映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ことばの白地図を歩く 翻訳と魔法のあいだ」奈倉有里 

2024年01月05日 | 本(解説)

ことばの白地図の冒険

 

 

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ロシア文学の研究者であり翻訳者である著者が、

自身の留学体験や文芸翻訳の実例をふまえながら、

他言語に身をゆだねる魅力や迷いや醍醐味について語り届ける。

「異文化」の概念を解きほぐしながら、

読書体験という魔法を翻訳することの奥深さを、

読者と一緒に“クエスト方式”で考える。

読書の溢れんばかりの喜びに満ちた一冊。

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本作の著者はロシア文学の研究者であり翻訳者でありますが、
近頃その関連の著作などでも脚光をあびています。
私、先頃直接この方のお話を聞く機会がありまして、
何か少し浮世離れしつつ素晴らしい才能に恵まれた方・・・という印象で、
すっかりファンになってしまい、その著作を色々読んでみたくなりました。

それで今Wikipediaを見てみたら、なんと弟さんはあの逢坂冬馬さん!!

なんとなんと・・・。
そうか、それで共著に「文学キョーダイ!!」というのがあるわけなんですね。

 

さてさて、著者のことについてはこの先もご紹介することがあるかもしれませんので、
とりあえず本作の話。

 

創元社から出ている「あいだで考える」シリーズのうちの一冊であります。

翻訳者になるためにはどうすればいいのか。
それをRPGで「ことばの白地図」を冒険することに例えながら、
自身のロシア語、ロシア文学を学んだ経験に照らして語っていきます。
ゲームをするような感覚で、ちょっとワクワク。

中でも、「文化」について触れているところ。
今、教育委員会が言っているような「異文化」と「自国の文化」の境界を
明確に線引きし、特定の国籍の人々が属するものとするのは、
あまりにも強引であるばかりか、端的に言って不正確である。
・・・と、きっぱりと批判しているあたりがなんとも痛快で気に入りました。
そもそも文化って何?という話ですが、
説明すると長くなるので、ぜひ本巻で確認していただきたい。

 

そして、最後に実際に「翻訳」の話があるのですが、
著者は翻訳にかかる前に原本を10回くらいは読むそうです。
それは原文を読む原語を母語とする読者の読書体験を大切にするため。
原文の読者がどの部分でどのように感じるのか、
それをそのまま翻訳文で再現したいということなのでしょう。
当たり前と思うかも知れませんが、中には非常に「原文に忠実」な翻訳というものもあります。
すなわち、翻訳を読むとその向こうに原文の言い回しや構文が透けて見えるような訳し方。
・・・実は私、若い頃にこういう翻訳に辟易して
すっかり海外物の本を読むのがイヤになってしまったのです。

さすがに近頃はそこまでガチガチの翻訳は見なくなりましたが。
それなので、著者のこう言う考え方には大いに賛成。

ロシア文学などと聞くととても手が出ない感じでしたが、
この際、著者翻訳による本をぜひ読んでみたくなりました!!

<図書館蔵書にて>

「ことばの白地図を歩く 翻訳と魔法のあいだ」奈倉有里  創元社

満足度★★★★☆


「70歳のたしなみ」 板東眞理子

2023年06月27日 | 本(解説)

70代こそ人生の黄金時代

 

 

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“人生100年時代”の現代では、70代こそ人生の黄金時代です!
「今さら」「どうせ」と自分をおとしめるのはもうやめて、
若いうちから“黄金の70歳代”を迎える準備をしましょう。
330万部の大ベストセラー『女性の品格』の著者が、
《上機嫌にふるまう》《人は人、自分は自分》《若い人をほめる》など、
人生の後半生をポジティブに生きる32の具体的なヒントを伝授。

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私、まだ60代ではありますが、まもなく来る70代の心構えを
ぜひこの際確認してみましょう、ということで手に取りました。
かのベストセラー「女性の品格」を書いた板東眞理子さんによるものです。
まさに、人生100年時代。
70代はまだ「老後」ではないということで。

 

本作、何しろ活字が大きいのがいい!!
シニアには、実はポイント高いです。

 

ちょっと目次を眺めるだけで、言いたいことはなんとなく分かってしまうのですが・・・

・今こそ「いい加減」に生きる知恵を

・始めるべきは「終活」ではなく「老活」

・あなたにできることはたくさんある

・品格ある高齢期を生きるために

・来る80代をプラチナエイジにするヒント

 

まあ、わざわざ言われなくても、日頃からなんとなく思ってはいることではありますが・・・
そんな中でもなるほど~と思ったのは

 

