【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

伊豆・下田で歓送会・慰労会

2008-03-31 00:59:54 | 旅行/温泉



 職場の歓送会、慰労会で、下田での一泊旅行をしました
(26-27)。一行は10名、場所は「下田ビューホテル」です。伊豆急下田駅からシャトルバスで10分ほど、小高い山の上にあります。オーシャンビューに温泉、年度末の疲れを癒しました(と言っても午前1時半までの飲み会)。

  温泉には都合
3回つかりました。2日間とも晴れていたうえ、丁度桜の見ごろとあって、十分楽しめました。

 
 一泊して下田の街をみなで観光しました。丁度、唐人お吉の命日
(27)で、お墓のある宝福寺にお参り。その後、下田開国博物館、遊覧船サスケハナ号での下田港めぐりなど。ペリー来航、プチャーチンとの日露和親条約締結に象徴される下田、幕末の歴史探訪にうってつけの街です。

  わたしは、下田は2回目です。前回来たときに訪れた了仙寺(日米和親条約締結の場所)、安直楼(晩年のお吉がきりもりしていた小料理屋:前回は入れたのに今回は閉まっていました)なども観ました。

               



黒田龍彦『田中耕一という生き方』大和書房、2003年

2008-03-30 00:46:00 | 評論/評伝/自伝

黒田龍彦『田中耕一という生き方』大和書房、2003年
                   田中耕一という生き方
 2002年、島津製作所(開発製造メーカー)のエンジニアである田中耕一さんがノーベル化学賞を受賞しました。それまで、候補者としての話題にもならず、またいわゆる学者でもなかったことから、無節操なマスコミをも巻き込む大騒ぎになったことは周知のとおりです。

 本書はその田中さんの研究経歴、研究内容をわかりやすく解説しながら、彼の偉業を冷静に伝えようとした本です。

 田中さんの受賞理由は、「マトリックス支援レーザー脱離イオン化法」というレーザー光線をあててタンパク質を分析する技術に対する貢献です。たんぱく質は、レーザー光線をあてると壊れやすく、その方法自体が無理なことというのがこの世界の「常識」でした。田中さんは地道な実験を繰り返し、1985年に補助剤の試験でコバルト微粉末を混ぜるために使うべきアセトリンの替わりに、間違ってグリセリンを混ぜてしまいましたが、これがたんぱく質に関する
驚くべき分析結果を生み出し、新たな研究成果につながりました。

 たんぱく質・質量計という分野でのこの成果は、現在広く普及しているMALD1の質量分析計として製品化され(レーザーイオン化質量分析計用試料作成方法及び試料ホルダ)、遺伝子研究、癌の治療などにその応用可能性が期待されています。

 田中さんの生い立ち(1959年富山県富山市出身)、研究経歴(東北大学工学部で卒論は「損失性媒質とダイポールアレイの組み合わせによる平面波の吸収」[テレビの電波障害を低減する研究])、島津研究所でのグループ研究の様子、研究の国際的な位置、ノーベル賞受賞式の風景、結婚と家庭生活、受賞時のメディアの喧騒など、多くのことが要領よく纏められています。 


ズデニェック・スヴェラーク/千野栄一訳『コーリャ・愛のプラハ』集英社、1997年

2008-03-29 02:06:12 | 小説

ズデニェック・スヴェラーク/千野栄一訳『コーリャ・愛のプラハ』集英社、1997年
          コーリャ愛のプラハ / ズデニェック・スヴェラーク/著 千野栄一/訳


 旧チェコスロバキアの小説です。この映画を観たことがあり、図書館で原作があることを知り、読み始めました。

 社会主義体制崩壊直前のプラハ、街にはロシアの兵士が駐留し、秘密警察の監視が厳しくなっていました。ドイツへの亡命を予定したロシア人女性ナジェージュダは、亡命の手段としてプラハの市民権を獲得するために条件つきでチェコ人・ロウカと偽装結婚します。

 女好きの初老のロウカはかつては名のあるオーケストラに所属していたチェロ弾きでしたが、今は埋葬場で追悼の演奏をする弦楽四重奏団でアルバイト生活をしていました。偽装結婚を了解したものの、ナジェージュダは連れ子である5歳の男の子コーリャを置いて、すぐに姿をくらまし、亡命してしまいます。

