映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ある愛へと続く旅

2015年05月18日 | 映画(あ行)
息子こそが大きな愛の証



* * * * * * * * * *

ローマ、16歳の息子ピエトロと暮らすジェンマ(ペネロペ・クルス)。
サラエボの旧友ゴイコから誘いの電話を受け、
息子とともにサラエボを訪れることにします。

今は亡きピエトロの父ディエゴ(エミール・ハーシュ)とは、そこで知り合ったのです。



さて、ストーリーが進むうちにジェンマと息子ピエトロの
複雑な親子の事情が明らかになって行きます。
サラエボで出会ったディエゴはいつも明るいアメリカ人で写真家。
出会うなりディエゴは彼女に求愛。
やや時を経て二人は結婚するのですが、
待望の子供がなかなかできない。
やがてジェンマが極めて妊娠が難しい体であることがわかります。
しかしどうしても子供がほしい二人は、
かつてであったサラエボの地で、代理母を探します。
ディエゴは代理母となる女性と会うことになったのですが・・・。
そんな折、戦争が勃発。
混乱の中、結局何もできなかったとディエゴは告げ、二人は帰国。
しかし、その時から明らかにディエゴは変わっていくのです。
自分の不妊故にディエゴの愛がさめてしまったのだろうかと訝しむジェンマ。
数カ月後、再びサラエボへ向かう二人ですが、
ジェンマはある女性の出産を目撃することになる・・・。



人を愛すれば、2人の愛の証でもある子供を欲しいと思うのは当然のこと。
昨今はそれを特に望まないということも多いですが、
この二人の場合は狂おしいほどに子供が欲しくてたまらない。
実際この二人の間の子ならば
有り余るほどの愛を受けて、幸せに成長するだろうなあ・・・と思えるのです。
けれどもその道を絶たれた二人。
結婚生活に影がさすのも仕方がない・・・。
けれど、実はこの場合、ディエゴはもっと別のことで心を悩ませていたのだ
ということが最後の最後に明かされるわけです。



戦争が狂わせた人の運命のストーリーの一つ。
ドラマチックです。
情念の人を演じればピカイチのペネロペ・クルス。
若き日から、中年のおばさままで・・・
ホント、最近のメイクの技術は素晴らしい!!

ある愛へと続く旅 [DVD]
ペネロペ・クルス,エミール・ハーシュ,ジェーン・バーキン,アドナン・ハスコビッチ,サーデット・アクソイ
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン


「ある愛へと続く旅」
2012年/イタリア・スペイン/129分
監督・脚本:セルジオ・カステリット
原作:マルガレート・マッツァンティーニ
出演:ペネロペ・クルス、エミール・ハーシュ、アドナン・ハスコビッチ、サーデット・アクソイ
歴史発掘度★★★☆☆
ドラマチック度★★★★☆
満足度★★★★☆

ルパン三世

2015年05月17日 | 映画(ら行)
ま、いいんじゃないでしょうか・・・



* * * * * * * * * *

アニメで十分なのになんでわざわざ実写化?
と思ってしまった本作、
だから公開時は見ていなかったのですが、このたびレンタル視聴です。


クレオパトラの秘宝を盗み出すため
鉄壁のセキュリティを誇る要塞に挑む、ルパンとその仲間たち・・・、
ということで、実のところストーリーはどうでもいいのかな?と。
ひたすら、小栗旬さんのルパンと玉山鉄二さんの次元、
そして、綾野剛さんの五エ門、
この三人を見ているだけで楽しい、それだけのための作品だったような。







皆大好きなのでそれはそれでOKです。
特に、綾野剛さんの石川五右衛門はカッコ良かったなあ。
三人並んで串団子を食べてるシーンなんか最高です!



