映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

秘密 THE TOP SECRET

2017年09月29日 | 映画(は行)
死者の記憶映像



* * * * * * * * * *

死者の記憶を映像化し、犯罪捜査を行う科学警察研究所、法医第9研究室、通称第9。
そこで捜査にあたる人々の物語。



転勤したての捜査官・青木(岡田将生)が赴任したその日、
家族惨殺事件で死刑となった男の記憶の映像化が行われます。
そこには、男の娘・絹子(織田梨沙)が家族に刃物を振り上げる姿が・・・。
つまり本当の犯人は娘の方で、男は冤罪で死刑になったことになります。
あまりのことに警察上層部はこのことを公表しないと決断。
しかしこのままでは真犯人である絹子が野放しになってしまいます。
青木は室長・薪(生田斗真)とともに、
密かに絹子の行方を追うことにしますが・・・。


生きている人物の記憶を映像化できればいいのですが、
開頭し脳に電極を差し込まなければならなかったりして、
やはり死者でなければ無理のようなのです。
死後に冤罪とわかるなんていうのは、最悪ですね・・・。



ある連続殺人犯の脳内映像を見た警察官が何人も、
その後自殺したり、精神を病んで去っていったというのもわかる気がします。
そのサイコパスの狂気が自分に同化してしまうような感じになるのかも。



ところで作中では、この映像自体は「真実」ではないということになっています。
その人が心で見た記憶が映像化されるということで、
例えば自分をの首を占めた殺人犯の顔、
その映像の顔は鬼のようになっていたりするのです。
だから、この映像が必ずしも「真実」ではない、
と、ここのところがミソですね。



そして、臨死体験として見たものが映像化されれば・・・
もしかすると死の間際は、恨みつらみや悲しいことばかりを見るわけではない
ということも思わせて、少し救われる思いもするのです。



この装置は、主に殺人の被害者に用いられるので、
その間際の悲惨な映像ばかりを見ることになり、耐えられなくなってしまう。
けれども、人が生きていく間には、もっと美しいものや楽しいことをたくさん見ているはず。
第9の捜査員たちには時々そうしたリハビリが必要なのかも・・・
なんて、どうでもいいことを思ったりしました。


本作中の絹子の、時に艶かしく、時に無邪気というブキミな人物像が興味深い。
<WOWOW視聴にて>

秘密 THE TOP SECRET [DVD]
生田斗真,岡田将生,吉川晃司,松坂桃李,織田梨沙
松竹


「秘密 THE TOP SECRET」
2016年日本149分
監督:大友啓史
原作:清水玲子
出演:生田斗真、岡田将生、吉川晃司、松坂桃李、栗山千明、織田梨沙
不気味度★★★★☆
満足度★★★.5

「颶風の王」川﨑秋子

2017年09月28日 | 本(その他)
北の地、人と馬の末裔

颶風の王
河崎 秋子
KADOKAWA/角川書店


* * * * * * * * * *

馬も人も、生き続けている――。
東北と北海道を舞台に、
馬とかかわる数奇な運命を持つ家族の、
明治から平成まで6世代の歩みを描いた感動巨編。
酪農家でもある新人がおくる北の大地の物語。
三浦綾子文学賞受賞作。


* * * * * * * * * *


舞台は北海道。
馬と関わる数奇な運命をたどる家族の、
明治から平成まで6世代の歩みを描きます。
全体は3つの章に分かれていて、始めは明治時代。
東北から北海道へ渡ろうとする若き捨造の視点で語られます。
捨造の母は捨造を妊娠中、山中で雪崩に遭い
一頭の馬とともに雪洞に閉じ込められてしまうのです。
彼女は生き延びるために馬の肉を喰らい、一月ほど後に虫の息で救出されますが、
あまりの過酷な体験により心が壊れてしまっていました。
その後まもなく生まれた捨造は養子に出されて成長します。
18歳になった捨造は北海道開拓の夢をいだき、
一頭の馬とともに北海道へ渡る。


次は昭和、北海道の根室地方。
捨造はその後この地に根付き、馬を育てることをなりわいとしています。
この章は孫娘の和子の視点で描かれます。
父(捨造の長男)は戦死しており、そのため和子が祖父に教わりながら馬の世話をしているのです。
ところがある時、この農場をたたまなければならないできごとが起こります。
そこで一家は十勝へ移り住むことになりますが、
ほぼ一生を馬とともに過ごしてきた祖父はすっかり生気をなくしてしまう・・・。


そして平成、和子の孫娘にあたるひかりの視点で語られます。
祖母が少し認知気味で、しきりに馬のことを気にするようになるのです。
以前祖母が語っていた自分の家と馬との強い関わりを思い出したひかりは、
祖母のルーツである根室へ行ってみることに。


本作で語られるのは根室のほんの少し沖合にある「花島」という離れ小島。
昔ここに飼馬が十数頭置き去りにされたまま、救出できなくなってしまった。
そこで馬たちは厳しい自然に耐えながら自力で生きていくことを余儀なくされるのです。
しかし、そこで繁殖もし、なんとか命をつないで来たけれど、
今はたった一頭生き延びているのみ。
ひかりはこの馬を見る機会を得るわけです。
かつて自分の家とも大きく関わりのあった馬の末裔。
その馬との対峙シーンがステキです。

「鬣と尻尾とを激しく風に靡かせ、しかし体は微動だにしていない。
全身を覆う毛がつやつやとひかりながら揺れて、
まるで風に磨き上げられて馬体が美しく完成したように見えた。
四肢を堂々と地に突き刺し、暴風にさえ揺らぐことなく、
彼女は凛と立ち誇っていた。
人の手を離れて久しい血筋。
自力で生き継いだ獣が、どこまでも逞しく。」



