映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい

2024年03月11日 | 映画(な行)

ぬいぐるみは、黙って受け入れてくれる

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京都にある大学の「ぬいぐるみサークル」。
「男らしさ」や「女らしさ」というノリが苦手な大学生・七森(細田佳央太)は、
そこで出会った同じ学部の麦戸(駒井蓮)と心を通わせます。
彼らを取り巻くサークルの人々のやさしさとは・・・?

さて、ここのぬいぐるみサークルというのは、
「ぬいぐるみを作る」のではなく、
「ぬいぐるみと話す」サークルなのでした。

各々が、ぬいぐるみに自分の語りたいことを話しかける、
つまり独り言ではありますが、そういう場所。
サークルのきまりで、他の人がぬいぐるみに話しかけることを聞いてはいけない
ということになっているので、
普段は各々イヤホンやヘッドホンなどをつけて音楽を聴くようにしているのです。

なぜわざわざそのような事をしているのか。

彼らは実際の人に向かい合って「語る」ことにためらいを感じるのですね。
自分が話したことで相手を不快にさせたり、
落ち込ませたりすることがあるとマズいと思うので・・・。
または、自分が変なヤツと思われたりするのもイヤ。
そもそも、語りかける相手がいない・・・などなど。

つまり、皆やさしいのでしょう。

七森は、「恋愛」というものがよくわからない。
人を友人として好きになることはあっても、
異性であれ同性であれ、性的な意味で愛したいという気持ちが起こらない。
そんな自分の方がおかしいのか?と思い、
サークルの1人と付き合ってみたりもするのですが・・・。

こういうのを何というのでしたっけ。
以前NHKのドラマにもあったなあ。
あ、アセクシュアルでした!
人の心の有りようは本当に様々で、
そして、どんなあり方だってOKなんですね。
自分らしく生きましょう。

でも、自分の思いは、ぬいぐるみに語りかけるのも良いけれど、
やっぱり実際の人に語りかけるのもいい。
少なくとも、ここのサークルの皆さんは、聞いてくれそう・・・。

<WOWOW視聴にて>

「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」

2023年/日本/109分

監督:金子由里奈

原作:大前粟生

脚本:金子鈴幸、金子由里奈

出演:細田佳央太、駒井蓮、新谷ゆづみ、細川岳、真魚

やさしさ度★★★★★

満足度★★★.5


逃げきれた夢

2024年02月12日 | 映画(な行)

人と正面から向き合うこと

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定時制高校教頭を務める末永(光石研)。

元教え子・平賀南が働く定食屋を訪れ、記憶が薄れていく症状が出て、
支払いをせずに立ち去ってしまいます。

妻との仲は冷え切り、娘は始終スマホにを見ていて会話にはなりません。
旧友石田とも疎遠になってしまっています。
末永は、この病を機に、これまで適当にしていた人間関係を見つめ直そうとします。

末永はごく普通に真面目に仕事を続けてきたつもり。
高校の生徒たちともうまく向き合ってきたと思っています。
けれど、生徒に、いつでも何でも相談するようにと言ってみるものの、
生徒たちはそんなことばは単なるうわべだけのモノとわきまえているようです。
そしてまたそのことを生徒から言われて、確かにその通りだと思い当たってしまう末永。

記憶が薄れていくという症状が現れ、末永は退職を決意します。
それは、症状が酷くなる前に好きなこと、
これまでできなかったことをしようというような思いからではありません。
まあ、普通に、仕事で大きなミスをして迷惑をかけないように、とのことなのでしょう。
(実際の心境は語られないのですが)。
つまり、特別にやりたいことなど何もないのです。
けれどこのときになって、自分はこれまで
誰とも正面から向き合ってこなかったことに気づくのです。

さてさて、これはこの物語の末永の話。
けれど、多くの人がこんな風なのではないかなあ・・・と思えるのです。
少なくとも私はそうかも知れない。
たとえ病がきっかけではあっても、そうしたことに気づいて、
新たな一歩を踏み出せたのなら、それでオーライなのかも。

実に淡々と進む物語ですが、大切なことをいっていますね。

<Amazon prime videoにて>

「逃げきれた夢」

2023年/日本/96分

監督・脚本:二ノ宮隆太郎

出演:光石研、吉本実憂、工藤進、坂井真紀、松重豊

 

男の生き方度★★★★☆

満足度★★★.5

 


