映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

燃ゆる女の肖像

2021年08月31日 | 映画(ま行)

密かな営みだけが・・・

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18世紀フランス。

ブルターニュの貴婦人から娘・エロイーズ(アデル・エネル)の見合いのための肖像画を依頼され、
孤島の屋敷を訪れたマリアンヌ(ノエミ・メルラン)。
エロイーズは結婚を嫌がっていて、肖像画を描かれることを拒否しているため、
マリアンヌは正体を隠し、単なる散歩相手として接しながら、密かに肖像画を仕上げます。
しかしエロイーズは、完成したそれを見て「これは私じゃない」というのです。

マリアンヌはもう一度絵を描き直すことを決意。
美しい島を散歩し、音楽や文学について語り合い・・・、
エロイーズを深く知ることによって、本当の「肖像画」ができあがっていく・・・。
そして接近していく2人の心・・・。

マリアンヌは、エロイーズの姉が先に結婚することになっていたのだけれど、
崖から身を投げて死んでしまった、と聞かされます。
そしてやむなく繰り上げで、修道院にいた妹エロイーズが呼び戻されたのだと。

そのように聞いて、おそらくマリアンヌは地味で暗い顔をした娘を想像したのではないでしょうか。
少なくとも、私はそう思いました。
そして、初めて会ったエロイーズはフードをかぶってマリアンヌの前を駆け出します。
ようやく追いついたところで、エロイーズは初めて振り返り、顔を見せる。
すると意外にも、意志が強く聡明そうな顔。
ものすごく印象深いシーンでした。

2人はやがて秘密の関係へと進んでいくのですが、本作、18世紀。
舞台が現代なら単にレズビアンの愛情物語なのですが、
この時代が背景というのは当時の「女性の立場」を抜きに語ることはできません。

修道院は、歌や音楽があり、図書室があって良かったとエロイーズは言います。
しかるにここでは、生きるために、見知らぬ男と結婚しなければならない。
修道院の方がまだ自由ということか・・・。
そういう風に考えたことがなかったので、虚を突かれた感じです。
また、この屋敷のメイド・ソフィが妊娠しており、
マリアンヌとエロイーズが、子を堕ろす手助けをします。
おそらくは男に単にもてあそばれた結果であったのでしょう。
未婚で出産などと言うことは当時はとんでもない破廉恥な罪だったわけなので、
出産という選択肢はありません。
男の側の責任は一切問われず、
女ばかりが肉体的にも精神的にも打撃を受けることになる。

マリアンヌはかろうじて画家である父の後を継ぐということで、
自分の才覚で生きていける立場ですが、
逆にそれは結婚を諦めるということでもあるのです。
女であるが故の苦しさを、皆が抱えている。

そんな中で、2人の密かな営みだけが、自由に羽ばたける時なのです。

 

マリアンヌが絵を描くためにエロイーズを見つめる視線。
その時、エロイーズもまたマリアンヌを見つめることになるのです。
エロチックに交わされる視線。

 

オルフェウスとエウリュディケーの神話のエピソードが効果的に挿入されていました。
別れの後二度と合うことがないとわかっているから、
最後に一目見てその姿を胸に刻み込みたい・・・そんな思い。

だからエロイーズはその後マリアンヌと逢うチャンスがありながら、
決して顔を見ようともしなかった。
あの時が最後、そう胸に誓っていたからに違いありません。

映像の一つ一つがそれこそ絵画のように美しい作品でした。

 

「燃ゆる女の肖像」

2019年/フランス/122分

監督・脚本:セリーヌ・シアマ

出演:ノエミ・メルラン、アデル・エネル、ルアナ・バイラミ、バレリア・ゴリノ

 

感応度★★★☆☆

美しさ★★★★★

満足度★★★★☆

 


「空のあらゆる鳥を」チャーリー・ジェーン・アンダース

2021年08月30日 | 本(SF・ファンタジー)

地球と人類の破滅目前に

 

 

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魔法使いの少女パトリシアと天才科学少年ローレンス。
特別な才能を持つがゆえに周囲に疎まれるもの同士として友情を育んだ二人は、
やがて地球と人類の行く末を左右する運命にあった。
しかし未来を予知した暗殺者に狙われた二人は引き裂かれ、別々の道を歩むことに。
そして成長した二人は、人類滅亡の危機を前にして、
魔術師と科学者という対立する二つの秘密組織の一員として再会を果たす……。
ネビュラ賞・ローカス賞・クロフォード賞受賞の傑作SFファンタジイ。

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SFファンタジーですね。

少女パトリシアは魔法の才能を持ち、少年ローレンスは天才的な科学の頭脳を持つ。
しかし、その才能があまりにも人と違い特別であるが故に、
二人は周囲になじめず、いじめの対象となり、そして親にさえも疎まれる。
孤独な二人は互いに寄り添い、友情を育みます。
しかしやがて二人は引き裂かれ、別々の道を歩むことに。
そして成長した2人が出会うところから、物語は大きく動き始める。

