映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

パーフェクト・センス

2013年02月28日 | 映画(は行)
生きていくために究極に必要なもの



            * * * * * * * * *

まずは嗅覚、そして味覚、聴覚。
人々の五感が一つ一つ失われていくというストーリーです。
だからパニック作品と思えるのですが、これが一味違う。
一つの寓話、あるいはほとんどポエムのようにも思えます。



感染症を研究するスーザン(エバ・グリーン)が、
まず嗅覚を失う人が多発しているという情報を得るのですが、
その原因や対応を研究するまもなく、
あっという間に全ての人にそれが広がってしまいます。
一方レストランのシェフ、マイケル(ユアン・マクレガー)は、
嗅覚も味覚も失われた人々に、
なおも料理を提供しようと、工夫を重ねます。
そんな二人が出会い、心を通わせていくのですが・・・。



人々が五感を失う前に、ある種の感情が非常に増大されます。
例えば、嗅覚を失う前には悲しみが、
味覚を失う前には飢餓感が、
聴覚を失う前には怒りが・・・という具合。
パニックはむしろ人々のその感情の高まりによって引き起こされますが、
感覚を失ってからは淡々とその状況を受け入れ、
静かに元の生活に戻ろうと努力している。
それは不自然のようにも思われますが、意外とそんなものなのかもしれません。
自分一人が、ではなく誰もがというところがミソですね。
じたばたしても状況は変わらない。
ならば私たちは生きていくため、味がしようがしまいが、食べて行かなければならないし、
そのためには仕事もしなければならない。
そういう諦念が静かに漂うのです。
不思議な感慨が湧いてきます。
しかし、人類にはまたさらなる大きな喪失が襲いかかります。
この時にやってくる大きな感情の高まり。
それこそが、この先の試練に立ち向かうために、最も必要な物でした。



そこまで五感が損なわれて、果たして生きていけるものだろうか・・・、
と思いかけて、あの3重苦を乗り切ったヘレン・ケラーを思い出しました。
そんな時、私達はたった一人宇宙にほおり出されたような気がするかもしれません。
でも、すぐそばに誰かのぬくもりがあれば・・・
耐えて行けそうな気がする。
この先の人々は、おそらく助け合いいたわり合うことでしか生きながらえない。
生きていくために究極に必要な物を示されたような気がします。
まるでパンドラの箱の底に残った「希望」を見るようです。



ユアン・マクレガーのシェフ姿が素敵でした。
ジャン・レノよりはいいです・・・。

パーフェクト・センス [DVD]
ユアン・マクレガー,エヴァ・グリーン,ユエン・ブレムナー,コニー・ニールセン,スティーヴン・ディレイン
Happinet(SB)(D)


パーフェクト・センス [Blu-ray]
ユアン・マクレガー,エヴァ・グリーン,ユエン・ブレムナー,コニー・ニールセン,スティーヴン・ディレイン
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「パーフェクト・センス」
2011年/イギリス/92分
監督:デビッド・マッケンジー
出演:ユアン・マクレガー、エバ・グリーン、ユエン・ブレムナー、スティーブン・ディレイン、デニス・ローソン
新感覚度★★★★★
満足度★★★★☆

春よ来い

2013年02月27日 | 工房『たんぽぽ』
まだまだ雪の中



もうすぐひな祭りですね。
おひな様を作ってみました。


それにしても、この冬の雪の多いこと・・・
札幌の現在の積雪137センチとか。
皆、除雪に疲れ果てていますが
この、雪の閉塞感は、精神的にもちょっとやられます・・・

それでも、春はやってくるものですね。
日差しは温かみを増してきて
ようやく真冬日脱出。
でもまだまだ3月も、降って、とけて、を繰り返します。
この雪がすっかり消えるのはおそらく4月になってから。

待ち遠しいです・・・
春よ来い。
早く来い。


世界にひとつのプレイブック

2013年02月26日 | 映画(さ行)
祝! ジェニファー・ローレンス アカデミー賞主演女優賞受賞



            * * * * * * * * *

アカデミー賞の主演女優賞に
今作のジェニファー・ローレンスが決まりましたね。
確かに、今一番旬の女優かもしれません。
今作でもさすがに光っていました。




妻の浮気が原因で心のバランスを崩したパット(ブラッドリー・クーパー)は、
精神病院を出て、実家で両親と暮らすことになりました。
いつか妻とよりを戻そうと夢見ているのですが、
実際は彼には妻への接近禁止命令が出ていて、手紙すら出すことができないのです。
そもそもどう見てもよりなど戻せるわけがない、と思えるのですが、
本人は全くそれに気付けないというあたり、
実はまだまだビョーキ・・・。
言動もやはり常軌を逸していてイタい・・・。

そんな彼が、事故で夫をなくし、心に傷を持つティファニー(ジェニファー・ローレンス)と出会います。
が、こちらも過激な発言と突飛な行動。
やはり、どこか壊れている。
そんな二人がどうしようもなく衝突しながら、ダンスを通し再起しようとするのです。



今、社会問題ともいえる心を病む人の増加。
パットとティファニーは、まさにそういう人たちの代表で、
周りの家族や友人が、戸惑いながら、いかにも付き合いにくいこの二人をなだめつつ、
共に生活をしていこうと奮闘しているのが見て取れます。
断固拒否でないところがいいのです。
でも、気遣うあまり及び腰になってしまうのも確か。
しかし、この二人はお互い様と承知しているからでしょうか、
とにかく発言が辛辣。
でもその遠慮ない言葉の投げ合いの中で気づくこともあるんですよね。
本当のこと。
そしてその本当のことをズバリと言われるのは辛いということも・・・。