ノッティングヒルの洋菓子店

2023年12月22日 | 映画(な行)

親友の夢を引き継いで

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パティシエのサラと親友イザベラは、
長年の夢だった自分たちの店をオープンするところです。
店舗も借りて、いよいよ準備に取りかかろうとするとき、
サラが突然の事故で他界してしまいます。
悲しみと喪失感で何をする気にもならないイザベラと、サラの娘・クラリッサ。

しかしやがて彼女たちは、疎遠になっていたサラの母・ミミをも巻き込んで、
再び開店に向けて動き始めます。
しかし、肝心のパティシエがいない・・・。
そんな時、ミシュラン星二つレストランで活躍するシェフ・マシューが現れます。
かつて恋人だったサラから逃げた男・・・。
イザベラの反感を買いつつも、パティシエとして協力することに。

クラリッサは、もしかするとマシューが自分の父親なのでは?と思いますが・・・。

本作の原題は「Love Sarah」なのですが、
「ノッティングヒルの洋菓子店」とはよくしたもので、うまい邦題だと思います。
何しろノッティングヒルといえばあの名作なので、
つい興味を引かれてしまいます。

ロンドンの人気デリ「オットレンギ」の全面協力を得たそうで、
本当にどれもおいしそうで、見ているだけなのがつらく感じるくらいです。

さて、最愛のかけがえのない人を失った時の喪失感・・・。
どんな場合もそれはつらいですね。
しかも全く予期せぬ突然のことであれば。
けれど、そんなこともないわけではない、というのが現実というもの。

残された人々は、一時はもう立ち上がることもできないように思われるのですが、
けれど人生は否応なく続いていくので、それでも生きなければならないのです。

サラ1人分の穴を、関係する娘と母と元恋人が補い、
彼女らはサラの夢を引き継いで立ち上がる。

でも、この近所には同じような店が何軒もあって競合しており、客足は鈍いのです。
そこで、店の特色を出すアイデアが・・・、
というところもひねりがあって楽しいですね。

ロンドンも様々な国の人々が住み、多様化しているということなのでしょう。
日本人が好むお菓子というのも出てきてビックリ。
うーん、でもここは「どら焼き」くらいにしてほしかったな。
日本由来のものではあるかもしれないけれど、
海外でわざわざ食べたいものではない・・・。

ともあれ心温まる一作であります。

 

<Amazon prime videoにて>

「ノッティングヒルの洋菓子店」

2020年/イギリス/98分

監督:エリザ・シュローダー

脚本:ジェイク・ブランガー

出演:セリア・イムリー、シャノン・ターベット、シェリー・コン、
   ルパート・ペンリー=ジョーンズ、ビル・パターソン

立ち直り度★★★★☆

食べたい度★★★★★

満足度★★★★☆


映画ネメシス 黄金螺旋の謎

2023年12月13日 | 映画(な行)

メネシスか? ネメシスか?

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テレビドラマシリーズの映画化。
横浜の探偵事務所ネメシスを巡る物語。
私はテレビドラマも見ていましたが、残念ながら関心は薄く、
映画版も軽くスルーしていました。
そもそも、「メネシス」なのか、「ネメシス」なのかもいまだによく覚えておらず、
この度映画検索で「メネシス」と打ったら出てこなかった・・・。

さて、本作。
相変わらずの探偵事務所。
社長・栗田(江口洋介)、天才探偵(?)風真(櫻井翔)、
探偵助手アンナ(広瀬すず)は健在ですが、
近頃依頼がめっきり減って、誘拐されたペットの犬を探し出してほしいという依頼に飛びつく始末。

そんな頃、アンナは親しい人々が次々に殺害されていくという
悪夢を繰り返し見るようになります。

ゲノム解析による操作によって誕生したというアンナのディープな秘密と、
そのデータのことが根底にある事件が始まります・・・。

ストーリーは悪くはなくて、出演者も豪華。
これがなぜさほど受けないのか・・・?
それが最大の謎ではあります。

思うに、探偵事務所の3人の役割づけが中途半端というか、
天才探偵は実はポンコツなのに、ポンコツになりきれていない。
では社長の役割は?と言えば、よく分からない。
アンナの特殊能力も生かし切れていない・・・。
つまり人材を使い切れていないのかも。

テレビドラマもさほど人気があったわけでもないのに、映画化というのも謎の一つ。

 

「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」

2023年/日本/99分

監督:入江悠

脚本:泰建日子

出演:広瀬すず、櫻井翔、江口洋介、勝地涼、真木よう子、橋本環奈、佐藤浩市

 

満足度★★.5

 


ノースマン 導かれし復讐者

2023年09月14日 | 映画(な行)

毒母!!

