映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

光をくれた人

2017年06月30日 | 映画(は行)
誰が悪いというわけでもないのに



* * * * * * * * * *

第一次大戦後のオーストラリア。
孤島ヤヌス・ロック。
帰還兵のトム(マイケル・ファスベンダー)は
灯台守として他には誰もいないこの島に赴任します。
やがてイザベル(アリシア・ビカンダー)と結婚し、穏やかで幸せな日々を過ごします。

まもなくイザベルは身籠るのですが、立て続けに流産・死産・・・。
悲嘆に暮れるイザベル。
そんなときに、海岸に男の死体と生後間もない赤ん坊を乗せたボートが流れ着きます。
赤ん坊に心を奪われたイザベルは、本土に知らせようとするトムを説得して止めます。
そして2人は赤ん坊にルーシーと名付け、自分たちの実子として育て始めます。
しかしその後トムは、本土である女性が、
夫と子どもを失い嘆き悲しんでいることを知るのです・・・。



本作、母と子どもの愛情の物語のように見えて、
やはり男女、夫婦の愛情の物語ですね。
トムとイザベルが知り合い、結婚し、互いを尊敬しながら
穏やかに暮らす部分がとても丁寧に描かれています。

妻が夫のヒゲを剃り落とすシーンなどなかなか素晴らしい。
本作がきっかけでマイケル・ファスベンダーとアリシア・ビカンダーが
付き合い始めたというのも納得。
マイケル・ファスベンダー・・・男の色気がありますよねえ・・・



トムは非常に実直な性格。
妻と拾った子をもちろん大切に思い愛していたわけですが、
しかし、子どもを失った実の母親の悲嘆を見過ごすことができなかった。
本当にまだ何もわからない赤ん坊のうちなら良かったけれども、
4歳になった子どもを育ての母親から引き離し、
今日からは私がママよ・・・というのもあまりにも残酷ですよねえ。
そして、4年間大切に育ててきた子供と引き離されたイザベルの悲嘆もまた、
トムの予想以上に大きかったということなのです。
そのことでイザベルはトムを恨むようになりますが・・・。
その恨みをもまるごと引き受けてなおかつイザベルを愛するトム・・・。



実際誰が悪いというわけでもないのに、どうにもならない人々の心・・・。
孤島の美しく寂しい光景が、
人々の悲しみを包み込むような気がします。
切なくも心を魅了する一作。




「光をくれた人」
2016年/アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド/133分
監督:デレク・シアンフランス
出演:マイケル・ファスベンダー、アリシア・ビカンダー、レイチェル・ワイズ、ブライアン・ブラウン、ジャック・トンプソン

切なさ★★★★★
満足度★★★★★

疑惑のチャンピオン

2017年06月29日 | 映画(か行)
業界ぐるみ・・・?



* * * * * * * * * *

おそらく、自転車ロードレースファンならば誰もが知っている人のはず。
ツール・ド・フランスで7連覇を達成したランス・アームストロング。
彼は癌でつらい治療を克服し、
奇跡的に復活してまたレースに臨むようになったのです。
苦難の果に栄光を手にしたロードレーサー。
そしてまたその傍ら、がん患者を支援する慈善活動に尽力。
癌で苦しむ多くの人々に勇気と希望を与えたスーパーヒーロー。



さて、ところが実はこの男はドーピングで薬漬けであったという衝撃の事実を、
本作はことの発端からつぶさに映し出していきます。



誘惑に負けたアスリートが、ほんの一度か二度というのならまだわかります。
でも、ことはそんなに単純ではない。
彼ははじめからそのつもりでドクターの元を訪れます。
ただ勝ちたい。強くなりたい。
そして有名になりたいと、その一心で。
そしてまたそれは彼個人のみならずチームのメンバー全員、
レース前に当たり前に薬物を点滴するようになっていくのです。
ほとんど、業界ぐるみと言ってもいい。
もちろんドーピング検査は常にあります。
それなのにどうしてバレないのか。
ドーピング検査への対処法も研究され尽くしているのです。
そしてあるときには陽性反応が出たとしても、
これを公言すると競技界が破滅するなどと脅したり・・・。
ほとんど公然の秘事のようにして隠蔽され続けるのです。
…全く信じがたいことです。



なにかおかしいと感じたたった一人のジャーナリストが疑問を呈しても、
それはしばらくのあいだ世間から無視され続けていたということを見ても、
人々はランスのスーパーヒーロー伝説を信じたかったのでしょう・・・・。



こんなインチキなスタート地点にありながら、
慈善活動を行ったり立派なスピーチをしたり・・・
本人の心はどこにありや??? 
そこが知りたくなりますが、ランス役ベン・フォスターはひたすら淡々と演じます。
心の葛藤などはあまり前面に出ない。
私たちはその心を推し量るのみです。



結局、ことが明るみに出るのは以前のチームメイトの告発から。
ランスのあまりにも驕り高ぶった気持ちが招いたことと言ってもいいかもしれません。
本作はスポーツものではなくて人間と社会のドラマ。
衝撃的でした。