感動ですねえ・・・。
美しく、力強い。
これぞ生きる力。
そして、馬が引き継いできた命も美しいけれど、
あの瀕死の女性から引き継いだ命が、今このように受け継がれ、
しっかりと生きているというのもまた十分に数奇なことではあるまいか・・・。
感慨が深まるのであります。


ちなみに「颶風(ぐふう)」は強烈に強い風のこと。
あの島を吹く風ですね。
この「花島」のモデルは根室南沖合の「ユルリ島」がモデルと思われます。
たまたまつい先日、新聞で紹介されていたのですが、
置き去りにされた馬の末裔は、メスが引き上げられて
オスが3頭だけ残っているとのことでした。

※川本三郎「物語の中に時代が見える」掲載本
図書館蔵書にて
「颶風の王」川﨑秋子 角川書店
満足度★★★★★

エイリアン:コヴェナント

2017年09月27日 | 映画(あ行)
人の心を持たないアンドロイドが、未知の生物と出会ったがゆえに・・・



* * * * * * * * * *

さて、先に「プロメテウス」で予習もしたところで、
いよいよ「エイリアン:コヴェナント」。


2104年。
惑星オリガエ6へ向かう入植船コヴェナント号。
2000人のコールドスリープ中の男女を乗せて運行中に
大きな事故が起きてしまいます。
乗組員たちがコールドスリープから目覚め、船の修復作業を開始。
そんな時、近くの惑星から人類のものらしき信号を受信。
乗組員は小型船を出してその星に降り立ちます。
しかしそのうちの2名が何かに感染したらしく突然もがき苦しみはじめ、
背中がぱっくりと裂けて、異様な生物が飛び出す・・・。
そんな混乱の中に登場するのが、
なんと、コヴェナント号を管理するアンドロイド・ウォルター(マイケル・ファスベンダー)とそっくりな
アンドロイド・デヴィッド(同)だった・・・。



人跡未踏のはずの未知の惑星から聞こえてくるのが
「カントリー・ロード」の曲。
なんていうのは、恐ろしいくらいにミステリアスですね。
でもこの曲、およそ100年先でも「クラシック」として皆に馴染みがあるらしい・・・?
まあつまり、やはり予想の通り、
この星は、あの「プロメテウス」の舞台となった惑星なんですね。
それから10年が過ぎたことになっていて、
デヴィッドの髪が伸びていたりするのですが、なぜ? 
髪が伸びるほどに、人体そっくりにつくってあるというのも凄いですね。



10年たってもアンドロイドは基本皆同じ顔・・・というか
宇宙船にはこのタイプ、みたいな習慣になっているのかも。
しかしデヴィッドがあまりにも人間そっくりで人が気味悪く思うので、
その後の新たなアンドロイドは、少し精度を落としているのだとか。
そして、何故かその後デヴィッドは髪を切り、
ウォルターとそっくりな姿になって現れるようになります。
このあたりが、伏線ですね。



そもそもデヴィッドは「プロメテウス」の時から、何やら危うい雰囲気を漂わせていました。
彼は自身が創造主となろうとしているかのような・・・
かなり「人」に近い、夢のような野望のようなものに取り憑かれてしまったらしい。
それはもしかすると彼をつくったウェイランド社の
社長の気持ちが乗り移ったのかもしれないけれど・・・。



人の心とか魂の抜け落ちたアンドロイドが
「科学」のみを信奉して行動する結果がこの世界。
それはもしかしたら何でもかんでも、
科学や理論で割り切ろうとする現代の社会を暗喩しているのかもしれません。



「プロメテウス」でようやく命をとりとめたエリザベス(ノオミ・ラパス)は、
その後あっけなくまた犠牲になってしまったらしい・・・。
ひゃー、しんどい。
でも本作のヒロイン、ダニエルズ(キャサリン・ウォーターストン)、
なんだか妙にオバサンぽい感じで魅力に乏しいと感じてしまうのは私だけでしょうか・・・? 
いくら人妻だからといって、もう少しゴージャスな感じでも良かったのでは。


<ディノス・シネマズにて>
「エイリアン:コヴェナント」
2017年/アメリカ/122分
監督:リドリー・スコット
出演:マイケル・ファスベンダー、キャサリン・ウォーターストン、ビリー・クラダップ、ダニー・マクブライド、デミアン・ビチル

ミステリアス度★★★★☆
満足度★★★★☆

プロメテウス

2017年09月26日 | 映画(は行)
コヴェナントを見る前に是非



* * * * * * * * * *

本作は、最新作「エイリアン:コヴェナント」を見るなら
「プロメテウス」を見ておいたほうがいいと聞いたので、慌てて見ました。



近未来。
地球上の古代の遺跡から、人類の起源にかかわる重大な手がかりが見つかります。
すなわち、“神”は、宇宙から来たのではないか?
関係する科学者チームは、その謎を解明するため、
宇宙船プロメテウス号で、ある惑星を目指します。
そこにあったのは巨大な“神”らしき姿の多くの遺骸。
何らかの原因で全滅したように思われたのですが・・・。


最大の謎、人類の起源に迫る作品・・・と見えて
実はこれ、エイリアンの起源といった方が良いのかもしれません。
プロメテウス号のチームに忍び寄る不気味な影・・・。
それはまだ、私たちが知っているあの「エイリアン」とは姿が異なるのですが、
あのおぞましい生殖方法は同じです。



