映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ラスト3デイズ~すべて彼女のために

2011年11月30日 | 映画(ら行)
監視の子持ち女性を殺したり、捜査線を強行突破する勇気がないなら止めた方がいい



                 * * * * * * * *

この作品、先日見た「この愛のために撃て」のフレッド・カヴァイエ監督作品。
ちょっと興味が沸いて、さかのぼって見てみました。


フランス、パリ。
国語教師のジュリアンは、出版社に務める妻リザと、一人息子オスカルとともに、
平和で満ち足りた生活をしていました。
ところがある日突然、妻が上司の殺害容疑で逮捕されてしまいます。
たまたまリザがその殺人現場を、それと気づかずに通り過ぎてしまったことから、
証拠や目撃者ができてしまい、反証を上げることができなかった。
裁判に勝つことができず、リザは無実のまま、20年の禁固刑を受けてしまうのです。


さて、大抵の映画なら、ここで夫は立ち上がり、真犯人捜しをしますね。
けれど、この作品は犯人探しの方には向かっていきません。
なんとジュリアンはリザの自殺を恐れ、妻を脱獄させる計画を練るのです。
何度も脱獄を繰り返したという人物に会い、
その方法を学び、頭にたたき込みます。


「脱獄するまでは簡単なのだ。問題はその先。
どこへ逃げるのか。その費用の工面は。
何より、監視の子持ち女性を殺したり、捜査線を強行突破する勇気がないなら止めた方がいい。」


ジュリアンは教師ですから、元々温厚で、多分人を殴ったこともないでしょうね。
しかし、彼は妻を守るために、何が何でもこの計画を成し遂げる意志を固めた!!
彼は綿密な計画を練り上げていきますが、
しかしそれは、きれい事では済みません。
その過程で、現実に彼は犯罪者となってしまいます。
妻への強い愛はまた、それを疎外しようとする他者には、特に非情に作用するのです。
女性が強くなったと言われる昨今ですが、
愛する者を守るため、全力をつくしてやり抜くという、そういう男の姿はやはりかっこよく思えます。
この作品は、「愛」が動機となってはいますが、
実は、個人の力ではどうにもならない「社会のシステム」に反旗を翻している。
そう思えるくらいに、力のある作品でした。

ラスト3デイズ~すべて彼女のために~ [DVD]
ダイアン・クルーガー,ヴァンサン・ランドン,ランスロ・ロッシュ,オリヴィエ・マルシャル
ポニーキャニオン


ラスト3デイズ~すべて彼女のために
2008年/フランス/96分
監督:フレッド・カヴァイエ
脚本:フレッド・カヴァイエ、ギョーム・ルマン
出演:ダイアン・クルーガー、ヴァンサン・ランドン、ランスロ・ロッシュ、オリヴィエ・マルシャル

コンテイジョン

2011年11月29日 | 映画(か行)
ウイルスも、ネットの情報も・・・瞬時に世界を巡る



                 * * * * * * * *

豪華キャストで話題のサスペンス作品。
つい見てしまいますね。
致死率20~30%の新種ウイルスが、
地球規模で感染拡大していく様を描いた作品です。
香港で発生したそれは、瞬く間に世界中へ拡大していく。
2年前の「新型インフルエンザ」の騒ぎを思い出しますが、
あのときよりさらにパワーアップしたウイルスであり、パニックであると理解していいでしょう。







必死で感染の拡大を食い止めようとする人。
ワクチンを研究する人。
発生の原因を突き止めようとする人。
様々な立場で必死にウイルス対策に取り組む人々を交互に描きながら、日を追っていきます。
この人々に、それぞれビッグな俳優が割り当てられているというわけ。
それぞれのファンにとっては、出番がさほど多くはないので物足りないかもしれませんが、
でもこのことには意義があると思うのです。
というのは、私など登場人物が多いとすぐに誰が誰やらわからなくなってしまう。
このように、見知った俳優が出てきてくれると非常にわかりやすいのです。
マリオン・コティヤールは世界保健機構の職員。
ローレンス・フィッシュバーンは疾病対策センターの博士。
ジュード・ロウがフリージャーナリスト・・・というような具合。
一般庶民代表はマット・デイモンで、
なんと、彼の奥さんが香港で第一感染者となる。
それで、妻と幼い息子を亡くしてしまうのですが、
生き残った娘を必死で守ろうと奮闘します。
彼は比較的出番が多いですし、本当にごく普通の人っぽいところがまた、
いい味となっていまして、お楽しみ。



さて、このウイルスの不気味さはもちろんですが、
もう一つ取り上げられている大きなテーマは、インターネットによる情報についてです。
ジュード・ロウ演じるところのジャーナリストは、ネットにいい加減な情報を垂れ流します。
また、したり顔で体制批判記事を流し、パニックに拍車をかける。
なぜでしょう、インターネットに流れると、いい加減な話でも真実味を帯びてしまう。
今やネットの情報が世界を動かすというのは、
北アフリカなどの民主化運動にも見られること。
この警鐘については、肝に銘じておいたほうがいいかもしれません。
ウイルスにしても、情報にしても、世界に広まるのはあっという間。
地球は狭くなりました・・・。


映画は「発生××日目」という表示をテロップで流しながら、進行していきます。
でも一番初めはなぜか二日目なのです。
そうしたら、なんと一番ラストのシーンが1日目となっていました。 
斬新ですね! 
そしてまた、本当に何気ない日常のそのシーンこそが、世界を巻き込むパニックの始まり。
その種明かしというわけです。
劇場でゴホゴホ咳をしている方がいまして・・・、
この日ばかりはさすがにいや~な気がしてしまいました。
風邪気味の方は遠慮した方がいいかもです。