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舞台は9世紀。
スカンジナビア地域のとある島国。

10歳アムレートは、父オーヴァンディル(イーサン・ホーク)王を
叔父・フィヨルニルに殺され、
母・グートルン(ニコール・キッドマン)王妃も連れ去られてしまいます。
一人で祖国を脱出したアムレートは、父の復讐と母の奪還を心に誓う。

数年後、アムレート(アレクサンダー・スカルスガルド)は
ヴァイキングの一員となっています。
フィヨルニルがアイスランドの農場を営んでいることを知り、
奴隷に変装してアイスランドに向かう・・・。

本作は、シェイクスピアの「ハムレット」のもととなった
12世紀の作家・サクソの「アムレート」伝説を元にしています。
ヴァイキングが力を振るった時代の生活や文化がリアルに再現されています。

人々が迷信や暴力、略奪等の混沌の中で生きていた時代。

オーヴァンディルが支配していた国を、その義弟・フィヨルニルが奪ったわけですが、
その後さらにまた別の者が国を奪い、
フィヨルニルは祖国から逃れてアイスランドの辺境の地で農場を営んでいる、
という皮肉な運命も、実にさらりと語られます。
でもまあ、大きな農場の当主として、そこそこ支配的立場にあるわけです。
そこに奴隷としてやって来たアムレート。
しばらくは正体を隠し、復讐のチャンスを狙います。

しかし、驚くべきは終盤の、母・グートルンの吐く言葉。

彼女は決して亡き王にも行方不明の息子にも心残りなどなく、
というよりもそもそも王殺しを焚きつけたのが彼女で、
つまりは彼女は自らの欲望のままに、やりたいようにやって生きていたというわけ。
コワイコワイ・・・。

私には、復讐譚よりもこの魔女的王妃像が心に刺さったのでした。

男の付属物でありがちな、こんな時代の女性にして、
ここまで「自己」中心の強烈な個性には圧倒されてしまう。

ま、それもいいか。

 

<WOWOW視聴にて>

ノースマン 導かれし復讐者

2022年/アメリカ/137分

監督:ロバート・エガース

出演:アレクサンダー・スカルスガルド、ニコール・キッドマン、
   クレス・バング、イーサン・ホーク、ビョーク、ウィレム・デフォー

暗黒の時代度★★★★★

毒母度★★★★☆

満足度★★★.5


長崎の郵便配達

2023年09月03日 | 映画(な行)

長崎の地で

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戦時中イギリス空軍の英雄となり、
退官後英国王室に仕えたピーター・タウンゼンド大佐。
1950年代にマーガレット王女との恋が報じられ、世界中から注目をあびました。
そしてタウンゼンド氏は、映画「ローマの休日」のモデルになったとも言われています。
が、その恋は実らず、長き世界旅行の後
ジャーナリストとなったピーター・タウンゼンド。

彼は、長崎で被爆した男性、谷口稜曄(スミテル)氏を取材。
1984年にノンフィクション小説「THE POSTMAN OF NAGASAKI」を発表しました。

前置きが長くなりましたが、本作はこのタウンゼント氏の娘であるイザベル・タウンゼンドが
2018年に長崎を訪れ、父の著書とボイスメモを頼りに、
父と谷口さんの思いを紐解いていくというドキュメンタリーです。

谷口稜曄さんは、16歳の時郵便配達中に被爆し、
その後生涯をかけて核廃絶を世界に訴え続けてきた方です。

タウンゼンド氏の彼に対する取材は通り一遍のものではなく、
長期間にわたり、信頼関係を結んだ上でのものだったようです。
双方とも、いまは亡き人物ですが、タウンゼンドの娘さんが父のゆかりの地を訪ね、
長崎の被爆当時のことを振り返りつつ、
ふたりのゆかりの地を感慨を持って歩むというところに、こちらも胸が熱くなります。
谷口氏の体験がこうして世界にも語り継がれていくことの大切さを思います。

