映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ミッドナイト・ララバイ」 サラ・パレツキー 

2011年01月30日 | 本(ミステリ)
40年前の事件の真相を探るヴィク

ミッドナイト・ララバイ ((ハヤカワ・ミステリ文庫))
山本やよい
早川書房


             * * * * * * * *

このブログでサラ・パレツキーをご紹介するのは初めてのようです。
・・・ということは、このヴィクのシリーズ、ずいぶん久しぶりに出たのですね。

V・I・ウォーショースキー
(Vはヴィクトリアなので、親しい人にはヴィクと呼ばれたりします)
という女性探偵が活躍するシリーズものですが、
私は好きで当初から読んでいます。
この本でシリーズ9冊目。
ハードボイルドタッチのこの女性探偵は、
シカゴを舞台に、自らの命を危険にさらしつつ数々の事件を解決。
始めから読むと、彼女の男性遍歴も結構楽しめそうです。


さて、この本では、ヴィクは行方不明のある黒人青年の捜索を依頼されるのですが、
なんと、それはもう40年も前の出来事!! 
さすがに手がかりも極端に少なく、
しかもその少ない情報の持ち主も非常に非協力的。
それでも調べていくうちに、
40年前のある大きな出来事に関係していることが解ってきます。

それは1966年、シカゴで実際にあったキング牧師の公民権運動のデモ。
キング牧師とデモ参加者を警備していた警察に対して、
近隣に住む人々が攻撃を始めたという事件です。
つまり、白人が黒人のデモに対して暴動を起こしたということで、
作品中ヴィクはこの事件に大変心を痛めている。
この事件は40年前著者が実際に目撃したことでもあり、
その心の痛みはもちろん著者の心の痛みでもあります。
この物語は、そのときの事件を大きな軸として進んでいきます。

ヴィクは作中やけどを負って入院したり、
監視の目をさけて家を脱出したり、
相変わらずの奮闘ぶり。
すぐカッとなってしまう火のような性格も相変わらずですが、
愛すべきそのまっすぐな正義感は、絶対に信頼できるものです。

彼女を取り巻く登場人物たちも、お馴染み。
特に、彼女と同じアパートの1階に住むミスタ・コントレーラスは、
非常に世話好きの人のいいおじいちゃんで、私も大好きです。
ヴィクと共同でレトリーバーを飼っていたりしますが、
この人なつっこい二匹の犬が、
殺伐とした事件に落ち込むヴィクをいつも慰めていますね。
その犬たちの情景がいかにも目に浮かぶようなので、
きっと著者も犬が大好きなのでしょう。

この本ではヴィクは前作での恋人モレルと別れたところでした。
うーん、せっかくいい感じだったのに残念。
しかし、今度は階上に音楽家の男性が引っ越してきまして、
このジェイクがまたいい感じでヴィクを助けてくれたりします。
また、今作ではヴィクの年の離れた従妹ペトラが初登場。
明るくて元気で、いかにも今時のギャル。
そのペトラがこの度は行方不明になったりします。
失踪か、はたまた誘拐か。
そこのところもお楽しみに。
ペトラは是非今後もレギュラーで出演して欲しいですね。
次の巻までまたしばらく待つことになるのでしょうか・・・。

「ミッドナイト・ララバイ」サラ・パレツキー ハヤカワ文庫
満足度★★★★☆
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デュー・デート/出産まで後5日!史上最悪のアメリカ横断

2011年01月29日 | 映画(た行)
空気の読めない「森のクマさん」



           * * * * * * * *

「ハングオーバー!」のチームが贈るおかしなロードムービー。
物語は、アトランタに出張していたピーターが、第一子の誕生を5日後に控え、
急ぎロサンゼルスへ戻ろうとするところから始まります。
たまたま同じ飛行機に乗り合わせたひげ面の太っちょ男、
イーサンに話しかけられるうちに
テロリストと間違われて、飛行機から降ろされてしまう。
おまけに登場拒否者リストに名前が載せられ、
身分証明書が入った財布は荷物と一緒に飛行機に乗ったまま・・・。
どうにもならなくなったところへ、
同じく飛行機から降ろされたイーサンが車で通りかかり、一緒に行こうと誘う。
そもそも、コイツのせいでこんなことになってしまったのに、
何でこんな奴と一緒に・・・と、
まったく気が進まなかったピーターですが、背に腹は代えられない。
様々な映画でお馴染みのアメリカ横断ロードムービーの始まり始まり~。
イーサンは一匹の犬を連れていまして、これがまたブサイクでかわいい!! 
この珍道中を一層盛り上げています。


イーサンには全く悪気がないのですが、
言うこともやることも、どこかピンぼけしている上に気に障る。
つまりこれって、「空気が読めない」ってヤツでしょうか。
私はこの言葉は好きではないのですけれど、
ここまで来るともう、職人芸ってくらいの空気の読めなさ。
誰もが空気を読むために神経をすり減らすときに、
こういうのはいっそ豪快で気持ちよいかも。

けれど修行の足りないピーターは
たちまちムカついてしまう。
気持ちがイラつくだけならまだ良かったのですが、
とにもかくにもトラブル続きで、ピーターは体もボロボロ・・・。
ワンちゃんまでボロボロですから・・・。

しかし、旅は道連れといいますね・・・
そんななかでも奇妙に友情と絆が芽生えて・・・
さて、ピーターは奥さんの出産に無事立ち会うことが出来るでしょうか?


なにしろ、ザック・カリフィアナキスがいいです。
決してバカではないのですが、何だかちょっとずれているというこの感じ、うまいですよね。
イメージはまさに「森のクマ」さん。
これはいい。
でもこの作品、このイーサンのへんてこ具合に頼りすぎたきらいがありまして、
全体的には何だかパンチ不足。
ラストもきちんとまとまりすぎて、
ああそうなの・・・良かったね・・・という具合です。
もう少し、皮肉でショッキングな結末へ向けても良かったのでは・・・?