コンテイジョン
2011年/アメリカ/106分
監督:スティーブン・ソダーバーグ
出演:マリオン・コティヤール、マット・デイモン、ローレンス・フィッシュバーン、ジュード・ロウ、グウィネス・パルトロウ、ケイト・ウィンスレット

アントキノイノチ

2011年11月27日 | 映画(あ行)
アントニオイノキ・・・じゃなくて。



                * * * * * * * *

高校時代に心に深い傷を負った杏平(岡田将生)。
心を病んで療養していましたが、
復帰の一歩として、ある遺品整理業の会社に勤め始めました。
遺品整理業とは。
あまり聞き慣れませんが、
たとえば一人暮らしで亡くなった方の家の荷物を処分したり、部屋を清掃する、そんな仕事です。
家族はいても、そういうことをやりたがらない人もいますし、
実際、家一件分なら処分するといっても大変です。
「おくりびと」の映画にもありましたが、
時には孤独死して数週間、ようやく発見された遺体などというのもあり、
直接遺体は目にしないものの、
部屋には体液やにおいが強く残っていたりする、相当きつい仕事です。
あまり喜んでやりたい仕事ではありませんね。
それにしても主の亡くなった家。
そこはまるで抜け殻のように、その人個人の生活が丸ごと残っています。
これを処分品と供養品、または遺族に渡す貴重品などに整理しなくてはならない。
いろいろなものを一つ一つ確かめていくのは、
その人の生きた軌跡をたどるような気がするかもしれませんね。



杏平は、この仕事の同僚、ゆきと親しくなっていきますが、
彼女もまた心に深い傷を持っているのでした。
二人の心の傷はどちらも生と死、命に関わるものです。
二人はこの仕事を通して、生きることの意味をさぐっていきます。
この、過去の傷を引きずる不器用な二人の不器用な恋もまた、すがすがしいのでした。
名シーンは、観覧車の二人。
眼下に見えるちっぽけな家や車。
たくさんの人々。
みんながそれぞれの思いを抱えて、精一杯生きているのかな・・・? 
なんだかちょっぴり切なくて、優しい気持ちになれますね。
本当に泣けるシーンは最後の最後にありますが、私はここでも泣けてしまいました。



杏平が見た、級友たちの恐るべき無関心。
人に向ける悪意。
自分はノーマルで、いじめなんかしないし、人を傷つけたりもしない。
そう思っていたわけですが、実は自分の中にも潜んでいた無関心、凶暴な気持ち。
そういうことに目一杯正面から向かい合ったから、心が壊れてしまったのでしょうね。
あまりにもまじめな人ほどこういうことになるのかも。
また、この杏平にはちょっぴり吃音がありまして、
なかなか思ったことを口にできないのです。
彼の生き方の不器用さをそのまま表していますね。
岡田将生君はこういう役にはステキすぎなところを、カバーもできて、効いています。



それにしてもあの岩山は怖すぎでした。
あんなところを好きこのんで歩こうとするなんて、信じられない・・・。
高所恐怖症気味の私は決して近寄りたくないです・・・。

さてところで「アントキノイノチ」っていったいどういう意味の題名?
と思いますよね。
まあ、答えは作品を見てくださいませ。
ただ、私もこの意味不明?さに、本作、やや見る気をそがされていたのですが、
何かの作品紹介を見て、やっと納得して見る気になりました。
若干、損をしている題名かもしれません。
でも、さだまさしさんの原作がこうなのでね・・・。

「アントキノイノチ」
2011年/日本/131分
監督:瀬々敬久
原作:さだまさし
出演:岡田将生、榮倉奈々、松坂桃李、原田泰造

アメイジング・グレイス

2011年11月26日 | 映画(あ行)
誰が見ても正しいことは強い



            * * * * * * * *

誰もが知る美しい「アメイジング・グレイス」の調べですが、
この作品はその曲の誕生秘話を交えつつ、
政治家ウィリアム・ウィルバーフォースの業績を語っています。
18世紀イギリス。
裕福な家庭の青年ウィリアムは議会の議員を務めています。
当時貴族達は奴隷貿易によりかなりの収入を得ていました。
しかし、ウィリアムはその奴隷船や奴隷売買の非人道的な有様に胸を痛め、
奴隷売買禁止の法を成立させようと決心します。
しかし、そもそも当時の議会はすべて貴族で成り立っているわけですから、
猛反対を受け、ひどい苦戦となるのです。
民衆の支持は得られながらも、議会を通すことができません。
ウィリアムは身も心もボロボロになり、
ついに夢は破れたかのように思えるのですが・・・。


アメイジング・グレイスは、以前奴隷船の船長をしていた人が、
そのあまりの惨状に悔いて作詞をしたものです。
故郷アフリカの大地から拉致され、
狭く不衛生な船室につながれ、
かろうじて生き延びてたどり着いても、そこで待っている重労働。
そこにはアウシュビッツ以上の長くて悲惨な歴史があります。
けれども、こうして生涯をかけて間違いを正そうとした人が居ることに、
救われる思いがします。
「誰が見ても正しいこと」は、強いのです。
そして時間はかかるけれども、人々はきっとそれを受け入れる。
世の中捨てたものじゃありません。
このストーリーでは、倒れたウィリアムを一人の女性が支えることになります。
理解と共感。
人は一人では弱いけれど、支えてくれる人がいれば強くなれる。
そういったところでも胸を打つ、
正統派のヒューマン・ドラマとなっています。


