映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

絶唱(1975)

2018年04月30日 | 映画(さ行)

身分の差を乗り越える強い愛・・・・

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山口百恵文芸シリーズの第3作ですね。
はい、昭和17年、山陰地方。
大地主の一人息子・順吉(三浦友和)は山番の娘・小雪(山口百恵)を愛してしまいます。
しかし、身分の違いで反対され、駆け落ち。
坊ちゃん育ちでまだ学生の順吉でしたが、学校はやめ、
荷運びや材木運びの肉体労働に励み、生活を支えます。
貧しいながらも、そんなひとときが2人の最も幸せな時期だったわけね。
はい。昭和17年というともう、嫌な予感がしてしまうのだけど、
その予感どおり、順吉に召集令状が届きます。
出征してしばらくは手紙も届いていたけれどやがて手紙も途絶え、そして終戦になってもまだ順吉は帰らない。
そうしている間に、小雪は病に倒れみるみる病み衰えてしまう・・・。
そしてもう虫の息というある日、小雪はうわ言のように「あの人が帰ってくる」とつぶやく・・・。

 

この話は全然知らないなあ・・・と思って見始めたけれど途中で思い出したよ。
亡くなった小雪に花嫁衣装を着せて、布団にもたれかけて座らせて、祝言をあげるという、
あの有名なシーンだった!!
貧富の差はなんとか乗り越えたけれど、結局戦争が2人を引き裂いた・・・ということなんだねえ・・・。
順吉は「読書会」というのに出ていて、そこでプロレタリアート文学などを読んでいたみたいなんだよね。
それで大地主の息子と言う自分に引け目を感じていたんだ。
だから小雪を好きだったのは本当なんだけでど、
意地でも後には引けないという強い思いは、こういう思想的な理由もあったと思う。
小雪の方は若様に思いをかけてもらうことがひたすらもったいなく、
お屋敷にも申し訳なく思っている・・・。
いかにもな欲がなくて純真な「いい娘」・・・というのがちょっと引っかかるけれど。
まあねえ・・・今どきこんな娘をドラマに登場させたら非難轟々だと思う・・・。
それに対して、順吉もいかにも上から目線な気がする・・・。
いや、決して威張ってるわけではないんだけどね。
あえて自分を貶めて酔ってるみたいな・・・?

うーん、その感想は若干自分の心の卑しさの現れかもよ。
まあ、そうかも・・・。
でもね、もし順吉が出征しなかったとして、
あの生活に彼が本当にこれ以上耐えたれたのだろうかと、ふと思ってしまう。
音を上げる前に召集令状が来て、むしろ良かった、とか?
いやいや、でもあの肉体労働で体が鍛えられたからこそ、
戦争を生き抜くことができたということではあるよね。

それから、「絶唱」といえば舟木一夫の歌があったじゃないですか。
それを思い出したよ。
えーと1966年の「絶唱」のテーマで、舟木一夫と和泉雅子が主演だったんだよ。
これを知っているなんてというと、年がバレるよ・・・。
たはは・・・。
10年足らずで映画化2本。
当時は庶民に好まれた話だったのかな。
今またリメイクなんてことには絶対ならないと思う。
いくら昔の話と言っても、この貧富の差の惨めなドラマは、見たいとは思わないなあ。
格差は相変わらずあるんだけどね・・・
どこか質が違っているようだ。

「絶唱」
1975年/日本/96分
監督:西河克己
原作:大江賢治
出演:山口百恵、三浦友和、辰巳柳太郎、菅井きん、大和田伸也

満足度★★★☆☆

 


ベルリン・シンドローム

2018年04月29日 | 映画(は行)

監禁、その複雑な心理。

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オーストラリアからベルリンに旅行に来たクレア。
アンディというスポーツ学校の教師と知り合い、恋に落ちます。
旅先のちょっとした素敵な出会い・・・、のはずでした。
アンディの部屋に泊まり、朝を迎えたクレア。
アンディはすでに外出しており、クレアも外に出ようとしたのですが、
鍵がかけられていてドアが開きません。
やむなくアンディが帰るまで一日をそこで過ごしましたが・・・。
ようやく戻ってきたアンディはクレアを開放するつもりはないようなのです。
廃墟のようなビルの一室。
近所には誰もいる様子はなく、窓は特殊な強化ガラスのようで、クレアが力いっぱい叩いてもびくともしません。
彼女は監禁されてしまったのです・・・。

監禁という状況も恐ろしいですが、
ちょっと見でいかにも人の良さそうな、このアンディこそが恐ろしい。
彼は何食わぬ顔できちんと勤務に出かけます。
外では完璧にきちんとした教師・・・。

そして彼はクレアに暴力を奮ったりはせず、爪を切ったり、髪を切ったり、
やむなくベッドに縛り付ける事はあるにせよ、不気味に優しいのです・・・。
まるでペットを可愛がるような感覚でしょうか・・・。



こんなエピソードがあります。
アンディの職場で、ある女性が間違ってアンディのカップを使ってしまった。
気がつくと彼女はあわててしっかり洗って返すのですが、アンディはもう一度洗い直しそうな勢い。
(けっきょくその場面では洗っていませんでしたが。)
そして謝る彼女がアンディの手に触れると、そこを汚らわしいとでも言うように洗い始めるアンディ。
こんなところから、なんとなく彼の性質が見える気がしました。
彼は「自分のもの」にこだわるのです。
クレアを閉じ込めて自分のものにする。
自分の「もの」であれば多少の反抗も許せるし、自分のものだからこそ、大切にしようと思う。
でも、「もの」だから相手の感情は無視。
しかしある時、アンディの父親が亡くなり、
そんなときには慰めるようにクレアの方からアンディを抱きしめたりもする。
すごくリアルな人の感情を描いていると思いました。
愛と憎しみは相反するようで入り混じって同居することもある・・・。
人の心は計り知れません・・・。



