映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

山女

2024年03月13日 | 映画(や行)

あきらめることしかなかった人生

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重厚です。

18世紀後半の東北。
冷害による飢饉で苦しむ村。

凜(山田杏奈)の家は、曾祖父が火事を起こしたことから、
田畑の大半を奪われ、村の汚れ仕事を引き受けながら、蔑まれて生きています。
父や弟、自分にはなんの責任もないことながら、
村の中で酷い差別をずっと受け続けているのです。

そんな凜の心の支えは、盗人の女神様が宿るといわれる早池峰山。

ある時、盗みを犯した父が村人から責められているのを見た凜は
とっさに、それは自分がやったと言って、父を庇います。
そして家を守るため自ら家を出て山に入ります。
決して越えてはならないと言い伝えられている山神様のほこらを越えて、さらに山奥へ。
そこで凜は、人間なのかもよくわからない、
不思議な存在<山男>(森山未來)と出会います。

さてそんな時、村ではいよいよ食べるものも枯渇。
占いのばあさまの言葉を信じて、
天候回復のために、乙女を生け贄に捧げる相談がまとまります。
そこで凜が候補に挙げられ、山に入った凜を人々が探しに来ます。

山に入って、仙人のような暮らしをしている謎の男と出会ってからの凜は、
これまでの人生の中で最も幸せなときであったでしょう。
山男は、何も言葉を発しないのですが、やさしく凜に寄り添ってくれる。
何も強制はしない。
・・・しかし穏やかなこんな暮らしは長くは続かず、
凜を探す者たちによってあっけなく打ち砕かれてしまいます・・・。

そんな悲惨な運命をも、ただ黙って受け入れる凜。
彼女の人生にはあきらめしかなかったかのようです。

こんな彼女に、救いはあるのか・・・?
じっくり最後まで見届けてください。

 

<WOWOW視聴にて>

「山女」

2022年/日本・アメリカ/100分

監督:福永壯志

脚本:福永壯志、長田育恵

出演:山田杏奈、森山未來、二ノ宮隆太郎、三浦透子、永瀬正敏、でんでん、品川徹

 

困窮度★★★★★

満足度★★★.5


夜明けのすべて

2024年02月13日 | 映画(や行)

生きにくい事情のある2人

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PMS(月経前症候群)のため、月に一度イライラが抑えられなくなり、
人に攻撃的になってしまう藤沢(上白石萌音)。
ある時、会社の同僚、山添(松村北斗)に対して、
怒りを爆発させてしまいます。
山添は転職してきたばかりなのに、
炭酸水を飲んでばかりでいかにもやる気がなさそうなのです。

実は、そんな山添はパニック障害を抱えていて、
そのため転職せざるを得なくなってここに来て、
生きがいも気力も失ってしまっているのでした。

2人は互いにそのことを打ち明けあい、
しだいに自分の症状は改善できなくても、相手を助けることはできるのではないか
と考えるようになります。

恋人でも友達でもない、いわば同士の2人。
生きにくさを抱える人々がほんの少し寄り添って支え合う。
そういうドラマです。

私も実はPMSのことはよくわかっていませんでした。
症状や程度はもちろん人それぞれなのでしょうが、
この藤沢さんのようなケースもあるということですね。
確かに、普段控えめで大人しい人がある時突然切れて怒鳴り始めたら
大抵は引いてしまって、変な人というレッテルを貼られてしまう。
藤沢さんもそのためこれまでずいぶん職を変えているのです。

2人のいるこの職場は子供向けの光学機器を組み立てるような
小さな会社なのですがアットホーム。
皆は2人のこの症状のことを聞いてはいないのですが、
2人の症状が出たときにも実にさりげなく対処して、
その後もわだかまりがありません。

実はこっそり聞かされていた・・・?と思うほどなのですが、
こんな風に、いろいろな人がいていろいろなことがあるよねえ・・・と、
さらりと受け止められたらいいですね・・・。
それであれば逆にカミングアウトももっと気安くできるのかも知れません。

そしてまた、2人が仕事でプラネタリウムの解説文を考えていくという
サイドストーリーがいいのです。
果てしない宇宙のことと、このちっぽけな地球上の人々の暮らしのこと。
そんな中でささやかに生きていることの意味を思ってしまいます。

ここで2人には特に恋愛感情は芽生えません。
朝ドラ「カムカムエブリバディ」では夫婦を演じていたお二人。
でも本作は、男女に関わりなく、人と人としてわかり合い支え合うことを
あくまでも伝えたかったのでしょう。

良き物語でした。

松村北斗さんは、先の「キリエのうた」もそうでしたが、
良い役に就きますよねえ。

実は私は、目黒蓮さんにもこういう役をしてほしいのです。
彼の力量を十分に発揮できる作品に・・・。

 