これまで奴隷売買といえば、ついアメリカのことばかり連想していましたが、
そもそもそれを支えていたのが英国やフランスなどの貴族達なんですね。
売られた奴隷達は、キューバなどで砂糖の生産をしたり、
アメリカの大農場で綿花を作ったりしていたわけです。
ウィリアムの活動によって、ロンドンではお茶に砂糖を入れない運動が広がったりします。
こんな時代から、そういう運動があったりするのがイギリスのすごいところです。
また、ちょうどこの時期にフランス革命があったりします。
それでイギリス議会は「民衆」などという言葉にナーバスになり、
ウィリアムの奴隷貿易廃止運動が
王制廃止とまで受け止められかねない状況になってしまうのです。
そんな、歴史背景も興味深くて、ちょっぴり学習もさせてもらいました。

アメイジング・グレイス [DVD]
ヨアン・グリフィズ,ロモーラ・ガライ,ベネディクト・カンバーバッチ,アルバート・フィニー,マイケル・ガンボン
Happinet(SB)(D)


「アメイジング・グレイス」
2006年/イギリス/118分
監督:マイケル・アプテッド
出演:ヨアン・グリフィズ、ロモーラ・ガライ、マイケル・ガンボン、キアラン・ハインズ


「ウィンター・ビート」サラ・パレツキー 

2011年11月25日 | 本(その他)
ヴィクの“体当たり捜査”にドッキリ!!

ウィンター・ビート (ハヤカワ・ミステリ文庫)))
山本 やよい
早川書房


           * * * * * * * *

前作「ミッドナイト・ララバイ」から早くも1年ほどでこの巻が出ました。
女性探偵、V・I・ウォーショースキー(通称ヴィク)のストーリー。
前作では夏だったシカゴは、そのまま秋が来て冬に突入。
そこで、前作でも登場した従妹のペトラやヴィクの隣人ジェイクが登場。
記憶もまだ新しいところで、すんなりと入りやすくなっています。


事件は、ペトラのバイト先であるナイトクラブで起こります。
そこでは前衛的なボディペインティングのショーが行われているのですが、
その店を訪れたヴィクは、なにやら不穏な空気を感じるのです。
不安は的中。
常連客の女性が店の裏で射殺され、
同じく常連のイラクからの帰還兵である若者が容疑者として逮捕されます。
息子の無実を信じる父親からの依頼で、ヴィクは捜査に乗り出しますが・・・。


いつものことながら、きっかけは小さなことでありながら、
実は巨大な敵に対峙することになり、
自らを危険にさらすことになってしまう・・・というのがパターン。
そうではあっても後には引けない。
依頼人を守るため、大企業の巨悪を暴くため、ヴィクは突き進む!!


この炎のように熱くて無鉄砲なヴィクも、
実はまもなく50歳になるという設定です。
第一作の頃は30代だったと思います。
さすがに疲れやすくなったようには思いますが、それにしてもタフです。
特に今作、ラスト付近であっと驚くシーンがあるのです。
うーん、この年でこれができるというのは・・・。
常に体を鍛えているのでありましょう。
少なくともメタボとは無縁ですね。
いやほんと、すごい・・・。


現代アメリカが舞台ですから、イラクとの戦争の話題なども避けられません。
ここに登場するチャドという若者は、
戦地から帰還したものの、PTSDで心を病んでいます。
そしてまた、この戦争を食い物にした企業の陰謀が暴露されます。
ヴィクシリーズの第一作「サマータイム・ブルース」が描かれたのは1982年。
とすればこのシリーズを順に読んでいけば、アメリカの世相の移り変わりもよくわかりますね。
今作で好きなのは、ヴィクを助けてくれるメンバーの勢揃い。
皆犯罪などとは縁の遠い、ドシロウトですが、
なんだか暖かくていい持ち味があり、大好きです。
ちょっとわがままですが、元気いっぱいの従妹のペトラ。
いつもヴィクを心配し、あれこれ世話を焼く隣人のミスタ・コントレーラス。
今回頼りになったのは、チャドの友人ティムとマーティ。
そして、愛すべき二匹のレトリーバー、ミッチとペピー! 
&ヴィクの心のオアシス、ジェイク。
彼とはなるべく長続きしてほしいです・・・。


さて、ところでこのヴィクが、この事件の後かなり落ち込むのです。
それは事件が手放しで喜べるようなハッピーエンドにはならなかったこともあるのですが、
ペトラの言葉。
「ヴィクがすっごくタフでクールなのを見て、
あたしがヴィクの年になったとき、そんな風になりたくないって思ったの。
つまりね、ヴィクは一人で暮らしてて、
とっても強くて、暴力なんかへっちゃらって感じでしょ」

実は平凡な結婚生活を意識して避けているわけではないヴィクにとっては、
そのように言われるのは、ちょっぴりつらいんですよね。
そういうリアルな女としての感情が見えるあたりが、結構好きです。
でも、ヴィクはやっぱり気高い勇気を持った女性。
そううでなくては。
つかの間の休息の後は、また元気になってまい進してほしい。
次作、待ってます。


「ウィンター・ビート」サラ・パレツキー ハヤカワ文庫
満足度★★★★☆

めぐり逢えたら

2011年11月23日 | 映画(ま行)
これもまた、もやは古典だけれど、古典もよし。

           * * * * * * * *

「めぐり逢い」3連発の締めです。
とはいえ、この作品は「めぐり逢い」のリメイクではありません。
作品中にケイリー・グラント版「めぐり逢い」が登場して、
この作品の下敷きになっているのです。


シアトルに住むサム(トム・ハンクス)は妻に先立たれ、
孤独で空しい日々を送っています。
そんな様子を見た8歳の一人息子が、
ラジオ番組で「パパに新しい奥さんがほしい」と訴えかけます。
その放送をたまたま聞いていたのは、シアトルから遠く離れた東海岸、ボルチモアのアニー(メグ・ライアン)。
彼女は婚約者がいながらも、亡き妻のことを切々と語るサムのことが頭から離れない。
本来会うはずのない二人ですが、
ひょんなことから、ニューヨーク、エンパイアステートビルの最上階で会う約束となってしまうのです。
さて、映画のようにすれ違いになってしまうのや否や・・・?