クレアはこの部屋に以前、別の女性が同様に監禁されていたことに気づきます。
でも結局本作中に彼女がどうなってしまったのかは描かれていませんよね・・・。
私はそこも怖いと思います・・・。
無事逃げることができたとはとても思えないのですが、ではどうなった・・・?
つくづく怖いストーリーです。
うかうか人を信用してはいけない・・・。



<ディノスシネマズにて>
「ベルリン・シンドローム」2016年/オーストラリア/116分
監督:ケイト・ショートランド
出演:テリーサ・パーマー、マックス・リーメルト、マティアス・ハービッヒ、エマ・バディング、エルマイラ・バーアーミー
精神の欠落度★★★★★
猟奇度★★★★☆
満足度★★★.5


「スカラムーシュ・ムーン」海堂尊

2018年04月27日 | 本(その他)

有精卵製造奮闘記、として読んだほうが面白い・・・

スカラムーシュ・ムーン (新潮文庫)
海堂 尊
新潮社



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新型インフルエンザ騒動で激震した浪速の街を、新たな危機が襲う。
今度は「ワクチン戦争」が勃発しようとしていた―
霞が関の陰謀を察知した異端の医師・彦根新吾は、
ワクチン製造に必要な鶏卵を求めて加賀へ飛び、さらに資金調達のために欧州へと旅立つ。
果たして、彦根が挑む大勝負は功を奏するのか?
浪速の、そして日本の医療の危機を救えるのか。
メディカル・エンタメの最高傑作!

* * * * * * * * * *

実は本作の前に「ナニワ・モンスター」を読んだほうがいいのはわかっていたのですが、
入手順が逆になってしまい、そのままこちらを先に読みました。
先の新型インフルエンザ騒動について、こちらにも深く関係してきますが、
でも読んでいなくてもなんとかなりました。


彦根医師はかなりの論客でありまして、実のところ私はついていき難く苦手なのです・・・。
でも本作、インフルエンザワクチン製造のための有精卵の生産者、
生きのいい女子大学院生・まどかのところから入るのですごく読みやすくて、導入部はバッチリでした。


彦根医師は浪速を中心に西日本を日本国から独立させようという壮大な構想を描いているのです。
中央政府がそれを阻もうとするのは当然のこと・・・。
それで、政府は近い内に浪速地区のワクチンが絶対的に不足するという情報をバラまき、
浪速をパニックに陥れようとするだろう・・・、
と彦根は読むわけです。
そこで、その前にインフルエンザワクチンを量産しておこうと、
「ナナミエッグ」に有精卵の生産を依頼することになったのです。
このナナミエッグではこれまで普通に販売する無精卵しか扱ったことはなく、
そこから有精卵を生産・そしてワクチンセンターまで納品(長距離輸送!)する手はずを整えるまで、
相当の紆余曲折があります。
けれど彼女の二人の友人の協力を得て、どうにかこうにか実現までこぎつける。
恋あり友情あり。
私はここの下りが大好きでした。
ここがなかったら私は本作、挫折していたかもしれません・・・。

それにしてもやはり・・・
ついに彦根医師の夢は・・・。
今の日本で実現できていないことを海堂氏は無理に実現する物語にはしたくないようです。
だから、誰の夢も叶わずに終わるのは宿命でもある・・ということか。
でも彦根医師は、大丈夫そうですね。
まだまだめげてはいなさそうですし、大切な人ができたのだから・・・。

「スカラムーシュ・ムーン」海堂尊 新潮文庫
満足度★★★★☆


家族はつらいよ

2018年04月26日 | 映画(か行)

それでも、言葉なのです。

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山田洋次監督が「男はつらいよ」シリーズ終了から20年ぶりに手がけた喜劇。
先の「東京家族」一家が再結集し、現代に生きる新たな一家を演じます。

まもなくシリーズ第3作目が公開されるということで、この際見てみました。
結婚50年を目前に控えた平田夫妻(橋爪功&吉行和子)。
夫・周造が誕生日のプレゼントになにか欲しいものがあるかと問うと、
妻・富子は離婚届の用紙を取り出し、ここに記名と押印が欲しいという・・・。
子どもたちは大慌てで家族会議を招集。
特別に問題があるようにも見えなかった夫婦の何が問題なのか?

熟年夫婦。
ある日突然に妻から突きつけられる離婚届。
このパターン少し前にも見たばかり。
「恋妻家宮本」でしたか。
夫は驚きうろたえて、落ち込んでしまう。
この「離婚」には専業主婦の思いが詰まっていると思うのですね・・・。
サラリーマンを勤め上げた男性は、定年退職ということで、一つ肩の荷をおろして、
新たに趣味を見つけたり、ゴロゴロしたりするわけですが・・・。
主婦業に定年はない。
それどころか、今までいなかった夫がで~んと居座って、鬱陶しくて仕方がない。
妻が私だってここらで鬱陶しい夫の世話から開放されて自由に生きたい、
と思うのは当然のように思えます。
妻が離婚届を突きつけるか否かは、その後の生活が成り立つかどうかだけにかかっている
と言っても過言ではないくらいに。
そしてその妻を引き止めることができるかどうかは、やはり夫の行動次第なのだろうと思うのです。
そりゃー、いまさら「愛している」なんていえませんよね。
いや若いときにすらも言ったことはないのでは?
でも次男(妻夫木聡)の恋人・憲子(蒼井優)は言います。

