【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

食彩の王国(テレビ朝日、土曜9:30から10:00)

2016-02-29 18:08:52 | テレビ・ラジオ番組

           

  食材を扱った番組です。扱われたそれをさかのぼると、前回は「ふぐ」、以下「ほうれん草」「カキ」「にんじん」「白菜」「赤身肉」「かぶ」「とうふ」「ねぎ」「あなご」「ホタテ」「ごぼう」「サケ」「山芋」「秋サバ」「マイタケ」「甘えび」「新米」といった具合です。もう618回を数えています。次回(3月5日)は、「たまご」です。

  「ふぐ」の回では、最初に九重親方(千代の富士)の部屋でふぐ料理を食しているお相撲さんが紹介されていました。九重親方は「ふぐ」が大好きなそうです。千代の富士は北海道出身で、北海道ではあまり「ふぐ」は食べませんが、どうして好きなのかなとみていると、本場所の九州で出会い、それ以来だと語っていました。

  取り上げた方はいろいろですが、それらの食材を上手に料理するお店が紹介されます。食材の持ち味を十分にいかし、そこに創意工夫をくわえ、盛り付けもすばらしい料理を堪能できます。ただし、画面上ですが。それらのお店をネットでチェックすると、立派な料理人がいて、構えもよいだけに、料金は高めです。

 また、食材の産地が必ず紹介され、畑で苦労して栽培している人、早朝まだ暗いうちから船を海にだして漁をする人の姿、声に接することができます。支える家族が登場することもあり、奥さんが台所でそれらの食材を使って煮炊きしている光景が映ることもあります。みないい顔をしています。

 ナレータの薬師丸ひろ子さんが、いいですね。独特のふしまわしで、映像をつないでいます。

 最近のテレビ番組というと「グルメ」と「散歩」がやたらと多いですが、この番組はそのなかでも見ごたえのある番組です。


「新・映像の世紀」(NHK総合)

2016-02-28 17:27:40 | テレビ・ラジオ番組

 「新・映像の世紀」が始まり、あと1回で終了する。以前、放映された「映像の世紀」の続編である。この「映像の世紀」の反響は大きく、放映後、古いフィルムの情報があちこちから入り、それらを中心に新たに編集したのが今回のシリーズである。

  加古隆さんのテーマ音楽「パリは燃えているか」が引き続き使われ、20世紀の不安を印象付けてくる。


  確かに貴重な価値のあるフィルムである。目から入ってくる情報は、印象が強い。ヒトラーが残した負の遺産、キューバ危機、ベトナム戦争、パリ5月革命、ソ連のプラハ侵攻、これらの様子がなまなましく伝わってくる。

  しかし、みていて何か違和感があった。その大きな理由は、ここから歴史を学ぼうとすると、危険だというこである。映像は客観的事実であることは確かで、その限りでフィクションではないが、だからと言って、番組は真の歴史を物語っているだろうか?

  映像であるがゆえに、歴史がきわめて表面的にあつかわれているように思えてならない。一例であるが、キューバ危機の箇所では東西のスパイ合戦の様子が語られていた。それも事実だろうが、一断面にすぎないこともちゃんと言わなければならないはずだが、その言及がなかった。

 ここバラバラに撮られた映像を、あとからなにがしかのストーリーに仕立て上げると、このような浅薄な内容になってしまう。その見本のようなものだ。最初に綿密な構想をたてて、そのストーリーにしたがって撮影するものとはここが決定的に違う。

 観る価値がある番組であるが、視聴者が批判的姿勢を保っていないと、妙な歴史観にからめとられてしまうのではなかろうか。


「ブラタモリ」(NHK総合:土曜夜7:30~)

2016-02-23 12:09:53 | テレビ・ラジオ番組

  わたしが必ず見る番組に「ブラタモリ」があります。不定期ですが土曜日の夜、7時半から放映されます。といっても、かなり前から(2008年)あった番組のようで、いまは第4シリーズです。わたしはその前の3つのシリーズは知りません。
           

  第4シリーズでは、函館、金澤、長崎、仙台、奈良、福岡、富士山、札幌、小樽、軽井沢、日光、熱海、小田原、松山、道後温泉、沼田などが紹介されました。次回は沖縄だそうです。