パットの父(ロバート・デ・ニーロ)は、ギャンブル依存症ともいえそうな人物で、
また勝負のジンクスにも異常なこだわりを持っています。
まあ、これもほとんどビョーキ。
そうしてみれば、誰もがちょっと人と違って狂っている部分があるというわけです。
いろいろな人と折り合いをつけながら、
関係を保って行くことが大切なんだなあ・・・。
そして、生きていくためには何か目標も必要。
二人の目標はとりあえずダンスの大会に出るというあたりだったのですが、
ひょんなことから、みんなを巻き込む大イベントになってしまいます。
その成り行きがまた面白い!!
なんでも一番でなければならない、という定石からも外れているところがまたステキなのです。



旬の若手俳優と、超ベテラン俳優の見事な配剤。
ちょっぴり胸が痛んだり笑ったりの感動作です。



ところで、このパットが着ている黒いモノが何かわかりますか? 
これがなんとゴミ袋。
父親が「なんでそんなものを着ているんだ?」というのですが、
単に発汗のためだそうで・・・。
しかしパットはすごいこだわりで、毎日のランニングに必ずこれを着ているんですよ。
すっごく変でおかしい! 
果たしてこれは彼の精神の変調のためなのか、
それともそうでなくてもこうなのか。
私はそれが知りたい。


もう一つついでに。
今作の原題は SILVER LININGS PLAYBOOK
そもそもプレイブックって、なんだっけ?
と、スポーツには疎い私は思ったわけです。
これはアメフトのチームの作戦図を乗せたノートのことだそうです。
パットとティファニーの勝利のための作戦書、
まあ、そんなワケなのでした。

「世界にひとつのプレイブック」

2012年/アメリカ/122分
監督:デビッド・O・ラッセル
出演:ブラッドリー・クーパー、ジェニファー・ローレンス、ロバート・デ・ニーロ、クリス・タッカー、ジャッキー・ウィーバー

社会問題度 ★★★★☆
ユーモア★★★★★
満足度★★★★★

「銀の匙 1」 荒川弘

2013年02月25日 | コミックス
お前らは家畜のドレイだ!!

銀の匙 Silver Spoon 1 (少年サンデーコミックス)
荒川 弘
小学館


            * * * * * * * * *

大自然に囲まれた大蝦夷農業高校に入学した八軒勇吾。
授業が始まるなり子牛を追いかけて迷子、
実習ではニワトリが肛門から生まれると知って驚愕…などなど、
都会育ちには想定外の事態が多すぎて戸惑いの青春真っ最中。
仲間や家畜たちに支えられたりコケにされたりしながらも日々奮闘する、酪農青春グラフィティ!!


            * * * * * * * * *

北海道の農業高校が舞台という今作、
以前から気になっていましたがやっと読むことができました。
すでに読んでいる方も多いでしょうし、今更・・・と言われそうですが、
一巻ずつ追って行きたいと思います。


まずは、主人公となる八軒勇吾が、大蝦夷農業高校(エゾノー)に入学したところから。
彼は札幌のサラリーマン家庭の息子で、
農業にはハナから興味もなかったのです。
彼自身は「家に帰らなくても済むから」全寮制のこの高校に来たと言うのですが・・・。
ひたすら良い成績をとることだけに費やしてきたこれまでの生活に疲れ果てたようにも見えますし、
家族とうまくいっていない様子も伺える彼。
まあ、そのへんの詳細はきっと今後語られて行くでしょう。
エゾノーに入学するのはたいていは農家・酪農家の息子・娘たちです。
皆、将来家を継ぎ、発展させることを夢として、専門分野には異常に詳しかったりします。
一方農業はもちろん、他のことに対しても何の夢も希望も持たない八軒は、
一人溶け込めず違和感を覚えるのでしたが・・・。
そんなことに悩むヒマもなく、
日々の授業や実習、部活とヘトヘトになる毎日が始まります。


私達と同様、酪農のことなど何も知らない八軒が、
少しずついろいろな体験を通して今の「酪農」を知っていく、
そして友人たちとの絆を深めていく様が、
非常に楽しく描かれています。
そしてまた、私達が普段目を背けている、
"命を食べる"ということの原点を
少しずつ掘り下げていこうとしていることも伺えます。
八軒は、目の前を走り回っていた鶏が、次の一瞬には頭をはねられてしまいショックを受けたり、
なんとも愛らしい子豚に名前をつけようとして、友人たちに咎められたりします。
あとで辛いからと。
ここは一巻目なので、まだほんの序の口。
このペース配分がなかなかよろしい。


それから、彼の友人たちのそれぞれ個性豊かでなんとユニークなこと。
ちょっと強面の駒場くん、
優しげな獣医志望の相川くん、
数学が超苦手の常盤くん、
顔立ちは美人なのにコロコロ卵体型のタマコさん、
このA班のメンバーがナイスです。
そしてもちろん、八軒の憧れ、御影さんも、
元気で可愛くてウレシイ。
ず~んと胸に迫ったのは、八軒が初めて見に行ったばんえい競馬、
見開きページの迫力描写! 
すごいですね、ドキドキします。
北海道にいながら、私は実際に見たことがないのです。
ぜひ一度見たいものです。
ばんえい競馬に使われるのはものすごく大きくたくましい馬。
サラブレットとは全然違います。
今度機会があれば是非見たいと思います。


まずは、主な人物紹介、状況紹介から始まった巻ですが、
十分以上に、今後の展開に期待を持たせてくれました。
早く次巻へ行きましょう!