黒木メイサさんの峰不二子は、それはそれでステキなのですが、
なんかちょっとイメージが違う。
だからといってほかの誰とも思いつきませんが。

そうそう、浅野忠信さんの銭形警部、これは意外といい。

キレるけれどもやや三枚目。
そこが本人のイメージとやや違うところに意外性があって、
これは逆によかった。
本作、俳優さんたちが一番楽しんだのかも・・・・。

ルパン三世 DVDスタンダード・エディション
小栗旬,玉山鉄二,綾野剛,黒木メイサ,浅野忠信
エイベックス・ピクチャーズ


「ルパン三世」
2014年/日本/133分
監督:北村龍平
原作:モンキー・パンチ
出演:小栗旬、玉山鉄二、綾野剛、黒木メイサ、浅野忠信

満足度★★.5

ブラックハット

2015年05月16日 | 映画(は行)
アクション系ハッカー



* * * * * * * * * *

何者かのネットワーク不法侵入により香港の原子炉が爆破され、
アメリカの金融市場も大打撃を受けます。
そこで、アメリカ・中国の異例の共同捜査を進めることに・・・。

中国のチェン捜査官(ワン・リーホン)は、
かつての大学時代の友人である天才プログラマー・ハサウェイ(クリス・ヘムズワース)に注目。
彼は違法なハッキング行為により投獄されていたのですが、
釈放を条件にこの事件の解決に協力することに。
捜査を進めるうちにネットワーク不法侵入犯罪の裏に、
凶悪な武装集団の影が見えてきます・・・。



香港、マレーシア、ジャカルタ・・・
アジアを舞台に駆け巡りアクションも満載。
多くの場合、天才プログラマーだのハッカーだのは、オタク系が多いですよね。
ちょっと根暗だったり、太っちょだったり、
もしくは若干ひ弱そうであったり・・・。
ところがこの配役を見てもわかるように
このハサウェイ、獄中でも筋トレを怠らない肉体派。
アクション系ハッカーとはまあ、なんと欲張りな・・・。



そんなわけで、はじめの原子炉爆破のあたりは
若干社会派作品?と思えたのですが、
途中からは完璧にアクション作品です。
異色なのは、ほとんどがアジアを舞台としたこと、
中国人捜査官との友情、そしてその妹とのラブストーリーもからめたあたり。
難なく西洋と東洋が融合しているのが、東洋人として心地よい感じ。



中盤以降で、虚を突かれるようなショックなシーンがあります。
チェン捜査官、ステキだったのに~!! 
映画の中の爆発音で本当にビクッとしてしまうというのも珍しい体験でした。
クリス・ヘムズワースはアクションはさすがですが、
やっぱりあんまり天才ハッカーには見えないけど・・・。
でも私は、コスプレでないクリス・ヘムズワースを断然応援します!



「ブラックハット」
2015年/アメリカ/133分
監督:マイケル・マン
出演:クリス・ヘムズワース、ワン・リーホン、タン・ウェイ、ビオラ・デイビス、ホルト・マッキャラニー
アクション度★★★☆☆
国際度★★★★☆
満足度★★★.5

「私と踊って」 恩田陸

2015年05月14日 | 本(SF・ファンタジー)
シュール&ノスタルジー&ちょっぴりの恐怖

私と踊って (新潮文庫)
恩田 陸
新潮社


* * * * * * * * * *

パーティ会場でぽつんとしていた私に、
不思議な目をした少女が突然声をかける。
いつのまにか彼女に手をひかれ、私は光の中で飛び跳ねていた。
孤独だけれど、独りじゃないわ。
たとえ世界が終わろうと、ずっと私を見ていてくれる?
―稀代の舞踏家ピナ・バウシュをモチーフにした表題作ほか、
ミステリからSF、ショートショート、ホラーまで、
彩り豊かに味わい異なる19編の万華鏡。


* * * * * * * * * *

ミステリであり、SFであり、ホラーでもある
恩田陸さん真骨頂の珠玉短篇集。
やっぱり好きですね。


「少女界曼荼羅」
なんともシュールで幻想的です。
世界が少しづつゆっくり動いている。
学校の教室も徐々に移動しているので、
受けたい授業の教室が見つからずに困ったり、
道がせり出したり公園が押し寄せたり・・・。
アニメの映像を見てみたい気がしますね。
しかし、これでは一度家を出たらもう帰ることができなくなってしまいそう。
帰宅難民で溢れそうです。


「火星の運河」
火星ではなくて台湾が舞台のストーリーです。
天蓋のように、運河の上を木の枝が覆っているトンネルの中を舟がゆく。
「タイムトンネル」の中を通っているように感じる「私」。
いつしか、舟の中に一人の女が立っている。
それは、遠い昔の故郷の幼なじみ。
その頃、ほんの少し彼女に憧れを抱いていた私は、
いつか将来自分が映画監督になったら彼女の映画を撮ると約束したのだったけれど・・・。
ノスタルジーと悲しみと
ほんの少しの恐怖が交差する、印象深い一作。