  この番組の魅力は、なんと言っても第一にタモリさんの地理に関する知識の深さに驚かされます。ご本人は「段差」マニア自称していますが、段差がある地形をじっくり見極め、そこから知ることのできる過去のその地の様子を推しはかるのです。段差だけではなく、扇状地、坂、断崖などの蘊蓄もたのしんでいます。タモリさんは、鉄道、料理、音楽など数知れない才能をもっていますが、地形について語る時の顔の緩みは素敵です。時には番組のことを忘れて、すっかりその世界にのめりこんでいます。

 第二の魅力は、タモリさんと一緒に歩いている桑子真帆アナのキャラがたのしいことです。タモリさんとのカケアイも息がぴったりですが、彼女自身の表情、セリフがお茶目で、かわいいです。とくに表情は豊かで見ているだけで、あきません。はじけたところもありますが、自身の役割をしっかりおさえているところは伝わってきます。

 第三の魅力は、ご当地の地理や歴史に詳しい郷土史の専門家などが、適切に道案内をしてくれて、たのしみながら勉強ができることです。毎回、最初にお題があり、それを詮索、究明するという趣向になっていますが、その助けをしているのがこの専門家の方々です。しかし、そういうひとたちが舌をまくほど、タモリさんの博学ぶりがさえわたっているのです。

 第四の魅力は、ナレーターがSPAPの草薙さんで、その語りがタンタンとスムースで、聞きやすいです。そしてテーマ曲を歌っているのが井上陽水さんで、これも番組の魅力をひきたててくれています。タモリ+草薙+井上陽水、この組み合わせは豪華です。

 そして、最後に、この「ブラタモリ」を観ていると、撮影をしている方、マイクで声をとっている方がしばしばそのまま映っています。これがなかなかいいシーンだと感じています。タモリさんがメインなのは当たり前ですが、それでもこの番組がおもしろいのは、こうしたいわば裏方さんたちの努力があってこそなのです。そのことが手にとるように、視聴者にわかります。

  いろいろ魅力をあげましたが、過去の痕跡をさがして歩くこの番組、四月からは桑子アナが交替するということで、残念ですが、また装いを新たにいい番組になっていくものと信じています。

↓  番組サイトはこちら
http://www.nhk.or.jp/buratamori/   
 


「樫本大進&コンスタンチン・リフシッツ」(於:横浜みなとみらいホール)

2016-02-22 09:22:36 | 音楽/CDの紹介

             

  横浜みなとみらいホールで樫本大進さんとコンスタンチン・リフシッツさんのデュオリサイタルがありました。

   今回の曲目は、ベートーベンのヴァイオリン・ソナタ7番とブラームスのヴァイオリン・ソナタ2番、そしてプロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ1番です。3つのヴァイオリン・ソナタを柱にしているところに、意気込みを感じます。最初の2つのヴァイオリン・ソナタは名曲中の名曲です。休憩を挟んでのプロコフィェフのソナタは初めて聴くものでしたが、曲風が最初の2つと好対照をなし、この二人の演奏の新しい可能性を示すものでした。

 樫本大進さんの演奏は、ずっと前から聴きたいと思っていたのですが、機会がありませんでした。そのうちベルリン・フィルハーモニーの第一コンサートマスターになり、演奏活動の中心がヨーロッパになり、ますます遠い存在になってしまいました。しかし、今回、その機会ができたというわけで、だいぶ前からチケットを予約していました。

  ヨーロッパの伝統を背負った重厚で深みのある演奏でした。プロコフィエフのソナタは、現代音楽につうずる部分が感じられ、ロシアの19-20世紀をまたぐ頃のアヴァンギャルドの要素をはらんだところが、やや不安定なその時代の雰囲気をほうふつさせているように受け止まました

  この会場は、横浜の港近くにあるためか、開演を予告するために、ドラの音が響きます。


木下恵介監督『喜びも悲しみも幾年月』(1957年、松竹)

2016-02-21 11:16:54 | 映画

                   
♪ おいら岬の灯台守は、妻とふたりで、おき行く船の安全を守りつづけたことをうたった歌とともに有名は映画です。観るのは2日目です。細かいところは忘れていました。それも前回見たのは、10年ほど前でしょうか。細かいことは忘れていました。

