映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

すばらしき世界

2021年02月24日 | 映画(さ行)

すばらしき世界?

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西川美和監督作品ということで、重い腰を上げて3か月ぶりくらいに映画館へ行きました。

映画館通い再開にはふさわしい作品。

殺人の罪で13年の刑期を終えた三上(役所広司)。
それ以前にも何度も服役しており、
これまで人生の大半を獄中で過ごしてきたといっても過言ではありません。
身元引受人の弁護士らの助けを借りながら、今度こそは、社会復帰を目指します。

そしてまた、子どもの頃生き別れになった母を探そうと三上は思うのですが、
その話に飛びついてきたのが、テレビディレクター津之田(仲野太賀)と
やり手プロデューサー吉澤(長澤まさみ)。
社会に適応しようとあがきながら生き別れの母を探す、
三上の感動ドキュメンタリーを仕立てようというのです・・・。

三上は、一本気で、ある意味優しく、正義感に富んでいるということもできます。
しかし、直情的でキレやすく、いったん火が付くと止められない。
例えば、チンピラに絡まれている人を見ると助けようとするのはいいけれど、
チンピラをたたきのめしてしまい、
そのため相手が命を落とすことになろうとお構いなしという勢い。
まるで爆弾を抱えているようで、ちょっと怖い。

弁護士の先生は「孤独に陥らないことが肝心」と言って、自らも世話役を厭いません。
持病のある三上なので、生活保護を受ける手続きも面倒を見てくれる。
それでも、生保を嫌い、なんとか経済的自立を図ろうとする三上ですが、
前科者の彼にそう簡単に仕事は見つかりません。

そんなことをする内に、三上の事情を知った上で
手を差し伸べてくれる人が何人か出てきます。
津之田も、三上の危うい部分も見てしまいますが、
それでもなんとか彼の社会復帰を支えるようになっていく。
三上のまっすぐな部分は、人間的魅力でもあるのですね。

やはり、孤独に陥りがちな三上を支えるのは人の輪。
人の絆なのです。

だがしかし、私たちは愕然とする事実をも知ることになる。

三上が世間に溶け込んで人並みの生活をするというのはつまり、
人並みに「見てみないふりをする」、
「気づかないことにする」ということなのです・・・。

善と悪。
正しいこと、誤ったこと。
それらは一元的なものではなくて複雑に入り交じっている。
そしてそれこそが「世界」というものなのでしょう。

本作は西川美和監督のオリジナルストーリーではなくて、
佐木隆三「身分帳」をもとにしています。
題名をそのまま「身分帳」ではなく「すばらしき世界」としたのが、
なんともセンセーショナルというか英断というか・・・。
作品を見ていると、これがすばらしき世界?と思えてしまいます。
でも、一言で言い表せない複雑な様相を世界というのならば、
それは「すばらしい」という形容もあながち間違いではないのかも・・・
と、次第に納得していくのです。

 

役所広司さんの危うい感じの元受刑者、さすがです。

そして私は仲野太賀さんを前期テレビドラマでいい感じ、と思い、
本作ですっかりファンになりました!

 

<シネマフロンティアにて>

「すばらしき世界」

2021年/日本/126分

監督・脚本:西川美和

原案:佐木隆三「身分帳」

出演:役所広司、仲野太賀、六角精児、北村有起哉、白龍、長澤まさみ

 

キレやすさ★★★★★

満足度★★★★.5

 

※都合により、一週間程度更新をお休みします・・・。
 肩こりが高じて、キーボードを打つのがしんどいのです・・・
 ナサケナイ・・・

 

 

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一度死んでみた

2021年02月23日 | 映画(あ行)

一度死んで二日目に生き返る薬

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大学生七瀬(広瀬すず)は、製薬会社社長の父・計(堤真一)と二人暮らし。
母が亡くなるときも研究室にいて、また何かと口うるさく自分に干渉する父を
七瀬は毛嫌いしています。
父の研究者になれという希望に逆らうように、ロックバンドで歌いまくる七瀬。
日々、父には「死んでくれ」と毒づくのです。

そんな時、会社の乗っ取り計画を耳にした計は、
社内に潜むスパイをあぶり出すために、ある秘薬を用いることにします。
それは偶然に開発された「一度死んで二日目に生き返る」ジュリエットと名付けられた薬。
社長が死ねば、何らかの動きがきっとあるはず、という目論見。