「私と踊って」 恩田陸 新潮文庫
満足度★★★.5

WOOD JOB (ウッジョブ)神去なあなあ日常

2015年05月13日 | 映画(あ行)
山の空気感



* * * * * * * * * *

三浦しをんさんの原作は大好きでしたが、映画は見逃していました。


大学受験に失敗、彼女にもフラれた平野勇気は、
ふと林業研修プログラムのパンフレットに目をひかれます。
表紙に写っている爽やかそうな美女の写真につられるように、
研修に参加することにした勇気。
ちゃらんぽらんな18歳男子が、ケータイの電波も届かない神去村で、
荒くれ男たちにもまれながら林業の見習いをするはめに。

しかし、作中にもありましたが、
真っ先に逃げ出すかのように見えながらも、勇気はよく耐えた!!
そこは“表紙の美女”につられて・・・という名目ではありますが、
これが「自然が好きだから」とか「ロハスな生活に憧れて」
などというご大層な動機よりもずっといい。



大好きな本の映画化作品というのは、
時々なんでわざわざ映画化する必要があったのか?と
思ってしまうものがあるのですが、本作はよかった。
ちょっと畏れ多いような山の空気感、
もちろん三浦しをんさんもそこは巧みに表現していますが、
映像ではいっそうそれがよく感じられます。
山=自然=神、そんな図式が、
特に言葉を用いなくても感じられる、心憎い出来であります。
コメディ味も大げさすぎなくてよし。



伊藤英明さんのヨキもなかなか決まっています。
ふんどし姿の伊藤英明さん、そして染谷将太さん、
これが又ヨシ!!
最後のお祭シーンも圧巻でした。

あの大木を倒すシーンなども、チョッピリ感慨を持ちました。
一体どれくらいの樹齢なのだろう・・・。
それを切るのは何年かに一度のお祭の時だけで、その前には禊の儀式もある。
過去から樹を切ることを生業としてきた人々が、
ただ切るだけではなく、大切に樹を守り、育ててもきたのだということがわかります。
都会から来た勇気が、次第に心が都会を離れ、
山の空気に感化されていく。
合わせて職業人としても成長していく様、
清々しく気持ちのよい作品でした。



「WOOD JOB (ウッジョブ)神去なあなあ日常」
2014年/日本/116分
監督:矢口史靖
出演:染谷将太、長澤まさみ、伊藤英明、優香、西田尚美
山の空気感★★★★★
お仕事小説度★★★★★
満足度★★★★☆

脳内ポイズンベリー

2015年05月12日 | 西島秀俊
さあ、どっち???



* * * * * * * * * *

本作は、西島秀俊さん出演ということで楽しみにしていたんだよねー。
はい、真木よう子さんも好きなので、これは絶対見逃せません!
水城せとなさんのコミックが原作、ということで西島秀俊さんとしても異色作。



櫻井いちこ(真木よう子)は、ネットの連載小説作家なんだよね。
 ある日、以前に食事会で出会って、ちょっといいなあ・・・と思った年下の青年・早乙女(古川雄輝)とバッタリ出会います。
 まずは声をかけるべきや否や・・・、
 彼女の頭の中でてんやわんやの脳内会議が繰り広げられます。
 本作はその頭のなかの会議が実態として描写されるわけですね。
「理性」で議長でもある吉田(西島秀俊)

「ネガティブ」池田(吉田羊)

「衝動」ハトコ(桜田ひより)

「ポジティブ」石橋(神木隆之介)

「記憶」岸さん(浅野和之)

 しかし、それぞれの主張が食い違い、議長は迷いに迷いなかなか決断できない。
そんなわけで、西島秀俊さんの優柔不断男の百面相が楽しめるのであります!


