ホームズ的推理能力を身につけているのです。
なかなか鋭いところを見せる彼を、アメリカの探偵フレデリックも一目おくようになる。


さてさて、ほとんど罠と知りつつも、敵の本拠地に乗り込み、絶体絶命のピンチに立たされるふたり。
こんなスリルたっぷりのシーンもあって、ホームズが登場しなくても退屈はしません。


「モリアーティ」アンソニー・ホロヴィッツ 角川文庫
満足度★★★★☆

 


摩天楼(ニューヨーク)はバラ色に

2020年05月22日 | 映画(な行)

ビジネス界のサクセスストーリー

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またまた、マイケル・J・フォックス。
本作は好きで何回か見ているのですが、この際ついでにもう一回。


田舎からニューヨークの実業界での成功を夢見てやってきた青年・ブラントリー(マイケル・J・フォックス)。
ところが就職が決まっていた会社は倒産。
やむなく巨大企業の社長である叔父(本当は遠い親戚)を頼り、
文書集配係として雇ってもらいます。
しがない現業職ではありますが、社内の情報を見ようと思えば見てしまえることを利用して、
彼は社内の内情に詳しくなっていくのです。
そして、空いた重役室を勝手に使用して、重役になりすましてしまう。
スーツと作業衣をエレベーターの中で着替える悪戦苦闘の日々が始まります。

それだけでも十分面白いのですが、
社長夫人(つまり叔母)や重役に名を連ねる美女クリスティとの恋模様のドタバタ、
一人二役のややこしさも相まって、とても楽しいコメディ作品になっています。

このような会社内で、強烈にあるヒエラルヒー。
あくまでも主役は「スーツ」と呼ばれる人々で、
作業服の現業職とは挨拶を交わすこともありません。
まるで透明人間のように無視される存在。
普通はいくら頑張ってもこの会社の中で「スーツ」に出世することはあり得ないのですが・・・。
そこはもう、マイケル持ち前のほとんど無理矢理のガッツでやり遂げてしまう。
いかにもアメリカ的な明るい青年のイメージですね。
今はなかなか、こんな風に単純なヒーローはいないかもしれない。

クリスティの髪型とか強烈な肩パッドのスーツはいかにも当時を彷彿とさせます。
この時代のファッションは独特ですね。
ニューヨークの、ワールドトレードセンターのある街並みが何かもの悲しい・・・。

<Amazonプライムビデオにて>
「摩天楼(ニューヨーク)はバラ色に」
1986年/アメリカ/111分
監督:ハーバート・ロス
出演:マイケル・J・フォックス、ヘレン・スレイター、
   リチャード・ジョーダン、マーガレット・ホイットン

時代表出度★★★★☆
マイケル・J・フォックスの魅力度★★★★★
満足度★★★.5

 

 


パンク侍、斬られて候

2020年05月21日 | 映画(は行)

まさにロックでパンクな時代劇・・・!

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超人的剣客にして適当なプータロー侍・掛十乃進(綾野剛)。
彼が「ハラフリ党」という怪しげな宗教団体の教徒たちが狂乱騒動を起こし、
近隣の藩が壊滅状態になっている、などという適当なことを言ったために、
藩を巻き込む大騒動がおこります。

元々が怪しげな話のところを、針小棒大に言って自分の立場を押し上げる家老。
しかしその根拠が全くなかったことを知ると、
あえて嘘を本当にすり替えてしまおうとする・・・、
いかにもどこかの政治家がやっていそうなことですよね。
藩主(東出昌大)は正論しか言わないヤツで、危機管理には全く役立たず。
緊張すると気絶してしまうという侍(染谷将太)やら、
怪しすぎる宗教団体、果てには猿軍団までも登場して、
やんややんやの大騒ぎ。



時代劇らしからぬ現代語のポンポンと弾むような会話。
ポップな色使い。
そして痛烈な社会風刺。
まさに、ロックでパンク。

そして又なんとも実力派の豪華メンバー。
こんな一見馬鹿馬鹿しいともいえるストーリーながら、
これぞ自分の力の見せ所とばかりの熱演には感動してしまいます。
面白いです。
綾野剛さんのお尻・・・、眼福、眼福。