アニーが「めぐり逢い」が大好きで、何度も見ているのです。
この作品に登場する女性たちは皆この映画が大好きで、
見るたびにそのロマンスに胸をふるわせる。
一方男たちは、女向けの映画だね、と案外つれない。
やっぱりそんなものなんですかね。
いくつになっても女性は運命の出会いを信じている・・・。


この作品の原題は、“Sleepless in Seattle”
つまり、「シアトルの眠れない男」。
これはラジオ放送でサムにつけられた呼び名。
だから、この題名というのは納得なのですが、
これを「めぐり逢えたら」という邦題をつけたのは、すばらしいですね。
ちゃんと「めぐり逢い」を意識していて、
ちょっぴり甘く切ないロマ・コメにはぴったりです。
出会いの約束の日も、バレンタインデー。
この作品、以前にも見たことはあるのですが、
エンパイアステートビルへ向かうアニーが交通事故に遭うのではないかと、
どきどきしちゃいました。


往年の名作を下敷きにしているといいつつ、
この作品もすでに20年ほども前のものなんですね。
どおりでトム・ハンクスもメグ・ライアンもめちゃくちゃ若い。
すでにこれもまた古典となりつつある。
確かに、パソコンは登場しますが、レトロでした!!

めぐり逢えたら コレクターズ・エディション [DVD]
トム・ハンクス,ビル・プルマン,メグ・ライアン
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント


「めぐり逢えたら」
1993年/アメリカ/105分
監督:ノーラ・エフロン
出演:トム・ハンクス、メグ・ライアン、ビル・プルマン

めぐり逢い

2011年11月22日 | 映画(ま行)
カラー版でパワーアップ

           * * * * * * * *

先日ご紹介した1939年「邂逅(めぐりあい)」の再映画化です。
同監督によるものなので、リメイクというよりはやはり再映画化というべきでしょう。
俳優が異なっているだけで、場面設定は、ほとんど同じ。
でも、先日見たばかりなのに、この手のストーリーは魔法のように女心をくすぐるといいますか、
飽きずに見てしまいました。


ヨーロッパからニューヨークへ向かう豪華客船で知り合ったニックとテリー。
ニックは社交界でも名の知れたプレイボーイ。
船の中で皆に注目されながら、心が惹かれていくのを止められない二人。
二人には互いに婚約者がいるのですが、そのことは清算し、
ニックは生活のめどをつけて、半年後の7月1日に、エンパイア・ステートビルの最上階で会おうと約束し、船を下ります。
しかし、運命のその当日、テリーは交通事故に遭い、
約束の場所に行けなくなってしまう。
事故で歩くことができず、
そのことをニックに知らせれば負担になってしまうからと、
かたくなにニックとの連絡を避けるテリー。
さて、この二人がどのようにしてまた、心をつなぐことができるのか・・・と。
すれ違いラブストーリーの王道です。
テリーの祖母の前で、愛を確認する二人。
そしてラストシーンのもどかしい二人の会話。
ちりばめられる美しい音楽。
前作のすばらしさが、カラーになってパワーアップ。


実は、前作、ラストで彼がテリーの事情に気づくシーンがちょっとわかりにくかったのです。
どうしてわかったのか。
そこのところが、今作の方がわかりやすくなっていました。


さてしかし、今見るとすれば、どうせレトロな物語ですから、
いっそレトロに徹してモノクロの前作の方がおすすめかもしれません。
好みからいっても、ケイリー・グラントよりもシャルル・ボワイエだなあ・・・。
子供たちの歌声も、旧作の方が天使の歌声風で、ステキでした。

めぐり逢い [DVD]
ケイリー・グラント,デボラ・カー,リチャード・デニング
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


「めぐり逢い」
1957年/アメリカ/106分
監督:レオ・マッケリー
出演:ケイリー・グラント、デボラ・カー、キャサリン・ネスビット、リチャード・デニング

邂逅<めぐりあい>

2011年11月21日 | 映画(ま行)
すれ違いメロドラマは、永遠なり

            * * * * * * * *

1939年、モノクロ作品。
たまにはこういうのもいいですね。
この作品は、世によくあるすれ違いラブストーリーの元祖ともいえるもので、
その後何度もリメイクされています。
と言うことで、
“めぐり逢い”関連作品 3日連続企画!!

まずは、この元祖「めぐり逢い」。
ヨーロッパからアメリカへ向かう豪華客船の中で出会った
ミシェル(シャルル・ボワイエ)とテリー(アイリーン・ダン)。
二人は互いに婚約者、恋人がいながらも恋に落ちます。

豪華客船が立ち寄った島に、ミシェルのお婆さんが住んでおり、
二人で訪ねるシーンがことさら印象的でした。
実はミシェルは社交界でも名うてのプレイボーイなのです。
お婆さんはテリーに言います。
「あの子はこれまでいい思いをしすぎている。
きっと今にそのお返しが来るかも知れない。」
これは二人の愛が決して思い通りに行かないことの暗示となっています。
二人は半年後にマンハッタンのエンパイアステートビルで出会うことを約束し、別れました。
ところがその約束の当日、テリーは事故に遭い、行くことができません。
そしてまたしばらくの後、偶然に二人が出会うのは劇場なのですが、
その時はお互いが恋人と二人連れ。
この何とも皮肉な出会いと、二人の切ない心境・・・。
見ている私たちも心が張り裂けそうになってしまいます。
互いに愛し合いながらも、出会うことができない。
出会えたと思えば、巧く気持ちを伝えられない。
その切なさ、もどかしさ・・・。
時代は移り変わってもそういう気持ちは変わらないですね。
メロドラマは永遠なり。


