転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



雪組全国ツアー公演が広島に来ていたので、観た。
お芝居が『黒い瞳』、ショーが『Rock on!』。

『黒い瞳』がプーシキンの『大尉の娘』だというのはわかっていたのだが、
私の中ではこれは80年代の宝塚の演目のような気がしていて、
さて誰が演った何組のヤツだっけなと思いながら、調べないまま会場に行ったら、
見始めてから、「おお!これはリカちゃんのプガチョフ!!」と思い出した。
『ステンカラージンの子供たちよ!』、ってヤツだ。
初演は98年月組で、主演は真琴つばさ、相手役が風花舞、
そして私の記憶に鮮やかに残っていたのが、二番手リカ(紫吹淳)ちゃんだった。
彼女の演じたプガチョフは、私の中では今でも、
非常に魅力のあった男役として、大変ランクの高いところにいるのだ(笑)。

きょうの配役は、その98年に初舞台を踏んだキム(音月桂)とまっつ(未涼亜希)が
それぞれトップと二番手の男役で、娘役はミミ(舞羽美海)ちゃんがヒロインを演じていた。
98年月組版と比べたら毒々しさは全くなくて、褒めて言えば洗練された舞台だった。
若々しくて、主演クラスも脇も皆それぞれに芸達者で、
地方公演ならではの大きな役がまわって来た生徒さんもあり、
全体としては、とても楽しく見せて貰った。
見終わった私の気分としては、95パーセントは「良かった♪」だった。
だから以下に書くことは、私の感想の残り5パーセントの部分についてだ。

ロミオとジュリエット』を観たときにも書いたことと重複するのだが、
私のイメージでは、キムは何でも出来て、綺麗で、そつがなくて、
全く文句のつけようのない主演者で、……だからこそ、ちょっとだけ困ってしまうのだ。
宝塚というのは元来がとても「ヘン」なもので、そこに魅力があると私は思っているので、
それを全く「ヘン」でなくスラリと演ってのけられると、
どうにも落ち着かない気がしてしまうのだ。
幾度観ても、私としては、注文をつけるところがない・ツッコんで笑える要素がない、
というのがキムの凄いところでもあり、困ったところでもあると思わずにいられない。

まっつも、全く破綻なく、とても巧みに演じていたし、
「こんないい曲だったのか!」とびっくりするほどの歌唱も聴かせてくれたし(逃)で、
キムとのバランスも素晴らしく、この上なく巧い二番手だったと思う、
……のだが、やはり、リカちゃんの、妖気の漂うような色気ある男役ぶりとは違い、
毒気を大半そぎ落としたような、実にスッキリしたプガチョフだった。
濃い男役が観たい私としては、幾分、物足りない思いは残った。
上手だなあ、と心底感心はするが、未涼プガチョフなら私は狂うところまでは行かない。
勿論、キムとの釣り合いの問題があるから、彼女のほうも自分勝手な造形はできない、
という事情だって十分に察せられたのだけれど。

主役・準主役がこれだけ洗練されていると、その分、脚本の強引なところとか、
ご都合主義的な展開が、悪目立ちしてしまうという問題も、正直なところ感じた。
そういう脚本的に無理矢理な部分というのは、だいたいが、
演技者の「芸」を際立たせるために構成された箇所なので、
再演などで出演者が違って「芸」の質が変わってしまうと、もはやそれらは不要になり、
ただの脚本的な「ほころび」になってしまう場合が少なくないと思うのだ。

折しも、会場で配られていた次回全国ツアーの案内には、
12月に月組が『我が愛は山の彼方に』を持って来ると書いてあった。
初演の峰さを理のは、映像では観たが生ではさすがに観ていなくて、
後日記↑壮大な勘違い。初演は峰ちゃんではない。71年で鳳蘭だった!)
そのあと99年だったか、星組の稔幸が大劇場で演ったものが、私のいちばん近い記憶なのだが、
うぅむ……、あれは『黒い瞳』どころか、きっともっと凄いぞ(汗)。
まともに演じたら、ダサくて、ド演歌で、大変なことにならないだろうか。
冗談でなく、猿之助の「俊寛」並に大仰に演らないと脚本に耐えられないと思うぞ(逃)。

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