「紫式部日記」から「源氏物語」を読み解く 第2回
序(2)
源氏物語54巻 順列表
源氏物語54巻 a系統 紫の上系 b系統 玉鬘系 紀伝の別
1) 桐 壷 ○ ー 本紀 源氏成功談
2) 帚 木 ー ○ 列 源氏失敗談
3) 空 蝉 ー ○ 列 源氏失敗談
4) 夕 顔 ー ○ 列 源氏失敗談
5) 若 紫 ○ ー 本紀 源氏成功談
6) 末摘花 ー ○ 列 源氏失敗談
7) 紅葉賀 ○ ー 本紀 源氏成功談>
8) 花 宴 ○ ー 本紀 源氏成功談
9) 葵 ○ ー 本紀 源氏成功談
10) 賢 木 ○ ー 本紀 源氏成功談
11) 花散里 ○ ー 本紀 源氏成功談
12) 須 磨 ○ ー 本紀 源氏成功談
13) 明 石 ○ ー 本紀 源氏成功談
14) 澪 標 ○ ー 本紀 源氏成功談
15) 蓬 生 ー ○ 列 源氏失敗談
16) 関 屋 ー ○ 列 源氏失敗談
17) 絵 合 ○ ー 本紀 源氏成功談
18) 松 風 ○ ー 本紀 源氏成功談
19) 薄 雲 ○ ー 本紀 源氏成功談
20) 朝 顔 ○ ー 本紀 源氏成功談
21) 少 女 ○ ー 本紀 源氏成功談
22) 玉 鬘 ー ○ 列 源氏失敗談
23) 初 音 ー ○ 列 源氏失敗談
24) 胡 蝶 ー ○ 列 源氏失敗談
25) 蛍 ー ○ 列 源氏失敗談
26) 常 夏 ー ○ 列 源氏失敗談
27) 篝 火 ー ○ 列 源氏失敗談
28) 野 分 ー ○ 列 源氏失敗談
29) 行 幸 ー ○ 列 源氏失敗談
30) 藤 袴 ー ○ 列 源氏失敗談
31) 真木柱 ー ○ 列 源氏失敗談
32) 梅 枝 ○ ー 本紀 源氏成功談
33) 藤裏葉 ○ ー 本紀 源氏成功談
34) 若菜上 以下第2部 本紀
35) 若菜下 本紀
36) 柏 木 本紀
37) 横 笛 本紀
38) 鈴 虫 本紀
39) 夕 霧 本紀
40) 御 法 本紀
41) 幻 本紀
42) 匂 宮 以下第3部
43) 紅 梅
44) 竹 河
45) 橋 姫 宇治十帖
46) 椎 本 宇治十帖
47) 総 角 宇治十帖
48) 早 蕨 宇治十帖
49) 宿 木 宇治十帖
50) 東 屋 宇治十帖
51) 浮 舟 宇治十帖
52) 蜻 蛉 宇治十帖
53) 手 習 宇治十帖
54) 夢浮橋 宇治十帖
源氏物語の成立について結果から先に纏めておこう。その方が見通しがいいからである。源氏物語は上の表に示したように、1)桐壷からはじまり54)夢の浮橋で終わる長編の物語であるが、単にエピソードとして挿入されたような短編も多い。現在の研究者の見解では源氏物語は書き下しのような連続した長編小説ではなく、全54巻のうち始めの33巻までは現在並べられている順序で書かれたものではないことが判明している。33巻まではa系統とb系統の二つの系列に分離され、a系統の17作品がまず書かれて33)藤裏葉で完結した。その後b系統の16作品が順次書き足されてa系統の中途に挿入されていった。その結果が現在の巻の順序となった。その後a系統の人物群とb系統の人物群が総合的に登場して34)若葉から41)幻までの光源氏の最後を記述したc系統と、42)匂宮から54)夢の浮橋に至る宇治10帖が加わって源氏物語54巻が成立したと考えられる。すなわち、源氏物語は内容的には1)から33)までの第1部、34)から41)までの第2部、42)から54)までの第3部の構成となっている。第1部は光源氏の絶頂期までの話、第2部は光源氏の晩年から死までの終結篇、第3部は光源氏亡き後の子孫の話である。