ブログ 「ごまめの歯軋り」

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吉田武 著 「虚数の情緒ー中学生からの全方位独学法」 (東海大学出版部 2000年2月)

2016年05月24日 | 書評
全人的科学者よ出でよ! 好奇心に満ちた健全なる精神を持った人のために 第20回

第Ⅲ部 振り子の物理学 

第11章 重力と振り子 (その2)


著者は、いろいろな物理対象で振り子モデルとなるものを紹介している。振り子の周期を長くするにはひもの長さを長くすればいい。上で論じたように周期は長さlの平方根に比例するので、9mのひもでも周期は6秒でしかない。遅い振り子「長周期振動子」の例として「ヤジロベエ」を取り上げる。2つの棒の先に質料mの錘を持ち、足の長さをlとすると、足の開き角度を2θとすると、慣性モーメントI=2ml^2、トルクN=-2mglcosθsinφ(φ垂直からの傾き角度、φは小さいと仮定してsinφ≒φと近似する))であり、運動方程式は調和振動子(剛体)に等しく、D^2=-(N/I)φ=-(gcosθ/l)φから、周期はT=2π√(l/gcosθ)となり、開き角度160度で周期は4.8秒である。2θ=0なら1つの錘の振り子の周期2秒に等しく、2θ=0なら静止(周期∞)状態である。板バネのさきに錘を持ち、逆さに立てた「水平振子」は傾斜記録計や地震計として利用される。運動方程式はD^2φ=-(mgl-C/ml^2)(Cはばね定数)より、周期T=2π√(ml^2/C-mgl)である。次に早い振り子を作るには、T=2π√(I/mgl)の慣性モーメントIを小さくすることである。そこで質量m、長さ2aの棒の両端を長さlのひもで吊るし、棒の中央に質量Mの錘を吊り下げた「日本吊り振り子」では慣性モーメントI=ma^2/3、運動方程式D^2φ=-3(m+M)gφ/maで周期T=2π√(ma/3(m+M)gとなる。m=0.1 M=0.9、2a=0.6とすると、周期は0.063秒となる。周期より面白いには2つの錘を棒の両端に吊るし、棒の両端をさらにひもで天井に固定する「連成振子」であろう。一方の錘を動かすと次第に他方の錘が動きだし、他方の錘の動きが弱くなると一方の錘が動き出す。この交互の動きが繰り返すのである。さらにおもしろいのが錘の軌跡が閉曲線を描く「ブラックバーン振子」である。天井から棒の両端を吊るし、棒の両端から一つの錘をひもで結んだ、2つの直交する振動を組み合わせたもので、ひもの長さを調節することにより様々な三角関数の位相が合成できる。この錘の描く図を「リサージュの図」と呼ぶ。次に振子の運動に様々な抵抗がかかり、それが速度に比例すると仮定した運動方程式は、加速度a=-ω^2x-2γv (γ抵抗定数 ω=√(K/m)) とおいて「減衰調和振動子」という。したがって特性方程式は(D^2+2γD+ω^2)x=0となり、解は容易に求まる。ω、γの定数によって減衰の様子は「過減衰」、「減衰振動」、「臨界減衰」の3種に分かれる。レバーと空気減衰器の付いた「ドアークローザー」がその臨界減衰の実用化である。剛体は質量の中心(重心)と一定の慣性モーメントIをもち、一つの実体振子と扱うことができる。これを「固有周期」、あるいは「固有振動数」を持つという。外力として調和振動子に共振を起させる力を加えると、「強制調和振動子」の運動方程式は、a=-ω^2x+cosΩtであり、特性方程式は(D^2x-cosΩtD+ω~2)x=0となり、解はx(t)=x0cosΩt+(f/ω^2-Ω^2)(cosΩt-cosωt)である。固有振動数ωと外力の角振動数Ωとの差があまり大きくない時には、とてつもなく振幅が増幅される。楽器の調弦の失敗で2つの振動数が近くなると「唸り」余呼ばれる現象はこの振動弦の共振のことである。どちらの振動数でもない音がゆっくりとした周期で起きることを「不協和音」と呼ぶ。音楽的に極めて不愉快な音である。最後に2つの弦が完全に同じ振動数を持つなら、解がx(t)=x0cosωt+(f/2ω)t・sinωtとなり、時間と共に振動は大きくなって弦を破壊するまでになる。これらの剛体の強制振動は建築学的にも極めて重要である。大地の震動を検知し、その逆の振動を建物に加えることを「免震構造」、「制震装置」という。自動車のタイヤの懸架機構(サスペンション)もドアークローザーと同じ減衰調和振動子機構である。そのためタイヤ部の質量はできる限りか軽くしなければならない。アルミホイールが採用されわけである。音響学で受信機の特定周波数を選択する機構(チューニング)や、スピーカーの振動数を選択する機構は「LCR回路」と呼ぶ。コンデンサー、コイル、抵抗で共振回路を通ることをいう。フーリエは、周期をもったいかなる形の関数も、三角関数の足し算でッ書き表せることを示した。この級数を「フーリエ級数」と呼ぶ。合成音楽器「シンセサイザー」の理論的根拠となった。例えば矩形波(クラリネットなど管楽器)は、sinx+1/3sin3x+1/5sin5x+1/7sin7x +・・・・、 三角波(トランペット、オーボエ)は、sinx-1/9sin3x+1/25sin5x-1/49sin7x+・・・・・、 のこぎり歯(チェロ、ヴァイオリン弦楽器)は、sinx+1/2sin2x+1/3sin3x+1/4sin4x+1/5sin4x+1/5sin5x+・・・・と言った次第である。振動子の物理学は、車・車両の安定走行に応用され、「振子電車」では車軸の移動機構を持ってカーブの遠心力に耐える機構を持つ。船体の揚力や飛行機の揚力は航行・飛行の自立安定性にとって重要であるが、戦闘機では安定性は最小限として、旋回重視の翼となっている。地球は自転していることを確かめよう。非常に高いところから落としたボールは直下には落ちない。このボールの軌跡は「ナイルの曲線」という。たとえば赤道直下の高層ビル500mで落としたボールは約24cmずれた地面に着地する。地球の自転に関連して現れる現象を実験した「フーコの振子」について述べよう。天体を観測しているだけで地球は自転していることに気が付くが、フーコが行った偉大な実験とは、1個の振子(ひもの長さ67m、錘の重さ28Kg)を用いて平面上の錘の軌跡を観察した。しかも北極点においてである。地球の北極点に固定した回転台の中心に吊るした錘の振動面は一日で1回転した。これこそが地球上にいて地球が回転することを確かめた偉大な実験であった。逆に赤道では振動面は変わらない。他では緯度に応じて回転する。フーコの振子のように運動に対して直角の方向に働く力「見かけの力」を「コリオリの力」と呼ぶ。視点の変換(座標変換)となった、フーコの振子の実験は掛け値なしの「史上最高の素晴らしい実験」であった。地球の自転の角速度をωEで表すと、緯度λにおける有効な角速度成分はωEsinλとなるので、フーコの振子が1周する周期Tは時間をhrを単位として、T=2π/ωEsinλ=24/sinλであるので、北緯35度の西脇市での周期が求まる。41時間と51分である。

(つづく)


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