映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

茜色に焼かれる

2022年05月01日 | 映画(あ行)

演技と素が逆

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まさにコロナ渦中を意識した作品であります。

7年前、交通事故で夫を亡くした母・良子(尾野真千子)と、息子・純平(和田庵)。
元高級官僚の老人が、アルツハイマーで運転操作ミスをして事故を起こしたのです。
老人はアルツハイマーであるからとして、罪には問われませんでした。
一介の庶民である未亡人とその息子を見下した老人の家族たちは、
謝ることもせず、弁護士を通して賠償金を提示したのみ。
良子はその受け取りを拒否。

それから7年。
コロナ禍へと突入。
良子が経営し生活の糧としていたカフェは手放さざるを得ませんでした。
良子は母子2人の生活の他、施設に入所している義父の費用と、
あろうことか、亡き夫の愛人の娘の養育費までを負担していたのです。
そのやりくりのために花屋のバイトと風俗にまで足を踏み入れなければならなかった・・・。

もちろん良子は息子にはそんなことはいいませんが、
どこかからかウワサを聞いた同級生たちから、純平は嫌がらせを受けるようになります。

社会的弱者となってしまった母子。
生活は苦しいし、周囲の人々もにも見下される・・・。
これでもかというくらいに、負の出来事ばかりが続いていきます。
実に理不尽です。
正直見るのも辛い。

でもそんな中、良子は決して弱音を吐かないのです。
「まあ、頑張りましょう」とふんわり笑ってみせる。

実は良子は以前演劇に傾倒していて、芝居が得意なのです。
つまり、人生をかけて彼女は演技をしている。
こんなこと何でもない。
平気。
なんとかなる・・・

そしてラストで、良子が一人芝居をするシーンがありまして・・・。
ここで怒りを爆発させる「演技」こそが、彼女の本音であり真実なんですね。
素と演技が逆転しているという・・・。
ユニークです。

あまりにも悲惨な出来事ばかりで、陰々滅々になるはずなのになぜかそうならなかったのは、
ラストシーンの美しい夕焼けのためかも知れません。
それでも生きていく。
とりあえずは母と息子で支えながら、二人でいられればいいんじゃないか。
そんな決意に染められるようでもあります。

 

それにしてもこの純平くん、まっすぐないい子に育ちましたよねえ・・・。
特に勉強をしている風でもないのに、教師も驚く成績をたたき出すという所は
チョッピリ胸がすきました!! 
確かにこんな息子が居たら、もう少し頑張って生きてみたいと思えそうです。

 

<WOWOW視聴にて>

「茜色に焼かれる」

2021年/日本/144分

監督・脚本:石井裕也

出演:尾野真千子、和田庵、片山友希、オダギリジョー、永瀬正敏

 

生活困窮度★★★★★

理不尽度★★★★☆

満足度★★★.5

 



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