「銀の匙 1 」荒川弘 小学館少年サンデーコミックス
満足度★★★★★

ゼロ・ダーク・サーティ

2013年02月24日 | 映画(さ行)
闇夜を手探りで・・・



            * * * * * * * * *

2011年5月、オサマ・ビンラディンの捕縛と暗殺作戦の裏側を描いた作品です。
多数の当事者の証言に基づき、
かなりリアルに事件を再現しているといわれています。



あの9.11同時多発テロ後、
巨額の予算をつぎ込みながら、ビンラディンの行方については何の手がかりも得られずにいたアメリカ。
CIAパキスタン支局にテロリスト追跡を専門とする女性分析官マヤがやってきます。
彼女は情報収集と分析の天才的感覚を認められて抜擢され、まだ20代。
捕縛されたテロリストへの拷問に目をそむけるなど気弱なところも見受けられましたが、
彼女の親しくしていた同僚がテロで命を落としてから、彼女の執念が燃え上がります。



それにしても最期の作戦、
確たる確証がないままに決断を下すことの怖さがひしひしと伝わりました。
万が一間違いだったらどうなるのか・・・
誰も責任を取りたがらない、というのは無理もないことかも知れません。
ゼロ・ダーク・サーティ、深夜0時30分に作戦は実行されます。
他国の領空を、密やかに米軍のステルスヘリが行く。
標的はビンラディンが潜んでいるであろうと思われる民家。
ひと目を避け、明かりをつけることもできない。
赤外線スコープにぼんやりと浮かび上がる光景。
思えばこの作戦自体がこんなふうに闇夜を手探りで探るようなものですね。



結果は事実が証明しているわけですが、
そうではあっても、非常にリアルですごく緊張感がありました。
そしてまた、この結末に快感はありません。
一つの問題に片がついた、そういう安堵があるだけで、充足感も幸福感もない。
見事に現代を切り取った問題作。



「ゼロ・ダーク・サーティ」
2012年/アメリカ/158分
監督:キャスリン・ビグロー
出演:ジェシカ・チャステイン、ジェイソン・クラーク、ジョエル・エドガートン、ジェニファー・イーリー、マーク・ストロング

緊張感★★★★★
リアル度★★★★☆
満足度★★★★☆

ジーザス・クライスト=スーパースター アリーナ・ツアー2012

2013年02月23日 | 舞台
孤独と苦悩のスーパースター



            * * * * * * * * *

今作は映画ですが、一応「舞台」のカテゴリとしました。
1971年ブロードウェイで初演された大ヒットロックミュージカル「ジーザス・クライスト=スーパースター」。
今作は2012年10月5日に
イギリスの「バーミンガム・ナショナル・インドア・アリーナ」で行われたステージを収録したものです。


私、「ジーザス・クライスト=スーパースター」には、ただならない思い入れがあるのです。
1973年に映画化されたこの作品を見て、すっかり虜になってしまったのです。
学生時代でした。
彼氏と見に行った・・・なんてステキな思い出ではありません。
確か、友人と見に行って、「もう一回見る」という私に呆れて、
友人は先に帰ってしまったような記憶が・・・。
一度入場してしまえば、そのまま何回でも見ることができた当時の映画館・・・。
それもまた懐かしいですけれど。
その後サントラ盤のレコード(!)を買ったのはもちろん、
リバイバル上映も何度か見て、これまで何度見たのかも覚えていないくらいです。
(札幌で劇団四季による舞台を一度見たこともあるのですが、
まあ、それはそこそこ・・・という感じ。)



さて、特に目立った宣伝もないこの度の上映を知ったのは、
ネットで今度見に行く映画作品を物色していた時のこと。
上映期間1週間だけで毎日夜の1回のみ。
ナマの舞台を一度は見てみたい・・・
そんな思いの半分も満たされればそれでよし、という感じでした。


さてさて、しかし期待以上に魅了されました。
皆に囲まれ、もてはやされるイエスを、危うく感じ皮肉な目で見つめるユダのモノローグから。
・・・ワクワクしますね! 
先の「映画」では、実際のイメージそのままに、
砂漠と岩山のオール屋外ロケで、衣装も当時風だったのです。
ところが今作、舞台は現代の都会。



革命をうったえるカリスマ青年に群がる学生たち。
そんな雰囲気。

拡声器を持ちアジテーションをするイエス(ベン・フォースター)はなんだかチャーミング。

そしてユダ(ティム・ミンチン)は、
「パイレーツ・オブ・カリビアン」のジャック・スパロウ船長風のヘアスタイルとメイクで、
カヤパに連絡をとるのは、携帯電話。

一方、イエスを邪魔に思うステータスを持つ男たちは、
ビシっと決めたスーツ姿(フリーメイソンのメンバー?)。
それもオフ時にはスエットを着てランニングしてたりする。

