映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ティル

2024年04月27日 | 映画(た行)

実在の、あってはならないこと

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1950年代、アメリカでアフリカ系アメリカ人による公民権運動を大きく前進させるきっかけとなった
実在の事件「エメット・ティル殺害事件」の映画化です。

ずっしりと重いです。

1955年、イリノイ州シカゴ。

夫を戦争で亡くしたメイミー・ティルは、空軍で唯一の黒人女性として働きながら
14歳の息子エメットと平穏に暮らしていました。

ある日エメットは初めて母と離れて、南部、ミシシッピ州マネーの親戚宅を訪れます。
エメットは家の近所の飲食雑貨店で、白人女性キャロリンに向けて口笛を吹いたことで
白人の怒りを買い、白人の集団に拉致されリンチを受け死亡してしまいます。

息子の変わり果てた姿と対面したメイミーは、
この悲惨な事件を世間に知らしめるべく、行動を起こします。

シカゴで暮らしていたメイミーとエメットは、
多少の差別を受けながらも、暮らし向きは良かったのです。
メイミーは出身地である南部の、酷い人種差別のことをよく分っていたのですが、
シカゴ生まれ育った息子は何も分っていません。
くれぐれも、あちらでは白人の前で小さくなっているように・・・と、息子に言い聞かせます。
でもエメットは従兄弟たちと会って遊べることが嬉しくて舞い上がっています。
そんな息子の様子に一抹の不安を覚えるメイミー。

しかし、彼女の不安は的中。

それにしても、こんなことがあって良いのかと思ってしまいます。
エメットは、店の女性に映画スターみたいにキレイだね、と言ったのです。
そして思わずヒュ~と口笛を吹いた。
彼女は、黒人に親しく話しかけられたこと自体にショックを受け怒りを感じたようです。
そもそも黒人を同等に話をする対象と見なしていない。
彼女の話を聞いた者たちが、夜中にエメットの所へ銃を持って押しかけてきたのです。

その時彼らは顔を隠しもしていません。
エメットを差し出さなければ家族も殺されてしまう・・・、
それは単なる脅しではなく、現実に差し迫った脅威でした。
そしてこのことは警察などなんの頼りにもならないのです。
警察もグルと言ってもいいくらい。
もどってこないエメットは後に川に浮かんだ遺体として発見されます。

南部の黒人に全く人権はない。
このことは後の裁判でも思い知らされます。
こんな社会を変えたい。
そのやむにやまれぬ思いが、メイミーを立ち上がらせたのですね。

言葉をなくすような、重い歴史上の事実です。

 

<Amazon prime videoにて>

「ティル」

2022年/アメリカ/130分

監督:シノニエ・チュクウ

出演:ダニエル・デッドワイラー、ウーピー・ゴールドバーグ、ジェイリン・ホール、
   ヘイリー・ベネット、フランキー・フェイソン

 

歴史発掘度★★★★☆

人権無視度★★★★★

満足度★★★★☆

 


おまえの罪を自白しろ

2024年04月26日 | 映画(あ行)

政治家の罪とは

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政治家一族である宇田家の次男・晄司(中島健人)。
建築会社を設立したものの倒産し、
国会議員の父・清治郎(堤真一)の秘書を務めています。
しかしその父も今は政治スキャンダルの渦中に。

そんな時、宇田家の長女・麻由美(池田エライザ)の幼い娘が誘拐されます。
犯人の要求は身代金ではなく、
翌日の17時までに清治郎が記者会見を開いて「犯した罪」を告白するように、と。

宇田家は父と長男(中島歩)、娘婿(浅利陽介)が政治の道へ進み、
晄司はそれとは関わらず自分の道を歩もうとしていたのですが、
いやいやながら父の秘書をすることになってしまっていたのです。
それなので、政界の当たり前のように横行する不正めいたことも、
いちいち引っかかりを覚えてしまう。
父がもし後ろめたい行為に及んでいたのなら、
犯人の要求に応えて、本当のことを話したほうが良いと思うのです。

そして父も、孫娘のためならやむなしと思い、覚悟を決めるのですが・・・。
実は「罪」と言うべきなのは一つだけではなかったのです。

 

また、ことは清治郎1人に関わる問題ではない。
清治郎が白日の下に真実をさらけ出せば、他所の欺瞞もさらけ出され、
政界を揺るがすこととなってしまいます。
そのために様々な妨害が・・・。

こんなことで、真実を明かしてくれるのなら、実際にやってみたくなったりする
・・・などと過激なことを考えてしまいました。

 

尾野真千子さんが妙に地味な役をやっていると思ったら・・・。
おっと、これ以上は秘密・・・。
というか、配役でバレバレのパターン。

ケンティだから見たので、そうでなければみるほどのモノでもなかったかも。

 

