ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 日野行介著 「福島原発事故 県民健康管理調査の闇」 (岩波新書2013年)

2014年06月13日 | 書評
福島原発事故の放射線被ばく健康管理調査で、福島県と専門家の仕組んだストーリー作り 第8回

⑤ シナリオ(進行表)の存在ー毎日新聞記事の反響

 2012年10月3日の朝刊の記事に対する反響は大きかった。福島県県議会では自民党議員が「県民への背信行為」と県を追求し、村田副知事が1年半の「準備会」の事実を認め陳謝した。しかし「意見の調整はしていない」と弁明した。全国紙や通信社も秘密会のことを報道した。日野記者は「意見の調整はしていない」という県の釈明は事実に反すると次の取材にかかった。県の健康管理調査室は秘密会での議論に基づいて「進行表」となづけたシナリオを準備し、検討委員に配布していたその現物を入手したのである。10月5日朝刊で「委員発言、県が振付け」、「福島検討委員、進行表を作成」、「進行表 結論ありき」と表現した。これは小谷主幹が「第3回検討委員会 進行」という2枚のメモで「取扱注意」となっていた。進行表の内容は3項目あった。一つはホールボディカウンターWBCと尿検査のことで、放医研の明石理事が「セシウムによる内部被ばくが全員1ミリシーベルトを下回った」を報告し、健康管理検査でWBCの代わりに検出感度の高い尿検査を実施したらという意見に対して、県は放射線検知器ゲルマニウム半導体のひっ迫を引き合いに出して尿検査は困難という結論にすることが進行表にかかれており、尿検査を嫌がっている様子が伝わる。2番目には基本調査についてSPEEDIを話題にしないように頼んでいる。第3は詳細調査の項目を「あれやこれやの検査追加は不可です」と硬く釘を刺している。第3回検討委員会の議事はその通りに進行した。なんという出来レースではないか。10月5日の記事の反響はすごく、自民党や民主党県議から猛烈な抗議の脅かし電話がかかったという。県保健福祉部の菅野部長は「座長手持ち資料として作成した」と事実関係を認め、県議会は残す定例議会中(1週間もない)の調査結果を出すように求めた。佐藤雄平知事(福島県には佐藤姓が多い。福島第1原発でのプルサーマル燃料反対の態度を貫き、知事を疑惑事件ででっち上げられ辞めざるをえなかった佐藤栄佐久知事、この人には「知事抹殺」平凡社2009年という本がある。佐藤栄佐久知事辞任後の選挙で知事になった佐藤雄平知事はさっさと3号機のプルサーマル燃料導入を認可した。原発事故で第3号機はメルトダウンし、普通のウラン燃料原発ではありえない放射性物質を大気にまき散らした。それ以降佐藤雄平知事は原発に関して一切発言しなくなっており、ほとぼりが覚めるのを待っているかのような曖昧な不気味な態度である)は陳謝したうえで徹底的に調査するといったが、弁護士などを第3者委員会を設置せず、わずか4,5日の調査でお茶を濁そうというつもりらしい。10月9日県議会福祉公安員会で県は調査結果を明らかにした。進行表について「誤解や疑念を招きかねない行為だったが、聞き取り調査ではそのような事実はない」と開き直った。「秘密会(準備会)の存在の事実はない」と言い張り、誤解を招いたという理由で陳謝した。事実はすべて否定したうえで陳謝とは官僚の良くやる第1段階の鎮静手段である。改善案として外部委員を増やすこと、準備会を開いた時も議事録を公開するという奇妙な内容となっている。毎日新聞は10月10日社会面に「徹底調査とは程遠い内容」という記事を掲載した。地方紙も県の調査結果を非難した。県議会も抜本的な改善策を要求しなかった。すべてをうやむやのうちに葬る魂胆らしい。

(続く)