キョウヨウとキョウイクを自分で作る

教養と教育にはあらず。
「今日は用がある」と「今日は行くところがある」ということ。
何も用がなくて、家でゴロゴロしてばかりではダメ、ということですね。
しかも、用事も行くところも誰かが与えてくれるのを待つのではなく、
自分で能動的に発見して取り組むべし、と。
これは心得ておくべきことですね。

 

可愛いおばあちゃん願望は気持ち悪い

これは元々の板東さんの女性に対する持論でしょうか。
日本ではしっかりした女性や強い女性は恐れられてモテない。
成熟した大人の女性より若くて未熟で幼稚な女性を好む男性が多い
と信じられている・・・と。
だから70になってもまだそんな妄執にとりつかれるのはよしなさいということで。
それこそ私にとっては当然のこと。
私がこんな風に年をとりたいと思うのは、
いつも自分をしっかり持っていて、それに向かってまっすぐ歩く人。
そんな人に、私はなりたい・・・。

もっとも最近のテレビドラマに登場するのは、かなり自立した女性たちが多いですね。
可愛いだけでは、もはや女性は生き抜けないのです。

 

読む人によって、きっと心に響く所は異なると思います。
確認でも、ヒントでもいい。
何らかの役には立つと思います。

 

「70歳のたしなみ」 板東眞理子 小学館文庫

満足度★★★.5


「サル化する世界」内田樹

2023年05月14日 | 本(解説)

今さえよければいいのか?

 

 

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「今さえよければ、自分さえよければ、それでいい」――。
サル化が急速に進む現代社会でどう生きるべきか?

ポピュリズム、敗戦の否認、嫌韓ブーム、AI時代の教育、
高齢者問題、人口減少社会、貧困、日本を食いモノにするハゲタカ……
モラルの底が抜けた時代に贈る、ウチダ流・警世の書!

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久しぶりに、内田樹氏。

この「サル化」というのは古語「朝三暮四」の話からくるもの。
サルの思考回路のことを言っています。

今さえよければ、自分さえよければそれでよい。
長期的な先のことや全体的なことを見通していない。
・・・そういうサルのような思考回路に、
現代社会は陥っているのではないか・・・?
というのが主題です。

 

年金の話などを考えれば、まさにそうですね。
日本が超高齢化社会となることは何十年も前から分かっていたのに、
誰もが問題を先送りして、まともに抜本的な対策を立てようとしなかった・・・。
そんなだから今、老後にある程度の生活水準を保ちたければ
2000万円の貯金が必要だなどという話が出れば、
必死になってそれを潰そうとして、ひたすら真実を見ようとしない。
これもまた、不穏な未来を想像したくない、
今だけなんとか平穏を保つことができればいい・・・と、
まさにサル化の見本のような。

 

本巻には様々な問題があげられていますが、
内田氏の独自、独特の視点からの物言いは胸がすく感じがします。
ただし、独特すぎて、なかなかマトモに取り上げて
議論に乗せようとする人もあまりいなさそうなのが残念・・・。

 

「サル化する世界」内田樹 文春文庫

満足度★★★.5

 


「10分で名著」古市憲寿

2023年03月14日 | 本(解説)

鉱山に埋もれた宝石を探す光

 

 

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最強の水先案内人がプロに「読みどころ」を聞いてみた――。
『神曲』『源氏物語』『わが闘争』『資本論』……、
名著を読まなくても楽しめる、虫のよいガイド本、誕生!

好きな女性とはセックスできず、添い寝しかできない男の悲哀――『源氏物語』

莫大な印税収入でヒトラーは自信をつけた――『わが闘争』

手に取ってみたけれど、挫折した……、でもあきらめるのはまだ早い!
聞き手=古市憲寿+構成=斎藤哲也の名コンビが贈る名著ショートカット。

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「100分で名著」という教養番組はあるけれど、
こちらはなんと、思い切りショートカットして「10分で名著」。

ラインナップは、この通り。

『神曲』
『源氏物語』
『失われた時を求めて』
『相対性理論』
『社会契約論』
『ツァラトゥストラ』
『わが闘争』
『ペスト』
『古事記』
『風と共に去りぬ』
『国富論』
『資本論』

この中で私がすべてを読んだのは「風と共に去りぬ」だけ。
部分的に読んで、どんな話かはおよそ知っているというのは「源氏物語」。

そのほかについては、おそらく今後も一生読むことはないだろうと思われるものばかり。
ですが、おおよその内容を知っておきたいとは思います。
そんなずぼらな私にはまさにうってつけのこの本。
そして、確かにわかりやすいです!!

