ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート ジョン・ロック著 加藤節訳 「完訳 統治二論」 岩波文庫

2014年08月06日 | 書評
政治権力の起源を社会契約に求める近代政治学の古典的名著 第18回
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後篇 政治的統治について
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12) 征服について
 政治体は人民の同意に基づくものであっても、野心によって世界が無秩序となると人民の同意なしに戦争に巻き込まれる。征服を統治の起源と考える人がいるがそれは間違っている。しかし征服と統治はどうあってもかけ離れている。破壊と創造は合致しないからである。多謝の権利を不当に侵害する侵略者が戦争によって被征服者に対する権利を手に入れることは決してできない。不正な戦争によって征服を行うものは、それによって被征服者の従属と服従を求める権原は決して存在しない。しかし合法的な戦争(一理ある戦争)において征服者が得られる権力の範囲について考えよう。①征服によって、征服を行った者に対するいかなる権力も獲得できない。彼らは依然と同じように自由人でなければならない。征服者と被征服者が同一の法と自由の人民に一体化しない限り、征服者が持つ権力は純粋に専制的な権力であり、被征服政府を破壊したとしても被征服人民とは戦争状態に置かれる。②征服者が権力を獲得するのは、敵対して行使された不正な暴力を支援し協力し同意を与えた者(戦犯者)に対してだけである。それ以上の罪を人民に課すことはできない。③征服者が正当な戦争において打ち負かしたものに対して獲得する権力は専制的である。戦争状態では敵を殺すことは許されるが、そうした人々の所有物に対する権利と権原を持たない。以上が合法的な戦争で獲得できる権利の範囲である。征服の権利は戦争に加わった者の生命に対して及ぶだけで、彼らの資産については、被った損害と戦争費用を賠償させることができるが、罪のない人々の家族の権利は留保される。征服者の側に多くの正義が認められる場合においても、彼は被征服者が喪失した物以上のものを奪うことはできない。しかし戦争の費用は征服者に弁償されるが、征服する土地に対する権限は征服者には与えられない。征服者に被征服者を支配する権限を与えるためには被征服者自身の同意が必要である。権利なしに暴力によって強いられた約束が同意とみなすことはできない。強いられた約束は何の拘束力も持たない。奪ったものはそれを直ちに返還する義務を負う。征服者の統治(占領軍の統治)は征服者側に戦争の権利がある場合でも、被征服者が戦争に加わらなかった場合には被征服者に対していかなる拘束力もない。これは征服者の直接統治ができないことになる。以上を要約すると、征服者はもし彼の側に大義があると思う場合には、彼に対する戦争に助勢し、協力したすべての人々に対する専制的な権利を有し、権利侵害とならない(奴隷化しない限り)自分が受けた損害と犠牲を、そうした戦争推進側の人の労働と資産から賠償させる権利を持つ。戦争に同意しなかった人々や捕虜の子供に対してその所有物の対する権力は持たない。従って征服によって、そうした人々に対する合法的な権限を持つことも、それを子孫に伝えることもできない。

13) 簒奪・暴政について
 簒奪とは一種の国内的な征服である。簒奪とは他人が持つ権利の横取りに他ならないので、統治する内容や形態が変わるのではなくただ統治する人物の変更である。それが合法的に持っていた権利以上に拡大すれば暴政が加わったものになる。合法的統治において支配する人物を指名することは統治の不可欠で重要な部分である。権力のいかなる部分であっても共同体の法が規定した以外の方法で行使するものは服従を受ける権利を持たない。そういうものは人民が同意を与えた人物ではないからである。簒奪が他人が持つ権利を行使することであるのに対して、暴政とは権利を超えて権力を行使することであって、何人もそのようなことへ権力を持つことはできない。暴政とは支配者が法ではなく自分の意志を規則にし、彼の命令と行動が人民の固有権の保全にではなく、彼の野心、貪欲、気まぐれの情念に向けられたときに他ならない。合法的な君主は暴君とは区別される。しかし法によって支配することをやめれば、直ちに国王であることをやめ暴君に堕落するのである。こうした欠陥は君主政だけのものではないが、統治の形態も暴政に転化しやすいのである。法が侵犯され他人に害が及ぶ場合は、どこにおいても法が終わるところから暴政が始まる。君主の命令に実力をもって抵抗してもよいかどうかは、ただ不正で不法な暴政に対しては許される。実力行使はただ、人が法に訴えることを阻止された場合においてのみ行使されるべきである。

(つづく)