「それでも言葉、なんです。言葉でなければダメなのです」

口に出さなくてもわかるだろう・・・などというのは勝手な思い込み。
直接的に「愛」などという言い方をしなくても、素直に思いを言葉にすれば伝わるはず・・・。
と言うのは簡単だけれど、実際は難しいですよね。
ことに毎日顔を突き合せている家族間では・・・。
だから本当に、「家族はつらいよ」です。

当平田家の家族構成は・・・、
この夫婦と同居の長男夫婦(西村雅彦&夏川結衣)、孫の2人。
同じく同居の次男(妻夫木聡)はこの度結婚のためようやくこの家を出ることに。
長女・成子(中島朋子)は結婚しているので家を出ています。
夫(林家正蔵)と共に自営業。
いろいろな年代を網羅したこの一家の騒動のタネは無限にありそう。
今後は私も楽しみにしようかな、と思います。

家族はつらいよ [DVD]
橋爪功,吉行和子,西村雅彦,夏川結衣,中嶋朋子
松竹



<WOWOW視聴にて>
「家族はつらいよ」
2016年/日本/108分
監督・脚本:山田洋次
出演:橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中島朋子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優
平成家族度★★★☆☆
満足度★★★.5


ワンダーストラック

2018年04月25日 | 映画(わ行)

シンクロする二人の冒険

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2つの時代の少年少女の話が、同時進行していく物語です。
まずは1977年。ミネソタ。
母を事故で亡くした少年ベン(オークス・フェグリー)は、
母の遺品の中から会ったことのない父に関する手がかりを見つけます。
そしてそこから50年前、1927年のニュージャージー。
聴覚障害のある少女ローズ(ミリセント・シモンズ)は厳格な父親に馴染めず、
女優リリアン・メイヒューの記事を集めてスクラップするのを楽しみにしています。
孤独な2人はそれぞれニューヨークを目指して家出を決行。
2人の目指すものは見つかるのでしょうか?

1927年のローズのパーツはモノクロのサイレント。
実はローズが好きなリリアン・メイヒューの映画もサイレント映画なのです。
セリフは字幕が入る。
ニューヨークにたどり着いたローズは近々「トーキー」という、声の入った映画ができる
というポスターを見て、ちょっとがっかりした顔をします。
耳の不自由な彼女にとっては、トーキーよりもサイレント映画のほうが良かった・・・。
そんなちょっとしたシーンにも心憎いばかりの演出がなかなかです。



ニューヨークを訪れた二人の行く先は自然史博物館。
50年の時を隔てながら、シンクロするかのように、
それぞれ心細さとワクワク感、双方をいだきながらニューヨークの雑踏の中を歩いていく。

しかもどちらも聴覚障害ということで、まさしく見ているこちらまで、ドキドキさせられます。
そしてこの2人は必ずどこかでめぐりあうはずとは思いながらも、
50年のときは乗り越え難く、全く先が読めません。
一気にタイムワープしてしまうようなファンタジーではなかったんですね! 
でもそこがまたいいのですよ・・・。
そんな方法ではなく、もっと納得の行く驚きの結末に、歓びがこみ上げます。



この博物館は「ナイトミュージアム」の映画でもおなじみですが、
「時」の流れを感じるのに、最高の舞台でもあるわけですね。
全く別々の少年少女の物語が、やがて家族の物語として集結してゆく。
なんてステキな物語なのでしょう!! 
オススメです。



<シアターキノにて>
「ワンダーストラック」
2017年/アメリカ/117分
監督:ドット・ヘインズ
出演:オークス・フェグリ―、ミリセント・シモンズ、ジュリアン・ムーア、ジェイデン・マイケル、コリー・マイケル・スミス、ミシェル・ウィリアムズ
冒険度★★★★☆
物語の収束度★★★★★
満足度★★★★★


「デトロイト美術館の奇跡」原田マハ

2018年04月24日 | 本(その他)

生活の中にある美術

デトロイト美術館の奇跡
原田 マハ
新潮社

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ゴッホ、セザンヌ、マティス。
綺羅星のようなコレクションを誇る美術館が、市の財政難から存続の危機にさらされる。
市民の暮らしと前時代の遺物、どちらを選ぶべきか?
全米を巻き込んだ論争は、ある男の切なる思いによって変わっていく―。
アメリカの美術館で本当に起こった感動の物語。
『楽園のカンヴァス』『暗幕のゲルニカ』の系譜を継ぐ珠玉のアート小説。

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原田マハさんは、やはりその経験を活かした
美術館キュレーター関係のストーリーで本領を発揮する気がします。
この「デトロイト美術館の奇跡」は、100ページあまりの可愛らしい本。
表紙に描かれているのはセザンヌの「画家の夫人」の絵です。
不機嫌な顔をした女性が、質素な服を着て腰掛けている・・・というちょっと地味な絵ですけれど、
作中で非常に重要な位置を占めている絵で、
この本を読んだ人なら、読後にこの表紙をきっとまたしげしげと眺めることになるはず。
実物を見てみたくなりますね。

2013年。
かつて自動車産業で栄に栄えたデトロイトの街は、
今や見る影なく廃れて、財政破綻。
市民の生活が脅かされるまでになっています。
そこで目をつけられたのは「デトロイト美術館」の莫大な価値のある美術品。
これを売却すれば相当の金額になる・・・。
けれども、これを売却すればこの街の誇る美術品は散り散りばらばらになって、
もう二度と買い戻すこともかなわないだろう。
歴史ある美術館も閉じなければならない・・・。


