5月3日の佐渡は朝から雨で、これが終日降り続いた。当然幾つかの予定変更を余儀なくされた。だが、嫌な雨空同様もっと嫌あ~な結末が待っていたとは夢想だにできなかった。金井の新保から大佐渡スカイライン方向へ向けて北上すると、やがてラブホテルの「かくれんぼ」が左手に見えてくる。そこを過ぎてしばらく行くと右手にこの民宿がみえた。午後3時45分頃にお宿に到着した。玄関を見たら、民宿と言うよりも合宿所と言った方が正しいような靴の散らかりようだ。玄関から階段を上ると、宿泊客の浴衣、布団カバー、敷布、家族の服などの洗濯物が干された物干し部屋を突き抜けてから、6畳ほどの小部屋へと案内された。部屋に入ると唖然とした。部屋の壁はベニヤ板張、天井の蛍光灯は二本抜かれており、この蛍光灯を点灯するスイッチを覆うカバー部分はガムテープで仮固定されていた。そして極め付けは木製の二段ベッドである。起き上がると天井に頭をぶつけてしまうほどの狭さだ。座布団の一部は薄汚れており、掃除した女の髪の毛が一本落ちていた。ドヤ街の簡易宿泊所の方がまだましだと思えるくらいの猥雑さだ!筆者にとっては、レオナルド・ディカプリオ主演の映画、「シャッターアイランド」に出てくる精神病患者の強制収容所としか思えなかった。多分この環境では治療になるまい、益々鬱屈した気分になるからだ。右隣の部屋からは、時折「キャア~」という赤ん坊の声が聞こえてくる。これが金切声で響くので頭が痛くてしょうがない。どうやら家族の寝室のようであった。この部屋の名称は「金北一号」、入り口部分はガラス張りで、どこぞの性風俗店のように、内側からカーテンで目隠しする構造になっており、左隣は「金北二号」で、ここは従業員の部屋のようであった。赤ん坊部屋の名称は「妙見」で、この部屋の換気扇スイッチが何故か、筆者が宿泊した部屋に設置されており、「スイッチを入れるとうるさいのでさわらないで下さい」との注意書きが壁に貼られていた。民宿には珍しく冷蔵庫が設置されていたのが唯一の救いではあったが、5月初旬とは言え、金井の山中ではまだ朝晩冷え込むのだろう、こたつと電気カーペットがいまだに残されていた。トイレは和式で家族と客の共用で、トイレットペーパーが底を突きかけていたので、明日の排泄は我慢しようと心に決めた。もう一刻でも早く退散したい気持ちになったが、いかんせん、一泊二食で予約しておいたのだ、もう逃げられない。
こうなりゃ、ひたすら自虐ネタで書き進める以外に手はない、と言うかそれしかストレスを発散させる手段はなかったのだ。4時を過ぎたところで女将さんがお風呂の案内に来た。この女将さん、時に命令口調で話し、年齢を問わず客は全て学生扱いするようであった。さすがの翼君の冗談も通じないくらいだったからだ。誤解のないように言っておくが、裏を返せば、それだけフレンドリーで率直な人柄と言う意味であり、好感は持てた。風呂場は何故か塩釜湯と言う触れ込みで、1階部分にあり、お部屋とは繋がっていなかった。つまり屋外にあるので、今日のような雨の日は、収容所から一旦外に出て傘をさしていかねばならぬ。「もうほとんど漫画の世界ですよねえ~」と女将さんは物凄く自虐的に言ったが、「漫画の世界の方がまだましだよ」と筆者は心の中でつぶやき返した。風呂は所謂24時間風呂で、民宿「津島荘」同様、製造会社名での「湯船の中でのシャンプーや石鹸のご使用は絶対ご遠慮下さい」と言うあの文言が掲示されていた。