 

やたら観念的な言葉を多用して、
ちーっともわかりやすくない文章を書く人が時々いますよね。
私は常々、本当に頭のよい人が書く文章はわかりやすい、と思っているのです。
さすがの、古市さんでした。

 

このなかで、「わが闘争」は、ヒトラーの著ですね。
ヒトラーの思想など知りたくもないわ、と思うところではありますが、
なんとこの本は、こんなことを言っている。

「知識人にしか伝わらない書物での理性的な説得よりも、
感情的なアジテーションの方が何倍も多くの大衆に訴えることが可能だ」と。

まさにヒトラーはこの方法で世界を変えてしまった。
そして、このやり方は今でも十分に通用するわけで、
わたし達はそういう危険性をきちんと知っておかなければならない
と言うことでもあります。
この本は、「名著」ならぬ、「迷著」ということでの紹介でした。


この世界、知っておくべきことはいくらでもあって、
でもそれにたどり着くのはなかなか大変です。
こんなガイドブックがあれば、鉱山に埋もれた宝石にも比較的容易にたどり着くことができる。
ありがたいです。

「10分で名著」古市憲寿 講談社現代新書

満足度★★★★☆


「東京の謎」門井慶喜

2022年09月20日 | 本(解説)

東京の歴史をたどって

 

 

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『家康、江戸を建てる』『東京、はじまる』など、
江戸・東京に深い造詣をみせる筆者が、
東京の21の地域について過去と現在とを結び、東京の「謎」を解き明かす。
回ごとに東京と町を築き上げてきた巨人たちとの交差が描き出されます。

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本作は、先に同著者の「地中の星」を読んで興味を持ちました。
それは地下鉄を日本で初めて造った人物の物語。
本作は同様に、過去、東京で様々な人が様々なことに取り組んで、
今の東京の姿に繋がっているということを解き明かす本であります。
学者ではなく、小説家・門井慶喜氏の語り口が、先人への愛に満ちていて良いのです。

 

内容を詳しくは書きませんが、
「東京」に関係することが時代を追って述べられていて、
一番始めは

「なぜ源頼朝は橋のない隅田川を渡ったのか」

今注目を浴びている頼朝がトップで登場。
ほら、もうすでに読んでみたくなるでしょう?

「なぜ浅草は東京の奈良なのか」

「なぜ勝海舟はあっさり江戸城を明け渡したのか」

「なぜヱビスビールは目黒だったのか」

「なぜ東京駅は大正時代まで反対されたのか」

「なぜ新宿に紀伊國屋書店があるのか」

「なぜ羽田には空港があるのか」

「なぜ寅さんは葛飾柴又に帰ってきたのか」

「なぜピカチュウは町田で生まれたのか」

などなど、瞬く間に時代は進みますが、興味の尽きない話ばかり。
今度、ブラタモリでも紹介してほしいような内容です。

時の流れ、人々の流れ・・・
いろいろなことが積み重なり変化して今があるのだなあ・・・。

北海道の歴史はほとんど明治時代以降のことなので、
今もある町で1000年もの昔の痕跡をたどることができたりするのは
うらやましいです・・・。

 

「東京の謎 この街をつくった先駆者たち」門井慶喜 文春新書

満足度★★★★☆ 


「あした出会えるきのこ100」荒井文彦

2022年08月29日 | 本(解説)

あしたは会えるかな?

 

 

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あしたの散歩が、今日よりもっと楽しくなる、いちばん身近なきのこ図鑑が誕生!
ヤマケイの図鑑新シリーズ「散歩道の図鑑」 。
街中の道端や公園などで出会える、身近なきのこ100種を選抜しました。
各種のキャッチフレーズで特徴をわかりやすく知ることができ、
解説には雑学や食毒など、きのこの魅力が満載。
お家で読んでも楽しめる図鑑です。

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私、きのこ好きなので、きのこの図鑑も大好きです。
本巻は、身近なきのこ100種が紹介されています。

 

写真と解説文を寄せているのは荒井文彦さん。
ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」で「きのこの話」を連載中です。
姿・形・色。
ひとりぽっちだったり、群れをなしていたり。
ごくごく小さかったり巨大だったり・・・。
どれもそれなりにユニークで楽しい。
そんなきのこの魅力を、美しい写真で紹介してくれる本です。
私もまだまだお目にかかったことがないモノもあるので、
いつか会う日を夢見て、ページを繰るのもいいものです。

 

「あした出会えるきのこ100」荒井文彦 山と渓谷社

満足度★★★★☆

 

 


「日本アニメ誕生」豊田有恒

2021年08月10日 | 本(解説)

アニメのシナリオライターとしての豊田有恒氏

 

 