本作で注目すべきなのは一体のアンドロイド。
この惑星につくまで、乗員はコールドスリープに入っており、
人間そっくりなアンドロイド、デヴィッド(マイケル・ファスベンダー)が、
一人で宇宙船を管理していたわけです。
その間、おそらく“神”が用いていたであろう地球の古代の言語を習得していたりします。
彼は人間の感情は理解するけれども、自身に感情があるわけではない。
常に冷静で、何を考えているのかわからないその表情は、
時には逆に冷酷のようにも見えて、どこか私たちの不安を掻き立てます。
ロボットは本当に人間の味方なのだろうか。
ある人物が特定の目的でそのロボットを支配しているとしたら、
誰にとっての味方というわけではなくなってしまうということもあるのですね。
もちろんエイリアンは恐ろしいけれど、底知れないロボットの存在というのも少し怖い。



さて、それからエイリアンシリーズではもう当たり前なのですが、
エイリアンと闘い生き抜くタフな存在は女性なのです。
ここでは科学者のエリザベス(ノオミ・ラパス)。
凄いですよ、ぎょっとして言葉を失ってしまう体験を彼女はします・・・。
おそろしい~・・・。
普通ならそこで死んでます・・・。


ということで、もしかすると「コヴェナント」は、
この惑星のもう少し未来が舞台なのか???と予想されますが・・・。
ぜひ拝見することにしましょう。



ところで本作、間違えて吹替版で見てしまったのですが
これが実にひどい!
特に、ノオミ・ラパスの吹き替えが・・・
あまりの下手さに、彼女の魅力が全然伝わってきません。
妙に3流作品ぽくなってしまっています。
この度のコヴェナントにつながる大事な作品なのに・・・
やはり字幕で見るべきだった・・・

プロメテウス [DVD]
ノオミ・ラパス,マイケル・ファスベンダー,ガイ・ピアース,シャーリーズ・セロン
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


<J-COMオンデマンドにて>
「プロメテウス」
2012年/アメリカ/124分
監督:リドリー・スコット
出演:ノオミ・ラパス、マイケル・ファスベンダー、ガイ・ピアース、イドリス・エルバ、シャーリーズ・セロン

おぞまし度★★★★★
満足度★★★★☆

「長いお別れ」中島京子

2017年09月25日 | 本(その他)
10年をかけたお別れ・・・

長いお別れ
中島 京子
文藝春秋


* * * * * * * * * *

帰り道は忘れても、難読漢字はすらすらわかる。
妻の名前を言えなくても、顔を見れば、安心しきった顔をする―。
認知症の父と家族のあたたかくて、切ない十年の日々。

* * * * * * * * * *

「長いお別れ」、ロング・グッドバイ。
少しずつ記憶をなくして、ゆっくりゆっくり遠ざかっていくので、
アメリカでは認知症のことをそう呼ぶのだそうです。
ですからこの本は「認知症」にまつわる物語で、
レイモンド・チャンドラーとは関係がありません。


長年教員を務め、中学の校長で退職、
その後図書館長を務めたこともある昇平。
しかし今はすべての仕事を引退。
娘3人はそれぞれ家を出て、妻とのんびり過ごしています。
が、しかし、アルツハイマー型認知症を発症。
本作はそんな昇平と彼を取り巻く家族たちの物語です。


始めは、昇平が2年に一度行われる高校の同窓会にたどり着けなかった、
というところで、異変が察知されます。
それから、本当にゆっくりゆっくり症状が進んでいって10年。
初めの方は結構ユーモラスです。
チョコレートの包装紙をきっちり整えてとっておいてみたり、
昔、将棋大会で取った4位の賞状を何度も自慢してみたり。
会話もトンチンカンだけれど、どこか噛み合っていなくもない。
私、この奥様・曜子さんには感心してしまうのです。
夫が次第にこのようにわけがわからなくなっていくことにも、
しっかり受け止めて包み込むような・・・。
長女は結婚し夫の都合でアメリカ在住。
三女は未婚だけれど仕事が忙しくてなかなか実家には寄り付かない。
ということで比較的近くに住む次女が一番頼りにはなる。
けれどもほとんど一人で夫の介護を引き受けているというのが実態です。
でも彼女はそれを当たり前ととらえ、ほとんど生きがいのように感じている。
夫への敬愛は変わらない。
う~ん、私にも万が一の時はそんな風にできるかな? 
とても自信がありません。


昇平の少しずつ物事がわからなくなっていくディテールがリアルです。
そしてケア・マネージャーと相談しながら
介護の状態を考えて行くこと、施設のこと、医療のこと・・・、
私も親のことでそれらを経験しているので、そのリアルさはよくわかります。
ふだんはよくわからないことながら、
実際に家族がそんなふうになってはじめてその実態がわかります。
そんな現代の老人事情がしっかり描かれています。
そしてその上、ジタバタする家族たちの奮闘が、
それぞれの家族の心情に寄り添いながらユーモアを交えて語られます。


親の将来、そして自分の将来を見つめ直してみるのにも
良い作品かも・・・。

「長いお別れ」中島京子 文藝春秋
満足度★★★★☆
<図書館蔵書にて>

「アイヌ歳時記 二風谷のくらしと心」萱野茂

2017年09月23日 | 本(解説)
アイヌの文化を学ぶ

アイヌ歳時記: 二風谷のくらしと心 (ちくま学芸文庫)
萱野 茂
筑摩書房


* * * * * * * * * *

アイヌ文化とはなにか、
彼らはどのようなくらしを営み、どんな世界観をもっていたのか。
本書では、史上初のアイヌ出身国会議員であり、
その文化の保存・継承に長年尽力してきた著者が、
みずからが生まれ育った二風谷(にぶたに)の四季の生活を振りかえりながら、
その模様をやさしく紹介していく。
食文化、住まい、儀礼、神話・伝承、習俗、自然観や死生観…。
それらの記述を通して浮かび上がってくるのは、
自然と調和し共に生きようとするアイヌの心である。
いまなお日本人に広く知られているとはいえない先住民族アイヌの世界。
その全貌を知るための基本書となる一冊。


