映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「夜を買いましょう」 浅暮三文

2007年11月29日 | 本(その他)

「夜を買いましょう」 浅暮三文 集英社文庫

ちょっと待て。これは・・・。
また、ろくでもないトラックバックがくっついてきそうな題名ですよねえ。あーあ。

別に、怪しい小説ではない。
(いや、なくもないか・・・?)
主人公遠藤は、インドネシアでとてつもない強精作用のあるキノコを発見。
(やっぱり・・・)
しかし、もっと重要なのは、そのキノコには人の眠りを蓄積し、コントロールする働きがあったこと。
この小説の不思議なのは、その話はもとより、このキノコを債券とし、貨幣代わりに流通させてしまおうともくろんだこと。
うーむ、経済学なんてものにトンと疎い私、どこまでこれを理解したのか、未だに謎ですが、
そんなわけでもって、こんな小説読んだことない。
いったいジャンルはどうなるのさ。
カテゴリはどうするのさ!と思えてしまう本でした。
SFでもあり、幻想でもあり、社会でもあり・・・。
まあ、そもそも、カテゴリに当てはめて小説を書く必要なんかあるわけもないので、あくまでも、こちらのわがままです。


それにしても、さほど思い入れできる部分もなくて、ただ、読んだだけ・・ですかね。

満足度★★★


「間宮兄弟」 江國香織 

2007年11月27日 | 本(恋愛)

「間宮兄弟」 江國香織 小学館文庫

この本は出た時から話題作でしたよね。
ずっと読みたかったのですが、待ったかいあってやっと文庫になりました・・・。

独身の明信35歳と、徹信32歳の兄弟。
2人住まい。
二人ともきちんと定職があり、まじめ。
仕事も好きだし、兄弟仲もよく、母親思い。
趣味も多彩。
読書。
ビデオによる映画鑑賞。
ジグソーパズル作成。
鉄道模型収集。
テレビの野球観戦。
・・・この辺で怪しくなってくるのですが、とにかく、「いい人」であるのだけれど、作者の言葉を借りるとこうです。

「格好わるい、気持ちわるい、おたくっぽい、むさくるしい、
だいたい兄弟二人でいるのが変、
スーパーで夕方の50円引きを待ち構えて買いそう、
そもそも範疇外、ありえない、
いい人かもしれないけれど、恋愛関係には絶対ならない男たち・・・。」
散々です。
巻末の解説で、三浦雅士氏は言っています。
このダサさは、「平成」になりきれない「昭和」だ、と。
確かに、彼らの生活には昭和の懐かしさがあるのです。
それゆえに、こんな兄弟でも、主人公としての存在感が、並み以上にある。
格好良さ、スマートさ、新しさに、つい私たちは目を奪われるけれども、
実はこんな、ちょっとダサいけれど、心が安らぐ感じ、懐かし居心地、
こんなところに帰りたがっているのではないか。
ほんと、いい味の兄弟なんです。

二人は、とにかくいつも女性に振られ続け、
最近は、もう、きっぱりと女の子に好かれたいとか、付き合いたいとか思うのはやめよう、と誓い合っていたのです。
そう思い定めてしまえばなんと心の平安なこと。
好きな本を読み、二人で懐かしい話をし、一緒にパズルを仕上げる。
なんて、満ち足りた日々。
・・・しかし、性懲りもなく、繰り返し女の子を好きになってしまうのですねえ。
この本ではもしかしてうまくいく???
と、思わせつつ、やはり、兄弟の平和な日々に帰っていく・・・。

しかし、この愛すべき兄弟にはいつまでも昭和を背負って仲良く暮らしてほしい・・・そう思ってしまうのでした。

現実的な話をすれば、
この兄弟は恋人には不向きかもしれないけれど、結婚相手としたら、最高ですよ~。
絶対奥さんを大切にしそうだし。
若い頃どんなにかっこよくても、禿げたり、メタボ体型になったり、そんな危険性はざらなんですから。
そこのおねえさん、これくらいで手を打ちませんか・・・?

満足度 ★★★★★


ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた

2007年11月25日 | 映画(あ行)

女は弱し。されど母は強し。
・・・という言葉が浮かんでしまいました。
ジェンナは、天才的なパイ作りの腕を持ったウェイトレスで、美味しいパイがうりの店で働いています。
ある日、まったく予期していなかった妊娠をしていることが判明。
実はこの、夫アールが、どうしようもないヤツ。
妻を完全に自分の私物と思っており、妻には夢も自由もお金も与えない。
聡明で、働き者、夢も持っているこのジェンナが、どうして、こんなヤツと結婚したのか、まったく納得できない。
ストーリー中では、結婚したとたん豹変した、といっていましたが・・・。
ある意味、責任もすべて夫に押し付けて、自分では何の判断もしないというのは、楽なのでしょうか・・・。
とにかく、映画のオープニング時点で、もう、ジェンナは夫にひとかけらの愛情も持っていないように見受けられます。
そこへきて、妊娠。
彼女は、まったくこの事態を歓迎できません。
いつかこの夫から逃げ出すために、少しずつお金もためているのに、子供などできてしまったら、いよいよ、縛り付けられるだけの毎日。
憂鬱ながら、日に日にお腹は大きくなっていきます。