本作で、この美術館に通い、数々の絵画屋美術品を眺めることを至福の時間としている市民の代表として、
名もなき一庶民を取り上げているのが、すごくいい。
それは、自動車会社に40年務めた挙げ句、人員整理で解雇されたアフリカン・アメリカンの男性。
それまで美術などに興味もなく、美術館に行ったこともなかったのですが、
退職後妻に勧められて美術館に一度足を運んでからは、
すっかりこの美術館が大好きになって、ちょくちょく足を運ぶようになったのです。
その妻があっけなく亡くなってしまった後も。
彼は、市の財政破綻のために美術品を売却することになりそうだという新聞記事にショックを受けて、
ある行動を起こすのですが・・・。


金持ちの趣味ではなく、慎ましい生活を送る庶民の生活の中にある美術・・・。
そうした視点が素晴らしくて、ちょっぴり泣きたくなってしまう作品なのでした。

中編なので他の作品と抱き合わせで本になる可能性もあったと思うのですが、
このようにかわいい一冊にまとめたことは正解だと思います。


図書館蔵書にて
「デトロイト美術館の奇跡」原田マハ 新潮社 1200円
満足度★★★★★


150ミリグラム ある女医の告発

2018年04月23日 | 映画(は行)

正義のために闘うこと

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実話に基づく社会派メディカルドラマ。


糖尿病治療薬メディアトールに、
心臓弁膜症を起こす可能性があるという重大な副作用があることに気付いたフランスの医師、
イレーネ・フラション。
しかし、製薬会社の圧力が大きく、彼女の訴えは握りつぶされそうになります。
しかしなおも声を上げ続ければ、現実に見の危険を感じ始める・・・。

大手製薬会社と闘う女医、その意志の強さの勝利なのだろうなあ・・・。
心臓弁膜症といえばまさに命にかかわることで、
実際しっかりと追跡調査をすると、相当数が薬の副作用であることも気づかれぬまま
死亡していることがわかってきます。
しかし人命に関わることとわかってもなお、製薬会社はそのことを明らかにしようとしない・・・。
薬の販売をやめればいいと言うだけではなくて、莫大な保証も関わってくるためなんですね。
これがフィクションではなくて実際にあったことというのが恐ろしいです・・・。


イレーネと共に闘う研究者の男性がいるのですが、彼のビビリ様はハンパじゃなくて、
それと比べるとイレーネはなんと凛々しい・・・。
これ、先日も言ったかもしれないけれど、やはり女性だから、という気がします。
この行動は社会的地位を失うことに等しい・・・と思うと、男性は腰砕けになってしまうのだけれど、
女性はそれに関してはさほど執着がないので、「正義」に対して、真摯なのです。


けれども実際身に危険を感じ、もしかすると家族にも危害が及ぶかもしれないと思った時、
さすがに彼女もためらってしまいます。
けれど、彼女を支え励ましてくれるのが夫や子どもたち。
このあたりがドラマとしてステキ・・・。
大切なのは正義感+支えになる何か、か。


この薬は糖尿病の治療薬なのですが、痩せ薬としても知られていて、
人気のある(?)薬だったそうで・・・。
副作用の疑いが多少耳に入ったとしても、無視して服用を続ける人もいたのでは・・・と思われます。
どんな薬も、使い方を誤れば毒、と。



<WOWOW視聴にて>
(日本未公開)
「150ミリグラム ある女医の告発」

2016年/フランス/128分
監督:エマニュエル・ベルコ
出演:シセ・バベット・クヌッセン、ブノワ・マジメル、シャルロット・レンメル、ララ・ニューマン、パトリック・リガルデ
告発の困難度★★★★★
満足度★★★.5

 


ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル

2018年04月21日 | 映画(さ行)

ゲームキャラクターの設定が生きる

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1995年「ジュマンジ」のリメイクというか続編、ということになりましょうか。
先の作品は、私も、登場する動物たちがすべてCGというのに驚かされた記憶があります。
なんてリアルで、そして楽しい!!・・・と。
今やCGは当たり前で、特別感動することも少なくなっているわけですが、
そんな中で、この物語の見どころは・・・?
という感じで、期待半分あきらめ半分で見たのですが・・・。

4人の高校生が、教師にお目玉を食らい、放課後居残りをさせられることになってしまいました。
その部屋で彼らは「ジュマンジ」というソフトが入った古めかしいテレビゲーム機を見つけます。
居残り作業そっちのけで、彼らはゲームを始めるのですが、
なんと次々とゲームの中に吸い込まれていってしまいます。

気がつくと彼らはジャングルの中にいて、それぞれが選択したキャラクターの姿になっています。
彼らはこのゲームの中で実体験としてクエストに挑み、
クリアしなければ元の世界に帰ることができないのです。

それぞれに与えられたライフは3つ。
二回まではゲーム上で命を落としても生き返ってくることが出来ますが・・・。

前作ではボードゲームだったのが、この度はテレビゲーム。
まあそれは当然でしょうか。
ゲームらしく、各自はゲーム上のそれぞれのキャラクターとなるという設定がすごく生きています。
しかも本作ではそれぞれが自分とは全く異なるキャラクターに変身。

気弱なゲームオタクのスペンサーはムキムキのマッチョ男に。

頭が弱いアメフト部員フリッジは、へなちょこ男に。

スマホ依存症のうぬぼれ美人ベサニーは、なんと太っちょの中年男!!