 

この2人の生きる時代設定が、ユニーク、
というかユニークなんて言っている場合ではないのかも知れません。
地球の環境破壊が進み、各地で大災害が多発。
人が安心して暮らせる場所が次第に限られたものになっています。
こうなると各地・各国間の諍いはますます過激なものとなり、
余計に安全な生活が遠のいていく。

ローレンスは科学の力で、パトリシアは魔法の力で、
この地球の、そして人類の危機を乗り越えようとしているのです。
2人は個人としては互いに好意を持ち続けているのですが、
でも2人は組織の一員として活動しているわけで、
その組織は互いに相容れるものではありません。
この2人の揺れ動く気持ちが、なかなかリアルなラブストーリーになっていて、
そういう点でも楽しめます。

 

また、SNSと連動した人工知能は、もともとローレンスが構築したものですが、
それに命を吹き込んだのはパトリシアだった。
独自に密かに成長を続けていたそれは、やがて大きな救いをもたらすものとして登場します。
このあたりのストーリーに、ワクワクさせられました。

 

最近頻発する水害や土砂崩れ、異常な暑さ・・・。
日本だけではなく、地球上の各地からも聞こえてきます。
本当に、そう遠くない将来、このストーリーのような
人類の危機的状況に陥るのではないかと思えてしまうのが恐い・・・。

 

さてしかし、本作のように現時点では現実味のない「科学の力」は、
言ってみれば魔法と同じですよね。
そもそも、元々私は「魔法」の出てくるストーリーはちょっと苦手。
でもまあ、ここで言う「魔法」というのは、もともと「自然」が持つ力、という含みもあるのか。
科学VS自然という構図だと思えばわかりやすいでしょうか。
魔法というのはやっぱりご都合主義に思えてしまえて、
私としてはモヤモヤしてしまうのです・・・。

 

<図書館蔵書にて>

「空のあらゆる鳥を」チャーリー・ジェーン・アンダース 市田泉訳 東京創元社

満足度★★★☆☆

 


461個のおべんとう

2021年08月29日 | 映画(や行)

でもこれ、女性がやると普通のことなのでは?

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「TOKYO No.1 SOUL SET」の渡辺俊美によるエッセイ
「461個の弁当はおやじと息子の男の約束」を映画化したものです。

 

息子・虹輝(道枝駿佑)15歳の時に妻と離婚したミュージシャン・鈴本(井ノ原快彦)。
そんな出来事に動揺したためか、虹輝は高校受験に失敗。
翌年受験し直して1年遅れで高校に入学します。
これまで自由に生きてきた鈴本は「学校だけがすべてじゃない、自由に生きればいい」
と、言ったのですが。

とはいえ、高校へ通い始める虹輝のために、鈴本は毎日お弁当を作り続けることを決意。
お弁当は一日も欠かさないから、おまえも学校を一日も休まずにいけと、
父と息子の約束をします。

以前見た「今日も嫌がらせ弁当」も、毎日手の込んだお弁当をお母さんが作り続ける話でした。
キャラ弁の、見るからに手の込んだお弁当。

こちらは、さすが男の料理。
ちまちましたキャラ弁ではありませんが、それでも一品一品しっかり作り込んだ、真面目なお弁当です。
様々なバリエーションを付けつつ、卵焼きだけは常に欠かしません。
私も娘のためにお弁当を作っていた時期があるけれど、
冷凍食品多用の手抜き弁当・・・、いやあ、いまさらながら恥ずかしく思ったりして。

 

同級生とは一つ年上になる虹輝は、始めクラスになじめず孤立していたのですが、
毎日の手の込んだお弁当がきっかけとなり、親しい友人ができます。

とはいえ多感な年頃ですから、父と息子がいつも気心が知れて仲良しというわけには行かない。
けれどやはり毎日のお弁当が、2人の絆をつなぐための助力になったのは間違いありません。

イノッチの料理の手際もなかなかよいですね。
こんなフランクなお父さん、いいなあと思うけれども、
妻としては、耐えられない所もあったというわけか・・・。

 

鈴本がライブを行うライブハウスのオーナー役で、原作者渡辺氏がカメオ出演していたとのこと。
その情報は、先に知っておくべきでした!
そんなことなので、作中はライブシーンなどもあり、楽しめます。

 

<WOWOW視聴にて>

「461個のおべんとう」

監督:兼重淳

原作:渡辺俊美

出演:井ノ原快彦、道枝駿佑、森七菜、若林時英、阿部純子、野間口徹

 

男の料理度★★★★★

父と息子の絆度★★★★☆

満足度★★★.5

 


アルプススタンドのはしの方

2021年08月28日 | 映画(あ行)

アルプススタンドのはしの方に、青春のすべてが凝縮

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第63回全国高等学校演劇大会で最優秀賞である「文部科学大臣賞」を受賞した、
名作戯曲を映画化したものです。

 