そしていざ、イエスの人気が失墜すれば、
それをあげつらうマスコミ。
無遠慮に差し出されるICレコーダー。

挙句に登場するイエスはオレンジのつなぎの囚人服に身を包んでいる。



・・・おお、なんと見事に現代に置き換えられているのでしょう。
つまりは、何時の時代でも社会の構成は似たようなものなのですね。
初演から40年を経ても、古びない。



それから、ナマの舞台の面白さ、
実際に役者さんたちが登場人物の感情そのままに歌うので
ビンビンと伝わってきます。
そうそう、演奏も全てマナだったのです。
カメラは舞台正面からだけではなく、時には側面からバンドの人達とともに役者を映しだしたりもする。
こういうところは、映画だけで見られるお得なシーンでもあります。
アリーナのステージということで、バックに巨大スクリーンがあり、
それが舞台背景を映しだしたり、役者さんの表情をクローズアップしたり。
これが映画の画面になるとまた、面白い効果が生み出されます。
そしてワンシーンを終えるごとに観客の拍手と歓声。
これが臨場感を掻き立てていますね。
盛り上がります。
最期には通常映画では見られないカーテンコール。
なんと、今作だけではなく「エビータ」「キャッツ」「オペラ座の怪人」などの作曲家である
アンドリュー・ロイド・ウェバーご本人が登場したのにはびっくり。
私は、もしこれを本当に目の前でナマで見たのだったら、きっと感動で泣いてしまいます。
映画とはいえ、拍手で終わりたい気分でした。
拍手くらいしてもいいじゃない・・・とは思いつつ
・・・誰もしていない。
残念。



このミュージカルは、当初、熱心なキリスト教徒からは
神を冒涜しているとして、猛烈な抗議があったのです。
いやしくもイエス・キリストに向かって、「ヘイ、J・C」ですからね。
けれども見てみれば、イエスの孤独と苦悩がくっきりと浮かび上がり、
より身近に感じ、そして好きになってしまいますね。
マグダラのマリアがイエスに恋をして歌う
“I don’t know how to love him”(邦訳「私はイエスがわからない」)。
これをユダが歌う所では、やられた!と思うんですよ。
男女の恋愛感情ではなく、
人として人を思う気持ちも同じ歌で表現しているのが
なんとも心憎いではありませんか。


兎にも角にも、今作、
また、このたびで私の心のミュージカルの位置を確かなものにしました。

ジーザス・クライスト=スーパースター アリーナ・ツアー [DVD]
ティム・ミンチン,メラニー・C,クリス・モイレス,ベン・フォースター
ジェネオン・ユニバーサル


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「ジーザス・クライスト=スーパースター アリーナ・ツアー2012」
2012年/イギリス/103分
演出:ローレンス・コナー
作詞:ティム・ライス
作曲:アンドリュー・ロイド・ウェバー
出演:ティム・ミンチン、ベン・フォースター、メラニー・C、クリス・モレイズ

「ほかならぬ人へ」 白石一文

2013年02月22日 | 本(恋愛)
ベストの相手である証し

ほかならぬ人へ (祥伝社文庫)
白石 一文
祥伝社


            * * * * * * * * *

「ベストの相手が見つかったときは、この人に間違いないっていう明らかな証拠があるんだ」
…妻のなずなに裏切られ、失意のうちにいた明生。
半ば自暴自棄の彼はふと、ある女性が発していた不思議な"徴(しるし)"に気づき、徐々に惹かれて行く…。
様々な愛のかたちとその本質を描いて第142回直木賞を受賞した、もっとも純粋な恋愛小説。


            * * * * * * * * *

私には初めての作家ですが、直木賞受賞作ということで興味を持って読んでみました。
別に権威に弱いわけではありませんが、
新たな作家を知る機会ではあると思うのですよね。


本作、主人公明生は資産家の御曹司ながら、
なぜか家族の中で自分だけ出来が悪く違和感が大きいため、早くに家を出ているのです。
誰もが「御曹司」のレッテルで自分を見て、嘲笑っているように思えるのだけれど、
キャバクラで出会ったなずなだけが、
素直にありのままの自分を気に入ってくれた(と思った)から結婚。
しかし実はなずなには以前から忘れられない人がいた・・・。
彼は次第に
「ベストの相手を見つけけた時には、何かこの人に違いないという証拠がある」
と思うようになります。
そういう意味で、なずなはベストの相手ではなかった。
彼が見つけた本当の相手とその証拠とは・・・?


まあ、ロマンチックなストーリーではありました。
でも、なんて言うか、どうも妻なずなのことがよくわかりません。
著者にすれば、
「女なんてどうせ男にはわからない」
という思いがあるのかも知れませんが、
女から見てもこんなにわけの分からない女ってそうはいないのでは? 
と言うか、魅力なさすぎ。
なんでこんな女と結婚したのか、それがそもそもいい加減です。
東海さんとの経緯は、結構いい感じで書かれていたと思います。
それだけに、なずなとのことは、単に物語上の障害を作るためだけのものに感じられてしまいます。
イマイチ、のめり込めなく思いました。


同時収録の「かけがえのない人へ」では、
さらにわけの分からない女性みはるが登場します。
彼女には結婚が決まっている男性がいるのですが、
同時に以前愛人関係にあったかつての上司とよりを戻し、
同じ日に掛け持ちで二人と逢ったりしているのです。
この二人はなんとSMプレイもどきを繰り広げます…。
(ちょっと焦りました)
いや、確かに私は古い女なのかもしれません。
単に結婚は「キャリア」と同じで、
どんな相手とでもいいからとにかく一度はしておくべき、
というみはるには好感も持てないし、納得もできません。
いえ、これが全くのフリーで、とにかく結婚してみようかと焦っているというのならまだしも、
彼女はどう見ても愛人の方を愛してますよねえ・・・。
だからラストは納得できるのですが・・・。
結局男のヒロイズムを満足させるだけのような気がしてしまいます。
女性と男性とで評価がわかれるのではないかと思いました。