シャイで真面目なガリ勉女マーサは、色っぽい女戦士。

自分自身と、よくわからない仲間たち、
そして危険がいっぱいのこの世界に戸惑いながら、彼らのクエストが始まります。



こんな環境で彼ら一人一人が自分と仲間のことを理解し成長していくという過程がなんとも心地よくて、
まさにCGだけに頼るのではない、イカす作品になっていると思いました。



また、前作同様、以前にこのゲームに入り込んでしまってからクリアすることができず
ずーっとさまよっている人物がいる、というのも面白い。
彼はクリアはできていないけれどもこの世界をよく知り尽くしていて、凄い戦力になるのです。
そしてまたどんな人物であれこのゲームを一人でクリアするのは実際不可能なことなのでしょう。
仲間の大切さが、ここでもわかります。
意外とステキな「行きて帰りし物語」、ファンタジーでした。

<シネマフロンティアにて>

「ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル」
2017年/アメリカ/119分
監督:ジェイク・カスダン
出演:ドウェイン・ジョンソン、ケビン・ハート、ジャック・ブラック、カレン・ギラン、リス・ダービー、ニック・ジョナス

子どもたちの成長度★★★★★
満足度★★★★☆


「月の満ち欠け」佐藤正午

2018年04月20日 | 本(恋愛)

月のように死んで、生まれ変わる

月の満ち欠け
佐藤 正午
岩波書店

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新たな代表作の誕生!
20年ぶりの書き下ろし
あたしは、月のように死んで、生まれ変わる
──目の前にいる、この七歳の娘が、いまは亡き我が子だというのか?
三人の男と一人の少女の、三十余年におよぶ人生、その過ぎし日々が交錯し、
幾重にも織り込まれてゆく。
この数奇なる愛の軌跡よ!
さまよえる魂の物語は、戦慄と落涙、衝撃のラストへ。

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先に読んだ、「鳩の撃退法」があまりにも面白くて、
直木賞受賞作である本作も、図書館予約も文庫化も待ちきれなくて、購入してしまいました。
(ただし中古品・・・つくづく最近の私はケチです。)

さて、でも読みはじめてすぐに、「鳩の――」とは文章の雰囲気が異なっていることに気づきました。
もっと、しっとり静かな印象です。
ことの始まりは三角(みすみ)という青年が、
バイトしているレンタルビデオショップの前で人妻の瑠璃と出会うところなのですが、
本作は多少時系列が入れ違っています。
この2人はいつしか愛し合うようになります。
三角は言う。
「瑠璃も玻璃も照らせば光る」という言葉のように、
僕はあなたがどこで生まれ変わっても、すぐにあなただと分かる。
瑠璃はまた、言う。
「月の満ち欠けのように、死んでも何回でも生まれ変わって、あなたと会う」
そんな言葉を交わした少し後に、瑠璃は事故で亡くなってしまうのです・・・。
ということで、本作はこの瑠璃の「満ち欠け」の物語・・・。

うーん、しかし、なんだか私には手放しで感動は出来なかった・・・。
愛し合う2人が引き裂かれたりした時に、
「また互いに生まれ変わっていつの日か必ずまためぐり逢おう・・」
と誓うような物語とか映画は見たことがあり、それはそれで納得がいくのですけれど、
本作、男性側は生き続けてどんどん年をとっていって、
女性側だけ若くして、というよりも幼くして覚醒し、三角と対面を図るも叶わない。
そしてなぜか事故などで命を落とし、次の生まれ変わりにつなげていく・・・。
なんだか無駄に命が失われれていくような気がしてしまう。
・・・第一、小学生の子と中高年の元恋人(?)が巡り合って互いを認めたとして、
どうしようというのか・・・?
この女性側の思いは、見ようによってはストーカーめいてもいて、
なんとも私には受け入れがたいのでした・・・。


三角と瑠璃のはじめての出会いとそれから気持ちが接近していって結ばれるという
一連のシーンはすごく好きでしたが・・・。
これは美しい思い出だけのほうが良かったなあ・・・。
「鳩の撃退法」こそ、直木賞をとるべきでした。
結局、焦って入手しなくても良かったでのす・・・。


「月の満ち欠け」佐藤正午 岩波書店
満足度★★★☆☆


潮騒(1975)

2018年04月19日 | 映画(さ行)