                  


  新婚、ほやほやの若い灯台守が、観音埼灯台(三浦半島)、北海道石狩灯台、佐渡の弾埼灯台、伊豆大島灯台、女島灯台(五島列島)、安乗埼灯台、御前崎灯台、日和山灯台(小樽市)と次々にところを変えて仕事に励みます。海洋国日本の要所要所には灯台があり、昔はそこに海を守るために住み込みで働いていた人たちがいたのです。そして定期的に全国を異動します。想像するだけで、大変な生活であることがわかります。ほとんど家族だけの生活の毎日、近くに日用品を買う場所があるのかどうか。子供がいたら、その教育は、まずは学校は?  病気になったら病院はあるのかどうか。とにかく、生活に必要な条件がかけているのです。

  この映画はその灯台守の日常を描いたものです。時代は昭和ひとけたの後半から始まります。戦争中は敵機アメリカに狙われ、気のやすまることのない生活です。灯台を隠し敵機からまもるために、草木をまきつけ、隠れ蓑をかけています。

 この映画に登場する若い夫婦を演じているのは、有沢四郎(佐田啓二さん)とその妻きよ子さん(高峰秀子さん)です。昭和の大俳優です。佐田さんは30代で不慮の交通事故にあい、亡くなりました。秀子さんの、さくっとした性格はここでも随所に出ています。映画ではこのふたりがお見合いをしてすぐに結婚したことになっていて、その結婚に不満をもつ女性が灯台に押しかけてくる場面がいくつかありました。また見えにくいストーリーが組み込まれたいて、それはわたしが忘れていた部分でした。

  また、有沢夫妻にはふたりの子どもがいて、男の子は大きくなって喧嘩で刺され、なくなります。女の子は、戦時中、東京から疎開してきた家族のなかの息子と結婚して、赴任先のカイロに向かう場面がありました。こうしたエピソードも失念していました。


「ジャニーヌ・ヤンセン ヴァイオリン・リサイタル」(於:紀尾井ホール)

2016-02-18 12:41:05 | 音楽/CDの紹介

                    

  ジャニーヌ・ヤンセンさんは、オランダのヴァイオリニスト。ユトレヒト州ススト生まれ。6歳からヴァイオリンをはじめ、ユトレヒト音楽院で学ぶ。14歳でオランダ放送交響楽団と共演でデビュー。これまでロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ロンドン交響楽団、フィルハーモニア管弦楽団、ニューヨーク・フィルハーモニック、フィラデルフィア管弦楽団、パリ管弦楽団など、等世界の主要オーケストラとの共演経歴があります。

 今回は紀尾井ホールでのリサイタルでしたが、4年前にもここで演奏したことがあるようです。

 わたしの席は2階で、両サイドにある桟敷席のようなところでした。上から見下ろすような感じで、視野に入ってくるのはピアニスト(イタマール・ゴランさん)の背中、ジャニーヌさんの背中です(挨拶のときには、上を見上げてくれましたが)。その分、ゴランさんの迫力ある演奏、ジャニーヌさんのしっかりした背中がわかりました。肩甲骨のあたりまで伸びたブロンドの髪が印象的でした。繊細かつ要所では迫力のある演奏でした。

 ジャニーヌさんの楽器は、ストラディヴァリウスの Baron Delbrouck(1727年)で、ベアーズ国際ヴァイオリン協会からの貸与だそうです。

 演奏曲目は、下記のとおりでした。

・ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ長調  Op.100
・バルトーク:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 BB.85/Sz.76
・バルトーク:ルーマニア民族舞踊 BB.68/Sz.56
・クライスラー:ウィーン小行進曲/愛の悲しみ/シンコペーション
・ファリャ/クライスラー編 歌劇「はかなき人生」第2幕 スペイン舞曲 第1番
・ファリャ「7つのスペイン民謡」より


「ひなの里」(鴻巣市散歩)

2016-02-14 20:53:28 | 旅行/温泉

  散歩がてら、鴻巣市(人口11万9千人)に行く。鴻巣は雛人形で有名なまちで、この時期になると、いろいろなところでその宣伝が目につく。

      