 ロウカはコーリャの面倒を見なければならないハメに陥ります。

 ロシア語とチェコ語は似ているように聞こえますが、違います。お互いに、コミュニケーションがとれないのです。

 勝利の2月記念日の窓飾り、タマーラおばさんの死、警察での尋問、コーリャの発病、コーリャの誕生日でのヴァイオリンのプレゼント、二人の間にいろいろな心のコミュニケーションがありますが、最後にナジェージュダがコーリャを迎えにきて、ロウカとコーリャの別れの時がきます。

 「シナリオと小説の間にあると思われる作品」で、原作は「テンポの速い、歯切れのいいチェコ語で書かれている」とのこと(「微笑をもたらすもの-解説」 p.172)です。


附田斉子『映画の仕事はやめられない(岩波ジュニア新書)』岩波書店

2008-03-28 00:27:18 | 映画
附田斉子『映画の仕事はやめられない(岩波ジュニア新書)』岩波書店、2005年
         映画の仕事はやめられない! (岩波ジュニア新書 (523))
 日本映画の現場からのリポートといった感じの本です。映画製作には非常に多くの人の手がかかっていることが強調されているます。プロデューサー、監督、脚本家、撮影、俳優などで1本の作品ができあがったとしても(この過程にもアカウンティング、セット美術、メイクアップ、録音、編集、特撮、音楽、吹き替えなど知られざる仕事がある)、上映されて、観客が観てくれなければその作品の価値はないに等しいのです。

 作品が仕上がったあとに多くの人の努力があるのです。映画の買い付け、配給、宣伝、興行、チケットの販売、DVDのマスター制作等々。自身の体験を含め、女性で映画の仕事に携る松浦雅子(監督)、林加奈子(買い付け、コンサルタント)、中村由紀子(劇場、ル・シネマ)、リンダ・ホーグランド(日本語字幕)、吉川優子(プロデューサー)、相原由実(日本映画のスカウト)とのインタビューから得た話が光っています。みな、小さい頃、若い頃に映画にのめりこんだこと、くじけない精神、コミュニケーション力の開発、チャンスにくらいついていく、などの点が共通しています。

 著者自身もそうで、アメリカ・ニューヨーク州立大学大学院映画研究科、レッドフォード率いるサンダンスの「ジェーン・ラボ」の体験など、前へ、前へと進んでいく敢闘精神と映画に対する熱い情熱に敬服しました。

 著者は、西友やシネセゾンを経て、現在は映像コンサルティング会社の代表を務める人物です(北海道大学法学部出身)。

オリンピックの歴史

2008-03-27 20:27:33 | スポーツ/登山/将棋
武田薫『オリンピック全大会-人と時代と夢の物語-』朝日新聞社、2008年
                        オリンピック全大会 人と時代と夢の物語 (朝日選書 838) (朝日選書 838)
 オリンピックの全史です。近代オリンピックはクーベルタン男爵の提唱によって1896年にアテネで開催されました。参加者241人(全て男性)、そのうち200人がギリシャ人でした。実施競技数は8です。

 女性の参加は第2回パリ大会から、女性22人。日本の参加は第5回ストックホルム大会からです。

 オリンピックを統括するのは国際オリンピック委員会(IOC)、実際の競技を進行させ順位を確定するのは各競技団体です。

 オリンピックへの参加は、IOCによる各国のオリンピック委員会への招待によります。

 その長い歴史には紆余曲折がありました。アマチュアリズムを貫き、政治とスポーツの切り分けを主張したブランデージ会長、プロの参加に道をひらいたサラマンチ会長、現在の最大の問題はテロの防止とドービング・チェックの問題でしょうか。

 本書は、「日本のスポーツの夜明け」から筆を起こして、オリンピックの長い歴史を鳥瞰しています。当初のアマチュア・シポーツ出現の指摘は重要、「(19世紀最期には)プロによる見世物興行から、純粋に記録を追い求めようとする姿勢が、アメリカの東部都市の大学生たちの間で起こってくる。・・・代償を求めない競技者の出現により、プロたちは大きなダメージを受けた。賞金を受け取らない選手のほうが、より速く、より強かった。現代は往々にして、アマチュア→プロという流ればかりを思い描いてしまうが、プロ→アマと流れを引き戻す努力が(最初に-引用者)あった」のです(pp.37-38)。