テリーはシンガーなので、この作品では音楽が大きな要素を占めています。
お婆さんのピアノに合わせた歌。
孤児院の子ども達との歌。
どれも美しくて、ムードを盛り上げます。
確かに古い作品なのですが、こういうのはさほど違和感がありません。
ラブストーリーには作品のテンポはあまり関係ないからでしょうか。
今なら飛行機の旅で、たとえ席が隣同士でも、ここまで親しくなる時間がありませんね。
この船旅は全9日間。
これだけ毎日顔を合わせれば、恋の一つや二つも生まれるでしょう。
ケータイもナシ、パソコンメールもなしのこういう時代のストーリーですが、
なにやらそのゆったり感が、今となっては心地よく感じてしまうのです。
たんなる年寄りのノスタルジーかも知れません。


原題はLOVE AFFAIR。 
これをよくぞ「邂逅<めぐりあい>」としましたよね。
往年の名画といわれる作品の邦題は実に情緒があります。


さて私はシャルル・ボワイエをみて、ちょっぴりジュード・ロウに似ている気がしました。
いい感じですよね。
ジャレッド・レトの次はこちらに凝ってみようかしら。

邂逅(めぐりあい) [DVD] FRT-164
アストリッド・オールウィン/リー・ボウマン/シャルル・ボワイエ/マリア・オースペンスカヤ/アイリーン・ダン
ファーストトレーディング



「邂逅<めぐりあい>」
1939年/アメリカ/87分
監督:レオ・マッケリー
出演:アイリーン・ダン、シャルル・ボワイエ、マリア・オースペンスカヤ

あしたのパスタはアルデンテ

2011年11月19日 | 映画(あ行)
人の期待通りの人生なんて・・・



              * * * * * * * *


イタリアのとびきり楽しく、また見応えのある作品。
南イタリアの老舗パスタ会社社長の一家を描きます。
この家の次男トンマーゾは、ローマの大学に入り
家族には「経営学部」と偽り、「文学部」を卒業。
小説家志望です。
会社を継ぐ意志は全くないので、兄の新社長就任のディナーで
「自分はゲイだ」とカミングアウトして勘当されようともくろんでいる。
大変に保守的な土地柄であり、家族なので、
ゲイが受け入れられるとは思えない。
しかし、そのディナーでなんと兄アントニオが先に「自分はゲイだ」といってしまう。
会社を継ぐことになった兄ですが、実は自分を偽り続けるのがいやになっていたのです。
アントニオは怒り狂った父に追い出され、
告白をし損ねたトンマーゾが会社の経営を背負うことに・・・。
父親は興奮のあまり倒れてしまったので。
・・・というあたりを予告編で見て、
これはトンマーゾがパスタ作りに生き甲斐を見いだす物語なのか?と思っていたのですね。
映画の題名もそんな雰囲気ですし、
ちょっぴりグルメ映画っぽいシーンなどもあるのではないかと。



けれど、いい意味で予想は裏切られました。
ここのパスタ会社をここまで大きくしたのは、一重にここのお祖母さんの功績です。
映画の冒頭、ウエディングドレスをまとった美しい女性が
廃墟のような教会で自殺しようとするシーンがあります。
それこそがここのお祖母さまの若い頃のことだと次第にわかってくるのですが、
彼女にとっては実は望まない結婚だったのですね。
そんなお祖母さまが、自分の子供や孫たちに向ける思い。
それは、ゲイでも何でもいい。
家族や周りの人期待や思惑なんて気にしなくていい。
自分のやりたいことに挑戦して、自分の道を行きなさい。
そういうメッセージなのです。
彼女は孫が自分の道を行く決心をしたことを見定めてから、
最後に自分自身のしたいことに挑みます。
だからこれはグルメストーリーではなくて、生きる勇気をくれるドラマ。


ここの家の人たちはお手伝いさんに至るまで、皆個性豊かで楽しめます。
けれど誰もが実は満たされない思いをそれぞれが抱えている。
ゲイの男性を好きになってしまう女性・・・というのも結構切ないですね。
ゲイだろうとなんだろうと、人間的に魅力のある人は、やっぱり好きになりますよね。
「報われない恋は終わらないのよ」というお祖母さまの言葉がまた、重みがあって温かい。
そしてまた、なんだかこの作品を見ていたら、
男性同士のLOVEにもさほど違和感がないような・・・。
トンマーゾの“彼”も、いい感じだったのです。



私は、兄アントニオが弟の告白を聞いたときの表情がすごく好きでした。
え?面白いことを聞いたと、揶揄するようでもあり、
いたずらっぽくもあり、そしてなんだか優しくもある。
うん。ステキです。


今作の原題は「Mine Vaganti」
これは映画の中でお祖母さまのあだ名となっている「歩く地雷」のことですね(多分)。
だからやはり、この作品の芯となるのはこのお祖母さまなのですが、
「あしたのパスタは~」という邦題にしてしまったことで、
著しく作品のイメージも変わってしまったというわけです。
アルデンテのように、歯ごたえのある作品・・・と言う方はいますけれど。
それにしても、もう少し納得のいく邦題にできなかったのか、
やや残念なところではあります。

「あしたのパスタはアルデンテ」
2010年/イタリア/113分
監督:フェルザン・オズペテク
出演:リッカルド・スカマルチョ、ニコール・グリマウド、アレッサンドロ・プレツィオージ、エンニオ・ファンタスティキーニ、イラリア・オッキーニ