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世界に冠たる日本のAnimeはここから始まった―

1963年1月1日、『鉄腕アトム』のテレビ放映開始。
限られた人材、乏しい経験のなか、試行錯誤の連続を経て、
日本アニメの創成期は幕をあけた。
手塚治虫をはじめとする日本アニメ黎明期を支えた人々との交流、
とり・みきや出渕裕ら、いまなお第一線で活躍する
錚々たるクリエイターの巣となったパラレル・クリエイションの日々…。

日本アニメのオリジナル・シナリオライター第一号として、
『鉄腕アトム』『エイトマン』『宇宙戦艦ヤマト』など、
エポックメイキングとなる作品とともに歩んだ筆者が、
貴重なエピソード・お蔵出しの資料とともに伝えるアニメ誕生秘話!

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私、豊田有恒さんは、SF作家としては知っていましたが、
日本アニメの創始期にシナリオライターとして活躍したということは
恥ずかしながら、知っていませんでした。

しかも関わったのが「鉄腕アトム」、「エイトマン」、「スーパージェッタ-」、「宇宙少年ソラン」
などと来ては、私くらいの年代の方ならものすごく懐かしく思うに違いありません。
当時、テレビアニメそのものが少なかったので、
アニメなら放映していればとにかく見る、という感じだったと思います。
だからご近所の子もみな同じモノを見ていました。
(漫画なんか見るとバカになる、というおカタい親の元にしつけられた良家の子女以外は)。
内容はほとんど覚えていないものの、テーマソングなら今でも歌えると思います。

 

著者はシナリオの書き方もわからないのに無理矢理その世界に引きずり込まれたそうなのですが、
しっかりしたSFを表現したいという思いがあったようです。
しかし当時SFという言葉さえまだ知られておらず、
サイボーグって何?という世界だったそう。
そりゃあ、苦労しますよね。

手塚治虫氏とは決裂状態になったこともあるというのはなんとも空恐ろしい話で・・・。
日本のアニメ界で手塚治虫氏を怒らせたらどんなことになるのか、
考えただけでも恐いです・・・。

だがしかしそれでも、物書きとしてのプライドが仕事を続けさせたのでしょう。

 

アニメーターからの日本のアニメ史を語る本はこれまでにもあったかもしれませんが、
シナリオライターの立場からの証言は確かにこれまでなかったかも知れません。
そもそもそれに関わった人たちがすでにかなり高齢化していますし、
当然亡くなっている方も。
そう見ればこのタイミングで書かれたこの本は、なかなか貴重な資料になると思います。

 

「♪じゅーおうむげんのちへいせん~」

私は「じゅーおうむげん」って何?という年齢だったのですが、
歌はよく歌っていた気がします・・・。
オジサンが主人公の、今思えば地味な作品だったかも、エイトマン。

<図書館蔵書にて>

「日本アニメ誕生」豊田有恒 勉誠出版

満足度★★★.5

 


「野に咲く花の生態図鑑 春夏篇」多田多恵子

2021年07月02日 | 本(解説)

花々の戦略

 

 

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野に生きる植物たちの美しさとしたたかさに満ちた生存戦略の数々。
植物への愛をこめて綴られる珠玉のネイチャー・エッセイ。
カラー写真満載。

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野山の花が好きな私。
だからこういう本も好きです。
本巻はカラー写真もたっぷり載っていて、眺めるだけでも楽しめます。

 

花の形は驚くほど様々で、奇妙というべきもの多いのですが、
本巻を読むとその奇妙さにも理由があるということがよくわかります。

多くは、虫を誘い込んでおしべの花粉を付け、
それをめしべに運んでくっつける、そうした工夫の果てということなのですね。

たとえば、「ムサシアブミ」として本巻に紹介されているのは、
私の地方では「マムシグサ」と呼んでいるものとよく似ていて、
多分その花の仕組みも同様のものと思われます。
ツボ状になったその花(雄花)に潜り込んだ虫は、
なかなか出口が見つからずうろうろするうちに花粉まみれになります。
ようやく一カ所だけ開いた穴から出た虫は
今度は雌花にもぐりこんで、めでたく受粉を成功させます。
しかしなんと雌花には出口が付いていないそうな。
閉じ込められた虫はそこで死んでしまうことに・・・。
一見食虫植物のように見えるこの花。
でも食虫植物ではないけれど、結局虫を殺してしまうという、
策略に満ちた植物なのでした。

 