 人見絹枝、織田幹雄、南部忠平、西竹一、前畑秀子、山中毅、小野喬、円谷幸吉、遠藤幸雄、瀬古利彦、田村亮子、有森裕子、野口みずき、など懐かしい選手が登場します(巻末に日本選手の入賞者一覧)。

 著者は報知新聞社記者を経て、現在フリーのジャーナリストです

宮廷女官・チャングムの誓いのCD

2008-03-26 00:13:58 | 音楽/CDの紹介

         チャングムの誓い オリジナル・サウンドトラック

 韓国で2003年末から放送され、驚異的な視聴率をとった韓国版時代劇『宮廷女官・チャングムの誓い』は、もちろんTVで観ました。はまりました。割と単純なストーリーで、権力争い、ハンサングンの間での確執のなかで、チャングムが宮廷料理人として成長し、名をあげていく物語です。多くの困難と挫折にもめげず、たくましく、強くなっていくそのさまには、何度も励まされました。

 このドラマのもうひとつの特徴は、いろいろな趣向をこらした料理が毎回のように登場したことです。これが楽しみでした。

 そして3つめは俳優の魅力です。主演のイ・ヨンエさんは素敵な女性でした。そしてCDのジャケットのチャングム少女時代のこの子役も何ともかわいらしかったこと。他にも、ミニョン、カンドック、みなよっかた。そして、好演でした。

  このCDは「NHK-BS2」でオンエアされたこの『宮廷女官・チャングムの誓い』のオリジナル・サウンドトラック版です。朝鮮王朝時代の古い韓国語を使った楽曲や壮大な楽曲が収録されています。何度、聴いたかわかりません。

<収録曲>
1. コウォン(高原)
2. チャンリョン(蒼龍)
3. Hamangyeon Featuring Safina
4. 懐夫歌II
5. 0815(空八一五)
6. ヨンパップ
7. ドック
8. 懐夫歌I
9. APNA
10. ダサム
11. ビ(非)
12. ダンガ(短歌)
13. ヨンド
14. ハマンヨン(何茫然)Featuring Safina
15. The Legend becomes history
16. ジャヤオガ(子夜呉歌)
17. ハマンヨン(何茫然)Instrumental
18. 懐夫歌 Japanese Mix (Bonus Track)

 CDの解説には「懐夫歌(オナラ)」「何茫然(ミンジョンホのテーマ)」「The legend ...」の歌詞と邦訳があります。
 ・「高原」は前回のあらすじのあとに流れていた穏やかな曲です。
 ・」蒼龍」はオープニングの曲で勇壮な演奏です。
 ・「Hamangyeon」は「何茫然」の英語版です。
 ・「空八一五」はハン尚宮のテーマ曲です。
 ・「ヨンパップ」は料理のシーンや王宮で舞姫たちが慶賀の踊りを踊るときの曲。
 ・「APNA」はクミョンのテーマのピアノ曲です。
 ・「短歌」はチェ女官長がミョンイの墓前で独白するシーンのピアノ曲です。
 ・「烟涛」は「何茫然」の女声スキャット版です。
 ・「The legend …」 はオープニングテーマのロック版です。


池内紀『モーツァルトの息子-史実に埋もれた愛すべき人びと-』光文社、2008年

2008-03-25 00:25:51 | エッセイ/手記/日記/手紙/対談

池内紀『モーツァルトの息子-史実に埋もれた愛すべき人びと-』光文社、2008年
                   モーツァルトの息子   史実に埋もれた愛すべき人たち (知恵の森文庫)
 1998年に『姿の消し方』(集英社)として刊行されたものを改題して文庫化したものです。

 著者は「読書の裏通りで出くわした人々で・・・ものものしい伝記を捧げられるタイプではなく,その種の伝記にチラリと姿を見せ,すぐまた消える。ただ,なぜか,その消え方が印象深い,そんな人たち」30人を集めたと書いています(p.281)。

 モーツァルトやゲーテ,ナポレオンが活躍した時代から,第一次,第二次大戦が勃発した頃にかけてのヨーロッパを舞台に,一見,奇妙ではあるけれど,十分に個性的な人間像が描かれています。

