映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「黒武御神火御殿 三島屋変調百物語 六之続」宮部みゆき

2022年12月04日 | 本(その他)

スケールの大きな闇

 

 

* * * * * * * * * * * *

宮部みゆきのライフワーク、語り手を新たに新章スタート!

文字は怖いものだよ。遊びに使っちゃいけない――。
江戸は神田にある袋物屋〈三島屋〉は、一風変わった百物語を続けている。
これまで聞き手を務めてきた主人の姪“おちか”の嫁入りによって、
役目は甘い物好きの次男・富次郎に引き継がれた。
三島屋に持ち込まれた謎めいた半天をきっかけに語られたのは、
人々を吸い寄せる怪しい屋敷の話だった。
読む者の心をとらえて放さない、宮部みゆき流江戸怪談、新章スタート。

* * * * * * * * * * * *

宮部みゆきさん、三島屋百物語シリーズの6巻目。

まず、本作の題名「黒武御神火御殿」は、
どうにも、どう読んでいいのか分からないですよね。
「くろたけ ごじんかごてん」と読みます。
その意味するところは、まあ、実際に読んでもらう方がよさそうです。

その内容はあとに回すことにして、まずは本巻で大きな変化が。
これまで三島屋百物語の聞き手となっていたおちかが、
お嫁に行ってしまいました・・・!

前巻のラストで語られた、勘一の謎についてはそのまま、
勘一とおちかの胸底に秘めたままというのが心憎いですね。
とにかくそのため、聞き手の役割は三島屋次男・富次郎に引き継がれます。
そのトップの語り手は富次郎の幼馴染み。
ちょっと色狂いめいた話になりまして、
なるほど、こういう話の聞き手がおちかでは気の毒。
富次郎とバトンタッチした意義を明らかにします。

 

そして本作のなんといっても一番難関の話は、表題作「黒武御神火御殿」。
三島屋に持ち込まれた謎めいた半天から始まるストーリー。
なにやらご禁制の耶蘇教に絡む話のようなのです。

 

特に縁もゆかりもない数人の男女が怪しい屋敷に迷い込みます。
その敷地はとてつもなく広い林のようであり、湖のようでもあり、
不気味な魔物がいるようでもある。
そこをさまよってようやくたどり着く屋敷は、途方もなく広くて、
長い縁側や廊下が延々と続いていたり、広間がいくつもいくつも連なっていたり・・・。

そんな中で見つけた巨大な大広間のふすま絵に書かれていたのが、
もうもうと煙を噴き上げ、今にも噴火が起きそうな火山の絵。
いや、それは本当にただの絵なのか? 
その熱気、吹き出すガス、地震・・・
リアルにここに集まった人々の身に迫ってくるのです。

一体この屋敷は何なのか。
この人々は何のためにここに集められたのか。
やがて起こる悲劇。
結局のところ、この変異は「耶蘇教」がらみではあるけれど、
キリスト教特有の悪魔めいたものが登場するわけではなく、
これまでの百物語同様に人の恨みや辛み、
巨大な負の念が招いたことのようです。
これまでで一番スケールの大きい話だったかも。

図書館蔵書にて

「黒武御神火御殿 三島屋変調百物語 六之続」宮部みゆき

満足度★★★★☆


サイレント・ナイト

2022年12月03日 | 映画(さ行)

苦痛に耐えても、最後まで生き抜く覚悟はあるか?