<シネマフロンティアにて>

「夜明けのすべて」

2024年/日本/119分

監督:三宅唱

原作:瀬尾まいこ

出演:松村北斗、上白石萌音、渋川清彦、芋生悠、りょう、光石研

 

生きにくさ★★★★☆

満足度★★★★★


山のトムさん

2023年12月08日 | 映画(や行)

ナチュラルな暮らし

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WOWOWのオリジナルドラマです。
石井桃子さんが戦後宮城県鶯沢で送った
開墾生活を題材に綴った回想記を元にしたもの。

 

東京で暮らしていた文筆業を生業とするハナ(小林聡美)が、
田舎で生活を始めた友人トキ(市川実日子)の元にやって来ます。

トキは小学生の娘とともにここへやって来て、
近所の人に教えてもらいながら農業を始めているのです。
ハナは、中学を卒業したばかりの甥っ子・アキラとともに、
しばらくここで野菜作りを手伝いながら共に暮らすことに。

古い家なので、近頃ネズミが出て困っていて、
子猫を飼うことになり、トムと命名。
4人と一匹の田舎暮らしが始まります。

原作は少し古い時代の話のようですが、本作は現在。

アキラの事情は詳しくは説明されませんが、
どうやら中学で不登校となり、高校進学もやめて、叔母に伴ってここへやって来たようです。
彼は慣れない田舎暮らしで、戸惑いもあるようですが、
彼なりに仕事を手伝い、ヤギの世話などもするようになって
少しずつ心の成長を遂げて行くようではあります。

が、本作中で意欲を取り戻して将来の進路を決意、
などというところまでは描かれません。
ですが私は、そこがいいなあと思います。
周囲の人も彼のことをあれこれ詮索はしないし、
あるがまま、気が向けばここを出ていってもいいし、
やりたいことが見つかればやってみればいい。
学校とか就職とか、一般の枠にあえてはまる必要はない、というのがいいです。

 

野菜を作り、鶏を飼い、ヤギを飼って、ネズミはネコに任せて・・・。

のどかな田舎暮らしに見えるけれど、実際は大変だろうなあと思います。
野菜作りは自分の家で食べる分くらいのようでしたし、
趣味ならともかく、それで生活は成り立つのか?
そこが知りたいところではあったのですが・・・。
ま、現実的なことはこの際考えないことにして・・・。

ほっこり田舎暮らし。
心が和みます。

 

子猫は抱っこするとネズミを捕らなくなるので、絶対に抱っこしてはダメ、
と地元の人に言われるのですが、
可愛い盛りの子猫を抱っこしないでいられるわけがありません。

皆それぞれ、こっそり抱っこして楽しんでしまったのですが、
トムは無事ネズミをとるようになりました!!
めでたし!

 

「山のトムさん」

2015年/日本/116分

(WOWOWドラマW)

監督:上田音

脚本:群ようこ

出演:小林聡美、市川実日子、光石研、高橋ひとみ、もたいまさこ、伊東清矢

 

ナチュラルな暮らし度★★★★★

満足度★★★☆☆


夕霧花園

2023年10月18日 | 映画(や行)

荒れ果てたかつての日本庭園で

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舞台はマレーシア。
戦中1940年代、戦後50年代、80年代と、三つの時間軸で構成されます。
亡き妹の夢だった日本庭園作りに挑むマレーシア人女性と日本人庭師の物語。

80年代。
マレーシアで史上二人目の女性裁判官となったユンリン。
さらなるキャリアアップを図ろうと奮闘しています。
そんな時、かつて愛した日本人庭師・中村(阿部寛)が、
終戦時、日本軍が埋めたとされる埋蔵金にまつわるスパイ容疑をかけられていることを知り、
彼の潔白を証明するため、かつての彼との出会いの地を訪れます・・・

1940年代、マレーシアは日本軍に支配され、
ユンリンと妹は捕らえられ、日本軍に過酷な労働を強いられていました。
そして妹は若い女性として、さらに過酷な運命にさらされてしまう。

辛くも生き延びたユンリンはその後50年代、
日本人戦犯の裁判などにも関わる地位を得ていました。
そんな精神的にも金銭的にも落ち着いてきた彼女が、
亡き妹が憧れていた日本庭園を造りたいと、日本人庭師中村有朋の元を訪ねるのです。
しかし有朋は依頼を拒否。
自分で覚えて作ればいいと、無理矢理彼女を弟子にしてしまいます。