この時にしてすでに稀有な純情

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山口百恵文芸シリーズ第二弾!
伊勢湾の歌島が舞台です。
新治(三浦友和)18歳は、漁船に乗り母と弟の生計を支えていました。
ある時、島の女にしては珍しく水汲みの下手な少女を見かけるんだね。
それが村の有力者の娘・初江(山口百恵)というわけで。
この島は水の事情が悪くて、限られた水場で水をくんで運ぶことが女たちの仕事の一つとなっているわけ。
いやあ・・・あれは大変そうだよねえ・・・。
重いし・・・。
ちょっとしたコツがあるようなんだけど、やっぱりなれないと大変だ・・・。
初江は他所に預けられていたのだけれど、この度呼び戻されて島でムコを取らせるらしいという噂・・・。
はじめて会ったときからなんとなくお互いに気になっていたんだけれど、
ある時、山の監的硝跡で出会って少し言葉をかわしてからは
気があって、時々ここでこっそり会うようになるんだね。
監的硝って何?
戦時中の見張り台・・・みたいな・・?
一応戦後の話ではあるけれど、男女が仲良くしているところを見られたりしたらあっという間に噂になってしまう
・・・ということで、こっそり会うことになったわけね。
それで、ある嵐の夜。
先についた新治は濡れた体を乾かそうと焚き火を焚いて、居眠りしてしまう。
そこへずぶ濡れになった初江がやって来て、新治が寝入っているのをいいことに、
服を脱いで乾かすんだな。
初江が素っ裸になった時に目が覚める新治。
恥ずかしいから見ないでという初江に、
お互い裸なら恥ずかしくない、と言って自分も素っ裸になる新治。
きゃー!。
三浦友和さんのふんどし姿! いい体~!
本作はこれが見られたことが最大の収穫だね。
こほん。
でね、ここで何も起こらないわけがない、と思うじゃない。
ところが、初江は言う。
「私はきっとあなたのお嫁さんになるから、結婚するまではダメ」と。
うわあ・・・。
ここまで来てなんと酷な百恵ちゃん!
絶対この時、彼はすでに反応していると思うんだけど・・・。
いやいや、それでも・・・、彼女の言葉に従う新治なのだよ。
純情だねえ・・・。
けれど、この何もなかったひとときの帰りに、
新治に気のある娘が2人が仲良く歩いているのを見てしまい、
嫉妬して、2人は出来ているという噂をばらまくのだな。
ところがこの時代、というかこの島では、かな? 
結婚前の女性が男と関係を持つということが激しいタブーなわけ。
今では考えられないかもしれないけれど・・・。
そうした男女間の恋愛とか結婚感のことが本作のテーマであるわけだ。
えーと、三島由紀夫のこの原作は1954年(昭和29年)に書かれたもの。
女性の純潔を重んじる風潮というのは都会では多分もう廃れつつあったのではないかな?
だからあえて、舞台をこんなふうに都会から遠い小さな島にしなければならなかった。
二人の恋路をじゃました娘は、東京の大学に行っていたのですが、
後に激しく後悔して
「都会で暮らして私の心は汚れてしまった。
あらぬ噂を立ててしまったことを後悔して夜も寝られない」
などと綴った手紙を親に出したりしている。
いやーここでは私は笑ってしまったけど。
こんなことで死ぬほど後悔するなんてさ。
今のなんでもありの風潮からすると冗談みたい・・・。
はい、美しく汚れない心と体を重んじる、今では忘れられた時代の物語でした・・・。

 

潮騒 [DVD]
堀威夫,笹井英男,須崎勝弥
ホリプロ



<WOWOW視聴にて>
「潮騒(1975)」
1975年/日本/93分
監督:西河克己
原作:三島由紀夫
出演:山口百恵、三浦友和、初井言栄、亀田秀紀、中村竹弥、有島一郎
純情度★★★★☆
満足度★★★☆☆


リメンバー・ミー

2018年04月18日 | 映画(ら行)

ミゲルのひいひいおじいちゃんとは?

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メキシコの「死者の日」。
日本で言えばお盆のようなものでしょうか。
亡くなった家族がつかの間、家に戻ってくるという・・・。
そんな日のことをテーマとしたアニメです。

ギターの才能を持つ少年ミゲルは、ミュージシャンになることを夢見ています。
けれどもミゲルの家では代々音楽禁止。
靴職人になることが半ば運命づけられているのです。
というのも、曾祖母のもう一つ前の世代の出来事。
男はミュージシャンとして名を売るために、妻とまだ幼い娘を置いて家を出たまま戻らなかった。
そのことで、この家では音楽を毛嫌いするようになってしまっているのです。
その時の幼い娘こそが今のミゲルのひいおばあちゃんで、
かなりのご高齢、しわしわ、少しボケてきている・・・。
けれど、この彼女のかすかな記憶こそが後に重要になります。



さて「死者の日」のその日、ミゲルは憧れのミュージシャン、デラクルスの霊廟を訪れ、
そこに飾られているギターを手にしますが・・・
気がつくと、「死者の国」に迷い込んでいます。
周りはすでに死んでガイコツになった人たちばかり。
ミゲルはそこで陽気なガイコツのヘクターに出会いますが・・・。



この死者の国のが、夢のように美しいですね。
ちょっと「DESTINY 鎌倉ものがたり」の黄泉の国のイメージと似ていると思いました。
しかしここでは「二度目の死」というのがあるのです。
「死者の日」には亡くなった人の写真を祭壇に備えて、その人を思い出すという風習があります。
けれども誰からも忘れられ、祭壇に写真も立てられなくなってしまったら
「死者の国」からも消えてしまうのです。
それで、ヘクターが今や誰からも忘れられて消える寸前・・・。



そうした人々の生と死、そして家族の絆を描き出すステキなアニメでした。
家族とのつながりはもちろん大事。
けれども個人の希求する方向性つまりミゲルの音楽に対する思い、
それもまた貴重なのだと、本作はいっています。

家族は見守っている。
だから、おのれの生を精一杯生きなさい・・・、
そんなメッセージ。

泣けます。


シネマフロンティアにて
「リメンバー・ミー」
2017年/アメリカ/105分
監督:リー・アンクリッチ
製作総指揮:ジョン・ラセター
声:藤木直人、松雪泰子、橋本さとし、石橋陽彩
家族の絆度★★★★★
満足度★★★★.5


「スリジエセンター1991」海堂尊

2018年04月17日 | 本(その他)

見果てぬ夢・・・桜宮岬

スリジエセンター1991 (講談社文庫)
海堂 尊
講談社

* * * * * * * * * *

世界的天才外科医・天城雪彦。
手術を受けたいなら全財産の半分を差し出せと言い放ち顰蹙も買うが、
その手技は敵対する医師をも魅了する。
東城大学医学部で部下の世良とともにハートセンターの設立を目指す天城の前に
立ちはだかる様々な壁。
医療の「革命」を巡るメディカル・エンターテインメントの最高峰!