谷口さんは被爆時、背中にひどい火傷を負ったために
何年もうつ伏せで過ごさなければならなかったと言います。
そのため、胸に褥瘡ができて、肉を切除しなければならなかったと・・・。
また、被爆者はいわれのない差別を受け、なかなか結婚することもできなかったそうなのですが、
幸い良縁に恵まれ、人生の伴侶を得ることができました。
こうしたことは氏にとっても大きな心の支えとなったに違いありません。

被爆体験を語ることは実際勇気が必要だったと思うのですが、
世界の核廃絶のために、生涯をかけて訴え続けたということに敬意を表します。

「長崎の郵便配達」

2021年/日本/97分

監督:川瀬美香

出演:イザベル・タウンゼンド、谷口稜曄、ピーター・タウンゼンド

 

歴史発掘度★★★★★

人と人との絆度★★★★☆

満足度★★★★☆


NOPEノープ

2023年06月05日 | 映画(な行)

謎の飛行物体を撮影せよ

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田舎町で広大な敷地の牧場を父と経営するOJ。
ある時突然空から異物が降り注ぎ、それに当たって父が亡くなってしまいます。
まさに、最悪の奇跡。

主に映画撮影用の馬を調教していた牧場ですが、ほとんど父の手腕に頼っていて、
父亡き後は経営に行き詰まっています。

そんなある日、牧場を訪れた妹・エメラルドに、
OJは父が事故死した日に目撃したもののことを話します。
雲に覆われた巨大な飛行物体のようなものを見た、と。
エメラルドは、その飛行物体の存在を収めた動画を撮影すれば、
ネットでバズるはずだと言い、
2人は謎の飛行物体の撮影に挑むことにします。
しかし、そんな彼らに想像を絶する事態が・・・。

これまで、UFOの出てくる作品といえば、
宇宙人と交流を果たすか、敵対し撃退しようとするか、
そのどちらかであったように思います。
でも本作は少し違う。
まずは、今はUFOとは言わずにUAP(未確認航空現象)と呼ぶのだそうで・・・。

本作は、その飛行物体の宇宙人と仲良くしようとか
撃退しようとか言うのではなく、
まずはその姿をカメラに収めることが目的。

なんだそれなら簡単じゃん、と思いますか? 
しかし、この飛行体が接近するとその周囲の電気はすべてダウン。
電子製品も使用不能となってしまいます。
頼れるのはフィルムなどのアナログ。

そしてまた、その飛行体というのが、おぞましい人食いUFOだった・・・!! 
これはもう、イヤでも闘わざるを得なくなってしまうのです。
また、その恐ろしいUFOにも弱点はあって・・・。
その弱点というのにも、ちょっと笑わされてしまうのですが。

UFOネタはもう使い尽くされたかと思っていましたが、
いえいえ、まだまだ楽しむ余地はあるようですね。

<WOWOW視聴にて>

「NOPE ノープ」

2022年/アメリカ/131分

監督・脚本:ジョーダン・ピール

出演:ダニエル・カルーヤ、キキ・パーマー、ブランドン・ペレア、マイケル・ウィンコット

 

新機軸度★★★★☆

満足度★★★★☆


猫は逃げた

2023年05月18日 | 映画(な行)

猫も食わない夫婦喧嘩?

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漫画家の町田亜子(山本奈衣瑠)と週刊誌記者・広重(毎熊克哉)は同居する夫婦。
しかし、亜子は編集者・松山(井ノ脇海)と、
広重は同僚の真実子(手島実優)と浮気中。
夫婦間は冷え切り、離婚寸前のところで、
飼い猫・カンタをどちらが引き取るか、もめているのです。
そんな矢先、カンタが家からいなくなってしまい・・・。

カンタは町田夫妻の言い争いがイヤで、そんな時には外へ出かけてしまうのが常。
ではありますが、これまで夜に帰ってこなかったことはないのです。
夫婦は仲違いしてもカンタを大事に思う気持ちは同じで、
心配し、行方を探すときには気があってしまう。


真美子は猫がいなくなれば町田夫妻の離婚話が早く進むと、期待しているのですが・・・。
そして、ひょんなことから真美子と知り合って協力関係になってしまう松山。

ややこしい4人の関係性がユーモラスに描かれます。

そして終盤、この4人が一堂に会して言い合いをするシーン。
カメラを固定して長回しのシーンが実に圧巻でした。

とにかく、笑えます!!