有朋というのは戦前から戦後の今までこの地に残っている謎の人物。
何でも天皇家に仕える庭師をクビになったのだとか・・・? 
一見穏やかそうである彼は造園には酷くこだわりをみせて、
同じ石を気に入るまで移動させたり向きを変えたり・・・。
そして背中には美しいタトゥー。
彼自身も彫り師でもあり、ユンリンの背にも彼自身の図案で美しいタトゥーを施します。

80年代の今、あの時美しかった中村が住んでいた家も今は荒れ果てて廃屋同然。
庭ももちろん、深い草に覆われています。
あの時、突然姿を消してしまった有朋とのあれこれを思い返しながら、
家の周囲や残された書類などを調べるユンリン。

そして、彼女は一つの驚くべき事実に気がつくのです。

時を経て、有朋が残した謎を解き明かすという、かすかにロマン漂う作品。
日本庭園と有朋の底に秘めた神秘性・・・静かな雰囲気に満ちています。

戦中の出来事を、日本人ではない視点で描いているこの作品。
そういう所も興味深いです。

 

<Amazonプライムビデオにて>

「夕霧花園」

2019年/マレーシア/120分

監督:トム・リン

原作:タン・トゥアンエン

脚本:リチャード・スミス

出演:リー・シンジエ、阿部寛、シルビア・チャン、ジョン・ハナー、ジュリアン・サンズ

 

日本庭園の神秘度★★★☆☆

時と人のロマン度★★★★☆

満足度★★★★☆


四畳半タイムマシンブルース

2023年09月28日 | 映画(や行)

リモコンの行方

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森見登美彦さんのベストセラー小説「四畳半神話大系」と
劇団ヨーロッパ企画の人気舞台「サマータイムマシン・ブルース」がコラボレーションした
小説「四畳半タイムマシンブルース」をアニメ化したもの。

「サマータイムマシン・ブルース」は、実写映画化されたこともあって、私は大好きでした!

大学生「私」が暮らす、京都左京区の古びた下宿、下鴨幽水荘。
ある夏の日、唯一のエアコンのコントローラーが、
悪友・小津のために故障して使えなくなってしまいます。
そんなところへ、見知らぬ男子学生・田村が現れ、
25年後の未来からタイムマシンでやって来たといいます。
「私」はタイムマシンで昨日の夜に戻り、
壊れる前のリモコンを持ってくればいいのではないかと思いつきます。
しかし、小津たち悪友仲間が過去へ戻り、
勝手気ままに過去を改変してしまう。

そもそも、過去を変えるということは時空にひずみが生じ、宇宙の消失にまで繋がるのでは・・・?!
なんとか、つじつまを合わせ、過去と現在の齟齬が乗じないように悪戦苦闘する「私」たち。

・・・という大まかなストーリーに加えて、
「私」のマドンナ・明石さんへの儚い思いの行方も楽しめます。
そして、リモコンの壮大な時空の旅もまたよし。

アニメの雰囲気もまた、カンペキな森見登美彦ワールドを体現していまして、
言うことなし。

<WOWOW視聴にて>

「四畳半タイムマシンブルース」

2022年/日本/92分

監督:夏目真悟

原作(著):森見登美彦

原案・脚本:上田誠

出演(声):浅沼晋太郎、坂本真綾、吉野裕行、本多力、上田誠

 

SF度★★★★☆

森見ワールド度★★★★★

満足度★★★★☆


野球部に花束を

2023年08月29日 | 映画(や行)

高校野球にエールを送る作品!

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中学での野球部生活を終え、高校は自由に楽しくすごそうと茶髪で入学した黒田。
ところがうっかり野球部の見学に参加して、なぜか入部することになってしまいます。
新入生歓迎の儀式で無理矢理バリカンを当てられて、坊主頭に逆戻り・・・。

鬼監督の原田(高嶋政宏)や、後輩を奴隷のように扱う先輩部員の元、
過酷な日々が始まります。
強豪ではないが、弱小でもない、ごく普通の高校野球部の真実を描きます・・・。

 

まさに、体育会系の見本。
ヤクザの組長のような、妙に威張って言いたい放題、やりたい放題の監督。
3年はそんなヤクザの幹部。
2年は、普通に組員ですがいわば中間管理職。
上からも下からも突き上げを喰らう。
そし11年は、いわれたことは絶対服従の奴隷というわけ。

一年から見ると3年は皆ヤクザのおっさんにしか見えない、ということで
3年が皆、小沢仁志さんの顔になっているのには笑えました。

こういうとこ。
野球部のこういうイメージがどうもねえ・・・と、私は常に思っているのですが、
だがしかし、本作を見ていくと、
こんな中でも育まれていくチームワークやら、心の成長やらも
ちゃんとあることに心地よさを感じ始めます。

まあ少なくとも、理不尽なしごきやらいじめっぽい所はないストーリーなので。
そしてあの傲慢な監督も、実はよく生徒たちを見ていて、
面倒見も良かったりするわけで・・・。