 
・ヨーゼフ・キュゼラーク(ヨーロッパの奇人・変人グラフィティに欠かせない落書き署名の大家)
 ・フランツ・クサヴァー・ヴォルフガング(モーツァルトの息子)
 ・フリーデルケ・ケンプナー(あまり上手くないがその詩集が版を重ねた女性詩人)
  ・カエターノ・ブレンシー(国王の暗殺者)
  ・ヨーゼフ=ジュース・オッペンハイマー(18世紀の天才的財政官)
  ・エーリヒ・フォン・シュトロハイム(貴族の血をひく映画人)
  ・ペーター・キュルテン(ヂュッセル・ドルフの殺人鬼)
  ・ヨハーン・クリストフ・ザクセ(ゲーテの愛でし子)
  ・フランツ・クサヴァー・メッサーシュミット(奇妙な顔シリーズの彫刻家)
  ・マダム・レカミエ(富と美をかねそなえたもとベネディクト派の夫人)
  ・カール・シュピッツヴェーク(ミュンヘンに住んでいた並外れて小さな絵を描く変わり者)
  ・スザンヌ・ラングラン(1920年代一世を風靡した女子テニス選手)
  ・アレキサンダー・ブリオン・ジョンソン(アメリカの言語哲学者)
  ・クサビィエ・ド・メストル(室内旅行家)
  ・フィリッシュ・ロップス(永遠で生身の女性を描いた奇妙な画家)等々。

 実在しながら記憶されることなく,歴史の闇に消えていったある種の大物たちです。


ショパンのバラード(小山実稚恵さん)

2008-03-24 00:33:06 | 音楽/CDの紹介
 「バラード」とは無理に翻訳すると「譚詩曲」、「物語歌」です。ショパンは、故国ポーランドの詩人ミッキエビッチの詩にインスピレーションを得て作曲したと言われています。
                        ショパン:バラード(全曲)
 ショパンのバラードは全部で4曲。それがこのCDには全部入っています。

 「バラード第1番ト短調」は1831年にウィーンで発想された1835年の作品(1836年出版)です。ソナタ形式をふまえた自由な書法で書かれています。慣れ親しんだメロディーが入っています。

 「バラード第2番ヘ長調」は1839年初めにマジョルカ島で決定稿が完成したとのことです(1840年出版)。優しく心に響くイントロです。シューマンに献呈されています。形式はABA’B’+コーダです。AとBとでは強いコントラストがあります。

 「バラード第3番変イ長調」の出版は1842年です。2つないし3つの主題をもっています。「バラード第4番へ短調」は1843年出版です。4曲のバラードのなかでは地味ですが、内容の豊かさはむしろ優れたものをもっています。

 このCDは録音の質は非常に良いように思います。小山さんのこだわりと自信が窺えます。 「舟歌」「ノクターン(夜想曲)」も含め、演奏はグッドです。小山さんが出したCDの中でもベスト盤に近いと思います。

1. バラード第1番ト短調op.23
2. バラード第2番ヘ長調op.38
3. バラード第3番変イ長調op.47
4. バラード第4番へ短調op.52
5. 前奏曲嬰ハ短調op.45
6. マズルカ嬰ハ短調op.50-3
7. 子守歌変ニ長調op.57
8. 舟歌嬰へ長調op.60
9. 夜想曲第19番ホ短調op.72-1 ※〈CD/SA-CDハイブリッド仕様〉

SONY SICC10028

海老沢泰久『みんなジャイアンツを愛していた』

2008-03-23 23:37:31 | スポーツ/登山/将棋

海老沢泰久『みんなジャイアンツを愛していた(文庫)』新潮社、1987年。

 表題から内容を予測できません。ジャイアンツ礼賛の本ではなく、厳しい批判の書です。

 まず,監督しての長島が野球セオリーの面で否定されています。次いで,ジャイアンツと袂をわかった広岡野球が礼賛されています。さらに,江夏,平松,星野の「打倒巨人」魂が披瀝されています。

  無敵を誇った時代のジャイアンツ野球を鏡とし,ライオンズでその伝統を受け継いだ広岡,伝統に傷をつけた長島,壮絶な闘いを挑んだ投手に焦点が絞られています。

 川上がドジャースの野球からチームプレーを学び,日本の野球に定着させたという話は貴重です。

 余談ですが巨人一辺倒の日本の野球のあり方は、尋常でありません。他チームの強打者を集めてのチーム作りはお粗末の一言。この唯我独尊は,このチームの衰退を必然的に招くのです。