白い花と赤い花が同じ木に咲くハコネウツギ。
実はこの花は、咲いたときには白くて、
日が経つにつれてピンクから赤へと次第に色を濃くしてゆくのです。
これは、花粉を運ぶ虫が、少しでも多く花粉を運ぶように工夫されたもの。
この好む好むマルハナバチは白い花が好みなのだそうです。
だから咲きたての花粉たっぷりの花に寄ってくる。
古くなってあまり花粉も残っていない花に寄ってこられても、たいして役に立たない。
花の色を変えていくことで効率よく受粉が進むというわけなんですね。

 

こんな風に、今までよく見かけていた花でも、
様々な戦略によって今の生態となっているということに、今さらながら驚かされました。

 

最終章としては、最近の高山植物のことに触れています。
どんどんその生態系がおびやかされて、絶滅が危惧されているものが多々あるとのこと。
それは温暖化による気候変動や、増えすぎた鹿などの食害のため。
なんとかして、絶滅をくいとめたいとは思いますが、
私たちにはそのために何ができるのか・・・。
考えていきたいことですね。

 

「野に咲く花の生態図鑑 春夏篇」多田多恵子 ちくま文庫

満足度★★★★☆

 

 


「ぜんぶ本の話」池澤夏樹 池澤春菜

2021年03月29日 | 本(解説)

ほとんど知らない本の話、ですが。

 

 

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はじめて読んだ本をおぼえていますか?

ページをめくれば溢れだす、しあわせな時間と家族の思い出。
さあ本の国へ旅にでよう――。
本書は、文学者の父・池澤夏樹と声優、エッセイストの娘・池澤春菜のふたりが、
「読書のよろこび」を語りつくした対話集です。
「本は生きもの」と語る父。
「読書の根本は娯楽」と語る娘。
児童文学からSF、ミステリまで、数多くの本を取り上げ、
その読みどころと楽しみかたを伝えます。
池澤家の読書環境やお互いに薦めあった本、
夏樹さんの父母(春菜さんの祖父祖母)である作家・福永武彦や詩人・原條あき子について等、
さまざまな話題が登場。
さらに巻末にはエッセイ「福永武彦について」(池澤夏樹)、
「ぜんぶ父の話」(池澤春菜)も特別収録しています。

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池澤夏樹氏とそのご令嬢、池澤春菜さんの本にまつわる対談集。

池澤春菜さんは、声優でありエッセイストであり、
また脚本家でもあるという多才な方です。
さすがに、子どもの頃から本であふれるような家で育ったわけで、
その読書量はハンパではありません。
私、本巻を読む前からこの内容について行けないだろうなという予感はありましたが、
実際、その通りでした。

主に児童文学、SF、ミステリと池澤夏樹氏よりも
春菜さん寄りの本の話題になっていると思われるのですが、
次々と上がる著者名、題名のうち私がわかるものはほんのわずか。
今さらながら自分の読書の幅の狭さを思い知りました。
トホホです。

でも本巻、だから全然つまらないというわけではなく、
未知の本の大海原を知ることも有意義ですし、
ほんのさわりのストーリー紹介だけでも面白いのです。

こんな中から、また拾い読みしてみるのも良さそうですしね。

 

<図書館蔵書にて>

「ぜんぶ本の話」池澤夏樹 池澤春菜 毎日新聞出版

満足度★★★☆☆

 


「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤亜紗 

2021年02月14日 | 本(解説)

目が見えるからといって、正しく見ているわけではない

 

 

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私たちは日々、五感―視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚―からたくさんの情報を得て生きている。
なかでも視覚は特権的な位置を占め、
人間が外界から得る情報の八~九割は視覚に由来すると言われている。
では、私たちが最も頼っている視覚という感覚を取り除いてみると、
身体は、そして世界の捉え方はどうなるのか―?
美学と現代アートを専門とする著者が、
視覚障害者の空間認識、感覚の使い方、体の使い方、コミュニケーションの仕方、
生きるための戦略としてのユーモアなどを分析。
目の見えない人の「見方」に迫りながら、「見る」ことそのものを問い直す。

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本巻は、STVラジオパーソナリティ、佐々木たくお氏が
紹介していたのを聞いて興味を持ちました。
私たちは視覚を最も頼りにして生活しているけれども、
目の見えない人は、どのように世界を認識しているか、という主題に迫ります。

私、先頃「デフ・ヴォイス」という小説で、
聴覚障害のことについてこれまで知らなかったことをずいぶん知るようになったので、
視覚障害についても知りたくなったのです。

 

例えば、私たちは富士山といえば、あの銭湯の壁に書かれているような
上が欠けた三角形、つまり平面的な物をイメージします。
でも見えない人は、富士山を上がちょっと欠けた円すい形、
すなわち立体としてイメージするといいます。
同様に、月は見える人にとっては円形、
けれど、見えない人にとってはボールのような球体。
私たちは絵に描かれた物のような文化的に構成されたイメージを持って、
目の前の物を見ている。
けれど、そうした文化的フィルターから自由な見えない人は、
立体の物を正しく立体としてイメージするわけなんですね。