<Amazon prime videoにて>

「おまえの罪を自白しろ」

2023年/日本/101分

監督:水田伸生

原作:真保裕一

脚本:久松真一

出演:中島健人、堤真一、池田イライザ、中島歩、山崎育三郎、美波、浅利陽介、尾野真千子

 

サスペンス度★★☆☆☆

満足度★★★☆☆


ボーイズ・イン・ザ・ボート 若者たちが託した夢

2024年04月24日 | 映画(は行)

ハングリー精神

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実話を基にした物語。

1936年のベルリンオリンピック開催が近く予定されている頃。
米・ワシントン大学で、ボートの8人乗り競技のメンバー募集がなされます。
ボート競技というのは、当時お金持ちの子息がやるスポーツだったのです。
でもこの時は、はっきりと、
メンバーには給料を出すし、寮に入ることも出来るとうたってメンバーを募集。
世界大恐慌で失業者があふれているとき。
学生も学費を払うのに四苦八苦。
そんな労働者階級の若者に的を絞ったメンバー募集だったのです。

 

かなりの高倍率の中から選ばれた、体力がありボートセンスのある若者たちは、
皆ほとんどボートなど始めてだったのですが、毎日激しいトレーニングを開始します。
しかしこの大学のボート部にはすでにチームがあって、
この度の新たなメンバーは二軍という扱いでした。
一軍のメンバーはつまりお金持ちの坊ちゃんたちということで、
二軍メンバーにはちょっと意地悪なのです。

でもこういうときはやはりハングリー精神がものをいいますよね。
二軍メンバーはどんどん力を付けていって・・・。

 

そして1936年のベルリンオリンピック。
ドイツでナチスがその力を他国に見せつけようと大々的に開かれたオリンピック。
そこでの彼らの戦いぶりも、手に汗を握ります。

 

今時真っ正面からの感動作。
よきよき。

 

<Amazon prime videoにて>

「ボーイズ・イン・ザ・ボート 若者たちが託した夢」

2023年/アメリカ/123分

監督:ジョージ・クルーニー

原作:ダニエル・ジェームズ・ブラウン

出演:ジョエル・エドガートン、カラム・ターナー、ピーター・ギネス、ジャック・マルハーン

 

努力度★★★★☆

満足度★★★★☆


落下の解剖学

2024年04月23日 | 映画(ら行)

事故? 自殺? それとも・・・?

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人里離れた雪山の山荘。

視覚障害を持つ11歳の少年が、血を流して倒れていた父親を発見。
息子の叫び声を聞いて駆けつけた母親が救助を要請しますが、
父はすでに息絶えていました・・・。

父親は当初転落死と思われたのですが、不審な点も多く、
前日に夫婦げんかをしていたことから、
妻であるベストセラー作家のサンドラに夫殺しの疑いがかけられます。
息子に対しては必死に無実を主張するサンドラ。
しかし裁判が進むと、夫婦の間に隠されていた秘密や嘘が露わになっていきます。
無慈悲です。

果たしてこれは事故なのか、自殺なのか、それとも・・・?

事故(事件?)の前、妻に来客があり仕事上のインタビューを受けるはずだったのですが、
夫が大音響で音楽をかけるものだから、録音不能で、
インタビュアーはあきらめて帰ってしまうという一幕があります。

そもそもそんな時に、夫がいかにもうるさい音楽を流したり、
妻がそれを咎められないというところで、
若干いびつな夫婦関係が見えるような気もするのですが・・・。

まあそれでも表面的には普通の夫婦と見えていた2人。
けれどいろいろな問題点が見えてきます。

息子が目に障害を持つに至った事故があり、夫がその責任を感じている。
世間的に妻の方が成功者で、夫は挫折しているように見える。
しかし夫はプライドが高く、人里離れたこの山荘に越してきたのも
そうした心理が関係しているらしい。
そしてまた夫は精神の病を持ってもいる・・・。

 

終盤でサンドラは言います。

「裁判に勝っても、何も残らない・・・」

この裁判中、彼女は自分でも思い出したくないような夫婦間のどうにもならない気持ちの食い違いというか、
むしろ憎しみあっているほどのひび割れを思い知らされることになるのです。
しかも息子を含めた衆目の前で。
サンドラにとっても酷ですが、息子にとってそれはもっと残酷かもしれません。
夫婦は極力息子の前では争わないようにしていたのですね。

母を信じたいけれども素直に信じることもできない少年の戸惑いもまた切ない。
・・・けれどこの少年のある記憶が、重大な鍵となります。

本作、裁判での決着はつくのですが、それが真実とは限らない
・・・ということなのだと思います。

本当のことは本人にしか分りません!

