映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

わたしは生きていける

2014年09月30日 | 映画(わ行)
自立して“生きていける”



* * * * * * * * * *

出生時に母親を亡くしたアメリカの少女デイジー(シアーシャ・ローナン)。
イギリスの叔母やいとこ達と一夏を過ごすために、単身イギリスへやってきます。
仕事に忙しい父親には愛されていないと感じており、
いつもヘッドホンで音楽を聞き、
けばい化粧で精一杯虚勢を張り、
人を受け入れようとしない・・・。


この冒頭、なんだか「思い出のマーニー」を思い出してしまいました。
このトゲトゲしいデイジーを変えていくのは、マーニーならぬ3人のいとこ達。
特に長兄のエディー(ジョージ・マッケイ)には、
出会ってまもなく恋心が芽生えます。



イギリスの美しい田園風景。
そして、あんなにおもいっきり嫌味でいけ好かない態度のデイジーを嫌いもせず、
遊びの誘いをするこの兄弟たちの純朴さ。
そういうものが彼女の凍りついた心を少しずつ溶かしていきます。



さて、ここまではどこにでもありそうなストーリー。
しかし、なんと突如ロンドンでの核爆発テロをきっかけに、
第3次世界大戦が勃発。
デイジーたちは軍に拘束され、離れ離れとなってしまいます。
「何があっても、きっとここに戻ってくるんだ。」
別れ際のエディーの言葉を胸に、
デイジーは軍の施設を脱出し、危険に満ちたサバイバルの旅に出る・・・。



いったい何がどうなって、どことどこが戦争になったのか。
そういうことは一切語られません。
つまり、政治や国際情勢などにはほとんど関心がない子どもたちにとっては、
戦争はそういうものなのかもしれません。
ある日突然やってくる地震や津波と同じようなもの・・・。
叔母は戦争が始まる前に出張で家を出ており、
この困難に子どもたちだけで立ち向かわなければならなかったのです。
というか、仕事に忙しい叔母は家事も何もかも、
子どもたちの世話もほったらかしで、
初めからいないのも同然でした。
にも関わらず、しっかりいい子たちに育ちましたよねえ・・・。
いや、そもそもこんなに多忙なこの人が、
なぜこんなど田舎に住んでいたのかが最大の謎・・・。
まあ、ネットで情報さえ入れば仕事には十分だった、ということか・・・。



もしかしたら本作は、
現在、オトナなどは少しも頼りにならないのだ。
だから自分で生きていかなければならないのだ
・・・という、少年少女に向けた密かなメッセージなのかも・・・。



それにしても、人ときちんと向きあおうともしなかったデイジーが、
まだ幼い従姉妹をかばいながら、生き抜くための旅をする
・・・この目覚ましい成長ぶりが胸を打ちます。
人を生かすのは愛と希望なのだなあ・・・。
ラストが甘くなり過ぎないところも、気に入っています。
無事エディと再開し、
今度はエディに頼りっきりの生活になる・・・
という流れを避けたかったのかもしれません。
デイジーはもはや誰の助けも必要とせずに、“生きていける”のでした。


エディー役のジョージ・マッケイは、
つい最近「サンシャイン 歌声がひびく街」にも出ていました。
一見してハッとするほどのハンサムではないけれど、なんかいいですよね。
こういう感じ、結構好きなのです。
また、別の作品でもぜひお会いしたい!!


「わたしは生きていける」
2013年/イギリス/101分
監督:ケビン・マクドナルド
原作:メグ・ローゾフ
出演:シアーシャ・ローナン、ジョージ・マッケイ、トム・ホランド、ハーリー・バード、ダニー・マケボイ

「ペットのアンソロジー」 近藤史恵他

2014年09月28日 | 本(その他)
生身の犬のぬくもり、息遣いが・・・

ペットのアンソロジー (光文社文庫)
我孫子 武丸,大倉 崇裕,汀 こるもの,皆川 博子,大崎 梢,近藤 史恵,森 奈津子,太田 忠司,井上 夢人,柄刀 一
光文社


* * * * * * * * * *

「ペット」をモチーフに、短編を一作書いていただけませんか?
愛犬家としても知られる作家・近藤史恵氏が
「この方のペット小説を読んでみたい」
と思った作家に執筆を依頼。
盛り沢山な作品が揃いました。
登場するのは犬、猫から爬虫類、鳥まで、
中身も涙なくしては読めない作品から爆笑必至の作品までと、多種多彩。
小説のなかで、生き物と寄り添ってみてください。


* * * * * * * * * *

先に「和菓子のアンソロジー」を読んで、痛く気に入ってしまったので、
同シリーズの本作「ペットのアンソロジー」も読んでみました。
近藤史恵さんがリクエストした執筆陣は、
我孫子武丸、井上夢人、大倉崇裕、太田忠司、
近藤史恵、柄刀一、汀こるもの、皆川博子、森奈津子。
ペットといえばつい「カワイイ」だけになりがちですが、
さすがにこの方々、そう単純ではありません。


冒頭、森奈津子「ババアと駄犬とわたし」は、
隣家に住む、人の迷惑お構いなしのクソババア(失礼!)を忌々しく思っていた私が、
その飼い犬である何もかまってもらえず薄汚いハスキーを通じて、
ほんの少し気持ちを歩み寄らせていく・・・というストーリー。
イヤ、こんな犬でもやっぱり愛おしく思えてしまう私も、
とにかく犬好きなんですよね。


ペットと言っても、カワイイものばかりとは限らない。
汀こるもの「パッチワーク・ジャングル」は、なんと爬虫類です。
トカゲとかヤモリとか私にはよくわかりませんが、
とにかくそういうものを愛する(?)人はいて、
でもなんとなくオタクっぽいですよね。
本作はそういう人を夫に持ってしまった、妻の視点で語られています。
夫のそういう趣味を全否定はしていなくて、
まあ、しょうがない・・くらいのところ。
この夫婦の関係性が結構気に入ってしまいました。
恋人ではなく、夫婦。
実にそういう味わいがあります。
実は私、この方の本を読んだことがないと思うのですが、ちょっと興味が出ました。


