映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ボヘミアン・ラプソディ

2018年11月29日 | 映画(は行)

トクマルのオススメ!!

* * * * * * * * * *


皆様、想像がつくと思いますが、私、
クイーンといってもいくつかの曲を知っているだけで特に思い入れもなく、
本作はスルーするつもりでした。
でもあまりにも世間の評判がいいので、興味がわきました。

1991年に45歳でこの世を去っているクイーンのボーカル、
フレディ・マーキュリーの半生を描く作品です。
フレディ役はラミ・マレックですが、作中の楽曲はフレディ自身の歌声を使用しているとのこと。
つまりは口パクなのですが、全く自然で、言われてもわからないくらいです。



ロンドン。
インド系移民の彼が、学生ロックグループに加入し、やがてクイーンを結成。
曲はどんどん売れてツアーとレコーディングに追いまくられる日々。
そんななかで自身がゲイであることを自覚し、恋人と別れ、チーム仲間との関係は険悪になっていき、
孤独に陥っていきます。
そしてさらなる苦悩が彼を襲う・・・。
だけれども、彼は歌い続けることを決意して、
20世紀最大のチャリティコンサートである「ライブ・エイド」(1985年)のステージに立ちます。



ここのシーンがもう、圧巻。
75000人が入ったというスタジアムで、皆がフレディと共に歌う。
映画の力というよりも、音楽の力ですね。
そしてフレディという類まれな個の勝利。
涙、涙・・・。



私は帰宅してからYouTubeで本物のコンサート映像を見たのですが、
映画のほうが大画面と大音響の効果絶大、
ニセのフレディではあるけれど、ラミ・マレックの完コピで、やはり感動は大きい・・・。
これって変でしょうか?
まあ、はじめからそのように作られた映画ではありますので・・・。



それにしても、やはり見てよかったです!! 
私のようにクイーンをよく知らない方にも、トクマルのオススメです。

<シネマフロンティアにて>
ボヘミアン・ラプソディ
2018年/アメリカ/135分
監督:ブライアン・シンガー
出演ラミ・マレック、ルーシー・ボーイントン、グィリム・リー、ベン・ハーディ、ジョセフ・マッゼロ
ヒーロー発掘度★★★★★
満足度★★★★★

 


パターソン

2018年11月28日 | 映画(は行)

何気ない日常が美しい

* * * * * * * * * *

ニュージャージー州パターソン市で暮らす、バス運転手のパターソン(アダム・ドライバー)。
朝起きると妻ローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)にキスをして仕事にでかけ、一日路線バスの運転。
帰宅すると愛犬マービンを連れて散歩。
その途中にバーへ寄ってビールを一杯。
単調な毎日が繰り返されていきます。



何気ない日常をじっくり映し出すのは、ジム・ジャームッシュ監督なので覚悟してました。
でも全然退屈しません。
日々は同じように見えて決して同じではありません。
ましてやここに登場するパターソンはバス運転手にして詩人。
いえ、決してプロではありません。
自分の気に入った言葉を、自分だけの秘密のノートに書き留めているだけ。
けれど、彼の目には毎日がみずみずしく美しい。

また、彼の妻がユニークなんですよ。
専業主婦で、自分でカーテンを作ったり、教本付きのギターを買って練習してみたり。
目下手作りのカップケーキを市場で売ってみようと計画中。
彼女自身が自由な芸術家。
だから夫の詩作にも理解を示していて、すばらしいから公表すべきだという。
退屈というものを知らない風の彼女。
確かに見ているだけのこちらも退屈しない。





さて、それでいて小さな“事件”らしきこともいくつか起こるのですが、
最後の“事件”は、さすがにパターソンにとってダメージが大きかった。
しかしそこに何故か日本人(永瀬正敏)がフラリと登場して、重要な役割を果たします。
同じような日々の繰り返しに見えて、世の中はなんて奇跡に満ちているのだろう・・・。
なんだか生きていくことも悪くないって気がしてきますね。



そうそう、本作中パターソンは幾度も双子を目撃します。
始めは妻が「二人の子供」の夢を見たと話をして、
その後、子供だけはなくて成人やお年寄りも含めて幾組かの双子と遭遇することになる。
このことに何の意味があったのか、作中では答えは出ていないのですが、私は勝手に想像する。
後にこの夫婦に双子が誕生するのかも・・・なんて。
通俗的すぎかな。



ともあれ、まさに一つの詩篇のように美しい作品でした。

パターソン [DVD]
アダム・ドライバー,ゴルシフテ・ファラハニ,永瀬正敏
バップ



<WOWOW視聴にて>
「パターソン」
監督:ジム・ジャームッシュ
出演:アダム・ドライバー、ゴルシフテ・ファラハニ、バリー・シャバカ・ヘンリー、クリフ・スミス、チャステン・ハーモン、永瀬正敏
日常度★★★★★
満足度★★★★★


「アンと青春」坂木司

2018年11月27日 | 本(ミステリ)

素直で真面目で、ちょっぴりニブいアンちゃんがカワイイ!