<シアターキノにて>

「落下の解剖学」

2023年/フランス/152分

監督:ジャスティーヌ・トリエ

脚本:ジャスティーヌ・トリエ、アルチュール・アラリ

出演:サンドラ・ヒュー、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラヌール、アンロワーヌ・レナルツ

真実は藪の中度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


「片をつける」越智月子

2024年04月22日 | 本(その他)

本当に必要なものは

 

 

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隣の部屋に住む老婆・八重を助けたことがきっかけで、
彼女の部屋の片づけを手伝うことになった阿紗。
過去に生活雑貨店で働いていた経験から得た掃除のテクニックを
八重に教えながら、彼女の部屋の片づけを始める。

片づけるうちに明らかになる八重の過去。
そして阿紗も、幼少期の荒れ果てた部屋の記憶が蘇ってくるーー。

自分に必要なもの、いらないもの、欲しかったもの、嫌だったもの。
思い出や物と向き合う中で、二人が選んだ道とはーー。

* * * * * * * * * * * *

お片付け小説? 
そんなジャンルがあるとすれば、まさしく本作。

 

阿沙は、となりの部屋に住む八重を助けたことがきっかけで、
彼女の部屋の片付けを手伝うことになります。
八重は、口が悪くてなんともとっつきにくい老婆ではあるのですが、
その部屋のほとんどゴミ屋敷の状況を見て、
頼まれて後に引けなくなってしまったのです。
阿沙は、過去に生活雑貨店で働いていたときの経験から、
掃除のテクニックを身につけていたのです。

すべてを一度にやろうとしないで、ほんの一部分から。
不要なもの、必要なものを仕分けていく・・・。
そんなことから幾日も通ううちに次第に八重のことを知っていく阿沙。
そして実は阿沙自身にも、つらい過去の記憶があったのですが・・・。

 

不要物であふれた部屋は、これまでの生きてきた証でもあるのでしょう。
でも、今現在を生きていくためには、ほんの少しでこと足りる。

八重は、ごちゃごちゃした不要物を片付けるにつれて、
人生の友、阿沙との絆を深めていったようでもあります。

年齢差はあるけれど、互いに詮索しすぎない距離感で、
友人関係を結べるのって良いなと思います。

 

「片をつける」越智月子 ポプラ文庫

満足度★★★.5


キングダム 運命の炎

2024年04月20日 | 映画(か行)

飛信隊

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「キングダム」シリーズ第3作。

魏との戦いで勝利を収めた秦。
本作では次に秦に積年の恨みを持つ隣国・趙の軍隊が攻め込んできます。
エイセイは、長らく戦場から離れていた伝説の大将軍・オウキを総大将に任命。

そして、100人の兵士を率いる隊長となったシンは、
オウキから「飛信隊」という部隊名を授かり、
オウキ直属の特別部隊として動くことになります。

兵力に於いては不利な秦軍。
果たしてオウキは飛信隊にどんな役割を命ずるのか・・・?

作中でエイセイは、自分が「中華統一」を成し遂げたいと思った理由をオウキに語ります。
それは、かつての恩人・紫夏との記憶・・・。

第一作は、秦の内乱の話。

第二作で、魏との戦い。

そして本作、第3作で趙との戦いになりますが、
しかし趙との戦いは本作だけでは終わらない。
趙軍には3人の勇猛な将がいるのですが、本作で倒れたのは1人のみ。
いやいや、そうしてみただけでも、全編がどれだけ長いのかと思ってしまいます。
さすが、壮大な物語・・・。

登場人物もビッグなタレントを起用しつつ、どんどん増えていきます。
原作を読んでいないので分らないのですが、
映画としてはどこまで続くのやら・・・?

この続きの第4作は間もなく7月に公開予定ですが、
それは劇場に見に行ってもいいかな?と思っております。

<WOWOW視聴にて>

「キングダム 運命の炎」

2023年/日本/129分

監督:佐藤信介

原作:原泰久

出演:山崎賢人、吉沢亮、橋本環奈、清野菜名、満島真之介、山田裕貴、
   片岡愛之助、玉木宏、大沢たかお、萩原利久、山本耕史

 

壮大さ★★★★☆

満足度★★★★☆


キングダム2 遥かなる大地へ

2024年04月19日 | 映画(か行)

魏との戦闘

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映画版の「キングダム」はシリーズ第一作を見たきり、
その後はみていなかったのですが、
別に面白くないと思っていたわけでもなく、
この度、第3作目まで続けて放映していたので、
せっかくだから見てみようと思った次第。
ちなみに、ストーリーをほとんど忘れていたので、第一作も見直しました。