ついに爆発

ともあれ、アメリカ大陸の広さが、ロードムービー向きですよね。
横断しようとすると、飛行機ならまだしも、車なら何日もかかる。
ここで様々なドラマが生まれます。
日常を離れた旅。
通りがかりの町の景色、空気。
長時間の密接な人間関係。
お互いがお互いを知るだけの十分すぎるくらいの時間。
やはり日本ではなかなかこうは行かないのですが・・・。
そうそう、「しあわせの黄色いハンカチ」。
あれはやはり広い北海道だったなあ・・・。

とにもかくにも、ロードムービーにしては過激なシーンもあり、
そこそこは楽しめます。



ときにはしんみり語り合うことも・・・

「デュー・デート/出産まで後5日!史上最悪のアメリカ横断」
2010年/アメリカ
監督:トッド・フィリップス
出演:ロバート・ダウニー・Jr、ザック・カリフィアナキス、ミシェル・モナハン、ジェイミー・フォックス、ジュリエット・ルイス
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硫黄島からの手紙

2011年01月28日 | クリント・イーストウッド
故郷の家族へ向ける思いは同じ



             * * * * * * * *

ハイ、では硫黄島2部作の2作目ですね。
こちらは日本側の視点から描いている。
始めイーストウッド監督は『父親たちの星条旗』だけを作るつもりでいたといいます。
でも、いろいろな資料を見る内に、栗林中将が家族に宛てた手紙を読んで、
これは是非日本側からの話も作ってみたいと思ったそうなんだ。
実際その栗林氏の手紙は硫黄島から出したものではなくて、
彼がそれ以前アメリカにしばらく滞在したときのものだそうだけれど・・・。
でも確かにこの作品は“手紙”に焦点があてられているね。


日本の総司令官が、その栗林中将(渡辺謙)だね。
彼はアメリカで生活しただけあって、リベラルな精神の持ち主。
精神主義に凝り固まった他の上層部と比べて、偉ぶらないし考えが合理的だ。
また一兵卒の立場としては、西郷(二宮和也)の視点を活用しているんだね。
彼は故郷ではパン屋さん。
妻と生まれたばかりの子供がいて、口には出せないけれど、生きて帰りたいと強く思っている。
アメリカ軍が上陸してくる前は、ひたすら穴ばかり掘ってたようだね。
そうだよ。それも大変だったんだろうなあ・・・。
いよいよの戦闘シーンは、前作と同じくほとんどモノクロに近い色彩で描写されているよね。
うん、日常を超越した殺伐とした狂った世界に突入・・ということだね。
こちらは前作よりずっと悲惨で残虐なシーンが多いな。
前作は帰国した兵士たちの話が中心だったからね。
でもこちらはまさにその戦闘こそがメインだ。
日本軍の精神構造とか・・・、
まあ、私たちも本や映画、ドラマなどで知るだけなんだけれど、
きちんと把握して描かれていると思う。
自決を強要するようなシーンとかね。
なんと投降した日本兵を米兵が平気で撃ち殺しちゃうなんてシーンもあったなあ。
ああいう場なら、そんなこともアリだろうと何だか納得できちゃったよ・・・。
アメリカ作品だからってアメリカにえこひいきもナシ、と。


私が泣けたのはね、こんなシーン。
怪我した米兵が一人日本の陣地に運び込まれてくる。
そのときは、介抱しちゃうんだな。
結局息を引き取るんだけれど。
その米兵が、故郷の母からの手紙を大事に持っていた。
「早く戦争が終わって平和になるといい。そして、必ず生きて帰ってきてね・・・」
そこで、日本兵のみんなも心打たれるんだ。
アメリカ人も自分たちと同じなんだ。同じ心を持った人間なんだ・・・。
故郷で待つ人の思いも、どちらも同じ。
鬼畜米英なんてウソだ・・・。
それなのにどうして、銃を持って殺し合わなければならないのか・・・・・・
一番訴えたいところだよね・・・。


この作品、もちろんアメリカでも公開されたわけだよね。
むこうでの評判ってどうだったのかな。ちょっと気になるね。

さて、作品中、ニノのセリフにもありました。
「こんなちっぽけな島なんかアメリカにくれてやればいい。」
そう、東西8キロ南北4キロ程度の小さな島です。
でも、問題なのはその位置だったんだね。
東京とグアムの中間。
アメリカの攻撃拠点として、非常に重要な場所だ。
米上陸は1945年2月18日。米軍33000名。日本軍26000名。
民間人も住んでいたんだけれど、この戦闘以前にすべて退去していた。
一ヶ月以上の戦闘を経て米軍死者6800名。負傷者26000名。日本軍死者21000名。
・・・ということは日本はほぼ全滅かあ・・・。
その硫黄島は現在遺族や軍・政府関係者・マスコミしか入れなくて、
観光目的では上陸出来ないそうです。
そうだね、畏れ多くてとても遊びではいけない感じ。
まあ、礼儀としてこれくらいのことは覚えておきましょう・・・。


この作品は音楽もとても良かったけど・・・、
ああ、カイル・イーストウッド。監督の息子さんだよね。
うん、ここまでの作品だと身びいきだなんていえない。
イーストウッド監督の2部作。
渾身の作品でした。

硫黄島からの手紙 期間限定版 [DVD]
クリント・イーストウッド,スティーブン・スピルバーグ,アイリス・ヤマシタ
ワーナー・ホーム・ビデオ


「硫黄島からの手紙」
2006年/アメリカ/141分
監督:クリント・イーストウッド
音楽:カイル・イーストウッド
出演:渡辺謙、二宮和也、伊原剛志、加瀬亮、中村獅童

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父親たちの星条旗

2011年01月27日 | クリント・イーストウッド
自分たちはヒーローなんかじゃない



            * * * * * * * *

太平洋戦争の最激戦地である硫黄島。
その戦闘を日米双方の視点で描こうとするクリント・イーストウッド2部作の内の第一作です。

あれ、クリント・イーストウッドはもう終わったんじゃなかったっけ?
それがですね、確かに、既に見た作品なので、
てっきりブログに載せたと思い込んでいたのですが、
実はこれを見たのはこのブログを始めるほんの少し前で、記事にはしていなかったんです。
それでまあ遅まきながら、この度またきちんと見まして、穴埋めをしているわけ・・・。
うん、この作品は見るの2度目だけれど、やっぱり胸に迫るモノがあるよね。
ただ戦争で人が大勢亡くなって、悲しいとか、むなしいというだけではなくて、
生き残った人がずっと持ち続けた心の傷が・・・ね。