* * * * * * * * * * * *

イギリス人夫婦ネル、サイモンと3人の子どもたちが田舎の屋敷で
クリスマスのディナーパーティーを開きます。
夫婦の学生時代の友人達とその家族が集まり、全12名の男女が再会を喜び合います。

・・・と、ここまではよくある話。
この人物たちのすったもんだの感情のもつれか何かの物語なのか?
とおもいきや、さにあらず。

今、地球全土にあらゆる生物を死滅させる謎の毒ガスが広がり、
明日にもこの地に到達するところなのです。
この人々は、毒ガスで苦しみもだえて死ぬよりも、
その少し前に安楽死できる薬“EXITピル”を飲み、
尊厳ある死を迎えようと決意して集まったのです。

ごちそうを食べながらも、まもなく迎える「死」の時を思い、皆穏やかではいられません。
特に、アート少年(ローマン・グリフィン・デイビス)は、
「安楽死なんておかしい。
毒ガスを吸ったら本当に死んでしまって、生きる可能性がないのかどうか、
誰にも分からない・・・」
と、素直な疑問をのぞかせて、自分はピルを飲まないと言い張ります。

そしてまた、ある女性は自分が妊娠していることに気がつきます。
ピルで自分が死ぬことはいいのだけれど、
それだと、お腹の子供も道連れに「殺す」ことになってしまう。
そんなことはできないから、ピルは飲まない、と彼女も決心します。

こんな時、私などは迷わずピルを飲んでしまいそうですけれど。
たとえ血反吐を吐きながらも、最後の最後まで「生きよう」という意志を持ち続けたいと思うことも自由。
生きることの意義、死ぬことの意味、色々考えさせられてしまいます。

そんなこんなで、ゴタゴタの夜。
いよいよ毒ガスの嵐が迫ってきて・・・。

人類最後のクリスマス・イブ。
これも、あまりにも人間に蹂躙された地球とその大自然の怒りの物語なのかも知れません。

 

えーと、このアート少年役は、「ジョジョ・ラビット」で印象的だったあの、
ローマン・グリフィン・デイビスくん。
なんと本作の監督カミラ・グリフィンの息子で、
作中のアートの双子の弟もまた、実際のローマンくんの弟だそうで・・・。
ホーム・ムービー???

 

< サツゲキにて>

「サイレント・ナイト」

2021年/イギリス/90分

監督・脚本:カミラ・グリフィン

出演:キーラ・ナイトレイ、マシュー・グード、ローマン・グリフィン・デイビス、
   アナベル・ウォーリス、リリー=ローズ・デップ

 

生の意味を探る度★★★★☆

人類の危機度★★★☆☆

満足度★★★☆☆


青の帰り道

2022年12月01日 | 映画(あ行)

誰もが未来を信じていた

* * * * * * * * * * * *

先に見た「余命10年」と同じく、藤井道人監督作品ということで。

 

2008年、東京近郊のある町。
高校卒業を控えた7人の男女。
気があっていつも集まってはわいわい言っています。
それぞれの未来を漠然と夢見ている。

 

その後
歌手を夢見て上京した者。
家族とうまくいかず、家を出た者。
受験に失敗して、地元で浪人生活に入った者。
できちゃった婚で、結婚を決めた者。
高校を卒業して、早くも道はそれぞれ別々に。

そしてそれからまた数年。
それぞれがそれぞれの道に行き詰まっていて、そのうちの一人は命を絶ってしまう。
もう、彼らの道は行き止まって浮上することはないのか、
また2度と交わることがないのか・・・?

 

冒頭、みずみずしい萌黄色の田んぼに流れてくるメロディ。
それは柔らかくほんのりと明るい。
そんな田んぼの中の一本道を、高校生7人が笑い合いながら自転車をこいで行く。
いかにも若く、未来はどのようにも開けている、
と予感させるのですが・・・。

 

そこを頂点として、ストーリーはどんどん沈み込んでいくのです。

自分の歌を多くの人に聴いてもらいたい、そんな夢を抱いたカナ(真野恵里菜)でしたが、
おかしな着ぐるみを着せられてCMソングを歌い、
多少の人気は出たものの、その後自分の歌は歌わせてもらえず、
すぐに飽きられていく・・・。

カナのマネージャーの仕事に就いたキリ(清水くるみ)は、
カナの望みを叶えてやりたくてもどうすることもできず、
また、悪い男に引っかかって貯金を取られ、暴力を振るわれ・・・。

