映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

アルゴ

2012年10月31日 | 映画(あ行)
ドキドキ、ハラハラ、早く・・・!早く・・・!



                  * * * * * * * * * 

イランで実際に起ったアメリカ大使館人質事件に関係した救出作戦を描いた作品です。
監督・主演がベン・アフレックということで、期待が高まりますが、
いやあ本当に、緊張感たっぷり、
緩急のメリハリとユーモア、
素晴らしく面白い作品でした。



1979年11月。
イランでアメリカ大使館の職員52人が人質となった事件。
イラン側が、アメリカへ入国したパーレビ元イラン国王の引渡しを要求したものでした。
結局この52人は444日もの間監禁され続けたという、
もちろん私にも記憶にある事件です。
そんな事件当初、
6人の職員が自力で脱出をはかり、カナダ大使の私邸に身をひそめていたのです。
このことがイラン側にバレれば、彼らは処刑を免れ得ないだろう。
そこでCIA人質救出担当トニー・メンデス(ベン・アフレック)が考えた、
この6名の救出作戦は・・・!
なんと、彼らを映画のロケハンクルーに変装させるということなのです。
そのためにまず、架空のSF映画「アルゴ」撮影準備を始めます。
ニセの映画作り・・・という題材自体が、
映画作品にはもってこいでしたね。
この話に目をつけたところ自体がナイスです。


アメリカ大使館の周りに群集が押し寄せ、
塀をよじ登って内部に侵入してくる。
そんな恐怖の状況の中で、
書類を燃やし、またはシュレッダーにかけ、パスポート用の印面を壊すなど必死の職員たち。
まあ、この緊張のシーンはほんの小手調べ。



ウソをつくためにはまずディティールがきちんとしていなければダメというわけで、
映画のポスターや絵コンテをつくり、マスコミにPRも。
協力者たちの楽しそうなこと・・・。



恐怖と緊迫感に満ちたイランの現場。
ちょっと浮き立つハリウッド。
そして、また苦渋のCIA。
それぞれが対照的で、私達を全く飽きさせません。
しかし、トニー・メンデスはこれらすべてを負っているわけですから、
それはもう大変な重責です。
ラストのいよいよ国外脱出なるか?のシーンでは
もう、いささかやり過ぎだよ・・・と思えるほどの、
最後まで念の入ったハラハラドキドキシーンの連続。
半ば苦笑しつつ、それでも見入ってしまうという、監督のこの手腕。
これぞ映画の醍醐味というものです。



当時の、大きな黒縁メガネ、妙に幅の広いネクタイ、太いベルト。
まさに、その当時の雰囲気ですね。
髭面のベン・アフレックは、これまであまり見たことがないような・・・。
でもこれもまた悪くはない。
ちょっと髪が長すぎなのですが、まあ、これも当時風。
それから、シュレッダーといっても、まだ今ほど細かくはないのですね。
細いテープ状に切れているだけで。
まあ、それでも大変でしょうけれど、
子ども達にその紙片をつなぎ合わせさせてしまうその執念深さにも、驚き呆れます。

もしこのストーリーが真実を元にしていると聞かなければ、
そんなバカな、と一笑に付してしまうところかも知れません。
CIAもなかなかやるもんですね。
近頃“悪辣なCIAのトップ”などという題材の映画ばかり見ているので、
ちょっとホッとしました(^_^;)

「アルゴ」
2012年/アメリカ/120分
監督:ベン・アフレック
出演:ベン・アフレック、アラン・アーキン、ブライアン・クランストン、ジョン・グッドマン、ケリー・ビシエ

ハンナ

2012年10月29日 | 映画(は行)
女性版ジェイソン・ボーン



                  * * * * * * * * * 

「つぐない」のジョー・ライト監督&シアーシャ・ローナン出演作。
冒頭、冷たいフィンランドの森のシーンから始まりますが、
終始そのようなひんやりした肌触りのある独特な作品です。



フィンランドの山奥、
元CIA工作員の父に、徹底して戦闘技術をたたきこまれて育った少女ハンナ16歳。
二人はついに山を出る時が来ました。
二人はドイツで会うことを約束して、住み慣れた小屋を別々に出ます。
しかし、さっそくハンナはCIAに確保されてしまうのですが、
ここからがウデの見せ所。
難なく逃亡を図りますが、
父のかつての同僚CIA捜査官マリッサの執拗な追跡が始まる・・・。



本作はつまり、ジェイソン・ボーンの女性版といってもいいかも知れません。
ハンナの秘密にはCIAの人間性を無視した策略が絡んでいる。
う~ん、どこまで悪辣なんだCIA!!