このように精神的にゆれているところで、一種「逃避」と思えるのが、産婦人科医ポマターとの不倫。
そりゃーね、あの夫よりは、絶対このお医者さんの方がいいです。
それは無理もない・・・。
ラストではこのようなぐちゃぐちゃの感情が一気に解決。

それはやはり、母として、自分だけでなく子供をも守って生きていかなくてはならない、その決意が一瞬にして生まれたということなのです。
そこまでの優柔不断の彼女は、この決意を際立たせるための伏線であったといってもいい。
しかし、ここはすっきりしますよ。
やっと、夫に、言いたいことを言った!


さて、ジェンナを取り巻く人たちがまたなかなかステキです。
自分にあまり自信がないドーン。(監督自身が演じています。)
姉御肌のベッキー。
それから、これがなかなか重要な、この店の老オーナー、ジョー。
彼は気難しく、あまり他の人たちは話したがらないのですが、ジェンナは親しく語りかける。
ジョーは人間観察なかなか鋭く、ジェンナの妊娠や、不倫をいち早く嗅ぎつけながら、そっと見守ってくれる。
なかなかできた人物なのであります。
ラストにはサプライズも。

どんどん出てくる、さまざまなパイも、いいですよ~。作るのも、なんだか楽しそう。ふっくら焼きたてのパイが、食べたくなっちゃいました。

2007年/アメリカ/108分
監督:エイドリアン・シェリー
出演:ケリー・ラッセル、ジェレミー・シスト、ネイサン・フィリオン、アンディ・グリフィス

「ウェイトレス~おいしい人生のつくり方」公式サイイト


ヴィーナス

2007年11月24日 | 映画(あ行)

やれやれ、男っていくつになっても・・・、と思ってしまいました。
モーリスは、若い頃持てはやされた俳優。
でも今は70を過ぎ、死人の役や、ほんの端役ばかり。
友人のイアンもご同様で、会えば体の不調の話ばかり。
そんな時、イアンの世話をするということで、彼の姪の娘、ジェシーがイアンの家に同居することに。
しかし、この娘がまた、思いっきり下品で無作法。
イアンは余計具合が悪くなる始末。
ところが、若い頃から女性と浮名を流してきたモーリスは、若くてぴちぴちの彼女に興味を持つ。
よこしまな気持ちは、ないでもないけど、体が言うことをきかない・・・と、そんなところでしょうか。

美術館の「ヴィーナス」の絵の前で、モーリスはジェシーに言います。
「男性にとって女性の裸は何よりも美しいのだ」、と。
モーリスは、その美しさに敬意をはらい、ジェシーを大切に扱います。
ジェシーは、親からも厄介者扱いされており、たぶんどこへ行ってもアバズレ扱い。
ボーイフレンドからでさえ、単なる便利なセックスの相手としてしか扱われていない。
そんな彼女が、正しく「女性」として愛されたときに、にわかに内側から光を放つようになってくる。
はじめは、こんな爺さん、くさくて気持ち悪い・・・そんなことを言っていたのですが。
このあたりの微妙さが、うまく描かれていると思いました。

老い、というのは残酷ですね。
若い頃はあんなにに光り輝いていた俳優。
顔はしわで覆われ、体も言うことを聞かず、体力もない。
友は一人また一人とこの世を去っていく。
そのように枯れつつも、なお、生、そして性への執着だけは残っている。
ちょっぴり、悲しくて、ちょっぴりおかしいストーリーです。

この主演、ピーター・オトゥールは、そのままモーリスに当てはまってしまう。
エーと、私、ピーター・オトゥールを昔はかっこよかったのに・・・といえる世代よりはちょっと若いです。
だから、特別思い入れがあるわけではありません。
でも、映画中の、モーリスの死亡記事に使われていた若い頃の写真も、ほんとに、ピーター・オトゥールのものだとか。
あちらの言葉では「ゴージャス」と言っていましたね。
よし、今度、「アラビアのロレンス」を借りてこよう!!是非。

少し前に、スマスマにアラン・ドロンが出ていましたよね。
あの、「太陽がいっぱい」の、完璧な美しい青年。
それを思うと、実のところこれもまた、老いの残酷さを感じてしまったものでした。
年齢を重ねることのよさは確かにあるのですが、元が美しければ美しいほど、老いは無残に感じてしまう。
そこいくと、もともとそこそこの私などは年をとってもさほどギャップは生じないわけで、まあ、それだけは幸いかも・・・です。

