転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



やっと時間ができたので、改めて、4月19日のこんぴら歌舞伎の感想を。

今年の席は、第一部・第二部とも、二階の後ろの「後舟」にしてみた。
舞台から遠いという意味では、全体としては一番安い設定の場所だが、
ベンチ席で後壁にもたれて観るのは脚も背中も楽で、私は大変気に入った。
元来、私は「かぶりつき」よりも後ろから全景を観るほうが好きなのだ。
特に、上手下手の一番端の席は、片腕を手すりにもたせかけることもでき、
肘掛けのないベンチ椅子としては、最も安楽な場所ではないかと、座ってみて思った。
ベンチ椅子の前の座布団の列も後舟の扱いで、入場順に好みの場所に座って良く、
金丸座は小屋として小さいので、ヘリでも舞台の中心から大きく離れてはおらず、
端っこしか見えない、などという状況では全くなかったし、
邪魔になるような柱も目の前に無かったから、
後舟最後列の端を、私はむしろ積極的に選んで座った。

今年は雀右衛門の襲名お披露目で、仁左衛門が久々の出演、演目は、
第一部が『神霊矢口渡』『忍夜恋曲者』『お祭り』、
第二部が『葛の葉』『雀右衛門 襲名披露口上』『身替座禅』。

『神霊矢口渡』は孝太郎が素晴らしかった。
お舟が、初めて心奪われる男性と巡り会ったときの恥じらいは瑞々しく、
恋に恋する乙女といった風情は、滑稽さもあり愛らしさもあった。
女らしい嫉妬の感情にも、おどろおどろしさは無く感情移入できたし、
彼女がやがて、愛する男性のためにその身を犠牲にする様からは、
最初の少女のような彼女が女性として目覚めたことが伝わり、
ひとつの芝居の中で、お舟の女としての燃焼を見せて貰ったと思った。
女の一念、岩をも通す!という……。

『忍夜恋曲者』は雀右衛門のお披露目の演目でもあったのだが、
せり上がってきたときの滝夜叉姫が、先代にそっくりだったので驚愕した。
亡きジャッキーが乗り移ったかと思いましたね(^_^;。
相手役の光圀が松緑で、これはもう相変わらずキレッキレ(笑)。
あらしちゃんの踊りは冴え渡っていて、周辺の空気がぴしぴしと
音を立てそうな感じさえした。

『お祭り』は仁左衛門の独壇場。
仁左衛門は、本当に、本当に物凄い役者なのだと思い知った。
あたりを圧倒する美しさと存在感、ふわりと匂うような色気、
そして客席を心底楽しい気分にさせてくれる明るさ。
襲名を祝う舞台に華を添えた仁左衛門の踊りは最高だった。

二部の『葛の葉』、これは前に金丸座に来たときも時蔵で上演されたので、
私は心の片隅で「地方公演用のセットがあって便利な演目だったと…」と
宝塚の全国ツアーを観るときのようなことを、チラと思った。
保名の友右衛門には、以前の松也で観たときのマザコン芸は感じなかったが、
そのぶんノーマルに(爆)葛の葉を愛している夫としての気持ちが感じられ、
雀右衛門の健康的なお色気と相まって、正統派の手応えが大きかった。

『口上』は、襲名お披露目の雀右衛門を真ん中に、
上手から中央に向かって彌十郎・廣太郎・孝太郎・仁左衛門、
下手から中央に向かって友右衛門・廣松・松緑。
仁左衛門は、先代が素顔は大変ダンディでサングラスの似合う男性だったこと、
ハーレーにまたがった写真があること等の逸話を披露し、
「その面影を当代の雀右衛門さんに求めるのは無理でございます」(笑)、
しかし、「襲名以来、日ごとに大きくなられている雀右衛門さんが
必ずやお父上に追いつき、追い越す役者さんになられますように」と激励、
松緑は「先代は私を陰になり日向になりかばって下さった大恩人」、
彌十郎は「こう見えましても私のほうが、雀右衛門さんよりひとつ年下でございます」、
「サウナというところに私を初めて連れて行って下さいましたのが、
この雀右衛門さんでございます」、
「当時は、なんという暑いところで我慢をするものだろうかと思いましたが、
御陰様で今は私も、大のサウナ好きでございます」、
等々、皆、それぞれに心温まる口上を述べて襲名披露を祝った。

最後の『身替座禅』、仁左衛門の右京はもう、絶品!!
どの角度から見ても完璧に美しく品格のある、そして遊び人の、
天下の二枚目・山蔭右京!!
こんな夫を持ってしまったら、奥方は気が気ではありません。
そりゃどんな女だって迷う迷う。
花子も、どんだけイイ女であることか。
その山の神・玉の井の彌十郎がまた、驚異的なデカさ(笑)!!
怖いの怖くないのって、でもやはり健気で、
お嬢様育ちの奥様でもあるところが、なんとも微笑ましい。
そこに可愛い松緑の太郎冠者が絡み、
千枝・小枝はスッキリ美しい新悟と廣松が務めていたのだから、
過去最高のキャストではないかという見応えだった。
松緑は、台詞を意識して舌足らずっぽく発音していたのではないだろうか。
右京にも玉の井にも、さぞや可愛がられているのだろう、
という様子が、大変よくわかった。

……以上、観劇してから既に半月近く経ってしまったので、
印象が多少、変わってしまったところもあるかとは思うが、覚え書きとして。

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