今作で良かったのは、ハンナが町へ出てきたところのシーン。
ハンナは物心ついてからずっと人里離れた山奥で暮らしていたので、
いろいろな知識はあっても、実物に触れたことがなく、
また、文明からも隔絶されていたのです。
はじめ聴く音楽、始めての電気製品
・・・その驚き。
そして始めての友人。
人並み外れた戦闘力とタフな心を持つ少女が見せる、みずみずしい心の動き、
このギャップが見所です。
なんだかちょっといい物を見てしまった・・・そんな気のする作品です。
このあとのハンナの行方も知りたい・・・。
ボーン・シリーズとコラボしてもいいかも。

2011年/アメリカ/111分
監督:ジョー・ライト
出演:シアーシャ・ローナン、エリック・バナ、トム・ホランダー、オリビア・ウィリアムズ、ケイト・ブランシェット

「あるキング」 伊坂幸太郎

2012年10月28日 | 本(その他)
人生のフェアとファウル

あるキング (徳間文庫)
伊坂 幸太郎
徳間書店


                     * * * * * * * * * 

「きれいは汚い。汚いはきれい。」
私でも聞いたことだけはある、このセリフ、
シェイクスピアの戯曲「マクベス」において、三人の魔女がいうセリフだそうです。
この原文が
「Fair is foul, and foul is fair」
フェアはファウル。
ファウルはフェア。
・・・ということで、この物語、
一人の偉大な野球の王、山田王求の短い一生を描きます。


このストーリーは、これまでの伊坂作品とは趣が異なります。
この文庫の裏表紙に曰く

「意外性や、はっとする展開はありません。
あるのは、天才野球選手の不思議なお話。
喜劇なのか悲劇なのか、
寓話なのか伝記なのか」


まさに最期まで読んで、呆然と立ちすくむ私がいました。


天賦の才とたゆまない努力に支えられた絶対的な野球の「力」を持ちながら、
周りの状況が、彼をどんどん苦境に導いていく。
彼は“王者”の孤独に淡々と耐え、
野球人生だけをひた進む。
すごいけれどもひどい。
ひどいけれどもすごい。


無論これは野球でなくとも、なんでもいいのでしょう。
ひたすら王者の道を行く事はこんなにもけわしいことなのだ・・・と。
そしてそれは必ずしも誰もが賞賛することというわけでもない。
人生の判定は野球のフェアとファウルの判定以上に複雑だ。


などと、漠然と思ったりはするのですが、
ちょっととらえどころのないストーリーでもありました。
山田王求に感情移入もしづらい。
・・・おっと、王者はたぶんそのような感情移入さえも
受け付けないのだろうな。


―2012年。巨人VS日ハムの日本シリーズ対戦中の日に―
(このような日に、将来の日ハム4番打者を担う大天才が
生まれ落ちないとも限らないではないか・・・)


「あるキング」伊坂幸太郎 徳間文庫
満足度★★★☆☆

「テルマエ・ロマエⅤ」 ヤマザキマリ 

2012年10月27日 | コミックス
深遠なる“歴史”の意図に翻弄されるルシウス

テルマエ・ロマエV (ビームコミックス)
ヤマザキマリ
エンターブレイン


                 * * * * * * * * * 


前巻より長編ストーリーとなり、
現代日本からルシウスが帰れなくなってしまった・・・という話でした。


温泉地にすっかり馴染んだルシウス。
何故お馬さんとまで仲良くなってしまったのか。
その答えは本巻にありました。
それはさつきさんが、
ルシウスが本当に古代ローマ人であることを納得するためのものでもあるのですが、
著者の壮大な野望が隠されてもいたのです。


二頭立ての馬車(馬車じゃなくてチャリオットというらしい)のシーン、
私は思わず映画「ベン・ハー」を思い出したのですが、
それこそが著者の意図。
ここで、大スペクタクルシーンを描きたかったのですねえ・・・。
すごいです。
はまりました。


ルシウスとさつきのほんのりした恋らしきもの。
そしてそれを見守るさつきの祖父がまた大迫力。
なぜかトミー・リー・ジョーンズ似のこの祖父は、
すご腕の整体師で、義侠心溢れ、地元の見守り役。
さつきの気持ちを見抜いた彼は、勝手に鯛を買い込んで、
さつきの疑問符も素知らぬ顔でお祝いと決め込んだりする。
いやあ、なんとも笑いのツボをついてくれます。


純朴で口下手のルシウスは、さつきに花などをプレゼントしてみては・・・と、逡巡するのですが、
できそうでできない。
こんなところ、なぜかルシウスは西洋人というよりもいかにも日本人的。
もともと、日本人の精神構造に近いのですよね・・・。
だからこそ、時の道がつながったのかも。


