ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

田中克彦著 「ノモンハン戦争ーモンゴルと満州国」 岩波新書

2010年03月28日 | 書評
ソ連、日本に翻弄されたモンゴル民族の悲劇 第7回

2)満州国の国境とホロンボイルー外モンゴルの独立と清朝時代のモンゴル民族 (1)

 満州国とソ連の国境はアムール川にあると書いたが、それも清朝が1858年に結んだ「アイグン条約」と1860年の「北京条約」によってロシアの領有になったのである。満州国とソ連の国境は清朝・ロシアの伝統的な難問を引きずっている。ところがモンゴルと満州の国境問題は1924年のモンゴル人民共和国の成立によって全く新しく発生した。そして1928年ごろからソ連はモンゴルを完全に支配下に置き傀儡国家となした。満州・モンゴル国境はモンゴルとだけで決められる問題ではなく、ソ連の指示なしでは何一つ決められない国境問題となった。これは満州が日本の傀儡国家として成立し何一つ日本の指示がなければ解決しないのと同じであった。1932年満州国が成立するまでは、モンゴル人民共和国のハルハ族と中国領内モンゴルのバルガ族の部族的境界であったものが、1932年以降は満州国とモンゴル人民共和国という国境問題となった。バルガ族の居住空間はホロン湖とボイル湖周辺の「ホロンボイル」という遊牧に適した草原地帯である。「バルガ」という呼び名はハルハ族がつけたもので「未開」を表す蔑称であった。(ソ連領内のモンゴル族は「ブリヤート」とよびバイカル湖近くのバルグジン地方を原郷とするので、バルグ族はそこの出であるという説もある。) ホルンボイルを居住地とするバルグ族は辛亥革命で清朝が亡んだ時、蒙古諸族独立運動の指導的役割を果たした。1911年9月ホロンボイルの英雄ダムディンスレンはバルガ族諸侯を集めて独立を宣言した。12月にはハルハモンゴルも独立を宣言した。いずれもロシアを背景とした独立宣言であったので、1917年ロシア革命がおきて混乱が生じると、中国の徐樹錚軍によって鎮圧された。モンゴル人にとって清朝満人はまだ民族的には同盟関係にあったが、漢人に対しては歴史的に激しい恐怖感を持っている。漢人の農耕文化により牧畜民族の放牧地は次々と農地に変えられたからだ。
(つづく)

文藝散歩 加藤周一著 「日本文学史序説」上下  ちくま学芸文庫

2010年03月28日 | 書評
日本人固有の土着的世界観をさぐる日本文化思想史概論 第8回

2)第1の転換期:9世紀の日本化 平安時代初期 (1)
 
 794年平安遷都から10世紀初めまでの10年間は、大陸文化の「日本化」の時期である。その日本化の結果は、その後の日本文化に決定的な意味を持ったのである。日本文化の抜き難い通奏低音が決定された。日本語の発音が9世紀において固まった。そして万葉真名に代わって、「かな」の体系が発明された。この時代の特徴は、政治的には律令制が変質され、中央集権制の官僚機構も不十分のまま、藤原家と天皇家の血の混血がすすんで分離不可能になって、天皇の権威と藤原家の実質的な権力の二重構造という日本固有の伝統が典型的に作り出されたということである。班田授受という律令制(最初からどこまで有効であったかも不透明だが)は庄園性という土地私有制に移行した。仏教思想界では、二大宗派、天台宗(比叡山、最澄)と真言宗(高野山・東寺・神護寺、空海)という密教万能時代がうまれた。天台宗の特徴は総合性にあって密教・禅・浄土教を含み、後代には神仏習合さえやってのけるという融通無碍な思想である。真言宗は三蜜の加持祈祷の魔術を発揮した。雨乞い・病気治癒・国家鎮護という農業土木・医術・軍事まで包括した。これを宗教というのか、はたまた政敵まで呪い殺してくれる統治技術というのか別れるところだ。藤原氏という平安貴族支配一族の絶対的支持を得た。唐滅亡後の中国の混乱期に乗じて、894年遣唐使は廃止され、事実上の鎖国状態になって日本化が一層促進される時代となった。9世紀の社会的な特徴は、政治経済支配者(天皇家と藤原家)と、文化創造者という知識人層が分離したことである。知識人官僚の代表が紀貫之、菅原道真である。平安朝の美的価値は「古今集」によって確立し、以後室町時代までの600年間の勅撰和歌集を支配した。
(つづく)

月次自作漢詩 「桃花満開」

2010年03月28日 | 漢詩・自由詩
夭夭蔬菜満春田     夭夭たる蔬菜 春田に満ち

桃杏萬紅香気傅     桃杏萬紅 香気傅ふ

水碧風和鶯鳥地     水碧に風は和す 鶯鳥の地
  
霞流日暖養花天     霞流れ日は暖かに 養花の天

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(韻:一先 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)

CD 今日の一枚 シューマン 「 ピアノ曲集」

2010年03月28日 | 音楽
シューマン 「 ピアノ曲集」(CD3枚組)
ピアノ:クラウディオ・アラウ
CD-1:①「小曲集」作品21 ②「ワルツ」作品82
CD-2:①「クライスレリアーナ」作品16 ②「ソナタ第2番」作品22 ③「3つのロマンス」作品28
CD-3:①「ダビッド同盟舞曲」作品6 ②「夜曲」作品23
ADD 1966-1976 PHILIPS

クラウディオ・アラウ(Claudio Arrau 1903年2月6日 - 1991年6月9日)は、南米チリ出身でアメリカを中心に活動したピアニスト。20世紀を代表するピアノの巨匠として知られた。