  蓮田からいったん大宮に出て、そこから高崎線に乗り換え、約20分で、鴻巣駅に着く。一番の目当ては、「広田屋」であった。電車の車内で広告がかねてから目に入ったからである。

 駅のすぐそばにあると思っていたが、見当たらない。通りすがりの人に聞くが、わからないと言う。駅のインフォメーションでようやく方向がわかった。今度は地図をたよりに、「ひなの里」を目指す。存外に遠く、徒歩で20分ほどかかった、「ひなの里」地域に入った。お雛様をかざってある「産業会館」に到着。さすがに立派な、由緒あると思われるものがずらっと並んでいた。壮観である。

  そこにいた女性に聞くと、鴻巣はどちらかと言うとひな人形の職人さんの街だそうだ。それであまり派手さはないという。ほかに春日部市が雛人形で有名であり、そちらは人形の販売が中心だという。

               


  目指す「広田屋」は、この「ひなの里」のなかにあり、大きい。入るとたくさんの雛人形がところせましと並んでる。買い手がついた人形には、名前と所在地が記入された札がかかっている。遠く名古屋からのお客の名前もみえた。おじいちゃん、おばあちゃんが孫のために購入すケースが多いのだろうか。だいたい15万~20万円ほどで、安価とは言えないが、かなりの数が売れている。

 ここをひととおり見て、近くの「刀屋」に足をのばす。こちらにもたくさんの人形が並んでいるが、派手さがでないように落ち着いた感じの陳列にしてある。

  ここからまた歩いて駅に向かい、浦和に出て、帰宅した。よく歩いて、1万2000歩の散歩であった。


「ふらり旅 いい酒 いい肴」(BS11)

2016-02-13 21:30:13 | テレビ・ラジオ番組

  BS11水曜日の22:00から一時間の番組が、この「ふらり旅 いい酒 いい肴」です。旅人は太田和彦さん。全国のおいしい居酒屋を訪ねます。
                        

  太田さんは、居酒屋めぐりの本をいくつか執筆していますが、その素地にあるのは、「旅」、そして全国津々浦々の地で賞味したお酒、肴の経験です。わたしは、いくつか太田さんのこの番組で案内してくれたお店にいきました。宇都宮の「庄助」、岡山の「小ぐり 」「さかぐち」、金澤の「猩々」、鎌倉の「企久多」、田大阪の「哲」、銀座の「みを木」、浦和の「小がわ」などです。

  太田さんはこの分組でまずその土地の気にいった場所を訪れます。俯瞰のいいところが好きなようです。そしてアート・デザイナーだった経験をいかして、古い建物、扁額などのうんちくを語ります。趣味も多彩で、「おちょこ」のコレクションもされているようです。その「おちょこ」は高価なものでなく、ある意味どこにでもあるような代物でありながら、しかし書かれた絵、かたちなど気にいったものです。

 そしてお酒です。全国には本当にいろいろな銘酒があることを教えてくれました。群馬泉、而今、鳳凰美田・・。神亀がお好きなようですが、実はこのお酒をつくっている酒造は、わたしの家から400メートルほどのところに歩いていけます(蓮田市)。毎日、出勤するおりに、その前をとおります。

  先日の番組では、新宿が紹介されました。お店は「池林坊」「とど」などが出ました。「池林坊」には行ったことがあります。演劇人がときどき集まる店です。わたしがかつて訪れたときにときには、椎名誠さんを見かけました。番組のなかでも、太田さんは椎名さんのことを語っていました。

 楽しい番組です。


トーマス・マン『ブデンブローグ家の人々』(『トーマス・マン全集1』新潮社/森川俊夫訳)

2016-02-09 09:44:02 | 小説

       

 トーマス・マン『ブデンブローグ家の人々』を読了しました(画像は岩波文庫版ですが、わたしは新潮社から出た『トーマス・マン全集1』所収のものを読みました。森川俊夫訳です)。長編です。就寝前に少しづつ読み、2か月半かかりました。わたしにとっては、退屈な小説でした。200年ほど前の北ドイツの小さな都市にあった「商会」の3代にわたる物語で、いまからみれば時代が離れすぎ、また知らない地方の話で、興味があまりわかないのは至極当然、と自分をなっとくさせました。しかし、完読の達成感、醍醐味はあります。