この度は、明らかに何か"歴史"の意図によって、
ルシウスが日本にとどまらされたり、ローマに呼び戻されたりしています。
ルシウスの旅には深い意義がありそうです。


・・・で、なんとも盛り上がるラストで、
また"つづく"になっちゃうんですよ~。
あ~、また半年。
待ち遠しいことです。

「テルマエ・ロマエⅤ」ヤマザキマリ エンターブレイン
満足度★★★★★

「ガラスの仮面 49」 美内すずえ

2012年10月26日 | コミックス
もしその人が本当に魂のかたわれだったら、気持ちはきっとあなたと同じ

ガラスの仮面 49 (花とゆめCOMICS)
美内すずえ
白泉社


                   * * * * * * * * * 

さて、49巻目。
この次はいよいよ50巻だね。
記念にいいことがあればいいけど・・・。
というのは、今回は嫌な展開になっちゃったからね。
そうなんだよ。問題は紫織さんね。
 う~、やだやだ。
 私はね、こんなふうにどのような温かい目で見ても、
 絶対に好きになれない人物が登場する話って嫌なのよ・・・。
 そもそも彼女をこんな人物像にしちゃうあたりは、著者の見識を疑うよ・・・。
何もそこまで言わなくても・・・。
だってさ、通常の少女漫画なら、たいていは亜弓さんをこういう性格にしちゃうよね。
 そうでないところがいいなあって、思っていたんだよ。
 なのに、今になってこれかい、って、何だか裏切られた気がしちゃうね。
 あまりにも古典的な嫌な女だよね。
マヤに意地悪をして、笑っていられるうちがまだ良かったな。
今回だって、何度も自分から死にそうになるくせに
 生きているっていうのが、と~っても気に入らない!
まあ、まあ・・・。
 それでね、心優しい真澄様は心を鬼にして、マヤへの思いを振りきって、
 紫織さんとの結婚を承諾しちゃうのだけれど・・・。
こういう変な優しさは実は一番残酷なのにね。
そうだね・・・、それを聞いたマヤのショックは、想像に難くない。


だけどね、意外にもマヤへは月影先生が良いアドバイスをするよねえ。
 「もしその人が本当に魂のかたわれだったら、気持ちはきっとあなたと同じ。
 そういう態度をとるのはたぶん何か事情があるはずよ・・・。」

いやあ、意外にいいオバサンだったんだね。
 それどころじゃない、集中しなさい。とか、
 そんな人はさっさと忘れなさい。とか言うと思ったよ・・・。


揺れ動くマヤの気持ちも落ち着きを見せて・・・。
 いよいよ廃線の駅を舞台とした試演がはじめる・・・。
うーん、やっぱり私ならマヤのチームの方を見たいけどね。
 何が起こるかわからない、といったドキドキ感があるよね。
 亜弓さんは大きなハンディを背負いながら健闘しているけど、
 なんだかやっぱり上品すぎる気がする・・・。


それから今回ラストの方で、ついに聖の心底がかいま見えるね。
そうそう・・・、いいんじゃないでしょうか。
 そうじゃなくっちゃね!
それからなんと、この本と同時に「ガラスの仮面」名台詞カルタなんていうのが、
 発売されたようだ・・・。
ひゃー、そ、それはまずい。
 つい買ってしまいたくなるじゃないの―!
 か、買わないけど・・・。
商魂のたくましさ、頭が下がります・・・。


「ガラスの仮面 49」美内すずえ 花とゆめCOMICS
満足度★★★☆☆


レナードの朝

2012年10月25日 | 映画(ら行)
幻の様なひとときの後・・・

                * * * * * * * * * 

実話に基づいた物語ですが、
まるでウソのような真実のストーリー。


1969年、慢性神経病患者の専門病院に着任した、セイヤー医師(ロビン・ウィリアムズ)。
彼は、
“固まったまま動くことも話すこともできないけれど、反射神経だけは残っている”
という不思議な患者たちと対面します。
中でも特に症状が重いレナード(ロバート・デ・ニーロ)は、
なんと11歳の時に発症してから30年もの間この病院にいるのです。
セイヤー医師は、人付き合いが上手くなく、研究に没頭するだけが生きがいという、
ちょっと風変わりな人物。
えてして、人なみ外れた才能がある人はこんなふうですね。
彼は、同じ神経症であるパーキンソン病の新薬が、
この治療にも有効なのではないかと考え、
レナードにこの薬を試みます。
そしてなんと、この薬が劇的な効果を上げるのですが・・・。