ステキに老いる・・・といえば、日本でいえば田村正和とか・・・。
このドラマの日本版を作るとすれば、彼がいいと思う。
ア、ちょっと失礼かな?立派にまだまだ主役を務めていらっしゃる。


2006年/イギリス/95分
監督:ロジャー・ミッシェル
出演:ピーター・オトゥール、ジョデイ・ウィッテカー、レスリー・フィリップス、ヴァネッサ・レッドグレーヴ

「ヴィーナス」公式サイト


「理由あって冬に出る」 似鳥鶏 

2007年11月22日 | 本(ミステリ)

「理由あって冬に出る」 似鳥鶏 創元推理文庫

学園ミステリです。
期待の新鋭デビュー作とありますが、確かに、新鮮。
コミック調の表紙はイヤだ、といいつつ、
この表紙は中身に非常にマッチしていて、色使いはシック。
これにも心惹かれてしまいました。

某市立高校美術部の葉山君が、このストーリーの語り手。
学園モノといえば、つき物の、七不思議・・・、
というわけでもないけれど、まず語られるのは幽霊譚。
ここの学校の芸術棟に、その昔、殺されて首を切られ、壁に塗りこめられた男子生徒がいて、
今も暗くなると壁から這い出てきて廊下を歩き回り、
人を見つけると手当たりしだいしがみついて、壁に引きずり込もうとするのだという・・・。
単に、伝説のはずが、最近、本当にそれを目撃したとのうわさが広まり、その謎を解くことになるのです。

ただし、ここでの探偵役は文芸部長の伊神さん。
彼はもっぱら「安楽椅子探偵」で、ワトソン役葉山君が手足となって推理の材料集め。
演劇部の三野や柳瀬さん、秋野さん、吹奏楽部の高島先輩等など、ユニークな人材揃いで、楽しく読み進めます。
そういえばこのストーリーには、謎の失踪者はいるけれど、血みどろの殺人事件はありません。
ただ怪談として、首無し死体はあるわけですが・・・、でも、火のないところに煙は立たないとも言いますよねえ・・・(?)

この探偵役伊神さんは、なかなか、変人ともいえる人物で、
人の思惑などお構いなし、わが道を行くところがあるのですが、なぜか憎めない。
考え事を始めるとまったく、あたりも見えなくなってしまい、食事も忘れるほどなので、なぜか葉山君はお世話をしてしまう。
ちょっと、ミタライと石岡君の関係に似てるかも、です。

しかし、このように人がよく、そこそこよく働き、気が利く、こんな葉山君みたいなコが、身近にいたらいいなあ
・・・なんて、思ってしまいました。
旦那にしたいNO.1。

それはさておき、この先も楽しみな作家です。次作を楽しみにしましょう。

満足度★★★★


「禍家」 美津田信三

2007年11月20日 | 本(ホラー)

「禍家」 美津田信三 光文社文庫

ホラーミステリです。
ホラーは普段あまり近づかないようにしているジャンルなんですけどね。
新聞の書評の推薦により、読んでみました。

主人公は12歳の少年貢太郎。
両親を亡くし、祖母と二人である町の大きな一軒家に越してくる。
しかしなぜか光太郎はそのあたりの風景に強い既視感を覚える。
そしてまた、夜になるとこの家でおこる、恐怖の怪異現象。

怖いです・・・・。

感動してしまうのは、この少年。
祖母に心配をかけまいと、この恐怖体験も決して語らず騒ぎ立てず、自分で対処しようとするところ。
・・・すごいです。
それから、すぐに友達になった、礼奈。
彼女が、きちんと彼の話を聞き、信じて、一緒に考えてくれる、こんなところも救われるのですね。
調べるうちに、以前、この家で大変な事件があったということがわかってきますが・・・。

なんと、このような心霊現象だけのストーリーではなく、土壇場で、生きた人間のとんでもない「悪意」が登場。
ホラーというだけでなく、仕掛けられた、ミステリでもあったのかと、ここでようやく気づきました。

結局、幽霊より、生きた人間の方が怖い・・・。
そういうことかも・・・です。

この本の中では、家に鉤の手に曲がった廊下があったり、
くの字に曲がった道、九十九折の道があったり、
まっすぐ見渡せない、曲がった道がよく出てきます。
「曲がる」ことと、「禍々しい」ことが関連して、意識されているようです。
まっすぐ見通せない、その曲がった先。
何か恐ろしいものが潜んでいるように思えるその先。
怖いのだけれど、確かめずにはいられない、その先。
そういう恐怖心をテーマとしているように思います。

満足度★★★★


ボーン・アルティメイタム

2007年11月18日 | 映画(は行)