まずは、冒頭のこの写真。
当時、この写真がアメリカの新聞で紹介されて話題になったんだね。
確かに何か訴えるモノがあるよ。
戦地で兵士たちがこうして力を合わせて必死で闘って勝利したんだ・・・というような。
実際にはまだ戦闘の始めの頃の写真なんだね。
当初アメリカは4日もあればカタがつくと思っていた。
でも実際は1ヶ月以上も激しい戦いが続いたんだ。
で、この旗は見ての通り6人で立てているけれど、生き残ったのは3人だけ。
それで、政府がこの写真に目をつけたんだ。これは使えるぞ!と。
当時アメリカでも戦費の捻出に苦労していたんだ。
そうなのか・・・、その頃日本でもモノが無くて、
皆飢えていたし、鍋や釜など家庭の鉄製品まで供出していたとは良く聞くけどね。
アメリカは戦時中でもモノが豊かだと思っていたよ・・・。
庶民の暮らしは、日本よりはよほどましだったろうとは思えるけどね。
国家予算としては大変だったのでしょう。
そこで、費用をかき集めるために、軍事国債を売り出したんだけれど、
そのPR要員にかり出されたのが、この旗を揚げた3人というわけだ。
彼らは一躍ヒーローに祭り上げられる。
イーストウッド監督も、当時まだ子供だったけれど、
この写真を見たことを覚えている、と語っているよ・・・。
ほう、さすが年季の入った監督!!
さて、でも彼ら自身が本当のことを一番よく知っている。
自分たちはたまたま写真に写ってしまっただけ。
多くの仲間は死んで、悲惨な現場もみたし、敵兵も殺した・・・。
自分たちはヒーローなんかじゃない。
忘れてしまいたいのに、作り物の岩塊上に旗を立てるシーンまで
ショーとして再現させられたりする。
いまでこそPTSDという概念は広くあるけれど・・・。
当時はそんなことお構いなしだったんだろうね。
この三人の一人が衛生兵のドクで、
彼はまあ、その後普通に年老いてから亡くなったんだけれど、
その悲惨な島での体験は、家族にも語ることはなかったらしい。
でも、ご本人が亡くなった後で息子さんが調べて本にしたんだね。
それがこの映画の原作ということなんだ。
ドクは「衛生兵・・! 衛生兵・・・!」と誰かが遠くで自分を呼んでいるような気がするんだ。
帰還した直後も、また、数十年を経た死の間際でさえも。
うん、ここの演出はすごくいいと思う。
この作品では、硫黄島の戦闘シーンはほとんどモノクロに近いくらい、色調を落としているね。
そう。いかにも殺伐としたシーンにふさわしい。
それから、現れる日本兵の姿が、極端に少ない。
実際、地下道を掘って潜んでいたらしいのだけれど。
だから、どこにいるんだか、どこから襲ってくるのだか、解らないから不気味で怖い。
そういう風に描かれている。
なるほど・・・。
しかしその日本兵の実体は・・・。
ということで、「硫黄島からの手紙」に続きまーす!

父親たちの星条旗 (特別版) [DVD]
クリント・イーストウッド,ポール・ハギス,ウィリアムス・ブロイルズ・Jr
ワーナー・ホーム・ビデオ


「父親たちの星条旗」
2006年/アメリカ/132分
監督:クリント・イーストウッド
出演:ライアン・フィリップ、ジェシー・ブラッドフォード、アダム・ビーチ、バリー・ペッパー、ジョン・ベンジャミン・ヒッキー
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「神様のカルテ2」 夏川草介

2011年01月25日 | 本(その他)
医師の話ではない。人間の話をしているのだ。

神様のカルテ 2
夏川 草介
小学館


              * * * * * * * *

「神様のカルテ」第2弾。
信州の「24時間365日」対応という
過激な病院に勤務する栗原一止医師を中心とする物語。
一止はこの病院の方針に従い、実に過酷な勤務に従事しています。
ほとんど休みは取れないし、
休んだとしても、いつ緊急の呼び出しがあるか解らない。
ほとんど私生活は無いに等しい・・・。
そんな一止を気遣い、そっとやさしく見守るのが妻ハル。
あまりにも理想の病院、妻のありようは、
既にこれはファンタジーの域だろうと、私は思うのですが、
この巻では過酷な医師の勤務状況やその家族について、深く切り込んでいます。


一止の大学時代の友人進藤が東京の大病院から転勤してきます。
一止は学生時代から、この友人の誠実かつ優秀な医師への姿勢を頼もしく思っていたのです。
ところが予想に反して進藤は、
勤務時間終了と共に帰宅してしまうし、その後は全く連絡が取れない。
職場内での不満がたまっていきます。
しかし、実は勤務時間終了で帰宅というのは、当たり前のことなんですよね。
また、進藤は、全く無責任に患者を放りだしているわけではなくて、
緊急事態に備えて、かなり詳しい考え得る措置を書き残している。
だがしかし、当たり前のことが当たり前でなくなっている医療現場・・・。
何とかしてあげたい。
しかし、医師不足はすぐに解決出来ることでもない。
この矛盾はひたすら医師の奉仕で繕われているということです。

さて、でも実は進藤のこの勤務態度は、
3歳の娘を育てていることにあるということが解ってきます。
進藤の妻は、実は学生時代に一止が大いにあこがれた女性でもある。
その彼女も医師として勤務しているわけですが、
彼女はあることがきっかけで、ひたすら医師としての勤務を優先するようになってしまった。
娘のことは顧みず、仕事を人生のすべてにしてしまった。
ほとんど病的といっていいくらいに。
そうなると進藤の方に育児負担がのしかかってくるわけですが、
それではやはり自分の勤務がおぼつかなくなる。
やむなく進藤は、娘を連れて実家に引き上げてきたのですね。
まさに、家族をも引き裂いてしまう医師の過酷な勤務状況・・・ということなのです。
簡単に答えが出る問題ではありません。
けれど周囲の理解でほんの少し事態は進展。
こういうところも大事ですね。