そしてその薬を服用した計は、死亡。
すると、計が息を吹き返す前に火葬にしてしまおうという企みが・・・。
七瀬と社長秘書・松岡(吉沢亮)はそのことを知り、
計画阻止のため立ち上がります。

吉沢亮さん演じる松岡は極めて存在感の薄い男。
自動ドアすらも彼を感知せず、開かないという・・・。
そしてまた彼は、強烈な静電気をため込んでいるという設定が
後々に意味を持ってくるあたりが、なんともしゃれています。

七瀬の所属するパンクバンドはその名を「魂‘s」というのですが、
その唄にはちっとも魂がこもっていないのでただの「ズ」だ、などと評されます。
七瀬が父に向かって「death、death」と毒づくのも、
どうやら心底嫌っているわけではない、ということを示しているわけです。

登場人物たちも無駄に豪華といいますか、
ほんのワンシーンにだけ登場する有名俳優を探すのもまた、楽しみの一つ。
佐藤健さんがほんのチョイ役で出ていたのには驚いた・・・。

クスクス、ニヤニヤ、笑ってしまうコネタ満載。
こういうのは好きです。

<WOWOW視聴にて>

「一度死んでみた」

2020年/日本/93分

監督:浜崎慎治

出演:広瀬すず、吉沢亮、堤真一、リリー・フランキー、小澤征悦、木村多江、松田翔太

 

コミカル度★★★★☆

満足度★★★.5

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テッド・バンディ

2021年02月22日 | 映画(た行)

そら恐ろしい

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1969年、ワシントン州シアトル。
シングルマザーのリズ(リリー・コリンズ)は、
バーで出会ったテッド・バンディ(ザック・エフロン)と恋に落ち、
一緒に暮らし始めます。
子煩悩なテッドはまだ幼い娘の扱いもうまく、幸せな家庭生活が続きます。

あるとき、信号無視で警官に止められたテッドは、
車の後部座席にあった疑わしい道具袋の存在から、
誘拐未遂事件の容疑者として逮捕されてしまいます。
また、その前年に起きた女性誘拐事件の目撃証言による似顔絵が、
テッドによく似ていました。
さらには、他州の殺人事件の容疑もいくつも受けることになりながら、
本人は無実を主張し続けますが・・・。

1974年~78年にかけて、7つの州で30人の女性を惨殺した
実在のシリアルキラー、テッド・バンディその人の物語です。

テッドは陽気で、口が達者。
人の気持ちを引きつける不思議な魅力があったようなのです。
だからこそ30人もの女性が彼にホイホイとついて行って毒牙にかかってしまったのでしょうけれど。
すごく白々しいけれども彼が「自分は無実」と言い続けるのを聞いたら、
もしかしたら、そうなのかも・・・という気もしてくる。
そんな困惑を最も味わったのが、リズなんですね。
テッドはリズに暴力を振るったこともないし、娘には良いパパだった。


不思議です。
どうしてよそで何十人もの女性を惨殺しておきながら、
ごく普通の人物を演じ、リズや娘には何も手出しをしなかったのか・・・。

彼の心のバランスはどこにあるのか・・・。
でもリズを深く愛しているといいながら、拘留中にモトカノと結婚してしまうといういい加減さは、
やはり信用に足る男ではないですよね。

テッド・バンディの実際に残された映像がエンディングに使われていますが、
それを見ると作中のテッドのセリフ等が、
その実際の映像から取られていることがわかります。
世間に向けて、明るく「自分は無罪」と言ってのけ、
大勢のファンまで付いてしまうという・・・

人の言葉と、真実のギャップ。
シリアルキラーの底知れない人格。
空恐ろしい物語なのでした・・・。

DNA鑑定のある今なら、もっと明白な証拠が提示できたのかも・・・。

 

<WOWOW視聴にて>

「テッド・バンディ」

2019年/アメリカ/109分

監督:ジョー・バーリンジャー

出演:ザック・エフロン、リリー・コリンズ、カヤ・スコデラーリオ、ジェフリー・ドノバン

 

人格破綻度★★★★★

満足度★★★★☆

 

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いのちスケッチ

2021年02月21日 | 映画(あ行)

やりがいは、どこにでもある

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国内で初めて無麻酔採血に成功し、動物福祉に特化した動物園として注目される、
福岡県大牟田市に実在する動物園を舞台としています。

漫画家を目指し手上京するも、芽が出ず、
夢破れ故郷福岡に帰ってきた田中亮太(佐藤寛太)。
特に動物好きではないけれど、地元の延命動物園でアルバイトをすることになります。