特に本書において注目しているのは、第1部がa系統とb系統とでは作品を造形する手法が違う。もっと言えば紫式部の狙った読者層も異なる。実は源氏物語のこの読み方は平安・鎌倉・室町時代を通じて江戸時代初期までは源氏物語の構造として了解されていたようである。ところが江戸中期の国学者の研究によってそれが分からなくなってしまった。源氏物語はフィクションであるが、紫式部は「紫式部集」(和歌集)と「紫式部日記」を残している。日記に真実をそのまま書く必要はないにしろ、日記は当然真実にしっかりと足を突っ込んでいるはずである。その実と虚との間を読み取ることで、フィクションの源氏物語に投影されている何かを掴むことができる。大野晋氏は、源氏物語の①ことばを読む、②筋を読む、③作者自身の心を読むという3つの企てをもって本書を著したという。本論に入る前に著者は平安時代の貴族階級の婚姻の形を解説している。奈良時代は「妻問い婚」、平安時代は「婿取り婚」、鎌倉時代には「嫁取り婚」であったという。しかし実情は混在している。平安時代には女の方の実家が婿の世話をするため、かなりの資産を持たないとやってゆけないし、親がなくなってしまうと女は悲惨な境遇に置かれる。大臣クラスの貴族は女を据え置くという「嫁取り婚」を取っている。光源氏が六条院の屋敷に四人の女(紫の上、明石君、三の宮、末摘花)を置いたのはその例である。天皇家の結婚については、数人の配偶者を置くことは常であったが、正妻「皇后」は一人きりで、他の女は中宮、女御、更衣、尚侍、御匣殿という名称で天皇の身の回りの世話をする女房がいた。天皇および大臣家では女房に男が手を付け、何番目の庶子でも女の実家の位によっては、子どもはそれなりの官位に進み、厚遇をもって処せられる。女の実家の位が低いとみじめである。京都の貴族は国司クラスの女を得て経済的な援助を期待しているのである。
(続く)
序(2)
源氏物語54巻 順列表
源氏物語54巻 a系統 紫の上系 b系統 玉鬘系 紀伝の別
1) 桐 壷 ○ ー 本紀 源氏成功談
2) 帚 木 ー ○ 列 源氏失敗談
3) 空 蝉 ー ○ 列 源氏失敗談
4) 夕 顔 ー ○ 列 源氏失敗談
5) 若 紫 ○ ー 本紀 源氏成功談
6) 末摘花 ー ○ 列 源氏失敗談
7) 紅葉賀 ○ ー 本紀 源氏成功談>
8) 花 宴 ○ ー 本紀 源氏成功談
9) 葵 ○ ー 本紀 源氏成功談
10) 賢 木 ○ ー 本紀 源氏成功談
11) 花散里 ○ ー 本紀 源氏成功談
12) 須 磨 ○ ー 本紀 源氏成功談
13) 明 石 ○ ー 本紀 源氏成功談
14) 澪 標 ○ ー 本紀 源氏成功談
15) 蓬 生 ー ○ 列 源氏失敗談
16) 関 屋 ー ○ 列 源氏失敗談
17) 絵 合 ○ ー 本紀 源氏成功談
18) 松 風 ○ ー 本紀 源氏成功談
19) 薄 雲 ○ ー 本紀 源氏成功談
20) 朝 顔 ○ ー 本紀 源氏成功談
21) 少 女 ○ ー 本紀 源氏成功談
22) 玉 鬘 ー ○ 列 源氏失敗談
23) 初 音 ー ○ 列 源氏失敗談
24) 胡 蝶 ー ○ 列 源氏失敗談
25) 蛍 ー ○ 列 源氏失敗談
26) 常 夏 ー ○ 列 源氏失敗談
27) 篝 火 ー ○ 列 源氏失敗談
28) 野 分 ー ○ 列 源氏失敗談
29) 行 幸 ー ○ 列 源氏失敗談
30) 藤 袴 ー ○ 列 源氏失敗談
31) 真木柱 ー ○ 列 源氏失敗談
32) 梅 枝 ○ ー 本紀 源氏成功談
33) 藤裏葉 ○ ー 本紀 源氏成功談
34) 若菜上 以下第2部 本紀
35) 若菜下 本紀
36) 柏 木 本紀