アンと青春 (光文社文庫)
坂木 司
光文社

* * * * * * * * * *


アンちゃんがデパ地下の和菓子店「みつ屋」で働き始めて八ヶ月。
販売の仕事には慣れてきたけど、和菓子についてはまだまだ知らないことばかりだ。
でも、だからこそ学べることもたくさんある。
みつ屋の個性的な仲間に囲まれながら、つまずいたり悩んだりの成長の日々は続きます。
今回もふんだんのあんことたっぷりの謎をご用意。
待ちに待ったシリーズ第二弾!

* * * * * * * * * *

坂木司さん「和菓子のアン」の続編。
ちょっぴりふっくら体型のアンちゃんと、甘~い和菓子が題材ではありますが、
ちょっぴりシビアな人の感情も表されている、そこはやはり坂木司さんです。


アンちゃんは、特別やりたいことも思いつかないまま、
高校を出て、デパ地下の和菓子屋さんでアルバイトを始めたのでした。
和菓子のことも接客のことも何も知らない。
そんな彼女がどうにかこうにか、職業人としての基本を身につけていったのが前巻でした。
この店の周囲で起こるちょっとした謎を解くのは店長の椿さん。
そして本巻。
少しは自信がついたかと思えば、やはりまだ自信なさげなアンちゃん。
アンちゃんはとても素直で真面目なので、
周囲の人々のいる位置を見れば自分などまだまだ及びもつかないと、ひたすら思ってしまうようです。
自省的すぎて少しイライラするくらい。
もっと自信を持ってもいいのにな。
けれど、本巻では少しづつ彼女自身が日常の謎に取り組んでいきます。
でも、周りも読者もやきもきしてしまうくらいにニブいところもありますよね。
立花くんがなんでそんなに機嫌が悪いのかって・・・。
それはやはり「甘酒屋の荷」だったわけですよね。
その意味を知りたい方は、直ちに本巻を読みましょう!!
あ~、なんだか大福餅が食べたくなってしまった!!

前作はこちら→「和菓子のアン」

「アンと青春」坂木司 光文社文庫
満足度★★★★☆


ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生

2018年11月26日 | 映画(は行)

もうのめり込めない私。

* * * * * * * * * *


最近この手の作品をあまり見なくなった私ですが、
前作が割と気に入ったので、早速見てみました。



ニュート(エディ・レッドメイン)は、ロンドンに戻っています。
アメリカ合衆国魔法議会がとらえた強大な魔法使いグリンデルバルド(ジョニー・デップ)が逃げ出したことを知ります。
ニュートは、恩師ダンブルドア(ジュード・ロウ)からの特命を受け、
パリに向かい、グリンデンバルドの行方を追います。

私、前作を気に入ったといっても一度見ただけなので、
人物関係などほとんど覚えていませんでした。
しかし物語はそんなことはお構いなし。
見るものすべてが人物関係などしっかり頭に入っているのがアタリマエという前提で、
この作品は作られているのですね・・・。
かろうじて、アメリカからやってきたジェイコブがマグル(人間)で、
ニュートと友情を結んだ人物であることが思い出されたので助かりましたが・・・。
それなので、誰が誰なのやらよくわからないうちにどんどんストーリーは進んでゆく。
(姉妹関係、恋人関係、それぞれの立場・・・というようなこと、ね。)
作品にのめり込んでいくスキなんかありませんでした。

原作・脚本がJ・K・ローリング。
おそらくハリー・ポッターワールドにつなげる壮大な物語を作り上げようと
かなりの意気込みのように思われます。
でも私はもうそういうのはなんだかめんどくさい。
よほどのファンでない限り、見るものを選ぶ作品なのでは・・・?



で、結局考えてみれば本作、あくまでも次作へのつなぎという感じで、
何が解決したわけでもない。
どこに感動すればいいのやら・・・と、投げ出されたような気持ちで劇場を後にしました。
一番楽しめたのは魔法界の可愛かったりへんてこだったりする動物たちの姿。
それだけです。



前作は始めてのストーリーだったので登場人物も少しずつ出てきてわかりやすく、
何よりニュートと人間の交流が描かれていたのが嬉しかった。
ハリーポッターがやたら長かったのとは別に、
本シリーズは動物たちの巻き起こす事件を中心に
一話完結のスピンオフシリーズにして欲しかった。



ジュード・ロウのダンブルドアはすごく気に入りました。
でも、グリンデルバルドがジョニー・デップというのはなんだかあたり前過ぎてつまらない。
まあ、彼がカリスマ的演説で民衆の心を引き込んでいく、
というあたりに、どうにか風刺めいたところがあったのが救いです。


ということで、このシリーズは今後はレンタルで見るかもしれませんが、
私は少なくとも劇場では見ません。
おばちゃんにはついていき難いと、理解していただいてかまいません・・・。
お好きな方はいらっしゃるでしょうから。


<シネマフロンティアにて>
「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」
2018年/アメリカ/134分
監督:デビッド・イェーツ
原作・脚本J・K・ローリング
出演:エディ・レッドメイン、キャサリン・ウォーターストン、ダン・フォグラー、ジュード・ロウ、ジョニー・デップ、エズラ・ミラー
満足度★★☆☆☆


マザー!