<Amazon prime videoにて>

「猫は逃げた」

2021年/日本/109分

監督:今泉力哉

脚本:城定秀夫、今泉力哉

出演:山本奈衣瑠、毎熊克哉、手島実優、井ノ脇海

 

コミカル度★★★★☆

猫愛度★★★★★

満足度★★★★☆


ノック 終末の訪問者

2023年04月21日 | 映画(な行)

究極の選択

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ゲイで友に暮らしているエリックとアンドリュー。
休暇で、養女ウェンとともに人里離れた山小屋で過ごしています。

ある日突然、武装した見知らぬ男女4人が小屋に押し入り、
わけも分からぬままエリックらはとらわれの身となってしまいます。
そして、彼らは言います。
家族のうち誰か一人が犠牲になることで、
世界の終末をくいとめることができる、と。
もし拒絶すれば、何十万もの命を奪うことになる、
と彼らはエリック達に選択を迫るのです。

エリックとアンドリューは、
何かの頭のおかしい狂信者の戯言と思ったのですが、
彼らを説得できなかったメンバーは一人、また一人と
目の前で死を遂げていきます。
そして、テレビでは世界各地の甚大な災害を伝え始める・・・。

エリックらは、誰か一人を犠牲者として差し出さなければなりません。
それは、誰かの自殺ではダメで、
この中の3人のうちの誰かが一人の命を奪わなければダメだというのです。

なんとも残酷なことですね。
エリックらは始めから子供のウェンを犠牲にするなどという発想もなく、
つまり、エリックかアンドリュー、
どちらかがどちらかを殺さなければならない、ということになるのです。

しかしそもそもこの話自体、信じるべき話なのか・・・?
もしかしたらテレビのニュース自体が仕組まれたインチキなのでは・・・?
と、シャマラン監督ならではの疑いを私は持ってしまったのですが、
でも、そうではない。

エリックらを説得するために、実際に彼らは仲間を一人一人惨殺していくわけで・・・。
インチキのためにそこまでするとも思いがたいのです。

作中、冒頭でウェンがガラス瓶の中でバッタを飼うというシーンがあります。
バッタたちの運命はウェンの気持ち一つにかかっているということ。

それと同じく、この地球上の人々の運命は、
わたし達の知らない何者か、創造主とか神とか言われるような者の
意のままに操作されているのでは・・・?という話なのですね。

 

私はもっとひねりのあるストーリーなのかと思ったのですが、
いえ、まさにそのものズバリ、エリックとアンドリューの選択の問題の話なのでした。
人類のために、一番大切な人の命を損ねることができるのかどうか。

 

言いたいことは分かるけれど、ちょっとピンとこない感じだなあ・・・と思ってしまった。

押し込んできた4人のうちの一人は、ルパート・グリント、
つまりハリー・ポッターの親友、ロン役でおなじみの方ですね。

 

<シネマフロンティアにて>

「ノック 終末の訪問者」

2023年/アメリカ/100分

監督:M・ナイト・シャマラン

原作:ポール・トレングレイ

出演:デイブ・バウティスタ、ジョナサン・グロフ、ベン・オルドリッジ、
   ニキ・アムカ=バード、ルパート・グリント

 

究極の選択度★★★★☆

満足度★★★☆☆


ノートルダム 炎の大聖堂

2023年04月10日 | 映画(な行)

世界的遺産を守れ!

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2019年に起きた、パリ、ノートルダム大聖堂の火災を題材としたものです。

2019年4月15日、ノートルダム大聖堂で警報器が火災を検知するのですが、
関係者は誤報と思い込み、その間にも火は燃え広がっていきます。
天井裏で発生した炎は、聖堂上部から煙を噴き上げるのですが、
当のその内部にいた人々は気づかず、遠くから煙を発見した人が
SNSにその写真を載せるなどして、思わぬ所から徐々に火災の情報が広がっていきます。

そんなことで、消防隊が到着した頃には、大聖堂上部は激しく炎上。
そして、貴重なキリストの聖遺物は、管理が厳重すぎるあまり、
持ち出しに困難を極めます。

刻一刻と燃え広がる炎。
建材に鉛が使用されていて、火災の熱で溶けた鉛が
川のようになって流れ落ちてくるなどというシーンが恐い! 
一部の建材などが崩落。
飛び散る火の粉。
渋滞で消防車は進まない。
野次馬でごった返す街並み。
狭いらせん階段を重装備で登る消防士達・・・。

緊迫感と混乱、そんな様子がリアルに現されています。
なにしろ794年前にできたという建物、これを失えばその損失は計り知れません。
国宝どころではない、世界にとっての損失となってしまいます。
それを守るために、最後の手段の決死的活動に、名乗りを上げる消防士達。
こうした人々の奮闘が胸を熱くします。

結果的には、死者ゼロで鎮火を迎えることができたというのもスバラシイ!