疑惑のチャンピオン [DVD]
ベン・フォスター,クリス・オダウド,ギヨーム・カネ,ジェシー・プレモンス,ドゥニ・メノーシェ
松竹


「疑惑のチャンピオン」
2015年/フランス・イギリス/103分
監督:スティーブン・フリアーズ
出演:ベン・フォスター、クリス・オダウド、ギョーム・カネ、ジェシー・プレモンス、ダスティン・ホフマン
驚愕の真相度★★★★★
満足度★★★★☆

「ジブリの文学」鈴木敏夫

2017年06月28日 | 本(その他)
かくしてまた、新たなジブリ伝説が始まる・・・。

ジブリの文学
鈴木 敏夫
岩波書店


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自らを「編集者型プロデューサー」と呼ぶ著者は、
時代の空気をつかむために、どんな本を読み、いかなる文章術を磨いてきたのか?
朝井リョウ・池澤夏樹・中村文則・又吉直樹といった、
現代を代表する作家たちを迎え、何を語るのか?
歴史的大ヒットを支えた"教養"と"言葉の力"、そして"ジブリの現在"がこの一冊に。
『ジブリの哲学―変わるものと変わらないもの』から五年半、
続編となるドキュメントエッセイ集。


* * * * * * * * * *

ジブリのアニメファンなら知らない人はない、プロデューサーの鈴木敏夫さん。
先に「ジブリの哲学」という本が出ているのですが、そちらは未読です。
本巻には、鈴木敏夫さんのこの5年間にあちらこちらに掲載された文章が集められています。
特に、作家の朝井リョウ、池澤夏樹、中村文則、又吉直樹さんとの対談が収められているので、
それに惹かれて読んでみました。
中でも、最近の私のお気に入り、池澤夏樹さんとの対談はウレシイ!! 
池澤夏樹氏と鈴木敏夫氏は、「レッド・タートル ある島の物語」の仕事の関係で知り合ったそうです。
で、この本の帯の言葉も池澤夏樹氏。
巻末に鈴木氏が
「ぼくの雑文をまとめたこの本に、池澤さんが帯を書くなど、想像するだに恐ろしい」
とありますが、無事、書いていただけたようで。
最近は図書館の本でも帯が表紙裏に貼り付けてあったりするので、確認できました。

「鈴木さんは自分で白状している-------
プロデュースの基本は野次馬精神である、と。
いやはやこの馬の元気なこと!
ジブリの面々やその他大勢を荷馬車に乗せて四方八方走る走る。」


さて、中でも興味を引くのはやはり宮﨑駿氏や高畑勲氏の人となりに触れるシーン。
アニメ雑誌の編集者として、宮﨑駿氏の元へ取材に行ったのが
はじめての出会いという鈴木氏。
その時、一言も喋らず鈴木氏を無視してただひたすら仕事をする宮崎氏の横に座り、
一日が過ぎて午前4時!! 
負けてたまるかと通い続けて3日目にやっと宮崎氏が口を開いたという・・・。
それからは急に饒舌になったそうですが、
しかしそれからも毎日毎日、土日もなく通いつめたという・・・、
なんともすごいお話です。
が、つまりこんなふうで、宮﨑駿氏も高畑勲氏も完全に芸術家タイプ。
人の思惑なんかお構いなし、とにかくやりたいようにやる、
ということのようなんですね。
そこで、対外の人とのつなぎ役が必要になって・・・
そこで鈴木敏夫プロデューサーの腕が発揮されると言うことのようです。
納得、納得。


最後にジブリの近況として、
引退宣言を撤回した宮﨑駿氏が長編作品に取りかかり始めた、とあります。
そういえば、昨年秋「NHKスペシャル」で「終わらない人 宮﨑駿」というのをやっていて、
私もそれは見たのですが、
その時、宮﨑駿氏ははじめて3DCGアニメとして
「毛虫のポロ」という短編作品を作っていたのですが、
「レッド・タートル」を見てから突然、
これまでOKを出したカットの全リテークを指示したのだとか。
「レッド・タートル」がかなり宮崎氏に刺激を与えたようなのです。
かくしてまた、新たなジブリ伝説が始まる・・・。
大変興味深く読んだ一冊。

「ジブリの文学」鈴木敏夫 岩波書店
満足度★★★★☆

TAP THE LAST SHOW

2017年06月27日 | 映画(た行)
圧倒されるダンスシーン



* * * * * * * * * *

水谷豊さんが20代のときにブロードウェイのショウを見て着想、
そしてその後40年。
自ら監督そして主演ということで実現したという作品です。
見る前から少し襟を正したくなりますね。



過去に事故で大きな怪我を負い、
一線を退いたタップダンサーの渡(水谷豊)。
かつては天才の名を欲しいままにしていましたが、
今では足を引きずり、酒浸りの毎日。
そんな彼の元へ、旧知の劇場支配人・毛利(岸部一徳)が訪れ、
最後のショーを演出してほしいと頼みます。