時々「高校野球部あるある」の話が紹介されるのも楽しい。

こんな中でもまれながらも、一年生たちは少しずつたくましく成長し、
チームワークを結び、時には恋さえしてしまう。
そんな彼らをとても楽しく見させてもらいました。

ちょうど甲子園の大会が行われていたところ。
坊主頭の規定はなくて、ヘルメットをとるとさらさらヘアが風になびくなどと、
新たな高校球児のスタイルも出てきましたねえ。
良いのではないでしょうか。
なんなら茶髪でも。

<WOWOW視聴にて>

「野球部に花束を」

2022年/日本/99分

監督・脚本:飯塚健

原作:クロマツテツロウ(コミック)

出演:醍醐虎汰朗、黒羽麻璃央、駒木根隆介、市川知宏、高嶋政宏

 

高校野球の真実度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


よだかの片想い

2023年07月09日 | 映画(や行)

コンプレックスとアイデンティティ

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理系の大学生、前田アイコ(松井玲奈)は、顔の左側に大きなアザがあります。
そのために人間関係や自己形成に複雑な影響を受けているアイコは、
恋や遊びはあきらめ、研究一筋に打ち込む毎日。

ところがある日、「顔にアザや怪我を負った人」の
ルポタージュ本の取材を受け、話題となります。
そして、その本を映画化したいという映画監督・飛坂(中島歩)と会うことになり、
次第に彼の人柄に惹かれていきますが・・・

題名の「よだか」は、宮沢賢治の「よだかの星」から来ていて、
そこでよだかはたいそう醜い鳥とされているのです。
そこで大きなアザのあるアイコが、よだかを自分と重ね合わせてもいるのでしょう。

自分の生まれついての顔のことで、それはそれとして受け入れているけれども、
人からかわいそうだとか哀れみの視線を受けるのがイヤだと彼女は思っているのです。

そんなことは特に大きな問題ではなくて、アイコをアイコ自身として受け入れてくれる人々、
例えば研究室内の人々や、先輩、そして飛坂とともにいるときに、
アイコは安らぎを感じるのです。

だからまっすぐに自分を見つめてくれる飛坂を好きにならない方がおかしいですよね。

しかーし、確かに飛坂は実にイイ奴なのだけれど、
仕事熱心なあまり、恋人を大事には扱わない。
もしかすると、映画化を承諾させるために自分と付き合ってくれているのかな・・・?
とそんな疑問も湧き出てしまうアイコ。
そしてまた、飛坂のモトカノの登場で、アイコは平常ではいられなくなってしまう・・・。

自分の持つコンプレックスと、自分が自分らしく在ること、
その二つが葛藤するドラマなのでしょう。
あの「よだか」が、鷹に「名前を変えなければ殺す」といわれるのだけれど、
名前こそが自分自身の証であるわけだから、
よだかは名前を変えようとはしないわけなんですね。

手術でアザを消すことができると言われたときのアイコの迷いと、
ここは重なります。

貴重な物語でした。
あ、原作が島本理生さんなので、物語はよくて当然。

青木柚さん演じるアイコの後輩くんがステキでした。
なんて淡々とした愛情表現。
でも、そういうのもアリだよなあ・・・と。

 

<WOWOW視聴にて>

「よだかの片想い」

2021年/日本/100分

監督:安川有果

原作:島本理生

脚本:城定秀夫

出演:松井玲奈、中島歩、藤井美菜、青木柚

 

自己発見度★★★★☆

満足度★★★★☆


夜、鳥たちが啼く

2023年06月17日 | 映画(や行)

結婚していないのに家庭内別居

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私、佐藤泰志さん原作の作品は見逃さないようにしていたつもりなのですが、
本作、見損ねていたようです。

若い時に、とある賞を受賞したけれど、その後鳴かず飛ばずの作家、慎一(山田裕貴)。
同棲していた恋人に去られ、鬱屈した日々を送っています。
そんなところへ、慎一の友人の元妻・裕子(松本まりか)が
幼い息子アキラを連れて引っ越してきます。
慎一は、恋人と暮らしていた家を母子に提供し、
自身は離れのプレハブで寝起きすることに。

自身の体験や心情を元に小説を描く慎一は、自分の身を削るように文章を綴ります。
夜な夜なパソコンに向かい、もがき苦しむ毎日。
一方、裕子はアキラが眠ると町へ繰り出し、男たちと夜を過ごしていました。
2人は互いに深入りしないよう距離を保っていましたが・・・。

本作は、この売れない作家・慎一と、原作者・佐藤泰志さんが、
かなり重なっているのかもしれない・・・と思いながら見ました。

あんな風にして、浮かばない言葉を無理矢理のように生み出しながら、
著者も著作を続けていたのかなあ・・・などと。
自分の奥底の暗い部分としっかり向き合わなければならないのは、
つらいことだと思います。

さて慎一は、親しくしていた友人一家の離婚に当惑しつつ、
行き場を失った元妻と息子に家を提供したのでした。
しかし、その元妻が松本まりかさんと来れば、
何もないわけがないじゃありませんか!!