* * * * * * * * * *

北海道に暮らしながら、アイヌの文化についてよくわかっていなかった私。
この度はこの本で少し学習させていただきました。


著者萱野茂氏が生まれたのは1926年(大正15年)、平取村二風谷。
その頃のアイヌの人々は完全な少数者となり、
それまでの居住地や、生活の場であった山野海浜は国の管理下に置かれ、
日本語の強要と生業への規制が行われていました。
それで萱野氏の子供時代にもかなり日本の風習が入り込んでいたのですが、
まだ古来からのアイヌの生活習慣や行事も行われていた。
そんな頃の記憶からこの本は描かれています。
萱野氏の祖母は、アイヌ語しか話さない方だったそうで、
祖母から聞いた古来のアイヌの話も、ずいぶん参考になっているようです。


全編を通して感じるのは、この自然の恵み豊かな大地で、
アイヌの人々は自然と調和しながら暮らしていたということ。
自分たちが生きるのに必要なだけを採取し、決して採りすぎない。
自然から得るものはすべて神の恵みとして祈りを忘れない。
素朴で、ごく当たり前の人の「生き方」がそこにあるように思われ、
何故か懐かしさをも覚えてしまいます。


著者はアイヌとして、差別を受けたり、
理不尽な和人の法に怒りを覚えることも多々あったろうと思われるのですが、
この本の中では(おそらくあえて)、そのようなことには触れず、
淡々と子供の頃の思い出や、人から聞いたアイヌの生活を記述しています。
しかしそんな中でただ一箇所、怒りを隠しきれないところがありまして、
それはサケのことを記述したところ。
サケはアイヌにとっては主食に等しいもの。
それを日本人が勝手に北海道にやってきて、
一方的にアイヌがサケを採ることを禁じてしまった。
つまり、漁業権というヤツです。
著者が子どもの頃、父親が禁じられているのを知りながらこっそりサケを採ってきたことがあるそうで、
なんとそのために巡査に捕まったというのです。
祖母は怒って言う。
「和人がつくったサケではあるまいに、
私の息子が少し獲ってきて、神々と子どもたちに食べさせたことで罰を受け、
和人がたくさん獲ったことは罰せられないのかい。」
また、川下に「やな」が設置され、そもそもサケが遡上できなくなってしまった。
そのためにクマやシマフクロウが餌を採ることができず、激減した・・・と。


まさしく、返す言葉もありません・・・。
そういえば池澤夏樹さんの「静かな大地」にもそんな記述がありました。
アイヌは自分たちのために必要なだけとるが、
和人はお金儲けのためにとる、と。


しかし私たちの社会は、もはやそういうふうでなければ成り立たなくなってしまっています。
いろいろ、考えさせられます。


「アイヌ歳時記 二風谷のくらしと心」萱野茂 ちくま学芸文庫
満足度★★★★☆

種まく旅人 夢のつぎ木

2017年09月22日 | 映画(た行)
地域全体を皆で



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「種まく旅人」第一次産業に従事する人々を描くシリーズの第3弾にして最新作。
実は本作の斎藤工さんが見たくて、ここまで見てきました(^_^;)


今回の舞台は岡山県赤磐市。
市役所に勤める傍ら実家の桃畑の世話をしている片岡彩音(高梨臨)。
亡くなった兄がつぎ木で作り出した新種の桃「赤磐の夢」を、
品種登録するのが夢です。
そんなところへ東京の農林水産省からやってきたのが、木村治(斎藤工)。
彼はもともと「霞ヶ関から農業を変える」ことを夢見て
農林水産省に入ったのですが、仕事は思うようにはいかず、
すっかりやる気をなくしているこの頃。
お盆の休暇で大分に帰るついでに、
「赤磐に寄ってレポートを仕上げるように」
と、例によって上司から言われてやってきたのです。
なんでもいいから適当に仕上げてしまえと、
治は始めのうち思っていたのですが、
彩音の必死さに感化され、次第に本気になっていきます。



ここでは自分の畑のことだけを考えるのではなく、
地域全体を皆で協力し合いながら営んでいく・・・
ということが強調されます。
就農者の老齢化、若い人の減少・・・そういうことを考えると、
共同経営的な考えをもっと広めていくのはいいかもしれませんね。



岡山の桃、美味しそうでした~。
治はトマトが大好きで、
始め桃はそっちのけでトマトばかり食べていたのがおかしい。
もしかして彩音と治のラブストーリーに発展していくのかと思いきや、
それはなし。

・・・それってどうなのよ、とは思いつつ、
治は初志貫徹して東京のお役所に戻らなければ意味がないということで、
仕方ないでしょうか。



そうそう、治の実家は大分の臼杵市で、
実は第一作の「みのりの茶」とリンクしていたのです。
こういうつながりが出てくるのはいいですね。
・・・ということで、このシリーズ、大好きです。



次には是非、北海道を舞台に。
農林水産省のお役人は西島秀俊さんで。
で、彼が訪れる乳牛農家の主は香川照之。
うふふ。

<WOWOW視聴にて>

種まく旅人 夢のつぎ木 [DVD]
高梨臨,斎藤工
TCエンタテインメント


「種まく旅人 夢のつぎ木」
2016年/日本/106分
監督:安倍照雄
出演:高梨臨、斎藤工、池内博之、津田寛治、升毅
地域のつながり度★★★★☆
満足度★★★★☆