毛利は最高の舞台で最後を飾り、劇場を閉めようと考えたのです。
その熱意に引きずられ、渋々承諾をする渡。
そんな彼の元へ、様々な事情を抱えながら踊ることに自分をかけようとする
若きタップダンサーたちが集まってきます。
そんな彼らと向き合ううちに、次第に渡のダンスへの情熱が蘇りますが・・・。



ストーリーとしてはオーソドックスだと思います。
けれど、水谷豊さん、岸部一徳さんの熱演と、
そして何より、素晴らしい数々のタップダンズシーン、
特にラスト24分の圧巻のショウに、ギュッと心をつかまれてしまいました。
一体どうやればあんな細かなリズムを刻むことができるのだろう・・・、
実際に目の前で見てみたいと思いました。
ソロもいいのですが、群舞もまた迫力があって素晴らしい!!



水谷豊さん演じる渡のキャラがまたスゴイですよね―。
まさしく鬼コーチ。
彼がスタジオに入るとそれまでダラダラしていた皆の気持ちがビシっと引き締まる。
怖い怖い・・・。
しかし始めは番号で呼ばれていたダンサーたちが、
いつしか名前で呼ばれ始めるというあたりがなかなかいいじゃありませんか。



この孤独で頑固なオッサンというのは、
これまでの水谷豊さんのイメージと少し違うのですが、
いやいや、本作を見るとこれこそが本領という感じがします。
素晴らしいショウを堪能しました。



「TAP THE LAST SHOW」
2017年/日本/133分
監督:水谷豊
出演:水谷豊、岸部一徳、北乃きい、清水夏生、西川大貴、HAMACHI

ダンスの迫力度★★★★★
満足度★★★★☆

レジェンド 狂気の美学

2017年06月25日 | 映画(ら行)
切れやすく残忍な心が、自らを滅ぼす



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実在の双子のギャング、クレイ兄弟の栄光と破滅を描きます。
しかし何と言っても本作の眼目は、
この双子の兄弟をトム・ハーディが一人で演じていること。
双子でもこの二人はかなり違う。
本当に別人が演じているかのようでした。



1960年代初頭ロンドン。
レジーとロニーのクレイ兄弟は、手段を選ばないやり方で裏社会をのし上がります。
有力者と交流を深め、アメリカのマフィアと結託し・・・
イギリス社会に絶大な影響力を及ぼすようになります。
部下の妹・フランシスと結婚したレジーは、
彼女のために足を洗い、ナイトクラブの経営のみに力を注ごうとしますが・・・



堅気の娘、フランシスを語り手としたことで、
ただのギャング物語ではない、心の揺れを表現した作品になっていると思いました。
家族とか結婚の絆が生きる指針となる当時の雰囲気がよく出ています。
最近の作品なのに、映画自体が一時代前のものであるかのような。



ロニーは情緒不安定・凶暴。
ゲイで、いつも恋人を側に侍らせています。
そんな彼の機嫌を損ねたら、何をされるかわからないという怖さがあります。

一方レジーはもっとスマートで如才なく、経営の才能もある。
・・・が、しかし実は根本のところは同じようだと、次第に見えてきますね。
彼らの切れやすく残虐な心が、結局は自分たちの身を滅ぼした
ということなのかもしれません。
なかなか興味深い作品でした。

レジェンド 狂気の美学 コレクターズ・エディション [DVD]
トム・ハーディ,エミリー・ブラウニング,デヴィッド・シューリス,クリストファー・エクルストン,タロン・エガートン
Happinet



「レジェンド 狂気の美学」
2015年/イギリス・フランス/131分
監督:ブライアン・ヘルゲランド
出演:トム・ハーディ、エミリー・ブラウニング、デビッド・シューリマ、クリストファー・エクルストン、タロン・エガートン、ポール・ベタニー

演技度★★★★★
満足度★★★.5

「旅する平和学」前田朗

2017年06月24日 | 本(解説)
テレビでは報道されない世界のこと

旅する平和学: 世界の戦地を歩き 傷跡から考える
前田 朗
彩流社


* * * * * * * * * *

アフガニスタン、朝鮮半島、中米カリブ海、アフリカ、
ヨーロッパ、米国、アイヌ、沖縄――

世界の紛争地や戦争の傷跡が残る地を旅し、
人々との出会いから戦争と平和のリアリズムを見直す。

普通のガイドブックにはない国や地域を
歩いてガイドします!