アルティメイタムは、「最後通告」。
マット・デイモンのジェイソン・ボーンシリーズの3作目、これが最後とにおわせる題名。
期待は高まります。
一作目、ボーン・アイデンティティは、結構好きでした。
記憶をなくした彼が、なぜか、周囲への異常なまでの研ぎ澄まされた観察力、体の特殊能力、そうしたものに、自分でも驚いてしまうところ。
まったく素人の女性と共の逃亡劇。
それまでアクションのイメージのなかったマット・デイモンの起用というのも面白く、なかなか楽しめました。
でも、なぜか2作目、スプレマシーはあまり印象にありません。
・・・そうですね、確か劇場では見逃してしまって、レンタルでみたのでした。
だから迫力を感じなかったのは仕方ないか・・・。
冒頭で彼女が亡くなってしまったのが不満!!
けれど、それがその後の彼の行動の大きなバネになるという筋書きなので、仕方ないのですけれど・・・。

さて、そして今回3作目。これがまた、思った以上の緊迫感・スピード感。
いやはや、まいりました、という感じです。
えー、さる解説に寄れば、これはポール・グリーングラス監督の、ドキュメンタリー・テイストというものだという。
手持ちカメラの撮影で、細かいカット割り、押さえた色彩設計、ざらついた質感。
これらで、ぐんと臨場感を出しているという訳。
普段、カメラワークなどあまり気にしないのですが、この作品については、すごくカットが多いなあと感じましたし、人ごみの中に一緒にいる感じがたっぷり。
また、二人の対話シーンなどは一人の肩越しに相手の目鼻が少しのぞいている、そんなシーンも多くて、この解説を読んだら、なるほどね~、と思ってしまいました。

さて、標的はCIA。
ボーンがなぜ記憶喪失に陥ってしまったのか、なぜ、こんな殺人マシーンともいえる能力を身に着けたのか、その謎を探るため、ボーンのCIAへの挑戦が始まります。
今回多かった雑踏のシーン。
ボーンは自ら追われる身でありながら、協力者を援護し、目的を果たし、また、逃亡するという離れ業をやってみせる。
すごいです。
この頭脳の回転の速さ、身の軽さ、強靭さ。
ふー。私は一つのピンチがとりあえず去るごとに大きくため息をついてた気がします。
まさに、息を詰めていたのだな・・・。
特にモロッコはタンジールでの追跡劇が、すごかった・・・。
あの街並みを生かしたアクション満載。
一般人の家の中まで風のように走りぬけたりする。
これがブルース・ウィリスなんかだったら、絶対しゃれた一言を残していくところですけどね。
ボーンはそういうキャラではないので、無言で通り過ぎる。

こんなアクション満載の中で、ボーンは極力人の生命を奪うことを避けるのです。
殺人マシーン化された自らに埋め込まれた呪縛を断ち切るかのように。
このストーリー中、奪った命は唯一つ。
彼を付けねらう暗殺者で、これはやらなければやられていた、不可抗力。
アメリカ映画ではお定まりの、味方の数人を助けるために敵を何十人も殺してしまう、そんなシーンがなかったことも注目に値します。

それにしても、現在はケータイのGPSなどで、世界中どこにいても居場所がわかってしまう。
また、街中なら、街のあちこちに仕掛けられた監視カメラで、ほとんどリアルタイムで映像まで捕らえられてしまう。
恐ろしい世の中です。
また、このような最新技術を取り入れてストーリーを練るのもさぞかし大変でありましょう・・・。
ロシア・フランス・イギリス・イタリア・モロッコ・・・、そしてもちろんアメリカ。
コンピューターを駆使しての情報には国境はありません。
世界はなんて狭いのかと思えてしまう、この映画です。
ボーンの語学力も、すごいですよー。
マット・デイモンはハンサム過ぎないのがこの役にぴったりだと思いました!!

2007年/アメリカ/115分
監督:ポール・グリーングラス
出演:マット・デイモン、ジュリア・スタイルズ、デビッド・ストラザーン、スコレット・グレン

「ボーン・アルティメイタム」公式サイト


ラッキーナンバー7

2007年11月17日 | 映画(ら行)

(DVD)

一人の男が大金を競馬で摩ってしまい、借金が返せなくなったために、彼だけでなく妻も息子も殺されるという、そんなシーンが冒頭にあります。
実はこれが、大変重要な伏線。

シーンは変わって、スレヴン(ジョシュ・ハートネット)という青年が登場。
彼は、とにかツキがなく、ある日ニューヨークの友人ニックをたよってやってくる。
ところがなぜかニックは行方不明。
スレヴンはそのニックを探しに来た二人組みのチンピラに、シャワー後のバスタオル姿のままギャングの「ボス」(モーガン・フリーマン)の元へ連れて行かれる。
借金が返せないのなら、ある男を殺すようにといわれてしまう。
人違いだといってもそれを証明できるものがない。
いったんニックの家へ返されたのもつかの間、次には、別のギャング「ラビ」(ベン・キングスレー)の下へ連れて行かれ、こちらでも借金を返せという。