異彩を放っているのが井上夢人「バステト」。
古代エジプトで女神とされていた猫の姿をしたバステト。
黒曜石でその姿を模した置物にまつわるストーリーです。
自殺願望を持つ主人公が、
何やらラブストーリーに発展するのか?と思った刹那、
実に意外な結末!! 
いやはや、唖然とさせられます。


私は、やはり犬を描いた作品に心惹かれました。
ラスト近藤史恵「シャルロットの憂鬱」に登場する犬には、
もっとも生身の犬の息遣いやぬくもりを彷彿とさせられました。


シリーズの3番目「本屋さんのアンソロジー」も、いよいよ外せなくなりました!!

「ペットのアンソロジー」近藤史恵他 光文社文庫
満足度★★★★☆

セブン・サイコパス

2014年09月27日 | 映画(さ行)
犬よりも軽い人の命



* * * * * * * * * *

脚本家のマーティ(コリン・ファレル)は、
新作映画「セブン・サイコパス」の執筆が進まず、行き詰っています。
そんな時、親友で売れない役者のビリー(サム・ロックウェル)が、
ネタ集めのためサイコパス募集の広告を勝手に出してしまいます。

また、犬を誘拐し、せこく礼金稼ぎをしていたビリーとその友人ハンス(クリストファー・ウォーケン)には、
マフィアのボスの犬を盗んでしまったために危険が迫ります。

何やらかにやらで、執筆中のネタではなく、
マーティの実生活の上でサイコパスがより集まってくるのですが・・・



そもそもサイコパスとは・・・(Wikipediaより)
小学館の大辞泉には
「精神病質(その人格のために本人や社会が悩む、正常とされる人格から逸脱したもの)である人」
と記載されている。

サイコパスは社会の捕食者(プレデター)であり、
極端な冷酷さ、無慈悲、エゴイズム、感情の欠如、結果至上主義が主な特徴で、
良心や他人に対する思いやりに全く欠けており、
罪悪感も後悔の念もなく、社会の規範を犯し、
人の期待を裏切り、自分勝手に欲しいものを取り、好きなように振る舞う。
その大部分は殺人を犯す凶悪犯ではなく、身近にひそむ異常人格者である。
北米には少なくとも200万人、ニューヨークだけでも10万人のサイコパスがいると、
犯罪心理学者のロバート・D・ヘアは統計的に見積っている。

先天的な原因があるとされ殆どが男性である。
脳の働きを計測すると、共感性を司る部分の働きが弱い場合が多いという。

日本の法律「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」の第5条では精神障害者と定義している。



・・・なるほど、これを見る限りサイコパス=殺人鬼というわけではないけれど、
何しろ罪悪感も何もないわけだから、殺人鬼になる可能性は大きいということなのでしょう。



さて本作は、虚構のようでいて、いつしか現実。
そういう不気味さが迫るサスペンスです。
そんな中で、ハンスの数奇な生涯が次第に明らかになっていくのですが、
これがなかなか胸を打つのです。

「ある日娘が惨殺され、父親は犯人を激しく憎む。
犯人はすぐに捕まり刑務所に入り、そして何十年かの後出所。
しかし、いつもその父親が彼を憎しみの目で見据えつつ、つきまとう。
実際になんの手出しもしないのだけれど、
付きまとわれる男は次第に精神に変調をきたしていき、
ある日、男がどうやってもついて来られない“地獄”へ行ってしまおうとする。
しかし男がそうするのであれば、父親もまた・・・」

これはビリーがネタの一つとして、マーティに語った物語ですが、
実はハンスの身の上のことなのでした。
修羅場をくぐり抜けてきたハンスは、やはりひと味違うのです。
彼がマーティに残した一つのサイコパスのエピソードが良いのです。



ここに登場するサイコパスは、
単に殺人に喜びを見出すという猟奇的なもの、
復讐のためのもの・・・、
正義を気取ったもの・・・
いろいろですが、いずれにしても犯人はどこか壊れた感じがします。
当然ではありますが・・・。
そういうものをイヤというほど見て、
マーティは一皮むけて根性の座ったオトコになっていきますね。



それにしても、犬よりも人の命が軽い・・・、そういう皮肉な作品なのでした。

セブン・サイコパス [DVD]
コリン・ファレル,サム・ロックウェル,ウディ・ハレルソン,クリストファー・ウォーケン,トム・ウェイツ
TCエンタテインメント


「セブン・サイコパス」

2012年/イギリス/110分
監督:マーティン・マクドナー
出演:コリン・ファレル、サム・ロックウェル、ウッディ・ハレルソン、クリストファー・ウォーケン、トム・ウェイツ
残虐度★★★★☆
満足度★★★☆☆

リスボンに誘われて

2014年09月25日 | 映画(ら行)
地味な教師がたどる、ある鮮烈な人生



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スイスの高校で古典文献学教師をしているライムント・グレゴリウス(ジェレミー・アイアンズ)。
妻と別れ一人暮らし。
淡々と仕事をこなし、それを良しとしている毎日でしたが・・・。
ある時、1冊のポルトガルの古書を手に入れ、
その著者アマデウ・デ・プラトに興味を惹かれます。
彼は仕事も放り出し、ポルトガルはリスボン行きの夜行列車に乗ったまま帰らず、
アマデウの家族や友人を訪ね歩き、
その素顔と鮮烈な人生を明らかにしていきます。



冒頭がとても印象深いのです。
雨の中学校へ向かうライムントが
橋の上から身投げしようとしている女性を引き止める。
彼女の着ている赤いコート。
いかにも地味で退屈なこれまでの人生に、何かが起こる。
そういうことを暗示しています。
ポルトガルの本はこの女性が残したのでした。