メディアを通じて、常に世界中の絶え間ない戦争が
伝わってくるが、実は戦争など経験したことのない
人びとはたくさんいて、ただちに平和を求める
人々の闘いが世界各地で立ちあがるのも事実だ。

平和を希求する営みは国境を越え、
思想信条を超えてつながっていける。

人権擁護の闘いは民族を超え、
性別を超えて支え合っていける―。

* * * * * * * * * *

著者、前田朗氏は札幌出身で、実は私の中学時代の同級生です。
現在東京造形大学教授。
刑事人権論、戦争犯罪論を専攻し、多くの著作があるのは存じていますが、
恥ずかしながら、私は論説文が苦手なので
ほとんど読んだことはありませんでした。
ただこの本のことは、地元の新聞で紹介されていて、
また、「旅」ということでとっつきやすそうだったので、拝読。


いやはや、それにしても自分の不勉強を恥じますね。
知らないことが多くありました。
最近自分でも感じていたことですが、
歳を取ってなんだか保守的になってしまっている。
特に東アジアと日本との関係についてですが、
私はどうも日本政府の言い分に近寄ってきていた。
本作で少なからずガツーンと来ました。


著者の主張は、突き詰めれば「基本的人権」のことなのだろうと思います。
誰もがその言葉をわかっている気でいるけれども・・・、
老若男女はもちろん、人種、民族、宗教、思想信条、社会的地位、
あらゆる差異にかかわらず人は尊重されるべきである。
けれども「人権」という言葉だけでは全然足りていないので、
それぞれに応じた会議・宣言や条約を国際の舞台で確認し合う作業が必要だということなのでしょう。
「反人種差別会議(ダーバン会議)」、「先住民族権利宣言」など・・・。
言われてみれば当たり前のことなのに、
全然当たり前ではなかった数々の悲惨な歴史の事実を、
私たちは少なくとも知っておくべきでしょう。


巻末の方では、日本と同じく(?)非武装の国を紹介しています。
ドミニカ、マーシャル、パナマ、コスタリカ、アイスランドなど
軍隊を持たない国は27カ国。
著者は我が国の憲法第9条が、世界を変える一助となればいいと言っています。
そしてまた日本国憲法前文
「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、
平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」
も重要としています。
本当に。
肝に銘じたいですね。


久しく目をそらしていたことに向き合わせてもらったような気がします。

「旅する平和学 世界の戦地を歩き傷跡から考える」
満足度★★★★☆
図書館蔵書にて。
前田くん、買わないで読んでごめんなさい。


キング・アーサー

2017年06月23日 | 映画(か行)
スタイリッシュ! エネルギッシュ! スピーディー!



* * * * * * * * * *

英国のアーサー王伝説をモチーフとしたストーリー。
と言っても私は、あの岩に突き刺さった剣を引き抜くところしか知らないのですが・・・、
まあ、予備知識はそれで十分かな?



父王と母を殺されるところを目の前で見てしまった少年アーサー。
父の弟、ヴォーデガン(ジュード・ロウ)が魔物と手を結び、
兄を裏切って王位を手に入れたのです。
アーサーはただ一人、城の水路から流れ出てスラム街にたどり着きます。
娼館に拾われ、育てられますが、
荒くれ者の中で揉まれるうちに次第に力をつけ、成長していきます。
アーサーが青年となり、スラムを取りまとめる様になった頃、
ヴォーデガン王は暴君として圧政を繰り広げていましたが、
昔、逃げ出したアーサーの行方が気になってなりません。
彼が自分の地位を脅かすという予感に怯えます。
そこで、王位を次ぐものだけが抜くことができるという、
岩に突き刺さった剣を使ってアーサーを探し出すことにしますが・・・。



重厚な伝記ストーリーを想像していたのですが、
まずは冒頭シーンに度肝を抜かれます。
巨大な象が、城を壊しつつ攻め込んできます。
果敢にも立ち向かおうとする王(アーサーの父)。
いやあ~、すごい迫力でした。


アーサーが城から逃れ出て、スラムで散々な暴力を受けながら成長していくシーンは、
リズミカルでスピーディーな場面転換で語られます。
ぼーっとしていたら、何がなんだかわからなくなってしまいそうだと、
若干緊張してしまいましたが。



アーサーは期待の通り、エクスカリバーの剣をするりと抜き取ってしまうのですが、
しかし、彼が剣を握ると、
あの幼いころに見た父母の死のシーンを見てしまうのです。
あの忌まわしい記憶のパワーは彼を失神させてしまうほど。
アーサーに味方し、ヴォーデガンを倒そうとする魔術師メイジは言います。

「この剣を使いこなすには、過去の記憶をすべて取り戻し、自らに打ち勝つしかない。」

こういう設定がなかなかステキだと思いました。
結局は己との戦いであるということ。
そして、「敵を作るより仲間を作れ」というスローガンもいいですね。



これまでの歴史物のように身分の上下なんか殆ど無い。
何しろ、アーサーはスラムで己の力と才覚でここまでのし上がってきた。
だからこその「円卓の騎士」の誕生なんですね。
衣装などの時代考証もいい加減そうだけれども気にならない。
スタイリッシュ!
エネルギッシュ!
スピーディー!