「ボス」と「ラビ」は互いに、息子を相手に殺されたと思っており、憎しみあっている。そんな抗争にはさまれてしまったスレヴン。
バスタオル姿のまま連れ去られたるなど、ただ人まちがいでとんでもない争いに巻き込まれた、情けない青年。
一見、そんな風なのですが、なぜか意外と冷静に対処しようとするスレヴン。
・・・その秘密が、最後にどんでん返しとなって明かされるのです。

また、もう一人のキーパーソンは、非情な暗殺者、グッド・キャット(ブルース・ウィリス)。
顔色一つ変えずに、人を殺す。
しかし、なぜか、ボスとラビどちらの仕事も請け負っているようだが・・・・?

ニックの家の隣人リンジー(ルーシー・リュー)は、頭がよく、行動的。
ニックが行方不明と聞き、スレヴンと共に彼の行方を捜そうとするうちに、スレヴンと親しくなっていきますが、ことの真相が暴かれることを恐れ、彼女にも暗殺者の手がせまる・・・。

いろいろなどんでん返しで、楽しめます。
キャストも豪華。
割と陰惨なシーンも多いのですが、全体にはブラックなユーモラスの雰囲気も漂い、不思議な味わいのある作品。

原題は「ラッキーナンバー・スレヴン」ということで、7と主人公の名前スレヴンを引っ掛けてあるのですが、邦題はただの「7」になっていて、意味ないじゃん・・・と、思っちゃいました。

2006年/アメリカ/111分
監督:ポール・マクギガン
出演:ジョシュ・ハートネット、ルーシー・リュー、モーガン・フリーマン、ベン・キングスレー
「ラッキーナンバー7」公式サイイト


「家守綺譚」 梨木香歩

2007年11月15日 | 本(SF・ファンタジー)

「家守綺譚」 梨木香歩 新潮文庫

およそ100年前、まだ、日本の天地自然の「気」と「人」が当たり前に交友していた、そんな頃を舞台としたストーリーです。
主人公は、新米文筆家、本人言うところの精神労働者である綿貫征四郎。
彼は若くして亡くなった友人、高堂の家に一人住まうことになるのですが、その家は、天地自然の「気」の集まるところでもあるかのように、不思議なことが起こるのです。

庭のサルスベリの木は綿貫に懸想をする。
河童は出る。
木蓮のつぼみから白竜は生まれる・・・。
そして、床の間の掛け軸から、時折、亡くなった高堂がひょっこりとボートをこいで現れる。
何もかも、「仰々しい事件」としてではなく、淡々と、そんなこともあるかなあ・・・という風に語られていきます。
なんだか、少しひなびて、懐かしい味わいがあります。

この本の高堂は、始めからすでに亡き人なのですが、湖にボートで漕ぎ出したまま行方不明となったとのこと。
何か崇高なものや自然の気を愛し求めすぎたゆえに、あちらの世界に逝ってしまったかのようです。
しかし人柄はなかなか洒脱。
時々現れては綿貫に憎まれ口もたたくのですが、落ち込んでいる時には黙って付き添うなど、この奇妙な友情は、なんだかとても美しくて少し哀しい・・・。

そしてまた、さまざまの不思議に顔色一つ変えず、解説までする、隣のおかみさんや、近所の寺の和尚が、たのもしい。
こんな日常生活が、もしかしたらかつての日本にあったかも・・・と、思えてきてしまいます。

それから、犬のゴロー、これがまた不思議に賢くて、いい味。
(私はつい、ソフトバンクの「おとうさん」犬を連想しちゃうのですが・・・・)

そしてまた、彼らの友人、村田の消息も時折語られるのは、「村田エフェンディ滞土録」ファンとしてはとても楽しい。
トルコに留学中の村田から、時折手紙が舞い込むのです。
こちらの本を先に読んだ方は、ぜひ「村田エフェンディ・・・」の方もどうぞ。
さらにおススメ作です。
その中では、帰国してこの家を訪ねた村田が、高堂と遭遇するシーンもあります。

満足度★★★★★


「グイン・サーガ117/暁の脱出」 栗本薫 

2007年11月13日 | 本(SF・ファンタジー)