本の著者の思考に「まるで自分自身のようだ」と深い共感を覚えたライムント。
しかし調べていくうちにわかったのは、
アマデウはポルトガルの激動の時代を生きた人物であったということ。
1970年代独裁政権の圧政下のポルトガル。
医師として関わったある事件。
危険な反体制運動への参加、
そして親友を裏切るほどの激しい恋。



でも、すべては過去の出来事です。
それを知ったからといって、彼の人生が変わるわけではない
・・・が、しかし。
仕事の存続を賭けてまでこの地にとどまり、アマデウの人生をたどって得た感銘は、
ライムントをも少し変えたようです。



沈んだ過去のストーリーですが、
本作の底の方にほんのりしたユーモアが漂っていて、なんだか和んだ気持ちにさせられます。

赤いコートを持っただけで、列車に飛び乗ってしまうライムント。

教師が女性と一緒に授業を抜けだしたままで、大騒ぎになっている彼のクラス。

野暮ったい眼鏡を軽い銀縁のメガネに変えて、オシャレゴコロが蘇るライムント。
うん、渋い。
まだまだモテますよ!

早く女性を食事に誘えばいいのに、と密かにやきもきする宿屋のオジサン・・・。

どこかやることがスマートではない、き真面目な教師の姿が浮き上がってきます。
でも、そこが魅力です。



そしてまた「過去」編のアマデウ(ジャック・ヒューストン)も素敵です。
当時の体制側も反体制側も、当時のことは語りたがらない・・・というような悲惨な歴史。
実際私も生きていた時代なのですが、よく知ってはいませんでした。
静かなる良品。
オススメです。

「リスボンに誘われて」

2013年/ドイツ・スイス・ポルトガル/
監督:ビル・アウグスト
原作:パスカル・メルシエ
出演:ジェレミー・アイアンズ、メラニー・ロラン、ジャック・ヒューストン、マルティナ・ゲデック、トム・コートネイ

歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★★★

「信長協奏曲 11」 石井あゆみ 

2014年09月24日 | コミックス
おゆきちゃん編

信長協奏曲 11 (ゲッサン少年サンデーコミックス)
石井 あゆみ
小学館


* * * * * * * * * *

いよいよ、10月からテレビドラマ開始ということで、
気分は盛り上がります。
信長協奏曲最新刊。


上杉謙信からの間諜として信長側に潜入しているおゆきですが、
次第にサブロー信長に惹かれていきます。
隔てなく親しげに話しかけてくる信長に戸惑う彼女ですが、
明智光秀と彼が瓜二つであり、
しかもどうやらホンモノの信長は光秀の方だと知るに及んで、混乱を隠せません。
本巻は、そんなふうに心千々に乱れるおゆきが中心になって描かれます。
おゆきの姉や幼なじみのとき丸とのエピソードもいい味出ています。
髪をバッサリ切ったおゆきを見て信長は
「久しぶりに髪短い女の子見たら、なんかなつかしいわー。
現代風で逆に新鮮・・・」
なんて言ってる。
ホントにのんきですね、この人は・・・。


さて、まもなく始まるTVドラマの情報も色々と入ってきましたが、
原作とはかなり変えているところがあるようです。
そもそも原作自体がまだ半ばなので、ストーリー運びには工夫がいるのでしょう。
原作はサブローがタイムスリップしてきたことと
ホンモノの信長と入れ替わったということ以外は
割と地味~な歴史語りなんですよね、考えてみると。
ドラマでは少し物足りなくなりそうなためか、
夫が入れ替わっても気づかないチョッピリ天然な妻・帰蝶と
サブロー信長の心模様をメインとしているようです。


健闘していたキムタクHEROのアトガマ・・・ということで大変でしょうけれど、
応援したいと思います。

豪華出演陣は・・・

小栗旬、柴咲コウ、山田孝之、向井理、藤木直人、夏帆、濱田岳・・・

徳川家康に濱田岳さんって、どうなの?
と普通思うかもしれませんが、
本作のイメージだとなるほど、と思います。
竹中半兵衛は出てくるけど、黒田官兵衛は出てこない。
う~ん、残念。

こんなのもあります


信長協奏曲 11 ドラマCD付き特別版 ([特装版コミック])
石井 あゆみ
小学館



「信長協奏曲 11」石井あゆみ 少年サンデーゲッサンコミックス
満足度★★★☆☆
だって、サブロー側のストーリーはあんまり進展しなかったのだもの・・・(^_^;)

トニー滝谷

2014年09月23日 | 西島秀俊
服を買いまくる女とその夫



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え~と本作も西島秀俊カテゴリ?
西島さんは「語り手」だけで、映像には表れません!!
残念・・・。
だけど、西島さんの魅力はこのチョッピリ甘い「声」でもあるので、いいですよ~。
 作品自体が淡々と進んでいくので、それにマッチした穏やかながら淡々とつぶやくような語り。
 これもいいものです。
 またその語りの合間にときどき、役者さんが自分でつぶやくところが良かったな。


さて、本作はまた、なかなかユニークじゃないですか。
 原作が村上春樹なんだね。
そうそう、まあそれで、この不思議に静かな世界観は納得です。


主人公はトニー滝谷(イッセー尾形)というイラストレーター。
 父親はジャズトランペットを生業とし、いつも家におらず、
 母は早くに亡くなっていて、子供の頃から孤独を抱えていた。
彼はそれがあたりまえだと思っていたのに、ある時英子(宮沢りえ)に恋をするんだね。
 そうして初めて彼は「孤独」の意味に気づく。
自分の目の前から彼女が消えてしまったとしたら・・・
 自分は耐えられないだろう。
 もう孤独には戻れない・・・
 思いは叶って二人は結婚するけれど、幸せな日々はほんの一瞬で崩れ去ってしまう・・・