目が見えているからといって、正しく見ているわけではない、
というのが興味深い。

そして見えない人は、視覚情報の代わりに他のあらゆる感覚を使って「見る」のです。
聴覚、触覚、肌で感じる空気感。
視覚が失われているのは不便ではあるけれど、決して不幸ではないですね。

見えない人が、美術館で絵画鑑賞をする、などという話も紹介されています。
見える人も見えない人も普通に共生できる社会だといいですね。

<図書館蔵書にて>

「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤亜紗 光文社新書

満足度★★★★☆

 


「やっぱりそうでしょ 札幌のカラス3」中村眞樹子

2021年01月07日 | 本(解説)

愛すべきカラスの生態 

 

 

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もちろん!
カワイイ。
衣(羽)食住から愛情あふれる子育てまで。
48のシーン別写真特集。

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中村眞樹子さんの「札幌のカラス」シリーズも、もう3冊目。
つまり人気があるのです、このシリーズ。
私もそのファンの1人。

 

カラスなんてとてもありふれていて、
どちらかというとゴミを散らかす悪者のように思われているけれど、
こうしてその生態をつぶさに知るようになるととても親しみがわきます。
本巻は特に写真満載。
中村眞樹子さんの手にかかれば、カラスもかわいく見えるから不思議。

著者は毎朝すすきののゴミ収集車にたかるカラスに密着して、
写真を撮るところから一日が始まるそうです。
テレビのニュース番組などで、ときおりカラスの話題になると、
コメンテーターとして著者を拝見することも多くなってきました。
最近は、このコロナ禍により飲食店のゴミが減って、
カラスが人間の食べ物を奪っているのではないか
などという問い合わせが多いそうです。
そんなことを聞くと著者は黙っていられない。
そこで調査、調査。
何日も観察を続けた結果、ゴミが減ったからといって、
カラスは凶暴化しないという結論に達したそうです。
以前にも著者は言っていましたが、カラスはゴミだけを食べて生きているわけではない。
木の実や虫など、多様なものを食べて生きているので、
ゴミがなくなったからと言って特に影響はないとのこと。
まあ、そうなったら家の近くで見かけることが少なくはなるでしょうけれど・・・。

著者は、カラスが悪者扱いされるのに我慢できないのです。
まことに、カラス愛の伝わる本です。

 

先日私が見かけたのは、カラスが赤い木の実をいくつもくわえているところ。
くちばしに一列に並んで挟まっている赤い実。
わ~い、なんか「映える」と思い、ぜひとも写真に撮りたかったのですが、
カラスがおとなしく被写体になってくれるわけもなく、
スマホを取り出す間もありませんでした。
・・・残念~。

 

<図書館蔵書にて>

「やっぱりそうでしょ 札幌のカラス3」中村眞樹子 北海道新聞社

満足度★★★★☆


「ほの暗い永久から出でて 生と死を巡る対話」上橋菜穂子 津田篤太郎

2020年12月04日 | 本(解説)

自分を生み出したものと、滅ぼそうとするものは同一

 

 

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人はなんのために生まれ、生きて、死ぬのか。
『精霊の守り人』で知られる作家が最愛の母の死を看取る日々の中で、
聖路加国際病院の気鋭の医師と交わした往復書簡。
豊かな知性と感性に彩られた二人の対話は驚きに満ち、
深く静謐な世界へと導かれていく。
未曾有のパンデミックに向き合う思い、未来への希望を綴った新章を追加。

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上橋菜穂子さんと、聖路加国際病院の医師・津田篤太郎さんの
往復書簡という形で語られる「いのち」についての話です。

上橋菜穂子さんがお母様の死を看取る日々を過ごし、
その時に津田先生にお世話になったそう。
本巻では、双方の体験を踏まえ、命のことをいろいろな角度から考察しています。

 

そんな中で、
「自分を生み出した者と、自分を滅ぼそうとする者は同一不可分」
という話があります。

例えば、私たちを取り巻く自然は豊かで、多くの豊穣を生み出し、
私たちを生かしています。
しかしその力が極端に強まれば、地震や洪水となって私たちに襲いかかり、
滅ぼそうとします。

また、私たちの知る神話エディプスの物語や、
中国の阿闍世の逸話にもあるそうなのですが、
親が子を殺そうとするのです。
まさに、自分を生み出した者が自分を滅ぼそうとする。
矛盾に満ちていますが、生と死は実は不可分、同一のもの
・・・と言うのはどこか安らいだ感じがします。

