中沢新一『僕の叔父さん 網野義彦』集英社新書、2004年
友人に紹介されました。伝統的歴史学,唯物史観,民衆史観とも異なる「網野史学(中世史)」の立役者網野善彦の歴史の方法と思想の枠組みを,従弟にあたる著者が解き明かした異色の読み物です。
故網野善彦氏への追悼文として書かれたものです。
著者は5歳になる直前に善彦氏と出会い,以来,ふたりの間には濃密な時間が共有され,歴史学をめぐる熱い議論が繰り返されました。
本書のような細部にわたる,しかし簡明な「網野史学」の本質とその形成過程の記述は,著者でなければできなかったものでしょう。
「網野史学」は,「悪党」「飛礫」「博打」「道祖神」概念の着目から出発し,アジール(避難地)の側にたつ歴史学を構想し,「天皇制」の基盤として「非農業民」概念を探りあてました。このうち,社会的な規則の体系と人間の本質である根源的な自由への欲望との相克,後者の現実世界での表現が他ならぬアジールで,網野は中世の日本に存在した公界,楽をその諸形態と見たといいます。