夏の甲子園一回戦。
母校の応援のため、強制参加でやむなくやって来た演劇部員の安田と田宮。
野球のルールもろくに知らないし、まともに応援する気力もないので、
アルプススタンドのはしの方でだらだらと観戦しています。
そこへ少し遅れてやって来たのが、元野球部員の藤野。
そして、あまり人と馴染まない優等生の宮下も近くにいて、
彼女たちの会話を聞いています。

こんな風に、舞台はほとんどアルプススタンドのはしの方。
ほとんどこの高校生の会話のみで、ストーリーが成り立っています。
試合の様子のシーンは一つもありません。
でも試合経過は彼女たちの会話や表情でわかります。

 

元々戯曲であるというのがよくわかる作りですね。
でもそこだけの舞台でどんなドラマができるかって?
いやいや、表現というのはすばらしい可能性を秘めているものです。

まずは演劇部の二人。
仲が良いように見えて、妙に壁を感じるところもある。
何やらぎこちない2人。
元野球部員という藤野は、ピッチャーだったらしいのに、どうして野球部を辞めてしまったのか。
常に学年トップの成績を収めていた宮下は、つい最近トップの座を奪われてしまったばかり。
しかし彼女の目下の関心は、今ピッチャーとして必死に闘っている人物。
意外にも彼女は彼のことが好きらしい。
でもその彼は実は吹奏楽部部長・久住と付き合っているらしい。
そして宮下を成績トップの座から引きずり下ろしたのが、この久住だ。

地方の公立高校が甲子園一回戦で強豪校と当たってしまった。
そんな試合なので、実のところ彼らは自分たちの学校が勝つとは思っていません。
だから、だらだらと眺めていただけの試合。
しかし、それが意外にも健闘を見せている野球部。

 

友情、部活への情熱、ほのかな恋心、ライバル心、熱血教師。
なんと、高校生活のすべてがこのアルプススタンドのはしの方に凝縮されて表出。
そして試合の方も盛り上がっていって・・・と、
なんとも心憎いストーリーになっております。

こんなストーリー作りもできるんだなあ・・・と、感心してしまいました。

最後のオチも心憎い!!

 

<WOWOW視聴にて>

「アルプススタンドのはしの方」

2020年/日本/75分

監督:城定秀夫

原作:藪博晶

出演:小野莉奈、平井亜門、西本まりん、中村守里、黒木ひかり

 

青春度★★★★★

満足度★★★★☆

 


佐々木、イン、マイマイン

2021年08月26日 | 映画(さ行)

過ぎた日、青春

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藤原季節さんは、最近の私の“推し”であります。

この度のNHK大河ドラマ「青天を衝け」でも、
水戸天狗党の藤田小四郎役を務めたのですが、
出番はほんの少しで残念でした。
でも何年か後にはもっと大きな役で登場するに違いありません。

悠二(藤原季節)は俳優になるために上京したものの、鳴かず飛ばずで、
同棲中のユキ(萩原みのり)との生活も、まもなく終わろうとしています。

そんな頃に、高校の同級生多田と再会。
多田と再会したことから、悠二は高校時代の友人・佐々木(細川岳)との日々を思い出します。

佐々木はとにかくむちゃくちゃなヤツ。
級友たちにはやし立てられたノリで、所かまわず素っ裸になってみたりする。
異様に明るくてテンションが高い。
けれど、親しい友人たちは、それが彼の家庭環境の悲惨さを
裏返すものであることにも気づいていた。

悠二はある舞台出演のため稽古に参加しますが、
その舞台の内容が旧友・佐々木とのこととリンクしているように感じられ、
その役に自然に入り込んでいきます。

そしてそんな時、佐々木の訃報が・・・。

佐々木を筆頭に、悠二たちもあの頃とてつもなくバカだった。
自分ではどうにもならない鬱屈を、集まって騒いで紛らわせていたのかも知れない・・・。

そう、このポスターのキャッチフレーズを考えた方は天才。

「佐々木、青春に似た男」

これこそが本作のテーマと言っていいでしょう。
彼は、その後もずっと「青春」を過ごしていた。
自分たちがとうの昔に忘れ去った青春を。
輝かしいけれども実は苦くて苦しみでいっぱいの時を・・・。

もう一人の友人・木村の、高校時代から現在への意外な「変化」には虚を突かれました!!
ナイスなエピソードです。

札幌の高校を卒業して、俳優になるために上京したという
藤原季節さん自身も、この悠二と重なる部分がありますね。

 

「佐々木、イン、マイマイン」

<Amazon prime videoにて>

2020年/日本/119分

監督:内山拓也

出演:藤原季節、細川岳、萩原みのり、遊屋慎太朗、森優作、村上虹郎

 

青春度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


「われらの世紀」真藤順丈

2021年08月25日 | 本(その他)

力強い生き様を見よ

 

 