<WOWOW視聴にて>
「パンク侍、斬られて候」
2018年/日本/131分
監督:石井岳龍
原作:町田康
脚本:宮藤官九郎
出演:綾野剛、北川景子、東出昌大、染谷将太、浅野忠信、
   永瀬正敏、村上淳、國村隼、豊川悦司

パンク度★★★★★
満足度★★★★☆


ドク・ハリウッド

2020年05月20日 | 映画(た行)

生きるべき場所は都会ばかりではない

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マイケル・J・フォックスがまた見たくて、
バック・トゥ・ザ・フューチャーに引き続きこれを見ました。
私は見たことはなくて、初めてです。
ドク・ハリウッドというので、ハリウッドが舞台かと思ったら、ちがいました。
最後の最後にほんの少しハリウッドが出てきますけれど。

 

ワシントンDCの病院で救急救命を担当していた外科医ベン(マイケル・J・フォックス)は、
上昇志向がつよく、格好をつけたがるので周囲からは嫌われていました。
そんな彼が、さらなるいい生活を求めてハリウッド、ビバリーヒルズの美容整形病院に勤めるために、
愛車ポルシェでカリフォルニアへ向かいます。
ところが途中の小さな田舎町で自動車事故を起こしてしまいます。
罰として、32時間の医療奉仕をしなければならないことに。
この町のたった一つの診療所で、何十年と診療を続けていた老医師の元、
嫌々ながらも仕事をするベン。
しかし、意外と腕は確かなのです。
老医師の引退も近いと思われる中、この町の医者になるように請われるベン。
そんなつもりはさらさらなかったけれど、診療所の美人助手ルーと出会い、
心がゆれ動いていきます・・・。

 

ベンははじめ都会風を吹かせる鼻持ちならない嫌なヤツ。
けれど、この町はまさしく平和で犯罪もなく、みな朴訥でいい人たちなのです。
まあ、そこが出来過ぎではあるのですが。
それにしても居心地のよいぬくもりがある。
こんなところで皆に必要とされながら、愛する人と暮らすのも悪くないな・・・
と気持ちが変わっていくわけです。


彼にとって、大きな価値観の変化。
こんな風景を見た後では、確かにハリウッドの美容整形外科はあまりも商業的で殺伐としています。
非常に類型的な話ではありますが、そこがほら、マイケル・J・フォックスなので、
楽しんでいるうちに納得させられてしまうのです。
面白かった~、ってね。

<Amazonプライムビデオにて>
「ドク・ハリウッド」
1991年/アメリカ
監督:マイケル・ケイトン=ジョーンズ
出演:マイケル・J・フォックス、ジュリー・ワーナー、ブリジット・フォンダ、ウディ・ハレルソン

都会の殺伐度★★★★☆
田舎の純朴度★★★★☆
マイケル・J・フォックスの魅力度★★★★★
満足度★★★★☆


「ムゲンのi 上・下」 知念実希人

2020年05月18日 | 本(その他)

ファンタジーでミステリで大どんでん返し!

 

 

 

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展開も結末も予測不可能、文句なしの超大作!! 
眠り続ける謎の病気「イレス」の患者を識名愛衣は同時に三人も担当していた。
治療法に悩む愛衣が霊媒師のユタである祖母に相談すると、
「患者の夢幻の世界で魂の救済<マブイグミ>をすれば目覚める」という。
愛衣は助言どおりに夢幻の世界に飛び込み、魂の分身<うさぎ猫のククル>と一緒に
三人のマブイグミをすることに――。
(上)


次々と魂の救済<マブイグミ>に成功する愛衣だったが、
イレス患者が最近都内西部で起きている連続殺人事件、
さらには23年前の少年Xによる通り魔事件と繋がっていることがわかる。
果たして四人目のイレス患者の正体とは!? 
すべての謎が解けた時に世界は一変し、感動の結末が待ち受ける! 
『崩れる脳を抱きしめて』『ひとつむぎの手』二年連続本屋大賞ノミネートの著者最新作!
(下)

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私には初めての作家さんです。
医療もの?・・・と思って読み進むと、なんとファンタジーでした。
・・・が、さらに読み進むと私にはなじみ深いミステリ。
そしてラストには大どんでん返し、というアクロバティックな作品です。