「ほかならぬ人へ」白石一文 祥伝社文庫
満足度★★☆☆☆


幸せパズル

2013年02月21日 | 映画(さ行)
自分自身の解放



            * * * * * * * * *


50歳の誕生日を向かえた専業主婦マリアは、夫と二人の息子と暮らしています。
まあ、一般的にいえば、満ち足りた生活。
しかし、本人はどこか満たされないようにも見受けられます。
その日、彼女は誕生日プレゼントにもらったジグゾーパズルに、意外な楽しさを感じます。
彼女は、パズル大会のパートーナー募集をしている人がいることを知り、
その人物の家を訪ねるのですが、思いがけず、裕福な独身紳士ロベルトと対面します。
二人はチームを組み世界選手権出場を目指すことに・・・。



ロベルト氏に才能を認められたマリアが、その帰り道に見せる満ち足りた表情。
まるで少女のように明るく輝いていて、素敵だと思いました。
家庭でのマリアは、常に妻であり、母であります。
夫も息子たちも自分を愛している。
そのことは間違いないと思うけれど・・・。
毎日毎日食事の支度をして、けれどただそれが当たり前と思われ、
得意技の料理を褒めてももらえない。
そんな中でどんどん自分の存在感が薄く思われてきていたのではないでしょうか。
ジグソーパズルに取り組むことで、
妻でも母でもない、一人の女としての自分、彼女はそれを見つけたのだと思います。
そうして彼女は自分自身を開放していくのです。



男女がチームを組んで一つのことをやり遂げようという時に、
親密になり心を通わせるようになっていくのは当然の事のように思います。
でもこれはやはりそうした情事の物語ではありません。
「そうあるべき」と規定されてしまった自分の枠を打ち砕くこと、
彼女にはそれが必要だったのだと思えます。
そうして見つけた“自分自身”を心のなかに持っていれば、
家庭生活もまた輝いて見えてくる・・・、
マリアはそのように回帰していくのではないでしょうか。
男性はどう見るかわかりませんが、私は好きなストーリーでした。



アルゼンチンの家庭事情。
作中で垣間見えるそれも、なかなか興味深いのです。
次男の彼女は東洋かぶれ。肉は食べない、菜食主義。
次男も感化され、一緒にインドに行くなどと言い出す始末。
マリアには馬鹿じゃないの?と思えます。
でもたぶん、このストーリー後の彼女は「勝手に、好きなようにすれば?」というでしょうね。



幸せパズル [DVD]
ナタリア・スミルノフ,アレハンドロ・フラノフ
アルバトロス


「幸せパズル」
2009年/アルゼンチン・フランス/90分
監督:ナタリア・スミルノフ
出演:マリア・オネット、ガブリエル・ゴイティ、アルトゥーロ・ゴッツ、ヘニー・トライレス、フェリペ・ビリャヌエバ
日常性★★★★★
満足度★★★★☆

ムーンライズ・キングダム

2013年02月20日 | 映画(ま行)
私たちがなくした王国



            * * * * * * * * *

ウェス・アンダーソン監督独特の色調と、ちょっぴりへんてこな人々が織りなすドラマ。
今作も楽しいですよ。



1960年代ニューイングランド沖のニューペンザンス島という全長26㎞ばかりの小さな島。
12歳少女スージーは本が好きな孤独な女の子ですが、
問題児とされ、家族にとけ込めません。
一方、ボーイスカウトキャンプ中の同じく12歳サムも、仲間にうまく溶け込めないのです。
二人は1年ほど前から文通をしていて、
この日示し合わせて駆け落ちを決行。

二人がいなくなったことを知った島の大人たちは大騒ぎで、二人の捜索を始めます。
一方二人は、誰にも知られていない美しい入江“ムーンライズ・キングダム”で、
泳いだりダンスをしたり、初めてのキスをしたり・・・。
そんなうちに天候が怪しくなり、
島を前代未聞の大嵐と大洪水が襲う。


この色調や雰囲気。
アメリカにも“昭和”のノスタルジーがあると見えますね。
レコードプレーヤーにオープンリールのテープレコーダー。
パソコンもケータイもないことになんだかホッとさせられるような・・・。
メールではなくて、“文通”ですからね。


主役少年少女は新人ですが、
その脇を超豪華ベテランキャストが固めています。
島の警官にブルース・ウィリス。

ボーイスカウトの隊長にエドワード・ノートン。

どちらもちょっと頼りないトホホな感じなんですが、
こんな普通に人のよさそうなブルース・ウィリスも珍しい。
かと思えば、ティルダ・スウィントンは冷徹なお役人だし。



孤独な魂が寄り添った、少年少女の冒険譚。
だけど、今作はそれだけではないんですね。
そういう冒険心をなくして、毎日がくすんでしまっている大人たち。
決してその大人たちをあおってはいません。
まあ、大人とはそういうものなんだよ・・・という諦念が漂うような。
けれども大人は大人として、そういう子どもたちの向こうみずさや夢を守るべきものなのだ
・・・と言っているような気がしました。
私達“大人”がかつて持っていたそれぞれのキングダム。
もうそれを取り戻すことはできないけれど、
今子どもたちの持つキングダムは尊重しよう。
それこそが大人の分別である、と。
ボーイスカウトの少年たちも、自分達の非を悟って思わぬ行動に出ますよね! 
だから子どもたちっていいなあ~。