2018年11月25日 | 映画(ま行)

詩人の魂について

* * * * * * * * * *


日本未公開のようです。
豪華キャストなのになぜ?と思ったのですが、なるほど、見て納得。



郊外の一軒家に暮らす一組の夫婦(ジェニファー・ローレンス&ハビエル・バルデム)。
ある日不審な男(エド・ハリス)が訪ねてくるのですが、
夫は快く家に引き入れ、泊まっていくようにといいます。
しかし妻は見知らぬ他人を家に入れることに不安を感じます。
さてその翌日、今度はその男の妻(ミシェル・ファイファー)がやってきて、
また勝手に家に上がり込んでしまいます。
そしてまたその後、彼らの二人の息子たちまでもが・・・。
そこで大変な事件が起こるのですがそれは一旦収まり、
妻は妊娠し、詩人である夫は素晴らしい作品を書き上げます。
するとある日また見知らぬ人々が群衆となって家に入り込んできて・・・。

いつものごとくなんの予備知識もなしに見はじめて、
初めの方ではこれはホラーなのかと思いました。
でもそうではないのです。
これはかなり象徴的な物語。
詩人の魂についてを言っている。



心の奥深くで芽生える美しいもの。
それを大切に守り育てて・・・。
ずっとそのまま置いておきたいのだけれど、男には名誉心もある。
だから思い切って表に出すのだけれど、
すると人々は遠慮なく土足で踏み込んできてズタズタにしてしまう・・・。



まあ、私の解釈はそんなところですが、
もちろん人によっていろいろな受け止め方はあるでしょう。
ただ描かれていることをそのまま受け止めれば、わけのわからない不条理劇。
万人受けはしませんね。

マザー! [DVD]
ジェニファー・ローレンス,ハビエル・バルデム,エド・ハリス,ミシェル・ファイファー
パラマウント

<WOWOW視聴にて>
「マザー!」
2017年/アメリカ/121分
監督:ダーレン・アロノフスキー
出演:ジェニファー・ローレンス、ハビエル・バルデム、エド・ハリス、ミシェル・ファイファー
不条理度★★★★☆
満足度★★.5


「プレゼント」若竹七海

2018年11月23日 | 本(ミステリ)

葉村晶、小林&御子柴のビギニング

プレゼント (中公文庫)
若竹 七海
中央公論社

* * * * * * * * * *

ルーム・クリーナー、電話相談、興信所。
トラブルメイカーのフリーター・葉村晶と
娘に借りたピンクの子供用自転車で現場に駆けつける小林警部補。
二人が巻き込まれたハードボイルドで悲しい八つの事件とは。
間抜けだが悪気のない隣人たちがひき起こす騒動はいつも危険すぎる。

* * * * * * * * * *

葉村晶シリーズのファンであり、
最近読んだばかりの御子柴くんシリーズのファンでもある私。
今までこの本を読んでいなかったというのが残念ではありますが、
実は最高のタイミングであったとも思います。

まだ私立探偵になる以前の葉村晶と小林警部補&御子柴くんコンビが交互に出てくる短編集。
そしてラストの一話は双方が対面。
私に取ってはなんとも美味しい本で、まさに、双方シリーズのビギニングとして、
後で読んだほうがその面白さを堪能できる本なのではないかと思いました。

特に葉村晶の遍歴が逐一わかるのが興味深い。
ルーム・クリーナー、電話相談、興信所・・・
職を転々として長くは続けないというコンセプトの彼女が
興信所でその才能を見出され、ついに探偵事務所を開くことになるわけで
なるほど、納得してしまいますね。
そして、ラストワンでは、すでに「運の悪い」探偵の性格がすでに現れております。
こんなにあちこち怪我をして大丈夫なのか、葉村晶。
負けずに頑張れ!!
というわけで全く本の内容には触れていませんが、御免くだされ。

「プレゼント」若竹七海 中公文庫
満足度★★★★☆

 


コーヒーが冷めないうちに

2018年11月22日 | 映画(か行)

わざとらしいルールも結果を見れば良し

* * * * * * * * * *


本作は見なくてもいいかと思っていたのですが、
他にタイミングの合う作品がなかったので、拝見。



喫茶店「フニクリ・フニクラ」で働く時田数(かず)(有村架純)。
その店は不思議な喫茶店で、ある席に座ると望み通りの時間に戻ることができるというのです。
ただし、コーヒーが冷めないうちに戻ってこなければならない等、面倒なルールがいくつか。
そんな噂を聞きつけて、過去の過ちを取り戻したいと思う人が時折やってきます・・・。

このタイムトリップの引き金となるコーヒーを淹れることができるのは、
時田家の女性のみ。
そして、仮に過去へ行くことができても、起きてしまった出来事は変えることができません。
ではなんの意味があるのかといえば、人の心は変わることができるということなんですね。
例えば喧嘩別れしたまま彼が外国へいってしまった。
その喧嘩の場へタイムトリップして、素直に自分の気持ちを打ち明けてみる。
その後、元の時間に戻っても彼が外国に行ってしまっていることは変わりません。
けれどあの時気持ちを確かめあっているから、彼女は彼の後を追って行く決意をする。

本作はこんなふうに、ここに来る様々なワケありの人々のことを一つづつ描きつつ、
時田数自身の問題を主テーマとして描くようようシフトしていきます。
実はこの不思議なタイムトリップ・テーブルには、
普段一人の女性(石田ゆり子)が座ったきりなのです。
なんとそれは幽霊!
 