トーマス・H・クック『夜の記憶』文藝春秋

2008-03-22 01:05:50 | 小説

トーマス・H・クック『夜の記憶』文藝春秋、2000年。
                    夜の記憶 (文春文庫)
 推理小説です。「この小説は気の弱い読者には勧められない」というアドバイスもありましたが、そんなに怖くはありませんでした(ただ、映画などにしたら怖いかも)。

 主人公はポール・グレーブズというミステリー作家です。ニューヨークの場末のアパートで、鬱々とした生活をおくりながら、それでもかなりヒットした連続モノの犯罪小説を書いています。彼には暗い過去があり、それは彼が少年の頃、ある夏の夜に凶悪な男が闖入してきて、眼の前で最愛の姉グウェンが一晩中責め苛まれ、凌辱され、惨殺されてしまったという恐怖の経験でした。

 リヴァーウッドの女主人、アリソン・デーヴィスがそんな彼に目をつけ、50年前にやはり惨殺された親友の少女フェイ・ハリソンについての真実を、想像力での解決を依頼します。

 リヴァーウッドに招かれたグレーブスは、そこに偶然、滞在中だったエレナー・スターンという女性とともに、この殺人事件の真相解明にあたります。

 いくつかの仮説が浮上しますが、どれも決定的ではありません。最後に全く意外な、予想もつかない事件の真相に行き当たり、リヴァーウッドの奥底に隠されていた秘密が浮かび上がります。結末は、ブログのルールとして内緒にします。

 リヴァーサイドの事件の解明とグレーブスの姉の殺害事件、そして彼が書く犯罪小説の場面が入れ替わり立ちかわり交錯し、人間の奥底に潜む闇の部分を抉り出し、あぶり出していきます。

 文庫本で400ページを超えます。推理小説ですが、テンポよく問題解決の方向が示されるというのではなく、薄皮を一枚一枚はいで秘密のヴェールをはいでいくという手法をとっていて、著者の並々ならぬ力量を感じさせられました。


生物とは何か? そしてES細胞とは?

2008-03-21 00:33:27 | 自然科学/数学

福岡伸一『生物と無生物のあいだ(新書)』講談社、2007年
                  生物と無生物のあいだ (講談社現代新書 1891)
 本書の中ほどに顔写真の載っている4人が印象的でした(p.109,p.114)。ジェームス・ワトソン、フランシス・クリック、モーリス・ウィルキンソン、ロザリンド・フランクリン。

 前2者は、DNAの二重ラセン構造の発見者であり、ウィルキンソンも含めてその功績で1962年にノーベル医学生理学賞受賞をしています。ロザリンドはX線によるDNA結晶の解析という地味な実証研究に一生を費やした女性の科学者です(37歳で逝去)。

 ワトソン、クリックは独自の演繹的方法で上記の科学的結論を予見していましたが、それを裏づけるデータが欠けていました。ロザリンドの研究は他方で、帰納的方法によりながら同じ結論を得る直前のところまできていました。ところがロンドン大学キングスカレッジでロザリンドと研究プロジェクトの位置づけで対立していた上司のウィルキンソンは、DNA構造の研究でライバル関係にあったケンブリッジ大学キャンベンディッシュ研究所のワトソンとウィルキンソンに彼女の研究成果を結果的に流し、二人はこれによって20世紀のその分野での最大の発見といわれる上記のDNAの二重ラセン構造発見という栄誉に輝いたというのです。

 こういったドラマを挿入しながら本書で、著者は生命を「自己複製しうるもの」と定義し、「その基盤をなすものは、互いに他を相補的に写し取っているDNAの二重ラセン構造である」と述べています。そして、この成果は「DNAが細胞から細胞へ、あるいは親から子へ遺伝情報を運ぶ物質的本体であることを示した」オズワルド・エイブリーの研究の延長に位置するものでした。

 さらに著者は「生命とは動的平衡にある流れである」と言う考え方を提示し(p.167)、細胞膜のダイナミズムを解説しつつES細胞*(胚性幹細胞)の存在の究明にたどりつきます。

 興味深い科学ドキュメントですが、部分的にはかなり難しい叙述もあります。分子生物学関係の本としては爆発的に売れているらしいですが、内容が難解なところがあるだけにどうしてそんなに売れるのかなと思いました。