ご参考までに → 第一作「キングダム」

 

紀元前、春秋戦国時代の秦。

第一作は、弟のクーデターにより王座を追われた若き王・エイセイと
運命的出会いをしたシンが、
テンや山の王と協力しながらエイセイの王座奪還に成功するというストーリーでした。
しかしこれは長い物語のほんの始まりにしか過ぎません。
まだ秦国内部の話ですしね。

ということで本作は、その半年後。
隣国・魏が秦への侵攻を開始。
いよいよ他国との戦いが始まります。

蛇甘(だかん)平原で戦闘が繰り広げられますが、
シンは歩兵として戦場へ赴きます。

しかし敵は圧倒的多数。
シンのいる歩兵部隊は厳しい状況にさらされます・・・。

秦軍を率いるのがヒョウコウ(豊川悦司)ですが、
始めは全くやる気のない無能な将軍(?)のように見えていましたが、
すべて読み込み済みの名将軍であったという・・・。
そりゃトヨエツですからそんなおバカの役はないですよね。
が、それにしても時には多くの兵を見殺し同然、
使い捨てのようにせざるを得ないこともあり、
戦略というのは非情なモノであります・・・。
これが戦争というものですね・・・。

シンはここでキョウカイという新たな心強い仲間も得ます。
キョウカイの悲しい身の上も本作の見所の一つ。

シンは国王・エイセイの信頼を得ながらも、まずは無名の歩兵からの第一歩。
きっとここから上り詰めていくのでしょう。

第3作へ、GO!

<WOWOW視聴にて>

「キングダム2 遥かなる大地へ」

2022年/日本/134分

監督:佐藤信介

原作:原泰久

出演:山崎賢人、吉沢亮、橋本環奈、清野菜名、満島真之介、岡山天音、

   三浦貴大、豊川悦司、大沢たかお

 

満足度★★★★☆


アフターサン

2024年04月17日 | 映画(あ行)

当時の父と同じ年齢になった自分

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11歳の夏休みを迎えたソフィ(フランキー・コリオ)。

両親は離婚し、普段は母と暮らしていますが、
この夏休みは父・カラム(ポール・メスカル)と共に
トルコのひなびたリゾート地で過ごすことになりました。

ユニークなのは、この作品が、このひと夏の様子を
そのままソフィの視点で描いているのではなく、
20年後、当時の父・カラムと同じ年齢になったソフィが、
その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、
父との記憶を蘇らせていくという体で描かれているところです。

その当時、子どもの自分にはよく分っていなかった父の内面が、今なら分る。
とはいえ、11歳といえばすでに思春期の入り口にはあるわけで、
当時整理がつかなかった自分の感情をもまた、同時に思い起こしてもいるわけですね。

当時の父は、離婚後孤独で仕事も順調ではなかった。
けれど、大事な娘のために、なけなしのお金をはたいて
このバカンスに挑んだのでしょう。

夜、1人で海へ歩み入っていくカラム。
いやあ、私はてっきりそのまま帰ってこないのでは?と思ってしまいました。
けれど、11歳の娘を1人残して行ってしまうほど無責任なヤツではありませんでした。
よかった、よかった・・・。

ただ楽しいだけではなくて、物憂くてけだるくもあるリゾート地の夏。
普段は離れて暮らしている父と娘。
特別な時間。
見事にそのような状況が切り取られていました。

<Amazon prime videoにて>

「アフターサン」

2022年/アメリカ/101分

監督・脚本:シャーロット・ウェルズ

出演:ポール・メスカル、フランキー・コリオ、セリア・ローソン=ホール

 

夏の倦怠感度★★★★☆

郷愁度★★★☆☆

満足度★★★★☆


パストライブス 再会

2024年04月16日 | 映画(は行)

初恋のその後

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24年間にわたる男女の「縁」の物語。

韓国、ソウルに暮らす12歳の少女ナヨンと少年ヘソン。
互いに恋心を抱いています。
しかし、ナヨンは家族とともにカナダへ海外移住。
離ればなれになってしまいます。

その12年後、24歳になったナヨンは移住に伴いノラと名乗るようになっていて、
今は研修のためにニューヨークに来ています。
そんなある日、ノラはソウルのヘソンとオンラインで再会を果たします。
お互いに思いはありながら、双方まだ自身の人生の方向も見えておらず、
間もなくまた連絡も途絶えてしまいます。

そしてまた12年後。
36歳のノラは、作家のアーサーと結婚しています。
それなりに充実した毎日。
そんなところへ、ヘソンがノラに会うためニューヨークを訪れ、
2人は再会しますが・・・。

 

 