30年意識もなく固まったまま・・・、
そのレナードがなんと突如動き出し、整然と話すことが出来る。
まるで魔法のようです。
けれど実はこれは少し残酷なことでもあったのです。
彼の意識には30年の空白があり、
少年であったはずの自分がいきなり中年となっていることに愕然とする。
すでに身も心も独り立ちできるくらいに回復しながらも、
病院は万が一のことを考え、彼を開放しない。
そしてまた、病魔は薬よりも根強く触手を広げはじめ・・・。


レナードは、時に、自分の意志と関係なく体が痙攣し、
動きが止まらなくなってしまいます。
そんな動きを、ロバート・デ・ニーロが見事に再現しています。
そのレナードを、子供の頃からずっと見守り続けてきた
お母さんの心情もまた、悲しいのです。
彼女にとっては、姿は中年の息子も、まだ子どものまま。
老いたお母さんのこの30年は、どんなだったでしょうね・・・。


「アルジャーノンに花束を」の話にも似ています。
けれどこれが実話だというところがすごい。
人の体というのはなんと不思議なのでしょう。
これがほんの一瞬の奇跡であったということがますます幻めいています。
素晴らしいけれども、物悲しい、
独特の後味となりました。

レナードの朝 [DVD]
スティーブン・ザイリアン
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント


「レナードの朝」
1990年/アメリカ
監督:ペニー・マーシャル
出演:ロバート・デ・ニーロ、ロビン・ウィリアムズ、ジュリー・カヴナー、ルース・ネルソン、ジョン・ハード

アポロ18

2012年10月23日 | 映画(あ行)
アポロ計画はなぜ中止されたのか



                * * * * * * * * * 

人類を月面へと送り込んだ米アポロ計画は
1972年のアポロ17号で終了しました。
しかし実は秘密裏にアポロ18号が打ち上げられ、月面に到着していた。
その極秘映像がインターネットに流出しており、
それを編集したものが今作である
・・・という仕組みになっていまして、
ドキュメンタリータッチでストーリーが進行していきます。


月面に着陸した飛行士2名は、
ソ連の動向を探るための機器を月面に設置しますが、
月面に自分たちのものではない謎の足跡を発見。
また、着陸船のほど近くで、なんとソ連の着陸船を発見します。
中には破損した宇宙服の中で息絶えている飛行士の遺体。
彼らに迫る不気味な物の影。
また、なぜかNASAからの通信も途絶え・・・。



これは宇宙仕立てのホラーですね。
月面という絶体絶命の孤立した場所。
隠れる場所は宇宙船内のみ。
周りは全くの未知の世界で、
何が潜んでいるのか、実は誰も知らない。
半分は暗く冷え果てた闇の世界。
映画としては、これで何も出てこないわけがない。
出るぞ・・・でるぞ・・・。
そうした緊張感がよくできた作品。


・・・なるほど、
それで唐突に人類は月を目指すのをやめたのでしょうか?
CIAも相当非道ですが、NASAも、同様のようで・・・。


2011年/アメリカ/87分
監督:ゴンサロ・ロペス=ギャレゴ
脚本:ブライアン・ミラー
出演:ウォーレン・クリスティー、ロイド・オーウェン、ライアン・ロビンス

「伏/贋作・里見八犬伝」 桜庭一樹

2012年10月22日 | 本(その他)
伏・・・すなわちヒトイヌの因果

伏(ふせ) 贋作・里見八犬伝 (文春文庫)
桜庭 一樹
文藝春秋


                   * * * * * * * * * 

一風変わった時代劇。
里見八犬伝を下敷きにしていますが、知らなくても全然大丈夫。
登場するのは「伏」すなわちヒトイヌ。
人であって人でなく、犬の血が流れる異形の者。
この、不思議な「伏」による凶悪事件が頻発したために、
幕府はその首に懸賞金をかけます。
女の子の猟師・浜路が、兄のいる江戸へやってきて伏狩りをする、
そんな物語。


けれど、「伏」たちは人の心をも併せ持つ、
時にはとても親しみやすい存在でもあるのです。
里見八犬伝はお馴染み、滝沢馬琴の作ですが、
今作中ではその息子である滝沢冥土が
「贋作・里見八犬伝」を書いているのです。
実は八犬伝を書くためにこの冥土が安房の国へ行って、色々と取材をしたのですね。
そうして聴き集めた、実はこちらが真実の物語。