フローズン・リバー

2011年11月18日 | 映画(は行)
貪欲に生きても、心の底に保っている光



             * * * * * * * *

ニューヨーク州最北部の街に住むレイは、
新居購入資金を夫に持ち逃げされてしまいました。
息子二人を抱え、さしあたっての生活資金もなく、途方に暮れるレイ。
そんな彼女がモホーク族(先住民)の女性ライラと組み、
不法入国の斡旋という違法なビジネスを始めます。
ライラにもまた、引き離された子供を引き取りたいというやむない事情があったのです。
カナダとの国境の大きな川。
その凍った川を車で渡り、カナダ側からアメリカへ、不法入国者を渡すのです。
その凍った道は、氷の厚さが完全ではないところもあり、
彼女たちのビジネスと同じくいかにも危ういものなのです。


この二人は、特別に強い友情で結ばれていたりはしません。
ただ、お互いの似たような切羽詰まった状況で、協力し合わざるを得ないのです。
ごく普通の主婦が、マイホームの夢を取り戻すために、深みへとはまっていく。
この雪と氷に閉ざされた地では、暖かな自分の家というのが、「幸福」の象徴のようなものなんですね。
レイは夫がいなくなったことよりも、
明らかに家を手に入れられなくなったことの方に衝撃を受けているのです。
とにかく家の資金を貯める間だけ・・・
そう決心した彼女は違法な仕事に手を染めていく。
こういうあたりはすごくリアルな感情のような気がします。


しかし、もちろんそう巧くことは運ばないわけで・・・。
この作品のいいのは、ラストにレイが下した一つの決断。
それは違法なことに手を染めながらも、まだまだ心は普通の感覚を保っていたことの証し。
ただ、その決心には勇気がいります。
そこが並みの人にはできないことなのではないかな。
女性の強さ、たくましさが出ていました。
このストーリー、仮に男性二人の話だったらもっと悲惨な結末に向かっていたように思います。
彼女らを絶望の淵から救ったのは、
子を守り育てなければならないという“母性”なのかもしれません。

フローズン・リバー [DVD]
メリッサ・レオ,ミスティ・アップハム,チャーリー・マクダーモット,マイケル・オキーフ,マーク・ブーン・ジュニア
角川映画


「フローズン・リバー」
2008年/アメリカ/97分
監督・脚本:コートニ・ハント
出演:メリッサ・レオ、ミスティ・アップハム、チャーリー・マクダーモット、マイケル・オキーフ


「夜の光」坂木司

2011年11月17日 | 本(ミステリ)
星の下に集う、心優しき戦士たち

夜の光 (新潮文庫)
坂木 司
新潮社


                  * * * * * * * *

とある地方都市の高校の天文部。
部員は3年の4名。
彼・彼女たちは、自らのミッションを胸の奥底に秘め、
なにげなく高校生活を送るというスパイ生活を送っているのです。

というと、何やら怪しげでしょうか。
たとえば、中島翠=(コードネーム)ジョー。
彼女は学問と向かい合うことが素直に好きなのですが、
家族は"女には学問などいらない、さっさとお嫁に行けばそれでいい"と考える人たち。
そのため、塾へも行かせてもらえず、
学校の授業だけですべてをマスターし、
意地でも東京の大学に受かってやろうと心に決めているのです。
こんな風に、それぞれが外向きは自分を偽りながらも、
密かに自らの目指す方向へ着々と準備を進めている。
そんな自分たちを、彼らはスパイと称しているわけです。


彼らが自分をさらけ出すのは、この天文部の仲間うちのみ。
特別に仲がいいというわけでもないのです。
でも、ほぼ月一回の星の観測会で、
互いに寄り添いつつ、ただ星を眺めながらぼんやり過ごす。
それが戦士の休息であり、彼らの絆となっているのです。


ストーリーは、彼ら4人が順番に語り手となり、
季節が廻って行って、卒業となります。
そして最後の一話は、また語り手が一番手のジョーに戻りますが、これは卒業の約一年後。
つまり、彼らそれぞれのミッションはどうなったのか、
それをうかがい知ることができるというしゃれた構成です。


彼らそれぞれ個性あふれる存在で、ついそちらのほうに気を取られてしまうのですが、
これは坂木司作品ですので、
もちろん、それぞれのストーリーの中に日常の謎がちりばめられています。
彼らがその謎を解き明かしていくのも、もたつきがなく小気味よい。


特に、彼らの会話がいいですね。
ゲージこと青山君は、
「大声で明るく喋り倒しているのに、人気者。
冗談ばかり言っているのに、頭が悪そうにも見えない。
そして、子供みたいに楽しげなのにきっちり大人」
というのを理想としているのです。
テレビのキャラクター(大泥棒)がモデルというのは
・・・そうか、ルパン三世!! 
それで、彼は女の子に話しかけた後に、
「ベイベー」とか「ハニー」などとキザな呼びかけを挟み込むのですが、
前述のジョーが、いちいちそれに反応して
「私はあなたの子供ではないし、恋人でもない」
と、返したりします。


現実は家族のしがらみの中で、押しつぶされそうになっている彼らなのですが、
若いっていいなあ…と、おばさんはつい思ってしまいます。
しなやかにスパイのふりをして、やり過ごし、
そして自分の道を歩もうとする。
ステキな青春小説+日常の謎本格ミステリでした。


「夜の光」坂木司 新潮文庫
満足★★★★☆

マネーボール

2011年11月15日 | 映画(ま行)
ぶれないこと、やり抜くことの勝利



                    * * * * * * * *

メジャーリーグ「オークランド・アスレチックス」のGM(ゼネラルマネージャー)である
ビリー・ビーンのストーリーです。
彼は弱小球団であったアスレチックスをマネーボール理論により改革、
常勝球団に育て上げました。
その理論というのは・・・。
イエール大学出の秀才、しかし野球の体験はないというピーターの考え。
彼はこれまでの選手や試合のあらゆるデータを分析し、
貧乏球団でも「勝つ」ためのチーム編成を割り出します。
ビーンは新たな基準で、他チームで落ちぶれていたり無名だったりする選手を集めました。
初めのうちはその考え自体、チーム内でも理解されず、
惨憺たる有様だったのですが・・・。