本作は、12歳の時に海外移住したというセリーヌ・ソン監督が
自身の体験を基にしたオリジナル脚本です。

 

幼馴染みで、双方ほんのりと思いのあった2人ですが、
あっさり結婚してしまったノラとは違って、
ヘソンの思いの方が強かったようです。
24歳でナヨンを探していたのもヘソンだし、
わざわざノラに逢うためニューヨークへやって来たのもヘソン。
ノラが結婚していることも知っていたのですが・・・。

この2人のいきさつを知るアーサーも、心穏やかではありません。
妻はやはりヘソンのことをまだ思っていて、
自分から去ってしまうのではないかと・・・。
そのアーサーの気持ちが分るノラ。
ノラは好きだけれど、彼女の結婚生活を壊したいわけではないヘソン。

三者の気持ちが微妙にそして複雑に絡み合う、
ラスト付近のシーンがなんとも切ないのでした・・・。

作中「イニョン(縁)」という言葉が多用されます。
日本人の私たちにもなじみの深い言葉。

「袖触れ合うも他生の縁」などという言葉にもあるとおり、
現在の人と人との関わりは、それがほんのわずかのことであっても、
前世でやはりその人と幾ばくかの関わりがあったことを示している・・・。

ノラとヘソンも、結局は深く関わることができなかったけれど、
きっといつかの前世で何らかの関わりがあったに違いない・・・
あるいはまた今後の世で、つながりがあるのかもしれない・・・。

そうした未来にしか希望を見いだせないヘソンもまた切ないですね・・・。

私は、ノラにとってヘソンというのは、故郷そのものなのかも知れないとも思いました。
懐かしくそして愛してやまない故郷。
けれど今はそこから遠く離れて、自分の生活はすっかりここにある。
懐かしい故郷に帰って暮らそうという気持ちは実のところない。
遠く離れて思うからこその故郷・・・。

となれば、ヘソンにはやはり勝ち目はないのか。

 

<シネマフロンティアにて>

「パストライブス 再会」

2023年/アメリカ・韓国/106分

監督・脚本:セリーヌ・ソン

出演:グレタ・リー、ユ・テオ、ジョン・マガロ

 

切なさ★★★★☆

満足度★★★.5


ジュリア(s)

2024年04月15日 | 映画(さ行)

分岐する人生

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ピアニストを目指す女性、ジュリアの人生を描きます。
が、その描き方が普通ではない。
些細な偶然や選択の積み重ねで分岐したいくつかの人生を、
平行して描いているのです。

それがつまり、題名の(s)の意味。
一つの物語を生きるジュリアだけではなく、
分岐したいくつかの生を生きる複数のジュリアを描いているわけです。

ピアニストを夢見ていた17歳の秋。
ベルリンの壁の崩壊を知り、友人たちとベルリンへ向かった日。



バスに乗りベルリンへ到着して様々な出会いのあったジュリア。
バスに乗り遅れて、何も起こらずに過ごしてしまったジュリア。

本屋で運命的な出会いがあったジュリア。
出会い損ねてしまったジュリア。

シューマンコンクールで受賞し、ピアニストの道を歩み始めたジュリア。
受賞を逃し、希望の道へ進めなくなったジュリア。

 

バイクを自分が運転したジュリア。
そうではなかったジュリア・・・。

 

自分の選択であれ偶然であれ、運命が良い方に転がったりそうでなかったり、
結果が変わってきます。
例えば書店で偶然出会った男性と恋をし、結婚することになったとしても、
人生はそこで終わりというわけではない。
その結婚の末どうなるかはまた別の話。

 

この物語で最後にこれまでの人生、
あの時こうしていれば、ああしていれば、また違った人生になったのかも知れないと
想像を巡らせるジュリアは、
実は多くの分岐で良くない方へ良くない方へとたどった道の結果ではなかったか。

けれど、彼女は思うのです。
でも今、とても満ち足りて幸せな心地がする。
結局はやはりこの道が正解だったのではないかと・・・。

 

こんな風に思うと、実際「今」が不満足なことばかりに思えようとも、
先のことは分らない、だからそう悲観することもない・・・
というように思うことも大切なのかな、と思う次第。

 

<WOWOW視聴にて>

「ジュリア(s)」

2022年/120分/フランス

監督:オリビエ・トレイナー

脚本:カミーユ・トレイナー、オリビエ・トレイナー

出演:ルー・ドゥ・ラージュ、ラファエル・ペルソナス、イザベル・カレ、
   グレゴリー・ガドゥボワ、エステール・ガレル

平行世界度★★★★☆

満足度★★★.5


交換ウソ日記

2024年04月13日 | 映画(か行)