本作、なんだか非常に納得できてしまうんだよね。
誰もがほんの瞬時にこんな風に色々な思いを駆け巡らせながら、言葉を発しているのだと思う。
確かにそうだよね~。
 とくにこれ、まさしく女性の考え方のような気がするから、
 逆に男性にとっては、女性心理のメカニズムの勉強になるかもしれない。
ここでは、いちこの脳内会議が描かれているわけだけど、
 早乙女や越智の脳内会議も見てみたい気がするよ。
そうだね、特に、いつも何を考えているのかよくわからない早乙女の頭のなかは気になる。
うーん、つまり人それぞれの脳内ではあるけれど、
 それぞれに強いキャラというのがあるのかもしれない。
いちこの場合は、「ネガティブ」が強いんだよね。
そ、吉田羊さんには迫力があった!!
「ポジティブ」なんか、神木隆之介くんがすご~く頑張っていたけど、
 途中死んでたし・・・。
 アート系男子の早乙女は、多分、「衝動」が強いのかな?

私は「衝動」と言うよりは、むしろ「情動」というべきのような気がする。
 ハトコちゃんは、感情主体だもんね。
となれば、越智さんはやはり「理性」の人。
 この人は感情をあらわにしたほうが、むしろステキにみえてくるから面白い。

早乙女か、越智か。
さあ、どっち!!


結末がなかなか予測がつかないところが、良かったよね。
そして、いよいよのその決断もまた・・・。


岸さんの「記録簿」にはところどころ「暗黒付箋」が貼ってある。
 決して思い出したくない、思い出してはならない記憶。
しかし、そう思えば思うほど、忘れられないものなのね~。
そうだよ、暗黒付箋なんか貼ったら、余計目立つでしょうが。


まあそんなわけで、虚構ではありながら、妙に説得力のある楽しい作品でしたねえ。
真木よう子さん、西島秀俊さんの起用はまず成功と言っていい。

あ、ところで脳内会議に突然侵入してきた怪しい女っていうのは何者?
まあ言わずもがなですが、それはやはり「女の本能」というやつなのでしょう。多分。

「脳内ポイズンベリー」
2015年/日本/121分
監督:佐藤祐市
原作:水城せとな
出演:真木よう子、西島秀俊、古川雄輝、成河、吉田羊、桜田ひより、神木隆之介、浅野和之

説得力★★★★★
コミカル度★★★★☆
満足度★★★★★

ハミングバード

2015年05月10日 | 映画(は行)
裏社会を生きる男と、バレリーナになりたかったシスター



* * * * * * * * * *

戦場で犯した罪から逃れるように、
ロンドンの裏社会でひっそり生きていたジョゼフ(ジェイソン・ステイサム)。
彼がただ一人心を通わせていた少女が拉致され、姿を消してしまいます。
ジョセフは長期間留守をしている人物の家に侵入し、
その人物になりすましながら、少女の行方を探します。

そんな中で、ホームレスに食事を振る舞うシスター(アガタ・ブセク)と親しくなっていく。

ジョゼフは裏社会の危ない仕事で得たお金を
ホームレスや別れた妻子に分け与えるのです。
正義というよりも、この場合は自分自信の過去に対しての贖罪か。
シスターはロシア出身で、
彼女がシスターになった理由というのにもまた、悲しい物語が・・・。
実はバレリーナになりたかったシスター。
と言ってしまうと相当突拍子もないのですが、
でもこのストーリー中ではとても効果的なエピソードとなっています。
赤いドレスを身につけて酔っ払うシスターがなんとも愛らしく印象的。



ハミングバードというのは、戦場に放たれる無人偵察機のこと。
プロペラの羽音を鳥の羽音に例えているわけです。
つまり、今話題の「ドローン」ですか。
本作に登場するのは普通に「飛行機」の形をしたものでしたが。
戦場でのトラウマを抱えたジョセフは、
時折家の中でもハミングバードが飛び交っているのを見、音を聞くのです。
このシーンもまたいい。



バイオレンスとアクション、そしてロマンスをも加味。
なかなか楽しめる一作でした。
ラストも安っぽいハッピーエンドにならないところがマル。


ハミングバード [DVD]
ジェイソン・ステイサム,アガタ・ブゼク,ヴィッキー・マクルア,ベネディクト・ウォン,ジャー・ライアン
Happinet(SB)(D)


「ハミングバード」
2013年/イギリス/100分
監督:スティーブン・ナイト
出演:ジェイソン・ステイサム、アガタ・ブセク、ビッキー・マクルア、ベネディクト・ウォン