英子は家事も完璧にこなす素晴らしい女性だったけれど、
 トニーには気になることがあった。
 それは英子が異常に服を欲しがること。
つまりそれって買い物依存症というやつなんだろうね。
 ブティックで服を見るともうそれを買わずにいられない。
もともとトニーは彼女を「服を着るために生まれてきたような」女性だと思い
 一目惚れをするわけだから・・・。
確かに宮沢りえさん、ステキだものねえ・・・。
 何を着てもカッコイイというか、服をどっさり買う甲斐もあるよねえ・・・。
トニーは結構稼げるイラストレーターだったんだね。
 あんなに服を買ってもまだ困ってはいなかったようで・・・。
はー、私もあんなふうにおもいっきり服を買いまくりたい・・・
しかし問題は、せっかくいい服を買ってもさほど着映えがしないってことだよね。
ちっ、それを言ったらおしまいじゃん。


しかし、ある日突然、その服の持ち主がいなくなってしまうわけだ。
 クローゼットでは収納しきれず、衣装部屋と化した一室。
それはトニーに亡き妻を偲ぶためのものとなりうるのか、それとも・・・。
ずっと恋なんかしなければ、同じ状態でも平気だったはずなのにね。


喪失による深い孤独。
でもそれはいつかは誰もが体験することなのかもしれない。
色調も明度も極端に抑えた演出。じっくりと見入ってしまう作品。
村上春樹ファンならば、きっと気にいると思います。

トニー滝谷 スタンダード・エディション [DVD]
イッセー尾形,宮沢りえ
ジェネオン エンタテインメント



「トニー滝谷」
2004年/日本/76分
監督・脚本:市川準
出演:イッセー尾形、宮沢りえ
(語り)西島秀俊
村上春樹の世界観★★★★☆
西島秀俊の魅力度★★★☆☆
満足度★★★★☆

荒鷲の要塞

2014年09月21日 | クリント・イーストウッド
ロープウェイ上のアクション

荒鷲の要塞 [DVD]
クリント・イーストウッド,リチャード・バートン,メアリー・ユーア,マイケル・ホーダーン
ワーナー・ホーム・ビデオ


* * * * * * * * * *

あれ? クリント・イーストウッド出演作、見ていないのがあったんだね。
へへへ。実はね、結構中盤ですっ飛ばしたのがあったんだよ。
 先日何かでこの作品が紹介されていたのを見て、
 あれ、クリント・イーストウッドだワ・・・ということで、観る気になった次第。


第二次大戦中の話なんだね。
 アメリカのカーナビー将軍がドイツ軍に囚われの身となってしまった。
 しかも山岳部にある難攻不落の「荒鷲の要塞」と呼ばれる場所に。
 英国情報部のジョン・スミス(リチャード・バートン)ら6名と、
 アメリカレンジャー部隊員のシャファー(クリント・イーストウッド)が、
 カーナビー救出のため要塞に侵入を図る。
 しかし、付近の雪山へ降下した際、事故に偽装されて一人の諜報員が殺害されてしまう。
この中に、敵のスパイが・・・?! そしてこの作戦の真の目的とは??


・・・ということで、入り組んだスパイ合戦。
 誰が敵か、味方か、実際油断ならないね。
このジョン・スミス自身が最も怪しい感じもしたけど・・・。
ま、そこも注意してみてね、ってところかな?
 唯一信じられるのはクリント・イーストウッドだけ。
だね。
 実際、若かりしクリント・イーストウッド、さっそうとしていてカッコイイわ~。
ロープウェイ上のアクションとか、マシンガンをぶっぱなすところとか。
いや、007などでもあったけど、ロープウェイの屋根の上でアクションするのなんか、
 高所恐怖症気味の私にはぞっとします。やめて欲しい・・・。
ワイヤーを張って引っかかったらダイナマイトが爆発する仕組み、それが後のシーンで、うまく敵が引っかかるわけ。
これが本当の伏線だわ・・・。
はは、シャレじゃないけど、ちょっとユニークだったね。
 68年作品ということで、今にすればアクションは控えめだけど、
 いろいろな騙しのテクニックを仕掛けるスミスと、アクションで見せるシャファー。
 そこそこ楽しめます。

「荒鷲の要塞」
1968年/アメリカ/
監督:ブライアン・G・ハットン
脚本:アリステア・マクリーン
出演:リチャード・バートン、クリント・イーストウッド、メアリー・ユーア、マイケル・ホーダーン、パトリック・ワイマーク

満足度★★★☆☆

舞妓はレディ

2014年09月20日 | 映画(ま行)
京都の雨は盆地に降る



* * * * * * * * * *

本作は題名を見ただけでも明らかですが、
ミュージカル「マイ・フェア・レディ」の日本版ともいうべき作品です。



舞妓が一人しかいなくなってしまった京都の小さな花街、下八軒。
老舗のお茶屋・万寿楽に、
どうしても舞妓になりたいという少女、春子(上白石萌音)が訪れます。
しかるべき人の紹介が必要ということで追い返される春子ですが、
鹿児島弁と津軽弁の入り混じった彼女の言葉に興味をもった
言語学者京野(長谷川博己)のとりなしで、
舞妓としての修行を積むことに。
実のところ「彼女がちゃんと舞妓になれるかどうか」
という賭けのネタなのですが・・・。
お茶屋の厳しいしきたりや稽古、なれない言葉遣い・・・
そんな毎日の中で、春子は突然声が出なくなってしまいますが・・・。



オードリー・ヘップバーンのミュージカル映画「マイ・フェア・レディ」が大好きな私は、
本作も非常に楽しんで見ました。
京野の研究室の様子は、ヒギンズ教授の書斎の雰囲気にとても良く似ています。
あの中で、京都の雨は盆地に降る・・・
とかななんとか言って傘を広げるシーンがありますよね。
「マイ・フェア・レディ」を知らない方は、唐突に感じたと思うのですが、
あれは完璧に「マイ・フェア・レディ」を踏まえたシーン。
私の大好きな曲のシーンでもあります。
イライザが美しい標準語を話すための練習の言葉が
「スペインの雨は主に平野に降る」というものなんです。
詳しくはこちらを→「マイ・フェア・レディ」



で、まずまず楽しめる作品だったと思います。
映画を見ていた方々の年齢層は結構高く、皆さん満足していたようです。
・・・それこそ「マイ・フェア・レディ」をご存知の方々かな?