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北の大地で戦う女性たちの矜持と運命を活写する「レディ・フォックス」など、
洋の東西を問わず、昭和、平成、令和の百年をつらぬいて生き抜くひとびと
=「われら」の人生模様を、
『宝島』で直木賞を受賞した筆者が圧倒的熱量で描く作品集。

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「宝島」で、いたく感動した私は、さっそく同著者のこの本を手に取りました。
こちらは短編集ですが、とにかくぎっしり、ずっしりです。

 

中でもアイヌ女性の生き様を描く「レディ・フォックス」と、
ホテルで働く女性の冒険譚的「1939年の帝国ホテル」が好きでした。

その土地と結び付く人物が、自らの生き様を証明するかのように奮闘する物語、
どこか「宝島」にも似て、その熱量がこちらにもビンビンと伝わってくる。

 

「ダンディライオン&タイガーリリー」や「終末芸人」はちょっとアクが強すぎて苦手・・・。

 

今後の真藤順丈さんの方向性によっては、
好きにも嫌いにもなる可能性のある作家さんだなあ・・・と思いました。

 

<図書館蔵書にて>

「われらの世紀」真藤順丈 光文社

満足度★★★☆☆

 


ドライブ・マイ・カー

2021年08月24日 | 西島秀俊

心の奥へのドライブ

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ここのところまた、札幌でもコロナ感染者数が大きな山となっており、
映画館通いもまた自粛しなければ・・・と思ったところなのですが、
イヤ、でもこれだけは見逃せない、ということで見に行ったのが本作。

西島秀俊さん出演なのはもちろんですが、
村上春樹さん原作というところでも外せません。

 

本作は村上春樹さん短編集「女のいない男たち」の中の「ドライブ・マイ・カー」を原作としていますが、
その中の別のストーリーもいくつか取り入れられていて、
なかなか重層的な奥深い物語になっています。
179分、すなわち3時間近い長さでありながらも、
全然その長さを感じませんでした。

舞台俳優で演出家の家福(カフク)(西島秀俊)は、
脚本家の妻・音(霧島れいか)とともに満ち足りた生活を送っていました。
しかし、妻はある秘密を抱えたまま他界。

その2年後、喪失感を抱えたまま生きる家福ですが、
ある演劇祭で演出を担当することになり、愛車サーブで広島へ向かいます。
演劇の出演者の一人として、
かつて妻と仕事をしたこともある若手人気俳優の高槻(岡田将生)も姿を現します。

家福は、専属ドライバーみさきの運転で、
宿泊先から広島市中の会場までを毎日車中で過ごすことになります。
家福は寡黙なみさきとともに過ごすひとときの中で、
これまで目を背けていたことに気づかされるようになっていく・・・。

原作が村上春樹さんなので、毎日あまり変化のない生活が続く中で、
ちょっとした人との会話やほんのかすかな出来事、そして過去の出来事の反芻が、
自身の心を深く掘り下げていくという基本的パターンはそのまま。

中でも、チェーホフの演劇「ワーニャ伯父さん」の練習風景の中で、
家福たちの心境とリンクするセリフなどが出てくるあたりが実に秀逸。
カンヌ映画祭での脚本賞受賞というのにも納得です。

そしてまた、この家福プロデュースするところの演劇というのがすごくユニークなのです。
(ここの部分は原作にはありません。)
俳優たちは日本人だけではなく国際的。
日本語、英語、中国語、韓国語・・・それぞれの言語が入り交じります。
(上演の際には字幕が出る。)
しかも本作で中の一人の言語は「手話」なのです。
手話での演劇シーンは、意味も良くわからないままに、
深く心を揺り動かされる感じがしました。



始めの「本読み」の仕方もかなり独特。
できるだけ感情をこめずにゆっくりはっきりと読み上げるという本読みは、
実際に「濱口メソッド」と言われているそうです。
演劇には全く不案内の私ですが、非常に興味深く見ることができました。
映画作品でありながら、演劇の面白さまで味わえてしまうというお得な作品なのです。

俳優さんたちは、本作のストーリー上の演技と共に、劇中劇の演技もしなければならなくて、
まさに実力が試される所だったのではないでしょうか。
だから、薄っぺらな演技では浮いてしまいそうな本作の中で、
西島秀俊さんについてはもちろん心配などしていませんでしたが、
岡田将生さんの健闘が光ります。
一見軽そうなイケメン青年。
けれど彼もまた複雑な内面を持っていて、家福と視線で火花を散らすシーンとか、
強気と弱気の微妙な揺れ加減がなんともすばらしい! 

