人生を後悔する患者にかける言葉

時折、診察室を訪れる方の中には、「やりたいことをやらずに長い人生を過ごしてきてしまった」と後悔の念を語られる方がおられますが、そんなとき、私は「やらなかった後悔は忘れて、今を見てください」とお伝えしています。

藤井さんは「役に立つかどうかを考えずに、やりたいことを」と諭す。
撮影=秋月 雅
藤井さんは「役に立つかどうかを考えずに、やりたいことを」と諭す。

いつだって、私たちの目の前には「今」しかありません。今、やりたいことを、やってみましょう。お金を使うなら、物よりも、経験や思い出に使いたいと思います。

やりたいことならば、「役に立つかな」と、考える必要はありません。

自分で「調べて」自分で「決める」

情報過多の時代だからこそ、自分で調べて、自分で考えることです。知識は自分を助けてくれます。病気の治療法だって、最後は自分で決めましょう。

私の夫は77歳のときに、大腸がんで亡くなりました。1度目の手術のあとで転移し、私は、転移したがん細胞を取り除く手術を勧めましたが、結局、夫はそれを選択しませんでした。私もそれ以上、説得することはしませんでした。それがよかったのかどうかわかりませんが、すべては夫の選択。私はそれを受け止めて、夫を見送りました。私は、それが夫であったとしても、患者さんがご自身の病気の治療をどうするのか、最終的に決定するのは患者さん本人だと思っています。

本人が自分の治療について決断するためには、日ごろから、「どんな症状が出てきたらどんな病院へ行けばいいのか」「自分の病気にはどういう治療法があるのか」について、広く知識を持っておく必要があります。

今は何でも簡単に調べられる時代です。私も、わからないことがあるとすぐにネット検索しますが、情報過多のこの時代に必要なのは、調べることそのものよりも、情報を得て選択する力ではないかと思います。情報を鵜呑うのみにするのではなく、信頼できる医師や治療法を自分で調べ、自分で選択することです。

自分が選んでいないのなら結果に対して後悔することもあるでしょうが、自分で選んだものに対しては信頼と納得感を持って接することができます。

また、同じように相手がきちんと考えて決めたことを最大限尊重すること。私たちは自分の人生を自分の責任において選んで生きているのだなぁと、この年になり、つくづく思わされます。