でもちょっと私にはファンタジー部分が苦手で、入り込みにくかった・・・。
どうも魔法とかスピリチュアルのものは、
作者のご都合でどうにでもなってしまうというところが、私には納得いかないのです。
それと本作ではその「夢幻」世界のルールをすべて「ククル」が口で説明しているのが鬱陶しく、
主人公・愛衣の感情についても著者の説明過多のようにも思いました。

ファンの方ごめんなさい!!
若い方は、多分気に入ると思います。
本屋大賞ノミネート作品ですものね。
老化・硬化した私のイマジネーションではついて行きがたい、
そういうことなのかもしれません。
アニメには向きそうだと思いました。

長く語るのはやめておこう・・・。

「ムゲンのi 上・下」 知念実希人 双葉社
満足度★★★☆☆


ダンスウィズミー

2020年05月17日 | 映画(た行)

突然歌って踊り出す

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一流商社で働くOL・静香(三吉彩花)。
彼女は幼い頃の苦い思い出によって、ミュージカルを毛嫌いしています。
ある日、姪っ子と訪れた遊園地で怪しげな催眠術師のショーを見物。
そしてそこで
「曲が流れると歌って踊らずにはいられない」
という催眠術にかかってしまうのです。
静香は、町中に流れるメロディやケータイの着信音など、
あらゆる音楽に反応し、歌い、踊り出すようになってしまう。
この催眠術を解くためには、かけた本人に解除してもらうしかありません。
以前催眠術の助手をしていた千絵とともに、静香は催眠術師の行方を追い始めます。
おかしなロードムービーの始まり・・・。

ミュージカルは普通に話していた人たちが突然歌い、踊り出すので、
不自然甚だしいですし、実生活でそれをやったらものすごく恥ずかしいですよね。
それをこの、静香が一人でやるのです。
会社の中で突然歌い・踊り出す静香。
本人は映画のように回りの皆も一緒に歌い・踊って盛り上がっているように感じているのです。
しかし、曲が終わるとハッと我に返る。
周りの人たちは終始冷めた目で彼女を見ていただけ。
もう、逃げ出すしかありませんね。



それにしても、会社のイケメン男性(三浦貴大)と「ラ・ラ・ランド」みたいなシーンになりかけたり、
暴走族とのキレのいいダンスなど、なかなか楽しめます。

静香とともに旅をすることになる千絵(やしろ優)は、
催眠術にはかかっていないけれども歌・ダンスが大好き。
彼女が中国人のツアー観光バスで歌い・踊って大歓声を得るシーンなんか、好きだわあ・・・。



そしてまた、ちょっとズルいのだけれど、
ズルさにも徹しきれない探偵、ムロツヨシさんがまた、いい味出しています。



ドサ回りでさえない催眠術ショーをしているマーチン上田(宝田明)を追って、
新潟→弘前→札幌。
ほとんどお金もないビンボー旅行ですが、途中で彼女たちは路上で歌って小銭を稼ぎます。
そもそも、静香は本当は歌が大好きだったのです。
封印していた「自分らしさ」に目覚めていく静香。
なんともユニークで楽しい作品なのでした。

<Amazonプライムビデオにて>
「ダンスウィズミー」
2019年/日本/103分
監督・原作・脚本:矢口史靖
出演:三吉彩花、やしろ優、chay、三浦貴大、ムロツヨシ、宝田明

ミュージカル度★★★★☆
満足度★★★★☆

 


パリよ、永遠に

2020年05月16日 | 映画(は行)

パリの運命を握る男

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ナチスドイツ占領下のパリ。
1944年8月25日。
連合軍が勢いを増し、ドイツ軍が敗走し始めています。
パリを手中にしていたドイツ軍も、もはや退却しか道はない。
パリ中心部にあるホテル「ル・ムーリス」では、
コルティッツ将軍率いるナチスドイツ軍が
ヒトラーの命令でパリの歴史的建造物を破壊する作戦を立てていました。
そんな時、パリで生まれ育ったスウェーデン総領事ノルドリンクが訪れ、
作戦を中止するよう説得しますが・・・。