やると決めたら徹底してやる! 
決してぶれない。
周囲の反対を押し切ってもやり抜く。
結局そういう強い精神力の勝利なのではないかと思います。
彼自身、以前は期待されて野球チームに入団した一人。
けれども思うような結果は残せなかったのです。
今度こそは後悔したくない。
中途半端はなし。
・・・そういう風に自分を追い込んでいる。
ブラピがこういうのを演じると、すごくストーリーが生きます。


貧乏球団の悲哀・・・は、日ハムファンとしては非常によくわかります。
チームの中心として活躍していた選手が、あっけなく出て行ってしまう。
某G軍とか、それこそメジャーリーグとか・・・。
それにしても、パソコンではじき出したデータで、
ほとんど“もの”と同じ扱いで、他チームに出されたり、お払い箱にされたり。
・・・そういう非情さには、ちと胸が痛みました。
しかし、それがプロの世界ですもんね。
出された人がそこでめげるか、悔しさをバネにまた奮起するか、
そこからのドラマは自分で作るしかありません。
しかし、逆に見ればこれは落ちこぼれ選手に脚光を当てるという救済策でもあるわけで、
そんなところで、選手の力を引き出す効果もあったのでしょう。



ビーンの仕事が、ゼネラルマネージャー。
なるほど、あの“もしドラ”を思い出しました。
女子高生が野球部のマネージャーになり、勘違いして「マネジメント」の本を買ってしまった。
けれどその理論は立派に野球部のマネジメントとして活用できたという。
つまり、マネージャーというのは何も部員の世話やユニホームの洗濯をするのではなくて、
本来このビーンのように全体的なミッションを進行させる役割なのですね。
そうでなくてはマネージャーと呼んではいけない。
これもひとつの「マネジメント」実践のストーリーではあります。

ビーンの娘役の少女の歌がすごくステキでした。




「マネーボール」
2011年/アメリカ/133分
監督:ベネット・ミラー
原作:マイケル・ルイス
出演:ブラッド・ピット、ジャナ・ヒル、ロビン・ライト、フィリップ・シーモア・ホフマン、クリス・プラット

ガリバー旅行記

2011年11月14日 | 映画(か行)
体は偉大でも、人格はそのまま・・・?



            * * * * * * * 

お馴染み、スウィフトの「ガリバー旅行記」を下敷きにした冒険コメディ。
新聞社のメール係として働くレミュエル・ガリバー。
カートを押して、会社中に手紙を配って歩くその姿は、
マイケル・J・フォックスの「摩天楼は薔薇色に」を思い出してしまいましたが。
彼は10年もその仕事をして一向に昇進する気配もない。
編集者のダーシーに密かに思いを寄せているのだけれど、
嫌われるのが怖くて告白もできない。
そんなしょうもないヤツなのです。
ところがそのダーシーの頼みで、バミューダ諸島の旅の取材に出ることに。
その海で、謎の巨大竜巻に巻き込まれてしまい、
気がついてみると身長8センチくらいの小人達が住む国に・・・。



リリパットの国が、魔の三角海域といわれる
バミューダ海域にあるというのが何だかユニークですね。
リリパットの国で、彼は敵の軍勢を蹴散らし、英雄扱いとなります。
基本的にリリパット国は“中世”の世界なのですが、
ガリバーは現代のカルチャーを持ち込みます。
「スター・ウォーズ」と「タイタニック」ごちゃ混ぜの演劇を作ってみたり、
ニューヨークのような大きな看板仕立ての町並みにして見たり。
巨大なiPhoneやコカコーラと小人の兵士などのミスマッチ。
映像としてはとても楽しめます。
こんな風で、やりたい放題のガリバーですが、
実は小心者のくせに自分を大きく見せたがるウソツキ。
やがて、その真の姿が皆にバレてしまうことに・・・。



一時代、いえ、二時代くらい前なら、
この小人と巨人の映像にミラクルを感じたのでしょうけれど、
今となってはさしたる驚きはないですね。
ただ、ガリバーを敵視する小人の1人が、
モビルスーツみたいなマシンに乗り込んでガリバーと対決、
などというシーンには、さすがに驚きあきれてしまいました。
やるもんですね。
こうなると何故今「ガリバー旅行記」なのかということにも納得がいきます。

まあ、単純に楽しみましょう。そういう作品です。

ガリバー旅行記 [DVD]
ジャック・ブラック,ジェイソン・シーゲル,エミリー・ブラント,アマンダ・ピート
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


「ガリバー旅行記」
2010年/アメリカ/85分
監督:ロブ・レターマン
原作:ジョナサン・スウィフト
出演:ジャック・ブラック、ジェイソン・シーゲル、エミリー・ブラント、アマンダ・ピート

木洩れ日の家で

2011年11月13日 | 映画(か行)
かくありたい・・・お一人様の老後



           * * * * * * * * * *

ポーランド作品にして、モノクロという異色作品。
あまりにも地味そうなので見逃すところでしたが、
この予告編で登場するワンちゃんを見まして、是非見てみたくなりました。


ポーランド、ワルシャワ郊外の古い屋敷に
91歳の老婦人アニェラが愛犬フィラとともに暮らしています。
彼女が若い頃から暮らし、思い出がたくさん詰まっている家。
緑に囲まれた美しい家ですが、なにぶんにももう古くてずいぶん傷んでいます。
彼女の日課といえば、
満ち足りていた過ぎし日々を思い出したり、
両隣の様子を双眼鏡でのぞいてみたり・・・。
片方は成金で、もう片方は子供たちの音楽教室を開いている若いカップル。
ある日アニェラは、息子が家を勝手に隣家に売る相談をしているのを見てしまいます。
そして彼女は一つの決断をする・・・。