言わなきゃならないけど、言えない

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高校生男女の胸キュン青春ラブコメ。

なんというか、私にとってこういう作品はスウィーツみたいなもので、
毎日じゃなくてもいい、時々食べてhappyになりたいと、そういう感じです。
若きイケメンくんを見るのは好きだし・・・。

高校2年、黒田希美(桜田ひより)は、移動教室の机の中に
「好きだ」と描かれた手紙が入っているのを見つけます。
送り主は、学校一の人気者、瀬戸山くん(高橋文哉)。
希美はおそるおそる返事を彼の靴箱に入れます。
そして2人は互いのことを知るために秘密の交換日記を始めることに。
ところが実は、瀬戸山からの手紙は、希美の親友・松本江里乃へあてたものだったのです。

希美はそのことに気がついたものの、今さら瀬戸山には言い出せなくなってしまいました。
そしてまた、当の江里乃にも、言うことができません。
後ろめたさを感じながらも、江里乃のフリをして交換日記を書き続ける希美。
瀬戸山とは、江里乃の親友という立場で直接会って話すことも多く、
そんなうちに、瀬戸山にどんどん惹かれるようになっていきます・・・。

希美は積極的に自分の意見を言うような子ではなくて、
いつも誰かの後ろにいて、「私はどっちでもいい」などというのが常。
自分に自信がなくて引っ込み思案。
そしてそんな自分にコンプレックスを持っています。

でもある時、瀬戸山は言うのです。
「黒田さんは自己主張しないけど、何かいつもみんなを良い方に向けてくれる」と。
そんなところに気がついてくれる、瀬戸山くんは、イイ奴だなあ・・・♡

周囲の子たちも、それぞれ人のことを考えられる良いヤツ。
やっぱスイーツでしょ、こういうドラマ。
好きです。

<WOWOW視聴にて>

「交換ウソ日記」

2023年/日本/110分

監督:竹村謙太郎

原作:櫻いいよ

脚本:吉川菜美

出演:高橋文哉、桜田ひより、茅島みずき、曽田陵介、齊藤なぎさ、板垣瑞生

 

青春度★★★★☆

逡巡度★★★★★

満足度★★★.5


「ソフィーの世界 上・下」ヨースタイン・ゴルデル

2024年04月12日 | 本(その他)

哲学入門

 

 

 

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いま、ふたたび自分の存在を問い直すときがきた

14歳の少女ソフィーのもとに見知らぬ人物から届いた手紙。
そこにはたった1行「あなたはだれ?」とだけ書かれていた……。
本書が発行された1995年、日本では阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件が相次いで発生し、
人々は命の価値と自らの存在意義を模索した。
そしていま、未曾有の災害が日本を襲った。
「哲学」は私たちの生きる道を照らすためにある。
世界50か国1500万人超が読んだ名作が、著者の新たなメッセージを加えて再登場!

* * * * * * * * * * * *

 

本作は1995年に発行された、当時のベストセラーです。
この年、阪神・淡路大震災があったのですが、
私が読んだこの新装版は2011年に発行されたもの。
つまり、東日本大震災のあった年。
・・・ということで何か運命的なものさえ感じてしまいます。
とは言え、ベストセラーではあっても、私、読んだことはありませんでした・・・。

 

この度私が会員となっている、「絵本・児童文学研究センター」の講義のために
読んでおくことが必要となったため、目を通してみた次第。
哲学の入門書といった内容であるために、
私にはちょっとハードルが高かったのですが・・・。

 

著者ヨースタイン・ゴルデンさんは、ノルウェイの方なので、
本作の舞台もノルウェイとなっています。

14歳の少女ソフィーの元に、見知らぬ人物から手紙が届きます。
そこにはたった一行「あなたはだれ?」と記されていた・・・。
これがソフィーと哲学者アルベルトの長い哲学の歴史の旅の始まり。

ソフィーとアルベルトは書簡で、後には実際に対面して、
人類の最大の問い「私たちはどこから来たのか?」や
「私たちはなぜ生きるのか?」に答えようとする
「哲学」の変遷をたどっていきます。

 

ソクラテス、プラトン、アリストテレス・・・、
ちょっと残念な中世を経て、
カント、ヘーゲル、キルケゴール。
実際はもっと多くの人々の考えが紹介されていますが、たくさんすぎて、何が何やら・・・
ちょっとついて行けなくなりました。
でも一般の哲学書の難解さに比べれば、ずっと読みやすく、
もっと真面目に読みさえすれば飲み込みやすいと思います・・・。
(私は読み飛ばしてしまったところが多かったので)。
でもソフィーの飲み込みの良さとl記憶力はすごいです! 
アルベルトの説明をすべて記憶している!