この動物園は、動物の健康と幸せを第一に考える「動物福祉」に力を入れています。
しかし予算縮小で、円の運営は危機的状況。
そんな中でも熱意を持って仕事をする園長(武田鉄矢)や、
獣医師・彩(藤本泉)たちを見て、
亮太も仕事にやりがいを持ち始めます。

 

無麻酔採血・・・、聞き慣れない言葉ですが、
作中はライオンの尻尾から採血しようとしているシーンが描かれています。
採血だけなら人間はもちろん無麻酔。
でも相手がライオンや他の大型動物ならば、健康診断のため、といってもわかってもらえない。
暴れると困るので、通常は麻酔を使って眠らせるのですね。
でもこの麻酔薬というのが適量を用いないと時には危険。
できれば使わない方が良いのです。

そこで少しずつ、始めはライオンの尻尾を触り、
次に多少力を入れてつかむところからならしていきます。
竹串を当てて少しチクッとしてみたり・・・。
こんな手間をかけても、極力動物を不自然な状態にはさせない、
負担をかけない配慮を工夫していく、そんな動物園なのでした。

亮太は漫画家の夢を諦めた後、何を目指せばいいのかわかっていません。
動物園のアルバイトも、たまたまという感じで、すぐ辞めようと思っていました。
でもこの仕事の中で、絵を描くという自分の特技を生かす道も見え始めます。

いい感じのお仕事小説でした。

<WOWOW視聴にて>

「いのちスケッチ」

2019年/日本/100分

監督:瀬木直貴

出演:佐藤寛太、藤本泉、芹澤興人、須藤漣、浅田美代子、武田鉄矢

 

仕事愛度★★★★☆

満足度★★★.5

 

 

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「いつか、虹の向こうへ」伊岡瞬

2021年02月20日 | 本(ミステリ)

疑似家族でも

 

 

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尾木遼平、46歳、元刑事。
ある事件がきっかけで職も妻も失ってしまった彼は、
売りに出している家で、3人の居候と奇妙な同居生活を送っている。
そんな彼のところに、家出中の少女が新たな居候として転がり込んできた。
彼女は、皆を和ます陽気さと厄介ごとを併せて持ち込んでくれたのだった…。
優しくも悲しき負け犬たちが起こす、ひとつの奇蹟。
第25回横溝正史ミステリ大賞&テレビ東京賞、W受賞作。

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伊岡瞬さん、私には初めての作家さん。
ミステリ好きでも、まだまだ未読の作家さんはたくさんいらっしゃいます。
全然読み切れない、というのが実のところでしょうか。

さて、本作の主人公は46歳、尾木遼平、元刑事。
ある事件で前科持ちとなってしまった彼は、
警察に復職できるわけもなく、妻とも離婚。
今はその日暮らしの警備の仕事。
ところが、親から譲られた古い家に、ふらりと舞い込んだ同居人が3人。
家はまもなく売りに出される予定とはいいながら、不思議な同居生活をしていたのです。
そんなところへある日また、家出中の少女が新たに転がり込んでくる。
彼女のおかげで家はなんとなく和み、疑似家族のような様相を呈してきたのですが、
そんな3日目、少女は殺人の容疑で逮捕されてしまう・・・。

 

尾木はやっかいごとに巻き込まれて、すぐに殴られたり蹴られたり・・・。
本作中も肋骨の骨折などがあって、身動きするのも大変そうなのに、
なんとか少女の濡れ衣を晴らそうと躍起になります。
・・・というか、そうしなければ組の者に殺されるかもしれない・・・と、
そんなタイムリミットまで背負ってしまうのです。

というわけで、ハードボイルドかつ、「家族」のほんのり感もある、
なかなか興味深い作品なのでした。

「同じ釜の飯を食う」などという言葉がありますが、
何度か家で食卓を共にすればぐっと親近感が増して、
家族のようになってしまうというのはわかります。

そして尾木たちのセリフがなかなかいいのですよ。
ちょっと皮肉めいてしゃれている。
むちゃくちゃびびるようなシーンも強がってキザなセリフ。
好きです、こういうの。

それで本作は、少女の濡れ衣を晴らすという目的で、
特に真犯人を捜すというストーリー運びではないのにもかかわらず、
最後には意外な犯人が浮かび上がるという、アクロバット的展開。

これ、伊岡瞬さんのデビュー作なんですよね。
全く驚かされます。

 

「いつか、虹の向こうへ」伊岡瞬 角川文庫

満足度★★★★.5

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