アクション度★★★☆☆
ロマンス度★★★★☆
満足度★★★★☆


「黄色い水着の謎 桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活2」 奥泉光

2015年05月09日 | 本(ミステリ)
クワコーの夏

黄色い水着の謎 桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活2 (文春文庫)
奥泉 光
文藝春秋


* * * * * * * * * *

夏。
文芸部の女子学生を引き連れて海に合宿へ赴いた桑潟幸一准教授に怪事件が降りかかる。
女子部員の水着が消失、羽衣伝説のある岩で発見されたのだ。
日頃の行ないゆえ、容疑はクワコーに!
表題作と、答案用紙消失の謎をめぐる「期末テストの怪」を収録。
笑いの地雷を敷きつめた傑作ユーモア・ミステリ。


* * * * * * * * * *

でました、クワコー第二弾。
クワコーこと桑潟幸一准教授。
千葉県権田市「たらちね国際大学」勤務。
40歳。独身。
給料月額手取り110,350円。


そうそう、思い出しました。
あまりの給料の少なさに、食費を切り詰めるべく
極力安くスーパーの品を買いもとめ、
工夫して自炊していたりする、
いじましくもなかなか器用なクワコーなのでした。


今回は、試験の解答用紙紛失の謎と、
文芸部が海へ合宿に行った際に起こる水着消失の事件、
二つの短編が収められています。
やはり謎をとくのはクワコーではなく、
あの、ホームレス女子大生ジンジン。
しかし、そもそもこの「たらちね国際大学」にはろくな教授陣が揃っておらず、
クワコーなどまだましな方に思えてくるから不思議です。
意外と、文芸部の学生たちには大事にされていますよね。
というかおもちゃにされているのかもしれないけれど、
少なくとも嫌われてはいないような・・・?


私はモンジくんのしゃべりにいちいちウケてしまいます。
実際目の前にこんな喋り方をするやつがいたら
イライラして蹴飛ばしたくなるかもしれないけれど・・・。


また、これまでザリガニなど食べてみたいなどと思ったこともないのですが、
クワコーの食べ方を読むうちになんだか食べてみたくなってしまいました。
クワコーの清貧な食事風景。
これもまた本作の魅力の一つなのであります。


「黄色い水着の謎 桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活2」
奥泉光 文春文庫

満足度★★★★☆

フォーカス

2015年05月08日 | 映画(は行)
名うての詐欺師も恋の駆け引きは苦手



* * * * * * * * * *

詐欺師集団を束ねるニッキー(ウィル・スミス)は
未熟な女性詐欺師ジェス(マーゴット・ロビー)をチームに入れて育て上げます。

もともと、恋愛は仕事の足かせになると考えていたニッキー。
彼女に惹かれていく自分を意識しながらも、
ある大きな山を成功させた後、あえて別れることに。
しかし数年後、
ブエノスアイレスのモーターレース場で二人は再会。
世界の大富豪を巻き込んで、混戦模様の騙し合いが繰り広げられる・・・。



ニッキーは名うての詐欺師でありながらも、恋の駆け引きは苦手のようです。
というか、こんなに女性に対して純情で、詐欺師なんか務まるのか?
と思えるほど。
そこのところはやっぱり女のほうが上手なのかも。
でも、やっぱり最後の最後に明かされる大きなダマシには
ちょっと虚を突かれた感じで、驚かされました。
しかし伏線は確かにあったのですね。
いきなりの発砲シーンで、そのことが頭をよぎりました。
こんな風にダマされると、なんだか逆に爽快です。



フォーカスとは「視点」のこと。
人の注意を外らせてその人が身につけているものをすりとる。
ほとんど手品ですね。
大金持ちを相手に賭けを吹っかける場面では、
いきあたりばったりではなく入念に仕掛けを作るという凄さも堪能しました。

・・・うーん、だけど、ほんとにこんなにうまくいくわけない・・・
という疑問をも持つ所。
どうなんでしょ・・・?