魔に魅入られたジュード・ロウもよかったな~。
悪役ですが、さすがの貫禄。
そして何より、音楽がまたすごい!! 
何でしょう、そう、粗野でこれまたエネルギッシュ。
もうあと少しで「不快」の域に踏み込む寸前の感じ。
とにかく圧倒されっぱなしでした。
私、この歳で本作はやや選択を間違えたような気がしないでもなかったのですが、
この圧倒的パワーを拒絶しないだけの感性がまだ残っていたことに若干ホッとしました。
変な感想(^_^;)・・・

「キング・アーサー」
2017年/アメリカ/126分
監督:ガイ・リッチー
出演:チャーリー・ハナム、ジュード・ロウ、アストリッド・ベルジェ=フリスベ、シャイモン・フンスー、エイダン・ギレン

圧倒的パワー★★★★★
満足度★★★★☆

旅立ちの時

2017年06月22日 | 映画(た行)
一時代前のティーンエイジャーは、反抗心がありながらも素直



* * * * * * * * * *

17歳ダニー(リバー・フェニックス)は、
両親とともに逃亡生活をしていました。
というのも、両親は以前反戦活動で事件を起こし、指名手配されていたのです。
そこで、行く先々で名前を変えて、
危なくなるとまた生活の場を移すという生活をずっと続けていたのです。
ダニーは両親のことは理解しており、
弟も含めて一家四人、引っ越しばかりで落ち着かないながらも
チームワークの良い家族でした。
そして、ニュージャージーの小さな町に流れ着いたある時・・・。
ダニーは音楽教師にピアノの才能を認められ、
ジュリアード音楽院への進学を勧められます。
しかし、彼には以前の成績証明を得ることができません。
仮に彼の身の上を明らかにするとすれば、
もう両親とともに過ごすことはできないでしょう。
また、その音楽教師の娘・ローナに心惹かれるようになり、
ダニーはこれまでと同じ逃亡家族としての生活から逃れたい思いに駆られるのですが・・・


やっぱりリバー・フェニックスはいいなあ・・・と、
惚れ惚れしながら見ました。
1988年作品。
約30年前?!
なるほど、時代を感じる部分は確かにありました。
ダニーは素直ですごくいい子なんですよ・・・。
こんな両親のもとでも、ひねくれずに親を敬愛し、信頼している。
ローナに対しても、ストイック(あ、でも無事行くべきところまでは行きました)。
これが現在の作品なら、とっくにダニーは家出しているでしょうし、
ローナに出会ってすぐにベッドインしてしまいそう・・・。
ということで、高校生としてはいい子すぎるくらいではありますが、
でもだからこそ、ラストには感動してしまうのです。
自分のことは諦めて、家族とともにあろうと決心するダニーに対する父親の決断。
ここが、勝手にダニーが家出するのなら、どうにも締まりませんものねえ・・・。
まだ家族の絆が保たれていた頃のステキなストーリーでした。


リバー・フェニックスが存命ならば、今頃はどんな感じになっていたでしょう。
見たかったですねえ・・・

「旅立ちの時」
1988年 /アメリカ/115分
監督:シドニー・ルメット
出演:リバー・フェニックス、クリスティーン・ラーチ、ジャド・ハーシュ、マーサ・プリンプトン


「櫛引道守」 木内昇

2017年06月21日 | 本(その他)
女の幸せは何処に在りや

櫛挽道守 (集英社文庫)
木内 昇
集英社


* * * * * * * * * *

幕末の木曽山中。
神業と呼ばれるほどの腕を持つ父に憧れ、櫛挽職人を目指す登瀬。
しかし女は嫁して子をなし、家を守ることが当たり前の時代、
世間は珍妙なものを見るように登瀬の一家と接していた。
才がありながら早世した弟、
その哀しみを抱えながら、周囲の目に振り回される母親、
閉鎖的な土地や家から逃れたい妹、
愚直すぎる父親。
家族とは、幸せとは…。
文学賞3冠の傑作がついに文庫化!


* * * * * * * * * *

幕末の木曽山中。
櫛引職人である父の腕に憧れ、自分もそのようになりたいと思う登瀬が主人公です。
と言うといかにも地味なのですが、実際地味です(^_^;)
ところが、読み進むうちにグイグイとこの登瀬の生き様に引きこまれていきます。


幕末なので世情は乱れている。
尊王攘夷のこと、幕府のこと、宮家のこと・・・
世の中の動きは風の噂で届いてくるけれども、
父と登瀬のひたすら櫛を引き続ける毎日は変わりません。
女は結婚して子どもを生む。
それが当たり前の時代。
女性が櫛引職人になるなどとは論外の常識はずれ。


登瀬は「女性も仕事を持つべきだ。結婚だけが生き方ではない。」
などと主張したりはしません。
決してそういう近代思想に目覚めていたりするのではなく、
ただただ、美しく精緻な櫛を作りたいという思いに引きずられるだけ。
しかし、ほとんど神業と思われるその櫛を
父は朝早くから夜遅くまで作り続けて、
それを問屋に卸して日々の生活がやっとという実情なのです。
理不尽です。
登瀬の櫛引への思いが強いあまり、縁談をダメにしたりもするのですが、
そのことで周囲の人々から疎まれてしまう。
何を考えているんだか・・・と世間の風当たりは強い。