三度目の殺人

2017年09月21日 | 映画(さ行)
「三度目」の意味



* * * * * * * * * *

殺人の前科がある男、三隅(役所広司)の弁護を引き受けた重盛(福山雅治)。
三隅は、解雇された工場の社長を殺害し死体に火をつけた容疑で、
本人も犯行を自供しています。
このままだと死刑判決の可能性が高い。
なんとか死刑を回避し、無期懲役に持ち込めればよし、と当たりをつける重盛。
しかし接見を重ねる都度、三隅の話は二転三転。
果たして三隅の犯行動機は?真実は?
事態は混迷を深めていきます。



始めのうち重盛は後輩川島(満島真之介)にこのようなことを言っています。

「真実はどうでもいいんだ。
被告に有利な材料は何か、肝心なのはそれだけだ。」

ところが、三隅と接見を重ねるうちに、彼自身が自分の言葉を裏切り、
真実を知りたくなっていくのです。
いや、事件の真実というよりも、三隅の真実の心を知りたくなったというべきでしょうか。
三隅の故郷留萌へは、始め行く必要なんかないと言っていたのに、
結局訪ねていますもんね。



ラストで重盛が彼自身の推測する真実らしきものを述べるシーンがあるのですが、
三隅にうまくはぐらかされてしまいます。
私たちは、でもやはり重盛の推測が答えなのか・・・?
と、もやもやしながら劇場をあとにするわけですが、
ふと三度めの殺人の「三度目」に引っかかります。
一度目が北海道で起こした昔の事件。
二度目がこの度の事件。
では三度目は?


三隅の、真の意図が浮かび上がります。
結局この度の事件はやはり三隅の犯行なのだろうなあ。
問題はその動機ということになりますね。
とすれば、三隅のあののらりくらりの、二転三転の、接見での言葉は、
実はとても用意周到だったのかもしれない。
本当のことと言うのは、本人の心の中にしかない。
それが沈黙として守られれば守られるほど、
その人のある種の「強さ」が浮かび上がるような気がします。


さてそれから本作で思ったのは、
裁判というのはどうも、はじめから期待されるストーリーが出来上がっていて、
誰もがそれにそって質問したり、証言したりするもののようだ・・・
ということ。
本当はそれではいけないのだろうけれど、
裁判官も検事も弁護士も、すっかり裁判がルーティンになっていて、
道筋からそれることを嫌うようになってしまっているのかもしれません。



何にしても色々と考えてしまう作品なのでした。
何と言っても、面会室で対峙する2人のシーンが
緊張感たっぷりで恐ろしくさえある、
すごかったです。

<シネマフロンティアにて>
「三度目の殺人」
2017年/日本/124分
監督・脚本:是枝裕和
出演:福山雅治、役所広司、広瀬すず、満島真之介、市川実日子、吉田鋼太郎

混迷度★★★★★
満足度★★★★☆

「名探偵傑作短編集 火村英生編」有栖川有栖

2017年09月20日 | 本(ミステリ)
火村とアリスのやり取りは好きだけれど、論理は苦手・・・

名探偵傑作短篇集 火村英生篇 (講談社文庫)
有栖川 有栖
講談社


* * * * * * * * * *

臨床犯罪学者・火村英生と助手・有栖川有栖のコンビが、
美しく謎を解く、多彩な事件を散りばめた短篇集。
火村と怪人物との丁々発止の対決を描く「ジャバウォッキー」、
犯人を論理的に割り出す本格ミステリの王道「スイス時計の謎」、
誘拐事件の意外な顛末とは?
「助教授の身代金」他、全6篇を収録。


* * * * * * * * * *

「名探偵傑作短編集」、御手洗潔に続いて今度は火村英生編を読みました。


「ジャバウォッキー」
ある日突然に怪人物からの電話。
「日本中を俺に注目させてみせる。」
火村に突きつけられる怪人物の挑戦。
まさにパズルゲーム的ではありますが、面白い。


国名シリーズからは「ブラジル蝶の謎」と「スイス時計の謎」
「スイス・・・」の方は、完璧にロジックです。
しかし私の頭は全く論理には不向き。
火村の述べる鮮やかな論理は、え~?そうなの。そうなるの? 
と思うだけで、実は途中からついていけなくなって
自分の中で納得はできていない。
苦手・・・(^_^;)


「助教授の身代金」
助教授、というのでてっきり火村が誘拐されるのか?
と思いましたが、そうではなく、別の助教授でした。
第一犯行者と、その者とは全く別個に動く次の犯行者、
という構造がユニーク。
これはなかなかわかりませんね、本当に。


このような中に「猫と雨と助教授と」があるのは嬉しい。
火村の下宿先にいる猫の由来を語る、
事件とは無関係のショート・ショート。
猫に対してはきめ細やかな愛情を送る火村に対してアリスは言う。

「そこまで繊細な対応が人間に対してできたらよかったな。
俺以外の友だちもできたやろうし、
学生時代からの下宿を引き払うて、
どこかで惚れた女と新生活を始めるのも夢やないのに。」

それに対して火村は、
友人は片手を上げて合図すればトラック一台分集まる、と応酬。

「女は?」
「そりゃあ・・・トラックじゃ無理だ。貨物列車が必要だな。」

ファンにはマコトにオイシイやり取りです。
想像するに火村がその気になれば女はいくらでも集まるような気がします。
でも友人はどうかな?