カナと共に音楽をやりたいタツオ(森永悠希)は、しかし上京の手段だった受験に失敗。
親が医師なので医大を目指していたけれど、この先もどうも期待薄。
友人達はそれぞれ前進しているようなのに、自分だけ取り残されたように感じてしまう。

リョウ(横浜流星)は地元の工場で働くけれどやる気が起こらず、物資を盗んでクビ。
上京して特殊詐欺の半グレ集団に紛れ込む。

ところで、地元でできちゃった婚に踏み切った二人は、
最も地道に「親」となり、しっかりと大人になっていきます。
夢を持っちゃいけないというわけではないけれど、
多少「自由」を犠牲にしても得られる幸福はあるわけで・・・。
平凡も、生きる選択ではあるのでしょう。

 

リョウは、実は高校生の時から人生に夢など抱いていませんでした。
別にやりたいこともナシ。
その場その場で楽しければいいと、そんな感じ。
だから盗みがバレて仕事をクビになっても全然落ち込まず、
特殊詐欺もさして罪悪感も抱かず、すぐに水に馴染む。
まあ、ワルではあるのですが、彼は悩まない。
しょうもないヤツなんですが、結局カナの最後のピンチを救うのが彼だったりする。

まさに、人生色々。
考えてみると、学校時代というのは、将来のそれぞれ千差万別の道を進む者たちが
「同一」でいられる希有な時期なんですね。

それぞれの修羅場を乗り越えて、彼らは再び故郷で出会う。
それはやはり柔らかな萌葱色の田んぼの一本道。
一人欠けているのがいかにも淋しいけれど・・・。

同じ高校の現役高校生達のグループが、笑い合いながら通り過ぎる。

 

時の流れの郷愁と少しの苦み。
そしてほんの少しの希望。

ステキな作品です。

 

<WOWOW視聴にて>

「青の帰り道」

2018年/日本/120分

監督:藤井道人

原案:おかもとまり

出演:真野恵里菜、清水くるみ、横浜流星、森永悠希、秋月三佳、富田佳輔、平田満

 

みずみずしさ★★★★☆

苦悩度★★★★☆

満足度★★★★☆


グリーン・ナイト

2022年11月30日 | 映画(か行)

文明や歴史を飲み込もうとする自然の力と向き合うこと

* * * * * * * * * * * *

J・R・R・トールキンが現代語訳したことで知られる
14世紀の叙事詩「サー・ガウェインと緑の騎士」を映画化したもの。

アーサー王の甥であるサー・ガウェイン(デブ・パテル)は
酒浸りで自堕落な日々を送っていました。
「騎士」にもなれていません。
そんなクリスマスの日、円卓の騎士が集う王の宴に異様な風貌をした“緑の騎士”が現れ、
恐ろしい首切りゲームを持ちかけます。
「この中の誰か、我こそと思う者は、今ここで私の首を切り落とせ。
そしてその代わりに一年後のクリスマスに、私の屋敷に来るように。
その時に、私がそのものの首を切り落とす。」
というのです。

ガウェインは挑発に乗り、緑の騎士の首を切り落としますが、
騎士は転がった首を拾い上げて去ってしまいます。

さて、一年後。
約束を果たすためにガウェインは緑の騎士の居所を訪ねて、
未知の世界へ踏み出します・・・。

さてさて、なんとも不思議な物語です。
これってゲーム!?と、まず首をかしげたくなりますが、
つまりはガウェインの勇気を試そうという話なのでしょう。

一年後、自らの死を覚悟しながら、ガウェインは旅立つのか。
本当に緑の騎士の元まで行こうとするのか・・・?