それを言ったら、ドライバー役の三浦透子さんもですね、
終盤以外はほとんどセリフもなく、他の登場人物の影に入り込んでしまう役柄ながら、
次第にその存在感を高めていく。

実は彼女もまた心の奥に大きな欠落を抱えているのであります。
大変な役柄でした。

 

単調なストーリー進行でありながら、
ほんの些細な登場人物のセリフや行動に、何かが起こる予兆が隠されているようで、
つい緊張して見続けてしまう。
だから、時間を忘れて3時間があっという間に過ぎてしまうのかも知れません。

 

私、この先村上春樹さんの本を読むときに、
主人公男性に西島秀俊さんを充てて読むようになる気がします。
イメージ、ピッタリです。

 

サツゲキにて

「ドライブ・マイ・カー」

2021年/日本/179分

監督・脚本:濱口竜介

原作:村上春樹

出演:西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、パク・ユリム、ジン・デヨン、岡田将生

 

村上春樹度★★★★☆

西島秀俊の魅力度★★★★★

満足度★★★★★


ファーザー

2021年08月23日 | 映画(は行)

どこまでが現実で、どこからが幻想か

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本作は、フロリアン・ゼレール氏が自身の戯曲を自ら映画化し、監督デビューしたもの。
また、主演アンソニー・ホプキンスは本作で2度目のアカデミー主演男優賞を受賞しています。

ロンドンで一人暮らしをする81歳アンソニー(アンソニー・ホプキンス)。
認知症により、記憶が混乱し始めています。
しかし、娘・アン(オリビア・コールマン)が手配した介護人は拒否。


そんな時アンソニーは、アンが新しい恋人とパリで暮らすことになったと聞きます。
しかしまた、別の時にはアンと結婚して10年以上になるという見知らぬ男が、
ここはアンソニーの家ではなくアンの家だと言ったりする・・・。
そして、アンソニーが会いたいと思っている下の娘は、全く姿を現さない・・・。

まるで何かの陰謀が張り巡らされた心理サスペンスのようでもあります。
でも、これはそうではない。
アンソニーが翻弄されるのと同時に、
私たちも翻弄されていきます。
一体どれが真実で、どこまでが幻想なのか。

記憶の欠落と混乱。
私たちはアンソニーとともにその恐怖を共有することになります。

実はアンの妹はすでに亡くなっているのですが、
アンソニーはそのことを忘れているのです。
そしてまた、アンよりも妹の方を気に入っていた彼は、
彼女が今はどうしているのか、なぜうちに来ないのか、としきりにアンに尋ねるのです。
さらにまた一方でアンソニーは、アンのことが誰だかわからなくなってしまうときもある。
父を心配し、面倒を見て、あげくにこの仕打ち。
さすがにイヤになりますよね・・・。
でも認知症に罪はないのだけれど・・・。

なかなか切ない家族のストーリーでもありました。

<映画.comにて>

「ファーザー」

2020年/イギリス・フランス/97分

監督:フロリアン・ゼレール

出演:アンソニー・ホプキンス、オリビア・コールマン、マーク・ゲイティス、
   イモージェン・プーツ、オリビア・ウィリアムズ

 

認知症のリアル度★★★★★

満足度★★★.5

 

 


喜劇 愛妻物語

2021年08月22日 | 映画(か行)

割れ鍋にとじ蓋

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「百円の恋」の脚本家・足立紳が2016年に発表した自伝的小説「乳房に蚊」を
自ら脚本・監督を務めて映画化した作品。

売れない脚本家・豪太(濱田岳)は、妻チカ(水川あさみ)・娘アキ(新津ちせ)と3人暮らし。
妻との間柄は倦怠期でセックスレス。
豪太曰く、
“ムダに妻とのセックスのハードルが高い”
状況。
チカはろくな稼ぎのない夫には冷たいのです。

あるとき、「ものすごい速さでうどんを打つ女子高生」の物語を脚本にするという企画が持ち上がり、
取材のため家族3人で四国へ旅立ちます。
しかし取材対象の女子高生はすでに映画化が決まっており、
早々旅の目的を失ってしまった豪太・・・。

妻の夫に対する罵詈雑言がなかなかきつく恐ろしい・・・。
そんな彼女ではありますが、結婚前の若き日の彼女は、
豪太の才能を信じ、ひたすらに尽くし、支える女でもあったのです。
口汚くはありながら、基本的な彼女のスタンスは
実は今もあまり変わっていないのだというのが次第に見えてくるあたりが、さすがの作品。

このDVとはほど遠いダメ男の雰囲気は、
濱田岳さんでなければやはり出せないのではないでしょうか。
このダメ加減はちょっぴり母性本能をくすぐるかも知れない。

夫婦の形はそれぞれ。
この割れ鍋にとじ蓋みたいな二人、これはこれでベストマッチなんですよね。
娘役、新津ちせちゃんの豪快な食べっぷりに見惚れました。
いつも大声であれこれ言い争いをしている両親の間にあって、
子供としてはとにかくひたすら食べるしかないですもんね!