TVドラマ化の時に火村准教授に斎藤工、
アリスに窪田正孝を宛てたのは快挙でした。
アリスを女性にするなどという暴挙を犯さなかったのが正解。


「名探偵傑作短編集 火村英生編」有栖川有栖 講談社文庫
満足度★★★.5

種まく旅人 くにうみの郷

2017年09月19日 | 映画(た行)
豊かな山と海は互いを育み合う



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「種まく旅人」第一次産業に従事する人々を描くシリーズの第2弾。


アメリカ帰りの農林水産省の官僚・神野恵子(栗山千明)が、
地域調査官として淡路島を訪れます。

なるほど、シリーズの概要がわかってきました。
農林水産省のお役人が日本各地の第一次産業の現場へ行って、
地元の人とふれあいながら何かを変えていこうとするわけですね。
ここに登場する神野恵子は、上司から
「君の頭でっかちのレポートを読んで、別のところに行ってほしくなった」
などと言われて淡路島へやってきたのです。
しかし、地域調査官と言っても、一体ここで何をすればよいのかよくわかりません。
そしてまた、彼女を受け入れた市役所の職員たちも
どうして良いかわからないのです。
とりあえず彼女は海苔の養殖場や玉葱畑へ行き、
豊島渉(三浦貴大)と豊島岳志(桐谷健太)と知り合います。
この2人は兄弟なのですが、
父親が亡くなって以来仲違いをし、もう何年も口も聞いていないのです。

神野は、以前この島で「かいぼり」が行われていたことを知ります。
溜池の泥をさらい、あえて養分を含む泥を海へ流し込むのです。
すると海の栄養分が豊かになり、
豊かな海はミネラルを含んだ風で山を潤す。
しかし、人出を要する「かいぼり」はもう10数年も行われていません。
海苔の養殖にも玉葱栽培にも役立つはずの「かいぼり」を
なんとか復活させようと神野は動き始めるのです。



桐谷健太さんと三浦貴大さんの兄弟というのがいいですよね。
それぞれに山と海で生きようとしていて、仲違い。
けれど山も海も互いが豊かさを育み合っているのだ
という気付きとともに2人が和解していく、という構図がステキです。
四方が海の淡路島の海と山は、
すなわち拡大して考えれば日本の海と山。
海と山が出会う食べ物の代表、
おにぎりがやけに美味しそうに見えるのでした。



<WOWOW視聴にて>

種まく旅人 くにうみの郷 [DVD]
栗山千明,桐谷健太,三浦貴大,豊原功補
TCエンタテインメント


「種まく旅人 くにうみの郷」
2015年/日本/111分
監督:篠原哲雄
出演:栗山千明、桐谷健太、三浦貴大、谷村美月、豊原功補
第一次産業応援度★★★★☆
満足度★★★.5

ダンケルク

2017年09月17日 | 映画(た行)
危機一髪の臨場感



* * * * * * * * * *

クリストファー・ノーラン監督の、初の実話をもとに描く戦争映画。



1940年5月、英仏連合軍は
フランス北部ダンケルクでドイツ軍に追い詰められてしまいます。
背面は海。
40万の兵士が残り3方をドイツ軍に取り囲まれ、危機に瀕しています。
そこへ軍艦はもとより民間の船舶も総動員、
史上最大の救出作戦が繰り広げられます。



私、少し前にコニー・ウィリスの「ブラック・アウト」で、
このダンケルクのできごとを読んでいたので、本作とても楽しみにしていました。
ノルマンディー上陸の逆バージョンですね。
このころ、ドイツ軍は破竹の勢いで、連合軍も歯が立たない。
この場は辛くも撤退。
そうしてこの後、ロンドンもドイツによる空襲に苦しむことになるのです。



さて本作、通常の戦争映画とは少し趣が異なっています。
戦況などの詳しい説明は殆どありません。
冒頭、ドイツ兵の銃撃をくぐり抜けた兵士がダンケルクの海岸にたどり着きます。
そこには無数に英仏の兵がいて、対岸のドーバーへ渡る船をひたすら待っているのです。
自身の隊からははぐれてしまった彼は、
この先どうすればよいのかわからない。
そんなところへドイツ機が飛来して銃弾を浴びせかける。
なんでもいいから一刻も早く故国へ帰りたい・・・
しかしこんなに大勢の兵に対して船は今のところたった一隻。
この先本当に救出の船は来るのか? 
いつまで待てば? 
ドイツ軍の攻撃はこの先どうなる・・・? 
何もわからず、不安が増すばかり。



つまりは、極端に情報が少ないこの映画は、
観客をこのような兵士と心境を同じにするわけですね。
本作はこの兵士と、イギリスから出発した民間船、
そしてドイツ機と空中戦を繰り広げる英機パイロットを交互に映し出します。



が、それにしても、当然ではありますが
予期せず現れる敵機、魚雷・・・怖い怖い。
やっと乗り込んだ軍船がドイツの魚雷を受けてあっけなくも沈没したりします。
この際は巨大な軍艦のほうが目立ってしまってより危険のような・・・。
それでも、救命具をつけて脱出できればまだ幸いな方です。
まさに生と死が紙一重。
ミッションは生き抜くこと!!