ちょっと、走れメロスのようでもあると思ってしまいました。
ただし、身代わりの友が待っているわけでもない。
ただひたすらに、自分の「名誉」のためだけに命をかけることができるのか。
・・・つまり、それが「騎士」であることの資格なのかも知れません。

さてそれはそれとして、とある解説で、
本作にて<緑>は「自然」を、<赤>は「文明」を表わしているというのがありました。
すなわち緑の騎士とは、人の前に立ちはだかる大自然の象徴。
それと対峙する人間、そしてその代表であるガウェインが文明の象徴。

人によって自然は簡単になぎ倒されてしまうけれども、
しかしじきに復元していく。
そしてその勢いは時には人を押しつぶす。
大自然の力に抗おうとするからには、自らの生命が脅かされることも覚悟しなければならない・・・と、
そんなことを言っているようにも思えます。

でも物語の舞台の14世紀、人が自然に抗おうとするといってもたかが知れています。
せいぜいが、少しの森を切り開くくらい。
だから、この物語は現代でこそ意義があるのでは?

あらゆる開発や、二酸化炭素の放出、あふれるプラスチックゴミ・・・
大自然にさからう人の営みがいま、強烈なしっぺ返しを受けていると、
常々感じるところではありますので。

幻想的で不思議な物語。
独特の雰囲気があります。

 

<シアターキノにて>

「グリーン・ナイト」

2021年/アメリカ・カナダ・アイルランド/130分

監督・脚本:デビッド・ロウリー

出演:デブ・パテル、アリシア・ビカンダー、ジョエル・エドガートン、サリタ・チョウドリー、
   ケイト・ディッキー、ラルフ・アイネソン、ショーン・ハリス

幻想度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


「イリノイ遠景近景」 藤本和子

2022年11月29日 | 本(エッセイ)

様々な人の生き様が共感を呼ぶ

 

 

* * * * * * * * * * * *

刊行後即重版! 名翻訳者による、
どこを読んでも面白いエッセイの傑作。

近所のドーナツ屋で野球帽の男たちの話を盗み聞きする、
女性ホームレスの緊急シェルターで夜勤をする、
ナヴァホ族保留地で働く中国人女性の話を聞く、
ベルリンでゴミ捨て中のヴァルガス・リョサに遭遇する……
アメリカ・イリノイ州でトウモロコシ畑に囲まれた家に住み、
翻訳や聞書をしてきた著者が、人と会い、話を聞き、考える。
人々の「住処」をめぐるエッセイの傑作。 

* * * * * * * * * * * *

 

藤本和子さんというのは、正直私にはなじみのなかった方なのですが、翻訳者なのですね。
アメリカの方と結婚して、現在も米イリノイ州在住。
83歳。

本書はエッセイ集ですが、「小説新潮」に1992年~1993年に連載されたものが
単行本として1994年に刊行され、それがさらに文庫化されたものです。

というわけで、今から30年ほども前に書かれたものながら、
その内容はちっとも古びてはおらず、今もハッとさせられることが多いのです。
多くは人と出会い、その話を聞いたことを紹介しています。
それも、いわゆる成功者や著名人のインタビューではなく、
ごく一介の人々や、特異なことを成し遂げた人。

 

ナヴァホ続保留地で働く中国人女性の話、先住アメリカ人の陶芸家の話・・・。
藤本さんはあまり多くは語らず、相手の言葉――生きる思いを
するすると引き出しているように思われます。

中でも、第二次大戦中、ユダヤ人でありながら自らをドイツ人であると偽り、
ヒトラー・ユーゲントに入隊してしまったというソロモン・ペレルの話は圧巻でした。
このことは「ヨーロッパ、ヨーロッパ」という映画にもなった有名な話のようですが、
少なくとも私は知りませんでした。
しかし、ユダヤ人でありながらユダヤ人を差別し虐待する役割をしなければならない
というその心中は、たやすくは語ることはできないと思うのですが、
藤本さんは本音を聞き出せていると思います。

 

その他、ホームレスシェルターで夜勤をする話、
広大なトウモロコシ畑に囲まれた家での暮らしの話
・・・興味深いことばかり。

大切な一冊となりました。

 

「イリノイ遠景近景」 藤本和子 ちくま文庫

満足度★★★★★