それをいっちゃあ、おしまいか。

「フォーカス」
2015年/アメリカ/105分
監督・脚本:グレン・フィカーラ、ジョン・レクア
出演:ウィル・スミス、マーゴット・ロビー、ロドリゴ・サントロ、ジェラルド・マクレイニー、エイドリアン・マルティネス

騙し度★★★★☆
満足度★★★☆☆

美女と野獣

2015年05月06日 | 映画(は行)
心優しく、強く、くじけないベル



* * * * * * * * * *

物語を産んだ本家フランスによる実写化作品。
そう言えば私、劇団四季のミュージカルもディスニーのアニメも見ていないので、
比較できないのが残念ですけれど・・・。



バラを盗んだ父の罪を背負い、野獣の城に閉じ込められた娘・ベル。
城の主である野獣は毎夜ディナーを共にすること以外は
何も彼女に強要せず、自由にさせます。
そして少しずつ、この城での過去の出来事や
野獣の犯した罪が明かされていきます。
次第に野獣に親しみを覚えていくベル。
ある日、一日だけ家へ帰ることを条件に、ダンスを踊る二人・・・。


ファンタジーなので、こんなものでしょう。
名優ヴァンサン・カッセルとレア・セドゥーのコスプレが見られるのが儲けものという感じです。
心優しく、そして強くくじけない女性ベル。
これは好き!
でも、ベルが野獣を愛するようになる経緯を
もう少し細かくエピソードを重ねて納得させて欲しかったとは思います。

「美女と野獣」
2014年/フランス・ドイツ/113分
監督:クリストフ・ガンズ
出演:ヴァンサン・カッセル、レア・セドゥー、アンドレ・テュソリエ、イボンヌ・カッターフェルト

満足度★★★☆☆

「あと少し、もう少し」瀬尾まいこ 

2015年05月05日 | 本(その他)
走るのは一人でも、繋がる心

あと少し、もう少し (新潮文庫)
瀬尾 まいこ
新潮社


* * * * * * * * * *

陸上部の名物顧問が異動となり、
代わりにやってきたのは頼りない美術教師。
部長の桝井は、中学最後の駅伝大会に向けてメンバーを募り練習をはじめるが…。
元いじめられっ子の設楽、不良の大田、頼みを断れないジロー、
プライドの高い渡部、後輩の俊介。
寄せ集めの6人は県大会出場を目指して、襷をつなぐ。
あと少し、もう少し、みんなと走りたい。
涙が止まらない、傑作青春小説。


* * * * * * * * * *


中学生の駅伝大会に出場するメンバーたちの物語。
駅伝といえば、やはり三浦しをんさんの「風が強く吹いている」を思い出してしまいますが、
こちらは中学生で、だから箱根駅伝みたいなビッグなイベントではなくて、県大会。
駅伝というのは走者一人ひとりの走りに合わせて、
各々の胸の内を描写していくという形がよく似合います。
「風が強く・・・」の方もそうでしたが、
こちらの中学生の思いも一人ひとり個性的でリアルです。
そもそも少年少女が主役のストーリーが大好きなもので・・・。


元いじめられっ子で内気の設楽。
不良を気取る一匹狼的大田。
人からの頼み事を断ることができないジロー。
プライドが高くいつも自分流の渡部。
元気いっぱいの一人だけ後輩・俊介。
そして彼らを取りまとめる、リーダーシップと気働きの人、桝井。
それぞれの自分で思っている自分像と、
他者から見た自分像のギャップ、これが面白い。
気になってしまうのは、ここの所、走りが不調の桝井くん。
彼は誰にでも気さくに話しかけ、人を引きつける優等生タイプ。
でも自分がちゃんとして、このチームを何とかしなければ・・・と
そういう責任感にとらわれすぎているようにも見受けられるのですね。
それでいよいよ大会直前というような時期に
思わず彼らしからぬ暴言をはいてしまったりする。
この彼の内心は一体どうなのだろうと、一番気になるところなのですが、
彼が走るのは最終6区。
その答えは最後までお預けというのも、よく出来ています。


また、陸上部の新顧問は、全く競技のことを知らない美術教師の上原。
彼女も、駅伝のことはよくわからないまでも、
なかなか洞察力鋭く、子どもたち一人ひとりをよく見ています。
こんなふうな、ぼんやりした雰囲気の先生というのも
ちょっと貴重だと思ったりもします。
ガンガン怒鳴りまくる体育会系ではなくて。