<WOWOW視聴にて>

「喜劇 愛妻物語」

2019年/日本/115分

監督・原作・脚本:足立紳

出演:濱田岳、水川あさみ、新津ちせ、大久保佳代子、夏帆

 

家族愛度★★★★☆

満足度★★★★☆

 

 


キネマの神様

2021年08月20日 | 映画(か行)

2つの時代を楽しめる

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松竹映画100周年記念作品。

言うまでもありませんが、当初志村けんさん出演予定で撮影も始まったところだったのですが、
志村けんさんが新型コロナ感染により亡くなり、
またコロナ渦中で撮影自体も中断。

ということでかなりの難産だった作品です。

映画監督を目指し、助監督として撮影現場で働く若き日のゴウ(菅田将暉)。
撮影所近くの食堂の娘・淑子(永野芽郁)や、
仲間の映写技師・テラシン(野田洋次郎)とともに夢を語らい、
青春の日々を送っていました。

そしていよいよゴウの初監督作「キネマの神様」の撮影初日、
ゴウは転落事故で大けがをし、作品は幻に終わってしまいます。
挫折したゴウは夢を諦め、田舎へ帰りますが・・・。

その50年後。
ゴウ(沢田研二)は、淑子(宮本信子)と結婚していますが、
競馬と麻雀、そして酒に浸りっきりで大きな借金を作っています。
彼に愛想を尽かす妻・淑子と娘・歩(寺島しのぶ)。

 

本作、原田マハさんの同名小説が原作なのですが、
ほとんど別物というくらいにストーリーが違っているので、
本作を見た方も本を読むとまた違う楽しみ方ができると思います。

志村けんさんのアトガマは沢田研二さん。
これが、ちょっぴりひょうきんなちょいワルおやじ風。
確かに志村けんさんが演じればピッタリな役柄。
沢田研二さんではどうなのかと、思うところもありましたが、
菅田将暉さん演じる若き日のゴウがそのまま続いた感じ、ピッタリ。
難を強いて言えば声が若すぎる(!)くらい。
まあ、それこそ50年前からのジュリーファンの私ですので
多少のひいき目はあるかもしれませんが。
ゴウじいさんが東村山音頭を歌うシーンもあり、志村けんさんへのリスペクトもたっぷりです。

 

野田洋次郎さんのテラシンさんというのもユニークな配役です。
ちなみにその50年後のテラシンは小林稔侍さんです。
本作のテーマソングは特に依頼されたわけではなく、
野田洋次郎さんが自主的に作品のイメージから浮かんだ曲を提供したそうですよ。

50年前の人気若手女優・桂園子が北川景子さんで、
永野芽郁さんとともにいかにも昭和のメーク、昭和美人という雰囲気が、よかったですねえ。

その50年後の桂園子さんは登場しなかったのですが、
登場するとしたら俳優は誰が良いでしょう・・・? 
さしずめ、吉永小百合さんとか?

妻と娘から見放されたゴウじいさんを救うのが、孫の勇太(前田旺志郎)です。
こういう取り合わせもなかなか見事。

 

さすが、という感じで楽しめた作品でした。

<シネマフロンティアにて>

「キネマの神様」

2021年/日本/125分

監督:山田洋次

原作:原田マハ

出演:沢田研二、菅田将暉、宮本信子、永野芽郁、小林稔侍、
   野田洋次郎、北川景子、寺島しのぶ、前田旺志郎

 

昭和感★★★★★

満足度★★★★★

 


「氷獄」海堂尊

2021年08月19日 | 本(ミステリ)

チーム・バチスタ事件のその後

 

 

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バチスタ裁判、開廷。検察組織にメスを入れる、医療×司法エンタメ!


手術室で行われた前代未聞の連続殺人「バチスタ・スキャンダル」。
被疑者の担当となった新人弁護士・日高正義は、
有罪率99.9%を誇る検察司法の歪みに、正義のメスを入れる!
医療と司法の正義を問う、リーガル×メディカル・エンタテインメント!

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海堂尊さんの短編集。

すべて、東城大学医学部付属病院近辺にまつわるスト-リーで、
これまでの様々な物語とも連動する作品。
私はとにかく田口医師が出てくれば嬉しく安心なので、
本巻は満足度が高いです。

本巻でも半分以上の分量を占めている表題作「氷獄」は、
「チーム・バチスタ」事件のその後の物語。
被疑者・氷室の国選弁護人となった新人弁護士・日高正義の奮闘記です。
この方の雰囲気がなんとなく田口医師にも似ています。
謎の官僚・白鳥にいびられまくるところも・・・。
おそらく今後もまたいろいろなところに登場して私たちを楽しませてくれることでしょう。

新たなキャラクター誕生に拍手!!