極力、深入りしないようにしていた2人だけれど、やはり次第に接近していく。
無邪気に親しみをみせる子供のために、
食事を共にしたり、たまにどこかへ遊びに出かけたり・・・と、
まだ何もない2人ではあっても、形の上で「家族」のようになってしまうのです。

けれど、なし崩しになれ合った関係になりたくはない2人。
そんな2人は自分たちのことを「結婚していないのに家庭内別居」と呼びます。
人と人との関係のあり方は様々。
特に近年は・・・。
むしろこういう方が、長く続くような気もします。

そして、私小説的な話であっても、必ずしもネガティブなものでなくてもよいのでは?
という気もしてきました。
先のことを考えすぎずに、成るようになる、ということでも。

<Amazon prime videoにて>

「夜、鳥たちが啼く」

監督:城定秀夫

原作:佐藤泰志

出演:山田裕貴、松本まりか、アキラ、中村ゆりか

 

家庭内別居度★★★★☆

満足度★★★★☆


湯道への道 「湯道」アナザーストーリー

2023年03月25日 | 映画(や行)

映画「湯道」ができるまで

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先に見た映画「湯道」のスピンオフドラマ。
Prime videoオリジナルです。

「湯道」より前の出来事・・・。

 

400年続く「湯道」最後の家元である梶山(窪田正孝)。
しかし今は弟子もおらず、もう続けていく望みもない。
もうこのまま死んでしまおうと思った矢先、
たまたま忍び込んだペテン師・安藤(生田斗真)に救われます。
なんとか「湯道」を世間に知ってもらうためにどうすればいいのか? 
二人は考えるのですが、その結果が映画。
織田信長も関係するという「湯道」の歴史を映画にすればよいのでは?
ということで、まずはスタッフ集め。

映画のためには、音声、照明、撮影、美術、脚本、監督、プロデューサー、
最低この7人がいればいいと言うのです。
そこで集まったのはすでに現役を引退した映画人たち4人。
パワハラが原因で自分の殻にこもってしまった脚本家女子1名。
足りない監督を梶山、プロデューサーを安藤が務めることにして、
よって、「7人の侍」が結集。
しかし、なんと資金のことを考えていなかった!

「湯道」の話のはずが、いつの間にか「映画道」みたいになってくるのですが、
そこがメチャメチャ面白い。
様々な名画(和洋問わず)の懐かしのシーンのオマージュが登場したりします。

ぜひぜひ「湯道」と合わせてご覧ください。
やはり、本編映画の方を先に見ることをオススメします。

<Amazon prime videoにて>

「湯道への道  『湯道』アナザーストーリー」

2023年/日本/126分

出演:生田斗真、窪田正孝、中村アン、六平直政、正名僕蔵

 

ユーモア度★★★★☆

映画愛度★★★★☆

満足度★★★★☆


湯道

2023年03月17日 | 映画(や行)

いい湯だなあ~

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この日の劇場視聴2本チョイスが、
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」と本作。
全く異質の2本。
「エブリ~」はちっとも楽しめなかったのですが、
本作ですっかりまったりとくつろぎつつ感動し、満足感に浸って帰途につくことができました。
最近、めっきり邦画の方が体に合う気がします。
そういえば、「日本アカデミー賞」がらみの作品ならほとんど見ているなあ・・・。

さて、本作。

亡き父が残した実家の銭湯「まるきん温泉」に戻って来た、
建築家の三浦史朗(生田斗真)。
店は、弟の悟朗(濱田岳)が切り盛りしており、
住み込みの従業員・いづみ(橋本環奈)と共に、忙しく働いています。

そんな弟に史朗は、銭湯をたたんでマンションに建て替えるべきだと言うのですが、
弟は聞く耳を持ちません。

そんなある日、ボイラー室でボヤが起こり、悟朗が数日間入院することに。
いづみの勧めがあって、史朗が弟に変わって数日間
銭湯を切り盛りすることになりますが・・・。

 

ここの銭湯は、井戸水をくみ上げて、薪で焚いているのです。
代々受け継がれたここのやり方。
しかし今時、銭湯の客は減る一方。
燃料費は高く、やりくりが大変と言うのはよく聞くところです。

史朗は実のところ建築家としての仕事も行き詰まっていて、
やむなくここに帰ってきたのは、
この銭湯をたたんでマンションを建てることで、自身の生活を立て直そうと目論んでいたから。

しかし悟朗は、出ていったきり父の葬儀にも顔を出さなかった兄に怒りを感じ、
意地でここを続けようと思っている。

こんな2人の感情を軸に、銭湯の常連さん達のお風呂愛、
そしてまた、「湯道」として入浴の作法を極め、
世に残し伝えようという一門のことが描かれます。

コミカルで、そして思わず泣ぐんでしまう人情話も盛りだくさん。
実に、いい感じの作品でした。

すっかり身も心も温まって、
最後にはフルーツ牛乳なんかが飲みたくなってしまいました!!

