ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 森岡孝二著 「雇用身分社会」 (岩波新書 2015年10月)

2016年11月19日 | 書評
労働条件の底が抜け、企業の最も都合のいい奴隷的労働市場となり、格差が身分に固定される時代にしていいのか 第2回

序(その2)

濱口桂一郎著 「新しい労働社会ー雇用システムの再構築へ」 (岩波新書 2009年)
この本は厚生労働省側から書いた本である。いまや形骸化したが、かっての日本型雇用システムとはよく言われるように、長期雇用制度(雇用)、年功賃金制度(報酬)、企業別組合(労使関係)の3種の神器からなる。しかし日本型雇用システムの本質はその雇用契約にある。雇用契約とは世界的には職種(ジョブ)を明確に決めて使用者と労働者が契約するものであると云うのが常識になっている。ところが日本型雇用システムの特徴は「職務」という概念が稀薄なことである。如何なる職務にも従事するという意味では、日本の雇用契約は一種の「地位設定契約」あるいは「メンバーシップ」ともいうべき契約である。かっての日本型雇用システムの特徴とされる長期雇用制度(雇用)、年功賃金制度(報酬)、企業別組合(労使関係)は、すべてこの「職務をさだめない雇用契約」という本質から論理的帰結として導き出される。欧米では発生したジョブに対応する必要な労働力という形で雇用されるため、必要がなくなれば雇用契約は解除されるのが常識である。日本型雇用システムではある職務で雇用な減少すれば、別の職務への移動、グループ企業への転籍、出向など雇用を維持する方向で解決される。また欧米では賃金はジョブによって決定され、同一労働同一賃金原則が産業間で決定される。日本型雇用システムでは賃金は職務とは切りはして決められ、勤続年数、経験など年功賃金制度+忠誠度を測る人事査定に基づいている。また労働条件については欧米では職務に基づいて産業別レベルで決められるが、日本では企業内でしか通用しないので企業別組合が使用者と交渉するのが原則である。日本の賃金制度の最大の特徴は、工場の生産労働者(ブルーカラー)にも月給制が適用されていることだ。欧米ではホワイトカラーには月給制や年俸制が適用されているが、ブルーカラー労働者の賃金は時給制が基本である。日本の月給制には残業割増手当ても付くという特殊な制度である。月給制に時給制を加味したような制度である。年功賃金制度を生み出している仕組みは定期昇給制度である。
2009年3月過労死したマクドナルドの支店長の「名ばかり管理職」の残業手当を支給せよという判決が出て和解が成立した。使用者側のもくろみは管理職と称する事で労働時間の規制と残業代の支払いを免れることにある。労働基準法にいう「管理監督者」とは「事業経営の管理的立場のある者とこれと一体をなす者」というのであり、「名ばかり管理職」は経営とは縁遠い末端正規社員で,労働者はアルバイト店員ばかりという状態であった。しかしこの判決で残業時間という賃金問題の影に欠落しているのは、「過労死」という労働者の命と健康を守る労働時間規制問題であった。同じような使用者側の願望は、スタッフ管理職ばかりでなくもっと多くの労働者を残業代から除外したい事であった。政府の規制緩和・民活推進会議は2005年12月「ホワイトカラーエグゼンプション」という「裁量労働制で自由度の高い働き方」を提案し、ホワイトカラーの労働時間規制と残業代を適用除外したいという願望を露にした。いつもの事であるが政府(官僚)が英語の名前と美名の下で悪辣なこと(嘘)を覆い隠すのは常套手段である。英語ときれいごとが出てきたらご用心である。これに対して労働側は「労働時間規制がなければ過労死・過労自殺に拍車がかかることは明らかだ」として猛反対し、2008年12月これを廃案にした。非正規労働者の派遣問題 は働きかたを根本的に変えるものであった。2006年7月朝日新聞は「偽装請負追求」を始め、キャノン、松下電器産業の大量の派遣請負労働者を雇っている事を糾弾した。1947年の職業安定法によって「沖仲仕」などすべての労働供給業を禁止した。これは請負と称しても実態が労働者供給であれば禁止するということであった。ところが労働ビックバンの規制緩和の大合唱によって、労働派遣業が特殊業務(1985年)から、原則自由な業務について認められる「労働者派遣法改正」(1999年)が行われ、ついに2003年には製造業を対象に含めて完結した。その派遣業者が請負を偽装したのである。労働者派遣とは「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」である。派遣には常用型派遣事業(殆どない)と登録型派遣事業(派遣されている間だけ派遣元が派遣労働者を雇用するタイプ)がある。登録型派遣事業とは使用者責任を派遣元が負ってくれるというサービスつきの職業紹介事業である。派遣先と派遣者の間に雇用関係はないとする「法的仮構」にすぎない。派遣先企業にとって、雇用関係はなく必要な部門に必要な労働者を入れ、実質的な指揮命令系統下におけて、不必要になればいつでも契約を解除(雇い止め)出来るという極めて便利でかつ安価な労働力として渇望された労働力需給システムであった。このシステムによって2008年秋からの世界金融大不況がもたらした景気縮小に「派遣」を切って労働需給に対応できたと言える。しわ寄せは全て弱者の若年派遣労働者であった。
賃金と社会保障は密接に関係する。2006年7月NHKが放映した「ワーキングプアー働いても働いても豊かになれない」は世間へのインパクトが大きかった。小泉政権時の「構造改革・規制緩和路線」の是正がにわかに社会的要求となった。非正規労働者は1990年代後半の就職氷河期によって大量に生み出されたのである。この世代の若者はもう中年期を迎えており、この世代が生活できないことが未婚となり少子化が加速した由縁である。少子化問題は「生めよ増やせよ」ということではなく、生活できる世の中の実現がなければどうにもならないのだ。日本の地域別最低賃金、産業別最低賃金は生活保護の給付水準を下回っていた。つまり健康で文化的な生活を営めない水準であった。2007年11月安倍内閣は改正最低賃金法を成立させたが、このねじれ現象を解消するには至っていない。企業が生活給制度を廃止するなら政府はその社会的コストを負担する必要がでてくるのは当然である。現実に日本型雇用システムにはいらない、家計を維持する非正規労働者が増えている以上は、彼らに家族の生計を維持できる収入を確保する必要がある。それには公的な給付である、「子供手当て」、「高校費用無料化」などの施策がなされなければならない。給料と福祉のトータルでセーフティネットが必要なのである。多くの長期失業者や若年失業者が雇用保険制度と生活保護制度の狭間で無収入状態になっている。生活保護はすべての能力がない場合のみになっているので極めてハードルが高いし、再起のチャンスも自分で摘むことになりかねないモラルハザードにおちいる。

(つづく)
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