 

「氷獄」海堂尊 角川文庫

満足度★★★★☆

 

 


イリュージョニスト

2021年08月18日 | 映画(あ行)

初老の男と無邪気な少女の旅情

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フランスの喜劇王ジャック・タチが娘のために残した脚本をアニメ映画化したものです。

 

1950年代パリ。
初老の手品師タチシェフは、場末のバーで時代遅れの手品を披露しながら細々と暮らしています。
あるとき、バーで知り合った男の招きで、スコットランドの離島へ赴きます。
タチシェフはそこで貧しい下働きの少女・アリスと出会います。
アリスはタチシェフの手品を見て、魔法使いだと信じ込み、
またタチシェフは、アリスに生き別れた娘の面影を重ねていました。
やがて二人はエジンバラで一緒に暮らし始めますが・・・。

 

パリを離れて遠くスコットランドやエジンバラへの旅。
美しい光景とその時代性、なんとも旅情がかき立てられます。
二人が一緒に暮らし始めるといっても、全く性的な関係はなく、
タチシェフはひたすらにこの子がかわいくて守りたい。
つまりは本当の娘のように思っているのでしょう。

さてしかしアリスは、タチシェフが何もないところから靴などを取り出すのを見ても、
それは魔法だと思っているので、嬉しくは思いますがさほど感謝の念がありません。
そして次々に別の靴やオシャレなコートを欲しがります。
タチシェフは手品の仕事だけでは全く稼ぎにならないので、
密かにアルバイトを始めます。
涙ぐましい努力で手にした稼ぎも、宿代とアリスの洋服などで消えていきます。

 

アリスはいつの間にか貧しい下働きの少女ではなくて、
オシャレな都会の少女になっているのです。
それはもうすでにタチシェフが娘の面影を見た少女ではないのかも知れない・・・。

 

生きるのに疲れた初老の男に対しての、少女の無邪気さ故からなる残酷姓が浮かび上がります。
よくぞこんなストーリーをアニメにしたものです・・・。

 

タチシェフの商売道具である「ウサギ」が見当たらず、
その日の食事のメニューがウサギのシチューで、
密かに焦ってしまっているタチシェフのシーンがおかしかった。
(幸い、彼のウサギはシチューにはなっていませんでした!)

 

「イリュージョニスト」

2010年/イギリス・フランス/80分

監督・脚本:シルバン・ショメ

出演(声):ジャン=クロード・ドンダ、エルダ・ランキン

旅情性★★★★☆

満足度★★★★☆

 


キーパー ある兵士の奇跡

2021年08月17日 | 映画(か行)

ナチス兵だったことは罪なのか?

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イギリスの国民的英雄となった元ナチス塀のサッカー選手、バート・トラウトマンの実話です。

1945年、イギリスの捕虜となったナチス兵のトラウトマン。
収容所でサッカーをしているのを地元のサッカーチーム監督が見て、スカウトします。
日中は監督の営む食料品店を手伝い、サッカーの練習や試合に参加。
用が済めば収容所に戻ります。
捕虜の行動は意外とゆるゆるだったんですね・・・。

でももちろん、この時期はイギリスも散々ドイツの空襲を受け、大きな被害を被っていて、
ドイツ兵をサッカーチームに入れるなんて何事だと一悶着はあったのです。
監督の娘・マーガレットも、
店にトラウトマンが入ってくるだけでも戦線恐々としていました。

しかしやがてトラウトマンの誠実な人となりがわかってきて、
そしてチームのゴールキーパーとしての活躍もモノを言い、
次第に彼は皆に慕われるようになっていきます。

やがてドイツは降伏し、終戦。
トラウトマンは名門サッカークラブ「マンチェスター・シティFC」にスカウトされ、
帰国せずにイギリスに残ります。
そしてマーガレットと結婚。
ところがその名門クラブの入団でまた、
元ナチス兵ということから想像を絶する誹謗中傷を浴びてしまうのです。

戦争は何も彼のせいではない。
他の道を選びようもなく兵士となっただけなのに・・・。
このような理不尽をもくぐり抜け、
やがて彼はイギリスの国民的英雄とも言える名選手となるわけですが・・・。
やがて彼は一人息子を事故で亡くすことになる。

どんな人生も順風満帆とはいかないものです。
本作で優れているのは、トラウトマンが捕虜になる以前、
ユダヤ人の子どもたちとのある出来事の光景が、
ときおり彼の脳裏に蘇るというエピソードを入れたこと。
ナチス兵だとイギリス人に糾弾される以前に、彼はある「罪」を犯したと思っているのです。
それは妻に打ち明けることもできない恥の記憶。
この記憶と、あるアイテムを結びつけることで、
物語が一層奥深くなっていると思います。

<映画.comにて>

「キーパー ある兵士の奇跡」

2018年/イギリス・ドイツ/119分

監督:マルクス・H・ローゼンミュラー

出演:デビッド・クロス、フレイア・メーバー、ジョン・ヘンショウ、ハリー・メリング

人種差別の歪み度★★★★★

満足度★★★★.5

 

 


犬部!

2021年08月16日 | 映画(あ行)

ひたすら犬の幸せを願いつつ

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青森県北里大学に実在した動物保護サークル「犬部」を題材とした作品です。
犬好きとしてはやはり外せない・・・。

子どもの頃から犬好き、犬ばかだった獣医学部生・花井颯太(林遣都)。
心を閉ざした1匹の実験犬を救ったことをきっかけに、
動物保護サークル「犬部」を設立します。
同じく犬好きの柴崎(中川大志)らと共に、動物まみれの青春を過ごし、
そしてそれぞれの夢に向かって羽ばたいていきます。
そして16年後。
獣医師になっても熱心に動物保護活動を続けていた颯太が逮捕されたというニュースが・・・!