  しかし、この長編を26歳のマンが執筆したというは、驚きです。最初は兄のハインリヒと共著の予定だったのが、体調が悪く、ひとりで書いたということです。マンはのちにノーベル文学賞を受賞しますが、この作品の評価が高かったようです。

わたしはこれから少しづつ長編小説を読み進めたいと計画しています。『ブデンブローグ家の人々』は、その手始めでした。なぜ、この作品を選んだかというと、高校時代に北杜夫の小説を読み漁っていましが、その彼が『ブデンブローグ家の人々』に傾倒し、その影響もあって『楡家の人々』を書いたということを知っていたからです。『楡家の人々』は、高校時代に読みました。これはなかなか面白かったです。歌人の斎藤茂吉の家系をあつかっていて、自伝的な要素もありましたが、北杜夫らしいユーモアもちりばめられていて飽きませんでした。『ブデンブローグ家の人々』を読んだのはそういう事情がありました。

  600ページに近い(上下2段)この小説のあらましを書くのは容易でありませんが、無理をして大筋だけ記すと以下のようになります。

  この作品は、商家ブッデンブロークスの繁栄と没落を描いたものです。冒頭はパーティーの場面。パーティーで祖父にかわいがってもらっている少女アントーニエ(トーニ)は、ヒロインです。トーニにはひそかに想いを寄せていた青年がいましたが、その想いは実現しませんでした。トーニには、グリューンリッヒという男と結婚しまする。最初の夫です。この結婚生活は、グリューンリッヒの破産で終わります。そして、トーニの父ヨハンの死によって第一部が終了します。

   父ヨハンの死によってブッデンブローク家の実権は、長男トーマスにゆだねられます。出戻りの妹トーニはペルマネーダーと二度目の結婚を果たしますが、再婚生活は彼の些細な捨て台詞であえなく崩壊してしまいます。一方弟のクリスチアンは体が弱いのを口実に仕事をせず、芝居に夢中になっている根っからの遊び人です。

 トーマスの結婚もうまくはいきません。疎遠な夫婦のあいだに生まれたハンノは、およそ商人には向かない内気な性格ですが、芸術的に豊かな才能を持ち、ピアノに天分を示します。将来に不安を抱え経営を任されたトーマス。あにはからんや、ブッデンブローク商会の経営は立ちゆかなくなり、トーマスは財産をめぐる母エリーザベトとの確執のもと次第に自信を失い、疲労をため込んでいきます。

 時代は進んで、母エリーザベトの死。トーマスは家の売却が決まります。永眠についた母の遺産をめぐって、トーマスとクリスチアンの兄弟喧嘩が始まります。仕事一徹の兄を冷酷だといって非難する遊び人の弟に対し「ぼくは君のようになりたくなかったからこうなったんだ」とつぶやくトーマス。

 心身ともに疲弊し、不出来な息子や妻の浮気によって何も信じられなくなったトーマスは、ふとしたきっかけでショーペンハウアーの『意志と表象としての世界』を手に取ります。「死について」と題された章を一心不乱に読みふけり、その夜の寝室で哲学的真理に目覚めて嗚咽します。だがそれも一夜限りのことで、再びいつもの日常に戻るトーマスは、歯医者の帰りに転倒し、あっけなく帰らぬ人となります。妻からも同情されなかったトーニは、華やかな葬式の挙行で送られます。

 遺された一人息子ハンノ。学校での生活は、むなしい日々です。ハンノが戯れに弾く即興曲。そのハンノの早世によって物語は終わります。

 隆盛をきわめていた商家が、頽廃し没落していく様子は、トーマス・マン自身の家系の小説化です。


「もうひとつのショパンコンクール-ピアノ調律者の闘い-」(BS1) 2015年12月23日放送、16年1月3日再放送

2016-02-05 10:28:02 | テレビ・ラジオ番組

  わたしは「テレビをみない人」と自称しています。単身赴任の時期には三年間ほど、テレビがない時もありました。なくても困ったということは、ありませんでした。

   しかしいま自分の生活を冷静にふりかえると、テレビをけっこう見ています。選球眼をはたらかせれば、いい番組はたくさんあります。最近では、そのひとつが、「もうひとつのショパンコンクール-ピアノ調律者の闘い-」(BS)でした。