ところでこの本にはずいぶん泣かされてしまいました。
この病院で亡くなる人が2人(いえ3人?)描かれています。
その場面では、文字がにじんできます。
人が亡くなること自体悲しいことですが、
その死を悲しむ家族や知人たちの悲しみを受けて、
こちらも泣けて来てしまうのです。
大切な人の存在が無くなってしまうとき・・・。
これ以上の悲しみはありませんね。
その命を守る仕事は・・・やはり尊いのです。
冒頭の御嶽山の描写、
コーヒー事件、
病院の屋上から見る満天の星。
印象深いシーンもたっぷり。
前作よりもさらにパワーアップ。
まさに感動の物語です。

「神様のカルテ2」夏川草介 小学館
満足度★★★★★
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プレデターズ

2011年01月24日 | 映画(は行)
俺たちはみなプレデターだ



              * * * * * * * *

この作品、ひたすらプレデターと人間が殺戮を繰り返すと言うストーリー。
それで果たして面白いのか?
という疑惑が、公開時私の足を引き留めました。
ただ、この元になる「プレデター」は嫌いではなかったので、
この度怖いモノ見たさで見てしまいました。


何しろ、この話の想定がすごいです。
プレデターとはつまり、
狩猟の興奮に価値を見いだすという全くいやったらしいエイリアンなんですね。
ある惑星に人間を拉致して放ち、
自らも危険にさらしつつ狩りを楽しもうという・・・。
これまでの映画に登場したプレデターのさらに強大化した、
極悪新種プレデターが登場します。
ここに解き放たれたのは、
凄腕の傭兵、スナイパー、暗殺集団の猛者や、
凶悪事件の死刑囚たち・・・。
そうそう、そこにはなんと日本のヤクザもいまして、
この彼が妙に存在感があってかっこよかった。
また、何故かただ一人、生死をかけた戦闘とは無縁の医師が一人いるのです。
このことには必ず何か意味がある、そうは思ったのですが、
信じがたいその解答を私たちは終盤で知ることになります。



リーダー格のロイスは言います。
俺たちが選ばれた意味がわかった。
俺たちはみな「捕食者(プレデター)だ。」
彼らは多少の差はあるにせよ、地球上で他者を狩ることに興奮を味わっていた。
だからプレデターの望むところも、何となく解るということなのでしょう。
プレデターの残虐さをさんざん見せられながら、
気づかされていきます。
実は私たち人間の中にも同じ残虐性が潜んでいる。
それは人という隠れ蓑をまとっているから余計にたちが悪い・・・。



日本刀を持つヤクザ対プレデターという前代未聞のシーンがなかなかいい。
エイドリアン・ブロディという配役も、なかなかの妙で決まっています。


結局、これが面白かったとか好きだなんて言うと人格を疑われそうなので、
大きな声では言えませんが、結構よかったですよ・・・。


それにしてもあのプレデター、信じられませんね。
特にあの口元はなんだ・・・。
醜悪すぎです・・・。
第一あれだけの機械文明を持ちながら、何であんな性格なんだろう。
どういう進化の元でああなってしまったのか・・・?
うーん、謎だ。
もしかすると彼らの故郷の星ではもっと高度で穏やかな精神文明が気づかれていて、
そこからオチこぼれたならず者の種族がさまよいながらこうなったとか・・・。
この狩りの様子を生中継して、みんなで賭けをして儲け話になっているとか・・・。
(こっちの方がありそうです)
いや、プレデターというのは、もっと高度に発達した文明の星で、
その狩猟風景で博打をするために作り出された生物なのかも・・・。
とすると、もしやそれはずっと未来の地球人なのでは・・・?

プレデターズ [DVD]
エイドリアン・ブロディ,ローレンス・フィッシュバーン,アリシー・ブラガ,トファー・グレイス
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


「プレデターズ」
2010年/アメリカ/107分
監督:ニムロッド・アーントル
出演:エイドリアン・ブロディ、アリシー・ブラガ、トファー・グレイス、ルイ・オザワ、ローレンス・フィッシュバーン
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「核心 上・下」パトリシア・コーンウェル

2011年01月23日 | 本(ミステリ)
浮き上がってくる巨悪

スカーペッタ 核心(上) (講談社文庫)
池田 真紀子
講談社


スカーペッタ 核心(下) (講談社文庫)
池田 真紀子
講談社


            * * * * * * * *

検屍官シリーズの新刊です。
いつものように多忙を極めるスカーペッタの元に送られてきた遺体。
それはセントラルパークで発見された若い女性。
ジョギング途中で襲われたらしいというのですが・・・。
目撃者などの証言から得た犯行時間と
スカーペッタの検死結果による推定死亡時刻が一致しない。
この事件の真相は・・・?

ところがこの事件は、このストーリーのほんの導入部に過ぎません。
一方、スカーペッタの夫、法精神医学者ベントンは、やっかいな患者を退院させたところ。
そんな時、スカーペッタ宛てにある荷物が届けられた。
それを持ってエレベーターに乗った彼女は、
その荷物が異様な匂いを放っていることに気がつき、愕然とする。
これは何か危険物なのではないか・・・!
いろいろな不明な出来事が、ある一つの巨悪の存在をあぶり出して行きます。
それはかつてベントンを非常に苦しめた、あの・・・。
いつものようにスリルたっぷりの展開と、
お馴染みの登場人物たちの人間模様に魅了される作品でした。


前作でもそうでしたが、近年はICTが犯罪者側にも警察側にも
非常に大きな位置を占めています。
私には理解不能な言葉も多々。
これを描く著者も大変だろうなあ・・・などと、余計な心配をしたりします。
ルーシーのこうした技術はすばらしくて実に便りになるのですが、
犯罪者側にこういう人物がいないとは限らない。
最先端のICTも両刃の刃なんですね。