ある時、和宮様が降下のおりに、この登瀬の村を通ります。
登瀬はおそれ多いと思いながら、和宮様の立場と自分の立場を重ね合わせるのです。

「子を産み、育て、家を守り、家を繋いでいく。
それらはいずれも立派な役目なのである。
だが嫁すことの、女にとっての幸せは果たしてどこに在るのか―。」

しかし、登瀬は意中にほのかに思う人がいながらも、
ついに婿を迎えることになってしまいます。
その相手というのが意外にもイケメンで人当たりがよく、
櫛引の腕もバツグンなやり手という申し分ない男。
母親は諸手を挙げて大喜びですが、何故か登瀬には馴染めません。
うそー、なんて贅沢なことを・・・と、
このへんは多少ハラハラしてしまいますが・・・。
登瀬にとっては、この家で櫛引のライバルであり、
難なく彼が父の後をついでしまいそうなことを腹立たしく感じていたのでしょう。
夫婦になったとは言え、全く心の通わない2人だったのですが・・・。


互いのことを理解していってようやく芽生えていくものがある。
そんな過程を愛おしく思いました。
早逝した弟のこと、肌の合わない妹のこと、
それぞれの生き方にも触れながら、
なお一層しっかりとした登瀬の生き様を浮かび上がらせていきます。
読み応えの在る一冊でした。
ちなみに題名は「くしひきちもり」と読みます。

「櫛引道守」 木内昇 集英社文庫
満足度★★★★★

20センチュリーウーマン

2017年06月19日 | 映画(た行)
20世紀の女たち



* * * * * * * * * *

「20世紀少年」というコミックがあったけれど・・・、
こちらは20世紀の女。
そう、つまり少しノスタルジックな古い女たち・・・という雰囲気です。



1979年、サンタバーバラ。
15歳の少年ジェイミー(ルーカス・ジェイド・ズマン)は、
シングルマザーのドロシア(アネット・ベニング)と暮らしています。
ドロシアは思春期の息子ジェイミーの教育に悩み、
ルームシェアしている写真家のアビー(グレタ・ガーウィグ)と、
ジェイミーの幼馴染ジュリー(エル・ファニング)に、
ジェイミーを助けてほしいと頼みます。



大恐慌時代の女などと言われる母・ドロシアは50代。
昔パイロットに憧れたという彼女は、しかしパイロットにはならず、
結婚するも子供ができて間もなく離婚。
以来、女手一つで息子を育ててきた。


アビーは20代半ばくらいでしょうか。
当時の時代の先端、パンクとか女性解放、ポップカルチャー、
そういう流れの只中いる。



そして、ジェイミーよりほんの少し年上のジュリーは、
性体験こそは大人並みだけれど、
母親との関係で精神が不安定。
新しい女性の生き方に、踏み出そうとするところ。



世代の違う女性3人から、
それぞれの生き方と、それぞれの不安・不満をも学ぶジェイミーなのでした。
多分多くの男性は「女の子のこと」をよく知らないうちに、
先に「女の子の体」を知ってしまい、それで満足してしまうのではないでしょうか。
でもジェイミーは先に「女の子のこと」を学ぶのです。
彼は、多分すごくいいヤツになると思う。
保証します!!



本作は、何か特別大きな事件が起こるわけでもないのに、
いつしかすごく親身になって見てしまうのです。
まあ、いわば私も20センチュリーウーマンのど真ん中でありますので、
共感が大きい。
マイク・ミルズ監督自身の母親をテーマとしているそうです。
ふだん子供は母親の青春や「母」の立場を離れた母の人生のことなどあまり考えませんが、
でも確かにそれはあるのですよね。
そういうところをすくい上げた良作です。

「20センチュリーウーマン」
2016年/アメリカ/119分
監督:マイク・ミルズ
出演:アネット・ベニング、エル・ファニング、グレタ・ガーウィグ、ルーカス・ジェイド・ズマン、ビリー・クラダップ
20世紀度★★★★★
女性の生き方度★★★★☆
満足度★★★★☆

22年目の告白 私が殺人犯です

2017年06月18日 | 映画(な行)
あれよあれよという展開に、ハマる



* * * * * * * * * *

2012年韓国映画「殺人の告白」リメイク。


22年前、同一犯による5名の連続殺人事件が起こりました。
被害者と親しいものに殺人の瞬間を見せつけ、
しかも目撃者は殺さないという残虐な犯行。
担当刑事牧村(伊藤英明)は、自らも傷を負い、
また、犯人の罠にはまり上司を殺されるという過酷な体験をし、
犯人捜査に必死に立ち向かったのですが、
ついに犯人を特定できず、未解決のまま時効の日を迎えました。
しかし時効を迎えて、犯人を名乗る男(藤原竜也)が執筆した
「私が殺人犯です」という本が出版されるのです。





ラスト、思わず「なるほど~」とつぶやいてしまう、
よくできたストーリーでした。
ちょっとラストの怨恨話がドロドロし過ぎていて、
引いてしまいましたが・・・。
こういう感じ、やっぱり韓国映画が元だなあ、と感じさせられました。
でも、犯人の動機とか、犯行を告白した男の動機、
なかなか説得力があります。
犯罪の「時効」についての法改正のリミットなども盛り込まれて、面白い。



