ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート ホーキング著 林一訳 「ホーキング、宇宙を語る」(ハヤカワ文庫 1995年4月)

2017年01月11日 | 書評
宇宙の始まりと構造を問うービックバンとブラックホールの謎に迫る 第15回 最終回

10) 物理学の融合ー大統一理論GUTと超弦理論

物理学の完全な統一理論を築く努力がなされてきたが、近似的な部分理論を積み上げることで物理学は進歩してきた。アインシュタインは晩年のすべてを統一異論の探求に費やしたがうまくゆかなかった。重力と電磁気理論に関する部分理論はあったが、核力については(素粒子論)はよくわからなかったからである。アインシュタインは「神はサイコロを振らない」といって不確定性原理をに認めようとはしなかった。20世紀初めのころと違って今日ではこのような統一理論を発見できる見込みは高まっている。中性子と核力についての発見がまた物理学の書き換えを要求している。弱い力、強い力、電磁気力の間の統一理論はいわゆる「大統一理論1GUT」に纏められるが、重力理論はまだ包含されていない。重力と他の力を統一する理論を見出すのが難しい理由は、一般相対性理論が量子化されていない古典理論であるからだ。特に量子力学の不確定性原理となじまないと言われる。不確定性原理によると、空っぽの空間にも仮想粒子と仮想反粒子の対に満ちたにぎやかな空間である。無限大のエネルギーを生む空間は無限大の質量を持つことになり、その重力による引力は無限小の大きさに湾曲させてしまう。くり込み理論は不合理な無限大を解消するため、ほかの無限大を導入して打ち消すという数学的手法で切り抜ける理論であるが、質量と重力の大きさは観測結果から選ぶという理論上の欠陥があった。不確定性原理を一般相対論に取り入れようとするときには、調整できる項は重力の強さと宇宙定数の値だけである。このことは1972年に確認され、1976年に「超重力」という解決法が提案された。その考えは重力を伝える重力子と呼ばれるスピン2の粒子を、スピン3/2、1、1/2、および0の粒子とと組み合わせることである。同一の超粒子の異なる側面と見なして、スピン1/2と3/2の物質粒子を、スピン0.1,2を持つ力の伝達粒子と統合するのである。これで無限大の多くは打ち消されるが、無限大が残る可能性を計算するのにコンピュータ計算が4年以上かかるので、誰も確認しようとはしない。この超重力理論が多分物理学の統一理論になるだろうとされていたが、1984年「弦理論」が一躍注目された。空間の一点を占めるものは粒子ではなく、長さを持つが他の次元を持たない無限に細い線または帯状の弦のようなものである。時空における経歴は世界面と呼ばれる二次元の面となる。弦理論では力は粒子ではなく弦を伝わる波として描かれる。粒子が放出されたり吸収されるのは、弦の分割と結びつきに対応する。粒子理論では太陽が地球に及ぼす重力は太陽の粒子が重力子を放出し、それが地球の粒子に吸収されることで生じるとされた。弦理論ではH型の太陽と地球の2本の管に対応し、両者を連結する水平な管が重力子に対応する。弦理論は1960年末に発明され、陽子や中性子のような粒子は弦の上の波と考えた。1974年フランスのジョエル・シェルクらは弦理論が重力を記述できるとした。いずれにせよ弦の張力は10^39万トンでなければならなかった。そのころは大部分の物理学者は弦理論に注目することなく、クォークやグルーオン理論に夢中であった。弦理論は1984年にヘテロティックな弦理論として復活した。弦理論の最大の困難は時空が四次元ではなく、10次元または20次元でないと無矛盾にならない。実際の空間では一つの時間と3つの空間次元の中でしか生存できないと人間原理から考えられる。ほかにも弦理論には多くの困難がある。弦理論については、大栗博司著「重力とは何か―アインシュタインから超弦理論へ」幻冬社がある。

(完)


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