作品中、スカーペッタがスマートフォンを紛失するのです。
これはルーシーにほとんど無理矢理持たされたモノなのですが、
いちいちパスワードを入れるのがあまりにも煩わしいので、
スカーペッタは暗証番号を解除してしまっていたのです。
このスマートフォンが悪意ある人物の手に入ったとしたら・・・。
非常に恐ろしいですね。
彼女のケータイに入っているその情報の量も、質も、並大抵の人の比ではない。
現代を生きる私たちは、
嫌でもこのような情報の氾濫に対処する責任と覚悟が必要なんだろうなあ。
一昔前にはそんな心配をしたこともなかったのに・・・。


ベントンとマリーノが、いつまでも反目し合っているのがちょっとおかしい。
当のスカーペッタは、そんな二人を半ばあきれて見守っています。
でも、この辺がこのシリーズの楽しいところなので、
そう簡単に和解してもらっても困ります・・・。

そしてこの作品で、過去からの因縁に一応ケリがつくのですね。
そういう意味では記念的な作品になると思います。

「核心」パトリシア・コーンウェル 講談社文庫
満足度★★★★★
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ヒーロー/靴をなくした天使

2011年01月22日 | 映画(は行)
人生は皮肉で複雑だ

ヒーロー 靴をなくした天使 [DVD]
ダスティン・ホスマン,ジーナ・デイビス,アンディ・ガルシア,ジョーン・キューザック
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント


          * * * * * * * *

ダスティン・ホフマンが、さえないコソ泥男、バーニー・ラプラント役で登場します。
彼はある大雨の夜、飛行機の不時着現場に居合わせてしまいました。
とりあえず機は何とか着地したものの今にも爆発しそうだし、
中にはけが人もいるようだ。
人助けなどするつもりはなかったのですが、
自分の息子と同じくらいの少年が「お父さんがまだ中にいる」というものだから、
つい機内に入ってみる。
怪我で出られない人を何人か救い、
しかし、当の父親らしき人を見つけることは出来なかった。
少年に顔を合わせることが出来ず、こっそり立ち去るバーニー。
実はそのお父さんは既に自力で脱出していたのです。
バーニーはその時に、靴を片方なくしてしまいます。

さて、彼が救い出したうちの一人がTV局の敏腕女性レポーター、ゲイル・ゲイリー。
彼女は、多くの人を救いそっと立ち去った男の美談をTVにのせ、世間を感動させます。
そして、その謎の男を捜し出そうとする。
手がかりはシンデレラよろしく、現場に残された片方の靴。

一方バーニーは、片方だけになってしまった靴などいらないと、
事情を語りつつホームレスのバーバー(アンディ・ガルシア)に譲るのですが、
そのホームレス氏、TVの騒ぎを聞きつけて、
その靴を証拠に自分こそがその男と名乗り出てしまった。
この騒ぎをバーニーがTVで知ったのはもっと後のこと。
既にホームレス、バーバーは英雄に祭り上げられていて、
自分こそがヒーローだとバーニーが言っても誰も信用しない。


さあ、この取り違い劇の顛末は・・・?!
しかしその意外な成り行きがなかなか面白いのです。
バーバーはウソの名乗りをあげてしまったとんでもない奴なのですが・・・。
これが身なりをきちんと整えてみれば、
ハンサムだし、その言動は意外にも慎ましく高潔で、みなを虜にする。
他のホームレスの救済を訴えたり、
病気の子供たちを慰問したり・・・。
これが決して偽善ではなく、内面からにじみ出ているからすごい。
バーニーはぼやくんですね。
「人生は皮肉で複雑だ・・・。」
人は見かけでは解らないし、
善悪というのも一つの側面だけで判断すべきものではない・・・、

何が何でも本物は自分だと言い通さないバーニーもいいなあと思う。
変な勧善懲悪ものにならないのがいい。
ちょっと拾い物という感じの一作でした。

1992年/アメリカ/118分
監督:スティーブン・フリアーズ
出演:ダスティン・ホフマン、ジーナ・デイビス、アンディ・ガルシア、ジョーン・キューザック
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武士道シックスティーン

2011年01月20日 | 映画(は行)
嫌なら、やめろ。好きなら、あきらめるな!



               * * * * * * * *

誉田哲也原作です。
剣道をする二人の少女が登場します。
香織は幼い頃から剣道家の父に鍛えられ、修行に励んできた。
これまでの生活がすべて剣道漬け。
ただ勝つことだけがすべて。
そう教わってきたのですね。
ところが中学のときに全く無名の選手、早苗にあっさり負けてしまった。
それが悔しくてならない香織は、早苗のいる高校に進学します。
一方、早苗はただ楽しくて剣道をしているという。
勝ち負けは二の次。
剣道部の中でもぜんぜん目立たない。
あのときはたまたまマグレで勝った、と思っている。



二人は全く両極端ではありますが、
スポーツをする上ではたぶん誰もが突き当たる壁なのかも知れません。
何のために剣道をするのか。
ただ勝つため?
楽しむため?
二人とも答えを見失い、それぞれに悩み、もうやめようかと思うのですが・・・。
お互いがいい刺激になるようですね。



そもそも、この早苗さん、性格がよいのです。
天然にお人好し?とでも言いましょうか。
香織はいつもむっつり怖い顔で一人でいます。
こんな人には、あまり近寄りたくないですよね。
でも早苗は、「宮本武蔵だ!」といって積極的に近寄って来ます。
うん。この子はいい。
これだけでもすごい才能だと思う。
香織を連れ出して、ケーキの食べ放題をしたり、ゲームやプリクラを楽しむ。
こういう子がいたらいじめも起きないかも・・・と、
まあ、テーマとは関係ない想像をしてしまいます。

早苗のお父さんが言いました。
「嫌なら、やめろ。好きなら、あきらめるな!」
そうなんですよね。好きと思えるかどうか。それが一番大事です。
さわやかな青春ドラマでした。

武士道シックスティーン [DVD]
成海璃子,北乃きい,石黒英雄,荒井萌,山下リオ
ポニーキャニオン


2009年/日本/109分
監督:古厩智之
原作:誉田哲也
出演:成海璃子、北乃きい、石黒英雄、荒井萌、山下リオ
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ソーシャル・ネットワーク