実際もしこんなことがあったら、
やっぱりマスコミは犯人をもてはやすかもしれないし、
それについて異を唱える人もいるでしょう。
本当にあんな騒ぎになるでしょうね・・・。



本家「殺人の告白」を見た方は、そちらのほうが良かったとおっしゃるようです。
私は見ていませんが、でもこちらのも十分に楽しめました。
映画中のテレビニュースのアナウンサーが、升アナだったのもうれしかったし、
切れ者のMC、仲村トオルもすごかったですね~(^_^;)



22年前、阪神淡路大震災のこととか、
バックにつんくの歌が流れているところもあって、
その頃の「時代」も感じさせていただきました。


「22年目の告白 私が殺人犯です」
2017年/日本/117分
監督:入江悠
出演:藤原竜也、伊藤英明、夏帆、野村周平、仲村トオル
どろどろ度★★★★★
意外性度★★★★☆
満足度★★★.5


禁じられた歌声

2017年06月17日 | 映画(か行)
世界の現実



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舞台は西アフリカ、マリ共和国の古都ティンブクトゥ。
その郊外に、キダーンは妻、娘と牛飼いの少年とで暮らしていました。
彼はギターの名手でもあります。
さて、この街はイスラム過激派により占拠されてしまっているのです。
もともとイスラム教の国ですが、占領軍の彼らの思想はもっと過激なんですね。
女性は外出時には靴下と手袋を着用すること。
タバコはダメ。
サッカーもダメ。
そしてなんと音楽もダメ。
住民たちはそんな生活を強要されるのです。
それでもいつか、時が解決するかもしれないと、
ほそぼそと生活を続けていたキダーン一家。
しかし、近所の漁師がキダーンの牛を殺してしまうという事件があり、
キダーンは漁師の元へ抗議に出かけるのですが・・・。


イスラム過激派の面々も、ただ殺戮を繰り広げるというわけではなく、
彼らなりの規律に従っているわけです。
そして彼らもやはり人間であるわけで、穏やかな心根の人もいる。
とは言え、彼らはやはりいきなりやってきた闖入者には違わないし、
その土地の文化を尊重しようなどという気落ちのかけらもない。


別に豪華な暮らしがしたいわけではない。
家族と共に過ごす穏やかな時間があればそれでいいと思っているのに、
それさえもかなわない。
生活の中に息づく歌をうたうことで罰せられるというのは、あまりにも・・・。


なぜこんなにも世の中は複雑で生きにくいのか。
おそらく現在も地球上の多くがこんな状況なのだろうと思います。
時には世界の現実を知ることも大切ですね。
私の場合、映画でそれを知ることが多いのです。

禁じられた歌声 [DVD]
イブラヒム・アメド・アカ・ピノ,アベル・ジャフリ,トゥルゥ・キキ
オデッサ・エンタテインメント


「禁じられた歌声」
2014年/フランス・モーリタニア/97分
監督:アブデラマン・シサコ
出演:イブラヒム・アメド・アカ・ピノ、トウルゥ・キキ、ファトウマタ・ディアワラ、イチャム・ヤクビ

世界の現実度★★★★★
満足度★★.5

「もののあはれ」ケン・リュウ

2017年06月16日 | 本(SF・ファンタジー)
日本人が書かない日本

もののあはれ (ケン・リュウ短篇傑作集2)
伊藤 彰剛,古沢 嘉通
早川書房


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巨大小惑星の地球への衝突が迫るなか、
人類は世代宇宙船に選抜された人々を乗せてはるか宇宙へ送り出した。
宇宙船が危機的状況に陥ったとき、
日本人乗組員の清水大翔は「万物は流転する」という父の教えを回想し、
ある決断をする。

ヒューゴー賞受賞作「もののあはれ」、
少年妖怪退治師と妖狐の少女の交流を描くスチームパンク妖怪譚「良い狩りを」など、
第一短篇集である単行本版『紙の動物園』から8篇を収録した傑作集。


* * * * * * * * * *

「紙の動物園」と並ぶ、ケン・リュウの短編集。
もともと「紙の動物園」の単行本1冊だったものを、2巻に分けて文庫化したものです
。強いて言えば先に出た「紙の動物園」がファンタジイ篇、
この「もののあはれ」がSF篇という構成になっています。


さて、こちらの冒頭「もののあはれ」
主役はなんと日本人・ヒロトで、
地球滅亡寸前に人類の生き残りをかけた宇宙船に乗り込むことができます。
しかしその過程で各国で大きな混乱が起こる。
暴動、殺戮・・・。
でも、日本ではそうはならない・・・。
粛々と運命を受け入れるとでもいいましょうか、
少なくともヒロトの両親は、ヒロトのみを宇宙船に送り出して、
自らは地球と運命をともにしました。
そして今、この宇宙船にアクシデントが起こり、
回避のためには誰かが危険で困難な任務を果たさなければならい・・・。
消え行くものに美を見出す、
私達日本人の魂をたしかによくすくい上げています。
けれども、日本人はこんな物語は書かないでしょうね。
なぜならば、それはあまりにも私達の内側に当たり前にあるので、
わざわざ書くことではないからです。
だからこれはやはり、外から見た日本人。