  昨年、5年に1回のショパンコンクール(第17回)がありました。優勝したのはチョ・ソンジン(韓国)です。アジアで三人目です。この番組はピアニストにではなく、ピアノとその調律師に焦点をしぼった番組でした。

  ショパンコンクールでは、4台のピアノが使われます。スタインウェイ、ヤマハ、カワイ、ファツィオリです。日本のメーカーが2台入っていたのにまず驚きました。演奏者はそのなかから自分の演奏にあうピアノを選びます。演奏前に試しで弾いて選ぶのです。そして、調律師は演奏者の希望を聞いて、できるだけ要求にあわせます。ヤマハ、カワイのピアノの調律師が日本人であるのはあまり驚きませんが、イタリアのファツィオリのピアノの調律師も日本人でした。

  今回のコンクールには78人が参加。コンクールの前にビデオ審査をとおった演奏者です。そのうち、36人がヤマハのピアノを選んだそうです。ファツィオリのピアノは最初、誰も選択しませんでした。調律師は越智晃さんです。調律師は演奏者がどのピアノを選ぶか、客席でメモをとりながら見ているのですが、緊張そのものです。越智さんは調律で工夫し(ピアノの本体部分[鍵盤とハンマー]であるアクションを交換)、その結果、ようやく中国人ピアニスト、ティアン・ルーさんがファツィオリを選びました。

  コンクールは、3回の予選があり、合格者が絞られていきます。第一次予選が5日間、第二次予選が四日間、第三次予選が三日間、そして本選(ファイナル)です。本選には10人が残りました。その10人のうち、直前の第三次予選でヤマハを選んだのが7人、スタインウェイを選んだのが3人でした。ヤマハの実力は、ピアニストにいかに評価されているかがわかります。ヤマハのピアノは、1985年からこのコンクールに参加しています。

  ヤマハの調律師は花田尚範さん。本選でヤマハが7人に選ばれたことは誇りでありますが、半面、難しいこともあります。7人の演奏者の希望を聞かなければならないからです。あるピアニストの希望を聞けば、他のピアニストの希望が削られることにもなりかねません。その結果、最大公約数的な調律になってしまいます。もうひとつショッキングなことが起こりました。ヤマハを選んだ7人のうち、2人がスタインウェイに乗り換えたのです。コンクールではこうしたことが可能です。演奏曲によって、ピアノを変えることが認められています。ファイナルは、ショパンの協奏曲の1番か2番の演奏が課題なので、オーケストラに負けない力と華やかさをもったピアノが選ばれるようです。

  カワイの調律師は小宮山淳さん。カワイは今回のコンクールから参加でした。ロシアのガリーナ・チスチャコーバさんらがカワイを選びました。ガリーナさんの演奏を聴く、小宮山さんの表情は祈るようなおももちです。第一次予選で、ガリーナさんは38度の高熱で、不調でした。演奏後の本人の表情は全くさえません。「音が違って聞こえた」と語っていました。それでも第一次予選は通過しましたが、第三次予選で落選。小宮山さんはガリーナさんにつきそって、またの機会を誓い合っていまいした。小宮山さんは、ガリーナさんの精神的な支えでもありました

  コンクールで優勝したチョ・ソンジンさんは、スタインウェイ。第3位のケイト・リュウさん(アメリカ)も、スタインウェイでした。ヤマハを選んだシャルル・クシャール=アムランさん(カナダ)は第2位。選ばれたピアノの観点だけから見れば、拮抗しています。もっとも第1位と第2位とでは、この世界では雲泥の違いで、花田さんは、次回を期しながらも、落胆の色は消せませんでした。本選に残った日本人は小林愛実さん。選択したピアノはスタインウェイでした。

  ヤマハはある戦略をもってこのコンクールに参加しました。それは演奏家全員に、宿泊のホテルの部屋に電子ピアノを貸し出したのです。そこまでやっているのかと、これも驚きでした。