2011年01月19日 | 映画(さ行)
リアルとデジタルの狭間で・・・



              * * * * * * * *

全世界のユーザー5億人という巨大ソーシャルネットワークサービス
Facebook創設者のストーリーです。
2003年ハーバード大学の学生マーク・ザッカーバーグ。
彼の話す言葉は機関銃のように止めどなく流れ、
その思考も彼独特のものだから、彼女も会話について行けない。
また、彼がプログラムするためのキーボードさばきもまた機関銃のよう・・・。
常人とは頭の回転が違うという感じですね。
その彼が、親友エドゥワルドと共に、
学内の友人を増やすためのネットワーキングサービスを打ち立てる。
それがフェイスブックということなのですが・・・。

この映画は、始めから、このフェイスブック創設に関係する
三者の訴訟の調停の場を描写します。

マークとエドゥワルド、そしてウィンクルボス兄弟。
彼らの話から、私たちはこのフェイスブック創設のいきさつや
その後の顛末を知ることになります。

そもそも驚くのはもともとこのネットワークのアイデアが
このハーバード大学のエリート学生であるウィンクルボス兄弟のものだったらしい、
ということ。
マークには悪意はないんですよ。
お金を儲けたいわけでもない。
とにかく思いついたらやってみたい。広めたい。
それだけなんだろうなあ・・・というのは解ります。

でも、いかにもルール無視、関係者とのコミュニケーション不足。
自分のやり方だけがすべて。
それも一つの学校内だけのものなら、まだよかったのでしょう。
ところが、フェイスブックはあっという間に広まり、激流となり、
彼ら自身をも押し流す。
結局、人と人とのコミュニケーションを繋ぐネットワークの創始者が、
最も孤立した存在になっていくという皮肉。
苦いです。
苦いのですが、この作品、暗くはない。
全体を通してスピーディーな現代を映し、展開も怒濤のように早くエネルギッシュ。
5億人を動かした熱気がここにはある。
そんな中で、孤独で欠点ばかりのリアルな人間像が浮かび上がってきます。
本当は誰よりも人とつながり会いたいのは、この当人なのではないか。
優れた肉体とステータスを持っていたウィンクルボス兄弟と組んでいたら、
やはり大学内のネットワークに終わっていたのかも知れません。



この作品、本なら、圧倒されるような「筆力」というべきところなのですが
映画だとなんというべきなのでしょう。
やはり「映画力」でしょうか。
監督の底力を見る思いです。


それにしても、ICTの世界、
まだまだアイデア次第でこんなふうに
世界を巻き込むものすごいビジネスチャンスが生まれるということなのですね・・・。
これって、まともな人でも、人間関係がうまくいかなくなるのは当たり前なのかも、
と思えてきました。
生身の人間同士の直接的なコミュニティと、デジタルを介したコミュニティ。
私たちは今後否応なくその狭間で生きていくことになるのでしょう。
人と人との距離はどうなっていくのか。
私たちの新しい「ぐるり」の世界は混沌としているなあ・・・

「ソーシャル・ネットワーク」
2010年/アメリカ/120分
監督:デビッド・フィンチャー
原作:ベン・メズリック
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、アンドリュー・ガーフィールド、ジャスティン・ティンバーレイク、ジョセフ・マッゼロ、ルーニー・マーラ
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最後の忠臣蔵

2011年01月18日 | 映画(さ行)
武士の心“忠義”



          * * * * * * * *

赤穂浪士の吉良邸討ち入りで、大石内蔵助率いる46名が切腹により、主君に殉じた
・・・というのは、もういうまでもないお話。
この作品は、そのとき死ぬことを許されなかった二人の武士の、その後の物語です。
一人は、討ち入り直前に逃亡した瀬尾孫左衛門(役所広司)。
もう一人は、この出来事を後の人に伝える役を受けた寺坂吉右衛門(佐藤浩市)。

さて、討ち入りの事件から16年が過ぎています。
吉右衛門は、地方に散り散りになった浅野家の家臣を訪ね、
生活の援助をしてきていました。
ようやく最後の一人を訪ね終わったところ。
その彼が、孫左衛門の姿を見かける。
逃亡し、これまで生きながらえているとは・・・、
とんでもない裏切り者なのです。
ところが、実は彼が逃げ延びたのには深いワケがあったのです。
孫左衛門は、妙齢の女性と二人で暮らしている。
妻でもなく、娘でもなく・・・、
その扱いはまるでお姫様だ。
さて、この女性、可音(かね)とは、何者?



孫左衛門の住まいは竹林の奥にあります。
「美女と竹林」を思い出してしまいました。
何とも、美しく、風情があります。
冬の雪の中をこいで歩く孫左衛門。
あでやかな紅葉。
何気ない町の光景で、風に舞う砂埃。
私はこの砂埃に、うなってしまいましたよ。
そういえば、今私たちの身近では風が吹いても砂埃なんか舞わない。
あるがままの日本の四季の情景が美しい。

また、要所要所で「曽根崎心中」の人形浄瑠璃が挿入されています。
道ならぬ恋。
これを象徴しているわけですが、この効果がすばらしい。
この人形の感情を表現する細やかな動きなども、見物です。
しかし、この物語のテーマは道ならぬ恋ではありません。
それも絡めながら、武士の“忠義”を描き出している。
だから、このラストに不満な方は多いようなのですが、
私はこの終わり方しかないだろうと思います。

孫左衛門は最後に自分のつとめを果たすのですが、するともう、何もはばかるものはない。
また、新たな自分の道を進んでもいいのです。
しかし、彼がもう一つ果たすことが出来なかった、亡くなった主君と義士たちへの忠義。
そういうものを、自分よりも重要視してしまうその心のありようが、
骨身に染みついた武士のもの・・・。
ぜんぜん合理的ではありません。
実際それで誰が喜ぶでもなし。
でも、悲しく尊いですね。
そういうところに納得して感じ入ってしまう私は・・・やはり日本人なんだなあ。
この作品、日米同時公開だったそうなのですが、
アメリカの方はこれをどう思うのでしょう。
聞いてみたい気がします。