「グイン・サーガ117/暁の脱出」 栗本薫 ハヤカワ文庫

さて、まためでたい月刊グインですね。
前巻でガンダルとグインの勝負はすっかり決まったと思ったのですが、なんと、なかなかしぶといガンダルでした。
もう一波乱、というところが凄い。
しかし、かなりの痛手を負ってしまったグイン。
グインが死ぬことなどあるわけがないので、さほどの危機感はないにしても、このピンチをいかに切り抜けるかということが、問題なわけですよね。
それにしても・・・ですよ。
はい、もっと早くでてくればいいじゃん、ヴァレリウス!
もったいぶりすぎですよ~。
グインの深手は、魔道でうんとよくなると、思ってたんだけどね。
こんな、切羽詰ってから出てこないで、もっと早くでてくりゃいいのにね。もう。
あとがきにもあるとおり、クム周辺で9巻を要したそうで・・・。
ホント、長かったですよね。
でもまあ、確かに、タイスのお国の一大事というか、一種革命的出来事にグインがかかわったというわけなので、そこをあまりにさらっと流すのも、失礼かもしれないね・・・。
このようにして、いろいろな国とグインが結びつきを築いていくということなんだよ、きっと。
まあ、この長さゆえに、船でタイスを脱出した皆さんの虚脱感というか、ほっとしながらも、名残惜しい感じ、共感できるじゃありませんか・・・。
まあ、そういうことにしておきましょう。
マーロールの治めるタイスは、なかなかいい感じの観光名所になりそうだよね。
イケメンの領主見たさに、人も集まりましょう。
地下洞窟探検ツアーなんてのも、面白そうだね。
ほとんど、ディズニーランドののりだったりして。
マリウスは結構ひどいヤツという気がしてしまった。
タイス伯は、本気で彼を好きだったみたいだしねえ。
そう、だからこそ、落ち込んで、珍しく黙り込んでいたじゃない。
パロへ向かう憂鬱のように書いてあったけど・・・、
タイス伯を結局だまし、裏切っちゃったことに、良心がとがめたんだと、私は思うんだけどね・・・。
ヴァレリウスとリギアの再会も、ちょっとうれしくやっぱり悲しかったりします。
ヴァレリウスの、「人」としての心の疼きがみえますね。
さてと、次巻は、やっと「タイス後」の話になるということですが・・・、まだパロにたどり着く前になんかあるのでしょうか。
栗本さんのことだから、一筋縄ではいかないのかも・・・。
どうでもいいけど、また、9巻もの長い寄り道はよしてほしいよね。
まったく、そのとおり。
次も一ヵ月後です。乞うご期待!

満足度 ★★★★

 


ロード・トゥ・ヘブン

2007年11月11日 | 映画(ら行)
(DVD)

ジャニス・ウッズ・ウィンドルによるベストセラー小説の映画化。
原題は「TRUE WOMEN」。
「ロード・トゥ・ヘブン」では、ちょっとテーマからもずれていますね・・・。
舞台はアメリカ南北戦争前後。
幼馴染の二人の少女の成長を対比して描いた作品です。
ジョージアは、やや裕福な家の娘。先住民の血を引いていることが、コンプレックスでもあり、また逆に誇りでもある。
フィミは、父親を亡くし、テキサスの姉のもとへ行くことになり、二人の少女は別れ別れになります。
6年後、結婚したジョージアはテキサスに住むことになり、ここで、二人は再会。
けれども、互いの生活観・信条が合わなくなってしまっており、逆に反発しあうことになります。
心のすれ違いの元となるのは、奴隷制度。
ちょうど南北戦争の南軍の敗北を境に奴隷解放となるわけですが、それまで、ジョージアは多くの黒人を奴隷として所有し、綿花栽培をしていました。
ただ、それは一般に思われているような虐待を加えていたというのではなく、
信頼にもとづいた家族のような関係。
今となっては、想像しにくいのですが、身分差による支配関係というのは、「奴隷」という極端な表現ではないにせよ、どこの国でも、多かれ少なかれあったのです。
世間がそのような成り立ちであった当時としては、ジョージアの奴隷の扱いは、破格であったともいえるのではないでしょうか。
2人とも、自分の考えを持ち、芯のしっかりした女性です。
次第にお互いを理解し、再び友情が芽生えていきます。
そして、二人は、女性参政権を得るための運動へと進んでいく。

コレラや結核等の伝染病。
出産。先住民による脅威。
戦争。リンチ。
まさに、生と死が隣り合わせ。
毎日を生きていく中でも、いくつもの死を目の当たりにする。
このような中では、生きていくだけでも大変なことなのですが、
彼女たち二人はたくましく、しかも己の理想へ向けて生きてゆく。

「風と共に去りぬ」ほどの華やかなロマンスはないものの、
優雅なドレスに身を包みつつ、アメリカの新生のための混乱期をたくましく生きる女性が、そこにいたのです。

「ロード・トゥ・ヘブン」
1997年/アメリカ
監督:カレン・アーサー
出演:アンジェリーナ・ジョリー、ダナ・デラニー、アナベス・キッシュ、レイチェル・リー・クック