実話に基づいた戯曲の映画化です。
そのため舞台は、ほとんどこのホテルのコルティッツ将軍の部屋。
ほとんど彼とノルドリンクの息詰まるような会話のやりとりで成り立っています。
スウェーデンは中立国で、ノルドリンクはこれまで、
連合国とドイツの架け橋的な役割を担ってきたようです。
ドイツ軍は退却する腹いせに、パリの多くの歴史的建造物を爆発してしまおうと考えたわけですね。
ノートルダム大聖堂、ルーブル美術館、凱旋門・・・、
おまけにセーヌ川に架かっている橋を爆破して川の流れをせき止め、
大洪水を引き起こそうとまでした・・・。
いやはや、とんでもないことです。
私でももしそれが実行されていたら、と思うとぞっとします。



コルティッツ自身も、この美しいパリの街を破壊することには少なからず抵抗を憶えていたのでした。
ところが、なんと、将軍は妻子を人質にとられ、
ヒトラーの命令に逆らえば妻子を殺されてしまうという苦しい立場にあったのでした。
日本の戦国時代か江戸時代じゃあるまいし・・・。
どこまでもとんでもないナチスドイツ・・・。
コルティッツは、ノルドリンクに問うのです。
「君ならどうする?」
返答に詰まってしまう、ノルドリンク。
そりゃそうです、私だって応えられません。



そして本作、戦時中にあった他国同士の信頼の物語なのかと思いきや、なんと!!
ノルドリンク、いい人そうなフリをして・・・。
しかし考えてみればやはりこれは戦争中のことなのです。
彼の言葉には、パリの町並みの存続と大多数の人名がかかっている。
とあれば、どんな手だって使いますよね。
ではあるけれど・・・、考えてしまう。
地味ながらも、心理的にジェットコースターに乗ったような感じのする作品だなあ・・・。

<Amazonプライムビデオにて>
「パリよ、永遠に」
2014年/フランス・ドイツ/83分
監督:フォルカー・シュレンドルフ
出演:アンドレ・デュソリエ、ニエル・アレストリュプ、チャーリー・ネルソン、ジャン=マルク・ルロ

歴史発掘度★★★★★
満足度★★★★☆

 


塔の上のラプンツェル

2020年05月15日 | 映画(た行)

美しい金髪描写にうっとり

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言わずと知れたディズニーアニメですが、
まだ見ていなかったのと、ちょうど地上波TV放送があったので・・・。
まともにTV放送で映画を見るのも久しぶりかも・・・。
CMが入るのがやはり煩わしいですが。
ウォルト・ディズニー・スタジオ長編アニメ第50作とのこと。

 

なんとなく見たいと思っていたのは、
ラプンツェルが18年間も塔に閉じこもっていた・・・ということで、
なんだか今、身につまされる感じがするので。

生まれてすぐ魔女にさらわれ、18年間塔の中だけで過ごしてきたラプンツェル。
彼女の長く美しい金髪は不思議な力を持っています。
盗賊のフリン・ライダーは、山奥の谷にそびえる高い塔を見つけ、
中に入り、ラプンツェルと出会うのです。
ラプンツェルは、毎年自分の誕生日の夜、美しいたくさんの灯りが夜空を飛ぶので、
ぜひそれを近くで見たいと思っていました。
そこで、フリンに自分を外に連れ出してほしいと頼むのです。

始めの方で、彼女がこの退屈な塔の中だけの生活をどう過ごしているのか、
そんな紹介シーンがありまして、
料理を作る、本を読む、絵を描く・・・
なるほど、でも考えつくことはほとんど皆同じだなあ・・・と思った次第。
やはり、広い外の世界のほうがいいですよね!!