  コンクールに採用されたピアノ4台のうち2台が日本製であること、ファツィオリの調律師が日本人の越智さんだということ、調律師の仕事の過酷さを目のあたりにしたこと、ピアノストと調律師はまさに一体であること、いろいろ学んだ番組でした。


熱血天使第12回公演「戦国北条氏-虹は東に-」(小田原市民会館)

2016-02-03 21:00:04 | 演劇/バレエ/ミュージカル

              

  時代は戦国時代。3代氏康、4代氏政を中心とした後北条氏は、武田晴信、上杉景虎との関係のなかでこの時代を小田原の地でどのように治世し、生きぬいたのか。万民哀燐(すべての民を慈しむ)を旗印に。実際に「三公七民」の政治をおこない、民に慕われていた相模の北条氏は、戦国の世では、少し変わった存在でした。

  氏康の子供たちもそれぞれに個性的な存在です。長男氏政は4代目当主として知られますが、次男の氏照は直情的な人物、三男氏邦は実直な性格、そして四男の氏規は今川家に人質にとられています。そして氏政の奥方・黄梅院は武田晴信の娘です。いわば政略結婚させられているのです(その後、離別)。

  以上の後北条氏のあり様を舞台にするとなると、脚本はかなり難しいと想像できますが、それを2時間の演劇に仕上げたのが水谷暖人さんです。戦国時代にややかげの薄い相模の北条家の命運を描き上げたいという気概があふれていました。

・北条氏政(三橋忠史)
・北条氏康(田山楽)
・北条氏照(金澤洋之)
・北条氏邦(千葉総一郎)
・北条氏規(青木俊輔)
・北条玄庵(岩崎さとし)
・風魔小太郎(菅沼萌恵)
・黄梅院(渡部彩萌)
・瑞渓院(山崎愛美)
・すず(沖村彩花)
・信三(鈴木紀進)
・与作(兵頭結也)
・まさ(松本貴史)
・武田晴信(越前屋由隆)
・長尾景虎(支倉篤志)
・望月千代女(小沼枝里子)
・ダンサー
   愛
   絵里
   大内秀一
   大島由喜
   大隅あずさ
   笠川奈美
   金子綾花
   こばやかわいずみ
   須藤
   西出彩花
   細谷彩佳
   宮沢幸代


二兎社公演40/永井愛作・演出「書く女」(世田谷パブリックシアター)

2016-02-02 20:41:32 | 演劇/バレエ/ミュージカル

                   

 「書く女」は、樋口一葉のことです。永井愛さんの脚本で、公演は10年ぶりということです。一葉は演劇で取り上げられたことがほかにもあります。井上ひさしさんの「頭痛、肩こり、樋口一葉」です。


  永井版のこの舞台は、一葉(黒木華さん)と半井桃水(平岳大さん)との関係(「厭う恋」)を中心に、家族(木野花さん・朝倉あきさん)との関係、文人たちとの関係を織り込んで、23歳で早逝した「書く女」の人間を浮き彫りにしたものです。

  田辺龍子(長尾純子さん)、平田禿木(橋本淳さん)、馬場孤蝶(山崎彬さん)、川上眉山(兼崎健太郎さん)、斎藤緑雨(古河耕史さん)が登場してきます。また、劇中人物としてではありませんが、森鴎外、幸田露伴が一葉の小説をほめたエピソードも挿入されています。


  場面展開がテンポがよく、セリフにユーモアがあり、俳優の活舌もよく、満足のいく舞台でした。後半の終わりに近いところでは、永井さんの一葉文学の評価を、俳優に言わせているように受け取れました。半井に師事したけれども、一葉はその文学に彼の影響はまったくない、一葉の文体は擬古文雅文体だけれども、言文一致が進む時代の風潮のなかで、それをどう受け入れていくかが問題であった、などです。

  劇中、奥にグランドピアノがおかれ、林正樹さんが劇の進行にあわせて鍵盤をたたきます。これは珍しいですが、効果的でした。

  書くことが好きで、家族のために書いて書いて書きまくった一葉。戸主でもあった彼女は家族の生活を一身にひきうけ、赤貧の生活であったけれども気高く生きた女性です。一葉が憑依したかのような黒木さんの演技はすばらしかったです。周りの布陣も、役者魂をもった俳優ばかりで、舞台は大変、充実していました。