 

上橋菜穂子さんの守り人シリーズに描かれる、
意識の世界“サグ”と無意識の世界“ナユグ”は、
全く別のもののようでいて、実は双方つながっていて同一のものである、
という世界観にも重なっているのです。

深いなあ・・・と、感服。

 

それから、一般的に生命は次の世代を生み出すためにあって、
その個体の生殖行為が終わればその命も終わる、
と、ほとんどそういう風にできている。

人間、特に女性は閉経後明らかに老化が進み、
死の方向に勝手に体が変化していきます。
まさに、それが自然の摂理というべきもの。
だけれど私たちは「種の継続」ではなく「個」として、
もっと長く生きたいと思う。
それが私たちが生きる上でのそもそもの矛盾なのだろう、と。
私たちはなぜ「生きる」のか、
それが永遠の命題なのも当然なのかもしれません。

 

そして本巻、「未曾有のパンデミックにどう向き合うか」
という新章が追加されています。
このコロナ禍のこと。
100年前のスペイン風邪大流行を人々がどのように乗り越えたか、
が参考になるかもしれないと津田先生はおっしゃっています。
漢方も有効なのでは?と。

いずれにしてもお医者さまでない身としては、
今はじっと身を潜めて、危険が去るのを待つしかなさそうです・・・。

 

「ほの暗い永久から出でて 生と死を巡る対話」上橋菜穂子 津田篤太郎 文春文庫

満足度★★★★☆

 

 


「京大変人講座 常識を飛び越えると、何かが見えてくる」酒井敏他

2020年08月15日 | 本(解説)

常識の枠を超えた自由な発想で

 

 

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常識を飛び越えると、何かが見えてくる。
京大の「常識」は世間の「非常識」。
まじめに考えると、人間も生物も地球も、どこかおかしい。
だから、楽しい。

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以前「東京藝大物語」という本を読みまして、
そこにはまさに様々な変人学生が紹介されていました。

そこでこの本もそれに類するものかと思ったのですが・・・。
いえいえ、こちらは至極アカデミックな教養の書でありました。

京大は「自由な学風」、「変人のDNA」が連綿と受け継がれているといいます。
すなわち、学生もそうであろうけれども、先生方も、
常識の枠を超えた自由な発想で、ユニークな研究に取り組んでいるということのようです。
本書は、その教授陣による「公開講座」の記録。

そのテーマは・・・

★毒ガスに満ちた「奇妙な惑星」へようこそ

  学校では教えてくれない! 恐怖の「地球46億年史」

★なぜ寿司屋のおやじは怒っているのか

  「お客様は神さま」ではない!

★人間は“おおざっぱ”がちょうどいい

  安心、安全が人類を滅ぼす

★なぜ、遠足のおやつは“300円以内”なのか

  人は「不便」じゃないと萌えない

 

などなど・・・、
ね、ちょっと興味をそそられるでしょう?

それぞれ、地球岩石学、サービス経営学、法哲学、システム工学という
ジャンルもバラバラの「学問」です。
私などのどシロウトでも大変読みやすくなっています。

 

そんな中で、今気になる「安心・安全」の話・・・。

安心・安全とは今盛んに使われる言葉ですが、

○安心と安全は別のものなのに、セットになってしまっている

○人任せ、国任せにしてしまいがち

○キリがない

・・・と、教授は警告しています。

そして、「自分の感覚を信じ、育てることをもう少し大事にしていい」
「未来が予測と違う方向へ転がりはじめたとき、起きたことをどう受け止めるか」
考えようということで・・・。

本巻はコロナ以前の書でして、
今このどうしようもなく「安全」でもなく「安心」でもない局面をどうしたものか、
今お話を伺いたいです・・・。

図書館蔵書にて

「京大変人講座 常識を飛び越えると何かが見えてくる」酒井敏他 三笠書房

満足度★★★★☆

 


「その話、諸説あります。」ナショナルジオグラフィック編

2020年07月31日 | 本(解説)

まだ正解のない問い

 

 

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この世界はわかっていることよりも、わかっていないことの方が多い。
研究者たちは仮説を立て、検証を繰り返して、事実に迫ろうとする。
そこではそれぞれに説得力のあるさまざまな説が入り乱れ、謎は容易に解けない。

本書では、さまざまなジャンルで提唱されている“謎"と、
その解明に迫る“諸説"を紹介する。
事実と認定されたものは教科書や参考書に掲載されるが、
本書で紹介するのは、まだ教科書に載せられるほど定説が定まっていないものや、
いったんは教科書に掲載されたものの異論が唱えられて書き換えられてしまったもの、
あるいは定説が定まっていないために、各論が併記されているものなど。
そうした謎に満ちた世界を、わかりやすく、楽しく味わえる。
「世界史」「日本史」「科学」「動物」「宇宙」の5ジャンルからテーマを集め、
文系でも理系でも気軽に読める内容に構成されている。