37) 横 笛 本紀
38) 鈴 虫 本紀
39) 夕 霧 本紀
40) 御 法 本紀
41) 幻 本紀
42) 匂 宮 以下第3部
43) 紅 梅
44) 竹 河
45) 橋 姫 宇治十帖
46) 椎 本 宇治十帖
47) 総 角 宇治十帖
48) 早 蕨 宇治十帖
49) 宿 木 宇治十帖
50) 東 屋 宇治十帖
51) 浮 舟 宇治十帖
52) 蜻 蛉 宇治十帖
53) 手 習 宇治十帖
54) 夢浮橋 宇治十帖
源氏物語の成立について結果から先に纏めておこう。その方が見通しがいいからである。源氏物語は上の表に示したように、1)桐壷からはじまり54)夢の浮橋で終わる長編の物語であるが、単にエピソードとして挿入されたような短編も多い。現在の研究者の見解では源氏物語は書き下しのような連続した長編小説ではなく、全54巻のうち始めの33巻までは現在並べられている順序で書かれたものではないことが判明している。33巻まではa系統とb系統の二つの系列に分離され、a系統の17作品がまず書かれて33)藤裏葉で完結した。その後b系統の16作品が順次書き足されてa系統の中途に挿入されていった。その結果が現在の巻の順序となった。その後a系統の人物群とb系統の人物群が総合的に登場して34)若葉から41)幻までの光源氏の最後を記述したc系統と、42)匂宮から54)夢の浮橋に至る宇治10帖が加わって源氏物語54巻が成立したと考えられる。すなわち、源氏物語は内容的には1)から33)までの第1部、34)から41)までの第2部、42)から54)までの第3部の構成となっている。第1部は光源氏の絶頂期までの話、第2部は光源氏の晩年から死までの終結篇、第3部は光源氏亡き後の子孫の話である。特に本書において注目しているのは、第1部がa系統とb系統とでは作品を造形する手法が違う。もっと言えば紫式部の狙った読者層も異なる。実は源氏物語のこの読み方は平安・鎌倉・室町時代を通じて江戸時代初期までは源氏物語の構造として了解されていたようである。ところが江戸中期の国学者の研究によってそれが分からなくなってしまった。源氏物語はフィクションであるが、紫式部は「紫式部集」(和歌集)と「紫式部日記」を残している。日記に真実をそのまま書く必要はないにしろ、日記は当然真実にしっかりと足を突っ込んでいるはずである。その実と虚との間を読み取ることで、フィクションの源氏物語に投影されている何かを掴むことができる。大野晋氏は、源氏物語の①ことばを読む、②筋を読む、③作者自身の心を読むという3つの企てをもって本書を著したという。本論に入る前に著者は平安時代の貴族階級の婚姻の形を解説している。奈良時代は「妻問い婚」、平安時代は「婿取り婚」、鎌倉時代には「嫁取り婚」であったという。しかし実情は混在している。平安時代には女の方の実家が婿の世話をするため、かなりの資産を持たないとやってゆけないし、親がなくなってしまうと女は悲惨な境遇に置かれる。大臣クラスの貴族は女を据え置くという「嫁取り婚」を取っている。光源氏が六条院の屋敷に四人の女(紫の上、明石君、三の宮、末摘花)を置いたのはその例である。天皇家の結婚については、数人の配偶者を置くことは常であったが、正妻「皇后」は一人きりで、他の女は中宮、女御、更衣、尚侍、御匣殿という名称で天皇の身の回りの世話をする女房がいた。天皇および大臣家では女房に男が手を付け、何番目の庶子でも女の実家の位によっては、子どもはそれなりの官位に進み、厚遇をもって処せられる。女の実家の位が低いとみじめである。京都の貴族は国司クラスの女を得て経済的な援助を期待しているのである。
(続く)