また、本作は音楽が面白かったですね。
言ってみれば今作、サムとスージーが主旋律を奏でている。
そして周りの人々が様々な楽器でそれぞれのパートを受け持ち、
ハーモニーを生み出し、全編で素敵なオーケストラとなっているのです。
大人ぶったサムとスージーの行動も見ものです。
得した気分になる一作。


「ムーンライズ・キングダム」
2012年/アメリカ/94分
ノスタルジー★★★★☆
冒険度★★★☆☆
満足度★★★★☆


「禁断の魔術 ガリレオ8」東野圭吾

2013年02月18日 | 本(ミステリ)
教え子に正しく科学を教えてやれなかったことに対する罰だ

禁断の魔術 ガリレオ8
東野 圭吾
文藝春秋


            * * * * * * * * *

『虚像の道化師 ガリレオ7』を書き終えた時点で、今後ガリレオの短編を書くことはもうない、
ラストを飾るにふさわしい出来映えだ、と思っていた著者が、
「小説の神様というやつは、私が想像していた以上に気まぐれのようです。
そのことをたっぷりと思い知らされた結果が、『禁断の魔術』ということになります」
と語る最新刊。
「透視す」「曲球る」「念波る」「猛射つ」の4編収録。
ガリレオ短編の最高峰登場。


            * * * * * * * * *

ガリレオシリーズはもうおなじみ、
最新の科学技術を取り入れたミステリですが、それがもう8巻目。
私などには説明を聞いても理解できない内容ばかりではありますが、
常にこうしたネタを取り入れる著者の研究心と言うか探究心に、
感服させられてしまいます。
透視能力?テレパシー? ほとんどオカルトに近い「透視す(みとおす)」や「念波る(おくる)」。
科学で解決できることもできないことも織り交ぜて、快調に著者の筆は進みます。


圧巻はやはり最期の「猛射つ(うつ)」。

湯川のところに彼の出身高校の後輩が訪ねてきます。
以前、物理部がこのままでは廃部になりそうなのだけれど、部員を集める方法はなにかないだろうか
と相談を持ちかけた彼。
そこで、湯川は彼にある実験を示唆し指導もしたのですが、
その少年が、今度この大学に合格したと、嬉しそうに報告に来たのでした。
ところがその後、その少年は大学をやめ、工場で働き始めます。
彼の姉が亡くなったためというのですが・・・。
更に彼は、ある殺人事件の容疑者になってしまうのですが、
湯川にはそれが信じられません。
ある政治家と、フリージャーナリスト、少年の姉。
そして少年。
彼らをつなぐものとは・・・。
今作では危うく湯川が殺人者になるところでした。

「自業自得だ。教え子に正しく科学を教えてやれなかったことに対する罰だ」
と、つぶやく湯川。
なんとも心憎いですね・・・。
それにしても、科学技術とは人類にとっての福音ではありますが、
使い方によっては恐ろしい凶器・武器にもなる。
それを使うのが神ではなく、過ちの多い人間だからこそ、慎重にならなければ・・・。
でもまあ、お陰でこのような興味深いミステリが仕上がるというわけでもあります。

「禁断の魔術 ガリレオ8」東野圭吾 文藝春秋

満足度★★★★☆

ディアボロス 悪魔の扉

2013年02月17日 | 映画(た行)
心の底に潜む欲望は、悪魔の扉

            * * * * * * * * *

ホラー作品ではありますが、前半はほとんど普通の法廷ものとも思える日常。
日常の中に潜む何かほの暗いもの・・・
そういった押さえ気味の演出が、後半を盛り上げています。


フロリダの若手弁護士であるケヴィン(キアヌ・リーヴス)は、
法定での無敗記録を伸ばし続けていました。
その功績を買われ、ニューヨークの大手法律事務所からスカウトの声がかかります。
社長のジョン・ミルトン(アル・パチーノ)は
ケヴィンを非常に気に入り、破格な役員待遇で彼を迎え入れます。
さっそく、仕事に打ち込み、また成績を上げていくケヴィン。
一方妻のメアリー・アン(シャーリーズ・セロン)は、
始めのうちは豪華なマンションに舞い上がっていましたが、
何もすることがなく、なかなか帰らない夫を待つだけの生活に、
次第に精神の変調をきたしてきます。


ケヴィンは自己の勝ち星を得るため、
明らかに有罪と思われる被告人までをも、無罪としてしまうことがあるのです。
虚栄心。
それは悪魔のささやき声。
妻よりも何よりも己の虚栄心を優先してしまう結果、
悲劇は起こるのです。


誰にでもある心の奥底・・・。
自分でもそう深くは突き詰めることもないその心の奥底は
直視するとちょっと怖い。
確かに、そこには悪魔が住んでいるのかも知れないけれど
・・・でも、きっとそこには神も同居しているに違いない。
だからこその、驚きのラストなのでした。
予想外!
さすが名優アル・パチーノ、
笑っていながらも不気味で怖い、すごい存在感でした。

ディアボロス [DVD]
キアヌ・リーブス,アル・パチーノ,シャーリズ・セロン
日本ヘラルド映画(PCH)