「円弧」と「波」は不死について。
地球滅亡に伴う星間移住のストーリーと共に、SFでは大事なテーマですね。
でも不思議な気がします。
儚いもの、消え行くものに私たちは「もののあはれ」や美を感じます。
けれど「不死」、永遠に対しても同様に何か切ない悲しみを感じてしまう。
例えば同じく不老不死のバンパネラである「ポーの一族」を見ても
底に流れるのはひたひたと漂う寂寥感。
刹那も永遠も同じとは・・・。
通常の人には手の届かない「永遠」は、つまり想像の外。
私たちの人生の外にあるそれは、もはや「死」と等しいのかもしれません。

「もののあはれ」ケン・リュウ ハヤカワ文庫
満足度★★★☆☆

フィラデルフィア

2017年06月15日 | 映画(は行)
一時代前の社会問題



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1993年といいますからほとんど四半世紀前の作品。
なるほど、今にしてみればその時代性を強く感じます。


一流法律事務所に勤める弁護士ベケット(トム・ハンクス)。
しかしある時突然、会社から解雇宣告を受けてしまいます。
その理由は、仕事ができないからということだったのですが、
ベケットには本当の理由の心あたりがあったのです。
ベケットはHIVに感染しており、エイズを発症しているのでした。
ベケットはこの解雇をエイズ患者に対する不当な差別であるとして
訴訟を起こす決意をし、
以前法廷で争ったことのあるミラー(デンゼル・ワシントン)に弁護を依頼します。
会社だけではなく世間一般に根深くある同性愛者やエイズ患者に対する根深い偏見や蔑視。
ベケットは果敢にもこれらと戦っていきますが、
しかし彼の体はその間にも衰弱していきます・・・。


たしかにこの頃、エイズ患者に対する強い差別や偏見があったのです。
だからこそ、こういうテーマの作品が多く生まれた。
けれど現在はもうあまり見ることはありません。
というのも、現在感染したHIVウイルスは消し去ることはできないけれども、
薬剤の開発によってエイズの発症をかなり抑えることができるようになっている、
ということのようです。
そして、LGBTに対する認識と理解がかなり進んできています。
だから、このようなテーマについて言えば、世の中は良くなってきているのですね。
多分本作などは、そのことに一石を投じているはず。


さすがに往年の名作。
見ごたえがありました。
そして、トム・ハンクスが若い!!
役柄のためもあるのでしょうけれど、かなり痩せていて、
今とはまた少し異なるイメージを楽しむことができます。

フィラデルフィア (1枚組) [DVD]
トム・ハンクス,デンゼル・ワシントン,アントニオ・バンデラス,ジェーソン・ロバーツ
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント



「フィラデルフィア」
1993年/アメリカ/125分
監督:ジョナサン・デミ
出演:トム・ハンクス、デンゼル・ワシントン、ジェイソン・ロバーズ、メアリー・スティーンバージェン、アントニオ・バンデラス
問題提起度★★★★★
満足度★★★★☆

花戦さ

2017年06月13日 | 映画(は行)
芸術は人を動かせるか



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戦国時代に実在した池坊専好という花僧のストーリー。
茶道もそうですが、華道についても
戦国時代にもう確立していた、ということにまず驚かされます。
華道はお寺で僧侶たちが行っていたんですね。



池坊専好(野村萬斎)は自由で個性的な花を活けて、織田信長(中井貴一)に気に入られ、
また信長亡き後、秀吉(市川猿之助)にも目をかけられていました。

同じく秀吉は千利休(佐藤浩市)も重用していましたが、
次第に彼を疎ましく思うようになり、
ついに利休を切腹に追い込んでしまいます。

そしてまた、利休の死を悼む庶民までにも弾圧を加えるようになった秀吉に、
専好は、戦さを仕掛けることを決意。
それは自らの命をかけた「花戦さ」なのでした。



秀吉も、若い頃はまだ良かったんですよね。
専好が信長の前で失敗しそうなところを
横からすっと助け舟を出したりするシーンがあります。
ところが、晩年の秀吉の横暴ぶりはどうでしょう。
このあたりが、どうしても私が秀吉を好きになれない理由・・・。
いつの世も、独裁者は非常に危険です。
正しく意見することも命がけ。
結局この戦さも、秀吉がもともともっていた「芸術への理解」に賭けたということですね。
元からそんな気持ちを持たないものに対しては、ハナから意味のない戦さでした。
芸術は人を動かすことができるのか。
そこが眼目です。



野村萬斎のキャラの引き立つ池坊専好。
平日、広いシアターがほぼ満席(ほとんど私と同年輩のおばさま)。
意外と邦画も頑張ってますな。

「花戦さ」
2017年/日本/127分
監督:篠原哲雄
原作:鬼塚忠
脚本:森下佳子
出演:野村萬斎、市川猿之助、中井貴一、佐々木蔵之介、佐藤浩市

満足度★★★☆☆