この撮影には大規模なセットを炎上させた映像とVFXを融合させ、
また当時のSNS映像などからマクロン大統領の姿も所々に登場、
圧倒的なリアリティを生み出しています。
本来IMAXによる撮影だそうですが、私が見たのはミニシアター。
というか、うちの地方ではIMAXのシアターではやっていません。
残念・・・。
下手なSF作品よりもこれをぜひ上映すべきなのにな。

 

<シアターキノにて>

「ノートルダム 炎の大聖堂」

2021年/フランス・イタリア/110分

監督:ジャン=ジャック・アノー

出演:サムエル・ラバルト、ジャン=ポール・ボーデス、ミカエル・チリ=アン

 

緊迫感★★★★★

満足度★★★★☆

 


ナイル殺人事件

2022年11月21日 | 映画(な行)

ナイル川を行く豪華客船で

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先のクリスティ原作による「オリエント急行殺人事件」と同じく、
ケネス・ブラナーの監督・製作・主演で映画化したものです。

エジプト、ナイル川を巡る豪華客船の中。
美しき大富豪の娘、リネットが何者かに殺害されます。
容疑者は彼女の結婚を祝うために集まった乗客全員。
居合わせたポワロが事件の真相に迫ります。

 

冒頭、第一次世界大戦の様子が描かれ、
そこでポワロは大きな功績を上げると共にある悲劇にも見舞われます。
なんとそれがポワロのあの口ひげの秘密。
なるほど~。

そしてこのナイル川を行く豪華客船。
途中で立ち寄る神殿の様子など異国情緒たっぷりで、これも楽しめます。

しかしこの船に乗り合わせた人々の人間関係があまりにも危うい。

親友のジャクリーンから恋人のサイモンを略奪し、結婚してしまったリネット。
ジャクリーンはサイモンに未練たっぷりで、
ストーカーと化し、2人につきまといます。
この船にも途中から乗船してきました。
またリネットには元婚約者の医師・ウィンドシャルがいて、彼もこの船に乗っています。
オリエント急行で、ポワロの推理に協力した親友ブークと、その母・ユーファミア。
ジャズシンガーのサロメに、その姪・ロザリー。
役者はそろったという感じですね。

誰もが、資産家で傲慢な美女・リネットには複雑な感情を抱いており、
つまり誰が犯人でもおかしくない。
・・・また全員が犯人?と一瞬思ってしまったくらいです。
でも無論、同じ手は使いません。

まさにミステリの醍醐味を感じる企みが隠されていました!

それにしても、自らも灰色の脳細胞をもつ「名探偵」と歌いながら、
ポワロは次々と行われる殺人を止めることができない。
まあ、いずれもミステリとはそういうものですけどね。
最終的に真相を明らかにはするものの、ふがいないといえばふがいない。
そして、そのことが本作のラストシーンに繋がるわけです。

なかなかユニーク。
ということは、もうこの続編は考えていないのかな? 
まあ、特に見たいとも思いませんが。

<Amazon prime videoにて>

「ナイル殺人事件」

2022年/アメリカ/127分

監督:ケネス・ブラナー

原作:アガサ・クリスティ

出演:ケネス・ブラナー、ガル・ギャドット、アーミー・ハマー、
   トム・ベイトマント、アネット・ベニング、エマ・マッキー

 

旅情ミステリ度★★★★☆

満足度★★★★☆


ノイズ

2022年09月25日 | 映画(な行)

隠そうとすることで、また問題がやっかいに・・・

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筒井哲也さん同名コミックの映画化。

過疎化に苦しむ猪狩島。
島の青年・泉圭太(藤原竜也)が生産を始めた黒イチジクが高く評価され、
地方創生推進特別交付金5億円の支給もほぼ決まり、
島に希望の光が見え始めています。

そんなある日、村を訪れた何やら怪しい男、小御坂(渡辺大知)。
その不審な言動に違和感を持った圭太。
猟師の純(松山ケンイチ)。
島の新米巡査・真一郎(神木隆之介)。
この3人は島の幼なじみで親友同士なのです。