終盤はいよいよ身近なマルクス、ダーウィン、フロイトとなっていくのですが、
私にはここのところが一番興味深かった。
だってこれらの人々の「説」は、単に「説」にとどまらず、
大きく世界を変えていった訳ですから。

 

さて、しかし、ここまでの話は本作の半分しか説明していません。
もう一つ別の大きな筋立てがあるのです。

ソフィアの所には、また別の人物からの手紙が届きます。
それは、「ヒルデ」という自分の娘に宛てた父親らしき人物からの手紙。
なぜかわざわざ、ソフィー気付でヒルデ宛の手紙が送られてくる。
ソフィーがきっと届けてくれるなどという説明を付けた、
不意に不思議な現れ方をするこの手紙。

ソフィーにはヒルデなどという人物に心当たりも何もないのです。
困惑が続きますが・・・。
しかし次第に、「世界」が転回する恐ろしい事実が・・・!

 

うーむ、ちょっと恐いですね。
それはつまり、今現実を生きているつもりの私たちですが、
その世界を丸ごと操っている何者かがいるのかも知れない・・・というような。
哲学の元々の問いに帰って行くのかもしれません。

 

よく分ったとはいいがたいけれど、
とりあえず「読んだ」という達成感はありました・・・。

 

「ソフィーの世界 上・下」ヨースタイン・ゴルデル 須田朗監修 池田香代子訳

満足感★★★☆☆

 


ロスト・キング 500年越しの運命

2024年04月10日 | 映画(ら行)

ド素人の主婦が

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フィリッパ・ラングレー(サリー・ホプキンス)は、
職場で上司から理不尽な評価を受け、落ち込んでしまいます。
夫とは離婚。
2人の息子と暮らしているので、仕事を辞めるわけにもいきません。

そんなある日、息子の付き添いでシェークスピア劇「リチャード三世」を鑑賞。
リチャード三世は、障害のある体のためか心も醜く歪み、
甥2人を殺害して王位に就いた・・・
などと悪評の高い1400年代のイギリス王です。

この時フィリッパはリチャード三世に自身を投影。
彼も実は自分と同じように、不当な扱いを受けているのではないかと思うのです。
そのことがきっかけでフィリッパは、リチャード三世の歴史研究にのめり込んでいきます。

1485年に死亡したリチャード三世の遺骨は近くの川に投げ込まれたと長く考えられていましたが、
フィリッパは彼の汚名をそそぐべく、遺骨探しを開始。
多くの人は馬鹿馬鹿しいといいますが、中には注目してくれる人もいます。
専門の学者の助言や古文書などから、有望な場所を割り出しては見たものの、
実際の発掘には大金が必要・・・。

この時、フィリッパにはリチャード三世の幻影が見えています。
彼女自身、これは「幻影」だと自覚はしている。
でも彼女の見る、力無くうなだれたリチャード三世の姿を
私たちも見ることで親近感が湧いて、
必ず彼の遺骨を見つけてほしいという願望が湧いてきます。
ほとんど憑かれたようになっているフィリッパだけを映し出せば、
こちらも若干引いてしまうかも知れない。
うまい演出だと思います。

終盤、いよいよ遺骨発見?というときには、
これまでうなだれていたリチャード三世が颯爽と白馬にまたがって登場。
ステキです!!

結局フィリッパはこの研究のために仕事も辞めてしまうのです。
別れた夫とは子供たちとのこともあるので、頻繁に逢っています。
なのでその元夫にも子供たちにもあきれられてしまう・・・。
でも家族の絆はそんな彼らをもまた一つにしていく・・・
というところも心憎いですね。

何より、これが実話に基づいているというのがスゴイ。
研究者でも何でもないド素人の主婦が成し遂げたこと。
・・・でも結局その手柄が、大学やら学者やらに奪われてしまったという
オチもまたいかにも現実。

 

実に興味深い物語でした。

 

<Amazon prime videoにて>

「ロスト・キング 500年越しの運命」

2022年/イギリス/108分

監督:スティーブン・フリアーズ

原作:フィリッパ・ラングレー、マイケル・ジョーンズ

脚本:スティーブ・クーガン、ジェフ・ポープ

出演:サリー・ホーキンス、スティーブ・クーガン、ハリー・ロイド、マーク・アディ

 

歴史発掘度★★★★★

執着度★★★★★

満足度★★★★★


ブルックリンでオペラを

2024年04月09日 | 映画(は行)

夫婦とは、家族とは、愛とは・・・

* * * * * * * * * * * *

ニューヨークのブルックリンで暮らす精神科医のパトリシア(アン・ハサウェイ)。
ひとり息子ジュリアンを連れて
現代オペラ作曲家のスティーブン(ピーター・ディンクレイジ)と再婚しています。

人生最大のスランプを迎えているスティーブンは、
妻に送り出されて愛犬と散歩に出かけますが、
立ち寄ったバーで、風変わりな女船長カトリーナ(マリサ・トメイ)と出会います。
カトリーナに誘われて船に乗り込んだスティーブンに、ある意外な出来事が・・・!