「安房の国の里見家に伏という美しい姫と
鈍色(にびいろ)という醜い弟がいて・・・」

という風に、物語は劇中劇のように語られるのですが、
これがまた、なんとも不思議な物語で、惹きつけられてしまいます。
そしてこれは本題の物語につながる、
「昔」語りでもあるわけなんですね。
「伏」が生まれたわけが、明かされていきます。


因果・・・つまり、事の起こりがあって、その結果がある。
それは悲惨で辛いものなのだけれど、
決して抗えない予め定められたこと。
そんな無常観で縁取られています。
誰もが己の運命を淡々と受け止めているような。
けれど無気力とか冷たいとかという印象はありません。
己の運命を知りつつ、
けれどその中でも精一杯生きようとするエネルギーが感じられるのですね。
特に浜路のバイタリティは、今作中では救いです。
浜路と兄は伏を狩って幕府から賞金をもらうことになるのですが、
一度に貰うと兄がみなすぐに飲んで使ってしまうので、
分割にしてもらうように交渉したりします。
兄はそれを怒って、兄妹げんか。
こんな笑ってしまう一幕も。
一方、伏の信乃も素敵ですよ。
浜路と信乃は追いつ追われつの敵同士ながら、
時には共に協力し、江戸城への抜け穴を通ったりします。
二人の会話がなんとも心弾みます。


私が最も感慨に耽るのは、壮絶な伏姫の運命。
う~ん、これぞ"読み物"ですね。
通常の起承転結のセオリーにはハマっていませんが、
なんとも胸を打ち、心が騒ぐ。

現在(2012年10月)劇場用アニメ公開中。
ぜひ見たい!!

「伏/贋作・里見八犬伝」桜庭一樹 文春文庫
満足度★★★★★

踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望

2012年10月21日 | 映画(あ行)
変化するもの、しないもの



                  * * * * * * * * * *

踊る大捜査線?
まだやってたの?
と言われそうです。
好きだけど、まあ、後でDVDでもいいかな?と思っていたのですが、
たまたま時間があいて、みてみました。
でもね、やっぱり見てよかったと思いました。
シリーズ物の強みですよね。
いつもの人物、いつものような行動。
いきなりその世界に入っていけるので、親しみがある上にわかりやすい。
本作はTVシリーズが始まった1997年から15年目。
ついにファイナルということで、スタッフ、キャストの並々ならない力の入れようが伺えます。



湾岸警察署管内、国際環境エネルギーサミット会場前、衆目の面前で誘拐事件があり、
やがてその被害者が射殺死体で発見されます。
警視庁では、犯人は警察官と当たりをつけるのですが、
そのことは所轄には一切知らされず、捜査にも関わらせてもらえません。
この事件は6年前のある誘拐事件に関係しているようなのですが・・・。



昨今よく映画などにもある、CAIの敵はCIAであるのと同じように、
日本の警察の敵もまた警察・・・ということなんですね。
本作は
「事件は会議室で起こっているんじゃない!」
ということで、はじめから組織のトップと現場の乖離をうたっていましたから、
何も今取ってつけたテーマではないのです。
今作は、組織のトップを揺るがすためには、
これくらいの多くの犠牲と自身の自滅を覚悟しなければならない
・・・という強烈な皮肉にもなっています。



このシリーズの良さは、変化するものと変わらないもののバランスがとてもいいのです。
変化するもの。
時代。
地域の様子。
東京スカイツリーができいる。
真下くんが所長になり、二児のパパになっている。
湾岸署のお偉方トリオは退職後、指導員としてまた勤務している。
和久さんの甥っ子が新人として勤務。





変わらないもの。
青島の正義感と熱血ぶり。
スミレさんとの他愛のないやり取り。
室井さんとの信頼関係。
本庁と所轄の溝。
そして下町の人情。


私達の生活とシンクロして時が移っていくので、
共に生きている共感があります。
相変わらず、嫌な事件の頻発する湾岸署だけれど、
今回は、ファイナルとして変わらないものにも変化をつけたのです。
青島とスミレさんの関係。
そして本庁と所轄の関係・・・。
それも決定的にではなく、
“新たな希望”というくらいの位置づけで。
なんとも心にくい演出でした。


そして2時間たっぷり堪能しました。
やっぱり見てよかったな!! 
まだの方、やはり劇場で是非どうぞ。

「大切なものから目をそらすものは、真実に辿りつけない」
和久さんの残した言葉だそうで、胸にしみます。





キャストもますます豪華ですよね。
謎めいた小栗旬さんもいいし、
いつも爽やか青年役が多い小泉孝太郎さんも、ちょっと思いつめた雰囲気があって。
しかも真犯人役はなんとあの・・・!!