そして圭太の娘の姿が見当たらないことを機に、
圭太が誤って小御坂を殺してしまいます。
その場に居合わせたこの3人は、この殺人を隠すことを決意。

ところが実はこの小御坂は、元受刑者のサイコキラー。
彼の足取りを追って、警察が島に乗り込んできます・・・。

もともと殺そうと思って殺したわけではなく、あくまでもものの弾みの事故。
その時に、きちんと正しい通報措置を取っていれば・・・
というのは、あくまでも後に思うこと。
いま、イチジクを大々的に売り出そうとする島で、
問題は起こしたくないと、そういう気持ちが大きかった・・・。
その時にはこの男の正体を知っていなかったこともありますし。

ということで、このことを隠そうとするが故に、余計に事態は面倒になり、
彼らは追い詰められていくのです。
そんな中で島の老人(柄本明)と町長(余貴美子)までが命を落とすことに・・・。
そしてまた、捜査に当たる刑事(永瀬正敏)が優秀すぎる!!
この、絶体絶命感、ハラハラ感がハンパなく、見入ってしまいます。

閉鎖的な過疎の島という背景。
そして、鉄板の友情の絆で結ばれたはずの3人が、実は・・・。
という展開もまた、見所。

豪華キャストも納得の力作です。
北海道ではイチジクはできないので、あまりなじみが深くなくて、
とても食べたくなりました。

<Amazon prime videoにて>

「ノイズ」

2022年/日本/128分

監督:廣木隆一

原作:筒井哲也

出演:藤原竜也、松山ケンイチ、神木隆之介、黒木華、渡辺大知、
   酒向芳、柄本明、余貴美子、永瀬正敏

絶体絶命度★★★★★

ドキドキ度★★★★★

満足度★★★★☆

 


ナイトメア・アリー

2022年04月20日 | 映画(な行)

まさに悪夢の・・・

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1946年に出版されたノワール小説「ナイトメア・アリー 悪夢小路」を原作としています。
過去にも「悪魔の往く町」(1947)として映画化されたことがあるとのこと。

青年スタン(ブラッドリー・クーパー)は、故郷を後にして、
とあるカーニバルの一座と知り合います。
それは、人間か獣か、正体不明の生き物を出し物にする怪しげな見世物興行。
そこにしばらく居着いたスタンは、読心術の技を学びます。
そして、人を引きつけ天性の才能とカリスマ性を武器に、トップの興行師となっていきます。
やがて、上流階級の人々ともつながりをもつようになり・・・。

ここでいう読心術は、無論、実際にテレパシーの技が使えるわけではありません。
巧みに相手を観察し、助手との暗号的やりとりも加えて、
ズバリと相手の思いを言い当てる。
それが資産家相手となれば大金も絡むので、次第にそれは「詐欺」の様相を呈してきます。
スタンは自分の「言葉」によって次第に自分も縛られ、闇に沈んでいく・・・。

そもそも始めから純粋な好青年ではなかったのです、スタンは。
冒頭に、そんなことをほのめかすシーンもあって、
ちょっと油断ならない、謎めいた人物でもある訳ですね。
そして、女たらしでもあるヤバいヤツ。

また、このカーニバルもいかにも不気味ですね。
くも女、全身に電流を流す美女、母親を食い殺した胎児のホルマリン漬け・・・。
中でも、ギークという獣人は、いやこれ、本当は普通の人でしょう・・・?
と思えるのですが、興業時間外も檻に閉じ込められて獣と同じ扱いを受けているのです。
なんだか、イヤーな予感がしましたよ。はい。
そしたらやはり・・・。
闇落ちのラストにうまく繋がっていきます。

ここで見世物になっているのはいかにも作り物で、タネも仕掛けもあります。
それは明らか。
けれど、実はある種の人の心こそが、怪物めいて醜い・・・ということですね。

 

<シアターキノにて>

「ナイトメア・アリー」

2021年/アメリカ/150分

監督:ギレルモ・デル・トロ

出演:ブラッドリー・クーパー、ケイト・ブランシェット、トニ・コレット、
   ウィレム・デフォー、リチャード・ジェンキンス、ルーニー・マーラ

 

心の闇度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


逃げた女

2022年03月08日 | 映画(な行)

想像しよう

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本作は、ガミという女性が友人の元を訪れ、
何か食べながらひたすらおしゃべりをすると言う作品。
特別に何か大きな出来事がある訳ではありません。
彼女たちの身の回りの事柄を見聞きしながら何を思い、
どんな風に想像を広げるのかは見る人の自由。
何が正解と言うこともないのでしょう、多分。