このことで、夫婦の関係が変わっていきます。
スティーブンの一時の気の迷いとも言える行動で、皆が傷つき関係が崩壊していく・・・。

 

精神科医のパトリシアは、スランプ状態のスティーブンの主治医でもあるわけですね。
でもパトリシア本人も、異常なほどの潔癖症だし、
修道女に憧れていたりもして、
若干精神状態不安定でもあるような・・・。
その夫がオペラの作曲家でピーター・ディンクレイジというのも、
あまりにもユニークな夫婦像であります。

さて、パトリシアの高校生の息子ジュリアンは
目下16歳の彼女・テレザと付き合っています。
けれど後にこのことが問題となってしまうのです。

16歳の少女と関係を結ぶと、これは犯罪であるという・・・。

でも今時、同意の上でそれを行うことに異を唱える人はあまりいないでしょう。
(昭和生まれの私は実のところどうなのかとは思いますけれど)

しかし今時それを蒸し返そうとしたのが、テレザの義父。
実に尊大で嫌なヤツ・・・。
ジュリアンがテレザと関係したことを罪に問うべく動き始めます。
さて、ジュリアンのこの危機を救うことはできるのか・・・?

良い感じに集結していく物語でした。

<シネマフロンティアにて>

「ブルックリンでオペラを」

2023年/アメリカ/102分

監督・脚本:レベッカ・ミラー

出演:アン・ハサウェイ、ピーター・ディンクレイジ、マリサ・トメイ、
   ヨアンナ・クーリグ、ブライアン・ダーシー・ジェームズ

 

家族の多様性度★★★★☆

満足度★★★★☆


正欲

2024年04月08日 | 映画(さ行)

地球に留学してきた宇宙人

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横浜で検事として働く寺井啓喜(稲垣吾郎)。
不登校になった息子の教育方針を巡り、妻と諍いを繰り返しています。

広島のショッピングモール契約社員、桐生夏月(新垣結衣)。
実家で代わり映えのない日々を送っています。

そんな夏月とは幼馴染みの佐々木佳道(磯村勇斗)は、東京で就職していましたが、
両親が亡くなったのを機に、広島に戻ってきます。

 

大学のダンスサークルに属する諸橋大也(佐藤寛太)。
準ミスターに選ばれるほどの容姿ですが、誰にも心を開こうとしません。

学園祭実行委員を引き受けた神戸八重子は、男性が苦手で、
不意に触られたりすると過呼吸を起こしそうになるほどですが、
なぜか大也には魅せられてしまいます。

 

このように群像劇なのではありますが、終盤、それぞれに関係ができてくる所も見所。

登場人物の多くは世間一般で言うところの「普通」ではなく、生きにくさを感じています。
夏月はいう。
「自分は地球に留学してきた宇宙人のようだ。」

人と違う。
普通ではない。
わかり合えない。
・・・そんな中で、彼らは次第に孤独の淵に沈んで行きます。
けれど、もしその「普通」でない部分を共有できる相手がいるとしたら。

人と人は、何もセックスという関係でなくともつながりあえるのではないか。
いわゆるアセクシュアルというのともちょっと違うのだけれど、
人のあり方は千差万別、様々であるのと同じく、
人と人とのあり方も自由自在。
それでいいと思います。

さて、これら登場人物の中であくまでも「普通」にとらわれるのが、寺井です。

彼は不登校の息子を困ったものだと思い、
なんとか学校へ行ってほしい、このまま道を踏み外していたら、
将来も望めないと思っているのです。
でも妻は、息子の思いを汲んで、
なんとか息子が息子らしく不登校のままでも毎日を明るく過ごしてほしいと思っている。

 

寺井は作中では、多様化を理解しないダメな父親というような役柄なのですが、
でもつまりこれは、社会一般のありようを代表しているだけなんですね。
そうした「普通」の押しつけがなければ、どれだけ多くの人々が生きやすくなることか・・・。

このような作品を多く見れば、少しは私たちの意識も変わっていくのかな・・・?

 

<Amazon prime videoにて>

「正欲」

2023年/日本/134分

監督:岸善幸

原作:朝井リョウ

脚本:港岳彦

出演:稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、諸橋大也、宇野祥平、渡辺大知、徳永えり

 

普通逸脱度★★★★☆

満足度★★★★.5