彼女が何かの拍子にその席を立ったスキにしか、他の人はタイムトリップを試みることはできません。
そもそもこの幽霊の正体は何なのか・・・?
実は数とも関係が・・・。

謎としちめんどくさいルールがイッパイ。
始め、ストーリーのために作られたこのわざとらしいルールに鼻白むのですが、だがしかし。
結果オーライといいますか、その自己規制的ルールをかいくぐった問題解決法が
実にハートフルかつ爽快。
実は時間旅行のタイムパラドックスめいたストーリーが大好きな私には
ストライクに響く話だったわけです。
あ、脚本は奥寺佐渡子さん。
なるほど、別に敬遠せずにさっさと見ればよかった。



数をささえる美大生・新谷涼介が伊藤健太郎さん。
私はNHKドラマ「アシガール」の若殿さま役の彼を見ていいなあ・・・と思っていたので、
ここでお会いできて良かった♡


<シネマフロンティアにて>
「コーヒーが冷めないうちに」
2018年/日本/116分
監督:塚原あゆ子
原作:川口俊和
脚本:奥寺佐渡子
出演:有村架純、伊藤健太郎、波瑠、林遣都、深水元基、吉田羊、石田ゆり子

ルールの面倒くささ★★★★★
満足度★★★★☆


エタニティ 永遠の花たちへ

2018年11月21日 | 映画(あ行)

生み育てること、確かに偉大なことではあるけれど・・・

* * * * * * * * * *


世代を超え命をつないでゆく女たちの物語・・・。



19世紀フランス。
ジュールと結婚したヴァランティーヌ(オドレイ・トトゥ)は、
年月とともに夫婦としての絆が深まってゆきます。
子供も次々と生まれますが、中には病死したり戦争で命を奪われたりも・・・。
ヴァランティーヌは“生きるということは死者を見送ること”だと悟ります。
やがて夫のジュールがあっけなく病死。
次に主役は交代し、ヴァランティーヌの息子アンリと幼馴染で結婚したマチルド(メラニー・ロラン)のこと。
そしてマチルドの従姉妹であり親友のガブリエル(ベレニス・ベジョ)とその夫シャルル、
2組の親しい夫婦についてが語られていきます。



やはり子供が次々と生まれる中、流産があったり病死があったり。
ついにはシャルルの事故死。
そしてマチルドの出産時の死。
生と死が繰り返されていく。
今よりも死は日常の中により近くあったのですね。



子供を生み育む幸せ。
家族とともにある幸せ。
連綿と女たちが引き継いできた営み。
それはたしかに美しいし、ヴァランティーヌとジュールから発生した家族が
のちに何百人もの家系に発展してゆくさまは感慨深くもある。
しかし私はどうしても素直に本作を称賛できません。
生み育てることのみが女性の幸せなのか・・・と、つい思ってしまうので。



こんな作品はどうせ男性によるものだろうと思ったのですが、
なんと原作者は女性だったんですね!!
まあ、女性が持つある種の願望、幸福感にのみ、
あえて焦点を当てたと思えばいいわけでしょうけれど・・・。



しかし、この時代、女たちはこのように思うほかにすべがなかったということも忘れてはいけません。
現代的な見地では女性の生きがいは多様化しているわけで、
だからこそあえての原点回帰なのでしょうか。
でもね、子供ができない人だっています。
そして、子供を生む役割を終えたヴァランティーヌのように、
そうなったらもう引退というか、生きようが死のうがどうでもいいみたいな扱いなのは
ちょっと違うのではないか。
ましてこの人達は上流階級で、本当の生活の苦労をしていない・・・。
出産シーンも皆無。
もっと他にあるはずの女性の生きがいが描かれない。
たった一人、修道院に入った娘がいたのですが、彼女は院内で若くして病死。
子を生み育てることを拒んだ女性の末路としていかにも象徴的です。

・・・というわけで、私的には☓デシタ。

エタニティ 永遠の花たちへ DVD
オドレイ・トトゥ
PONY CANNYON Inc(JDS) = DVD =


<WOWOW視聴にて>
「エタニティ 永遠の花たちへ」
監督・脚本:トラン・アン・ユン
原作:アリス・フェルネ
出演:オドレイ・トトゥ、メラニー・ロラン、ベレニス・ベジョ、ジェレミー・レニエ、ピエール・ヴァランドンシャン

満足度★★☆☆☆


「犬の力 下」ドン・ウィンズロウ 

2018年11月20日 | 本(ミステリ)

映画を見るような描写力 

 

犬の力 下 (角川文庫)
東江 一紀
角川書店(角川グループパブリッシング)