駅伝は走るときは一人だけれども、
人とつながらなくてはできない競技なのですね。
それぞれが自分とは何者なのか、そういうことを見つめるこの年頃。
それは自分自身だけではなくて、
他者との関わりの中で見えてくる部分も大きいのだと思います。
仲間と自分。
そういうあり方を見つめる物語です。
文庫版の解説は三浦しをんさん。
なるほど、納得。

「あと少し、もう少し」瀬尾まいこ 新潮文庫
満足度★★★★☆

グッド・ライ いちばん優しい嘘

2015年05月04日 | 映画(か行)
人を助けるための嘘



* * * * * * * * * *

1983年 スーダンの内戦で
10万人の人々が住む家を失い、難民となりました。
本作に登場する3人の男たちは、子供の頃内戦で両親を失い、
兄弟たちだけでスーダンからエチオピア、そしてケニアまでの
過酷で壮大な旅を成し遂げ、
ようやく難民キャンプにたどり着いたのです。
それから10数年後、
アメリカで、難民キャンプにいる彼らを全米各地へ移住させるという計画が立ち上がり、
実行に移されました。
本作はこの実際に行われた計画を元にしています。



希望者多数の中から奇跡的に選ばれた彼らが、
アメリカのカンザスシティにやってきます。
空港で出迎えたのは、職業紹介所に勤めるキャリー(リース・ウィザースプーン)。

電話を見たこともなく、仕事につくための面接もトンチンカンな彼ら。
始めはちゃちゃっと片付けるつもりのキャリーが、
彼らの面倒を見るうちに
次第に彼らとの友情が芽生え、ひとつの大きな決断をすることになる。
笑いと涙の感動の物語です。



難民キャンプからいきなりアメリカの都会へ。
このカルチャー・ショックは大きいですね。
でもそれぞれみな、とても頑張っていたと思います。
スーダンから来た3人の男と言ってしまえば、いかにも十把一絡げですが、
実は一人ひとり際立った個性があって、それぞれに違う。
まあ、あたりまえのことではありますが、
そういう視点がついおざなりになりがちのような気がします。
本作はそんなところもきちんと描かれていたのが良かった。

しかもこの中の一人は、ケニアへの旅の途中で姿を消した兄のことを
自分の責任と思い、その後悔をずっと胸にしまいこんでいたのです。
牛が見たくなったと牧場へやってきて、その思いを思わず吐露するシーンに胸を突かれました。


本作で言う「グッド・ライ」は最後の最後に意外な形で示されますが、
これには本当に驚かされます。
自分のことは構わないで、人を救おうとする強い思い。
たしかにそれは以前お兄さんが示してくれたものでした。
アメリカのこの移住計画が、あの9.11同時多発テロ事件に影響され、
中断されてしまったというのがいかにも残念です。
政治の壁というのは、時にはこんなふうに家族の絆も何かも断ち切ってしまう。
そういうことも私達は再度認識するべきですね。



ともあれ、おススメ作です!!

「グッド・ライ いちばん優しい嘘」
2014年/アメリカ/110分
監督:フィリップ・ファラルドー
出演:リース・ウィザースプーン、アーノルド・オーチェン、ゲール・ドゥエイニー、コリー・ストール、エマニュエル・ジャル

歴史発掘度★★★★★
笑いと涙度★★★★☆
満足度★★★★★

記憶探偵と鍵のかかった少女

2015年05月03日 | 映画(か行)
妻を亡くした中年男 VS したたかな美少女



* * * * * * * * * *

ジョン・ワシントン(マーク・ストロング)は、記憶探偵の仕事についています。
他者の記憶に潜入し、過去に起こった状況をそのまま目撃する
という特殊能力を持った者だけがこの任務に付くことができるのです。
彼はこの能力でこれまでに多くの犯罪者の逮捕に貢献してきました。



さて、このたびは16歳アナ(タイッサ・ファーミガ)の記憶を探ることを依頼されたジョン。
並外れて高い知能指数を持つこの少女は、
過去に同級生3人の殺人未遂を起こしたとされているのですが、本人は否定。
真実も追求されないままに、自宅で監禁に近い生活を余儀なくされているのです。

