ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 日野行介著 「福島原発事故 県民健康管理調査の闇」 岩波新書 (2013年9月 )

2014年06月07日 | 書評
福島原発事故の放射線被ばく健康管理調査で、福島県と専門家の仕組んだストーリー作り 第2回

序(その2)

福島第1原発事故による健康影響を調べるための唯一の網羅的な健康調査が、2011年6月から実施されている「県民健康管理調査」である。民主党菅政権から指示を受けて文部科学省を中心とした調査も検討されたようだが、なぜかどこかで調整が行われ(中央官僚の混乱と責任回避、不作為も絡んでいる)最終的に福島県が調査主体となった。県から委託を受けた福島県立医大が実際の調査を担うことになった。ここで福島県立医大の副学長が経験不足からその道の「権威」といわれ長崎大医学部の山下俊一教授を県立医大の副学長として陣頭指揮をお願いし招来したといういきさつがあり、この山下教授を招いたことが「県民健康管理調査」の基本的姿勢を決定した。実はその前から2011年3月19日に福島県知事佐藤雄平の要請により、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーに長崎大学の高村昇とともに就任した。そして同年7月15日に長崎大大学院教授を研究休職し、福島県立医科大学特命教授・副学長(業務担当)(常勤)兼放射線医学県民健康管理センター長に就任している。この間に福島県内各地で講演し、住民の不安解消を目的とした公演を行った。そこで数々の名言(迷言・暴言)を吐き、住民らから反発を招いたといわれる。その名言禄を参考までに示す。もちろん最初から山下教授に関して悪い予見を与えるつもりはないが、彼の福島県に対する基本的姿勢が垣間見られるので参考にしてほしい。「権威」といわれる人にありがちなパターナリズム・エリート意識むき出しの「信じる者は救われる」式の愚民視発言のオンパレードである。
・ 「明るくしていれば、放射線は怖くない」
・ 「皆さん、マスクは止めましょう」
・ 「甲状腺が影響を受けるということはまったくありません」
・ 「また現状のレベルでは(安定ヨウ素剤服用しなくとも)まったく心配ありません」
・ 「福島における健康の影響はない。ないのに放射線や放射能を恐れて、恐怖症でいつまでも心配してるということは、復興の大きな妨げになります」
・ 「いわき市は放射性レベルがたとえ20ミリシーベルトと一時的に上がったとしても、100%安全です、安心してけっこうです」
・ 「100ミリシーベルト/時を超さなければ、まったく健康に影響を及ぼしません」
・ 「児童はどんどん外で遊んでいい。心配することはありません」
・ 「水素爆発が2度、3度くり返されました。しかしそのときに、まったく日本の原子炉からは放射性物質は漏れ出ていません。それほどすごい技術力があります、それはもう間違いがないことです」
・ 「いまの日本人に放射性降下物の影響は起こり得ない」
本書は山下教授の福島県放射線健康リスク管理アドバイザーの役割については取り上げていないが、2011年5月から始まった「県民健康管理調査」に臨む山下教授の姿勢は読み取れる。福島県とその委託を受けた県立医大が調査主体となり、調査方法や結果を評価するために「検討委員会」が設置された。調査の陣頭指揮にたった山下副学長はさらに評価を行う検討委員会の委員長となった。これは経産省が原発推進のエネルギー資源庁と規制局である「安全保安院」を統括したため、規制局の無力化が起きた同じ構図が原発事故後のまさに福島県で起こっていることに注目しなければならない。評価組織は実施組織から独立していなければならないのに、両方の長を同一人物が占めると組織の透明性が失われ、誰からも信用されなくなる。それどころか検討員会は約1年半もの間(2011.5-2012.11)その存在を知らせることなく「秘密会」(県側はこれを資料説明会という)を繰り返し開催していた。検討委員会の前にあるいは段々と大胆になり直前に同一場所の別室で「準備会」とか「打ち合わせ」と称して検討委員を集めてストーリーのすり合わせ(県側はこれを進行表という)を行っていた。そして評価委員会の進行は「粛々」と行われ、緊張感のない出来レースを演じていた。評価委員の顔ぶれは事故の影響を限定的にとらえる人達ばかりで占められていたことは、通常の政府審議会や公聴会で決められた政策の追認を求める官僚のやり口と全く同じである。その秘密会の存在を毎日新聞記者が取材し2012年10月に報道し、大きな反響を呼んだ

(つづく)