でも私がこの映画で一番泣けたのはそのラストではなくて、
さみしかったある行列に、次第に仲間が寄り集まって来るシーン。
これこそは、吉右衛門がすべての家臣を訪ね歩いた成果ではありませんか。
恩に報いようとする心。
これもまた忠義なのです。
このところ時代劇を多く見ましたが、この作品、ピカイチです。
是非多くの方に見ていただきたい作品。

難を言うと可音の役が・・・。
桜庭ななみさん。
確かにかわいらしくて、殿方には好評のようなのですが。
私の見たところ、この方のシーンだけシロウトっぽすぎて、
何だかハラハラしてしまって入り込めなかった・・・。
16歳ですからねえ・・・
そう適当なベテラン女優がいるわけもナシ。
仕方ないでしょうか。

2010年/日本/133分
監督:杉田成道
原作:池宮彰一郎
出演:役所広司、佐藤浩市、桜庭ななみ、安田成美、山本耕史、伊武雅刀
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「美女と竹林」 森見登美彦

2011年01月17日 | 本(エッセイ)
竹林で妄想すること

美女と竹林 (光文社文庫)
森見 登美彦
光文社


           * * * * * * * *

森見登美彦氏のエッセイ集です。
といいますか、これは「小説宝石」に連載されたものなのですが、
始めに「美女と竹林」という題をつけてしまって、
その後そうとう苦しんだあとが見られます。
そのような著者の日常をかいま見ることが出来るのも、
ちょっとしたお楽しみではあります。


そもそも著者の学生時代の研究が「竹」であったようなんですね。
京都大学大学院農学研究科出身! 
それ以前に、とにかくまず著者は「竹林」が好きなのです。

さて、竹林。
北海道には竹林がありません。
以前に京都へ行って見たような気がするくらい・・・。
こちらにあるのは、ネマガリダケという笹の親分みたいなので、
林というよりは藪ですね。
だからどうも竹林のイメージはあるものの、実感がありません。
著者がそこまで固執する竹林の魅力とは何か・・・? 
今度旅行するときには是非竹林も訪れてみることにしましょう。


さて、この本では、著者が知り合いの方の所有する竹林の手入れを申し出たんですね。
竹林というのは手入れしないと生い茂り、大変なことになるという・・・。
しかし、そのうっそうとした竹林にたった一人で入るのは、あまりにもさみしい。
そこで友人を誘って、のこぎりを持ち、
颯爽と竹林に足を踏み入れるのだけれど・・・
竹は堅くて思うように切れず、刃が挟まってニッチもサッチも行かなくなることしばし。
ようやく切れても、上の方で枝が絡まり合って、倒れても来ない。
悪戦苦闘。
ようやく少し手をつけました・・・という程度でその日一日は終わったのですが、
その後、今度は手入れに向かう日程が取れない。
著者は、普通にサラリーマンを続けながら文筆活動をしているんですね。
なので自由になるのは終末の休日だけ。
それもちょうど「夜は短し歩けよ乙女」などの出版で人気急上昇の忙しい時期。
気持ちだけは「行かねば!」と思うのだけれど、
行けないままに日が過ぎていく・・・
そういう焦りの中で、でも、著者はいずれカリスマ竹林経営者として、
TIME誌の表紙を飾る日を妄想している・・・。
MBC(モリミ・バンブー・カンパニー)を設営し、
経費でセグウェイを買って、
琵琶湖を一周しよう・・・などなど。

これらの妄想力こそが著者のストーリーの源流なんだなあ、
と妙に納得してしまいました。
孟宗竹ならぬ、妄想竹・・・。
お後はよろしいようで~。

満足度★★★☆☆

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アンストッパブル

2011年01月15日 | 映画(あ行)
列車の重量感に圧倒される



            * * * * * * * *

大量の化学薬品とディーゼル燃料を搭載した貨物列車が無人のまま暴走。
これは、実際にあった事故を元にしたストーリーとのことです。
整備不良と人為ミスから起こった事故。
それを食い止めようとするのは、ベテラン機関士のフランク(デンゼル・ワシントン)と、
新米車掌のウィル(クリス・パイン)。
フランクはまもなく強制退職させられることになっており、
コネで入ってきたと思われるウィルには愛想良くは振る舞えない。
ぎくしゃくした二人だったのですが、
なんと暴走列車の走路を真っ正面から進んでいた!



ひたすら爆走する列車をいかにくい止めるか、
とにかくそれだけの映画といっていいのですが、
この迫力と緊迫感が途切れることなく、まさに手に汗を握る作品でした。
巨大な鉄の塊の機械、そういう重量感がリアルに感じられます。
ふだん駅で見る列車にそのような威圧感を覚えたことはないのですが、
この作品、その機械が何だかとても恐ろしく感じられました。
当たり前の道具として見ているけれども、実は恐ろしいものなのですよね。
39両編成、全長800メートルの列車。
これが暴走したときのエネルギーだなんて、想像を超えています。
危険物を搭載していなくても充分危険ですよ・・・。
しかし、上層部はその危険性よりも、経済性つまり会社の損害の心配の方が優先。
上層部の決定が、司令室のコニーに届いていなかったり・・・と、
実際にありそうな混乱がまた恐ろしいです・・・。
あとは、フランクとウィルの若干ごたごたした家庭の事情も語られますが、
まあ、それは付け足しと思っていいでしょう。



それから、この映画中では結局死者は一人も出ませんね。
必ず犠牲者がつきもののこういう作品には珍しい。
そんなものが無くてもヒーローやスリルは充分に語れる。
真っ正面から列車の迫力にかけたこの作品、
見事でした。



とにかくその迫力いっぱいの重量感、スピード感を楽しみましょう。
そして、命をかけて不可能に挑戦する二人の奮闘に拍手!!
いやあ、面白かった・・・と、大満足で劇場を出ること請け合い。
これは家庭のテレビ画面でなく是非劇場の大画面で見るべきです。

2010年/アメリカ
監督:トニー・スコット
出演:デンゼル・ワシントン、クリス・パイン、ロザリオ・ドーソン
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「舞姫/テレプシコーラ 第2部 5」 山岸凉子