* * * * * * * * * *

熾烈を極める麻薬戦争。
もはや正義は存在せず、怨念と年月だけが積み重なる。
叔父の権力が弱まる中でバレーラ兄弟は麻薬カルテルの頂点へと危険な階段を上がり、
カランもその一役を担う。
アート・ケラーはアダン・バレーラの愛人となったノーラと接触。
バレーラ兄弟との因縁に終止符を打つチャンスをうかがう。
血塗られた抗争の果てに微笑むのは誰か―。
稀代の物語作家ウィンズロウ、面目躍如の傑作長編

* * * * * * * * * *

さて、下巻です。
バレーラ兄弟が牛耳る麻薬カルテルですが、その内部でも血みどろの抗争があり、
悲惨な様相を深めていきます。
第4部のラストでようやく本作の冒頭のシーンと一致。
残虐な殺戮の行われた地で、アート・ケラーがこんな事になった責任は自分にある・・・、
と苦い思いにとらわれるシーンでした。
そして最終章、第5部に突入。
いよいよ長いこの抗争劇に終止符が打たれます。


この中で重要な位置を占めるのがノーラ。
高級コールガールの彼女でしたが、フアン・パラーダ枢機卿と心を通わしており、敬愛していたのですが、
その命を奪ったのは直接的ではないにせよ、アダンであったことを知ります。
そのため復讐心に燃えた彼女はアートの申し出を受けて、
スパイとして、より密接にアダンの愛人として振る舞うことを決意。
しかしもちろんこれは大変危険なことでありますね。
アダンの叔父が女で失敗したことに続いてアダン自身もまた、
女の愛に溺れ、身を滅ぼしていくというのがまた、物語としてイカすところ。

おおよそこの物語は血なまぐさい緊迫感に満ちているのですが、
しかしこのいよいよ大詰めの第5部の中に、ポッカリとのどかな風景があるのです。
それは、監禁されていたノーラがカランに連れ出されて、
二人だけの逃避行をする場面。
カランは殺人者ではありますが、もともとこんな血まみれの生き方は性に合わないと思っていた。
行方をくらました二人は、人知れずひだまりの中のような数日間を過ごします。
やはり女の身としてはここのシーンがすごく好きです。
嵐の前の静けさ。


最後にはついに、アダンとアートとの熾烈な決闘シーンが。
これが銃の撃ち合いではなくて取っ組み合いになるのですが、
ここのシーンの描写が、まるで映画のスローモーションのよう。
いや、そもそもこの作品全体が、まるで映画を見ているように
ありありとそのシーンが想像できてしまうのですけれど。
特にこのシーンの描写は素晴らしい! 

2009年が初版という本作ではありますが、
この度読むことができたのはとてもラッキーだった気がします。
本当に、私にとって未知の本が巷には溢れている、というわけ。

ところで本作、これで終わりかと思っていたら続編が出ていたんですね。
「ザ・カルテル」上下巻があったのです!
なんとアダンが脱獄し、またもやアートとの激烈な闘いがあるらしい・・・。
いずれ読まねばなりますまい。
ただし2016年に出た本なので、東江さんの訳ではないのですね・・・。
残念です。


「犬の力 下」ドン・ウィンズロウ 東江一紀訳 角川文庫
満足度★★★★★


人魚の眠る家

2018年11月19日 | 西島秀俊

脳死とは・・・?

* * * * * * * * * *

西島秀俊さん出演作が、トントントンと来ましたね。
はい、嬉しいことでございます。
しかも今回は東野圭吾さん原作。
 ということで、話題性だけはたっぷりのエンタテイメント作品・・・と、
 実のところさほど中身は期待していなかったのだけれど・・・。
私はまさかと思ったけれど、泣けてしまいましたよ・・・。

 

えーと、ストーリーは、二人の子供を持つ播磨和昌(西島秀俊)・薫子(篠原涼子)夫婦。
 しかし現在別居中。
 娘の小学校受験が終わったら離婚する予定になっていた。
そんなある日、娘・瑞穂がプールで溺れ昏睡状態になってしまうんだね。
 医者からは回復の見込みはないと言われるのだけれど・・・。

母・薫子は娘はまだ生きていると信じ、脳死判定を受けようとはしません。
 夫婦は人工呼吸装置を娘の体内に埋め込むという最新技術の手術を受け在宅治療を可能にします。
でも、眠り続ける娘を生きたように扱う妻に、夫は次第に違和感を覚え始め・・・。

ここで肝心なのは、播磨和昌がロボット開発などを手がける会社の社長ということなんだよね。
そう、そうした機械工学と医療技術を結びつけるような研究をしている。
そこで、脳の代わりに電気的に筋肉に信号を送って、
 娘の体を動かしてみるという実験的な治療を始めるわけね・・・。
それで、昏睡状態の娘の手や足が動いたりするわけだけれど・・・
そこのところはなんだかフランケンシュタインの話のようだと、少し薄気味悪くも思えた・・・。
そこそこ、本人の意志でなくまるで操り人形のように体を操作して動かすということに、
 なんだか冒涜めいたものを感じてしまうよね。
つまりこの脳死状態というのは生きているのか、死んでいるのか、どっちなんだっ!!
 というのが最大の問題。
 すごく難しいよね。
終盤の母親の行動が、最大限にその疑問を私達に突きつける。
 ほとんど狂気にかられている母親の、切羽詰まった問いかけ。
 その答えは結局作中でも出ていません。
私も思うんですよ。いざというときの臓器移植。
 死後、臓器を必要な人に提供することに異存はない。
 でもね、いくら「脳死」とはいっても、心臓は動いている時に、
 温かい体にメスを入れるというのはどうなのよ・・・と、思ってしまうわけだなあ・・・。