<シネマフロンティアにて>

「湯道」

2023年/日本/126分

監督:鈴木雅之

脚本:小山薫堂

出演:生田斗真、濱田岳、橋本環奈、小日向文世、天童よしみ、クリス・ハート、窪田正孝、柄本明

 

お風呂愛度★★★★★
人々の絆度★★★★☆
満足度★★★★.5

 


やがて海へと届く

2023年02月19日 | 映画(や行)

不意にいなくなってしまった人への思い

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引っ込み思案で自分をうまく出せない真奈(岸井ゆきの)は、
大学入学後に自由奔放でミステリアスなすみれ(浜辺美波)と出会います。
そして2人は親友に。

ある時期2人は同居生活を送りますが、
やがてすみれはカレシ・遠野(杉野遥亮)と暮らすために出て行ってしまいます。

そしてある時、すみれは東北地方へ一人旅に出たまま姿を消してしまいます・・・。

すみれの不在をいまだに受け入れられない真奈。
遠野やすみれの母親は、いなくなった今の方が近くにいる感じがする、
などと言うのに反感を感じますが・・・。

 

始まってすぐに状況は明らかにされるので、
ネタばらしかも知れないけれど言ってしまいますが
すみれは単に行方不明というよりも、限りなく死に近い状況なのです。

冒頭と終盤には美しい水彩タッチのアニメーションが挿入されています。
不意にいなくなってしまった人への思いや、その人が生きていたときの思いは、
一体どこへ行ってしまうのだろう・・・。
そんな思いをのせながら。

真奈は、すみれに対して「友人」以上の気持ちを抱いていたのだけれど、
すみれはどうだったのか。
その答えは終盤にあったのですが、私はそこの所はなくてもよかったのでは?
という気もしました。
もう少し、二人の間の出来事を細かに描写することで、
感じることはできたのでは?と。

ともあれ、そんな二人の感情に薄々気づいてもいた遠野は、ちょっとステキでした。

物語は東北で起こったあの大きな悲劇に関連していきます。
不意にいなくなってしまった人への思いの切なさ、やるせなさ。
そんな思いをきわだてる作品なのでした。

<Amazon prime videoにて>

「やがて海へと届く」

2022年/日本/126分

監督:中川龍太郎

原作:綾瀬まる

出演:岸井ゆきの、浜辺美波、杉野遥亮、中崎敏、鶴田真由、中嶋朋子、光石研

 

いなくなってしまった人への哀悼度★★★★★

満足度★★★★☆


余命10年

2022年11月28日 | 映画(や行)

余命10年は、長いのか短いのか

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病気のオンナノコの話は嫌いです・・・、といつも言っているのに、やはり見てしまう。
本作は、見逃してしまうにはあまりにも惜しい、豪華キャストなもので・・・。

20歳の大学生・茉利(まつり)(小松菜奈)。
数万人に一人という不治の病に犯され、余命10年を宣告されます。
療養のための入院は2年にも渡り、大学卒業はそこであきらめなければなりませんでした。
退院後も病気が完治したわけではなく、残りの命を数えて生きるような、苦しい日々・・・。
茉利は生きることに執着しないように、恋はしないと心に決めています。

ですがそんなある日、同窓会で和人(坂口健太郎)と出会い、恋に落ちてしまいます。
予定とは大きく変わる彼女の10年。
けれど、茉利は自分の病が不治の病であること、
余命わずかであることを和人に伝えられないのです・・・。

和人の登場の仕方がちょっと意外でした。
彼は仕事をクビになって、生きる意味を見失い自殺を試みてしまうのです。
ですが、失敗に終わります。
そんなところへ見舞いに来た茉利は、「ずるい」と言い捨てて帰ってしまう。
生きたくても生きられない人がいるのに、なぜ自分の命を粗末にするのか・・・
茉利はそういう気持ちがあふれ出てしまったのですね。
和人にはその言葉が胸に刺さって忘れられず、茉利と付き合うようになるわけです。