* * * * * * * * * *

「ブラックペアン1988」「ブレイズメス1990」に続く3部作の最終章。
といっても、主な流れをほとんど忘れていましたが・・・。
おさらいしたい方は、こちらをどうぞ・・・

→「ブラックペアン1988」

→「ブレイズメス1990」


東城大学医学部の、佐伯医院長、高階講師、
「スリジエセンター」設立のために呼ばれた天才外科医天城らの陰険なやり取りが、
天城に心酔する新米医師・世良の視点で描かれます。
またこの時、研修医としてあの速水も登場。
やはり海堂ファンなら見逃せない一作。


でも本作、ラストがあまりにも切ないです。
日本の医療の将来を夢見て実現を目指していたスリジエセンターの挫折。
そしてまたその後の天城の運命・・・。
はい、私は世良と共に泣きました。
美しいスリジエ(桜)の花の元で・・・。

さて、スリジエセンターは桜宮岬が予定地だったのですが、
確かもっと将来の話ですが大々的構想で稼働しようとしていたAIセンターが瓦解したのも同じ桜宮岬。
この地は海堂氏の夢見る理想の医療の実現すべき地なのですが
それはやはり実現不可能なこと・・・なので、
どちらもこういう結末にしなければならなかったということなのでしょう。
もしくは、この地はあの碧翠院に呪われているか・・・。

ところで、「ブラックペアン」いよいよテレビドラマが始まりますね、
主演二宮和也さんは渡海医師。
(実は私の中で渡海医師って、あんまり印象がないのですが・・・)
それより、世良医師が竹内涼真さんで、なんとこの本(文庫)の巻末解説が竹内涼真さんなんですよ。
わーい、お買い得。
そんでもって私の大好きな速水医師は山田悠介さん。・・・? 
私はよく存じませんが・・、まあここでは駆け出しの役だから有名どころでないのは仕方ないか。
でも仮面ライダー出身の方ですよね。
イケメンは間違いなさそうだ。
4月22日から。(4月15日からにしてほしかった。始まるまで気を持たせすぎ。)
ま、とりあえず楽しみ~!

「スリジエセンター1991」海堂尊 講談社文庫
満足度★★★★☆


なくもんか

2018年04月15日 | 映画(な行)

自分を偽り続けた心の開放方法

* * * * * * * * * *


幼い頃父に捨てられた祐太(阿部サダヲ)は、
東京下町善人通りの惣菜屋「デリカの山ちゃん」の店主夫婦に育てられました。
今では店主の後を継ぎ、商店街を盛り上げています。
いつもニコニコと笑い、無類の働き者で、
人に頼まれたことは決して嫌と言わないというお人好しぶり。

ある日、もと店主夫婦の一人娘徹子(竹内結子)がふらりと舞い戻ってきて、
祐太と結婚することになります。
子供の頃からなんとなく気にはなっていた2人なのでしたが、
徹子の方は家を出ていた間に色々あったようで、2人の子供連れ・・・。

さて、祐太には生き別れになっていた弟・祐介(瑛太)がいて、
今は人気お笑い芸人「金城ブラザーズ」の一人として活躍中。
祐太は弟が見つかったことを歓びますが、
弟の方もこれまで惨めな人生を耐え忍んできていて、いまさら兄など要らないと反発を見せます・・・。
そんなころ、祐太はうなだれ疲れ果てて日曜の夜に姿を消し、
月曜の朝、見違えるように元気を取り戻して戻ってくるようになりますが・・・。

つまり祐太は、店のお金を持って姿を消してしまった父の息子であるのに、
この店に置いてもらったこと、それなりにかわいがってももらったことに
必要以上の恩義を感じており、
とにかく周りの皆に好かれたい、認められたい、その一心でここまで来たわけなのです。
どんなに辛い時もこの家では決して泣かない、と心に決めて。
けれど、そんなことばかりではどこかに無理が出る・・・。
彼の心の開放方法とは・・・?



さすがクドカン作品。
たしかに面白い。
けれども・・・なんだかいろいろ詰め込みすぎて焦点がボケてしまったような気もします。
祐太の生き方について、これはもう文句ない。
でも弟のこと――お笑いコンビの相方を兄として慕っていること――とか、
徹子の人生――実はもとはものすごいデブだったのが、見違えるようにスマートになってと現れる。
そして子どもたちの父親の正体!――。
また、祐太が泥棒扱いされ、結局あれだけ尽くした商店街の人々にも信頼されていなかったこととか・・・。
一つ一つは面白いけれども、結果、祐太の秘密の衝撃度が薄れてしまったかも。



なくもんか 通常版 [DVD]
阿部サダヲ,瑛太,竹内結子,塚本高史,皆川猿時
バップ



<WOWOW視聴にて>
「なくもんか」
2009年/日本/134分
監督;水田伸生
脚本:宮藤官九郎
出演:阿部サダヲ、瑛太、竹内結子、塚本高史、片桐はいり
面白さ★★★★☆
満足度★★★☆☆


空海 KU-KAI 美しき王妃の謎

2018年04月14日 | 映画(か行)