多少性格がゆがんでいると感じられるこの少女は、
幼少時に受けたなんらかの虐待のトラウマを抱えているのではないかという予測のもとに、
ジョンは、彼女の記憶への潜入を図りますが・・・。
回を重ねるごとに、次第に少女に翻弄されていくジョン。
果たして真実はいかに・・・。



記憶というのはどうもいい加減のもののようです。
人は自分の思いを美化したがるものだし、はじめからの思い違いだってある。
だから記憶イコール真実というわけではないのですね。
そしてまたこの探偵役ジョンは、シャーロック・ホームズのように
僅かな手がかりからスルスルと謎をといたりはしないのです。
そもそも本人が奥さんを亡くすというつらい過去を抱えており、
人の記憶を探っているうちに自分のトラウマの記憶と重なってしまうという失敗を犯し、
しばらく休んでいたのです。


中年男の精神の脆さに対して知能の高い少女のしたたかさ・・・、
これはもう、始めから勝負はついていたのかも。



サスペンスと言うよりほとんどホラーに近い不気味さ、怖さがあります。
予測不能でミステリアス!!
この雰囲気は、悪くない。

記憶探偵と鍵のかかった少女 ブルーレイ&DVDセット (初回限定生産/2枚組) [Blu-ray]
マーク・ストロング,タイッサ・ファーミガ,サスキア・リーヴス,リチャード・ディレイン,インディラ・ヴァルマ
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント


「記憶探偵と鍵のかかった少女」
2013年/アメリカ/99分
監督:ホルヘ・ドラド
出演:マーク・ストロング、タイッサ・ファーミガ、ブライアン・コックス、サスキア・リーブス、リチャード・ディレン

ミステリアス度★★★★★
満足度★★★.5

「犯罪」フェルディナント・フォン・シーラッハ 

2015年05月02日 | 本(ミステリ)
犯罪に駆り立てられる人々の心のミステリ

犯罪 (創元推理文庫)
酒寄 進一
東京創元社


* * * * * * * * * *

【本屋大賞翻訳小説部門第1位】
一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。
兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の末っ子。
エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗。
──魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。
弁護士の著者が現実の事件に材を得て、
異様な罪を犯した人間たちの真実を鮮やかに描き上げた珠玉の連作短篇集。
2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位に輝いた傑作!


* * * * * * * * * *

本作は、ベテラン弁護士である「私」が出会った数々の事件について書かれているのですが、
いわゆるミステリとは少し趣が異なります。
表出した事件は多くは残忍な殺人事件ですが、
ここには密室もアリバイトリックもありません。
面倒な犯人探しもありません。
犯罪の起こった原因、
すなわち犯罪に至る人の心のミステリとでもいうべきもの。


例えば、冒頭の「フェーナー氏」。
フェーナー氏は裕福な医師であり、性格も几帳面で真面目。
しかし彼の悩みはただひとつ、彼の妻について。
若いころ出会ってすぐにのぼせあがり
一生愛し続けると誓って結婚したのですが、
ほとんどその直後から現れた彼女の本性。
ヒステリックでいつもガミガミ口汚い言葉で彼を罵倒する。
彼は耐え難きを耐えながら結婚生活を続けて72歳。
仕事は引退し、庭仕事だけが彼の憩いの場となっていましたが、
その輝かしく晴れた朝、
またもや妻がテラスのドアを開けて彼に怒鳴りつける。
その瞬間
「心の奥底で、何かが固く光りはじめました。
その光のなかで、すべてが驚くほど鮮明に見えたんです。
まぶしかった。」
と彼は後に語る。
彼のその直後にとった行動とは・・・。


ごく普通の人の心のなかの衝動。
でもそれは十分に私達にも納得できることなのです。
これは実話だと言われても全然驚かないような気がします。


こんな風に若干苦い味が残るストーリーが多いのですが、
ラストの「エチオピアの男」には、チョッピリうれしい結末が用意されています。
この配置がなんとも心にくい。
従って本全体の読後感がとてもいいのです。
著者フェルディナント・フォン・シーラッハは、実際に刑事事件弁護士で、
本作がデビュー作であるとのこと。
いやあ、才能はどこに埋もれているかわからない。

「犯罪」フェルディナント・フォン・シーラッハ 創元推理文庫
満足度★★★★☆