とはいえ、息苦しいけれども居心地の良いこの空間。
そこから出るのには実は勇気も必要なのです。
彼女は母親(のフリをしている魔女)にきつく止められているからというばかりではなく、
やはりいざというときにはためらってしまうのです。
だって、物心ついて一度も外の世界に出て行ったことがない。
今さら出て行くのは怖すぎます。
そういえば、「海の上のピアニスト」を思い出しました。
あれも生まれてからずっと船上で育ち大人になって、
一度も陸へ降りたことがないピアニストは、
レコードデビューというチャンスを目の前にしてさえも、
ついに怖くて船を下りることができない、という話でしたね・・・。
しかし、ラプンツェルはまだ若く好奇心に飛んでいて、しかもフリンの励ましもある。
ということで、大事な一歩を踏み出すわけです。


魔女はつまりグレートマザー。
大事にする余りがんじがらめにして支配しようとする。
そこから逃れ、独立しようとする子の物語でもあるわけです。


さてそれにしてもアニメでこの美しい金髪の描写。
素晴らしいですね。
実にうっとり。
(それにしてもいくら何でも長すぎて邪魔でしょ!といちいち思ってしまうけど)


それと私が好きだったのは、フリンの表情。
実に思ったまま顔に出ますよね。
その表情の変化を見ているだけでホント退屈しない。
ナイスガイであります。
そしてまた、あのお馬さん、マキシマムがまたいい!! 
大好きです♡
たくさんの行灯が空を舞う美しい情景も素晴らしかった。
それは生まれたばかりでさらわれてしまった王宮の赤子を偲ぶためのモノなのですが、
それと知らずうっとりと眺めるラプンツェルという状況も、涙を誘います。
文句なく楽しめました。

<地上波テレビ視聴にて>
「塔の上のラプンツェル」
2010年/アメリカ/92分
監督:ネイサン・グレノ、バイロン・ハワード

映像美★★★★★
満足度★★★★★

 


「シャーロック・ホームズ 絹の家」アンソニー・ホロヴィッツ

2020年05月14日 | 本(ミステリ)

アンソニー・ホロヴィッツによるホームズ譚

 

 

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ホームズの下を相談に訪れた美術商の男。
アメリカである事件に巻きこれまて以来、不審な男の影に怯えていると言う。
ホームズは、ベイカー街別働隊の少年達に捜査を手伝わせるが、
その中の1人が惨殺死体となって発見される。
手がかりは、死体の手首に巻き付けられた絹のリボンと、
捜査のうちに浮上する「絹の家」という言葉…。
ワトスンが残した新たなホームズの活躍と、戦慄の事件の真相とは?

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おなじみ、シャーロック・ホームズの物語ですが、
これが、アンソニー・ホロヴィッツによるもの。
本作は、サー・アーサー・コナン・ドイル作品の著作権等を管理する
コナン・ドイル財団から認定を受けているのです。
いわばお墨付きのパステーシュ。
とにかく、アンソニー・ホロヴィッツにハマっている私ですので、やはり読まなくては!!

 

本作の語り手はやはりワトスン医師。
ホームズが解決したいささか古い事件を、思い出して書き記しています。
その事件の当時は、ある事情があって公表できなかった、ということで。

アメリカである事件に巻き込まれた美術商の男が、ホームズの元を訪れます。
どうも最近その時の事件の関係者につきまとわれているようだ・・・と。
ホームズはベイカー街別働隊の少年たちに捜査を手伝わせるのですが、
その中の一人が惨殺死体となって発見される。
手がかりは少年の手首に巻き付けられた白い絹のリボン。
そして「絹の家」という言葉・・・。

美術商の身の上の危険とは別に、「絹の家」が次第に重きを持つ謎になっていきます。
双方余り関連がなさそうではあるのですが、
けれど最後に双方の謎が解き明かされていくカタルシス、これがいいのですよね!
絹の家の正体は、なかなかにおぞましいものでありました・・・。
ホームズはなんと敵の罠にはまって、監獄送りにまでなってしまう。
絶体絶命感、スリルもたっぷりです。
ワトスンはかなりのお人好しで、しばしば人をかなり高評価するのですが、
その評価は常に裏切られるのですよ・・・。
人を見る目のなさは筋金入り!! 
そういうところも面白いですね。

でもホームズ譚を書くにはいろいろ制約も多いからなのか、
私には「刑事フォイル」のストーリーのほうが断然面白いと感じられます・・・。
アンソニー・ホロヴィッツによるシャーロック・ホームズのストーリーはもう一作あるので、
近く、そちらも読んでみます。

「シャーロック・ホームズ 絹の家」アンソニー・ホロヴィッツ 駒月雅子訳 角川文庫
満足度★★★.5