「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」
2012年/日本/126分
監督:本広克行
出演:織田裕二、深津絵里、ユースケ・サンタマリア、柳葉敏郎、伊藤淳史、内田有紀、小泉孝太郎、小栗旬

「神去なあなあ日常」 三浦しをん 

2012年10月19日 | 本(その他)
自然とともにある、林業。そしてスペクタクルへ!!

神去なあなあ日常 (徳間文庫)
三浦しをん
徳間書店


               * * * * * * * * * 

今作も、文庫化を待ちかねていた一作です。
三浦しをんさんのお仕事小説ですが、
この職業がなんと林業というのが虚をつかれる感じですね。
実際どんな仕事なのかと、検討もつかないところから攻めてくる。
けれども、これは日本人の信仰の原点をつく、大切な作品であるように思いました。


横浜のごく普通の高校生だった勇気。
ところが卒業後、なぜか突然
三重県の林業の現場で研修生として働く事になってしまった。
ケータイは通じない、仕事はきつい、
遊ぶところなんかない、逃げ出したくても、駅までの足がない・・・。
そんな山奥の神去(かむさり)で、泣きたくなってしまう勇気だったのですが、
何事にも「なあなあ」とのんびりした村の人々の中で、
次第に自分の居場所を得て仕事が好きになっていく
勇気の1年間の成長を描きます。


「なあなあ」というのは、この地方の方言で、
「ゆっくり行こう」「まあ落ち着け」というニュアンスの言葉。
拡大して「のどかで過ごしやすい、いいお天気ですね」
などという意味までも持ちます。
100年単位の木の成長を見守る土地の人々ならではのことばですね。
でも、だからといって、林業の仕事がのんきでのどかだと思えば大間違い。
自然相手の仕事は時として大変な危険も伴います。
山ではいつ何がおこっても不思議ではない。
人々は自然=神という感覚が身についていて、
だからこそお祭りも本気に命がけで盛大に行うのです。


山の美しい四季の移り変わり。
横浜でなら道端の草花に興味も持たなかったであろう勇気ですが、
生命力に満ちた山の草花に圧倒され、好きになっていきます。
三浦しをんさんらしく、ちょっぴりラブストーリーもあるところがまたいい。
まあ、前途多難ですが。
そして、意外にも終盤は大迫力のスペクタクル!!なのです。
いやあ、すごい。
著者のなみなみならぬ力量を感じるところでもあります。


私はぜひこれをアニメで見たい。
実写ではダメです。
是非、細田守監督で!!


「神去なあなあ日常」三浦しをん 徳間文庫
満足度★★★★★


「元気でいてよ、R2-D2。」 北村薫

2012年10月18日 | 本(その他)
心がひんやりの短篇集

元気でいてよ、R2-D2。 (集英社文庫)
北村 薫
集英社


             * * * * * * * * * 

北村薫さんの短篇集。
この本のテイストは"陰"です。
ホラーというほどではありませんが、
ほんのちょっぴりの毒、心の底がひんやりとするストーリーの数々。
それも、ストーリーのラストほんの数行で、真相が読めて怖くなってくる
・・・という構図の転換がなんとも心にくいのです。


前書きで、「妊娠中の方は、読まないでください」と注釈のある
「腹中の恐怖」
腹中の恐怖と言われて思い出すのは映画「エイリアン」だったりしますが、
今作はそんな血みどろの話ではありません。
ある種の人の「念」の怖さ。
知らなければなんともないのに、知ってしまったらもう耐えられない。
そういう事ってありますよね。


表題作「元気でいてよ、R2-D2。」
R2-D2は、おなじみスターウォーズに登場するロボットですが、
今作に、彼が登場するわけではないのです。
語り手の女性が、居酒屋で飲みながら、友人に話をしている。
その彼女の語りを文章化してあるのがこのストーリー。
どうやら彼女は一人暮らしで、
自然と身の回りのモノや、ベランダの向こうの庭木などに語りかけてしまうらしいのですね。
その居酒屋においてあるコーヒーメーカーが、なんだかR2-D2に似ているので、
彼女はそのコーヒーメーカーにも語りかけてしまうのです。
彼女の語りを聞くうちに、彼女の生活感や恋愛観がわかってきて、
なんかイイなと思えてくる。
でも、最後に慄然とさせられてしまうのは、
別に殺人事件があったり、彼女が誰かに傷つけられたりするわけではないのです。
彼女が語りかけていた木のことが書かれているだけなのですが・・・。
なんて鮮烈でショッキング。
R2-D2に語りかける言葉がなぜ「元気でいてよ」なのか。
実に味わい深い作品です。