それにしても「舞妓さん」の文化というのは私達にはちょっと遠い。
作中、濱田岳さん演じる京野の助手・西野が言っていたいろいろなことが
すべて私達の実際の感覚に近いと思いました。
滅び行く文化を語る作品・・・という意味もありそうです。
私は白塗りの舞妓さんをあまり「美しい」とは感じ難いのですが、
それでも草刈民代さんの白塗り芸姑姿は
なんとも艶めかしく、美しかった・・・。
これはさすがに凄かったです。
ミュージカルということで、日本舞踊のみならず、時には大胆なダンスもあり。
作品中に歌や踊りが入るのは近頃インド作品でなれていて、
それからすると、盛り上がりにはいまいちかけている気がちょっとしました。
周防監督で京都・・・やはりお上品。
いっそ園子温監督ならどんなことになったか・・・・?
そんなものも見てみたい気がします。
(怖いもの見たさ)



「舞妓はレディ」
2014年/日本/135分
監督・脚本:周防正行
出演:上白石萌音、長谷川博己、富司純子、田畑智子、草刈民代、濱田岳

ミュージカル性★★★☆☆
満足度★★★☆☆

「東京自叙伝」 奥泉光

2014年09月19日 | 本(その他)
破滅の物語

東京自叙伝
奥泉 光
集英社


* * * * * * * * * *

明治維新から第2次世界大戦、
バブル崩壊から地下鉄サリン事件に秋葉原通り魔殺人、
福島第1原発事故まで、
帝都トーキョウに暗躍した、謎の男の無責任一代記!
史実の裏側に、滅亡する東京を予言する、
一気読み必至の待望の長編小説!!


* * * * * * * * * *

不思議な小説です。
主人公は「東京」。
東京の「地霊」がその時々に、いろいろな人物の意識に入り込み、
東京の暗部の歴史づくりに加担していく。
特に明治維新以降、東京の歴史すなわち日本の歴史でもある。
東京という"場"の意識のようなもの。
それが人ばかりでなく時にネズミであったり、猫であったり、
同じ時に幾つもの個体に乗り移っていたり・・・変幻自在。
しかしその性格は、かなり冷淡で無責任、
どうにも共感の持ちようはありません。
無論、それは人ならぬ、霊のことであるわけなので、
当然なのかもしれません。
物語はほぼ明治維新の頃から始まりますが、
東京の地は、はるか有史以前からそこにあったわけで、
このような時の流れの中で、人一人の命など取るに足りないというのは、
そうかもね・・・とも思える。


「なるようにしかならぬ」というのが東京という年の根本原理であり、
ひいては東京を首都と仰ぐ日本の主導的原理である。



痛切ですが、的を得ている気がしてしまいます。
あるときは関東軍の参謀。
あるときはヤクザ。
またある時はバブルの女王・・・
何かしら時代のエポック的なところには必ず"彼"がいる。
「なるようにしかならぬ」と嘯きながら
「平和」ではなく、炎や混乱を希求し・・・


しかし考えてみれば、現実では地霊ならぬヒトがすべての災厄を巻き起こすわけで、
本当に冷淡で無責任なのは人間自身であるわけです・・・。


本作、奥泉光作品でも「神器」に繋がるものと思われますが、
私としてはやはりクワコーの方が好きかも・・・。

「東京自叙伝」奥泉光 集英社
満足度★★★☆☆


るろうに剣心 伝説の最期編

2014年09月17日 | 映画(ら行)
世界にも自慢できる殺陣アクション



* * * * * * * * * *

待望の完結編。
前「京都大火編」で最後に登場した福山雅治さんは、
剣心のかつての師匠・比古清十郎でありました。
少年の日の剣心に剣の道を教えたのがこの人。
剣心はさらなる奥義を師匠に教えを請うのです。
この師弟の練習シーンもなかなかの見ものです。



予告編を見て、ウソ~、と思ったのは
剣心が警官に捕まり斬首されようとするシーン。
もちろん、こんなところで剣心が命を落としてはお話になりませんから、
絶対に助かるとは思うものの、全くハラハラさせられます。
これは志々雄真実の画策によるものですが、
その切り返しも鮮やか。
いよっ、江口洋介!!


そしていよいよクライマックスは船上での戦闘シーン。
かつて瀬田宗次郎との戦いに敗れ、自信喪失気味の剣心が、
また圧倒的な強さを取り戻す。
それは師匠に教えられた「生きる」ための剣を胸に秘めたからであります。
う~ん、ヒューマニズム!!



私、戦闘アクションものでも、たいていはそのアクションシーンで退屈してしまいます。
延々と繰り広げられるアクション・・・。
結局主人公が勝つのでしょうからさっさと片付けて、ストーリーを進行させてよ、
と思うのです。
でも本作の戦闘シーンは全然飽きない。
実際終盤はほとんどが戦闘アクションシーンなのですが。



まずそれぞれの闘いがあります。
闘いに挑んだのは剣心と相楽左之助、斎藤一、
そしてきっと来ると思っていたらやっぱり来た四乃森蒼紫。



瀬田宗次郎と剣心の因縁の闘い。
前より早くなったね・・・と宗次郎が驚く。
実際、見ていても何がなんだかよくわからないくらい
スピーディなアクションの連続ですが、
それがもう双方カッコイイ!!