ディアボロス/悪魔の扉 [Blu-ray]
キアヌ・リーブス,アル・パチーノ
ワーナー・ホーム・ビデオ


「ディアボロス 悪魔の扉」
1997年/アメリカ/144分
監督:テイラー・ハックフォード
出演:キアヌ・リーヴス、アル・パチーノ、シャーリーズ・セロン、ジェフリー・ジョーンズ


意外性★★★★☆
満足度★★★★☆

アルバート氏の人生

2013年02月16日 | 映画(あ行)
ふんわり包み込むような優しさ・・・ひなびた味



            * * * * * * * * *

19世紀、アイルランドのダブリン。
自由を得るために、男性として生きなければならなかった一人の女性の物語。
この頃のアイルランドは飢饉と疫病で、大勢の人が亡くなったという大変な時代だそうです。
時代的にも女性が一人で生きるというのは大変難しかった。
そんな中でアルバート・ノッブス(グレン・クローズ)は、
40年間女性であることを隠し、ホテルの執事として働いていたのです。

あるときアルバートは、ペンキ屋のヒューバート(ジャネット・マクティア)と出会います。
そして彼に感化され性別を偽り続けて生きていくことに疑問を覚えるのです。
これまでコツコツと貯めてきたお金で自分の店を持ちたい。
できれば、自分を理解してくれる良きパートナーと共に・・・。
夢が膨らむアルバートは、同じホテルのメイドであるヘレン(ミア・ワシコウスカ)に声をかけますが・・・。



ヒューバートの正体には驚いてしまいました。
役者さんをちゃんと知っている方なら、配役を見ただけでからくりはわかったはずですが、
私はわかっていなかったので・・・。
だって、この驚きはアルバート以上です。
どこからどう見ても普通にナイスガイなんだもの。
けれど、このようにエネルギッシュに生きていくこともできるのかと、
アルバートには非常な驚きだったわけですね。

もう殆ど枯れた老人のアルバートが、
若く活き活きとしたヘレンを必死でかまおうとするのが、
ちょっぴりユーモラスでもありました。
ところが人の思惑なんて、たいていは的外れ。
ヘレンにはヘレンの事情というものがある・・・。
人の思いのベクトルが行き違いすれ違って、皮肉な様相を呈してきます。
単に性の倒錯の物語だけではなく、
人生の悲哀とユーモアをしっとりと現した名作。
実は悲しい終わり方なのですが、あまり悲壮感がない。
何かふんわり包み込むような優しさが漂う作品です。



人々がたぶん訛りのある言葉で話しているのが分かりました。
アイルランド訛りですね。
それでたぶん英米の方なら、とてもひなびた感じのする作品なのだろうと思います。
グレン・クローズは1980年代にこの役を舞台で演じてから、ずっと映画化を夢見ていたそうです。
そんな訳で、本作では制作・脚本も務めています。
そういうこだわりがあればこその力作でした。



あの役作りというのがすごいですね。
もちろん演技力が一番物を言いますが、
メイクなどの力もかなりあるのでは?
ドレス姿の海岸の散歩シーンは、どう見ても“女装の男性”で、
そこがまた皮肉で可笑しみがありました。
そう思わせるというのが、すごい技術だと感じ入ってしまったわけです。
アーロン・ジョンソンは、しょうもない役でしたが、いい男!!

2011年/アイルランド/113分
監督:ロドリゴ・ガルシア
出演:グレン・クローズ、ミア・ワシコウスカ、アーロン・ジョンソン、ジャネット・マクティア、ブレンダン・グリーソン

「アルバート氏の人生」
人生の悲哀とおかしみ★★★★☆
歴史学習★★★☆☆
満足度★★★★☆


「横道世之介」 吉田修一

2013年02月14日 | 本(その他)
愛すべき押しの弱さ

横道世之介 (文春文庫)
吉田 修一
文藝春秋


            * * * * * * * * *

大学進学のため長崎から上京した横道世之介18歳。
愛すべき押しの弱さと隠された芯の強さで、様々な出会いと笑いを引き寄せる。
友の結婚に出産、学園祭のサンバ行進、お嬢様との恋愛、カメラとの出会い…。
誰の人生にも温かな光を灯す、青春小説の金字塔。
第7回本屋大賞第3位に選ばれた、柴田錬三郎賞受賞作。


            * * * * * * * * *

私の知っている吉田修一作品といえば、「パレード」に「悪人」。
ちょっと暗かったのです。
でも今作、なんだかとてもほんわかしている。
それはひとえにこの世之介くんの性格のためと言えましょうか。
なんだか時代がかった名前ですが、
本の紹介にある通り、「愛すべき押しの弱さ」。
お人好しで、適当のようでいて、
しっかり人を見ていて、なんだか温かい。
実は「世之介」というのは井原西鶴「好色一代男」の主人公の名前なんですね。
・・・つまりはその道を極めた男の名前ではありますが、
今作はそこまで破廉恥なシーンはないので、ご安心を・・・。
世之介が東京に出てきた一年間を描いているわけですが、
時々、そのおよそ20年後の友人たちの話が挿入されています。
世之介が出会った友人たちの20年後の姿・・・。
それは意外なような、納得のような・・・、
それぞれの時の流れが感じられて、物語に奥行きが出ています。
ところが気になる、
肝心の世之介はどうなっているのか・・・?