ラストの「ざくろ」は、怖いですよ。
60歳の女性のモノローグとなっていますが、
なぜか小学生の書いた文章のように平仮名交じりなのが気になってしまうのですよね。
でも、それには秘密が・・・
人の思考の不思議を思います。

「元気でいてよ、R2-D2。」北村薫 集英社文庫
満足度★★★★☆

推理作家ポー最期の5日間

2012年10月17日 | 映画(さ行)
犯人のつきつける謎に対峙



                         * * * * * * * * * 

名前だけは知らない人のない、推理小説の始祖とも言うべきエドガー・アラン・ポー。
彼の死の真相は未だに謎だそうですが、
今作はその真相を語ろうとするストーリー。



1849年、アメリカ、ボルティモア。
猟奇殺人事件が起こります。
ところがその殺人はポーの作品の内容に酷似。
フィールズ刑事が、ポーの協力を得ながら事件の謎を追います。
しかし、更にポーの作品内容を模した第2第3の殺人が・・・。
犯人はポーに挑戦するかのように、ポーの恋人までを誘拐し
謎を突きつけてきます。



シックな色調で、時代色と雰囲気が出ています。
地下水路のシーンなどは、使い古された手ではありますが、
やはり緊迫感がありますね。
しかし思わず目を背けたくなる、かなりの残酷シーンも・・・。
まあ、猟奇殺人事件なので仕方ないですが、
ポーと対決するためにこれだけの殺人を平然と犯してしまう、というのはスゴすぎ・・・。



私は、フィールズ刑事が好きでした。
ポー自身を犯人と決めつけて捕まえたりしないところがいいですね。
とても頭のキレる優秀な人。
なんだかポーよりも、こちらの方が華があったりする・・・。
しかしまあ、彼の地道な捜査と、ポーのひらめきが、
良いコンビになっていきます。
けれど、常に犯人が先手先手を打っていくので
解決は最後の最後。
まあ、これも多くの推理小説の常道なので、
致し方ありますまい。



ポーはといえば、飲んだくれの一文無し。
本当はこんな小説ではなくて評論を書きたいと思っている、というちょっぴり情けない人物。
多分実像に近いのでしょう。
ポーの作品世界の雰囲気をうまく再現していると思います。

原題「The Raven」は「オオガラス」・・・すなわちポーの作品の一つ。
確かに、これは邦題のほうがわかりやすい。

「推理作家ポー最期の5日間」
2012年/アメリカ/110分
監督:ジェームズ・マクティーグ
出演:ジョン・キューザック、ルーク・エバンス、アリス・イブ、ブレンダン・グリーソン、ケビン・マクナリー

岳 ガク

2012年10月15日 | 映画(か行)
山に捨ててはならないものは?



                  * * * * * * * * * 

石塚真一さんによるコミックの映画化です。
先に海難救助のストーリーがヒットしたので、
では山岳救助で・・・という意図が見えてしまいますが、
山の空気というのもまた格別で、悪くはありません。



新人山岳救助隊位の椎名久美は、山岳救助ボランティアの島崎三歩と出会います。
久美は彼の行動を通して自身の未熟さを知り、
大自然の猛威に立ち向かう力を得ていきます。
この三歩は、ノーテンキとも思えるほど陽気。
いつもニコニコ元気がいい。

はじめのうち、そのキャラがなんだか小栗旬と重ならないのですが・・・、
でもまあ、こういう小栗旬もいいかな?
ただ、三歩がここまで突き抜けるためには、実は大きな苦難を乗り越えなければならなかった。
だからこそ、私たちは三歩を信頼出来るのですね。

山は崇高で美しいけれど、時には残酷に牙をむく。
こんなつらい思いをしてまで何故、山にのぼるのだろうと、
私などは思ってしまいます。
けれども三歩は遭難し、死にそうになった人に
「また山においでよ」と笑いかける。
そうして懲りずにまた山へ戻ってくる人も。



三歩が久美に出した問題。
「決して山に捨ててはならないものは?」
ゴミ・・・? 
もしかして、女?
などという久美の答えが傑作でしたが、
本当の答えは是非作品を見て確かめてください。


岳 -ガク- DVD通常版
小栗 旬,長澤まさみ
東宝


「岳 ガク」
2011/日本/125分
監督:片山修
出演:小栗旬、長澤まさみ、佐々木蔵之介、石田卓也、矢柴俊博

007/ワールド・イズ・ノット・イナフ

2012年10月14日 | 007
007の見方

                 * * * * * * * * * 

007シリーズ第19作。
ピアース・ブロスナンの007としては3作目ですね。
オープニングクレジット前に、派手なシーンがありますねえ。
テムズ川でのモーターボートチェイス。
私は全部の中でも、ここが一番おもしろかったよ・・・。