確かに古い家なのですが、窓いっぱいに日が差し込む何とも気持ちの良さそうな家です。
これだと日が入りすぎ?とも思えますが、
家の周りの樹木で適度に日差しが遮られ、
何とも美しい光線の具合になるのですね。
これがカラーの映像よりもよほどに静謐なイメージを呼び起こし、
すばらしい効果を上げています。



主演のダヌタ・シャフラルスカも実際91歳。
というより、彼女のためにこの作品が作られたそうなので、
この方以外に主役は考えられません。
目がきらきら輝いていて、
本当に若い頃はおきれいだったのだろうなあと容易に想像がつきます。
そしてなんといってもこの作品で重要なのは、彼女のパートナーである一匹の犬です。
正式には「フィラデルフィア」なのですが、彼女はたいていフィラと呼んでいます。
ボーダーコリーですね。
いつも彼女に寄り添うナイトです。
これがただ賢くておとなしくて、という優等生タイプではありません。
いかにも普通にご主人が大好きな犬。
なんだか、この前まで我が家にいた犬を思い出してしまいました。
そうそう、犬ってこういうときこういう反応をするよね・・・って、
ついうなずいてしまうような。
ちょっぴりやんちゃなのです。
でも、いつもいつもアニェラを見ています。
そして彼女の独り言はいつもフィラに向いている。
この一人と一匹を眺めているといつまでも飽きません。
しかしまた、ラストシーンで驚かされてしまいます。
私はこの犬に助演犬優賞?をあげたい。
どうして、犬がこんな表情をするのか。
下手な俳優顔負け。
いやあ・・・まいりました。
考えてみたら、ボーダーコリーというこの犬種もモノクロ効果を考えたのでしょうね。
レトリーバーでは輪郭がぼけてしまいそうだし、第一おとなしすぎてつまらない。
小型犬は論外だし。



つい、犬の話ばかりになっちゃうくらい、この犬が大好きになっちゃったのですが、
肝心の、アニェラのラストの決断が見事ですよ。
「お一人様の老後」。
こんな風に最後まで自立したいものです。
見逃さなくてよかった・・・。
でもすみません、
札幌での上映はもう終わってしまいました。

「木洩れ日の家で」
2007年/ポーランド/104分
監督:脚本:ドロタ・ケンジェジャフスカ
出演:ダヌタ・シャフラルスカ、クシシュトフ・グロビシュ、バトルイツィヤ・シェフチク、カミル・ビタウ

「九月が永遠に続けば」 沼田まほかる 

2011年11月11日 | 本(ホラー)
出口のない闇・・・けれど夜明けはくる

九月が永遠に続けば (新潮文庫)
沼田 まほかる
新潮社


              * * * * * * * * * *

第5回ホラーサスペンス大賞受賞作であるこの本は、
著者のデビュー作で平成17年に刊行されたもの。
そして文庫化されたのが平成20年。
にもかかわらず、未だに賑々しく書店の店頭に並べられているというのは、すごいです。
ただ、私はそういう賑々しさには逆に反応してしまうあまのじゃくなタイプなので、
今まで読んでなかったのです。
でも、食わず嫌いはダメでしょう、と思い直してこの度ようやく読んでみた次第。


主婦佐知子は、夫の雄一郎とは8年前に離婚。
高校生の一人息子文彦と暮らしています。
別れた夫は精神科医で、元患者の亜沙実と再婚。
冬子という高校生の連れ子がいます。
佐知子は、自動車学校の教官犀田と愛人関係にありますが、
実はその犀田は冬子の恋人でもある。
ある夜、文彦がゴミを出すために家を出たまま、突然の失踪。
さらに、その翌朝、犀田が駅のホームで何物かに突き落とされ死亡。
佐知子は焦燥に駆られながら、
文彦の失踪の原因や行き先を必死に探ろうとします。
そんなおり、犀田の事件には冬子がからんでいる様相も見え始め・・・。
物語が進めば進むほどに、錯綜した人物関係が重くのしかかってきます。
根源は亜沙実の忌まわしい過去にあるのですが、
考えてみるとそれ以外には「ホラーサスペンス」というほどの陰惨な描写はないのですね。
そして誰もがきちんとした優しさを持っている。
しかし、だからこそなのでしょうか、
誰もが苦しみ、出口のない闇に沈んでいるように見受けられます。
このどうにもならない重苦しさは、どうみても悲惨なラストを予感させます。
実際一つの大きな悲劇はあるのですが・・・。
でも、夜明けは来ます。
それはひとえに文彦の若さが持たらすものなのかも知れません。
踏まれてもまた立ち上がるしなやかさ、強さ。それが救いです。


ということで、ベストセラーも一応納得・・・という作品でした。
ここに登場する、ご近所のオジサン、文彦のガールフレンドであるナズナの父が、なかなかいい味なのです。
始めは厚かましくてやたらに浪花調で、どうもいけ好かないイメージだったのですが、
何というか、次第にその裏のない癒やし系の人柄が見えてきまして、何だかホッとするのです。
冬の夜にであったお汁粉みたいな・・・。
うーん、でも、“とても好き”と思うにには、今一歩。
作品自体も、おもしろくはありましたが、
個人的には、絶対的自信を持って皆様におすすめ!というほどではないかなあ・・・と。

しかしまた、特筆すべきなのは、これを書いた当時の著者の年齢が56歳とのこと。
56歳にして、デビュー作での大賞受賞。
これは、すごい話ですね。
なにごとも、チャレンジに年齢制限なんかない!!

「9月が永遠に続けば」沼田まほかる 新潮文庫
満足度★★★★☆