2011年01月14日 | コミックス
彼女の本当の才能は・・・

舞姫(テレプシコーラ) 第2部 5 (MFコミックス ダ・ヴィンチシリーズ)
山岸 凉子
メディアファクトリー


           * * * * * * * *

「舞姫/テレプシコーラ」第2部の完結編!
考えてみると第2部は、すべてローザンヌ・コンクールの出来事でした。
六花(ゆき)ちゃんの集大成だったんですね。
しかし、前巻は六花ちゃんにはとても気の毒な展開でした。
体調を崩した彼女は、準決勝の途中で棄権をせざるを得なくなってしまう。
また、途中棄権なのでオファー(バレエ学校・バレエ団からの留学や研修の打診)の権利もないと言われ・・・。


私は思わず著者に「鬼・・・!」とつぶやいていましたね。
しかし、なんということでしょう!!
きちんと彼女の個性とがんばりが認められることに。
これから読む方のために、あまり詳しく書くのは止めておきますが、さすが完結編。
そこには第1部の顛末がきちんと生きており、
地道にバレエを続けていた六花ちゃんが報われるのです。
しかし、この子の本当の才能はバレエよりも、
限りないそのお人好しさにあるのではないかと思ったりします。
自分のことでも精一杯なのに、彼女はきちんと人の心配までして、お節介を焼いてしまう。
それであのローラ・チャンもわずかに心を開きます。
それにしても、やっぱりローラ・チャンは空美ちゃんのようですね。
結局作品中ではきっぱりとした答えは出ていないのですが、これはもう間違いない。
しかし、何がどうなってあの子がこのようになったのか・・・?! 
この物語だけでもう何冊か本が書けそうじゃありませんか。
ま、それはないでしょうけど。

このストーリーは姉の千花ちゃんが亡くなった件ではとてもショックでしたが、
まさしく現代のバレエ事情を語ってくれる作品でした。
私自身はバレエのことなど何も解っておらず、
作中のバレエ用語も意味不明のところを読み飛ばすようないい加減な読者ではありましたが、
それでも、とても興味深く読めました。
まずは満足、満足。
が、やはり「アラベスク」には及びませんけれど・・・。
うーん、でも、本当はこの先の六花ちゃんの活躍をもっと見たかった・・・。

満足度★★★★☆
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「朝日のようにさわやかに」 恩田陸

2011年01月13日 | 本(SF・ファンタジー)
暗くひんやりとした色調で・・・

朝日のようにさわやかに (新潮文庫)
恩田 陸
新潮社


           * * * * * * * *

恩田陸さんの短編集。
しかしこの本は、先日読んだ「いのちのパレード」よりも、しっとり沈んだ雰囲気があります。

冒頭の「水晶の夜、翡翠の朝」は、
「麦の海に沈む果実」、「黄昏の百合の骨」の水野理瀬シリーズ番外編。
久しぶりに、あのひんやりした雰囲気、思い出しました。


「あなたと夜と音楽と」は、ラジオの放送スタジオのトークでストーリーが進みます。これは、ミステリ。
番組のパーソナリティの男女が、生放送でトークを繰り広げるのですが、
近頃近所の公園で起こった殺人事件の話にふれます。
また、この放送のある日に必ず放送局前におかしなものが置いてある。
この二人が少しずつこの謎を解き明かそうとするのですが・・・。
犯人が解りかけてきたかと見えたところでまた反転。
本格ミステリの味わいの楽しめる一作。


「赤い毬」
幻想的な物語です。
語り手が子供の頃、体験した(と思っている)不思議な話。
母の実家、田舎の旧家で少女は赤い毬が転がるのを見て、
縁側から庭におり、毬を追いかける。
熊笹の道をかき分け石畳の道を進んで行くと、奇妙な建物がある。
石の庭を抜けさらに進んでいくと、
そこには赤い着物を着た少女がいて、二人で鞠つきをした。
突然どこかでサイレンが鳴り始め、
はっと我に返った少女は鞠を持って立ち去ろうとすると、着物の少女は言う。
「今はまだあなたの番じゃないの」
いつか来る「あなたの番」とはいつなのか。
鞠をつくことは何を意味するのか。
謎は謎のまま終わる不思議な余韻の残る作品。


「深夜の食欲」
これは怖いです。
深夜、ホテルの廊下をボーイが食事をのせたワゴンを押して行く。
これがなにやら病院の廊下のように陰気な雰囲気で、
やたらに長くて、まるで夢の中を歩むように果てしなく思われる。
突如ぴしっ、ぴしっと言う鋭い音が響く。
床を見ると何か白いものが散っている。
小さな半月状のモノがぱらぱらと落ちていた。
切った爪だ・・・。
うう・・・気持ち悪いですね。
そしてさらに行くと今度は抜け落ちた歯が・・・。
かつて人間の身体についていたものが、身体を離れると、おぞましいものに変貌する。
髪の毛も、恋人の頭についていればとても愛しいのに、
離れてしまうとあんなに嫌なモノはない、と著者はいう。
全くその通りです。
身体を離れたそれは、つまりは死体の一部だからなのかも・・・。


「楽園を追われて」
葬式帰りの中年男女4人が、居酒屋で話をしている。
彼らは高校時代の文芸部のメンバーで、その日は同じ部員だった一人の葬儀。
彼は4人あてに彼の小説原稿を遺していた。
記憶をたどりながら話をする内に、
意識の奥底に眠っていた謎めいた記憶までもが呼び覚まされ・・・。
こういった手法は恩田陸さんによくありますね。
事実は事実として何も変わらないけれども、その意味が変わっていく。
心の奥底を旅するような感覚。


このように、バラエティに富みながらも、
全体的には暗くひんやりとした色調となっています。
これに引き替え、先に挙げた「いのちのパレード」はファンキーなものもあり、
以前「宝石箱」と、たとえた記憶がありますが、
今作をよむと、さらに「おもちゃ箱」と言いたくなりました。
個人的には「いのちの・・・」の方が好きですが、
まあ、これは好みでいろいろありましょう。

満足度★★★☆☆
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