そんな状況を本作は106分余すところなく繰り広げます。
初めからダンケルクの救出作戦の成功を知ってはいても、
やはり犠牲者はいたのだし、スリルたっぷり、
実に翻弄されました・・・。


しかし後でよく考えてみたら、あのジタバタしまくった兵士は、
実はおとなしく列の後ろに並んで待っていたほうが、
民間船のどれかには乗れて、楽に助かったのでは・・・?
<シネマフロンティアにて>

「ダンケルク」
監督・脚本:クリストファー・ノーラン
出演:フィオン・ホワイトヘッド、トム・グリン=カーニー、ジャック・ロンデン、ハリー・スタイルズ、トム・ハーディ、キリアン・マーフィー
歴史発掘度★★★☆☆
臨場感★★★★☆
満足度★★★★☆

「物語の向こうに時代が見える」川本三郎

2017年09月16日 | 本(解説)
時代の影をひたむきに生きる人々・・・そんな本たち

物語の向こうに時代が見える
川本 三郎
春秋社


* * * * * * * * * *

いつの日も、ひたむきに生きる人がいる。
戦時下、戦後混乱期、高度成長期、そして現代。
時代の陰影を描いた文学は、なにを語りかけているのか。
戦後日本と同年齢の著者による、哀切と希望の「時代論」。


* * * * * * * * * *

敬愛する川本三郎さんの、文学評論。
戦争のこと、高度成長期以降、寂れていく地方都市のこと、
世の移り変わりと家族のこと、そして、老いと死のこと・・・
このようなテーマに沿いながら、
その時代を生き抜く人々の姿を描き出す小説が取り上げられています。
戦中戦後というあたりは、その時代に書かれた小説なのかと思いきや、
意外と新しいものがほとんどです。
戦争を知らない者が戦中、戦後を描く。
そういうのも興味深いですね。


この中で私が読んだことがあるのは、佐藤泰志さんの「海炭市叙景」と
桜木紫乃さんの幾つかの作品くらい。
どちらも北海道出身の作家で、舞台も北海道です。
特に著者は桜木紫乃さんに注目していて、
「年齢から言って新しい作家のものを読むのはもう無理とあきらめていた時に、
桜木紫乃の作品に出会って、現代の小説に引き戻された」
として、この本でも桜木紫乃さんで3つの章立てをしています。
「北海道に生まれ、育ち、
この冬の厳しい土地を自分の場所と思い定めて、書き続けている桜木紫乃」
・・・ということで、
私が彼女の作品がいいなと思うのは多分に地元贔屓かと思っていたのですが、
道外の方でも共感を持っていただけるというのには大変嬉しく思いました。


シャッター商店街などと言われる駅前の寂れた光景・・・、
今や地方都市はほとんどそんな状況ではないかと思われるのですが、
そうした中でも人々の暮らしは続いていく、続けていくしかない・・・
そうした物語に、著者はより共感を覚えているようです。
つまり、ここで紹介されている作品は正直地味です。
でも、華やかな都会のトレンディではないストーリーに、
私もこの頃強くひかれる気がするのですね・・・。
やはり年齢のためでしょうか。
若い方がこれらのストーリーをどのように読むのか、聞いてみたいところでもあります。
ということで、今後この本で紹介されている作品を少しずつ読んでいきたいと思います。
ベストセラーというわけではないので、
図書館でもすぐに借りられそうなものばかり(^_^;)。
これまで知らなかった作家との出会いも楽しみです!

「物語の向こうに時代が見える」川本三郎 春秋社
満足度★★★★☆
図書館蔵書にて

種まく旅人 みのりの茶

2017年09月15日 | 映画(あ行)
第一次産業に従事する人々のシリーズ



* * * * * * * * * *

第一次産業に従事する人々をテーマに描く
「種まく旅人」シリーズの第一作。
大分県臼杵市が舞台です。
農林水産省の役人大宮金次郎(陣内孝則)は、
全国各地の農家を回り、作業を手伝い酒を酌み交わすという変わり者。
人々からは「風来坊の金ちゃん」と呼ばれて親しまれていますが、
その本業を知っている人は多くはありません。



臼杵で緑茶の有機栽培を行う修造(柄本明)は、
心臓発作を起こしてしまい、入院。
その時、ちょうど東京でリストラされて来ていた孫娘・みのり(田中麗奈)が
やむなく茶畑の世話をすることになります。
しかし彼女はお茶のことはもちろん農作業のことにも全くのシロウト。
“金ちゃん”の助言と手助けを受けながら、
毎日くたくたになるまで畑仕事を続けます。



始めのうちは嫌々ながらやっていたみのりが、
亡き祖母の思いを受けて無農薬栽培に挑もうとする祖父の思い、
そして、いいものを人々に届けたいという思いに背中を押されつつ、
やりがいを見出していく。
いい物語ですねえ。
無農薬栽培は害虫や病気のリスクが大きく、
またひとたびそれが発生すれば、
近隣の畑にも被害を及ぼしかねないという難しい挑戦。
作品ではそこがうまく行き過ぎたキライもありますが、
まあ、こんなものでしょう。



農林水産省のお役人といえば、
実際には最も農作業をしない人ですよね・・・、印象としては。
けれどこんな風に身分を隠してこっそりお手伝いをして回る
という設定がなかなかいいんだなあ。
と言うか、本当に農家の実態を知っている人が関係役所のお役人になるべきですね。


私は気に入ってしまったので、
このシリーズ、あとのものも見ようと思います。
ところで第一次産業シリーズと言う言葉に何か既視感があったのですが、
川原泉さんですよね! 
彼女のこのシリーズ、大好きでした。
つまりこのテーマが私好みなのらしい・・・。

種まく旅人~みのりの茶~ [DVD]
陣内孝則,田中麗奈,吉沢悠,柄本明,石丸謙二郎
TCエンタテインメント


<WOWOW視聴にて>
「種まく旅人 みのりの茶」
2011年/日本/121分
監督:塩屋俊
出演:陣内孝則、田中麗奈、吉沢悠、柄本明、永島敏行
第一次産業を考える度★★★★☆
満足度★★★★☆

「セプテンバー・ラプソディ」サラ・パレツキー

2017年09月14日 | 本(ミステリ)
ユダヤ人の末裔の物語

セプテンバー・ラプソディ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
Sara Paretsky,山本 やよい
早川書房


* * * * * * * * * *

診療所の留守電に「殺される」という女性からの伝言。
不吉な言葉を残し行方をくらました女性を捜して―
友人の医師から頼みを受けた私立探偵ヴィクは、
消えた女性ジュディの複雑な家庭事情を知る。
彼女は家出後ろくでもない男と出逢い、薬に溺れた。
ジュディにも希望の星があるはずだった。
最先端企業で働く息子のマーティンだ。
だが、彼も姿を消したことがわかり
…家族関係の中に隠された闇にヴィクが鋭く切り込む!