絢爛豪華な極楽の宴・・・

* * * * * * * * * *


見なくてもいいかと思っていたのですが、たまたまタイミングが合ったので・・・。
もう見る人もいないのでは?と思ったのですが、結構劇場は賑わっていました。

遣唐使として中国に渡った若き日の空海(染谷将太)が、
詩人白楽天(ホアン・シュアン)と共に
首都長安を揺るがす巨大な謎に迫ります。

長安の都で、権力者が次々に命を落とす・・・、
その周辺には常に怪しい黒猫の影が・・・。
このことは今は亡き楊貴妃に関連しており、
約50年前に唐に渡った阿倍仲麻呂が鍵を握っていると睨んで
調べ始める空海と白楽天。

「極楽の宴」のシーンがいかにも絢爛ゴーカで、凄い迫力がありました。
そこでの出来事が後々まで意味を残すのです。
また、長安の都の喧騒や、宮殿の呆れるほどの壮大さ・・・
なんとも見ごたえがあります。
こういう作品を日中合作で作ることができるようになったというのは、
とても喜ばしいと思いました。
まことに楽しめるエンタテイメント作品・・・。

と言いつつ私は半ば居眠りしていました。
私は最近こういう鳴り物入りの豪華絢爛作品には
逆にのめり込めないみたいなんです・・・。
地味~な作品のほうが、うかうか眠れない緊張感があると思う・・・。

本作は多分、夢枕獏さんの原作「沙門空海 唐の国にて鬼と宴す」のほうが
私には楽しめるのではないかと思いました。
とりあえず登場人物たちのイメージもかたまったところで、
近いうちに読んでみたいと思います。



<シネマフロンティアにて>
「空海 KU-KAI 美しき王妃の謎」
2017年/中国・日本/132分
監督:チェン・カイコー
原作:夢枕獏「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」
出演:染谷将太、ホアン・シュアン、阿部寛、チャン・ロンロン、松坂慶子、火野正平
絢爛豪華度★★★★★
満足度★★★☆☆


「みみずくは黄昏に飛びたつ」川上未映子&村上春樹

2018年04月13日 | 本(その他)

ハルキスト必読の書

みみずくは黄昏に飛びたつ―川上未映子訊く/村上春樹語る―
川上未映子,村上春樹
新潮社

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芥川賞作家にして、少女時代からの熱心な愛読者が、村上春樹のすべてを訊き尽くす。
騎士団長とイデアの関係は?
比喩はどうやって思いつく?
新作が何十万人に読まれる気分は?
見返したい批評家はいる?
誰もが知りたくて訊けなかったこと、その意外な素顔を、鮮烈な言葉で引き出す。
11時間、25万字の金字塔的インタビュー。

* * * * * * * * * *

作家川上未映子さんが村上春樹さんにインタビューした内容を収録してあります。
本作は特に「騎士団長殺し」に触れています。


川上未映子さん、よほど村上春樹ファンと見えて読み込み方がタダモノではありません。
「あの話で、あの人があんなことを言ったのですが・・・」
と切り出しても、村上氏は
「え?そうなの? 覚えてないなあ・・・」
なんてことも多くあります。
村上氏は原稿を仕上げる間はもう、何度も何度も読み直して手直しをしていくといいますが、
本が出来上がってしまってからはほとんど読み返すことはないそうなのです。
それで、記憶に残らないというのはなんだか納得できるのですよ。
以前、「忘れたいのに忘れられないことを忘れてしまう方法」
について書いた本を読んだことがあって、
つまりその内容を詳細に書き記せばいい、ということ。
そこまで何度も何度もじっくり心ゆくまで推敲を重ねれば、
その後は何の心の憂いもない。
ということで記憶に残らないというメカニズム。
ほんと、わかります。


そんなわけで、なんだかこのインタビューは川上未映子さんの突っ込みまくりなのがとても面白い。
それもまあ、多くを読み込んでいればこそ。
通り一遍に読んだだけではとてもこんなインタビューは出来ません。


さて、そんな中でも読者が最も知りたいことについて、もちろん聞いていただいています。
私など一番気になる地下2階のこと。
通常の小説などで出てくる「意識下」というのが地下1階で、
村上作品に出てくる井戸の底のようなことは地下2階、というのですね。
また、村上作品は表層上では意味不明なことがたくさん起こりますが、
私達読者はついいろいろと「解釈」しようとする。
その解釈を評論として本まで出してしまう人もいますよね。
でも村上氏はあっけらかんと、特に意味などないとおっしゃいます。
何を思うかは人それぞれで、正解なんかない。
著者自らは何も意図していない、と。
それを何か特別な意味をもたせようとしたら、
それはもう小説として失敗、ということのようです。


つまりは、どこが気になって、どのような解釈を巡らせるか、
それこそが読む者個人の井戸なのでしょう。
ということであれば、少し私も気が軽くなったような・・・。


この本の表題「みみずく」については、
「騎士団長殺し」の中で屋根裏にいたみみずく、なんですね。
それについて、川上未映子さんはおっしゃっています。

「時制や論理を超える物語には、いわゆる神の視点とは異なる、
何にも関与しない超越的な存在が物語内に必要で、
みみずくはまさにそれそのものです。」

当の村上氏は「いたかな、みみずく。みみずくは見た(笑)」
なんて言っている。
深く鋭い川上未映子さんのツッコミをひたすら風に受け流しつつ、
自らの小説スタイルをしっかりと解く・・・という体の本なのでした。
ハルキストと称する方なら必読の書。


図書館蔵書にて
「みみずくは黄昏に飛びたつ」川上未映子&村上春樹 新潮社
満足度★★★★.5