ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 日野行介著 「福島原発事故 県民健康管理調査の闇」 (岩波新書2013年)

2014年06月14日 | 書評
福島原発事故の放射線被ばく健康管理調査で、福島県と専門家の仕組んだストーリー作り 第9回

⑥ 秘密会で何を決めていたのか
 
 第8回の検討員会まで行われていた秘密会の議事録について、県の小谷主幹や県立医大の松井特命教授は作っていないと話していた。しかし第2回以降も議事録を作っている様子が伺えるので、日野記者は10月15日に福島県に対して議事録の情報公開を要求した。果たして秘密会の議事録はやはり作られていた。開示された議事録が県庁より11月8日に送ってきた。ところが第2回と第8回の分は不存在とされた。それは第2回議事録は朝日新聞が。第8回の議事録は毎日新聞がそれぞれ秘密会の中身をある程度記事にしているので、矛盾するとまずいということでなかったことにしたのだろうか。県の調査では秘密会は存在しないといっておきながら、議事録を開示する矛盾は役人の神経はどういう構造をしているのか不思議だ。本会合は第4回以降録音から議事録を起こしているが、秘密会の議事禄は発言の概要をまとめたものであった。回を追って公開された議事録を見てゆこう。
① 第1回議事録(2011年5月13日):福島県立医大内で 参加者20名 うち7人が検討委員になる。 この秘密会では健康調査の実施体制が決められ、福島県が主体となって実施することを決めた。放医研が開発したインターネット被爆線量推計システムは県側の猛反対で公開は中止された。
② 第2回議事録(2011年6月12日): 不開示  参加者15名 うち検討委員は6名 具体的議事内容は不明
③ 第3回議事録(2011年7月17日): 福島市内のホテル会場 参加者は10名 うち検討委員は8名 3時間半に及ぶ長時間の秘密会議となった。 議事は甲状腺検査の対象年齢であった。県側は15歳以下、県立医大の鈴木教授らは18歳以下を主張 山下座長が18歳以下と決断した。ほかの議題は基本調査で外部被ばく量の推計プログラム、浪江町など穿孔調査結果であった。担当は放医研で明石理事が説明した。
④ 第4回議事録(2011年10月17日): 福島市内のホテル会場 参加者13名 うち検討委員6名 この日から本会合と同じ日の直前に開催されることになった。 議題は検討委員会議事録の公開について、録音して議事録を作成しホームページに公表する方針 山下座長の「第4回から公開して、第1回から第3回までは請求されないか」という心配に対して小谷主幹は「会議は議事メモで議事録は作成していない」と説明した。次の議題は放医研が避難パターン別に被ばく線量を試算したデーターについて、山下座長は「好評する必要があるのでは」と主張したが、県健康管理調査室の佐々室長は「数値だけ出しても県民が不安になる。正しい見方を整えてから公表する」と反対した。結論として本会議では公表することを見送った。さらに甲状腺検査体制の整備について話し合っている。県医師会の星常任理事は「県内を一回りするのに3年かかるのでは市町村が待っていられない」と実施加速を促すと、鈴木教授は専門家不足であるが、県立医大が主導して期限を短縮する」と返事した。山下座長は「医師会と協力して検査体制を強化する」ことを求め、鈴木教授は「県外認定は遅らせても、県内体制を作りたい」と答えた。
⑤ 第5回議事録(2012年1月25日): コラッセ福島の会議室で2時間おこなわれた。 参加者12名 うち検討委員7名 議題は甲状腺検査と健康診査を必要とする基準について話し合われた。鈴木教授から開始から3か月で約1万4000人(1日900人ペース)の検査が終わったことを報告。県立医大の安村教授から「検査が年度を超えてしまう。今後の詳細調査はどうするか」という質問に、ほかの委員から基準の策定を慎重に進めるようとの意見が出た。基本調査から詳細調査に移る基準を決めないと全体の調査が完結しない。しかし被ばく基準を1-100ミリシーベルトのどこに線引きするか員らは追い詰められていた。山下座長は「ワーキングチームを作って理論武装しなければならない。医大内でたたき台を作ってほしい。本日の検討員会では議論しない」と本会議での議題にしないことを決定した。たたき台つくりを任されたのは、長崎大学から来た大津教授であった。医大内に「基本調査専門委員会」を設けた。
⑥ 第6回議事録(2012年4月26日): 福島市内のホテル会場 参加者は16名 うち検討委員は8名 議題は基本調査の結果より詳細調査を必要とする基準についてである。基本調査専門委員会を2012年3月14日から4月16日まで4回実施したうえでの大津教授のたたき台には、数値を決める第1案と決めない第2案があった。専門委員会でも結論が出なかったようだ。放影研の児玉主席研究員は「基準数値を決めない案」(数値の科学的根拠が乏しく、影響は大きい、必要以上の不安を招く)に賛成。県医師会の星常任理事は「20ミリシーベルト以上は考えられない」と述べたことから、20ミリシーベルトが秘密会で議論された第1案の具体的な数字であった。議論は行き詰まり最終的に山下座長は「今回も引き続き検討中でよい」とおさめた。次の議題は検討委員の増員であった。文科省、厚生労働省、内閣府はオブザーバーとして参加しているが、2012年6月に原子力規制委員会設置法が成立したので、第5回からは環境省がオブザーバーとして参加していたが、今回から正式の検討委員に入れるように要請があったからだ。しかし県医師会の星常任理事は「唐突すぎる。なぜ環境省だけなのか」と言って反対した。結論出ず。
⑦ 第7回議事録(2012年6月12日: 福島市内のホテル会場 参加者17名 うち検討委員7名 県の佐々室長は環境省の委員入りは細野大臣からの意向であり県として受け入れざるを得ないといって、前回からの継続議論を押し切った。
⑧ 第8回議事録(2012年9月11日): 不開示
毎日新聞はこれらの秘密会の議事録をもとに、2012年11月14日の朝刊に「福島県健康調査 秘密会で重要方針」と題した記事を掲載した。これに対して「資料説明の場、意見の調整や議論の抑制はしていない」といっていた県側からは何の反応もなかった。

(つづく)