* * * * * * * * * *

V・I・ウォーショースキーシリーズ。
実は先日本棚の奥から発掘した「アンサンブル」と共に隠れていました。
同時期に買ったものですが、
2冊あるからこそ余計によむのが億劫になっていたようです。
しかし、思わぬ拾い物で儲かったとでもいいましょうか、
本作、本当に"掘り出し物"でした!!


ヴィクは友人ロティから、彼女の知人の娘ジュディから助けを求める電話があり、
その後行方不明との相談を受けます。
ジュディは薬に溺れるろくでもない人物ですが、
その息子マーティンもまた姿を消していることがわかり、
ヴィクは捜査に乗り出します。


それは次第にオーストリアのドイツ統治時代に根を持つ問題であることがわかってきます。
そして現米国の核爆弾やコンピューター開発にもつながるという・・・。
壮大ではありながら、単に机上の空論ではなく、
ヴィクが一つ一つ体を張ってナゾを紐解いていくので、
身近で説得力があります。


そして、本作を通して一人の女性の姿が浮かび上がってきます。
これは架空の人物なのですが、描かれる歴史はホンモノ。
マルティナ。
物理学の天才だけれどもユダヤ人であるため、
虐げられ、報われず、しかし鉄の意志を持って生き抜いた女性。
本作に登場するジュディの祖母です。
この人の人物造形にすっかり魅入られてしまいました。
しかし研究に熱意を向けるあまりに、自分の娘のことはおざなりとなり、
その娘ケーテ、そして孫ジュディは米国に渡ってからさえも、
心も金銭的にもどん底の生活を送っている・・・というのが、物悲しい。
しかし、4代目となるひ孫マーティンは
曾祖母の才能を受け継ぐ若き希望の星。
ここに来て運命の歯車が回り出す。
うーん、なんて奥深い物語。
読後はしばしぼーっとしてしまいました。


ラストで、主要人物が実際にオーストリア、ウィーンのゲットーの跡を訪れ、
あるものを見つけるシーンにはぐっと胸に迫るものがあります。
登場人物は老人から若者、子供までそれぞれ個性的で魅力的。
もちろん、おのれの利益しか頭にないゴチゴチの経営者やら
国土安全保障省のツワモノも登場しますが。


さて実は、このシリーズ、この後にもう一冊出ているのです。
この際なので、近いうちにそちらにもチャレンジしようと思います。

「セプテンバー・ラプソディ」サラ・パレツキー ハヤカワ文庫
満足度★★★★★

鈴木先生

2017年09月13日 | 映画(さ行)
真面目なものは、惨めなだけ・・・?



* * * * * * * * * *

TVドラマの映画化ということなのですが、
そのドラマは見ていませんでした。
でも、見ればよかったと思います。
このたび長谷川博己さん見たさで視聴。



中学校の国語教師鈴木(長谷川博己)は、
独自の教育理論で教育現場の様々な難問に立ち向かいます。
彼は理想のクラスを作るために女生徒・小川蘇美(土屋太鳳)を重要視したのですが、
彼女の魅力にハマり、あらぬ妄想を抱くようにまでなってしまう。
しかし、危うく踏みとどまり、自分を律している、
と、この辺までがTVドラマだったようです。
で、本作はその続き。
学校は生徒会選挙が始まります。

そして校外では、ある引きこもり青年が、
やっとのことで出かけた公園で不審者扱いされ、その閉塞感、憂鬱度を深めていく。
やがてその青年が大きな事件を起こすことになってしまうのですが・・・。



あまり目立たなくても真面目に生きてきて、
でもそんな生き方は、他人の踏みつけにされるだけ。
世の中、ずるいやつがどんどんのし上がっていい目を見て、
真面目な者は惨めな思いをするだけ・・・。
嫌な話だけれど、現実にはままあること・・・。
けれど、鈴木はそんな子供たちにこそ、力を与えたい。
そんな切実な思いが交差する物語です。



この鈴木教師は立派な理論を持ちながら、
それは上辺だけで、全然生徒たちに伝わっていない、ダメ教師??? 
TVドラマを見ていない私には、始めのうちそのように思えてしまいました。
でもそうではなかった。



彼はいつも子供たちにとっての最善を思い、行動します。
私がいいなあと思ったのはこの学校の他の教師も
みなそんな風に熱心で子供たちのことを大事に思うところ。
(もしかするとTVドラマではバラバラだった教師たちが、
鈴木に感化されてここまでになった、ということなのかもしれません。)
若干一名、壊れた女教師がいるのですが、
彼女すら、彼女なりに子どもを守ろうとしているわけですしね・・・。


こんな学校、いいなあ・・・。
2012年作品で、土屋太鳳さんもまだ「まれ」でのブレイク前。
そして、危うい引きこもり男が窪田正孝さん。
これ、今でこそ見るべき価値のある作品かもしれません(^_^;)

<WOWOW視聴>

映画 鈴木先生 通常版 [DVD]
長谷川博己,臼田あさ美,土屋太鳳,風間俊介,田畑智子
角川書店


「鈴木先生」
2012年/日本/124分
監督:河合勇人
原作:武富健治
脚本:古沢良太
出演:長谷川博己、土屋太鳳、風間俊介、窪田正孝