結局4人が志々雄真実を取り囲むことになったのはちょっとズルいとは思いますが、
でも剣心の刀があんなふうというのをハンディということにしておきましょう。
実際一人では歯がたたないのか。
どんな怪物なんだ!!



これまでのチャンバラの常識をくつがえす、スピーディさ。
剣術のみならカンフーも入ってますよね。
志々雄の剣からは炎も飛び散る派手さがまたいい!! 
アクション&アクション。
これはもう全世界の人にも自慢できるできなのではないかと思います。


逆刃刀を手に決して人を殺さない。
そして自分自身も決して死なない、待っている人のために死ねないという決意。
そういう剣心のバックボーンがあるからこそ、活きてくる様々なシーン。
・・・どれも思い出しただけでもニヤニヤしてしまうくらいかっこよかったのでした。
コミックが原作で、アイドル路線で・・・
ということで、本作を敬遠していた方、
実は私もそうだったんですが
本作は一見の価値ありです。
(でも、一作目からご覧下さいね)
この斬新なアクションは、今後の日本映画を変えると思います。



これで終わってしまうのが惜しい・・・。
そういえばあのあと、宗次郎さんはどうなったのかしらん・・・?
(ちょっと気になる神木隆之介くんファン。)


余談ですが、一応戦うための刀は持つけれども、決して人は殺さない。
…これは自衛隊か?とちらっと思ったりしました。
いや自衛隊の心意気がこうであって欲しいという私の願望かも知れませんが。


「るろうに剣心 伝説の最期編」
2014年/日本/135分
監督:大友啓史
原作:和月伸宏
出演:佐藤健、武井咲、青木崇高、蒼井優、福山雅治、江口洋介、伊勢谷友介、神木隆之介、藤原竜也

アクション度★★★★★
登場人物の魅力度★★★★★
満足度★★★★★

犬の消えた日

2014年09月16日 | 西島秀俊
教科書的「戦争」

終戦ドラマスペシャル 犬の消えた日 [DVD]
西島秀俊,檀れい
VAP,INC(VAP)(D)


* * * * * * * * * *

本作は、2011年8月に「終戦ドラマスペシャル」として放送されたTVドラマなんだね。
そう、でもどちらかと言えば「戦争入門編」みたいな・・・
親子視聴を狙った子供にもわかりやすい内容にできています。
だから、オトナとしてはちょっと食い足りない感じはあったなあ・・・


西島秀俊さんと檀れいさんが夫婦役。
 この松倉家の職業は、縫箔屋。
 ・・・て、つまり着物に刺繍をする職人さんがいる家なんだよ。
西島秀俊さんが刺繍をする図なんて、こりゃー、見ものです。
 他ではまずないでしょう。
そこの一人娘が、小学生のさよ子。
 彼女は飼い犬ととても仲良し。
 ところが戦争が始まったある日、軍から犬の供出をするようにと言われる。
賢そうなシェパードだもんね・・・。犬も戦争に行くのか・・・。
 そう言えばほら、「戦火の馬」では馬が徴用されたストーリーだったね。
そうそう。けれど本作はその後の犬の行方を追う話じゃなくてさ、
 戦時中のこの松倉家の生活のことをいっています。
徴用された犬はほとんど戻ってくることはなかったと言うよ。
 さよ子が犬を失ってあんまり寂しそうだったから、今度は柴犬をもらうんだ。
 けれど、食糧事情が悪くて、人が食べるのもやっとという時代。
 犬を飼うなんて贅沢だ、と、近所からは白い目で見られるのさ。
ここの家は、こういう高価なものを作る仕事なのでお金にはそう困っていなかったみたい。
こんな時代にもこんなものを買う人が居たのか?という気はするけど・・・。(贅沢は敵だ!!)


お父さん(西島さん)は、脚が悪くて、徴兵はされないのだけれど、
 職人さんが徴兵されていく。
 それに、ここの下働きをしている知的障害の少年までも・・・。
そしてとうとう今度は柴犬までもに供出命令。
なんと、兵隊の着るコートの毛皮にするというのだよ・・・
そんなあ・・・


・・・と、そんな調子で子供に戦争悪を訴える作品なわけで・・・。
まあ実際にあったことだしね。
 だけどさよ子のはいているもんぺがものすごくド派手だったのが、気になってしまった・・・。
これはないよね・・・。
 いや、それより西島さんはどうでした?
うん、始めのうち戦争イケイケドンドン派。
 ・・・というより当時の日本人はみんなそうだったんじゃないかな。
 戦争やって、勝って、景気が良くなって、バンザイって感じ。
でもまず飼い犬が徴用されて身の回りの人が徴兵されて、戦死して、空襲があって・・・
だんだんこれは変だ、こんなはずじゃなかった、
 こんなこと間違ってる・・・というふうに変わってく。
 というとカッコイイけど、それは当然の成り行きで、それ以上でもそれ以下でもなく・・・、
 要するに脚本が平板で、役者の見せ所なんかない、と、そういう作品でした・・・。
タハハ・・・。それを言っちゃあおしまいよ・・・

西島秀俊さん出演作品、だんだんこんなのしかなくなってきたよ~


「犬の消えた日」
2011年/日本
プロデューサー:松村あゆみ
原作:井上こみち
出演:西島秀俊、檀れい、内藤剛志、荒川ちか、須賀健太

教科書的戦争度★★★★☆
満足度★★☆☆☆

フライト・ゲーム

2014年09月15日 | 映画(は行)
意外な展開で、思わず息を呑む



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絶海の孤島、雪の山荘・・・、
限定的な場所で起こる殺人事件を題材とするミステリは大好きですが、
考えてみると航空機の中というのがまた、究極の限定空間ですね。
誰も逃げも隠れもできない。
犯人は必ずこの中にいて、そして死者もこの中から出る。
そしてその上、なにか起こればその「限定空間」自体が壊滅。
全員の命が危険にさらされる・・・。



本作はそういったシチュエーションをフルに踏まえた、
全くドキドキさせられる作品です。



航空保安官であるビル・マークス(リーアム・ニーソン)は
ロンドン行きの旅客機に乗り込みますが、
彼のケータイに謎の脅迫メールが届きます。

「1億5000万ドル送金しなければ、20分ごとに一人を殺す。」

このことを阻止するために彼は立ち上がるが・・・!!
まず度肝を抜かれたのは、
なんと一番初めの殺人は実に意外な人物が犯してしまうというところなのです。
まんまと犯人の罠にはめられたということなのですが、
しかし、こんなことってあるでしょうか。
このあり得ない展開で、私は一段とストーリーにのめり込んでしまいました。



そしてまた、驚いたことに犯人が指定した振込口座は、ビル自身のものだった・・・!!