 

ガミが始めに訪れるのは先輩、ヨンスンの家。
彼女は、離婚して今は友人とルームシェアをして気ままに暮らしています。
でも若干近所の人と不和を抱えている様子。

次に訪れるのが、やはり先輩のスヨンのもと。
独身ですが、今、少し気になる人がいる。
しかし、以前酔ってつい関係を持ってしまった男が
ストーカ-のようになってしまっている。

そして、最後に偶然出会った友人・ウジン。
彼女とはある人を挟んで三角関係になってしまったことがあって、ちょっと気まずい・・・。

これら三人と話すのはとりとめもないことなのですが、
そんな中でガミは必ず今の自分のことをこう言うのです。

「夫とは結婚して5年になるけれど、今まで一度も離れたことがない。
今回、夫が出張になって初めて離ればなれになった。
愛する人とは何があっても一緒にいるべきだ。」

すなわち、夫とはラブラブで、幸せ・・・ということのようなのですが。
あくまでも私個人の想像としては、妻を常に近くにおいて自由にさせない夫。
ガミはそれが息苦しくてもう限界で、家を飛び出してきたのではないか・・・?

そのように想像してしまうというのは、
私の奥底の人生観のようなものが現れてしまっているだけなのかも知れず、
そう思うと、うかつに想像を巡らすのも恐くなってしまいますね。

単に、「女の幸せにも色々あるよ」、ということかもしれないし、
「平和な暮らしの中にも魔が潜んでいる」ということかもしれないし・・・、
あなたなら、どうですか?

私などでも気づく独特なカメラワークが繰り返されますが、
あれは、何なのでしょう。
もしかしたら、とりとめのない会話の中にも、
人によってズームアップ的に興味のひかれる部分があるよね、そうでしょう?
・・・と、言っているのかも。

 

<WOWOW視聴にて>

「逃げた女」

2020年/韓国/77分

監督・脚本:ホン・サンス

出演:キム・ミニ、ソ・ヨンファ、ソン・ソンミ、キム・セビョク、イ・ユンミ

 

日常度★★★★★

想像の余地度★★★★☆

満足度★★★.5


奈緖子

2021年12月09日 | 映画(な行)

今見ると、さらにみずみずしい

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同名コミックの映画化です。

喘息の療養のため長崎県波切島を訪れた12歳奈緖子。
走ることの大好きな10歳雄介を知ります。
そんな時、海に落ちた奈緖子を助けようとした雄介の父は、
奈緖子を救った後、帰らぬ人となってしまいます。
奈緖子も雄介も心に大きな傷を抱えてしまいました。

そして6年後、奈緖子(上野樹里)は駅伝のランナーに成長した
雄介(三浦春馬)と出会いますが、雄介は彼女を拒絶。

そんな2人の様子を見た、陸上部の監督であり、
雄介の亡き父の親友でもあった西浦(笑福亭鶴瓶)が、
奈緖子に駅伝合宿の手伝いを依頼します。

自分のせいで父親を亡くした少年に対して、
どう接すれば良いのか分からない奈緖子。
もうなんとも思っていない、と言いながら実のところ拒否してしまっている雄介。
監督はそんな2人の過去のいきさつを知っていて、
2人は過去に囚われたまま時間が止まっていると感じたのです。

雄介の走りに魅了された奈緖子は、彼に近づくのは恐いと感じながらも、
島の合宿にマネージャーとして参加することになるのですね。

 

2007年作品で当然のことながら、上野樹里さん、そして三浦春馬さんが若い!! 
ストーリーのみずみずしい青春の息吹が、そのことと相まって、
なんだかたまらなく愛おしい・・・。
三浦春馬さんだから、余計に、ね。

駅伝チームのちょっとこじれた先輩が柄本時生さんだし、
ライバルチームのエースはなんと綾野剛さんだ!! 
この頃はまだ売り出し中ですよね。
カッコイイ♡♡♡

今見るとすごくお得感のある作品です。
オススメ。

 

<WOWOW視聴にて>

「奈緖子」

2007年/日本/120分

監督:古厩智之

原作:坂田信弘、中原裕

出演:上野樹里、三浦春馬、笑福亭鶴瓶、佐津川愛美、柄本時生、綾野剛

 

青春度★★★★☆

満足度★★★★☆