 

学生たちの犬部の奮闘の物語かと思えば、
むしろその後、社会に出た彼らの物語がメインでした。

不要犬として殺処分になる犬などがなくなるように、というのが彼らの元々の願いです。
そのため颯太は獣医師となり、動物保護活動も続けていました。
一方柴崎は行政の側からこの制度を変えていきたいという思いから、
動物センターの職員になります。

それぞれのアプローチがあるというのはいいですね。
けれど、理想は理想として、現実には思うように行かないことばかり。
それぞれの壁に突き当たっている、その「16年後」なのでした。

このようなドラマでいつも驚かされるのは、犬たちの表情が実に豊かで、
しかもその場の「気持ち」を的確に表わしているということ。
本当に、下手な役者さん顔負けの演技を彼らはしますよね。
スバラシイ!! 
そして、なんともかわいらしい!!

作中にもありましたが、犬や猫の多頭飼いの崩壊などがときおりニュースになどもなります。
不潔な環境で痩せ細り、ろくに運動もさせてもらえない犬たち・・・。
犬部の部員でなくても胸が痛みます。
このような不幸な動物たちいなくなりますように・・・。
そして今も動物保護活動に関わっている人々が大勢いらっしゃいますね。
感謝!です。

以前我が家にいたワンコのぬくもりがひたすら思い出されてしまいました・・・。

<シネマフロンティアにて>

「犬部!!」

2021年/日本/114分

監督:篠原哲雄

原案:片野ゆか

脚本:山田あかね

出演:林遣都、中川大志、大原櫻子、浅香航大、田辺桃子

 

犬の愛おしさ★★★★★

動物愛度★★★★★

満足度★★★★☆


「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」ブレディみかこ

2021年08月14日 | 本(その他)

待望の文庫化で

 

 

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本屋大賞 ノンフィクション本大賞受賞、
60万人が泣いて笑って感動した大ヒットノンフィクションが待望の文庫化!

人種も貧富の差もごちゃまぜの元底辺中学校に通い始めたぼく。
人種差別丸出しの移民の子、アフリカからきたばかりの少女やジェンダーに悩むサッカー小僧……。
まるで世界の縮図のようなこの学校では、いろいろあって当たり前、
でも、みんなぼくの大切な友だちなんだ――。
優等生のぼくとパンクな母ちゃんは、ともに考え、ともに悩み、毎日を乗り越えていく。
最後はホロリと涙のこぼれる感動のリアルストーリー。

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ベストセラー図書ですが、文庫化されてようやく読みました。
今さらですが、ベストセラーというのにも納得の名著ですね。

 

著者ブレディみかこさんは、イギリス人と結婚して現在もイギリス在住。
息子さんが一人。
本作はその息子くんとみかこさんが、息子くんの通う学校で出会った
様々な人や出来事を通して考えたことが綴られています。
エッセイがかったノンフィクションという感じですね。

 

テーマは「差別」。

息子くんが通うのはみかこさん言うところの「元底辺中学校」。
以前は主に低所得者層の住む治安の悪い地区で、「底辺中学校」だったその学校。
でも今は再開発で、ある程度の収入がある層がぐんと増え、
校長を始め他の先生方の熱心な教育方針が実を結んだらしく、
レベルも上がり、結構人気のある学校に変わっているという。
それを称してみかこさんはいちいち「元底辺中学校」と称するのがユーモラスでもあります。

 

しかしそういう学校だからこそ、集まっているのは実に様々な子どもたち。
様々な人種間で差別があるのは、まあ、そうだろうなと想像は付きます。
そもそも英国において日本人も差別の対象。
多くは「中国人」と言われて差別されるそうです・・・。
中国人なら差別されてよい訳ではもちろんありませんけれど。
息子くんは一見東洋人っぽい顔立ちだそうで、やはり差別されることもある。

そして、そのような人種間の差別の他、貧富の差がまた大きな断絶を生み出しているのです。
ここの「元底辺中学校」では、そのような差別が生じないように
かなりの注意が払われているようではありますが、
それでも個人間での差別意識はなかなかなくならない。
多くはその子供の親の意識がそのまま投影されているようです。

 

人は少しでも自分よりも立場の弱い者を見つけ出して、見下すことで、
自分を優位に立たせようとするものであるらしい・・・。
そういう私自身の中にも、そんな気持ちが全くないといえばウソになるでしょう。
だからこそ、常に意識していたい事柄であるように思います。

世界中のすべての老若男女がこの本を読むといいな・・・。

そうそう、このようなことをフランクに話し合えるブレディさん一家、ナイスです!!

 

「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」ブレディみかこ 新潮文庫

満足度★★★★★