一体どんな周到な犯人なんだろう、もう目が話せません。
それにしても、周りの誰も彼もが疑わしいのです。
キャビンアテンダント、
隣の席の女性(ジュリアン・ムーア)、
アラブ人男性、
挑発的な黒人、
NY市警警官・・・。
そしてなによりも、訳ありそうなこの航空保安官・ビル自身すらも怪しい。
実際、彼が犯人と疑われることで、一層犯人探しが困難になったりもするのです。
でも、何が何でも諦めないおやっさん、
それがリーアム・ニーソンですもんね。



146人の乗客・乗員の中から、どのように犯人を特定しようとするのか・・・
もう、目がはなせません。
そしてラストへ向けての盛り上がり・・・

こ、怖い。
旅客機が舞台であることをフルに活かした、スピーディな展開。
全く侮れない作品です。

「フライト・ゲーム」
2014年/アメリカ/107分
監督:ジャウム・コレットニセラ
出演:リーアム・ニーソン、ジュリアン・ムーア、スクート・マクネイリー、ミシェル・ドッカリー、ネイト・パーカー

ドキドキ・ハラハラ度★★★★★
展開の意外性★★★★☆
満足度★★★★☆

「柚子は九年で」 葉室麟

2014年09月13日 | 本(エッセイ)
諦めずに続けること

随筆集 柚子は九年で (文春文庫)
葉室 麟
文藝春秋


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「自分の残り時間を考えた。
十年、二十年あるだろうか。
そう思った時から歴史時代小説を書き始めた。
老いを前にした焦りかと思ったが、二度とあきらめたくなかった」
――50歳で創作活動を始め、第146回直木賞を『蜩ノ記』で受賞した、
いま最も中高年に支持されている作家・葉室麟、
初めての随筆集。
若き日々への回想や出会った人々や書物、直木賞受賞後のあれやこれや。
江戸時代の博多を舞台にした短篇小説「夏芝居」も収録。


* * * * * * * * * *

葉室麟さんの随筆集。
「柚子は九年で」というのは、
「桃栗3年柿8年」という言葉があるのはご存知かと思いますが、
その続きが「柚子は9年で花が咲く」というのだそうです。
葉室麟氏は50歳になってから、かねてからの夢であった創作活動に入ったわけですが、
直木賞候補に何度も名前が上がりながら受賞には至らない、という経験を繰り返されています。
そんな時に氏は「柚子は9年で花が咲く」という言葉を思い出し、
柚子でさえ花開くのに9年もかかるのだから、簡単に諦めてはいけない、
と自分に言い聞かせていたのだといいます。
そしてついに「蜩ノ記」で直木賞を受賞。
長年耐えて見事花開いた葉室麟さんだからこその、心に響く言葉です。
で、氏には「柚子の花咲く」という本もありますね。
ぜひ読みたくなってしまいました。


さて、本作、随筆部分の表題が「たそがれ官兵衛」なんです。
もちろん、「黒田官兵衛」と「たそがれ清兵衛」をもじったんですね。
今ちょうどNHKの大河ドラマでもやっていますが、
葉室麟作品にも黒田官兵衛を題材にした作品があります。
氏が中学生の時に、
吉川英治の「黒田如水」を読んでから、彼に興味をもったとのこと。

「才能があるにもかかわらず、見果てぬ夢を追い、
しかも頂上に上り詰めるには何かが足りない2流の人」
・・・これまでの黒田官兵衛というのは、そういうイメージだったようなのですね。
けれどここのところへ来て脚光を浴びているのは、
「軍師」としての才能を改めて見直されていることと、
その才能がありすぎるがゆえに、逆に疎まれてしまった・・・という悲哀が
なんだか庶民感情に訴えるものがあるのかも知れません。
だから、たそがれ官兵衛。
気に入りました。


氏のそれぞれの著作への思いなども綴られていて、
葉室ファンは必読の本です。
直木賞受賞後のことなども日記風に描かれていますが、
それも大変そう・・・。
パーティーやら各方面からの取材やら・・・。
同じ小説家でもこのような大きな賞を取るととらないとでは扱いが全く違う
ということがよくわかりますし、
だからこそ、ものを描く人なら受賞したいわけなのでしょう。
これまで以上に葉室麟さんに親しみを感じてしまいました。

「柚子は九年で」葉室麟 文春文庫
満足度★★★★☆


MUD

2014年09月12日 | 映画(ま行)
少年のひと夏の冒険



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“少年のひと夏の冒険”という向きから
「現代版スタンド・バイ・ミー」などとも言われているようですが、
実際、そういう雰囲気のある作品でした。



アメリカ南部。
アーカンソーの川岸に暮らす14歳の少年エリス(タイ・シェリダン)。
親友ネックボーン(ジェイコブ・ロフランド)と共に
川の中州の島でマッド(マシュー・マコノヒー)という男と出会います。
エリスとネックはこの男と次第に親しくなっていくのですが、
実は殺人を犯し警察や賞金稼ぎに追われているということがわかってきます。
しかし、それはマッドの愛するジュニパー(リース・ウィザースプーン)のため。
マッドはここで彼女を待っていたのです。
マッドの女を愛する気持ちにうたれ、
エリスたちはマッドの手助けをしようとしますが・・・。