確かに、元気ではつらつとして自信満々の男性とは、
茉利は付き合う気にならなかったでしょう。

和人の弱さ・やさしさは、逆に病気の自分でも励ますことができる。
ただ“かわいそう”な存在にはなりたくない。
それが自分の病気を打ち明けられない理由でもあるわけですね。

余命10年というのは、長いのか、短いのか、ちょっと微妙
という表現が作中にあり、実際私も本作の題名を見たときにそう思ってしまいました。

でもこれは、例えばよくある「高校生くらいの女の子が、残り1~2年の命を生きる」
のとは少し意味が違ってくると思うのです。

20歳からの10年間。
恋愛関係の人がいるとすれば、当然結婚も視野に入ります。
でも自分はその結婚生活の途中でいなくなることが分かっている。
とすれば、相手にとって結婚することがよいのか、悪いのか・・・。
相手に負担ばかりを負わせることが分かっていて、結婚はできないとも思う。

「青春」ではなく「人生」がかかった決断をしなければならないということで、
大変重いですね・・・。

本作は「フィクション」ではあるけれど、
著者・小坂流加さん自身のことがかなり反映されています。
小坂流加さんは、「余命10年」文庫版の編集が終わった直後、
病状が悪化し、2017年2月に38歳で逝去されたそうです。

小松菜奈さんと坂口健太郎さんが、見事にこの二人を演じてくれました。
感涙。

 

<WOWOW視聴にて>

「余命10年」

2022年/日本/125分

監督:藤井道人

原作:小坂流加

脚本:岡田惠和、渡邊真子

出演:小松菜奈、坂口健太郎、山田裕貴、奈緒、黒木華、
   田中哲司、原日出子、松重豊、リリー・フランキー

満足度★★★★★


夜明けまでバス停で

2022年11月01日 | 映画(や行)

コロナ禍でさらけ出される社会矛盾

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日中はアトリエで自作のアクセサリーを販売、
夜は居酒屋で住み込みのパートとして働く三知子(板谷由夏)。
ところが、コロナ禍となり、仕事も住む家も失ってしまいます。
新しい仕事は見つからず、ネットカフェなども閉まっている。
行き場をなくした彼女がたどり着いたのは、街灯の下にポツリとたたずむバス停。
誰にも弱みを見せられない彼女は、
そこで一夜を過ごすホームレスとなってしまったのです。

一方、三知子の働いていた居酒屋の店長・千春(大西礼芳)は、
コロナ禍の厳しい現実と従業員の間に板挟み。
また、マネージャーである恋人・大河原(三浦貴大)の、
パワハラ、セクハラにも悩んでいます。

やがて、三知子は公園のホームレス達とも顔なじみになり、
もと過激派の爆発犯(柄本明)とも知り合い・・・。

本作、2020年11月に東京幡ヶ谷のバス停で寝泊まりしていたホームレス女性が
暴漢に殴り殺されるという実際の事件に着想を得ています。

三知子は、別れた夫が三知子名義のカードを使って多大な借金を作ったものを、
「私のカードだから・・・」といって、律儀に借金を返し続けていたのです。
だから、住み込みの職に就きアクセサリーを売っても、いつも生活はギリギリ。
その上実家の母が施設に入るとのことで、兄から費用を援助してほしいと言われ、
なけなしの20万円を振り込んでしまっていました。
そんな風に真面目に、コツコツと生きてきたつもりなのに、
あげくにホームレスになってしまった三知子。
なんとも理不尽です。

私はコロナ禍の中、そのような人たちがいるというニュースは見ていたのですが、
こんな風にその実態を突きつけられると、
いかに何も見ていなかったのかと思い知らされます。
本当にあの頃、こんな風に窮地に陥った人がどれだけいたことでしょうか・・・。

ロシアとウクライナの戦争の心配は毎日のようにするのに、
こうした人々の心配はニュースを見たときだけなのか・・・。
弱者には冷淡な社会。
自分もその社会の一員なのだなあ・・・。

 

ここまで落ち込んだ人生を描きながら、
本作はラストでちょっとした意趣返しがあります。
こんな風に、破れかぶれなのも悪くない。

作中、したり顔のユーチューバー氏が「ホームレスは社会の恥、ゴミだ」などと主張するのですが、
その役を演じているのが柄本佑さん。
そしてホームレスの一人が柄本明さん、というところがなんとも洒落ていました。

 

<サツゲキにて>

「夜明けまでバス停で」

2022年/日本/91分

監督:高橋伴明

出演:板谷由夏、大西礼芳、三浦貴大、松浦祐也、柄本明、筒井真理子、柄本佑

 

コロナ禍の現実度★★★★★

社会の歪み度★★★★☆

満足度★★★★.5


由宇子の天秤

2022年09月04日 | 映画(や行)