実はそこには衝撃的な秘密が隠されているのです。
ショックだったのですが、
でも世之介らしいなあ・・・と思わずにいられません。
「パレード」も「悪人」もいいけれど、これも捨てがたい。
いや、正直この方が好き。


私は正真正銘お嬢様の祥子さんが好きでした。
彼女もまた意外な人生を歩みますが、
たぶんその根っこには、世之介と体験したあの事件がありますね。


・・・ということで、これも映画化され、まもなく公開です。

「横道世之介」吉田修一 文春文庫
満足度★★★★☆

ラスト・オブ・モヒカン

2013年02月13日 | 映画(ら行)
アメリカがまだ植民地だった頃

            * * * * * * * * *

本作を見た同じくらいの時期には「96時間リベンジ」、「5デイズ」、そして本作と続きました。
たまたまではありますが、「殺戮とその報復の話」ばかり。
どうしても一方からの正義の話になってしまうのですが、
この3作ではどれもそれには裏がある、
報復のし合いはきりがないのだ、
ということを匂わせているところが、ちょっぴり救いだと思いました。


さて、本作の舞台は18世紀半ば。
まだアメリカが英国やフランスの植民地であった頃のストーリーです。
英仏がこの大陸の土地をめぐって戦争をしていた。
そしてそれがそこに居住しているネイティブアメリカンの種族間の抗争をも引き起こしていた
・・・というのが背景です。
ホークアイ(ダニエル・デイ=ルイス)は英国人開拓者の孤児で、
モヒカン族に育てられました。
そのため見かけは普通に西洋人ですが、生活の仕方、物の考え方はモヒカン族。
その彼が、フランス側につくヒューロン族に襲われた英国大佐令嬢姉妹を救うという物語。


冒頭で開拓民とネイティブアメリカンが
親しく助け合い協力し合いながら生活しているシーンがあります。
多くの西部劇では対立関係なのですが。
つかの間のこの光景を壊していくのが、英仏の戦争。
アメリカに独立戦争や南北戦争以前にもこういう歴史があったというのは知らずにいまして、
全く勉強不足でした。
勇敢で誇り高いネイティブアメリカン。
今作は彼らを蹂躙し尽くしたアメリカ人の
贖罪のような物語なのではないかと思いました。

ラスト・オブ・モヒカン [DVD]
ダニエル・デイ=ルイス
ポニーキャニオン


ラスト・オブ・モヒカン ディレクターズカット [Blu-ray]
ダニエル・デイ=ルイス,マデリーン・ストー,ジョディ・メイ
ワーナー・ホーム・ビデオ



「ラスト・オブ・モヒカン」
1992年/アメリカ/112分
監督:マイケル・マン
原作:ジェームズ・フェモニア・クーパー
出演:ダニエル・デイ=ルイス、マデリーン・ストウ、ジョデイ・メイ、ラッセル・ミーンズ、スティーブン・ウェディントン

歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★☆☆

マリーゴールド・ホテルで会いましょう

2013年02月12日 | 映画(ま行)
異文化・異世代の化学反応



            * * * * * * * * *


「神秘の国の高級リゾートホテルで、魅惑の日々を・・・!」
こんなキャッチフレーズとステキなガイド写真につられて、
イギリスからインドの「マリーゴールド・ホテル」に7人の男女がやって来ました。

ところが、実際についてみると
そこは、若くて頼りない兄ちゃんの経営する「近いうちに豪華になる予定」という
なんともオンボロのホテル。
町は人混みでいっぱい。
喧騒に渦巻き、ゴミゴミしていることこの上ない。
こんな状況を、前向きに受け入れて楽しむか、はたまたひたすら呪うのか、
そんなところにそれぞれの個性・人間性が現れてきます。


彼らははるばるインドまでバカンスに来たのではないのです。
それぞれ一つの人生を乗り越えて、
後は豊かな余生を送ろうと思ってきたのです。
彼らにとっては最期のなけなしのお金をはたいて。
だから期待はずれだったとしても、もう帰ることもできません。



未亡人となり一人で生きようと決めたイブリン(ジュディ・デンチ)は、
積極的に飛び込まなくては・・・と、町へ乗り出します。
さらなるロマンスを求める人。
昔の切ない思いを確かめようとする人。
この地をひたすら嫌悪する人。
それぞれの思いがこのカラフルでエネルギッシュな地で変化し、
彼らは成長していきます。



今どんどん新しく変わりつつあるインドの様子も伺われました。
この地の人々が持つ活力が感じられます。
そして、ここにうんと若いインドの男女を配したのもいいですよね。
異なる文化。
異なる世代。
それが非常にステキな化学反応を呼び合っているのです。


中でも、足の治療にこの地を訪れたミュリエル(マギー・スミス)は、
始めはインド人の医者など全然信用出来ないというふうでしたが、
ある時から大きく変わっていきます。
この人はどうしようもないな・・と、始め思っていたのですが、
彼女の変わり方が一番かっこよかったですね!
人はいくつになっても変わることができるのでしょう。
きっと。
ただ、周りの人々や環境が逆に自分自身を規定していて、
がんじがらめになってしまっている。
だからそういうところから全く離れて、こうした冒険に乗り出すというのもなかなかいいなあ・・・と、
ちょっぴり憧れてしまいました。



「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」
2011年/イギリス・アメリカ・アラブ首長国連邦/124分
監督:ジョン・マッデン
出演:ジュディ・デンチ、ビル・ナイ、トム・ウィルキンソン、マギー・スミス、デブ・パテル

異国情緒度 ★★★★☆
それぞれの人生満喫度★★★★★
満足度★★★★☆