ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

医療問題   診療報酬改定で診療所の再診料引き下げ

2010年03月10日 | 時事問題
医療に関する提言・レポートfrom MRIC(2010年3月9日)「過労死寸前の開業医を襲うー24時間電話対応」 多田知祐 ただ胃腸科肛門科 より

 2月10日の中医協総会の診療報酬改定審議において、開業医の再診料を710円から690円に引き下げられた。病院と開業医の再診料金を同じにするためである。診療所は外来診察料が主な収入源です。今回の診療報酬改定においては危機に瀕している病院へ配分を多くすることが狙いで、800億円の予算がついた。開業医は儲けすぎているという厚労省のデーターには開業医は反発している。開業医の労働時間は月平均252時間、1日平均70人の診察を行い、外来医療費単価は1人約7000円(アメリカ62000円、英国25000円)、年間外来診察数は約8500人(OECD平均2421人)で過酷な経営と労働状況になっている。さらに今回「地域医療貢献加算」が30円つきましたが、24時間電話対応が条件となり、開業医をさらに苦しめることになります。病院での医療崩壊と同様、開業医の過酷な労働は医療崩壊につながりかねません。という開業医側からの悲鳴をさて皆さんはどう考えますか。

読書ノート 濱口桂一郎著 「新しい労働社会ー雇用システムの再構築へ」  岩波新書

2010年03月10日 | 書評
多様化した労働社会に対応する新しい日本の雇用システムとは 第3回

 先進国欧州の労働事情が正しい路を歩んでいるわけでもなく、日本の労働事情だけが混迷を続けているわけではない。むしろ1990年代の新自由主義による規制緩和政策(小さな政府路線、サッチャー・レーガン主義)が日本の労働事情を破壊し、混乱に貶めるまで、日本の経済や生産力は日本独自の労働事情が支えていたのだという世界的な評価もあった。「多様化する労働事情」という言葉は働いたことがない学者たちが好んで使う言葉である。少なくとも当事者(利益関係者)の使う言葉ではない。当事者は事情は単純なほうを好むものである。多様性を喜んでいるの部外者である。複雑で混乱している方が部外者が口を挟みやすいのであろうし、それが自分の立場を誇示することにもなるのだろう。日本では労働情勢は「三者構成原則」というもので運営されてきた。政府の審議会などの政策審議は、政府・使用者・労働者の三者の合意で諮られてきたのが、小泉元首相の「経済財政審議会」がこの伝統を破壊した。「失われた15年」で失われたのは日本の労働社会システムではないだろうか。そして到来したのが西欧流新自由主義の格差社会であり金融資本の詐欺商法であった。その金融資本も倒れた今日、日本を再建するために知恵を出し合って考えてゆく一つのきっかけになればいい。著者が得意とするEUの労働事情が本書のあちこちで比較のために紹介されているが、ダーウインの進化論が説くように隔離された独自の進化を遂げた日本の労働状況にEUの事例を持ち出しても(EUに見習えといっているのか、日本は後れているといっているのか)、文化社会背景を抜きにしては語り難いので、かえってどうしろといっているのか混乱を招きやすい。著者は欧州並の多様な労働社会を提案したいのか、多様な労働状況は文化的に好ましいのか、経営側の利益にかなっているのか、労働者側は辛抱しろといっているのだろうか、どうも著者の本音が不明である。このことが本書の理解を困難にしている。そこで本書の紹介に当っては、EU労働事情はオミットして考えてゆきたい。
(つづく)

環境書評  天野明弘著 「排出取引」 中公新書

2010年03月10日 | 書評
環境と発展を守る経済的手法 第4回

1)排出取引制度の誕生と米国での発展 (1)

 公害問題への対応においては、各国政府とも排出企業に一定の義務を遵守させる直接規制政策が取られてきた。規制がますます厳しくなると、政府による規制を嫌う米国の企業風土から現代的な排出取引制度が誕生した。1963年に大気浄化法の汚染防止の枠組みが出来、1970年に米国環境保護庁(EPA)が発足して同法の改正が行われ全米に6つの汚染物質の環境基準が決められた。EPAが定める全国基準を達成・維持することが州政府の役割である。そのため州別実施計画はEPAに届けて承認を得なければならない。中でも新規排出源達成基準をEPAは事業所内の個々の排出点に対して適用しようとした。それに対して鉄鋼業界は、環境基準達成が重要なのであって、工場全体の排出総量で一定の限度内に抑えればいいのではないかという、いわゆる「バブル」(工場ひとつでひとつの排出口)ということを主張したが通らなかった。法施行初期から未達成の見込みの州が多く、達成困難という懸念が広がった。そこで1976年EPAは排出取引制度の原型となる「排出オフセット」プログラムを発表した。オフセットとは「相殺」ということで、同一地域内にある既存排出源において新規排出源の増加を相殺して余りある削減が確保できるなら、未達成地域においても新規排出源の親切を許可するというものである。その新規排出源装置は実現可能な最高の制御性能を有することなど新規排出源審査が行われる。既存の排出源において削減が規定以上に達成できた場合、その削減量1単位ごとに「クレジット」すなわち相殺可能な認可証が発行される。原則的には企業間取引も可能なのであったが、実際は同一企業内の取引であったという。次に同一施設内にある排出源でも新規または改修による排出増加は他の既存排出源の削減量と相殺でき、新規排出源審査を免除され方式が導入された。これは内部取引で「ネッティング」と呼ばれた。そして1979年末には既存の排出源について複数の排出源をひとつにまとめ、全体に対して総排出限度を設ける「バブル」方式を認めることに成った。また1980年には排出削減クレジットが売れ残った場合預託できて将来も使える「バンキング」という制度もスタートした。「バブル政策」に対して争われた一連の裁判は1984年最高裁で結審し、排出源の定義は工場全体を一括して扱い、全体として排出基準が遵守されればいいという判断が下された。こうしてEPAは排出取引の4つの制度(オフセット、ネッティング、バブル、バンキング)を整備統合して排出取引政策大綱と施行細則を1986年に発表した。
(つづく)

月次 自作漢詩 「春雨料峭」

2010年03月10日 | 漢詩・自由詩
江東三月峭寒催     江東三月 峭寒催し

馥郁梅梢鶯不来     馥郁たる梅梢に 鶯来らず

斑斑長堤枯草緑     斑斑と長堤に 枯草緑に
  
今朝雨霽凍雲開     今朝雨霽れて 凍雲開く

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(韻:十灰 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)