正しいことを貫こうとすれば・・・

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3年前の女子高生いじめ自殺事件の真相を追う、
ドキュメンタリーディレクターの由宇子(瀧内公美)。
世に問うべき問題に光を当て、製作サイドと衝突することも厭わない。
由宇子はそうした自分のやり方に自信とプライドを持っています。

また彼女は、父(光石研)が開いている学習塾を手伝い、高校生たちとも交流があります。
ある時、父・政志の思いがけない行動で、
由宇子は信念を揺るがす究極の選択を迫られる・・・。

由宇子が追っているいじめ自殺事件は、
いじめを受けていた女子高生が教師と付き合いがあったというウワサを流されて自殺したというもの。
おまけに、その教師もその後、付き合いなどなかったという遺書を残して自死してしまったのです。

残された家族にインタビューを求め、真実を探ろうとしていた由宇子ですが、
家族への誹謗中傷が思いのほか執拗で、
まるで罪人であるかのように小さくなって生活していることを知ります。
それでも、その世間に対して真実を伝えなければならないという
強い思いで由宇子は突き進んでいたわけですが・・・。

ところが、由子自身が世間からのバッシングを受ける立場になるかも知れない
という瀬戸際の時に、それでも由宇子は「真実」を述べることができるのだろうか。

自己保身のために、人は嘘をつく。
そういうことも目の当たりにしてしまった由宇子。
果たして彼女は自身の問題にどう答えを出すのか・・・。

重苦しい緊迫感に埋め尽くされている作品。
ちょっとつらいです。

けれど、「正しいこと」を貫こうとすれば、誰かが必ず傷つく。
それでもそれを貫こうとするのは勇気なのか。
蛮行なのか。

世の中は単純ではない。
だから、こうした視点は今、とても大事であるように思います。
答えはないけれど、その都度考えて考え抜くことが求められるのかも知れません。

<Amazon prime videoにて>

「由宇子の天秤」

2020年/日本/152分

出演:瀧内公美、河合優実、梅田誠弘、光石研

究極の選択度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


ヤクザと家族 The Family

2022年07月15日 | 映画(や行)

行き場をなくしたヤクザ

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1999年。
父親を覚醒剤で失った賢治(綾野剛)。
特にやりたいこともなく、単なる町のチンピラとして過ごしていました。
ある時、柴咲組組長(舘ひろし)の危機を救ったことから、
組に入ることになり、柴咲と父子の契りを結びます。

2005年。
すっかりヤクザぶりも身について、組の仲間からの信頼も得ている賢治。
この組こそが自分の家族と思っています。
そんな中、他の組とのもめ事が起こり、賢治はある決断をして・・・。

2019年。
14年の刑期を終えて出所した賢治。
しかし暴対法の影響で、ヤクザの世界は一変していた・・・。
柴咲組はかつての隆盛のカゲもなく・・・。

鮮やかな入れ墨を施し、肩で風を切って歩く男。
自信に満ちた賢治。
う~ん、綾野剛さん、カッコイイ!! 
シビれます。

ところが本作、メインはその後、彼が14年の刑期を終えて出所してきたところからなのです。
組はすっかり落ちぶれて、かつての幹部が密漁などして細々と稼いでいる。
オヤジ(組長)は病で弱っている。
前科者の賢治はまともな職には就けない・・・。

しかしようやくかつての恋人を捜し当て、共に暮らすようになったのもつかの間・・・。
かつての“ヤクザ”の情報はSNSで広まり、
賢治自身だけでなくその家族にまで影響が及んでしまう。
全くヤクザとして生きることができない世の中に変わり果てているのです。

綾野剛さんはヤクザの格好良さも、
うらぶれた行き場のない男も文句なくこなしますねえ。

特にヤクザさんに思い入れはないのですが、
それにしても、こういうのはあまりにも理不尽というか気の毒というか、
すっかり感情移入してしまいます。

一方、かっこいいヤクザに憧れていた少年・ツバサは、
その後半グレ(磯村勇斗)となっており、
これがまたヘラヘラしているようで、ある種の覚悟もあるという、まさに、新世代。
ヤクザは消えても、時代に応じたはみ出し者の居場所はできあがっているということか・・・。

とにかくシビれてしまう作品。
ラストはショッキングではあるけれど、賢治の表情は
ホッとしていた感じだったのが印象的。

 

<WOWOW視聴にて>

「ヤクザと家族 The Family」

2021年/日本/136分

監督・脚本:藤井道人

出演:綾野剛、舘ひろし、尾野真千子、北村有起哉、市原隼人、磯村勇斗、寺島しのぶ

 

時代の変遷度★★★★☆

綾野剛の魅力度★★★★★

満足度★★★★.5