この作品はそういうことをすごくストレートに見るものに問いかけていて、力のある作品だと思う。
篠原涼子さんの迫力ある演技のおかげでもあるね。
こんな時、男はオロオロするしかないのよ・・・。
 出産と同じように。



そういった意味では妻に振り回される優しき夫という雰囲気がよく出ていた西島さん。
研究に没頭していくオタク青年の坂口健太郎さんもよかったし。



おばあちゃん役の松坂慶子さん、今にも「私は武士の娘です。」と言い出すんじゃないかとヒヤヒヤした。
いや、それはないでしょ・・・。

<シネマフロンティアにて>
「人魚の眠る家」
2018年/日本/120分
監督:堤幸彦
原作:東野圭吾
出演:篠原涼子、西島秀俊、坂口健太郎、川栄李奈、山口紗弥加、田中哲司、松坂慶子

脳死を考える度★★★★★
医療最先端技術度★★★★☆
満足度★★★★☆


世界は今日から君のもの

2018年11月17日 | 映画(さ行)

自由というのが、実は一番難しい

* * * * * * * * * *

高校の頃から引きこもりとなった小沼真実(門脇麦)は、
親にも内緒で、好きな漫画やイラストを正確に複写して過ごしていました。
そんなことが続いて5年。
心配した父親が、人と接する必要のないゲームのバグ出しのバイトを見つけてきたので、
その仕事につくことに。
そんな中で、同社の矢部(三浦貴大)が、彼女のイラストの才能に気づきます。
そこで、彼女にゲームキャラクターのイラストを描くようにと依頼。
ところが、「自由に描いてくれ」と言われると、全く描けなくなってしまう真実・・・。

人と接することが苦手で、引きこもりになってしまう・・・というのも、
どうやら彼女は子供の頃から少し他の子とは違ったようなのです。
それに加えて、母親が全く自分の子供の気持ちを考えようとしない。
現在母親は家を出て、真実は父親と暮らしています。
母親は対面すればいつも優しくにこやか。
けれども、実は子供に関心がなく、自分のことのほうが大事、というのが透けて見えます。
YOUさんのこの役柄、映画「誰も知らない」の母親とそっくり。
まあここでは、そこまで人ではありませんが。

そんな母親との相性が悪いことを真実は認識していて、
自分が引きこもりになったのは母親のせいだと思っているところも実はある、
というのが終盤でわかります。
けれども、物事というのはそう一直線で語れるものではない。



本作は簡単に答えを出さないし、
一気に引きこもりから脱却してメデタシメデタシというわけでもない。
ただ、周りの人の関わりもあって、次第に真実の眠っていた力が引き出されていく。
結局は自分で歩き始めるという運びがとてもいいと思いました。

矢部の彼女さんの、いかにもどーでも良さげな無関心っぽい態度もいいなあと思う。
そして、最後の最後となる切っ掛けは、ある少女から手渡された宝物のビー玉。
若い女性の心の変化が、リアルに感じられる良作です。

世界は今日から君のもの [DVD]
門脇麦,三浦貴大,比留川游,マキタスポーツ,YOU
Happinet




<WOWOW視聴にて>
「世界は今日から君のもの」
2017年/日本/106分
監督・脚本:尾崎将也
出演:門脇麦、三浦貴大、比留川游、岡本拓朗、マキタスポーツ、YOU
心理描写度★★★★☆
満足度★★★★☆


「犬の力 上」ドン・ウィンズロウ

2018年11月16日 | 本(ミステリ)

30年に及ぶ麻薬戦争

犬の力 上 (角川文庫)
東江 一紀
角川書店(角川グループパブリッシング)

* * * * * * * * * *


メキシコの麻薬撲滅に取り憑かれたDEAの捜査官アート・ケラー。
叔父が築くラテンアメリカの麻薬カルテルの後継バレーラ兄弟。
高級娼婦への道を歩む美貌の不良学生ノーラに、
やがて無慈悲な殺し屋となるヘルズ・キッチン育ちの若者カラン。
彼らが好むと好まざるとにかかわらず放り込まれるのは、30年に及ぶ壮絶な麻薬戦争。
米国政府、麻薬カルテル、マフィアら様々な組織の思惑が交錯し、物語は疾走を始める―。

* * * * * * * * * *

本作は先日読んだ翻訳者・東江一紀さんの「ねみみにみみず」で興味を持った、
東江一紀さんんの翻訳本ということで、手に取りました。
上下巻でかなりのボリューム。
始め読んで少し後悔したんですよ。
かなり強烈なバイオレンス。
麻薬カルテル、マフィアと、その撲滅を図る捜査官との長期間に渡る熾烈な戦いを描いています。
ところが、読んでいるうちに登場人物たちそれぞれにグイグイと引き込まれていきました。
プロローグは、捜査官アート・ケラーが殺戮の行われた後の地で呆然と佇むシーン。
これはアートの宿敵であるアダン・バレーラの一族の仕業とわかっている。
でもアートは知っているのです。
これは結局自分が仕掛けたことなのだ。
だからこんなことになってしまったのだ・・・と。
そして時は22年ほどさかのぼって、
アートとバレーラ兄弟のはじめての出会いのシーンから物語が始まっていきます。