巨大石油パイプラインを持つイギリスの石油王キングが暗殺されます。
犯人はテロリストのレナード。
彼は銃弾で脳に損傷を受け、痛みを感じなくなっているという想定だね。
だからまあ、見た目は普通で、特別な力があるわけではない。
けど、痛みを感じないというのはある意味すごい武器でもあるな・・・。
石油王にはエレクトラという娘がいて、彼女が後を継ぐことになるのだけれど、
テロリストの次の標的になりそうなので、ボンドが護衛につくというわけだね。
んで、仲良くなっちゃうというお定まりの展開ですが・・・。
愛があって、裏切りがあって・・・
まあ、普通に楽しめる作品と思います。
そうだねえ、けど、特別な思い入れができるほどではないかな・・・?


今作1999年作品で、作中で2000年問題の先取りか?などというセリフもあり。
そうでした、西暦年数を表示できず、
コンピューターが正常作動できなくなるという心配があった年なのでした。
随分昔のような気がするよ・・・。
それから、今作ではQが引退宣言をするのだけれど・・・
そうなんだよね。さすがにお年だし・・・
でもこのデスモント・デュウェリンさん、
この撮影が終わってまもなく事故でなくなってしまったそうで。
本当に最後の作品になってしまったんだねえ・・・。
彼の作った数々の新兵器、大好きでした。
そういえば今回はそのQの後釜となったRの作った新兵器のBMWが、なんと真っ二つになって大破。
別に車好きでない私でも、なんてことするんだ!!と思ってしまったよ。


それはともかく、ピアース・ブロスナンの007は結局どう?
う~ん、悪くはないけどややパンチ不足かな。
というのはその後のダニエル・クレイグを知っているからかもね。
そうだね、ダニエル・クレイグの方がスタイリッシュで、色気がある気がする・・・、
まもなく公開の「スカイフォール」は楽しみだよね。
つまり、007シリーズというのはその時その時リアルタイムで見るべきであって、
私らがこれまでやったように、懐かしんで過去の作品を見たりすべきではないということなのでは・・・?
うひゃー、ここまで来てその結論ですか?
ははは・・・

ワールド・イズ・ノット・イナフ(デジタルリマスター・バージョン) [DVD]
ピアース・ブロスナン,ロバート・カーライル,ソフィー・マルソー,デニス・リチャーズ
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


「007/ワールド・イズ・ノット・イナフ」
1999年/アメリカ/128分
監督:マイケル・アプテッド
出演:ピアース・ブロスナン、ソフィー・マルソー、ロバート・カーライル、デニース・リチャーズ、ロビー・コルトレーン

「虚像の道化師/ガリレオ7」 東野圭吾

2012年10月13日 | 本(ミステリ)
うかうかしていると、ついはめられる

虚像の道化師 ガリレオ 7
東野 圭吾
文藝春秋


                      * * * * * * * * * 

おなじみ東野圭吾のガリレオシリーズ最新刊です。
4篇の短編からなっています。

第一章「幻惑す(まどわす)」は、怪しげな新興宗教を題材としていますが、
トリックはやはり科学的なもの。

第二章「心聴る(きこえる)」は、おかしな幻聴にまつわるもの。
これも最新の科学的な仕掛けが。

第三章「偽装う(よそおう)」。装うと言えば偽装殺人?・・・と思えるのですが、そうではなく・・・。
最新科学が使われているわけではありませんが、
このからくりに気づくのはさすが、湯川ならでは。

第四章「演技る(えんじる)」。登場するのは劇団員。
ということで、彼らは巧みに演じます。
・・・騙されます。


ガリレオシリーズは、物理学者湯川という名探偵を置いているため、
当然科学的なトリックが多くなりますが、
私はこの本に限っては、科学的トリックではない方が好きでした。


3作目の謎は、知っているはずでも普通の人は気づかない、
言われてみて始めて「ああそうか」、と思うところがとてもいい。


4作目は、倒叙形式なのです。
つまり、はじめに"犯行シーン"があり、"犯人"は私達読者に姿を表している。
だから犯人探しにはならない・・・ハズだったのですが・・・???
あれ?
うまく著者にはめられてしまいました。
のんびりしているとこんなことになるので油断なりません。


さてところで、福山雅治の映画版ガリレオシリーズ、
新作「真夏の方程式」を製作中だそうです。
2013年初夏公開予定。
楽しみです!

「虚像の道化師/ガリレオ7」東野圭吾 文藝春秋 
満足度★★★★☆