*胚性幹細胞(Embryonic Stem cells: ES細胞)とは、動物の発生初期段階である胚盤胞期の胚の一部に属する内部細胞塊より作られる幹細胞細胞株のこと。生体外にて、理論上すべての組織に分化する分化多能性を保ちつつ、ほぼ無限に増殖させる事ができるため、再生医療への応用に注目されている。(ウィキペディアより)


永井愛『歌わせたい男たち』而立社、2008年

2008-03-20 18:19:35 | 演劇/バレエ/ミュージカル
永井愛『歌わせたい男たち』而立社、2008年
           歌わせたい男たち / 永井愛/著
 昨日紹介したように、永井愛さんの作品です。紀伊国屋ホールで舞台をみて、その場で購入しました。永井さんがそこに居らしたのでサインを頂きました。

 ストーリー。都立高校の3月の卒業式まであと2時間ほど。場所は保健室。音楽科の講師、仲ミチルは20年ほどクラブでシャンソンを歌っていましたが、この都立高校に「君が代」を弾くために雇われました。

 「歌わせたい男たち」は校長(男性)を筆頭とする教員(脚本のなかでは片桐という若い男の英語教員)のことです。この高校では「君が代」反対教員は年々減り、今では拝島という中年の社会科教師のみ。校長は手を変え、品を換え、拝島に「君が代」斉唱で起立することを命令(懇願)します。

 ミチルは名古屋の同郷の拝島に好意を寄せ、拝島もミチルに好感をもっていました。事情が全くわからないミチルは学校側と拝島の間で困惑しています。しかし、次第に拝島の言っていることを理解していきます。生徒たちも一端は「起立しない」に傾きます。

 ところが、校長は(若かりし頃は「君が代」反対であった)窮余の一策でスピーカーを通じた校内放送で「内心の自由」について大演説をします。生徒も同調。

 その時、保健実では拝島の懇願でミチルが抵抗のシャンソンを静かに歌っていました。

 笑ってはいけないのですが、深刻なテーマにもかかわらず報復絶倒です。

永井愛脚本・演出『歌わせたい男たち』

2008-03-19 00:26:00 | 演劇/バレエ/ミュージカル
紀伊国屋ホール(新宿)で永井愛脚本・演出の『歌わせたい男たち』が公演中です(ニ兎社、第34回公演)。好評で一昨日(17日)の朝日新聞の「天声人語」でも取り上げられていました。
                      
   内容は都立高校での卒業式の国家「君が代」斉唱をめぐる問題で、現場の管理職である与田校長(大谷亮介)とそれにひとり反対する社会科教師の拝島先生(近藤芳正)、そして斉唱のために非常勤で雇われた音楽科教師ミチル(戸田恵子)がその間を揺れ動くというものです。

 「君が代」賛成と反対の両極の対立を軸に描くのではく、そんなことを考えたこともない人間ミチルの意識を観客の意識と見立てているところが、この演劇を成功させている要因のひとつです。

 客席が暗くなるとともに、シャンソンが聞こえてきます。舞台は都立高校の保健室。校長が花粉症でそこに飛び込んできますが、誰もいません。否、カーテンで仕切られたベッドに仲ミチルという女の先生が寝ていました。

  校長は、「君が代」斉唱での伴奏を彼女に期待していました。彼女は新米で非常勤。卒業式に急遽雇われた様子で、それまでは20年ほどクラブでシャンソンを歌っていたらしい経歴です。彼女は名古屋という同郷のよしみもあって、拝島先生という社会科の先生と親しかったのですが、彼がひとりで生徒の「君が代」斉唱に反対し、不起立を貫いていることを知ります。

 このような設定で、教育委員会の命令で「君が代」の生徒、教員全員の起立斉唱を何としてもやりおおせたい校長、若い英語教員と抵抗する拝島先生、その間で「めまい」をおぼえながらも拝島先生の気持ちを少し筒理解していくミチル。しかし、斉唱は実行されてしまう!(ようだ)。

 タイトルの『歌わせたい男たち』というのは、「君が代」を歌わせたい先生たちのことを指しています。最後は、ミチルがしみじみと歌うシャンソン「聞かせてよ愛の言葉を」で終わります。