本作ではマフィア側が必ずしも「悪」ではないし、
捜査官アートも「善」とばかりは言い切れない面もあります。
バレーラ兄弟もはじめからイカれたチンピラというわけではなく、
ちょっと無鉄砲な若者という感じ。
彼らの叔父、ミゲルは州知事の特別補佐官でもあり、アートと手を結びさえするのです。
でもそれは、ある明確な意図を隠し持っていたのですが・・・。


アートはひたすらに麻薬カルテルを撲滅したいと願うのですが、
何しろ警官も政治家も麻薬カルテルとほとんど一体化している中で、悪戦苦闘が続きます。
でもある時、彼の腹心の部下が拉致され、ひどい拷問を受けた末に死亡。
そこでアートは復讐の鬼と化す。
次第に彼らは憎悪を募らせるようになっていくのです。


ところで、この上巻では、アダンはマフィアではありながらも妻子を愛するまっとうな男。
それがなぜ、プロローグにあるような残虐な「犬の力」を持つようになるのか。
その答えは下巻を待たなければなりません。


またこの他、司教のフアン・パラーダ、娼婦ノーラなど気になる人物も多く登場。
私は特にノーラが好きです。
メキシコ大地震のスペクタクルシーン、彼女の行動が目を見張ります。


それと気づいたのが本作はすべて「現在形」なんですね。
「~だった。」「~した。」ではなくて「~する。」というふうに。
これがとても臨場感があるといいますか、
そう、言ってみれば映画を見ている感じでしょうか。
登場人物と一緒になってこれから起こることに身構えているような・・・。
もちろん作者の力でありましょうし、訳者の力でもあると思う。
さて、下巻に行くぞ~!!

「犬の力 上」ドン・ウィンズロウ (訳)東江一紀
満足度★★★★.5


運命は踊る

2018年11月15日 | 映画(あ行)

運命は踊る、フォックストロットで。

* * * * * * * * * *


イスラエルのテルアビブで暮らすミハエル・ダフナ夫妻。
ある日、軍の役人が息子ヨナタンの戦死の知らせを持ってやってきます。
ダフナはショックの余り気を失い、
ミハエルは平静を装いながらも、湧き上がる動揺を隠せません。

しかしやがて、戦死したのは同姓同名の別の者で、つまりは誤報だったことがわかります。
ミハエルは怒りを爆発させ、直ちに息子を呼び戻すよう要求します。
さて一方、戦地のヨナタン。
そんな騒ぎが起こっていることも知らず、
戦う相手のいない辺境の検問所で間延びした時間を過ごしていました。
ところがそこで、ある事件が起こるのです・・・。

運命は踊る・・・。
悪いことは一度逃れたとしても巡り巡ってまた帰ってくる・・・、
そんな「運命」の話です。
原題はFoxtrot。
フォックストロットというダンスは前-右-左-後ろとステップを踏んで移動するので、
必ず元の位置に戻るのです。
そうしたことをこの家族に起こった「運命」に例えているわけです。
日本人なら「因果」という言葉を思い起こしますね。



因果なのは、ヨナタンの戦死の知らせのことばかりではありません。
ミハエルが昔戦地で体験した出来事、
ヨナタンが派遣先で体験したこと・・・。
すべてが、巡り巡ってまた自分のところに帰ってくる。
かなり悲観的な話なのですが、でも不思議とラストは絶望的な感じがしない。
世の中はそんなものだし、淡々と受け止めて生きていく他ない・・・。
夫婦は寄り添いながらそう思っているようでした。
悪い事の合間には良いことだってありますしね!!

息子の戦死の知らせを聞いたミハエルの心理描写が、すごく迫力があり真に迫っていました。
ほとんど言葉は発しません。
カメラはひたすらじっくりミハエルの表情を長回し。
茫然自失であり、困惑であり、怒りである。
悲しみは最後の最後・・・。
実際息子の死に顔を見もせずに、紙切れだけで「死んだ」だの「生きていた」だの
言われてもどう捉えていいかわからないですよね。
そんなところもよく描かれていました。


<ディノスシネマズにて>
「運命は踊る」
2017年/イスラエル・ドイツ・フランス・スイス/113分
監督:サミュエル・マオス
出演:リオル・アシュケナージ、サラ・アドラー、ヨナタン・シライ、ゲフェン・バルカイ
因果度★★★★☆
満足度★★★★☆


ジオストーム

2018年11月14日 | 映画(さ行)