「硝子のハンマー」 貴志祐介

2007年11月10日 | 本(ミステリ)

「ガラスのハンマー」 貴志祐介 角川文庫

介護サービス会社のオフィスで社長の撲殺死体が発見される。
防犯カメラ等、厳重なセキュリティの中、続き部屋で仮眠していた専務が犯人と思われ逮捕されるのだが・・・。
弁護士、青砥純子は、その専務の弁護のため、防犯コンサルタントの榎本径とコンビを組み、事件を調べ始める。
専務が無実だとしたら、真犯人の侵入経路は?
凶器は?
社長室に置かれた介護ロボットを操作した可能性は?
防犯カメラの何らかの操作によるもの?
あらゆる可能性を想定するけれども、ことごとく、不可能との結論に至ってしまう。
最後にたどり着いた意外な殺人方法とは・・・?

さまざまなセキュリティに関しての薀蓄本ともなっています。
この、果てしなくあやしい防犯コンサルタントと、蓮っ葉な女弁護士、なかなか、楽しいコンビです。

しかし、この本が俄然面白くなるのは実は、後半の解決編になってから。
倒叙形式というやつですね。
犯人を伏せて、最後に犯人が明かされる、というのではなく、
はじめから犯人はわかっていて、犯行方法を説明していくやり方。
ここの語り手は、椎名章という青年。
自立していて、理知的、硬質の意志の強さが青年らしく、どこか共感を呼ぶ。
ああ、あの「青の炎」を書いた人だものねえ・・・、やっぱり。
彼がどうして、このような犯罪に手を染めることになってしまったのか、そしてまた、その手口というのは、
・・・と、単に、問題の解決編にとどまらない分量で、ぐいぐいと読ませる。

前半は、わりと凡庸の作品と思えたのですが、この後半部分になって、作品の印象もがらりと変わる、
なかなかユニークな作品なのです。
あ、今気づいたけど、本の題名がそのままめちゃくちゃネタばらしじゃありませんか!!
なーんだ・・・。
でもまあ、普通は題名を見てさえも、ぜんぜん真相はわかりません。
まあ、とにかく、巻末の法月綸太郎との対談も、ファンにはうれしい企画です。

満足度★★★★


「リベルタスの寓話」 島田荘司

2007年11月06日 | 本(ミステリ)

「リベルタスの寓話」 島田荘司 講談社

御手洗シリーズ。「リベルタスの寓話」と「クロアチア人の手」の2編が収められています。
「リベルタス・・・」のほうは、ボスニア・ヘルツェゴビナが舞台。
こちらはハインリヒが語り手。
「クロアチア・・・」のほうは日本が舞台となって、石岡氏が語り手。
どちらも、スウェーデンの大学にいて、忙しくて手が離せないというミタライに状況を報告し、推理を仰ぐという、いつものパターン。

このところ、島田荘司氏は、この辺りの歴史に興味を持っているようなのですね。私は未だに、どの国がどの位置にあるのかよく把握しておりませんが、なかなか、複雑な民族事情・政治事情があり、そういうことを、紐解いてくれる島田氏には、感謝です。
なかなか自分では調べようという気にはなりません。
というか、そういう問題があるということすら見逃し勝ち。
たくさんの国が陸続きで、たくさんの民族が入り乱れ興亡を繰り返してきたヨーロッパ周辺。
四方が海で、外敵の進入がほとんどなく、ここまで来た日本とは基本的に何かが違うのだとつくづく思います。
今、平和ボケ・・・などといいますが、日本はずーっと昔からそうなのです。

「リベルタス・・・」の方には、ドゥブロブニクという自治都市が今のクロアチアに13世紀頃からあり、人種平等、奴隷売買の否定、民主独立の精神で政府が立てられていた、というのです。
病院や養老院、孤児院などもあり、また、彼らの人権も擁護、確固とした福祉制度が敷かれていた。
凄いですね、こんなこと、学校では教えてくれませんでしたね。
表題の、「寓話」の方は創作だそうですが・・・。
ここでは内臓がばらばらに取り出された血みどろ惨殺死体登場・・・。
うう・・・。
まあ、本格推理ではありがちなことなので、さらりと読み流す・・・。

「クロアチア・・・」の方は、二人のクロアチア人が日本の芭蕉会館に招かれ寄宿。
一人はピラニアの水槽に顔を突っ込んだ死体が密室で発見される。
もう一人は逃走途中(らしい)、事故で死亡。
なぜか、互いの部屋が入れ替わった状態になっている。
まったく不可解な状況・・・。

これら東ヨーロッパ(・・・というよりは西アジアというべきなのか?)の民族紛争を語りつつ、
最先端のオンラインゲームによる仮想通貨や、
最新ののテクノロジーを交えて語られる、これぞ、島田荘司、21世紀本格推理です。