14歳はまだまだ青春の入り口。
エリスはまだ愛を美しいものと単純に思っているのですが、
男女の気持ちはそう簡単なものではない。
一筋縄ではいかない愛の有り様を学んでいくわけです。
彼の両親は結婚生活の崩壊が目前。
年上の彼女には振られる。
ジュニパーはマッドを好きなようなのに、約束の場所には現れない・・・。
みずみずしい少年の視点で、大人たちの複雑さを見つめます。



それにしても関わった相手が悪い。
銃が絡んだ非常に危険な事態へと進展していきますし、
この辺り一帯は、毒蛇の生息地でもある・・・。
辛口のラブストーリーに加えてハラハラドキドキもあり、
目が話せません。
そうでありながら通俗的にならず、どこか爽やかな気配がある。
稀有な一作です。



美形で繊細な役どころタイ・シェリダンももちろんいいですが、
ワルガキっぽいジェイコブ・ロフランドのほうが私は好き。
・・・まあいずれにしても映画に登場する少年というのがもう、
大好きなんですワ。
・・・アブナイおばさんかな?



一方、少年たちを惹きつける胡散臭い男マッドのマシュー・マコノヒーもいいですね。
はっきりいって直情的なおバカ。
これこそ、子供のママオトナになってしまったのではないかと思われるのですが、
しかし、少年たちを守ろうとするところはさすがに一応オトナ。
いい役どころです。
本作の舞台、なんとなく「ペーパー・ボーイ」にも似ています。
南部の湿地帯で、ボートハウスがあったりする。
そうそう、そこにもマシュー・マコノヒーが登場していたのでした。


本作はこの題名で少し損をしているかも。
この題名だと「スタンド・バイ・ミー」的雰囲気を想像できないのではないかと・・・
意外に素敵な作品だったので、得した気分にはなれます。

MUD -マッド- [DVD]
マシュー・マコノヒー,リース・ウィザースプーン,タイ・シェリダン,サム・シェパード,マイケル・シャノン
東宝


「MUD」
2013年/アメリカ/130分
監督:ジェフ・ニコルズ
出演:マシュー・マコノヒー、タイ・シェリダン、ジェイコブ・ロフランド、リース・ウィザースプーン、サム・シェパード
みずみずしい少年の視点度★★★★★
満足度★★★★★

イン・ザ・ヒーロー

2014年09月11日 | 映画(あ行)
あきらめない男のカッコ悪さ&カッコよさ



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ブルース・リーに憧れながら、25年間スーツアクターとして
作品に顔も名前も出ない裏方に徹してきた本城渉(唐沢寿明)。
しかしある日、ハリウッド映画のアクション大作からのオファーがあるのです。
それは8.5メートルから落下し、炎の中で100人の忍者を切り倒すという
命を落としかねない危険なスタント。
しかし、きちんと顔を出すことができる。
果たして彼は、命をかけてこの役を引き受けるのか・・・?



唐沢寿明さんは実際に仮面ライダーやスーパー戦隊シリーズに
スーツアクターとして出演していたのですね。
そうした背景があるからこそ、もちろんアクションもたっぷりの本作で、
素晴らしく光っていました。
ハートは武士道。
ちょっと年はとってるけど、ベテランの持ち味で勝負。

ずっと追いかけてきた夢。
夢はあきらめたらそこで終わり。
決してあきらめるな!!

そのように強く私達に訴えます。
ユーモアをたっぷり絡ませながら、見せ所もありアクションもあり。
たっぷり楽しませていただきました!!



本城のチームは「ドラゴンフォー」というTVドラマのスーツアクターを受け持っていますが、
何故か女性役を寺島進さんが務めていたり(他に女性がいるのに!!)する。
松方弘樹さんが本人役で登場したり、
はたまた及川光博さんがいや~なオトコ役で登場したり、
楽しいですよ~。

そしてまた若干お目当て(ミーハー!)でもあった福士蒼汰くんがカッコイイ。
彼は一の瀬リョウというアイドル路線売り出し中の青年役ですが、
始めは苦労知らずの生意気な若造。
けれど実は意外な苦労をしていて・・・というところが見えてきて、
なかなか良かったんですよ。
予告編で見ただけですがあのチンケな青春ロマコメ作品よりも
こっちのほうがずっと良かったのではないかしらん。
でも最後の最後、アメリカの地に立った彼に
残念ながら全然オーラが無い。
リアリティが崩れた・・・。
そこはやっぱり実際にもっと経験を積まなければね・・・。



それにしてもあの映画監督は、クレイジーに過ぎるではありませぬか。
無茶言わないでCGとワイヤーを使いましょうよ・・・。
メインで白忍者があんなに活躍して目立ってしまって、
主役のはずの一の瀬リョウくんは、一体どんな役だったのだろう・・・???



本城の娘・歩役は杉咲花さん。
あれ?最近絶対にどこかで見たんだけど・・・と、思ったら、
「MOZU」で、香川照之さんの娘役だったですね!? 
離婚したお母さんの方と一緒に住んでいて、
時々父親と会って一緒に食事をしたりする。
仕事は熱心だけど、父親としてはまるで駄目なパパ・・・  
あら~、全くシチュエーションが同じだワ・・・。
しかしまあ、ちょっとちゃっかりしていてかわいいこの娘役、
とても彼女に似合っています。

「イン・ザ・ヒーロー」
2014年/日本/124分
監督:武正晴
出演:唐沢寿明、福士蒼汰、黒谷友香、寺島進、和久井映見、杉咲花

あきらめない男のカッコ悪さ&カッコよさ★★★★☆
アクション度★★★★☆
満足度★★★★☆