 難しいテーマなのに、笑ってはいけないのに最初から最後まで抱腹絶倒。なかでも校長役の大谷亮介が最高の演技です。

 「君が代」斉唱の押し付けがいかに不条理なことで、教育現場に混乱と無用なトラブルを齎しているかがよくわかります。

 永井愛さんの演劇はいつも期待どおりの面白さで満足させてくれます。『「ら」ぬきの殺意』とか。ちなみに21日には公演後、野田秀樹さんと永井愛さんのトークがあります。わたしは行けませんが・・・・。

 会場で脚本を買いました(傍らに永井さんがいました)。明日はこの脚本を紹介します。

無類の読書家だった米原万里さんの読書日記と書評

2008-03-18 00:28:04 | 評論/評伝/自伝

米原万里『打ちのめされるようなすごい本』文藝春秋、2006年
                      打ちのめされるようなすごい本 / 米原万里/著
 読書日記と書評の本です。無類の読書家だった著者の足跡でもあります。

 書籍と批評との巧まざる葛藤がそこにあります。井上ひさしさんが「解説」として「思索の火花を散らして」を書いていますが、まさにその「解説」の表題のとおりの内容です。通読すると著者の関心の所在がわかります。その軸は全くぶれていません。アメリカのイラク攻撃の暴挙に鉄槌を加え、それに追随する日本の現状に憂え、失望、落胆し、旧ソ連の全体主義、その延長にある現ロシアのチェチェン介入を糾弾し、NATOのコソボ爆撃に怒っています。

 アネクドート、ジョーク、笑いに共鳴し、
犬と猫を愛しみ長く同居していました。そして癌との闘い。

 ロシア語同時通訳では彼女の右に出る人はいませんでしたが、単なる通訳者ではない思想家、文学者としての彼女の素顔が生き生きと伝わってきます。

 強靭な思索力、読書力に驚嘆し、怪女のように思いましたが、反面怖がりで、優しい彼女の一面もうかがえました。人柄もよくわかるのです。

 本書の表題は彼女がつけたのでしょうか。それとも編集者でしょうか。彼女は生前から本書の出版を予定していたのでしょうか? それとも出版社が急遽、編集したのでしょうか。それというのも本書の刊行は彼女の死の直後だったからです。わたしは後者のような気がしますが、いずれにしても、85ページに「打ちのめされるようなすごい小説」という文章があり(トマス・H・クックの『夜の記憶』、丸谷才一の『笹まくら』が紹介、批評されている)、本書の表題はこれに由来しているように思われます。

 535ページの大部の本。しかも後半は上下二段組。読破に時間を要しました。索引に本書で取り上げられ、触れられた本、都合390冊の一覧があります。読みたいと思った本がたくさんありました。


あまり知られていない高血圧の基準の変更

2008-03-17 09:37:10 | 医療/健康/料理/食文化

浜六郎『高血圧は薬で下げるな!』角川書店、2005年
        高血圧は薬で下げるな! / 浜六郎/[著]
 日本の高血圧治療のガイドラインは、WHOと国際高血圧学会が定めた基準に倣っています。
1999年までは正常値が160未満(最高)/95未満(最低)でした。それが2000年改訂で、血圧目標値は60歳未満で130/85未満、60-69歳で140/9070-79歳で150/9080歳以上で160/90となり、さらに2004年改訂により、65歳未満では130/85未満、65歳以上では一律に全て140/90となりました。 実証研究の裏づけがほとんどないまま改訂されたこの基準により5000
万人を超える人びとが高血圧治療対象者(予備軍)となり、膨大な数の「患者」が降圧剤投与の必要なグループに入れられてしまいました。

 この改訂の背景には、多国籍企業である巨大製薬資本の圧力があります
(p.58)

 著者は
JATE研究(唯一のプラシーボ対照ランダム化比較試験)、NIPPON研究、「1980
年循環器疾患基礎調査」追跡調査、茨城県調査、ヨーロッパ高齢者高血圧研究会の調査、フィンランド調査から降圧剤投与が必ずしも血圧の低下に結果しないばかりか、長期的には癌の発症、(生活の)自立度の低下を招くと警告しています。

 さらに、降圧剤の効果と副作用に触れ
(pp.130-132)、降圧剤を使う場合の基本原則を紹介しながら(pp.191-195)、血圧180/100までは治療は不要であること、血圧を下げるためには生活習慣の改善に勝るものはないことを主張しています。