著者の認識による、現下の経済の負のスパイラルは、次のようです。
団塊世代の一次退職→彼らの年収の現象→彼らの消費の減退→内需対応産業の一層の供給過剰感→内需対応産業の商品・サービスの値崩れ→内需対応産業の採算悪化→内需対応産業の採用抑制・人件費抑制→内需の一層の減退。
この現状は容易に乗りこえられるものではありません。経済学者の発想がおかしいので、見通しは暗いのです。
著者は本書でマクロ経済学の「常識的理論」に異議をとなえ、今日の日本経済が直面している2000年に1度の人口現象(減少)の危機を浮き彫りにしています。
冒頭から、よく使われる経済指標、GDPの対前年増加率、失業、有効求人倍率の過大評価をいさめ、これらの指標の改善を意図した短期的景気対策がほとんど意味がないと、主張しています。
重要なのは新車販売台数、貨物総輸送量、自家用旅客輸送量、酒類販売量、小売販売額、雑誌書籍販売量の絶対額の傾向的現象であると、言います。つまり、この種の統計の絶対量の低下の背景にあるのは、これらを購入し、消費する人口集団の著しい現象があって、それは内需の縮小を意味するから、景気の建て直しにには近視眼的な景気高揚政策はほとんど効果薄せあるというのです。
「生産年齢人口(15歳~64歳)[これを著者は「消費年齢人口」と呼びたいようである(p.93)]」が今後どんどん減少していきます。その人口変動の動向をおさえることが経済活性化の要というわけです。
この視点から「人口減少は生産上昇で補え」「経済成長率をあげろ」「公共投資を景気対策として増やせ」「インフレ誘導をしろ」「エコ対応の技術開発でモノづくりのトップランナーとしての立場を守れ」といった通説が実効性に欠けることを示しています。
それでは、どうすればよいのでしょうか。著者が挙げているのは、第一に高齢者富裕層から若者への所得移転、第二に女性の就労と経営参加をあたりまえの状態にすること、第三に労働者ではなく、外国人観光客・短期定住者の受け入れ、です。
今後、高齢者は激増します。そのための船中八策が最後に掲げられています。いわく、高齢化社会における安心・安全の確保は生活保護の充実で、年金から「生年別共済」への切り替えを、戦後の住宅供給と同じ考え方で進める医療福祉分野の供給増加、です。