それにしても、いつも御手洗に振り回され翻弄され、泣かされたりもする、石岡氏には同情します。
けど、そこがこの本の魅力でもあるのでね・・・。

満足度★★★★


「ヴィリ(Wilis)」 山岸凉子 

2007年11月04日 | コミックス

「ヴィリ(Wilis)」 山岸凉子 メディアファクトリ

店頭で見つけたこの本。
バレエマンガ。
「テレプシコーラ」の続編?と思ったのですが、これはまた、別の話です。
もちろんバレエは「アラベスク」の頃から山岸凉子の真骨頂ではありますが、もう一つの彼女の得意分野。
それは怪談。
この本は、この、バレエと怪談の融合で、山岸ファンには垂涎の一作といえるでしょう。

「ヴィリ」または「ウィリー」は、クラシックバレエの代表作「ジゼル」に登場する結婚直前になくなった女性が精霊になったもの。
・・・つまり、多分にこの世に未練たっぷりの幽霊、ということです。
この演目を控えるバレエ団の人々が織り成すドラマがこの本。

43歳の東山礼奈はバレエ団を経営する彼女自ら「ジゼル」を踊る予定だが、また最近特に美しく、踊りも円熟。
そのわけは、IT企業の社長、高遠和也との付き合いにあるようだ。
彼女には若い頃付き合って別れた恋人との間に生まれた娘、舞がいる。
プロポーズを心待ちにする礼奈だったが、和也が愛していたのは意外にも・・・!
そこで受けた精神的打撃はあまりにも大きく、抜け殻のようになってしまう礼奈。
そしてステージの奈落から誤って転落。

「ジゼル」に登場するヴィリ。
以前からひそかに語られている、奈落から転落死したダンサーの幽霊譚。
それをなぞるかのような、今回の事故。
これらが絡み合って、独特の味が出ています。
・・・ということで、ちょっぴり怖いバレエのストーリー。
しかし私が一番ショックだったのは、はっきり言ってただの「おじさん」の高遠氏の相手がなんと高校生。
・・・ストーリー上の都合とはいえ、それなはいでしょ~、ほとんど犯罪。
まあ、IT企業社長・・・といえば連想する、アウトサイダー取引であっけなくも逮捕されちゃうところがまた、なんとも・・・。
ここで登場する男性は、女性が成長するための単にアイテムとしての男性であり、その人物像は、さして重要ではない、ということなのだと思います。
この描写の軽さが、証明しています。
それにくらべて、この、礼奈のおそろしいまでの生々しさ・・・。
そして、開き直る強さ。
ここがやっぱり、年齢を重ねた「女」、山岸凉子の力量なんだなあ。

ほとんど想像ついちゃうかもしれませんが、あえてネタばらしをしていませんので、この衝撃を、ぜひご自分で味わってください・・・。


満足度★★★★


「プラトン学園」 奥泉 光

2007年11月03日 | 本(ミステリ)

「プラトン学園」 奥泉 光 講談社文庫

始まりはとても普通です。
大学を出たばかりの木苺は、ある離れ小島の「プラトン学園」に教師として赴任。
プラトン学園?
なにやら、恩田陸の欧風ロマンティック、金髪の美少年でも登場しそうな感じではありませんか。
学園の建物は確かにその通りだったのですが・・・。
ところがそこに登場する人物、他の教師たちは、なんとも俗っぽく、たとえてみれば、「坊ちゃん」の赴任した学校風。
ではそういう話なのかといえば、これもまったく違って、
なんと、映画「マトリックス」ばりの仮想電脳空間の物語。
学園中に張りめぐらされた、ネット網。
そこには、現実の「プラトン学園」とまったく同じ空間を探索できるソフトがあって、人々は、実際に出歩くよりもその中で歩き回るようになる。
そこには自分で操作できる「人」がいて、出会った別の「人」と会話もできる。
しだい次第に、自分がいるところが現実なのか、ソフトの中なのかわからなくなってくる。
学園の地下通路。
その先の地下都市。
時折森を闊歩する恐竜たち。
どこまでが現実で、どこからが仮想世界なのか。
ついには自分自身さえも、もう一つ外の世界から操られている存在であるようにも感じられる。
永遠の迷宮。

この物語には、結末がない。
ただ、自分が、永遠に続く虚構の中に生きているらしい、という自覚の中で、エンディングになってしまう。
けれど、それはもしかして、今生きている自分の状況にとても近いのかも・・・、そんな気がしてくるので、ちょっぴり怖い話です。

いつもこんな風に、不思議かつ不安な空間に投げ出されてしまう。
そこが、奥泉ワールドの魅力でもありますね。

満足度 ★★★★