迫力映像だけは楽しめる

* * * * * * * * * *


近未来。
異常気象が続き、世界中の科学者が集結して地球の気候をコントロールする人工衛星
「ダッチボーイ」を完成させます。
そのおかげで異常気象も落ち着いていたのですが、突如ダッチボーイが暴走。
灼熱の砂漠の村が凍りついたり、香港の街が炎上したり、
東京に巨大な雹が降ったり・・・大災害が巻き起こります。
この衛星の生みの親ながら、政治的圧力に負けて田舎暮らしに甘んじていた
ジェイク・ローソン(ジェラルド・バトラー)が呼び戻され、
ダッチボーイの暴走原因を突き止めるべく、宇宙ステーションへ向かいますが・・・。

さほど大きくもない人工衛星くらいで、こんなことが可能か?などと思ってしまうわけですが、
海が凍りついていったり、大洪水になってみたり、
街が灼熱に包まれたりという映像はなかなか迫力があって見ごたえがありました・・・。
というかまあ、そこだけというか・・・。



実は衛星の誤作動の裏にはある人物の陰謀が隠されており・・・。
自然災害よりも恐ろしいのは人の欲望である・・・と。
最後は無事衛星が復帰してよかったね、めでたしめでたし・・・となる
お約束どおりのハッピーエンドなのですが、ちょっと待て。
大都会が壊滅したところが何箇所もある。
一体どれだけの人が犠牲になったことか。
それがこんなふうにめでたしめでたしだなんて、
あまりにもノーテンキと言わねばならないでしょう・・・。
それは、昨今日本でも地震や洪水などの被災者がその後どれだけの苦労を背負うことになるのか、
よくわかっているから思うことなんだろうか。



いくらエンタテイメント作品といっても、
なんだか割り切れない思いにとらわれてしまう私でした。

ジオストーム [AmazonDVDコレクション]
ジェラルド・バトラー,ジム・スタージェス,アビー・コーニッシュ,エド・ハリス
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント



<WOWOW視聴にて>
「ジオストーム」
2017年/アメリカ/109分
監督:ディーン・デブリン
出演:ジェラルド・バトラー、ジム・スタージェス、アビー・コーニッシュ、アレクサンドラ・マリア・ララ

スペクタクル度★★★★☆
ノーテンキ度★★★★★
満足度★★☆☆☆


「希望荘」宮部みゆき

2018年11月13日 | 本(ミステリ)

探偵は孤独でなければいけない

希望荘 (文春文庫 み 17-14)
宮部 みゆき
文藝春秋

* * * * * * * * * *

家族と仕事を失った杉村三郎は、東京都北区に私立探偵事務所を開業する。
ある日、亡き父・武藤寛二が生前に残した「昔、人を殺した」という
告白の真偽を調査してほしいという依頼が舞い込む。
依頼人の相沢幸司によれば、父は母の不倫による離婚後、息子と再会するまで30年の空白があった。
果たして、武藤は人殺しだったのか。
35年前の殺人事件の関係者を調べていくと、
昨年発生した女性殺害事件を解決するカギが隠されていた!?(表題作「希望荘」)。
「聖域」「希望荘」「砂男」「二重身」…
私立探偵・杉村三郎が4つの難事件に挑む!!

* * * * * * * * * *

図書館予約をして、しばらくして順番が回ってきたこの本。
なあんだ、ちょうど文庫発売なんですね。
杉村三郎シリーズ。
前巻での展開、いきなりの離婚劇には唖然とさせられたわけですが、
本巻はその続き、探偵業を始めた杉村三郎の短編集。
あ、今、自分のブログの「ペテロの葬列」の記事を読んでみたら、
「このシリーズはもうこれで止めたほうがいい」なんて書いてある。
ヒャ~。
とんでもないことを言ってしまったものです。
実のところ私、本巻を読んで、今までのうちで一番好きかも、などと思っていました。
そもそも歴代の探偵小説の「探偵」は、
殆どが独身か、または離婚歴ありのものですよね。
孤独が探偵の条件みたいな・・・。
愛妻と可愛らしい娘のいる探偵なんてあんまり聞いたことがない。
もともと事件を引き寄せてしまう体質らしい杉村三郎にとっては、
やはり妻子はいないほうがいい・・・。
実はここからが本当の杉村三郎シリーズの始まりなのでは!!と思えてしまいました。

離婚直後から探偵業を始めるまでの経緯については3編目「砂男」に詳しく書かれています。
故郷山梨に戻って、しばらく市場の仕事についていたという意外な経緯。
けれどそこでも事件を引き寄せてしまう彼は、
ある事件の解決に一役買って、そこから新しい道が開けるのです。


私は、「逆玉の輿」と影で囁かれながら、飼いならされたような生活を送る杉村三郎よりも、
自由の身となった彼のほうがやはり好きだわ~。
こちらも「妻に捨てられた男」との視線は避けられないにしても。


4編の中で、私は最後の「二重身」が一番好きでした。
2011年3月。
あの東日本大震災のあった時のこと。
その直前に「東北の方へ行く」と言ったまま連絡が取れなくなった人物の
行方を調査することになるのですが・・・。
その背景と事件のマッチングがナイス。
大家さんや喫茶店のマスター、同じ家の別棟に住む青年など、頼りになる面々も登場して
今後の展開が楽しみな一冊となっています。
早く続きが読みたいな。

図書館蔵書にて(単行本)

「希望荘」宮部みゆき 小学館
満足度★★★★★