転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



11日に東宝を観たあと、和央の会お茶会までの間と思って、
歌舞伎座に行った。どうしても『身替座禅』が観たかったので。

私はこれで二十何年か、ずっと、尾上菊五郎のファンなのだが、
この『身替座禅』の山蔭右京役は、彼の最大のハマり役のひとつだ、
と思っているし、そのことに異論のある方は少ないだろうと思う。
色男で浮気者で、しかし奥さんが怖くてたまらない山蔭右京が、
音羽屋さんにはあまりにも、あまりにも似合っていると思うのだ。

物語は、狂言『花子』から題材を取った松羽目もの(舞台正面に「松」)。
大名・山蔭右京(菊五郎)は、愛しい花子のもとへ通いたいのだが、
奥方・玉の井(仁左衛門)が目を光らせていて怖いので、
『最近、夢見が悪いから、一夜、持仏堂にこもって座禅をしたい』
と嘘をつき、外出の許可を貰う。

『座禅行なのだから見舞うことはならぬ』
と右京は強く言い置いて出かけたが、
心配になった玉の井が持仏堂を訪ねてみれば、そこにいたのは夫ではなく、
夫の着物を頭からかぶって身替わりになっていた、太郎冠者(翫雀)。
ホンモノの夫は女のところへ出かけたと聞き、怒髪天をつかれた玉の井は、
そこで太郎冠者をどかせて自分が座禅をし、夫の帰りを待つことに。
何も知らずに戻ってきた右京は、着物を被っているのが妻とは思いもせず、
花子との逢瀬の一部始終を、『まあ聞け』と夢見心地に語り始めて・・・。

音羽屋さんの右京は、もう、出てきただけで色気を発散していて、
どれだけ遊んで来たことかと感心するような風情を持っている。
また、こんなイイ男なんだから女が放っておくはずがないよな、
と一発で納得させられるところも、たまらなく良いと思う。
台詞でしか登場しない花子も、どれほどイイ女であることかと
右京のテイタラクのお陰で、十分に想像させられてしまう。
玉の井と花子が、見事に対照的であると感じられるのがとても面白い。
音羽屋さんでないと、こうは演れまい、と私は観るたびに思うのだ。

対する玉の井は仁左衛門で、私はこの人が演じるのは初めて観たが、
これが予想以上に素晴らしかった。
仁左衛門は右京もできる役者なので、そこのところが、
玉の井を表現する際にも活かされていたのではないかと思う。
右京をビビらせる恐妻ぶりなのは、顔を見ただけでわかったが、
仁左衛門の玉の井は、およそ美貌ではないのだが大変に品格があって、
多分、深窓の令嬢だったのが、右京の妻になってからは、
彼ひとりを慕って来たのだろう、と思わせる一途さがあった。

だから、右京が太郎冠者を身替わりに置いて出かけた次第を知ったとき、
『ああ、腹の立つ、腹の立つ!』
と玉の井が物凄い形相(と立役の声音!)で怒り狂う場面で、
大笑いしつつも、私は、仁左衛門の玉の井がいとおしくてならなかった。
そして、文字通り「えーん、えーん」と言った風情で大泣きするところも
彼女がいかに、夫を深く愛しているかがよくわかって切なかった。

私はこの演目は幾度か観ているのだが、
ほかに、これまで記憶に残った玉の井は田之助で、
こちらも大変な容貌(爆)ながらとても可愛らしい奥方だった。
玉の井の、右京へのいじらしいまでの愛情が見えると、
この演目は非常に楽しく、心底納得して味わえるなあと改めて思った。
聞いたところでは、団十郎の玉の井も、ドスが効いて最高らしい。
夏雄ちゃんの玉の井……、想像するだに笑える。
いつか団菊祭で、ふたりでやって頂けないでしょうか(^_^;)。

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