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この本には、様々なジャンルで提唱される「謎」と、
その解明に迫る「諸説」が紹介されています。

 

私などの年代が子どもの頃には十七条憲法や冠位十二階を制定したのは聖徳太子と習ったものですが、
今の教科書では 聖徳太子は厩戸皇子(これについては、「日出る処の天子」ファンの私は大いに納得)、
そしてこれらをすべて1人でこなしたわけではない、ということになっているそう。
すなわち、検証を繰り返すうちにやがて圧倒的な説得力を持った隙のない検証結果が見つかることがあって、
そうなるとその「説」が「事実」として世に受け入れられるようになるわけなのですね。

そこでこの本に紹介されているのは、まだどれも「事実」としては受け入れられていないものたち。

 

例えば、

★ケネディ暗殺の黒幕は?
諸説としては、
①オズワルド単独犯行説、②ソ連陰謀説、③カストロ陰謀説、
④CIA陰謀説、⑤マフィア陰謀説、⑥ジョンソン陰謀説

なんだか、小説のネタになりそうです・・・。

 

★明智光秀はなぜ本能寺の変を起こした?
①遺恨・怨念説、②野心説、③朝廷黒幕説、④四国説

「麒麟が来る」ではどの説が中心となるのか・・・、楽しみです。

 

ぐっと趣は変わって

★「つわり」はなぜ起こる?
①自律神経の乱れ説、②イオンバランスが崩れる説、
③ホルモンバランスの乱れ説、④免疫による反応説

つわりには私も悩まされた口でして、つい気になってしまう。
でもこんな理屈はともかくとして、
「まだ流産の危険性の高い妊娠初期に、
妊娠に気づき、常に自ら意識して過激な運動をしないように、との注意信号」
なのではないかと、私は理解しておりましたが・・・・。

 

★巨大ブラックホールはどのように生まれた?

・・・四つほど諸説は揚げられていますが、どれについても、よくわかりません・・・

 

などなど・・・とても興味深くはありますが、結局どれが正解かの答えはありませんので、
なんだかそんなところで少しモヤモヤします。
将来解き明かされることがあるのかもしれませんので、それを期待しましょう・・・。
私の生存中にはムリかも・・・。

 

図書館蔵書にて

「その話、諸説あります。」ナショナルジオグラフィック編 日経ナショナルジオグラフィック社

満足度★★★☆☆

 


「父が子に語る日本史」小島毅 

2020年04月16日 | 本(解説)

凝り固まった歴史観から脱しよう!

 

 

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自分の国の歴史を学ぶ―その「勉強」には、一体どんな意味があるのだろう。
「日本」と呼ばれるこの国は、一体どうやって生まれたのだろう?
たった一つの視点からでは、歴史を語ることはできない。
言語、宗教、文化、戦争…。
周辺国との複雑で密な交わりこそが、この国の過去を楽しむ鍵になる。
凝り固まった一国史観から解放される、ユーモア溢れる日本史ガイド!

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先に同著者の「父が子に語る近現代史」を読み、順不同となりましたが、
その前作である本巻を読むことに。


本巻では主に日本の始まりから江戸時代までについて述べられています。
一貫して著者が主張するのは、これまでの「日本史」は
常に中央からの視点で語られていた、と言うこと。
地方政権は軽視され、東北地方にいたってはいつも「討伐」の対象であった。
さらに江戸時代、頼山陽が「日本は本来天皇が治めるべきである」と説いたことから
尊皇攘夷運動が湧き上がり、
明治には「日本は未来永劫天皇が治める国家である」と憲法にも規定される。
戦後こうした見方は批判されてはいるものの、
こうした歴史観は変わっていない、と著者は嘆くのです。
日本は今と同じ形でずっと一つだけだったわけではなく、
その外との交流の中で育まれてきた。
このような考え方で語られる、著者の歴史の流れには、非常に興味が持てます。
せめて高校生時代くらいに、こんな風に語られる歴史の授業を受けることができれば良かったのに
・・・と、今さらながらに思います。


それにしても私、鎌倉・室町時代のことって実のところ未だによくわかっていないような気がする・・・。
大河ドラマにもあまり出てこないですもんね・・・。
もっと学ぶべきことはいくらでもある、ということを再認識しただけでも意義がある。

「父が子に語る日本史」小島毅 ちくま文庫
満足度★★★.5